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糖分騙るしす

●ビコーズオブ膨張
 3月も半ばとはいえ、こうも遅くなれば気温も低いものだ。
 今朝方の出掛けには厚着が過ぎたのではないかと悔やんだものだが。成る程、どうやら確信というものも先には立たないらしい。
 とは言え、寒い中で延々と立ち往生する趣味もない。自然と足早に、身体は家路を辿っていた。
 暗い。誰もいない。人気がない。しんしんと。寒い。嗚呼、陳腐な恐怖映画の脇役のようだ。そんな妄想をしてしまう。ああいうものは、ああいうやつらは、こんなところを狙うのだろう。どうせ生命を奪い去ってしまうくせに。驚かせて。弄んで。恐怖感情には香辛料でも詰まっているのだろうか。
 なんでもない、怪訝な様子。そんな相反の状況から、心を掴み引きちぎるのだ。そうだ、歌でも歌いながら。例えば。こんな。

 おいでまし おいでまし
 ふくれあがるおおきみさま
 かかわらいけたたまし
 いくねんせんしゅうぶりの
 まだらもじをこじあけて

 びくり、と身体が反応する。
 ああ嫌だ。それを見た、否、影ばかりで見やることもできぬ間からそう思った。これはきっと嫌なものだ。否否。馬鹿馬鹿しいと、即座に思考を掻き消した。こんなことを考えていたせいだ。それが恐ろしいなどと考えるのは。
 影は小さい。きっと子供だ。子供が歌っている。それだけだ。例え今が日も変わる寸前の時刻であろうと、近くに公園もないのに子供が一人であろうと。何か理由があるに違いない。おかしいことは何もない。だからだからそうではなくあっておくれ。私の足よ、前に行かないでおくれ。
 懇願は虚しい。子供の影は徐々に明らかになっていく。視認できる距離になって、口から引きつった呼吸が漏れた。
 子供。子供だ。それは着物姿の子供だった。どこもおかしいことはない。眼球が見当たらない。嘘だ。唇が顔のほとんどを占めるほど大きい。見間違いだ。あまつさえ、巨大な眼球を手毬のようについている。ありえない。
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。不快なバウンド音。目を離すことができない。この降って湧いた、ビデオテープの途中から別の映画を録画したかのような不自然さに目を離すことができない。
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。ぐちゃり。眼球が、アスファルトと圧力に挟まれて潰れた音。現実感がない。なんだ。そもそも、目玉ってあんなに跳ねるのか。
 子供がこちらを向く。否、正確にはこちらの眼球を向いている。視線はないが、眼窩もないが、それが嫌というほどよく分かる。
 私はへたり込む。ああなんてこと。これでは丁度、あんなくらいの子供でも私の頭に手が届いてしまう。動けない。
 手を伸ばされる。目に触れられるのだ。そう思うと、自然。怖くて瞼を閉じた。その上を何かが触る。きっと指だ。何の温かみもない。抉られるのだろうか。痛みの予想に歯を食いしばったが、訪れたのはまず不快感だった。重い重い万力みたいな頭痛。違う。間違えている。万力というものは締め付けるものだ。これは違う。これは、押し広げられている。
 続く痛みに悲鳴をあげた。ああ、ああ。これは、ああ。眼球が膨らんでいる。私の目が、私の目が鼻骨を頬骨を押し潰して膨張している。ああよく見える。だってもう瞼が張り裂けたから。ああ思考が薄れていく。だって脳が潰れていっているから。
 私が潰れていく。私が眼球だけになっていく。片方だけの球体になっていく。
 頭部が眼球と取って代わるほんの少しの間。小さい地獄。その最後に、「妄想なんてしなければよかった」なんて見当違いのことを考えていた。

 新しい毬を手に入れた子供は、それをまたついて遊びはじめた。
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。
「おいでまし、おいでまし」
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。
「ふくれあがるおおきみさま」
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。
「かかわらいけたたまし」
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。
「いくねんせんしゅうぶりの」
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。
「まだらもじをこじあけて」
 ぐっちゃ。ぐっちゃ。ぐちゃり。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月04日(金)22:35
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

人に危害を加えるアザーバイドが出現しました。
被害が増える前に解決をお願いします。

●球体壱號
 便宜的にこちら側で名づけたものであるため、正式な名称ではありません。顔に目に当たるパーツがなく、顔のほとんどを占める大きな口が特徴的な少年の姿をしたアザーバイドです。
 眼球を手毬のようについて遊ぶ姿で目撃されており、通りかかったヒトの眼球を膨張させて新しい毬に変えるようです。このことから、対象を膨れ上がらせる能力を持っているようですが、それが眼球だけに働くのか、それとも他の、さすればどこまでの範囲に適用されるものなのかは定かではありません。
 また、同じ歌を繰り返し口ずさんでいますが、これにも意味があるのか詳細は不明です。
 繰り返し殺人を行っている割に、複数の対象を同時に狙わないことから、驚異的な運動性、多数への破壊性能を持つことはないと推測されます。

●シチュエーション
 深夜帯に住宅地付近で出現します。街灯の有無はまばらであり、照明がなければ通常行動に支障をきたすこともあるでしょう。また、そんな場所でも毬をついていたことから、敵側に明暗のペナルティはないと考えられます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアススターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
ビーストハーフマグメイガス
音更 鬱穂(BNE001949)
アークエンジェソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
ジーニアスマグメイガス
首藤・存人(BNE003547)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ハイジーニアスレイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
ハイジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)
ヴァンパイアダークナイト
七海 紫月(BNE004712)

●テンプレート人生喝采
 朗報です。朗報なのでございます。ついにお目覚めに、お目覚めになられるのです。奥方様も心待ちにしておられました。嗚呼。嗚呼。こうしているわけにはまいりませぬ。祝を。祝いの宴を儲けなければ。大君様のお目覚めに相応しい祝いの宴を儲けねばなりませぬ。

 怪談。と言えばまあ時期はずれであることは否めない。寒風も失せてきたとはいえ、季節はまだ春の真っ盛りである。冷気を起こすために奇々怪々な話に耳を躍らせるよりも、今は大人しく鮮やかな花を愛でたいものだ。
 しかし、それら側からすれば関係が無いとも言える。虫ではないのだ。渡り鳥ではないのだ。生存できる瞬間を四季変化に定められて収まるはずもない。まして、この世界とも異なれば尚更である。
「顔に口だけとは、何とも不気味な相手ですが。確か怪談で、そんな妖怪が居たような気がしますのう」
 毎度、自分の方が妖怪じみた姿で『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は呟いた。なんだったか、どうだったか。そのさかしまで、瞳だけであるというならば、些かメジャーではあるものの。
「ひょっとしたら、今回の依頼の様な存在が、過去に居たのかもしれませんな」
 そう例えば、同じものを示唆する警告のような某かがあったのだとすれば。
 眼球の無い化け物が、ひとのそれを毬にして。遊ぶ。
「身の毛もよだつような不気味さが……」
 これが創作であったなら、楽しめたものをと『ネガネガ』音更 鬱穂(BNE001949)は身を震わせる。恐ろしいと思う傍ら、彼女もプロだ。思考は敵対するそれの探りへと向かっている。歌。眼球。膨張。何を現しているのか。何を意味しているのか。現状では、何も浮かびはしないが。
「リアルで怖いのは勘弁です……!! は、早く倒して帰りましょう」
「……ただの子供なら嫌いではないのだけど」
 悪戯で済まぬ。そんな悪童を見るような眼で『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は言う。毬をつく。ひとの眼球で、毬をつく。潰しては取り替え。取り替えては潰し。まるで、ではなく。まさしく、ひとのそれをおもちゃにして、遊んで。弄んで。
「冗談じゃないわ」
 迷う要素はない。それに共感できることなどないのだ。いつもどおりやろう、それがなんであろうとも。
 ひとの眼球を、毬に変えて。おもちゃに変えて、毬遊び。
「楽しそうですね、何がしたいのでしょうね」
 その行為。一連のそれに理屈を考えてみるが、『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)はかぶりを振った。
「理解なんて求めても無駄なんでしょうけど、此の手のものは。新しい鞠を手に入れたなら、じゃあ古い鞠は? 考えても無意味ですか」
 きっと潰れている。ぐっちゃと、ぐちゃりと。きっと潰れて、毬でさえもなくなっている。
「ただの手毬唄を諳んじる少年であれば良かったのだけれどね……少しばかり血なまぐさ過ぎだな」
『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は歌の意味を考える。おいでまし、おいでまし、膨れ上がる大王様。あたりだろうか、字面にそのまま当てはめるとすれば。そこにどのような意味があるのやら。何か手がかりになるかもしれない。殺し合いの傍ら、心を繋いで覗きこんでしまおうか。少なくとも、自分に失うものはないのだし。
「確かに、これは嫌なもの以外の何者でもありませんね。人の眼球を肥大化させ、蹴鞠のようについて遊んでいる等と……」
 まさかこれを、気持ちのよいものと取り立てる馬鹿はおるまいと『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)。いや、広い世の中そう言った異常異端もいないとは言い切れないが。
「アレが何の為にこの世界に来たのかは分かりませんが、これ以上大きな被害が出ない内に私達の世界から退場を願いましょうか」
「ヒトの目玉をえぐって、それで遊ぶ化物。そうする必要があるのか、愉しんでるだけか。どっちにしても、放っておくわけにはいかないね」
『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は独りごちる。嗚呼、今自分は笑っているのだなあと。こんなにも普通のことを言っているのに。
「これ以上無いってくらいのひとでなし。怖くて、楽しみで、とってもゾクゾクしてくるよ」
 だから、奪おう。生命を、食らってしまおう。手を、合わせてください。
「イタダキマス」
「本当にアザーバイドというのはいろいろな種類が居ますわねぇ。眼球で手毬なんて考えただけでもイヤですわ、おぞましい」
『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)の言うように、考えるのもおぞましい。いや、きっと考えようともしないのが大多数なのだろう。眼球で、遊ぶ、子供。痛々しさと気味の悪さを混ぜてそのままにしたかのような。実に気分を害する、それ。
「子供の姿をしているとはいえ手心は禁物、ですわね」
 さて。そろそろ予定時刻である。出発前に合わせた時計の秒針が、丁度12を通り過ぎた。
 夜が濃くなったように感じるのは錯覚だ。春の暖かさが消え失せたかのように感じるのは幻だ。しかしそれでも、この向こうに確かとそれはいるのだ。
 さて、季節外れの怪談を始めよう。

●フェイストゥフェイス鏡向こう
 準備を、準備を。時間とは有限でございます。我々のチャンネルでは未だ第五壁を突破することかなわぬのでありますから。それではこれにて失礼致しまする。彼の地に絨毯を敷き詰める為、使いに出てまいりませぬと。嗚呼、誰ぞ。誰ぞ。目覚めなさい。これが我々の本懐なのですから。

 この小さな怪物を前にして、ひとつだけ気づいたことがある。容姿に関することではない。ずっとずっと繰り返している、この耳障りな歌のことでもない。
 自分の足のことだ。これを視認してから、意識してから。どうにも身体の不調を感じていたのだが。どうやら、足が後ろへは進めないようだ。いや、進めないわけではない。だが、後退という行為にひどく重圧がかかっていた。
 なるほど、彼女が逃げられなかったのはこれか。ブリーフィングルームでの映像。あの名前も知らない彼女が、どうして逃げられなかったのか合点がいく。
 意識していなければ足は前を向き、意識しても後ろへは鈍重。
 念のため、仲間にも声をかける。皆、同じような面持ちで頷いた。嗚呼、面倒そうだと。

●ロケンロール後日談
 相も変わらず悪臭であります。おお、なんと鼻の曲がる。されど満たされる思いの前にはこの苦痛も悦楽が前の食前酒に等しい物でありましょう。私、私、最早歓喜に咽び歌わずにはおれませぬ。

「どうせ膨張させるなら、身長でも増やしてくれないかしら」
 流石、長年ロリやってると言うことが違う。冗談はさておき、エレオノーラはアザーバイドへと肉薄していた。この距離まで詰めてしまうと下がることもままならないが、その必要はない。彼女の役割はこの位置だ。
 ちらりと視線をやると、先程よりほんの少しだが後衛の味方が近づいてきていた。敵の能力だろう。後ろに下がることが困難なのである。素早く勝負をつける必要があった。
「貴方、お話はできる?」
 ただの興味本位だ。意思疎通の有無は戦闘続行に影響を及ぼさない。
「かかわらいけたたまし」
 答えはない。不可能なのか。そのつもりがないのか。それでもひとつ、わかったことがある。切りつけたナイフは刃こぼれひとつ起こさず、代わり、握る指の一本が膨れ上がっていた。どうやら無機物には影響を及ぼさず、また間接的な接触でもいいらしい。
「悪いけど、貴方はこの世界で歓迎されない」
 斬りつける。血液なのだろう。タールようなものが吹きこぼれた。

「人の目を肥大化させて頭を破裂させた上に、それを鞠にして遊ぶとはとんでもない奴ですな。牛の目を上げるから、それで我慢してくれませんかのう?」
 九十九の発するこれも、冗談のようなものだ。端から、説得や口車で解決できる問題などと思ってはいない。その証拠に、言葉と同時に重厚が火を噴いていた。
「まあ、代替品で満足するなら、最初から人を狙ったりなんかしませんよな」
 肩、口、胸、足、腕、掌。有効点を探そうと、撃つ、撃つ。
「しかし、勿体無い話ではありますよな」
 それどころではない話を、まるでスケールの小さいかのように彼は言う。
「目というのは大抵二個有るのに。一個取り出す為に残りを駄目にしてます。取っておけば、後で使えると思うんですが、所詮は使い捨ての遊び道具。そんな手間をかけるのも面倒ってことなんですかのう?」
 まったく怖い話ですよなーと、言いはするものの。
「まあ、撃つのには関係ない話ですが」
 やはり、事もなさ気に、そんなふうに彼は言うのだ。

 それを理解できるのか。遥紀が観察し、自分の記憶に潜り込んだところで、その回答は否であった。人間は、人間から離れたものほど説明がつかない。自分のことほどわからないというのはまやかしである。当然、自分でないほどわからないに決まっているのだから。例えばそう、この右目眼球が膨れ上がり左目を頭蓋から零して脳すらも骨を砕きながらみちみちと圧迫し全てが真っ赤に染まっていく感触など痛いかんか感覚などり理解でききない。
 痛い痛いなんだこれ痛いいや痛くなくなってきた意識が赤から黒へずっと落ちていくような待ってそれは―――。
 どっと、冷や汗が流れた。呼吸が荒い。なんとか、ぎりぎりで、すんでのところで。間に合ったのだろう。自分の未来を消費して現在の継続に対して支払いを行う革醒者の特権。重い体を引きずって後ろに下がる。本当に、忌々しいほど足が鈍い。
 少しは距離が離れたかと見上げれば、小さな子供が自分を見下ろしているところだった。

 怪我を負った仲間を下がらせたいものの、早急に行うことは難しい。後退して回復し、前線に復帰する。戦闘中にいつも行うはずのそれが今日は非常に緩慢であるのだ。結果として、矢面に立ったミリィの時間は思った以上に長いものとなった。
 故に。
 掴まれた腕が膨張する。膨らんで。泡のようにではなく、肉団子のように膨らんだ。骨を潰し、血管を破る酷い痛みに思わず歯を食いしばる。
 悲鳴は上げない。上げれば戦意を失う。一度失ったコンディションは短い戦闘中に取り戻せはしない。
 触れられてはいけない。この接近距離で、仲間が戻ってくる時間を稼ぐために。突き出される幼い手を避けて、避けて、避けて、首を、掴まれた。
 先程も体感した、膨れ上がる違和感。首。思わず、頭ごとひしゃげる自分を想像する。背中に冷たいもの。怖気。それでも思考がクリアなのは、戦術家としての役割故か。意識が消え去る前に特権を行使し、既、戦線の維持に成功する。
「私達は貴方の様な存在の遊び道具では無いのですよ」

 正直なところ、存人にはあまり余裕が無い。
 敵の能力が苛烈なのである。打ちどころ次第で、一気に生命危機のレベルにまでもっていく膨張攻撃。さほど動きの早い敵では無いため、連続性を伴わないのが救いではあるものの。存人が回復以外にかまけていられる余裕もなかった。
「おいでまし、おいでまし」
 まただ。また歌っている。いや、ずっと歌っているのか。口だけの顔で、顔にそれしか無い口で。何度も何度も歌っている。
 ふくれあがるおおきみさま。
「何かを呼んでいますか」
 かかわらいけたたまし。
「何の童歌ですか」
 いくねんせんしゅうぶりの。
「口があるだけでは喋るだけで聞けませんか」
 まだらもじをこじあけて。
「……何故此処に居ますか」
 一瞬。一瞬だけのことではあるが。それと目があったような気がした。いや、おかしな表現だ。これに目などはない。だが、それでも、視線が合ったような気がしたのだ。
 それは確かに笑っていて、いや、嘲りではなく。
 まるで歓喜に打ち震えているかのような。

 それは何度目か。
 こちらの顔を狙い手を伸ばすその童子から、紫月は腕を交差することで眼球を庇い、その痛みをそのまま呪いへと変えて焼きつける。
 連撃、といきたいところだが。激痛に一瞬の硬直。声なき悲鳴。噛み締めすぎて奥歯が痛い。不格好膨れひしゃげた自分の両腕。急ぎ癒やせば、ビデオテープの巻き戻しみたいな自分のそれが正常さを取り戻していく。
 呼吸の乱れを直している暇はない。ここは文字通り敵前。戦闘の緊張を緩和することは許されない。
「この手の手合いには何が目的、と尋ねるのは愚問でしょうか」
 聞いているのか、いないのか。相変わらず歌っている。歌って、目玉を取ろうと襲ってくる。
「貴方のそれは奪って遊ぶものではありませんよ。奪った瞳で目のない貴方はどんな景色を見ているんでしょうね? それとも、奪うことに何か意味があるのですか?」
 痛みは熱量だ。苦痛こそ生存の妙だ。ぶつける呪いは、それを謳歌している。
「わたくしの瞳はわたくしのもの、差し上げる理由はありませんわね」

 鬱穂の術法が、童子姿のアザーバイドを撃ち爆ぜる。
 射出。投擲。発射。着弾。着弾。着弾。
 あと何発打ち込めるのか。それを数値に置き換え、計算する。
 嗚呼もう、残りは少ない。もうじきにガス欠だ。しかし、敵も綽々とはいかぬようであった。
 傷ついている。ダメージを負っている。それは確かだ。その証明に最早足取りはおぼつかず、動きも散漫になってきていた。
 向こうも限界が近いのだ。だが、何かが足らぬ。決定打。そう言える、勝負を殺し合いを生存戦争を終える何かが。
 このままどちらかの底が尽きるまでやりあえば、例え勝利できたとしても被害は甚大である。少なくとも、こちらはもうふたりは倒れている。このまま悪戯に消耗し続けるような真似は避けたいところだが。
 紡ぐ。狙う。生み出す。これが底の一発。これで終えねば、血みどろに殴りあうか。
 射出。命中を確認。手応えはあった。だが、これでもまだ倒れてはいまい。杖を握る手に力がこもる。このまま闘争を、続けていて良いものか。

「……見えないし、膨れるし、すっごく邪魔!」
 膨れ上がり、他を押しつぶそうとする自らの眼球を、真咲は掴み・引きちぎり・目前のアザーバイドへと投げつけた。この距離だ。あたりはするものの威力は出ない。元より、ただの眼球にそんな付随効果などないが。恐ろしい痛みであろうに。異常に自分の多大で塗りつぶすような行為。その中でも、彼女は笑っている。
「うわ、何にも見えなくなっちゃった!?」
 ブラックアウト。残った、無事だったそれも触れられたのだ。何も見えない。明るさを感じることのない暗闇。それでも彼女は止まらない。痛みもあろう、恐怖もあろう。
 それでも自分を害した腕を掴み、しがみつき。
 切りつけて。
 膨れ上がりながら。
 将来性をかなぐり捨て。
 復活した両の目は喜悦に歪んでおり。
 振り下ろされる刃は自他の体液に塗れ。
 痛みは香辛料になって脳の麻薬を叩き起こし。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 ―――気がつけば。
「ゴチソウサマ…………ああ、とても怖かった」
 彼女だけが、立っていた。

●ヒーローズ舞台裏
 嗚呼、大君様。大君様の為になせた。働けた。生命を賭すことができた。なんという感激。素晴らしい。だが残念であるのは、残念でなりませぬは、大君様の御顔をこの目で拝顔できぬことでありましょうか。嗚呼、皆々様。誰ぞ。誰ぞ。まだ準備は終わっておりませぬ。後は任せ申しましたぞ。加瀬丸殿。

 戦闘の終了。依頼の達成を報告したところで、全員が一息ついた。
 それが幸いであるのかはまだわからないが、死体が溶けたり霧になって失せてしまうようなことはなかった。
 アーク内の誰かがこれを回収し、解析するのだろう。そこまでは自分達の仕事ではない。
 帰路へと意識を向ける。癒やしきれぬほど傷を受けた仲間も居るのだ。早く措置を施さねば、生命に関わることもあるだろう。
 何か違和感を感じて、天を仰いだ。星のない暗闇。違和感は実感に変わる。小雨降り。風邪を引く程ではなく。汗にべたついたなかでは、どことなく心地よいものだった。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おおきみさま、おおきみさま。