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迷宮の虜囚――人食いブロブの恐怖――


「またかかったのかい、王子。再び次元の果てに飛んでいくといいんじゃないかな!」
 強烈な魔力で編まれた迷宮の虜囚となった救世の王子は、何とか脱出しようと解呪の呪文を詠唱するが、魔力が乱されうまくいかない。
「謀ったな、暗闇皇太子!」
「あはは。罠の認知判定でファンブルするような未熟者が何をほざいても聞こえないなぁ」
「畜生、またまた戻ってきて、お前を倒すぞ。憶えてろ~!」
 ……まず、言葉遣いから直そうか。


「――呪われた迷宮から、リベリスタに救われた救世の王子は見事暗黒皇帝を倒したのでありました。しかし、なんということでしょう。暗黒皇帝には暗闇皇太子という後継者がいたのです」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、淡々と依頼内容を口にした。
「という訳で、暗闇皇太子に囚われた救世の王子を助けて」
 ずいぶんつらい戦いが続いているのだなあ。
「補足する。D・ホールからの流出で、とある廃ビルの地下がダンジョン化している」
 はい。
「その中に、アザーバイドがいる。意思の疎通可能。言語は通じないから、身振りになるけど。ちゃんと記録してきてね。資料にするから」
 ごとごと。撮影機材がテーブルに置かれる。
「このアザーバイド、救世の王子。この王子の所属するチャンネルの核となる人物。彼が暗闇皇太子を倒さないと、その次元が遅かれ早かれ崩界する。この次元にもいずれよからぬ影響が出ないとも限らない」
 迷宮の様子はオーソドックスな石造り。
「彼を化け物がうろつく迷宮深部から救い出し、侵入口近くに発生しているゲートからもとの世界に戻して。迷宮は彼が元の世界に帰れば、自然に消える」
 後は、元に戻ったビル地下を普通に戻ってくればいい。
「これから暗闇皇太子との最終決戦が控えているから、彼に怪我をさせたり、戦闘させたりしないように。こちらの回復術は効果はない」
 は~い。
「で、これがその王子。身長大体一メートルくらい」
 二頭身。素材はコットン100%。はらわたは綿で、毛糸の髪の毛。おめめはボタンじゃないかしらとか思うんですけど、どうでしょう。ていうか、お口がありませんよ。おててはミトンみたいだし。
 すっげえ抱き心地よさそうだね。
「布製のお人形に酷似しているけれど、違うから。そう見えるだけで生物だから」
 だって、この王冠とか鎧とか、アルミホイルで出来てるような気がします。
「そう見えるだけ。向こうの世界の最高硬度の金属」
 そこで、はっとしたイヴは、
「いっとくけど、こっちの世界の武器持たせて帰したりしちゃだめ。バランス狂っちゃうし、そもそも重くて持てないし」
 と、釘を差した。
「はらわたが片寄ったら大変だから」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月14日(月)23:07
田奈です。
大体、8ビット? もしくは小さくて大きな惑星。
ボトム・チャンネルに追放された虜囚の救世の王子が元の世界に帰るお手伝いをするお仕事です。
拙作「迷宮の虜囚」、「迷宮の虜囚――人食い鬼の恐怖――」をご参照ください。
もちろんご存じなくても、参加に支障はありません。 
王子のスペックは以下のとおり。

アザーバイド・救世の王子
 *だっこする位ならいいけど、あんまりぎゅっとしたらだめだよ。はらわたがよるからね。
 *すごく大事に扱ってね。こわれものだよ。
 *意思の疎通は出来るけど、口がないので言語コミュニケーションは無理。非戦スキルは有効です。
 
  
アザーバイド・『ラビリンスの怪物』毛の生えた肉塊「グロブスターさん」×1
 *グロテスク・ブロブ・モンスターの略です。
  体長10メートルに達する、全体に毛が生えてて、でこぼこしてて、すっごく臭くて、ネバネバしている肉の塊です。 
 *パワー強いです。スピードもあります。転がって潰すのが仕事です。覇界闘士な感じです。
  そして、残念なニュースですが、触手も出てきたりします。
 *アイテム『牢の鍵』を持っています。飲み込んでいますので、倒さないと手に入りません。

現場:ラビリンス・牢の間
 *大きさは、20メートル四方。最奥の一段高くなったところに『王子』が閉じ込められた牢があります。グロブスターさんとは、牢の前にいます。
 *ラビリンス的様式美で、薄暗いです。射撃攻撃をするなら、灯り対策をしてください。
 *石造りなので、足元が不安定になる要素はありません。
 *帰り道は王子が天性の勘でわかります。うまくコミュニケーションが取れないと、迷子になり突発的に戦闘が起こる可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
メタルフレームクロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
ジーニアスクロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
ヴァンパイアプロアデプト
ロッテ・バックハウス(BNE002454)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスマグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)
メタルフレームデュランダル
メリッサ・グランツェ(BNE004834)
ジーニアスソードミラージュ
ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)


  じぼじぼじぼじぼ。
 すすの出ない高品質。
「灯りはばっちし! 冒険な雰囲気も出て……最高にかっこいい装備ですぅ!」
 できるだけ可愛く表現するなら、キャンドル・クラウン(絶賛燃焼中) である。
 それを頭につけるのなら、午前二時くらいに神社の境内に白装束で立つと完璧なのだが、いかんせん、迷宮の中では時間はよくわからないし、『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454) は、とっても高性能なバトルスーツをお召しなので、ミスマッチといえばミスマッチである。
「俺は今回が初めてだが既に三回目とはな……」
 ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)としては、ダンジョンが気になるお年頃なのだ。ハイティーンだからして。見た目はおっさんになったけど。まだ、自分の喉から出る声に違和感が禁じえないけれど。
 過去二回のダンジョン攻略で、ある程度要領を飲み込んでいる『くるみ割りドラム缶』中村 夢乃(BNE001189)は、巨大な赤い糸玉とメモを手にしている。
「今回はランプを追加です!」
「俺も様式美に従ってランプにでもしておくとしよう」
 お約束に従いたくなるダンジョン探索。ウィルダネスやシティも悪くないけど、やっぱりやるならダンジョンアタック。
 残念ながら、赤い糸玉はダイダロス製ではないので自走してはくれない。少々行儀が悪いが蹴り飛ばすのが一番速い。
「そういえば、迷宮は右手をずっと壁につけていけば良いって聞きました!」
 そう言う夢乃に、よくないよくないとすかさずツッコミが入る。迷宮右手の法則は効率と言うものを一切無視しているし――。
 じゃきじゃきじゃきん!!
 夢乃とべオウルフの鼻先をさび付いた鉄の刺が掠めていく。
 ――うっかりトラップのスイッチに触れたりする危険が考慮されていない。
 互いの顔に浮かんだ血玉に、壁から手が引っ込められた。
「――壁はやめときます」
「それがいい。無駄な戦闘をして消耗した状態でいくのは避けたいところだ」
 例え、愛すべきモフモフでもモンスターはゴメンだ。

 じっとりと湿った地面。ひび割れた敷石。不用意に脚を勧めれば、ぼこりと開く穴の下には、折れて錆びた剣が植えられている。
 迷宮である。それも、かなりやさぐれた迷宮である。
 迷宮にやさぐれたも何もあるのかと聞かれれば、あるとしか言い様がない。
 きちんと管理用存在が、発動したトラップを元に戻し、倒されたモンスターを配置し直し、開けっ放しのシークレットドアを隠し直し、開場された鍵をかけ直す。
 それとは正反対の、完全放置、風化した小汚い迷宮。
 先ほど夢乃たちの血をすったトラップも出れば出っ放しである。
 逆に考えれば、そう言う行き届いた迷宮をぶっ壊して歩いたのは、囚われの救世の王子だったんだろうから仕方ないかもしれない。悪の存在も物理存在である以上、懐事情と言うものがあるのだろう。
 それでなくとも、首領級が二人も倒されていることだし。それも、囚われの救世の王子がやったことなんだから、仕方ないのかもしれない。
 
「囚われの王子様かぁ……なんだか立場が逆のような気がするけどがんばるよ」
『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は、周囲を警戒しながら歩いている。
 昨今、日本の戦う美少女は王子様をお姫様抱っこするくらいの気概と腕力が要求されている。
 もちろんヤマトナデシコは上腕二頭筋及び三頭筋を隆起させてはいけない。そんなものは存在しないとばかりに、軽やかにせねばならない。
「お姉ちゃんも一緒だしね」
 お姉ちゃん――『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639) も、やる気十分である。
「何度も捕まっちゃうような萌え属性の王子様、助けにいかなくっちゃね!」
 そこで、気がつかんでいいナニカに気がついた壱也は、ぴたりと立ち止まった。
「……ん? 男がヒロインってことはもしかして」
 それだけ口にすると黙り込んだ。
 もしかして、なんだ。聞きたい気もするが、すごく聞きたくないような気もするこのジレンマ。
「民草や世界を守るものとしては共感を覚えますね」
『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)の清々しい言葉に、腐敗の進行が止まる。
 民の為に身を粉にする姿勢が、異界で戦うものへの共感を呼ぶ。
「ここで挫けず、自らの道を切り開いてもらうため、支援は惜しみません。元の世界までエスコート致しましょう」
 ミツバチの針は鋭いのだ。


 割りとすぐに見当はついた。
 一人の献身的な努力のおかげで。
『グロブスターは凄く臭いらしいから、臭いを追っていけば楽にたどり着けるかもしれん』
 言っちゃったが最後、それは実行され、実効が確認され、今、べオウルフはもはやこれまでと臭気をカットした。
(……正直心が折れそうではあるが) 
 この程度で折れていてはいけない。
「――ぶろ……?」
 少し黙り込んでいた夢乃が、助けを求めるように小さく呟く。
「グロブスター」
 親切な誰かがそう言う。
「ぐろ?」
「グロブスター」
 どんどんひどくなってくる臭気に鼻をつまんでいるのか、今度はみょうに甲高い声が言う。
「……グロんさん」
夢乃は、とりあえず化け物の呼称を決めると、前を向き直った。 
 
 グロブスターとは、グロいロブスターの略ではない。
 グロテスク・ブロブ・モンスターの略称である。
 グロい時点で、エビの方がましだったと言う御仁がいないことを心から祈る。
 彼の世界は、全て底辺世界における縫製物で構成されているようで、目の前でのた打ち回っているそれは、牛乳を含ませた雑巾に粘液が付着し、それを梱包用の毛羽立ったビニール紐で無理やり閉じ合わせた袋の中にたっぷり粘菌と肉塊を詰め込んだような――要するに、積極的に触りたくないサイテーな部類に属していた。

「しかし10メートルの肉塊か……。気色悪いというより、迫力だな」 
 それで済ませられる『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の男気に僕らは思わず涙する。
 グロブスターの臭気が目に染みるせいだとは認めない。断じて。
 ぼだぼだと落ちる腐汁。びとんびとんと犬の尻尾のごとく振られる触手。
 何これ、ひどい。
 救世の王子をこんなのと一緒に閉じ込めている暗黒皇太子の性格がうかがい知れる。
「グロブスターは触手を出してくるとかいう話だが、そういうものの犠牲になるのはイケメンと美女だと相場が決まっているらしいからな。見た目オッサンな俺が犠牲になることはまずあるまい」
 残念ながら、オッサンいじりドントコイの判例は幾らでもある。詳しくはアーク資料室へ。
「――そう言うこと言うと、招くよ」
 智夫がそっと釘をさした。いらんフラグを立てるのは残念ながら得意だった。
「く、くさいし気持ち悪い。なるべく鼻で息をしないようにしよ」
 王子に「任せとけ!」 と、どーんと薄い胸を叩いた壱也は次の瞬間鼻を押さえて青ざめた。
 大丈夫だ。破壊神の加護を受けた者は臭気ごときに負けない。多分。
「うう、臭いがうつらないといいなぁ」
『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、涙目だ。
 消臭グッズを山と持って来てはいるがそれで間に合うかどうか。 
「移る前に仕留めましょう」
 五つも年下のメリッサの潔さに胸がきゅんとなりそうだ。
 グロブスターは、旧制の王子の入った籠の真下に、長々と寝そべっている。
「――こちらにおびき寄せたいところ」
 自らの未熟を十分自覚しているべオウルフは後衛に陣取り、体内のギアを切り替える。
 魔術職である双葉、ろうそくが髪に絶賛滴り落ち中のロッテ、今回は回復役の智夫も後衛だ。
「あまり近づきたくありませんが、そうも言ってられませんね」
 メリッサの針は、存外大きい。呪いと重圧をもたらす刺突が、雪崩れのごとくグロブスターの横腹を瓦解させる。引きつるように動きを鈍らせるグロブスターにリベリスタはじりじりと距離を詰め始めた。
「俺にひきつけるぞ」
 義弘のメイスが、神秘に感応して鳴動を始める。
「触手がでてきたら、とられないように斬り捨てるから」
 壱也の赤い刃が鞘から解き放たれた。
「あたしは盾。脆くとも、命あるかぎり立ち上がる盾――王子! 必ず助けます、今しばらくのお待ちを!」
 グロブスター討伐の余波が王子の籠に及ばぬようにブロックする夢乃の呼びかけに、籠の中で命のないようなもののように転がっていた救国の王子が顔をあげた。
『助けに来ましたので、なるべく牢屋の奥に下がっていて下さい』
 智夫のせい神葉を理解できたらしく、おとなしく籠の奥にへばりつき、対ショック姿勢を取る王子。
 このぬいぐるみ、場数を踏んでいる……!
 それが起爆剤。
 壱也、義弘、メリッサが前に出る。
 戦場は、できるだけ遠くに。戦禍はリベリスタに。
 振り下ろされる義弘のメイスから、断罪の光が放たれる。
「その触手で王子様にあんなことやこんなことするつもりなんでしょ! エッチ! 変態! 不潔! ブッ殺……ゴホン、息の根を止めてやるのですぅ!」 
 ロッテの言葉が王子に理解できなくて良かった。きっと、麗しの絹地が桜色に染まったことだろう。
 婉曲表現は、とても大事だ。
「ピンポイントで攻撃ですぅ!」
 もつれ合うようで決してもつれることのない気糸が、つぎはぎだらけのぼろ布に食い込む。
 グロブスターの単純な神経系は真っ赤に染め上げ、向き直る様子で、ああ。そちらが頭部だったかとリベリスタは合点する。
「まってたよ」
 壱也の八重歯がきらりと光る。
「120%じゃなく、ここは敢えてのぉ――」
 中断から腰だめに背後の溜められた刃には、白く輝く光球。
「メガクラッシュ! ぶっ飛べ、なまものぉ!!」
 入れも入れたり、まさしくここに入れるべきところにジャストミート。かいしんのいちげき。腐女子は構造解析もお得意である。擬人化的方面で。
 一瞬10メートルの巨体を宙に投げ出したグロブスターの体に蠕動運動。
 つまり、あれだ。その、分かりやすくいえば、リバースだ。
「紅き血の織り成す黒鎖の響き――其が奏でし葬送曲――我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」
 自分の魂に最も感応する呪言を編み出すのも魔術師の素養だ。常人の追いつかない舌先のミラージュ。双葉の手のひらから染み出した血から編まれた黒鎖がタイムラグを無視してぼろ雑巾を文字通り絞り上げる。
「ねばってない子、一人は残っててね。王子抱っこ要員だけは、死守!!」
 自分はネバネバになる覚悟を決めた壱也が叫ぶ。
 くちゃいくちゃいになったら最後、汚れたら命に関わる王子を抱っこできない。
 ロッテの顔が急速に青ざめる。
 見上げるばかりの触手もちの不定形。
 ちょっとでも触ったら、えんがちょだ。王子抱っこ要員から自動的に脱落だ。
 その前に、すっと義弘が入った。
「任せろ。その分、指揮は頼んだぜ」
 元々、グロブスターの眼前に立つと決めていたのだ。それが、クロスイージスの心意気って奴だ。
「負けん。侠気の盾を名乗るだけの働きをさせてもらおう」
 盾をかざし、メイスを掲げる者が、最後の聖地を守らんと欲するとき、いかに汚らわしき迷宮の深部であろうとも、加護は降臨しその威光を示す。
 目の前の義弘に集中しようにも、べオウルフの幻影がその前を横切り、べろりとその薄汚れた外皮をはいでいく。
 間合いに入っていたべオウルフ、メリッサ、義弘の上に瓦解寸前の巨体が投げ出される。
 一瞬見えなくなった仲間の影に、リベリスタの脳がすっと冷たくなる。
「癒やします!」
 もしも、もろもろの不調をこれほど帯びていなければ、べオウルフは忘却の川を垣間見たかもしれない。
 しかし、仲間とタイミングに恵まれるのも実力のうちだ。
 恩寵を磨り潰して立ち上がることを選択する。
 肉体の春は過ぎ去っても、魂の若さを吸い取ることは誰にも出来ない。
 本職ではないとはいえ、古強者の智夫の全体回復請願で川のこちら側に踏みとどまるくらいの体力は確保される。
 
 誰も落ちなかった。
 それが、グロブスターがはらわたに全てをぶちまける20秒前のことだった。
 床を多い尽くさんばかりの汚物の中に浮かぶ鍵だけを拾うことができたのは、智夫が請願した仮初の翼のおかげだったことを追記していく。


「大丈夫ですか、王……じ?」
 ハイテレパスで王子に話しかけた智夫は、声を詰まらせた。
(思っていたのと違って、凄いかわいい……)
 何しろつくりが繊細。人形ではなくぬいぐるみの素朴さはそのままに高貴なのである。ああ、この二律背反。
 モフモフ好きのべオウルフのハートもきゅんと高鳴らせる破壊力である。
もちろん、夢乃のカメラが先程からRECの赤ランプつきっぱなしなのは言うまでもない。
(……ぬいぐるみ王子と内薙さん……この図、カワイイ……!)
 ヤマトナデシコは、かわいいものが大好きだ。民族的特性として。
「王子のよく使う仕草があれば、意味を問い、異文化交流を深めましょう」
 メリッサもカメラを回している。これは貴重な非言語交流の資料になるのだ。
 ここに腐敗の王が降臨している時点で、王子がうっかり底辺世界の肉体に変換されなかったことに感謝せざるを得ない。
 カメラが最低三台以上になっただろう。

『元の世界へのゲートまで護衛させて貰いたい――のですが……』
 智夫の視線がはごにながれる
(わたしのこと、覚えてるかなぁ……そわそわ……)
 抱っこ要員となるべく、節制とハンカチで身だしなみを整えるロッテは、デート前最寄のデパートのパウダールームを占拠する女子のようだ。
 メリッサにいたっては、すっかり汚れの内服に着替えている。幻想纏は便利だ。
「乙女のたしなみですぅ~!」
「身だしなみは大事です」
 公然と開き直れるかによって、女子力が変わってくるのでメモして置くように。もちろん、ロッテは髪に落ちた溶けたロウを払う事だって忘れないのだ。
「――着替えは、用意してきた」
ぼそりと呟いた義弘に、うっかりしていたお嬢さん方の視線が集まる。
「……流石に、におうままではちょっと、な」 
 ――で、どうなったかと言うと。
 どちらかといえばガリではなく、体型もふわふわ系男子のコスチュームは、女子のみんなにフィットした。
 男のウエストは、細くはないのだ。
 だから、着物が似合う誰かさんも、大丈夫だったのだ。
 何かが芽生えたかどうかは、また別の問題である。

「王子様が嫌でなければ……」
 指がワキワキと動いている。気糸がでてきていないのが不思議なくらいだ。
「だ、だっこ、させていただきたいのです……」
 むぎゅぅ! のシミュレーションに怠りはない。
 三度目である。
 王子も見知った顔が混じっている中、否はない。
 双葉は、抱っこしたいと控えめにアピールしていた。アイドルオーラをしょいつつ。
(あとはちょっとぎゅってしたい……ハラワタが偏らない程度に)
 ただものじゃない、物理的重圧感。
 だって汚れてないし。染み出した血はきれいにふき取りましたとも。
 メリッサもことのほかかわいらしいイラストを描いて、状況説明に余念がない。
「王子、帰り道わかる?」
 装備をせっせと拭いている壱也は離れたところから、オーバーアクションのジェスチャーをする。
 智夫からもらった除菌・消臭ウェットティッシュが足元で山になっている。
『大丈夫』
 もちもち動くぬいぐるみに、心の琴線はじかれっぱなしである。

 もちろん、移動の際、くちゃくない人が細心の注意を払って、後退で王子をお運びしたのは言うまでもない。
 王子に仮初の翼――と一瞬言いかけたが、すぐに空気を読んで黙った智夫君は、やっぱり女の子の気持ちはよくわかってないのだ。男の娘ではない女装男子、ぷまいです。

「暗闇皇太子を倒し、世界を救ってくださる事を祈っているのですぅ! 王子様、がんばってくださいね! えいえいお~!」
 ロッテの声援はご利益がある。過去二度の死闘を乗り越えた実績があるのだから。
『もちろん。そして、迷宮に閉じ込めてくれた暗黒皇太子を倒し、助けてくれた皆さんへの礼としよう!』
 壱也がおずおずと差し出した指を、そっと王子の手がつかんだ。
 ネバネバ――それは王子にとっては死に至る猛毒だ――にまみれることも躊躇しなかった戦士の手をとらぬ訳がない。

 ハイテレパスとジェスチャー、絵文字経由のまどろっこしいやり取りではあったが、世界の安定のために働く志は一つであった。メリッサは、王子とのやり取りの記憶を大事に胸に抱えた。

 戻る王子の最後の思念を、智夫は皆に伝えた。

『今度は、迷宮ではないどこかで』 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 王子から引っぺがされたとき、「こうなったら、みんなでろでろにして、だっこできなくしてやる」と思ったら、お空を飛ばれたよ、ママン。
 
 王子は、暗黒皇太子との死闘を制することでしょう。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね。