●おお、テキサス! 赤茶色の風景を風が吹き抜ける。 乾いた風に舞い上がる砂塵。見渡す限りに広がる遠大な大地。 日本の何処を探しても、中々お目にかかれない風景という感想は、全く間違っていない。彼等の立つその場所が日本で無いという事は明白過ぎた。 「全く、今回もまたアメリカ・クオリティ過ぎるな」 目の前に広がる『惨状』に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が小さな溜息を吐く。 彼女の視線の先には暴れ回る巨大なトレーラー。大小様々な車両達。本来運転手を必要とするそれが操作を受ける事も無く暴れ出したなら、それは勿論神秘の成せる業である。 「立派な事じゃないか! 彼等は……あくまで正義の為に戦っている!」 力説する『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)の目の前で伸びているのは何だか暴れているトレーラーに比べれば随分貧弱な人型の……そう、大体具体的には一メートル七十五センチ位のメタルフレームの皆さん(※現地リベリスタ集団『アウトボット』)であった。そこかしこに車の因子を反映させた彼等は何かのコスプレを思わせる。コスプレと言うよりはもう少し真摯な存在なのであろうが、本人達が本気であろうと無かろうと結末は変わらないものらしい。 「今! 俺達はリベリスタとして彼等の遺志を!」 「いやいや、生きてる、生きてるから」 屈んで動かないリベリスタ達の脈を取った『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が顔の前で手を左右に振った。 「訂正! 彼等の意思を継ぐ!」 風斗にフツが無駄に爽やかにサムズアップした。 そう言えばアメコミでは簡単に死なないもんだ。 いや、厳密に言えば死んでも結構生きてるもんだ。 ギャグマンガでは上空から落下しても人型の穴が開くだけである。 暴虐のトレーラーを前に案外のんびりとしたリベリスタ達の有様は彼等が踏んできた修羅場の数を示しているのだろうか? ……現代のリーダー、世界の警察、世界最強のアメリカは実はその成り立ちと国家としての歴史の短さから神秘界隈では表の社会程の存在感を示していなかったりする。 否、もう少しハッキリ言えば、アメリカの神秘勢力は多分世界でもこうかなりアレな部類で、或る意味無駄に広い領土の秩序を守るに現地のリベリスタは大分力不足なのだ。要するにU.S.ARMY最高や! リベリスタなんて最初から要らんかったんや! 状態な現実が横たわっているという事情がある。勿論、この国のリベリスタ達の上層はそういう事態が辛くてかなわないらしく、付き合いのある軍の上層部(神秘に理解のあるダンディな司令官)等に「もう結構だ、後は此方が管轄する」等と言われる度に胃に穴があきそうな程、クルものらしく昨年の医療費の請求は……閑話休題。 「――ダンディなおじ様の為なら仕方ないよね!」 数ある情報の中から何故かそこに反応してしまった『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が小さく拳を握れば、 「まぁ、アメリカだしね」 その彼女と何かと仲の良い『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が相槌を打った。 「実際、強そうだから面白そうだし」 雄大なテキサスの風景(ハイウェイ)でどっこんどっこん暴れ回るエリューション・ゴーレムは言わずもがな、アメリカのリベリスタ達がどうしようもなくなった案件の一つである。アメリカ・リベリスタの些細な面子とかそういうの諸々を背負ってこの場に派遣された八人こそが我等がアークの皆さんだったという事。 成る程、フランシスカの言う通り敵は中々強そうだ。 「兎に角、こんなものを捨て置く訳にはいかない」 普通なら人通り何て全く無い荒野のど真ん中ではあるけれど。 ハイウェイといっても日本のそれとはちょいと違い…… 「何時、無辜の人に被害が振りかかるか!」 ……うん、まぁ。暫くは大丈夫そうだが。 『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)の言はリベリスタとして至極尤もだ。 「うん。それに少し……煩くなってきた」 目を細めた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は魔銃バーニーを構えて剣呑に敵を見た。 エリューションを除くのはリベリスタの勤め。 それは日本であろうとアメリカであろうと変わらない。勿論、結果として平和が保たれれば良いのだが――『リベリスタが軽んじられる事態』は他国の事ながら余り面白くは無い。彼等は彼等で命賭けで戦っているのは自分達と同じだから。実力敵わぬ事知りながら怪異に立ち向かう彼等には熱いアメリカの正義――誇りという血潮が流れている!(多分) ハイウェイを爆走するそれにリベリスタ側がこの段階で接近を果たせたのは乗り付けた大型トラックと、時間稼ぎの的になった彼等の相乗効果によるものである。 時間は一杯。 いよいよ、開幕する――荒野の決戦。 トレーラーのコンテナが開けば多数のバイク型ゴーレムが散開した。 盛り上がってきた舞台の幕が開く直前。 何処か惚けたような口調で言ったのは『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)その人だった。 「灯璃、知ってるよ。こういうの、前にテレビで見た事あるし――」 さあ、始まるぞ! 目の前でトレーラーが変形する。 十メートル以上はあろうかという巨大ロボがわやくちゃだ! 「――えーっと、そうだ! オプ……オプ、コン!!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月05日(土)23:23 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●良い子と『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)の約束だぞ! 「※注意! このシナリオのプレイング・リプレイ内における『コンボイ』の名称は、あくまで世間一般における巨大トレーラーの愛称であり、特定個体の名前を指すものではありません!!!」 はい、ご苦労様。 ●テキサス・ハイウェイ 「わー。私アメリカ初めて来たよー。すごいね。広いねっ」 歳相応にはしゃいだ声を上げる『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)にとってアメリカは初めての土地だった。元々外国人である彼女の場合、日本に馴染み過ぎているのも少し不思議ではあるのだが…… 同じ高速道路と呼んでも、日本とアメリカのそれは似てもいないし非なるものだ。 赤茶けたテキサスの荒野に延々と伸びるくすんだアスファルトの風景は、日本での活動を主にする八人のアークリベリスタにとっては見慣れないものだった。 表の世界ならば世界の誰より頼りになるアメリカも、神秘的な意味では事情が異なる。若干――正直を言えば大分、頼りにならないアメリカのリベリスタの沽券を救援する為にこの地を訪れたパーティの前には、実にアメリカ的なスケールで『今日の原因』が立ち塞がっていた。 「傭兵でアメリカに行って来い、ってどんな事件かと思ったら…… まあ、真面目な事件なのは違いないが。こちとら、これまで散々人外とやり合って来てんだ。 今更ロボットに遅れを取るつもりはない。何でもデカけりゃ良いって訳じゃない事を教えてやる」 気後れまいと気を吐いた『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)が早々に得物の剣を引き抜いた。 「……流石のデカブツだな。これだけデカイと、スクラップも大変そうだ」 「しっかしまあ、エリューションのスケールもビッグサイズよね。。さすがアメリカだわ。 強さもそれに見合ったものだといいけどね」 彼と、呆れ半分、感心半分といった調子の『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)、愉快さすら感じさせる余裕を見せた『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリック(BNE003537)、パーティの面々の視線の先には、四角い無骨な外見が特徴的な大型トレーラー『ビッグリグ』が今にも飛び掛ってくるのでは無いかとさえ思わせる獰猛なエンジン音の如き唸り声を上げていた。 「……や、本当に大きいわ」 周囲の道路が抉れ、破壊されている所からこのトレーラーがどれ程の重量馬力を持っているかは明白だ。勿論、フランシスカの期待する所――それの戦闘力は外見からも良く分かるし、これまでへっぽこなりにそれをこの場に留めていた現地のリベリスタ『アウトボット』十数名が薙ぎ倒されている所からもハッキリしている事である。 「そこまでだ、コンボイ! お前の好きにはさせんぞ!」 今までの邪魔者(アウトボット)と出現した新手(アーク)を前にその動きを決めかねた怪物にすかさず風斗が勇猛な声を張る。注意を自身に引き付けんとした彼の一方で癒し手のアリステアが素早く倒れた彼等の元へと駆け寄っていた。 (き、決まった……) 微妙に満足する風斗はさて置いて。 事件を平たく言うならば『大型トレーラーがエリューション化してロボで暴れた』。 字面にすれば良くある話だが、神秘事件の例に漏れずこれは冗談では済まされまい。 敵のサイズは直接的にその脅威に直結している。 尤も、ビッグリグに相応しい雄大なるアメリカの国土は同様に事件の混乱を抑えるに一役買っているのだが。 「まったくミサイルでも何でも撃ち込んでさっさと壊せばいいものを。結果が同じなら些細な違いだ、過程など」 こぼした『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が肩を竦めた。 正直な所を言えば事件そのものは兎も角、解決手段については彼女はどうでもいい。世界最強のU.S.ARMYならば砲撃でこれを仕留める事も可能なのだろうから、頼れるならば頼れば良いとも思う。 しかして彼女は首を捻る。 (待てよ……? リベリスタならば早々死なないだろうし。ふむ、意外と費用対効果自体は良いのか?) 死なない、の前にはあくまで『アークのリベリスタならば』という冠言葉はつくのだが…… それはそれとして、例えば対地ミサイル『ヘルファイア』であればその単発価格は65,000USドルに及ぶのは事実である。成る程、広いアメリカの各所で頻発する事件に軍が尽力するのは効率的ではない。ましてやこんな『原っぱ』だから良いようなものの、都市部で危険な事件が起きれば飽和攻撃も不可能だ。二十一世紀は怪獣だって海を渡ってニューヨークにやってくる時代である。比喩抜きで。 ユーヌの一瞬の沈思黙考に構わず、状況はいよいよ動き出そうとしていた。 ビッグリグはアークを新たな敵――これまでよりも危険な敵と見定め、その巨体を震わせる。 動き出したリベリスタ達に対する怪物が複雑怪奇な可変を見せ、その巨体を人型のロボットに変えた。 「さー、存分にやりましょうか」 対するリベリスタ達もヤル気十分のフランシスカは言うに及ばず、皆それぞれに戦闘態勢を整えている。 「オプ……オプ……まぁ、名前なんて如何でもいっか!」 口の中で己が疑問を呟き続けていた『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)が頭を振った。 「どうせこれからスクラップにするんだし――U.S.ARMY? お呼びじゃないね!」 赤伯爵、そして黒男爵(ベリアルとネビロス)。鎖で繋がれた双剣を鳴らした彼女は少女のなりで危険な微笑を浮かべている。面子は何れも経験十分、事ここに到れば軍の出番等作ろう心算も無い。 「オレはフツ、アークの焦燥院フツだ。お前さん、名前は?」 『マ、マイケル……ありがとう、少年』 「マイケルか! ヨロシクな!」 折り目正しい『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)とのやり取りの一方で、 『任務御苦労。もう結構だ、後は此方が管轄する』 『う、しかし……』 『理解したら口でクソたれる前と後に“サー”と言え!』 『イエッサー!』 いまいち押しに弱いアウトボットの皆さんは何か間違ったものを参考にしたらしい灯璃に圧倒されている。 おおおおおおおお……! 咆哮を上げ跳んだロボットに地面が揺れる。 魔槍深緋を構え、サングラス越しに逆光の怪物を見上げたフツが不敵に笑った。 「いいね、そうこなくっちゃだ」 口元を歪めた彼は自信満々に言い切ったのだ。 何て言うか基本を抑えた、でもそれを言うとフラグになるような…… いい結果を招いた試しが余り記憶に無いような…… 「――オレにいい考えがある!」←坊主 「ちなみにオレにもいい考えがある!」←たらし ああああああ、言っちゃった! ●ロボットバトル 「大丈夫?」 『あ、ああ……すまない……君は日本のリベリスタか?』 「助けに来たから……ううん、一緒にがんばろ?」 手早いアリステアの手当てに倒れたアウトボットの一人がヨロヨロと立ち上がった。 「よーし、その意気だよ!」 ホーリーメイガスとして場を支える彼女の仕事は毎度ながら簡単なものではない。 最も倒されてはいけない存在は、最も重要な仕事を持つ要である事と同意なのだから。 展開した前衛と敵との距離を測り、最適な位置取りを心がける少女は実に戦い慣れていた。 「さて防水性は万全か? 壊れるガラクタなら楽で良い。 いや、古いポンコツは水に強いか。全く、丈夫で良いことだな――?」 口元に浮かぶは嘲笑。 普通の少女を自称するユーヌは時に誰よりも超然としている。 彼女の白魚のように細い指先が素早く正確な符術を組めば、圧倒的な何かの気配が舞い降りる。 荒野には似つかわしくない激流の如き水気が戦場を押し潰すように敵の領域で荒れ狂う。 「そういえば、テレビも昔のものの方が頑丈だ」 かくて始まった戦いは予想通り熾烈な展開を迎えていた。 荒野の真ん中で起きる人外決戦は誰の目を憚る事も無く強烈な乱戦・削り合いの様相を呈していた。ユーヌをはじめとしたリベリスタ達はこんなものとは長く付き合う理由も無いと猛烈な攻撃を仕掛けるが、敵側も一筋縄でいく存在ではない。ロボットの背負ったコンテナから出現したバイク型エリューションの数は実に数十以上に及び、物量で彼等を脅かさんとしていた。 「さあ、戦いだ!」 気合を吐いた風斗は分かり易く正面から威風堂々とした敵に望む所といった風。 敵の数と首魁の威圧から必然的に乱戦めいた戦場は混沌の様を見せている。 ロボットを叩けば話は早いが、生半可な攻撃でそれを制圧する事は叶わない。 戦場に散らされたバイク(プレッシャー)を捨て置けば不測の事態さえ否めまい。 「やれやれだ。流石に簡単にはいかないな――」 だが、果敢に飛び掛ってきたそれにすかさず対応したのは前衛に陣取った劫であった。 圧倒的なスピードから多数の幻影を展開し、神速の突きをもってこれを叩く。 華麗流麗なる動きで敵を捉えた彼の目が細くなった。 「只でさえ数が多いんだ、こっちも頭使って戦わないとな!」 「そういう事!」 声を張った劫に応えたのは、黒色の羽を広げたフランシスカ。 地面を滑るように低空で飛ぶ彼女は黒き剣を携えた戦乙女のようである。少女の美貌には些か不似合いなる無骨な得物はかのバイデンの戦士『アヴァラ』の用いた巨獣の骨である。 大振りの得物を自在に使いこなす事実そのものが華奢なる外見のイメージを嘘に変えている。 「集団相手ならこちとら慣れっこよ! 纏めて全部――薙ぎ払ってあげる。 ――道を空けろ! 黒き風車のお通りだ!」 フランシスカより迸る漆黒のオーラが夜の闇より尚深く敵複数を撃ち抜いた。 反動に小さな身体がやや傾ぐが放たれた威力はその十倍も敵を蝕む。 猛烈に前方を攻め立てたフランシスカの射線の上に白い羽が一枚舞い落ちた。 「――灯璃はこっち!」 戦場を舞うのは黒(フランシスカ)のみに非ず。 戦場を舞う白(あかり)は露払いを受け持った彼女とは対照的に『コンボイ』のみを目指していた。 速度も動き出しもほぼ同時。連携良く飛び出した灯璃は一気にそれに肉薄し、至上の呪いを帯びた終の刃を容赦無くそのボディに突き立てた。 「かったいなぁ! もう!」 一撃と共に身を翻し、少しだけ距離を取った彼女が声を上げる。 正確かつ威力に優れた奈落の剣技はコンボイのボディを削ったが、それの頑健さはまさに折り紙つきである。 ダメージに怒り狂ったそれが一度暴れ出せば衝撃がテキサスの大地を駆け抜ける。 砕け散ったアスファルトの破片が宙を舞えば、紙一重素晴らしい反応で豪腕を避けた灯璃が薄く笑む。 「エンジンをオーバーヒートさせてやるぜ。焼き尽くせ、深緋!」 フツの朱槍より火炎の神獣が顕現した。 彼の大きな構え、槍捌きを受けて空を一度旋回した符術・朱雀はその直後には猛烈な勢いで範囲の敵を業火地獄へと叩き込んだ。 (コイツを逃がさないようにしないとな……!) 火炎に咽ぶ敵を油断無く見据えたフツは『それ』がこの現場を抜けた時の危険性を良く理解している。コンボイはロボットであり、暴走トレーラーである。戦闘力では現状の方が上だろうが、突破力ではトレーラーモードが勝るだろう。それを遅らせる楔を打つのは彼の呪術の封縛という訳だ。 同時に自軍の回復コンテナとも言える彼のバックパックに侵入出来れば別のチャンスも広がるか。本家本元の『いい考え』はある種のフラグだが、坊主は二の舞を踏む心算は無いようだ。 火炎を繰るのは彼だけではない。 「デカブツ。撃ってるだけじゃ私らは潰せないぞ」 彼が陰陽の秘術で火を操るならば、杏樹の頼むのは古代インドの文献に記された『伝説』である。 敵側のバイクの『修復』方法は読めないが、全て焼き尽くしてしまえば同じ事である。 多数の敵を一度に焼き払うという意味で、彼女のバーニーが吐き出した火の魔弾も十分な威力を持っていた。 「私の射程に居る限り、一体だって逃さない――」 傲慢にも響く断言は彼女の矜持であり、誇りでもある。 二重に紡がれた炎が織り成す火の壁を敵の巨体が割って抜ける。 「臆したかコンボイ! 一軍を率いるリーダーが、仲間の後ろで怯えているだけか! 腰抜けめ!」 一方、パワー勝負と言えば譲れないのはデュランダルの風斗も同じである。 挑発めいた言葉にコンボイが怒りの気配を漂わせた。彼の『的確』な指示により混乱をきたすバイク軍団の合間を抜けて風斗が走る。素晴らしい跳躍を見せた風斗はコンボイの巨体の肩口から手にしたデュランダルを叩きつけた。 「スクラップにしてやろう――!」 爆発的な破壊力は少年の全身の膂力を究極までに引き出した自身最高の打ち込みである。 ややよろめいたコンボイが態勢を立て直す。数を頼みにした敵が暴力的に暴れ出せばリベリスタ陣営も少なからぬダメージを負い始める。 「雑多でゴミのようだな? 綺麗さっぱり屑鉄だ。荒野で赤錆消え果てろ」 鼻で笑ったユーヌが反撃と共に冷淡な言葉をお見舞いした。 敵の注目を自身に引き付けた彼女は持ち前の身のこなしでこれを翻弄する。 コンボイに打撃を集中する、或いはバイクをより効率的に破壊出来るチャンスを作り出した彼女に応え、劫が、フランシスカが、風斗、灯璃等が更に攻勢を強めていく。 「そこだ」 徐々に力を増すそれを牽制するように放たれた杏樹の精密な一撃は特に深く突き刺さる。 「頑張るから――!」 アリステアからすれば仕事はここからである。 「しぶといのがこっちのリベリスタのお家芸なんだろ? 頑張って貰おうじゃないか」 『任せておけ!』 劫の発破に威勢だけはいいアウトボットが胸を張った。 ●チェイス 「カーチェイス? なのかなこれも」 「さあな。何れにせよ、破壊すればそれで終わりだ」 「それって……きゃあ――ッ!?」 ユーヌに応えたアリステアの言葉が荒っぽい運転を受けて悲鳴に変わった。 道路のアスファルトをめくり上げながら巨大なトレーラーが爆走している。 アークのリベリスタ達の連携の良い動きは単純な強靭さでは彼等を上回るコンボイさえ圧倒し始めていた。状態異常の回復や些細な回復、後衛の防御等『弱いなりに出来る範囲で』働いたアウトボットの後押しも受けた彼等は戦況を押し始め、やがて敵側を逃走させるに到ったのである。 「追いかけっこは嫌いじゃないぜ、もっと言えば乗り物なんかじゃなく生身だったら最高だけどな」 「運転は頼んだぜ! ……出来るだけ安全運転でな!」 『おう、任せとけ!』 劫とフツの言葉に短期間でやけに打ち解けたアウトボット(マイケル)が応える。 この場に乗りつけた荷台開放型のトラックが今度はトレーラーを追撃する為の足になっている。猛烈なスピードで爆走するトレーラーだが、フツの呪印封縛をはじめとした妨害にその足色は初期よりも鈍っていた。 「今更逃がす訳無いでしょ――」 二台の灯璃が敵を見据える。 「――ズタズタに切り裂いてあげる!」 ぐん、と伸びた常闇の気配がビッグリグの車輪を幾つか捉えた。 バランスを崩し、減速したそれの隙を杏樹は見逃さない。 「今だ!」 自身を含め攻撃を束ねたこの好機に杏樹の鋭い声が上がった。 随分粘られたが追い込むならここしかない。 「アウトボット、アタックだ!」 『おう!』 チェイスを始めて幾ばくか。 風斗に応える声と共にアクセルを踏み込んだトラックが急加速する。 千載一遇のチャンスはリベリスタ達にとっては勝負を決めにいく重要な局面だ。 「さぁ、ボス狩りの時間だ。簡単に倒れないでね?とことん悪足掻きして頂戴!」 ビッグリグに併走するトラック。荷台より飛翔したフランシスカが零距離でソウルバーンを『ぶっ放す』。 「デカイやつは懐に入るのが基本だよな!」 ビッグリグのコンテナの背中に深緋を突き刺したフツが肉薄にかかった。 抜群の集中力から連続攻撃に出たアークの面々は決定的な勝機を逃さない。 風斗が幾度目か力を振り絞るようにデュランダルを振りかぶった。 鉄を切り裂く感触が、硬いものを叩き割る鈍い抵抗がその両手に圧し掛かる。 「うおおおおおおおおおお――ッ!」 裂帛の気合はそれら全てを振り切って強大なそれの中核へと致命の一撃を届かせた。 爆発、そして爆風。肉薄したリベリスタが間一髪離脱し、煽られたトラックがヨロヨロと揺られて道路のコースの外に出た。 辛うじて態勢を立て直したマイケルが一つ嘆息する。 戦いは、終わったのだ。 「折角のアメリカだしな、これから観光する間くらいありゃ良いが……」 「そう言えば、これって……軍の上層部さんに褒めて貰えるのかな? ダンディなおじさま。ご挨拶できるかなぁ…… じゃなくて。リベリスタの地位向上の為にも良かったよね」 (……怪我は……無いか) 人心地つき、思わず本音が漏れる劫やアリステア、思わず彼女の様子を確認して『内心だけで安堵する』フランシスカの一方で、 『負け犬共を鍛え直そう。手始めにハイウェイマラソンだ! 走れ、(ピー)野郎共!!!』 『ヒィ!』 やはり、おかしな影響の残ったままの灯璃に追い回されるアウトボットの受難は終わりそうもなかったが…… |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|