●廃病院 「薄気味わるいぜ、こんなところ」 ガサリ、と蔦を踏んで、部屋に分け入る男。 「だから、いいんじゃねえか」 ぶあつい蔦のカーテンを、乱暴に引きちぎる男。 懐中電灯が、廃病院の中を照らし出した。一面蔦でびっしりおおわれ、その生命あるカーテンの襞ひとつひとつが、脈打っているように見えた。 無造作に座り込み、マンガ雑誌を広げ始める不良少年三人組。 グラビアアイドルのきわどい水着姿に目を奪われ、ふと顔を上げると、友人の姿がない。 あわてて振り仰ぐと、そこにあるのは、さっきまでバカ面をぶら下げていた友人の、あわれな宙吊りの姿。 隣を振り返れば、同じ不良仲間が、自分の身体を振り子にしている。 あまりのことに腰をぬかした男の背後に、するすると蔦が一本降りてきた……。 そろって三つの亡骸が揺れる、その足元に小ぶりな頭蓋骨。一輪、真っ赤な花が開いた。 ●昔 「今日は調子がいいみたいですね」 花瓶の花を替え、笑いかける看護婦に、少年も笑顔で答えた。 「うん、こんな日が続くなら、僕、死なない気がする」 「めったなこと言うもんじゃありません。あなたは、きっとよくなるの」 「ありがとう」丁寧に、ベッドから上体をあげて答える少年。 賢い子。看護婦は笑う。 「この花、お花屋さんから貰ったのよ。南の島で咲くんだって。よくなったら、お姉ちゃんと見に行きましょうよ」 「ありがとう」 「必ずね」 ●アーク本部・ブリーフィングルーム 「……しかし、そうはならなかった」 『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)は目を伏せる。「アザーバイト関連の事故に巻き込まれて、少年も看護婦も……」 信暁はコンソールに指を滑らせる。「万華システムって奴は、見たくもないものを見せやがる。ともあれそこから幾星霜、気まぐれな恩恵が一滴、可憐な花が化け物になったってわけだ」 ディスプレイに映し出されたのは、蠢く蔦の壁。そしてその奥の、まるで女人像のようなすがた。 「こいつが核(コア)だ」親指で無造作に、信暁は女性を指し示す。「リベリスタなら、こいつをぶっつぶすことが、コイツらにとってなによりいいってことはわかってるんだろう。御託はいい。とっととつぶして、こいつらを解放してやれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:遠近法 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月23日(水)22:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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「吸血ヅタ!」リプレイ ●歩行(caminand) 分厚い蔦の紗幕が、刃の一閃で断ち切られた。長いこと陽光と縁のなかった廃病院内に、いきなり光が大量に差し込む。 そこをかき分け入り込むのは雪白 桐(BNE000185)。幅広の大剣『まんぼう君 Evolution』。もうもうと湧き上がる埃の中、無言で障害物を蹴散らしていく。「さて、行きましょうか」 彼の呼びかけに答えるのは、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)と、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)。まとわりついてくる蔦をはらいのけつつ、櫻子が呟く。「お友達と遊ぶなら、もっと楽しい場所があると思うのですけれど……」 闇の中に目を透かし目標地点を確認しつつ、櫻霞は自然と櫻子をかばうような姿勢をとる。漆黒の少年と、純白の少女は、まるで亡国の王子と王女のようだ。 続いて入り込むのは『大魔道』シェリー・D・モーガン。「犠牲者達のため、それからこれ以上犠牲者を出さぬため、すべて破壊しなくてはの」彼女は優雅に杖を振りかざす。「まあ、妾は『ちびちび』遠くから攻撃させてもらおうかの」 「この蔦には、病院の人たちの思念も宿ってるのかな? だとしたらE・ビーストとE・フォースの中間みたいな存在なんだろうけどね」『六芒星の魔術師』六条・雛乃(BNE004267)が、引きちぎった蔦を片手に呟く。「まあ、こういう区別は曖昧なものなんだろうけどね」 「病院か、効率のいい場所を選んだものだね」次に入り込むのは『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)。「人が離れることはないし、廃れても心霊スポットとして人が来る。本能か、合理的に選んでここなのかはわからないが」忌々しいもんだ、と宗二郎は吐き捨てる。 「病院内にもエリューションとはな!」続いてアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)。「死を待つだけのものではない、希望を持ち生きる患者もいるってのに、その希望の芽を潰すなど言語道断! もう病院には戻らないだろうが、これ以上の被害はオレたちアークが防ぐぜ!」まだアークに所属して間もなく、経験も浅い彼女ながら、士気は旺盛だ。 新人、中堅、ベテラン。さまざまなリベリスタ達だが、神秘への怒りは等しい。 「大元は看護婦が差し入れた花か何かか……。まあ、元がどうであれ、やることは一つ。徹底的に排除して消滅させる、ただそれだけだ」夜の翼の二つ名をもつ銃を構え、櫻霞は宣言する。「神秘に属するものは、何であろうと叩き潰す」 低く、容赦ない宣言だった。もっともベテランの彼が、神秘に対しもっとも苛烈な怒りを抱いている。周りのリベリスタが頷いた。 「きれいなお花が、こんなことになるなんて……」それでも櫻子は、困惑を隠せない。それが彼女の優しさだ。 「よっと」しんがりに入ってきたのは『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)。絢爛とした着物に身を包んだ彼女は、懐から病院の見取り図を取り出す。侵入経路、死角となりそうな場所を細かく書き入れてある。瑠琵は目を眇めて、闇を見渡す。手慣れており、隙がない。「先ずは囚われの魂を解き放つのが先決なのじゃ」 「……きましたね」桐が呟く。闇の奥から蔦がわらわらと群がってきた。「少年を守ろうとした看護婦さんの思い、なのかもしれませんけど。無関係の人を巻き込むのは彼らの望みではないはず」彼は剣を正眼に構えた。「終わらせましょう」 一同が頷いた。 ●揺籃(cunita) 回廊内にシェリーの詠唱が響く。赤熱する光が異教の文字を作り、魔方陣を編み上げていく。「さあ、魔力の真髄を見せてやろう」 宗二郎は道化師の衣装をまとい、仮面で顔を覆った。それが彼の戦闘準備だ。 桐とアズマも、それぞれ気迫を高めていく。 櫻霞に庇われるようにした櫻子が、翼を付与していく。「……小さき翼を皆様の背に……」 巨大な蔦がいくつも、視認できるくらいになったとき、雛乃が口火をきった。 「行くよ!」魔術師として卓絶した技量を誇る彼女だが、戦場においてはその機敏さが大いなる武器であった。圧縮を仕掛け、高速化した術式を、おそるべき速度で組み上げていく。 虚空の一部が歪み、そこから宇宙の深淵が覗けた。 彼女をもってしても、詠唱に多少の時間、それに膨大な集中を要する。大技中の大技、奥義。 雛乃の目が見開かれる。その奥に宇宙の闇が煌めきわたる。 裂帛の気合とともに、深淵の彼方から、無数の流星が降り注いだ! 閃光が闇を濡らす。極小とはいえ、燃え盛る宇宙塵は地上の物理法則を超越した威力を有していた。 「あたしの力は空より降り注ぐ破壊と不吉を象徴する星の力!」雛乃は昂然と言い放つ。「でもって、地を這う植物が、天に輝く星に届く道理はないんだよね~」 そして櫻霞は全身を青白くにじませる。あたかも月光に濡れたかのように。。 「数の暴力が貴様らだけの特権と思うなよ」 続いて構えた銃を素早く掃射する。閃光がひらめき、無数の薬莢が散らばる。翼で射線を維持しつつ、一見闇雲に、実はおそろしく正確に敵をなぎ倒していく。 「だてに射手を名乗っているわけではない!」 ぶすぶすと黒い煙を発し、ちぎれ落ちる消し炭。なおもしぶとく生き残る蔦を、桐が巨大な衝撃破でまとめて粉砕し、宗二郎が残りを片づける。 回廊からホールへ、戦場は移動する。 「うわっ……」思わずアズマは、その怪異な光景に声を上げる。 おそらく往時は、憩いの場として楽団の演奏などでも使われたのだろう、広壮なホールは、いまは蔦が縦横無尽にはびこり、あやしい毒々しい色をした花が乱れ咲いていた。それらは生物の内臓のように不規則に脈打ち、濃密な形容しがたい匂いを放っている。 「……それでも、前に進みましょう。それが、私たちのお仕事ですから……」桜子が疲れたように呟く。櫻霞は気遣うような視線を見せる。 「わらわがいる限り、補給は万全。遠慮なく火力をブッ放つがよいぞ!」瑠琵のフィアキイがくるりと宙返りし、リベリスタ達に翠緑色のオーロラを注いだ。 「すまないな、助かる」宗二郎はそう言って、仮面の下で不敵に笑った。「さあ、幕を引こう。c級ホラーはここで終わりだ。続編の存在も認めない!」 踊るように敵の前面に跳躍した宗二郎は、手にしたトランプを放つ。闇を込めたカードは、それだけで鋭利な武器となる。大人の腕ほどもある蔦が弾け飛んで、樹液を散らす。 「まずは簡単なトランプマジックを。鑑賞の代償は貴様らの命だ!」 「らああっ!」そこに飛び込んでくるのはアズマ。紫の髪を振り乱し、大剣を振りかぶって、不気味な花弁を切り刻む。 (……速い!)リベリスタたちは驚愕した。もとは俊敏さを生かし、速度特化の剣士を望んだこともあったという彼女は、敏捷さにおいて他の熟練リベリスタに引けを取らなかった。 この素早さと、そして覚悟の深さがあれば、彼女は同じアークリベリオンの中でも、そしてリベリスタ達の中でも、特異な位置を占める、欠かすことのできない存在になっていくだろう。 いや、いまこの戦場において、彼女はすでに一人前として活躍している。 「こいつは任せなっ!」激しい一撃をすりあげて、花弁が散らされた。「先輩、そっち行ったっ!」 間一髪、宗二郎は蔦をかわす。そろそろ魔術師が大技を披露する頃合いだと思い、距離を取っていたのが良かった。 シェリーはちょっと考えているふうだった。ややあって彼女の口から漏れ始めた詠唱は、ほとんどの者の聞き及んだことのない、それでも尋常ではなく複雑で高位なことだけはわかる術だった。 「さて、どれほどの威力かの」先ごろ習得した新たな魔術を、彼女はここで試してみるつもりなのだ。「紅蓮の顎門が食らいつくしてくれる」 光塵があたりに揺らめき、マナのエキスパートである術者たちでさえ見たことがないようなマナの流動が、シェリーの掌で起こった。すさまじいマナの対流がおこり、いくつものフレアが巻き起こる。 「滅するが先か、増えるが先か、一つ勝負といくかの」 超超高密度に圧縮されたマナの量塊が、むらむら踊る蔦と花に放たれる。一瞬の間があって、バラ色の爆炎が開き、轟音がとどろきわたる。 シェリーは満足げに笑った。彼女の十八番、フレアバーストと同じ効率を持ち、シルバーバレットとほぼ変わらぬ威力がある。命中にやや難はあるものの、なに、素早く連射すれば済む話ではないか。「注いだ魔力、すなわち威力。この方程式に叶う術などあるものか!」 それに何より、あの真紅の焔は、この不吉な緑のあふれる戦場に、よりふさわしいものに思えた。彼女の美的感覚にも、受けいられるものだった。 戦況は優勢だった。とはいえ、相手の数が多すぎる。瑠琵の的確なマナコントロールにより火線がやむことはなかったが、無傷とは言えない。気を抜くと相手は絡みついてくるし、血を抜かれるとそこから花が咲く。 無数の光条が闇を薙ぐ。巻きついた蔦を、自ら刈り取って、桐は一刀のもとに緑の触手を切り伏せる。蠟のように白いその体が、わずかに血塗れている。 まとわりついてくる忌まわしい蔦を、櫻霞が乱れうちで破壊した。「インドラで焼き尽くさないだけ、良心的と思ってほしいね!」血の混じった唾を吐きつける。継続的な緊張を強いられる戦闘は、彼を苛立たせていた。 彼に桜子が自らのマナを分け与える。再び瑠琵のフィアキィが癒しの力を放った。 ……果てしない戦闘にも、ようやく終わりが見え始める。 「これで終わりだ!」最後の花弁を、鎌で切り伏せた宗二郎。顔をあげると、そこには木製の扉があった。そこだけ新しいまま、まるで往時をそのままとどめんとする何者かの意志が働いているかのようだった。かすかにナフタリンの幻臭を感じたような気がした。 「……行くよ」桐が、扉に手をかける。 一同が頷いた。 やがて、廊下に静寂が訪れた。道標の魔力符だけが、青白く瞬いていた。 ●抱擁(abraco) すべては、一つの祝祭とでも言うかのような、粛々とした荘厳さの中で執り行われたという。 病室の中は蔦の分厚いカーテンに覆われて太陽の差し込む隙はなく、中央に脈動する、大人の腰ほどの物体が、赤黒い光をはなって、それがただ一つの光源であった。 悲鳴をあげたまま永遠に凍結されたような、その真紅の塊が、信暁の告げた『核』であろうことは、その場にいるリベリスタのだれもが予測できた。 核からのびる二本の触手の、ゆらゆらした動きに従い、天井から垂れ下がる蔦が靡き、時折核が紫電を放つと、真っ赤な花からおびただしい花粉が噴出するからだ。 手筈どおりだった。 まず雛乃が再び術式を結んで、流星の雨を降らす。彼女の俊敏さは、彼女に間断ない攻撃を許す。天空の光塵が槌となり、花を押しつぶしていく。そして瑠琵が火球で弾き飛ばした蔦、アズマが剣で跳ねちらした花を、これはシェリー熟練の魔力の弾丸で、まとめて貫いていく。「わが意志のごとく、撃ち貫いてくれるわ!」 これが彼女の『ちびちび』だ。いくつもの煙があがり、爆散した破片が散る。 そしてあらかた片のついた戦場を、櫻霞の銃器が薙ぎ払っていく。あらたに湧き上がる蔦を、桐と宗二郎が切り刻んでいく。 白く美しい、まるで死の大天使のような少年。 そして、悪魔のような仮面をつけた、奇妙な少年。 まるで死刑執行人か、慈悲深い刺客であるかのように、二人は歩を進めていく。静かにアズマがそれを援護する。 また天井を突き破って、新たな蔦が現れた。本体である核の危機を悟ったか、ツタの成長の速度が爆発的に増加している。 銃弾の雨をかいくぐった蔦が、消耗気味の櫻霞をはじく。すかさず他の蔦が、亡者のように櫻霞の血を求めて絡みつく。蔦がずくずくとふるえ、嘲笑うかのように真っ赤な花が咲く。 「櫻霞様!」たまらず櫻子が声をかける。 その瞬間、もうもうたる花粉が舞い上がる。 しかし、それをものともせず、櫻子は立ち上がる。 『絶対者』! 彼女はかよわき庇護されるものではない。無力な姫君ではない。れっきとしたリベリスタであり、それもあまたの戦いを経て、余人では及びもつかぬ、神の声を聞き、神の意志を具現し、神の力を其の身に宿すことを可能にしたのだ。 身は呪いを寄せ付けず、魔の魅惑にも屈しない。異形の花の、あやしい眠りへのいざないを、彼女は敢然とはねつけた。 そこまで彼女が至ることが出来たのは、ひとえに彼女の資質、たゆまぬ献身的な努力、そして彼女を見守り、彼女の盾となってきた人物があってのことだった。 「痛みをいやし……その枷を外しましょう……」 超越的な意志、その欠片をくみ取り、櫻子は大いなる治癒の力を発動させる。渦巻く花粉で、半ば意識のかすれつつあったリベリスタたちは、ふたたび覚醒させられた。 そして、桐と宗二郎、アズマの前には『核』があった。 桐が『まんぼう君Revolution』を抜き放ち、容赦ない一撃を加える。 宗二郎は鎌を振りかざし、横薙ぎに核へ打ち込む。生か死か……放った技の名を思い出して、宗二郎は仮面の下でそっと笑う。そうだ、ここは劇場。死と生の跋扈する、劇場だ。「さて、終劇の時間だ。長々と引っ張るつもりはない。終わらせようか!」 地に濡れた顔を向け、アズマが剣を突き立てる。体液の奔流がアズマの全身をぬらし、なまなましい匂いがあたりに立ち込める。アズマは少しもひるむことなく、核の頭部を睨み据える。「これ以上、好き勝手にはさせないぜ!」 「キシャァァアアアアア!」 女の顔は、おそろしい、甲高い叫び声をあげる。触手が鞭のように唸り、桐を打ち据えるが、桐はひるむことはない。血まみれた姿で、白い刃を構える。 「やれやれ、手間をかけさせてくれる。さっさと潰して終わらせるまでだ」櫻霞は立ち上がり、照準(レティクル)を核へと合わせる。 巨大な火球が、核に着弾し、黒い煙を上げた。再びわらわらと現れる蔦。それを瑠琵、雛乃、シェリーが撃ち落とす。櫻霞は再び斉射の準備をする。その顔は焦燥している。「さすがにこれだけ連発していると、もたないな……」 それをきいて櫻子は、黙って援護の準備をする。 そして、死の舞踏は終局へ近づいていた。 桐が、まっすぐに剣を振りかざす。 瞳が、きらりと輝く。 そして、満身の力をもって、まるでマタドールのように悠然と、核を刺し貫いた。 おそろしい悲鳴が湧き上がり、血の涙を流しながら、核はその体を溶解させていった。 ●葬儀(funral) 窓を開け放つと、生気に満ちた風が吹き込んできた。 核の殲滅ののち、蔦と花はたやすく薙ぎ払うことができた。雛乃や瑠琵が中心となり、ホールの調査などを行いながら、掃討が行われた。もうここで、エリューションの災禍がおこることはないだろう。看護師の願いが招いたものなのか、それとも単なる災厄か、いまとなっては知るすべもない。 一同は核のあった病室にいた。最後の確認を済ませた。 「運がなかったといえばそれまでじゃが……」核の痕を見つめ、瑠琵がつぶやく。普段から生と死のはざまを往還するのを生業にしているような彼女、なにか感じるものがあったのだろう。「さっさと輪廻転生して生まれ変わるがよい。縁があれば、花を見る約束もはたせるじゃろう」 「お仕事はお仕舞いですね……」猫耳をへにゃりと垂らして、櫻子は猫の尻尾を振った。「気分直しに、きれいな本物の花が見たいですぅ……」 櫻霞は、それが自分に向けられた優しさなのだと気づく。どれだけ排除しても減りやしない、今回の蔦のように、自分を嘲笑うかのように増殖する神秘。いつになれば俺も楽ができるのやら。一寸疲れた彼を励まそうとする、櫻子のいたわりが胸にしみた。「そうだな、時間のある時にでも出かけるか」 「ここで命を落としたものは不運だったな」宗二郎は仮面をはずして呟く。廃墟に不法侵入する輩などに、持ち合わせる情けなどないと言い放つ彼を、アズマはじっと見る。仮面をはずし、まだいくつも仮面を持ち合わせているようで、宗二郎の心は忖度しきれない。 「終わりか。この後ここはどうなるかね」 「……先輩」 「まあ、詮なきことか。どうなろうと今後俺に関わることではないだろう」 「……」アズマは、宗二郎の言葉の底にあるものを図りかねていた。ただひとつ言えることは、明日も自分はリベリスタとして戦い続けるだろう、ということだった。 去り際、桐はAFから何かを抜き放った。花束は白く、清潔だった。桐は丁寧に、核のあった場所にそれを供えた。 「人花でなく、ほんとの花を」彼は呟いた。「安らかに眠ってくださいね」 リベリスタ達の去った後も、部屋の中を風が通り過ぎて行った。南国の花の香りがふわりと漂ったようだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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