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【八面卿遊戯】彼の敵我が敵朋友と知れ

●『八面卿』
 彼は世界に降り立った時点で、自らが排除されるべき存在であることを認識した。
 仕立てのいいスーツも不釣り合いなほどに小奇麗なシルクハットも世界にとっては不要であると。悲しいほどに無駄が多い己に対し、悲しみを覚えては居た。
 であれば、僅か後に死を迎える前に。自らが存在した意味をこの世界に刻みつけよう。幸いにして(世界にとっては不幸にして)、彼にはその力がある。
 過去と未来を繋ぐこと、友の陰に怯えること、それ以外のあらゆる恐怖を刻みつける為に、やっつの側面を見せる悪意を。

●刃に偽り映さずとも
 八面卿。
 すでに命を散らし、今わの際に八面の姿見を撚り合わせたアーティファクトを幾らか、世界に産み落としたアザーバイドの名である。
 少なくとも、そのアーティファクトは人の命を寄る辺として存在し続けること、それの破壊は『鏡面世界』とでも言うべき相手のフィールドでの勝利が条件であることは、すでに発見された物から分析が完了していた。
 リベリスタ達にとっての勝利を定義づけるのはその世界を正常のままに破壊する意志力。
 世界から外れた者が産んだ歪んだ正義が、彼らに牙を剥く。

「……まあ、今回の『鏡面世界』は普通に、相手を倒して帰ってくるだけ、らしいですけどね」
「勿体ぶった意味はあったのか」
 資料を片手にぼんやりと言葉を紡ぐ『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)がいろいろアレなのは今に始まった話ではない。リベリスタもそこはどうでもいい。問題は、どんな戦闘を強いられ、そしてどう勝利すべきなのか、ということ。
 過去を考えれば、碌でもないことは確定しているのだが。

「アーティファクト『疑八殺心』。これの発動には最低四名、というのは前回のアーティファクトと変わりません。問題は、『鏡面世界』内の戦闘の敵は皆さん自身である、ということです。
 当然、各個の戦いですので『概ね』タイマンという形になります。で、相手は貴方がたの隣。そう、そのひとです。彼(または彼女)と戦うことを想定して下さい。
 経験差? 当然、そのあたりは対策を講じます。一人で勝てないなら二人。それが出来る状況は、此方で。皆さんが心得ることはただひとつ」

――誰であっても、本気で殺す覚悟で。甘えたら貴方の心が死にますよ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月18日(金)22:38
 同士討ちシナリオなんて手垢ついてますけどほら、模擬戦か集団戦ですし(しろめ

●達成条件
 アーティファクト『疑八殺心』の破壊

●アーティファクト『疑八殺心』
『八面卿』(死亡済み)が死に際に残したアーティファクトのひとつ。
 姿見8枚で構成された外見であり、中心部に行きた人間を囚えることで動力としている。捕獲する原理などは不明だが、死んだら次、が通用することだけは確かである。
 破壊するためには、四名以上で姿見の前に立ち、『鏡面世界』内で定義された勝利条件を半数~2/3が満たす必要がある。

●鏡面世界・疑心
 アーティファクト内部に発生した精神空間。勝利条件は『1対1での戦闘の勝利』。
 戦闘に於ける相手は参加者一覧に於ける隣接する相手。(横に並んだ者同士、となる。本人とではなく、『同一データの鏡面存在』)
 サポート参加者(または参加者数が奇数の場合のフリーの者)は、実力差が大きすぎる組み合わせに加勢することが可能(最大1名)。
 戦闘結果に於いてフィードバックするのは飽くまで自分が被ったダメージであり、相手のコピーに与えた打撃は直接アーティファクトにフィードバックされるものとする。
※加勢に関してはST判断により決定する(感情優先の過当な実力差を抑止するため)

 やっぱりこう、誰にも頼らないのもアリですかね。
 ご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
ハイジーニアスマグメイガス
六城 雛乃(BNE004267)
ハイフュリエミステラン
エフェメラ・ノイン(BNE004345)
ハイジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・真珠郎(BNE004921)
フュリエクロスイージス
ヴェネッサ・マーキュリー(BNE004933)
ビーストハーフアークリベリオン
藤代 レイカ(BNE004942)
■サポート参加者 4人■
ハイジーニアススターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)

テテロ ミミミルノ(BNE004222)
フライエンジェクロスイージス
ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)
ジーニアスアークリベリオン
アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)


 疑心、暗鬼を生ず。
 その言葉に対して最も忠実に再現されやしないか、と『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は小さく呻きながら正面の相手を見る。『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の写身として現れたそれは、彼女の持つ苛烈さすらも写しとったかのように激しい気を纏っている。
「……十四回、か」
「アタシを守って!」
 一歩を出そうとしたタイミングを『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)の声が止める。距離を取るとか、動きまわるとか。もしかしたら彼女を背負ったままに行えることではないのだろうか。
「紙防御なの……手加減はしないから」
「守れる保証は無いので十分に離れて戦って下さい」
 そう言うしかなかった。そうとしか、言えなかった。だが、ギリギリの戦いではこの上ない助け舟だ。
 卑怯になってやろう。全力で。

「コレ作った人は良くも悪くも、なかなか凄いセンスしてるね~」
 よもや、戦うべき相手も形は違えど類似した感想を持っていた、などとは『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)には知る由もないだろう。
 お互いの協力を求める心は自らの窮地を招き、利己に走れば相手の窮地を招く。どちらに転んでもある種は坩堝。この発想は、現実的なリベリスタには難しいものだ。
“六芒星の杖”を握り、前方の相手を見据えた彼女に一切の油断は無かった。
 加えて言うならば。ほんの僅かの差とはいえ、運命に愛される確率論は『相手』の方が優れている。ギリギリの戦闘になれば、その危険性は一段と高くなる。
 何もない空間に、風が響く。それが、合図だった。

「因みに10歳相手じゃと犯罪かの? 偽物でも?」
 具体的に何がどう、は言わないが。紅涙・真珠郎(BNE004921)の前に立ちはだかった、黒衣――“ストライカースーツ”を纏った小柄な似姿を興味深げに見やる。
 齢はやっと両手で満ちるに至った程度。体躯も未成熟であり、骨格発達も不十分と見える。飽くまで一般的な範囲では。『人間ならば』。
 だが、その練度については実に良く知っている。その戦いに於ける精神性も。似ているからだ。何もかも。
 だから、何にしても。彼女のやり方は変わらない。
「蹂躙して。殲滅して。暴食する。それだけじゃ」
 ――イタダキマス、と。そこに居ない『本人』の声が聞こえた気がして、彼女は笑みを深めた。

「本当に仲間を殺めなければいけないなら兎も角としても」
 気負うことなど一切ない。『フュリエの騎士見習い』ヴェネッサ・マーキュリー(BNE004933)は刃を構えた。
 耳にしたことのあるフレーズを脳裏に浮かべた彼女の敵は、同じリベリスタとしての入り口に立った者。だが、その技術体系は大きく違う。
 彼女がアークに属さなければ、一合で戸惑い、二合で怯え、後はもう勝負にすらならない「あってはならない」体系を身につけた存在。
 だが、ヴァネッサは違う。知った技術、知った相手。同じアークで研鑽する仲間の影にどうあって怯えることができようか。
 世界を救うために。救われた自らの世界を想起しながら、彼女は戦士としての一歩を踏み出した。

 やってやれないことはない。
 藤代 レイカ(BNE004942)の覚悟もまた、似ていた。
 相手が意志のある存在だったらどれだけ躊躇したか。
 目の前の相手に意思はない。だが、仲間であるリベリスタの似姿であることに変わりはない。やるべきことは真正面からの神秘での激突。
 自らが策を講じても戦うことはできない、と。そう決めつけてしまうのは、悲しいが現実的観点なのだろう。

「それにしても、コピーとは言え仲間と戦うんだねー……」
『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)の対峙する相手。雛乃は、自身と近い特性のリベリスタでありながら、能力は別格と言えるレベルにある。
 単純な力比べに終始するものではなく、それ以上に彼女は『純粋な強さ』がある。悩むことなく、突き詰めた力。フュリエとしてのそれと単純比較は出来ないが、勝機が薄いのは理解する。
「でも、勝たないとだめだよねっ……!」
「大丈夫。俺が止める」
「えっ、あ、うん……! ありがとうっ」
 何時、その場に現れたのだったろう。出来過ぎたくらいに的確に、『鏡の中の魂』ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)は彼女より一歩前に出た位置で構えていた。
 仲間としては信頼できる。ただ、硬い笑みの正体は、感情の成熟の途上にある彼女でもわかる、危うさを感じた。
 得物を握り直す。不安など吹き飛んでいたし、最初から『そう』であっても、きっと意思は曲げないのだから変わらない。戦い方も、戦う意志も、勝ちたいと思う祈りも、何もかも。

「要するに、知り合い同士を戦わせる事それ自体に意味があるという事ね」
 なんて悪徳。リセリアの眼前に現れた義衛郎の姿見は、彼女の僅かな油断、或いは戸惑いを淀みなく貫く一振りの武器にほかならない。
「甘えたら心が死ぬ」と、フォーチュナはそう言ったか。自らの心が体を失うことは恐ろしいかもしれない。それを止めるために、それに敢えて踏み込まざるをえない事実は、或いは彼が望んだ認識と許容の結論だったのか。
「ならばこそ」
 そう、ならばこそ、だ。
 目の前の悪意を斬り祓うことに一切の躊躇などない。これは仲間ではないのだから。

『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は震えていた。傍らに立つ新米――アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)は、震えることすら出来ないでいたのだからそれに比べれば大分マシなのだろう。
 だが、この人物にとって戦いの源流に恐怖が来ることは極めて稀だ。
「無理はしなくていいからね」
 震えた声で真咲はアズマに告げる。震え、怯え、しかし――恐れではなく『畏れ』を以て、口の端を歪め“ヘルハウンド”を固く握ったその姿に気負いは一切ない。
(とっても怖くて、楽しみで、ドキドキする!)
 そう、この震えは、武者震い。強い、凄い、勝ち目すら未知数の相手と。殆ど実質的に、たったひとりで挑める。
 得物を持ち上げる動作も、踏み込むための準備行動すらも。澱の中で動くようにゆっくりに感じる。
 この一瞬を、全て。
「『イタダキマス』」
 幻影すらも、倣ったようにみえるくらい研ぎ澄まされた神経が、真咲の感覚を加速させた。

●激突と結末と
「参ったな……これは、流石に」
 義衛郎は小さくごちる。正面きって挑むとすれば、相手のガス欠まで耐える……それが方針だった筈だが、陽菜のキレが異常なほど高いことが、この期に及んで明確になり始めていた。
 当然、相手は回避力も高く、全てがきっちり当たるわけではない。それでも、正面の敵以外に意思を振れない影には脅威だ。
 もし。本当に仮に、そんな非礼を行うとするならば。それは、義衛郎にとっての絶好機であり、最も『本人』が望まぬ行動であったことだろう。
 だが、だが、だが、だが――しかし。
 それは『本人』ではない。
 それは『模倣物に過ぎない』。
「え、ちょっ――」
 陽菜が、自らを向いたリセリアの影に驚嘆の声を上げ、慌てて逃げ手をうとうとする中、更に背後から突き進むのは義衛郎。
 ところどころを貫かれ、決して少なくないダメージを負った身が生気の無い目で少女を狙うその背に、振りかぶった“三徳極皇帝騎”が食らいつく。
 陽菜へ届くまでの時間すら刃で刻んで、巻き込んだ冷気を更に斬り。幾重にも繰り返された斬撃は、常の彼が当てるには非常な努力を要するそれだ。
 だが当たる。当ててみせる。『彼女ではない彼女』が見せた千載一遇を、逃す理由なんて無い!

 魔術師同士、単騎の戦いに、時間はさして必要ない。
 味方に付けるのは時限と幸運。当たればお互いが不利になることなど最初から分かっているのだ。
 だから、『相手全員を確実に止めて倒す』。動きさえ止めてしまえば、極大技能の打ち合いからくる相打ちはほぼ、あり得ない。
 トーンの異なる不協和音が、フュリエの少女を瞬く間に縛り上げる。模倣されたフィアキィが動き回るが、それすらも悪意から生まれたものだとするのなら。
 欠片も残す理由が無い。
 小さい呼吸をひとつ。きっと酷い顔をしているのだろう。嗜虐などとは次元が違う。義務感と全力を尽くすためだけに感情を刻まれた表情筋は、詠唱を一瞬も阻害せずに常識外の詠唱を完了させた。
 魔術師が操るべき技術の極北。質量を持った悪夢が降り注ぐ。
 ブレス。一瞬のうちにもう一節、加えられることを知覚して雛乃は笑う。手を抜いてはいけない。完全に消滅するまで――詠唱は、止めない。止められないのだ。

「やれやれ。最近の若者は、敬老精神とか無いんかの……」
 正面から、異形の二刀――“無銘の太刀”と“リッパーズエッジ”を振り下ろす真珠郎の連撃を、真咲の大斧が叩き落とそうと振り上げられる。両者の得物はしかし、激突することなく空を切る。
 一瞬ののち、血飛沫が両者の激突位置から吹きすさぶ。遅れて出血を促すではなく、その場で既に『始まっていた』のだ。
 だが、真珠郎は呼吸を緩めない。恐ろしいことに。かの子供は一度きりの奇跡か実力か、自らの一撃を徹すことを許さなかったのだ。
 だが構わない。望む所だ、と真珠郎は笑みを深める。這い蹲って打ちのめされて築き上げた八十年。“紅涙の姫”が築き上げた過去と現在は、そこで足を止める気など最初からなかった。
 切り結んだ位置から退きながら斧を振るう姿。遠ざかる距離。……小賢しい。だがその賢しさこそが愛おしい。
 遠間から飛来する斬撃すらも撃ち落とし。
 驚愕もせず構え直す相手を叩き伏せ。
 瞳に虚ろな物を抱え、己の意思を取り落としても、全身から吹き出す血を拭いもせず自らを傷つける姿を見ても、尚手を止めず。
 彼我の経験差は『八十年』。この姿が積み上げた十年の神秘を模倣しただけの『一瞬』に、彼女が負ける道理は最後まで無い。

 新米同士の戦い。拮抗する戦力を拡げるのは策謀の差。そういう意味では、ヴァネッサの理解は正しかった。
 互いに、相手を弾き飛ばすことを是とする戦闘技能の使い手。距離を取られることへの危険性は重々承知であった。だが、それでも彼女の考えは変わらなかった。
 離れるなら近付いてしまえばよい。近づかなければ勝てないなら、それを徹底すればよい。簡単な、話なのだ。
 深い踏み込みから駆け出そうとした彼女の鼻先に、意表を突くように光球が放り込まれる。
 その正体に気付くより早く、弾き飛ばされた彼女は正面の相手との距離を再度算出し、絶望にも似た感情を覚えた。
 光明があるとすれば、その狙いが甘いこと。避けられれば、近付ける。だが、どうやって?
「根性論で勝てるほど甘くないと世の中は言うけど」
 現実が距離を産み、認識が意思を毀す。容赦の無い姿見が表情もなく立つその状況に、ぶるりと震えた我が身を抑え、得物を握り直す。
「根性論では駄目だったって言える程度に根性を見せてからだよね、それを言っていいのは」
 離れた分近づけばいい。幸いにして、『あれなら耐え切れる』と、彼女はどこか冷静に、駈け出した。

 炎の如き己の意思を知覚したレイカは、上段から打ち下ろされた裂帛の気合を受け止め、仰け反った自らの腕、その痺れに悲鳴を上げそうになった。
 負けられない。それは自身の想いである。勝つために、戦いを挑んだ。それも事実。
「初心者だからって甘えるわけにはいかないの」
 きしむ体を叱咤して、追撃に前進したフュリエの剣士を最大加速から弾き飛ばす。互いに距離を取り、接近する技術の応酬。ヒットアンドアウェイなんて賢しいものではない。
 渾身の一撃を、何度も何度も叩きつけるだけ。見るものが見れば、成程。稚拙な殴り合いに過ぎないと思うだろう。
 だがその刃に、視線に、偽りが無いこともまた見て取れる。
 相手がフィクサードでなくてよかったと、心底思う。その手合を殺すことにはまだ、躊躇がある。この程度の覚悟では勝てないと、自覚があった。
 こんな――悪意に綻びのある手合に負けるわけには、
 ぞくり。駆け上がった寒気は本能か。甘いと、罵倒されたアーティファクトの執念か。

(きっと魔曲に固執する……なんて、虫がよすぎるよね……っ?)
 姿見の前に立つ直前、雛乃からの提案を聞き受けたエフェメラも、最初から『そう』なるとは思っていなかった。ただ、まさか初手から全力を出すとは思っていなかった。
 彼女はそこまで力任せではなかった筈で、だからアレは彼女とは似ても似つかないと、理解した。
 一撃で体力の過半をもっていかれた事実は言うまでもなく凶悪で、これを相手のガス欠まで待つなど、到底無謀だと今更思い知る。
 鍛錬の差? 違う。これは何より覚悟の差。
 次が来れば、倒れる。運命に頼ればまだ戦えるが、果たして――勝てるか? ユーグと合わせて、回復に振って。果たして立てるか?
 喉奥がひりつく。恐怖は無いが、勝機が折られる音、軋みをあげる音が、耳に痛いほど……
「…………守り切るって、言っただろ」
 ユーグが、己の前に立つ。『本当の意味で』。
「う……うんっ……、イクスィス様っ、力を貸してっ!」
 十秒の猶予。一瞬の決断。覚悟をした。覚悟が来た。二度と死なせないと小さく告げた彼の覚悟と、上位世界の加護を一手に引き受けて。
 飛来する純粋な暴力に叩きつけるように、『キィ』と『メア』が冷気を纏う。爆風。冷気。光弾と、一拍遅れた爆音。白瀑と化した世界は未だその結末を見せない。

“セインディール”が、一直線に義衛郎の影を刻む。ひりつくような感触。一瞬でも遅ければ、相手の刃が自らに届いたかもしれない緊張感。
 ヘタを打てば、刃にさらされるのは自分自身だ。相手の動きを御し、自刃を促す呪いも、同格の実力があればこそ受け止められるもの。
 一撃では倒せない。何度も何度も賭けに勝利して初めて、勝ち名乗りを許される限界の際。
 残心から振り返り、構え直すタイミング。既に彼の影は動き出している。遅れを惜しむ暇すらない。身を捻り、クリーンヒットこそ逃れたものの、魅了からの復帰の早さに舌を巻く。
 偶然とはいえ、ここまでとは予想外だ。遅れに怯えるわけにはいかない。仲間の影に躊躇うわけにもいかない。
(こうして、私達の様に悪意のこもった鏡の排除に乗り出す者が現れる事こそ……或いは八面卿の目論み通りなのかもしれませんね)
 悲鳴を上げる身を叱咤し踏み込んだ彼女は、常ならぬ笑みをその姿に見出した。残忍な意思の発露は、真意に至った彼女への賞賛か、それとも。
 迷い無き刃は、それを認識した時既に振りきっていた。だから、問うことも敵わない。

 全力から始まった一合は、やはりと言うべきか、真咲に現実を叩きつけた。
 恐ろしいまでの威力、実力差。
(……一度斬り結んだだけでよくわかる。このひとは、ボクより強い)
 否定できる要素がなかった。彼女は、姿見だけ繕ったコピーですらも己を上回る。その華奢な身に如何様な残酷を積み上げたのか、理解できない。
 だから敵わない。拍動が加速し、興奮が耳へまで熱を届ける。その現実は些かも真咲の戦意を衰えさせるものではなかった。
 遠慮することなど何処にあるのだ。手加減などという概念がおろかしいことに気付くだろう。
 距離を取り、得物を握り直した真咲が駆ける。遠間から斬舞を挑み、距離を詰められたら構えを固め、耐え。音を立てて削り取られる自らの命脈を前に、驚きはない。当然の流れだ。
(あと少し……もう少し。倒れてから、その後に)
 痛みの中で冷静に、真咲はカウントを開始する。次で距離を取れなければ、倒れるだろうと試算する。
 ギリギリのタイミングで地面を蹴り、後方に退ったのと、間髪を入れず。その影が踊り出る。
「未熟なオレだが、こうして立ちはだかり、攻撃を受けることは出来るんだぜ……!」
 激戦の中にあって、完全に意識の外だった。動くこともなく倒れたとばかり思っていた。だが、彼女は、アズマは、正しく『アークリベリオン』として、刃に身を晒し、飛び込んでくる殺意を全身で受け止めた。
 ボロボロになり、宙を舞うアズマは笑った。出来る事だけ、全て賭けた。その末の『これ』なら仕方ない。
 そして、落下する際で。
 暴風になった斧が、アズマを仕留め残心した真珠郎の影を捉える。それを気にも止めず、返す刀で真咲の命を削ったそれは、動きを止めず二撃目の挙動に入った姿に硬直する。
 分の悪い博打にベットされた、さして高くもないチップは。
 しかし一瞬、眉根を寄せるほどの僅かな間隙を。
「――ボクの全部を、持って行け!」



 ばきばきと音を立てて、『疑八殺心』が崩れ落ちる。
 中心部に囚えられ、虫の息だった少女を義衛郎が抱え上げ、周囲を見渡す。酷い有り様だった。無傷のリベリスタは酷く少なく、それでも結果を出して、勝利したのだ。
 誰も、隣人を疑うことはなく。夜気が勝者を賞賛するように、ゆっくりとその身を冷ます。

「きゅう……」
 尚、全くの余談であるが。『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)は、突入直前に姿見に阻まれ、強かに頭を叩きつけて最後までのびていたことを、ここに付記する。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 率直に言って、死ぬほど楽しかったです。愉悦ってこういうこと。
 サポートの采配の理由とかは、みなさんのご想像のままに。
 いや本当、これ本当もうね……。