●ハエの王……えっ? ベルゼブブ、と言う名前を聞いた事はあるだろうか。 神話に詳しい者ならば一度は聞いた事のある名前、ハエの王を意味する神である。 元々の名前はバアル・ゼブルだの、地位や権限はあの大魔王に続くなど色々凄まじい逸話がある存在である。まぁ某Yesの人を罠に嵌めようとしたら「お前調子のんなよ」と逆にフルボッコにされる逸話もあったりもするのだが。 まぁ、そんな事は今どうでもいい。重要なのはそのベルゼブブと思わしき姿を持つアザーバイドが出現したと言う事だ。 巨大なハエの姿を持つアザーバイド。一目しただけでは、間違いなくベルゼブブと思えるだろう。 ……一目しただけなら、だが。 「ミーン、ミンミンミンミンミーン」 ●この鳴き声ってハエと言うより、 「セミじゃねーか!!」 「セミじゃありません。アザーバイド:ベルゼミブです!」 「やかましわっ! 上手い事言ったつもりか――!」 数多くのリベリスタの抗議を受ける『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)。 モニターに映るのは巨大なハエの体を持ちながら、その鳴き声はどう聞いてもセミであるアザーバイド:ベルゼミブの姿。ベルゼブブとセミの名前を掛けたのか。やかましいわ。 「ともかく、ベルゼミブを皆さんには討伐していただきます。こんな大きいセミ……ハエを放っておくわけにはいきませんし」 「今セミって言いかけたろ。ていうか言ったろ今」 言ってません。と何故か言い返す和泉。 「ベルゼミブの特徴はその独特な声による音響攻撃と、体中に付いているウイルスです。ハエは元々細菌とかウイルスを運びやすい虫で、このベルゼミブにも体中にウイルスが付着している模様です」 「ウイルスか……大丈夫なのか?」 「ええ、大丈夫ですよ。調べたところ、人体に致命的な影響を及ぼす様なウイルスは確認されませんでしたので。まぁ戦闘中にある程度影響はあると思いますが……」 と、なれば毒か何かの影響があると言う事か。 とは言え、古来より様々な病原体を各地へ持ち運ぶのがハエだ。後々に重大な影響を及ぼす様なウイルスを持っていなかったのは幸運と見るべきかもしれない。 「まぁ皆さんなら倒す事はさほど難しい事ではないと思われます。空を飛んで逃げられなければ――の話ではありますが、頑張ってこのセミを倒してきて下さいね!」 ……セミって言っちゃったよ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月08日(月)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夏だね 天気は快晴。日差しは強く、まさに夏の季節を表していた。 さてところで、夏の風物詩と言えば何だろうか。花火、かき氷、風鈴――まぁ色々な想像が出来るだろう。 この森にもそんな“夏の風物詩”が一ついる。夏になれば耳が痛くなるほど叫ぶ、あの虫―― 「ミーン、ミンミンミンミーン!」 セミである。メスを呼び寄せる為にああも騒がしく鳴くのがこの種族の特徴だ。もっとも、それはあくまでも普通のセミの話であって、 「アレは普通とは違うよなぁ……」 遠目にセミ……の鳴き声を放つハエの姿を観察しているのは『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)。 彼の視界に映っているモノがベルゼミブ。およそ1mの体を持つハエだ。それが一本の木にしがみ付く様にして留まっていて、なんというか――とてもシュールである。 「でもアレなんだろうろうなぁ。凄くわかり易いし、独特の音を出してるから間違いないだろうけど……」 「なにあれ……ふざけてるの?」 『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)が嫌悪感を露わにした感想を。彼女的にあれは完全に許せない様だ。ハエもセミも駄目な人にとっては二重に駄目どころの話では無い。 あんなものには即座に消えて貰うに限る――そんな思いを抱きながら彼女は超直感を用いてここまでスムーズにやって来た。 「んーあれってさ、伴侶を求めてるのかなぁ。届く訳無いのに……かわいそっ!」 声とは裏腹にちゃっかり手持ちの携帯にベルゼミブの鳴き声を録音する『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)。 季節柄なのかなんなのか、最近この手の蟲事件が多い。もしかすると役に立つかもしれないと、念のために録音しているのだが……あんなシュールな物がもう一体以上いるだなんて事態は出来れば御免こうむりたいものだ。 「……ブリーフィングで鳴き声は覚えてたけど、いざ目の前にすると、他のセミより異質感が目立つなぁ……ああ、セミじゃなくてハエだっけ」 「私としては興味深いがね。セミだかハエだか本当によく分からない点が実に」 右手に楽器を入れているケースを抱えているのは『Small discord』神代 楓(BNE002658)。そして彼の言葉に続くのは『闇夜灯火』夜逝 無明(BNE002781)だ。 無明は耳にイヤホンを通して欧州のハードロックを大音量で流し続けている。いくら耳栓は意味がないと言っても、それでも煩わしいのは同じ。ならばいっその事テンションの上がる曲を聴いて紛らわさせようと言う訳だ。 「……どっちでもいい……それより……夏休みの……宿題したい……」 逢乃 雫(BNE002602)にとってはむしろハエだかセミだかよく分からない物を倒すより、明確に存在している夏休みの宿題が大事。初等部に通う彼女にとっては、ある意味当然とも言えるか。 さて、ではさっさと倒しに行くとしようか――夏の風物詩の鳴き声を持つハエを。 ●セミだ! 「やれやれ――」 最初に駆けだしたのは『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)。ベルゼミブの攻撃範囲30mギリギリの範囲外にて全身の感覚を研ぎ澄ませた彼女は、巨大なハエに向かって駆ける。 「あんなでかい奴がいたんじゃ、おちおち昼寝も出来なくなる。……早めに潰すとしようか」 そして、滑り込むように己が攻撃の届く射程範囲内に入れば、懐より取り出すヘビーボウ。 構え、即座に弓を引けば正確な狙いを伴った一撃がベルゼミブへと飛ぶ。彼女の狙いは羽。とかくまずは移動の要たるそこを潰そうと言う心算で、 「ミンッ!?」 ベルゼミブが困惑の色を伴った声を発した。突如とした攻撃に驚いたか、僅かにバランスを崩す。 「追撃します。……ああ、幾らでも暴れてくださって結構です」 ただ、という言葉を後に置くは『正義断つべし』緋桜 暮葉(BNE002805)。大振りの剣を肩に担ぎ、一気にベルゼミブの周囲にまで到達する。 「――少々、乱暴に黙らせますよ?」 薙ぐ。両の手を用いて、剣は円を描く様に、腕は斜めに振り下ろして一直線。バスタードソードの一撃がこれまたベルゼミブの羽へと叩きこまれて。 「ミーン!」 ベルゼミブが体を捩じらせる。二度の攻撃が入った羽は僅かに歪んだように見えるが、とても致命傷には見えない。まだこの程度では破壊するには不足と言う事か。 同時、周囲に音が満ちる。セミの鳴き声――否、これはベルゼミブの鳴き声にして敵の、 「音響攻撃かっ!」 楓が咄嗟にこの後来るであろう攻撃を想定し、走行する体勢から前面に転がり込む。 僅かに遅れて響き渡る鳴き声。大気を揺らす力を集中させる事によって、一点に音をぶつける。ベルゼミブがやっているのはそう言う事だ。先程まで自分が居た場所の付近にあった木にヒビが入っているのが目に映るが、今更止まる訳にはいかない。楓は再び走り出した。 「ハエなのかセミなのか……よく分からないが、平和と衛生を守ってみせる! ――変身!」 幻想纏いを利用して武器を取りだした疾風が、流水の構えを用いて身体の強化を図れば、 「よーしそれじゃ、援護するよ――!」 アンデッタが後方で守護の結界を味方に張る。 これで防御の面で少しばかり余裕が出た。万全とは言い難いが、それでも無いよりは遥かに良い。 「……早く消えて……平和と、私の心身のために……」 さらにその合間を朱子が縫う。全身のエネルギーを武器に回し、横回しに一閃。 ベルゼミブの体が大きく揺れれば同時に、ジッ! という鳴き声が発せられた。悲鳴のような物だろうか、随分と敵は苦しい様子で。 しかし、揺れる体と共に空中を舞うモノがある。粉の様にも見える、その粒子は――ウイルス。 ベルゼミブの持つ特有の物だ。体を揺さぶられた衝動で横に飛び散る様が、太陽の光に照らされてよく見える。そのまま粒子は風に乗り周囲へと散乱。リベリスタ達へと降りかかる――が、 「おやおやそういう訳にはいかないよ」 戦闘範囲内へと入り込む無明が即座に対応の行動を見せた。 それは光。彼女の体から発せられたそれは、リベリスタたちへと浸み込んだ危険なウイルス、毒の効果を全て打ち消す。 「しっかし、蝿の外見で蝉の鳴き声ってなんか、こう――むやみやたらに叩き潰したくなる衝動が出てくるな。と言う訳なので」 次いで、楓が魔法陣を己の周囲に展開させる。台所の某黒い悪魔とは少し毛並みが違うが、厄介な蟲を叩きつぶしたくなる衝動は分からないでもない。部屋の中に一匹だけ蚊が居たら面倒だと感じる人がいるように、だ。 「潰れろぉ――!」 偽らざる本音と共に、魔方陣より矢が射出される。それは真っすぐに、木にしがみ付くベルゼミブの背へと向かうコースを見せて、 穿った――“木”を。 ●ハエだ! 「何っ……!?」 疾風は視ていた。楓の放った魔法の矢は、ベルゼミブを確実に直撃するコースを辿っていたのを。 しかし現実として矢が撃ち抜いたのはベルゼミブでは無くそれが止まっていた木。何が起こったのか、それも視ていた。顔を上げて彼は叫ぶ。 「このタイミングで――飛ぶのか!」 疾風が見上げた視線の先、そこには空を舞うベルゼミブの姿があった。 矢が直撃する寸前にベルゼミブは羽をはばたかせ、その巨大な体ごと空中へと飛んだのだ。回避と移動を同時に兼ねた行動。それは、ダメージを受け続けていたベルゼミブの本能が成したのか定かではないが、 「ミーン!」 次なるベルゼミブの行動は突進だった。 巨大なセミの体を力任せに前進させる。狙いは唯一点。 「くっ、私かね……!」 無明だ。1m級のハエの突進を真正面から受け止める形となり、衝突する。 予想以上の力に思わず堪える脚が土を抉り、数歩分後ろへ後退する形となった。だが、 「逃がしはしないよ。こう見えても元気だった頃、虫取りは得意なほうだったのだよっ!」 掴んで――離さない。ベルゼミブにある六本の脚の内二本を力強く掴み取り、動きを束縛しようと無明は行動する。 流石にアザーバイドの行動を持続して束縛するのは難しいが、少しの間ならば彼女でも可能。蠢くセミを必死に抑えつければ、 「……ん……今の内……チャンス……」 「そろそろ破壊できると良いんだけど、な!」 雫がブラックコードを携え、ベルゼミブへと接近する。そして、それを援護するような形で杏樹が羽に矢を撃つ。ばたつくベルゼミブの動きを見切り、瞬時に放ったそれは見事に羽へと突き刺さり、 「ミ、ミーンッ!」 ――段々と羽が歪む一因を作った。戦闘初期からの集中攻撃により、ベルゼミブの羽は見る影も無くなりつつある。とは言え、完全破壊にはもう少し時間がかかりそうだが。 「まぁ後もう一押しって所かな? 行っけぇ!」 さらに追撃する形でアンデッタが符術で作りだした鴉を飛ばす。 生き物の様な動きを伴い、鴉はベルゼミブへと接近して目を狙う。ハエの目はほぼ全域を見渡す事が出来る為に潰したい箇所である上、狙った理由はもう一つある。それは、 「ミーンッ……!」 ベルゼミブの注意と怒りを、こちらに引きつけようと言う狙いだ。 「蠅の複眼と飛翔は厄介だからね……けど、僕だけを見てる今なら……!」 果たしてアンデッタの思惑通り、ベルゼミブの注意は彼女に向いた。無明の束縛を無理やりにほどき、その巨体を地上へと安定させる。 続けて即座に地を蹴る。羽を使わず、アンデッタに突進するつもりなのだろう。目が赤かったりはしないが、どことなく怒りを感じさせる様子を見せながら一直線に走りぬけようと、 「そう何度も、好きに行動させは――しない!」 ――したその時、ベルゼミブの体をカマイタチが襲う。 偶然の自然現象ではない。アンデッタにしか目に映っていないハエに狙いを定めた、疾風の一撃だ。 脚を踵落としの形で振り下ろし、斬風脚を放てばそのまま彼も地を蹴る。振り下ろしの脚を始めの一歩として、三歩でベルゼミブの近くに到達し、今度は右腕を地上に叩き込む様に打ちおろせば、 「空に逃げられれば厄介だ……ここで、仕留める!」 炎を纏った一撃をベルゼミブにぶち込んだ。 羽はおろか、ハエの体が僅かにへこみを見せる。もうそろそろ限界が近い――と言う事か。 「ミ……」 だが、だがしかしだ。こいつはハエだかセミだかよく分からないが、 「ミミ……! ミーンッ!」 それでも――アザーバイドなのだ。 そう簡単に終わる筈も無く、悪魔の名を若干関するベルゼミブは最後の抵抗を試みる。 「これは……また来るのですか!」 半径30m全てに対象を取る音響攻撃。それの到来を逸早く感じ取ったのは暮葉で。 一歩遅れてくるのは波。音の波だ。ベルゼミブを中心として発せられるその音の波は周囲に居るリベリスタ全てを一斉に捉えて、 「ぐぅ! 皆、耐えるんだ……!」 楓が己の体に突如として生じた痛みを必死にこらえる。 音は視えない。で、あるが故に回避は難しく、防御も難しい。何せ体感的にはいきなり体が軋む様な痛みを挙げるのだ。これは中々厳しい攻撃である。 しかし、それはあくまでも“厳しい”という話であって、 「倒れる程か……と言えばそうでもないの」 「ミッ!?」 ベルゼミブに衝撃が走る。この痛みは、斬撃。刃物で切られた痛みだ。 困惑。何が起こったのか一瞬理解できなかったベルゼミブの思考はその二文字が支配し、同時にベルゼミブは周囲に視線を巡らせる。 そうすれば直ぐに発見した。近くに朱子が居たのを、だ。 ベルゼミブは知る由も無かったが、彼女の耐性はベルゼミブにとってかなり分が悪い。ショックにも毒にも耐性があるのだ。故にこそ、体から常時発せられる毒にも全く意味がなく、 「うわ!? 僕以外にも毒がへいちゃらな人って居るんだねえ」 さらに言えばアンデッタにも意味がなかった。理由は彼女も同じ、耐性があるのだ。 ――これは駄目だ。ベルゼミブはもはや生存本能レベルで勝てない事を悟った。 故にこそ行動した。今度は抵抗では無く――逃亡である。 「逃げるつもり? 駄目、逃がさないよ」 しかしそんな願いも一瞬で杏樹に潰される。 直後に投げ込まれる物があったのだ。ベルゼミブの体に絡みついてきたそれは、ワイヤーの網。事前に作っていたのだろう。それは傷付いたベルゼミブの体では振りほどけない物であって。 「さて……では終わらせるとしようか」 言葉と共に剣がハエの頭部にぶち込まれる。 大上段から放たれた神聖の一撃。無明が唯一今回使った攻撃と言っても良いそれは、どうもクリーンヒットした様で。 「お待たせしました。ここからは少々痛くなりますが――どうぞご安心を。悪あらば悪を断ち」 今度は逆。ベルゼミブの後方で暮葉がゆっくりと剣を構えれば、オーラを電撃に変える。 彼女も先程音響の直撃を受けた身ではあるが、そのダメージの余韻は無い。なぜならその身に、痛みという感覚は通じないのだから。 そして、続けた勢いで電撃と共に剣で薙ぎ、ベルゼミブの体を両断すれば、 「正義あらば正義を断つ」 剣を収め、言い放つ。 「――それが緋桜のお役目ですので」 ●ベルベミブだ! 闘いは終わった。セミだかハエだか不明なアザーバイドはここに潰えたのだ。 しかし騒音は終わらない。周囲ではベルゼミブでは無いが、普通のセミは大量にいるのだ。つまりあのミーン、と言う声だけは未だに続いている訳で、 「まぁ夏の風物詩といえば風物詩だけどな」 詠唱を行い、響かせる音は攻撃的な物では無い。楓の回復詠唱だ。 先程の闘いで傷付いた者を癒してながら彼の目線は死骸となったベルゼミブへと。生きている内はなんともシュールだったが、 ……鳴かなくなったらベルゼブブっぽくなったなぁ。 という思いを巡らせる。死後にそう見えるようになるとは、なんとも皮肉である。 「うーん、抜け殻ぐらいあると思ったんだけど……ないなぁ」 と、周囲を探索していたアンデッタが戻って来た。ベルゼミブの抜け殻が無いかと探して見たが――まぁあれはどっちかと言うとハエだったからか、見つからなかったようだ。 「……ホールも壊して来たよ」 「お疲れ様です。これで、とりあえずベルゼミブみたいな奴が来なくなると……いいなぁ」 近くにあったディメンションホールを破壊し、戻って来た朱子。 労いの言葉を疾風が駆けるが、あんな存在がまた現れないとも限らない。出来る事は祈るだけだ――あんなシュールなのは一回会えば充分である。 「気分の……問題だけど……早くシャワー浴びて……アルコール消毒したい……」 戦闘で若干汚れた体を見据えながら雫が言葉を紡ぐ。 あんな物を相手にしたのだから分からないでもないが、アルコール消毒までしたいと思われるとは、ベルゼミブ涙目である。いや、仕方ないのも当然だが。 「ミーンミンミンミンミンミーン!」 近くか、遠くか……一際大きくセミの鳴き声が聞こえる。 夏はまだまだこれからも続く。 ベルゼミブを倒したとはいえ彼らの鳴き声が落ち着くのは――もう少し先に成りそうだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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