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太陽と水の恵み。いい感じに日向燗。


「とある滝で水を汲んで、持って帰ってくるお仕事です」
『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、一応言っておきますが。
「本案件、未成年と下戸の人は止めませんが、芳香がものすごくて酔っ払う可能性があるので、自分でそれなりに対策してね」
 そういった途端、目の色が変わる人種がいる。
 とある種類の微生物の呼吸活動とその結果を愛している人達だ。
「そ、その滝と言うのは、もしや――」
 重々しく四門は頷く。
「養老の滝です。とある場所が特定できました」
 滝じゃ滝じゃ、御酒が降ってきますぞえ。
 ヒャッハー。
 なぜか、四門も万歳している。あれ? お前20歳前だろ。
「俺、親がフランス人だからフランス国籍持ってんだよね。そして、フランス人の飲酒可能年齢は16歳です!」
 血はワインで出来ている!
 ……まぁ、実際の所、日本で呑むかどうかは教育的指導とかで別問題だが。
 日本にいるときは、どこの国の子も、お酒は20歳になってから。
 人目のある所では、外見年齢適用ですよ。
 みんなのお約束です。アーク本部より。 

「通常は普通の水なんだけど、色々要因が組み合わされると川の水がかぐわしいお酒に変化する」
 不老長寿の元だの、万病に効く妙薬だの、回春だの色々言い伝えはあるけれど。
「今回は採取と環境のチェックだけ。金の卵を産む雌鳥の腹を割くようなことはしない」
 変化周期とかも観察したいしね。と、四門は言う。
「だから、周辺の環境を破壊しないでね。そして――」
 机の上には折りたたみの液体タンク。
「遮光性に優れ、味や品質を横ねない特殊素材を使用しております」
「こぼさないように注意して、くんできてね」
 渡されたのは、漏斗にひしゃく。
「それから。ちょっとくらい飲むのは構わないけど、飲みすぎると赤ん坊になったりっていう昔話もあるくらいだから、自己責任でよろしくね」
 8分の3フランス人の顔には、「ちょっと位なめて、何らかの変化にあってくんないかな。血液とか採取したい」と、ありありと書いてあった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月04日(金)22:34
田奈です。
 いや、チョコレートファウンテン見てたらですね。
 という訳で、酒の滝ですよ。
 
 E・ゴーレム(?)『養老の滝』
 *アーティファクトなのか、気候なのか、星辰なのか、岩の配置なのか、なんらか数神秘の賜物なのかさっぱり分からないけれど、まったく不定期(と思われる)周期で、滝の水が酒に変わります。
 *滝自体はそんなに大きくありません。落差3メートル。幅1・5メートル。
 *滝壺は非常に深いです。
 *下流に流れていく水は、なぜか水です。神秘。

 流れてくる液体のようななにか。
 *甘くていい匂い。色は、金色がかってる。とろりとしている。
 *味もとろりとしている。おなかがじんわりしてくる。
 *なめた場合、WP判定し、失敗の度合いでどのくらい飲んだか算出します。
 *一定条件を満たした場合、「酩酊表」 を適応します。
  酔いが醒めれば、(遅くとも帰りの時間までには)戻ります。
  
 漏斗、柄杓
*ホームセンターで売っている普通のものです。

 タンク
*信頼のアーク印ですので、漏れたり、品質劣化の恐れはありません。
*「任務を遂行する」と、六人書いていれば成功です。

 条件
*天候は、日向ぼっこ日和。
*人目のない山の中です。皆さんには、過酷なハイキングをしてもらいますが、今回そこの描写は気持ちよくカットします。ですが、回想するのを止めはいたしません。
 滝に到達したところからスタートです。

*未成年者の飲酒はいけません。
 滝つぼの傍ににおいしい湧き水があるから、おいしいお茶を入れるといいんじゃないかな。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ビーストハーフデュランダル
卜部 冬路(BNE000992)
ジーニアスクロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
フライエンジェレイザータクト
毛瀬・小五郎(BNE003953)
メタルフレームスターサジタリー
小島 ヒロ子(BNE004871)


 送迎のワゴン車は躁気味のリベリスタを乗せている。
「何この素晴らしい仕事! 酒飲んだ上にお給料貰えるって……何? そんな上手い話あっていいの? ありがとうございます! マジでアークに就職して良かった!」
 メタルの右目を輝かせ、花曇の空に叫ぶ小島 ヒロ子(BNE004871)さんを、『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)が、生温かい目で見てる。彼は、今までそう叫ぶ新人リベリスタを山のように見てきた。そう、簡単なお仕事で。
「たとえ簡単なお仕事であっても、頑張るのがミラクルナイチンゲールの努めです。『任務を遂行』 いたします!」
 そんな智夫の肩を叩いて、首を横に振る別働班のお姉さん。
「えっ? 簡単なお仕事じゃ、ない……!?」
 愕然とするミラクルナイチンゲール。
 えっと。とりあえず、リベリスタの損耗率が低いお仕事です。
 社会的フェイト除く。


 登山家は、そこに山があるから登ると言う。
 酒飲みは、そこに酒があるから呑むのだという。
 この物語は、聞くも涙語るも涙の道なき道を踏破し、うっかり飛んだら棘だらけの潅木につっこんだり、脱走者が自然鍾乳洞に落ちたり、崖から命綱なしで簀巻きでバンジーなんて目に遭いながらも、紙幅が足りなくなりそうだと言うそれだけの理由でその辺をことごとくカットされた、通常依頼ならば3行で終わるエンディングのために死力を尽くした者達に贈る鎮魂の物語である。


「良い鍛錬になった……」
 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は見た目こそ二十歳前だが、後厄通り越したおっさんである。
 心配性の若い恋人が大量に持たせてくれた荷物が、擬似BS「過積載」を引き起こしていたことはスルーされるべき事項である。
(滝の水分を採取する任務……。そうだ、これは滝の水分を採取する任務だ)
 そう。歩くのは手段であって、目的ではない。
(その場で酒を飲めたとしても、あくまで任務に付随した機会であってだな……)
 今更多少の酒でがたがた言うほどカマトトではないが、いかんせん酒乱である。ていうか、飲む気満々の時点でだめじゃん。
「養老の滝という言葉に惹きつけられる物があるのじゃなあ……なにせ歳が歳じゃしの。数えはもう八十じゃ」
『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)の通常時ノーハイライトの目がうるうるとつやめいている。
 別に感情に波があったわけではない。ストレス性の涙である。
 冬の灰色軍服と外套のマントが残雪でじっとり濡れているが、その経緯に関しては冒頭の理由により割愛させてもらう。
 一応隠していたうさ耳を出し、聞こえてくる音に集中する。
 そして、ついに特定したのだ。かすかな滝壺の音を。
「養老の滝か……本当に実在するとは」
『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は、全米が泣く映画・予告編の冒頭カットのような台詞をはいた。
 赤毛のフォーチュナが、「万華鏡つきの俺を信用してよぉっ!」 と、涙ちょちょぎらせる一言である。
(存在自体が神秘である俺達の様な存在がそれを言った所で、お前が言うな、なのだろうが)
 革醒者は、包み隠さず自分の身の上話をすると、一般人に「うっそでー」と言われる。悲しいが、それが現実だ。
「……しかし、リベリスタでも厳しいぐらいの道程だったな。これは見つからん訳だ」
 深化を遂げたリベリスタを絶望に追い込みかけたここまでの道程については、先の理由で割愛する。
『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)、死闘の傷もふさがっていないというのに、踏破してきたのだ。酒のために。涙が禁じえない。
「ちわーす、新田酒店でーす!」
 この呪文さえ唱え、目的と手段に酒さえ絡めば、快は無敵なのだ。
 さて。うっかり柑橘系潅木の棘の餌食になった『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は、カメラ目線でウィンクを決めていた。もちろん、別働班の記録係がふぎゃっと言ったのは言うまでもない。
(普段は子ども達や恋人のジト眼から飲むのを控えていたけれど、此処でなら好きなだけ飲めるんだね……まるで天国の様だ……!)
 子供のいる環境で酔っ払うのって難しい。
『パパ、お酒くさ~い』 とか言われたら、切なさ大爆発だ。
 更に、刺が刺さって、海が割れずに頭が割れてどっかの宗教画みたいになった『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)が、息も絶え絶えにふらふらとやって来る。
「酒が降り注ぐ滝とは良い光景ですな……老骨に鞭打ってここまで来たかいがありましたじゃ……」
 口は動いていたが、「」 ではなく() にするべきではなかろうかと言う周りに聞こえてなさっぷりに僕らは思わず涙する。おじいちゃん、酸素吸入よ!


「…………」
 ちゃぼぼぼ、じょじょじょ~……×100。
 タンクに漏斗を突っ込み、ひしゃくで滝水がたまるのを待ち、こぼさないように入れる。
 何しろ、落下点までは水。滝壺に落ちた時点で水。というのが、地道な味見作業によって確認されてしまったのだ。
 となると、滝壺にタンクをダイブさせていっぱいにし、リベリスタの腕力に任せて引っ張りあげるなんて乱暴な方法は取れないことが判明しちゃったのだ。知りたくなかった。
「滝の水から甘くていい匂いがしたり、水が金色がかった色合いになったりしたら、頃合ってことでしょうか」
 場所が狭くなるので、仮初の翼で飛んでいるミラクルナイチンゲールが鼻を鳴らす。
「しかし……最初から分かっていた事だが、何とも地味な作業だな……」
 拓真の呟きに、皆頷いたら負けだと言う気になる。
 1ターン、待機。その気になれば、同じ時間で辺り一面ぺんぺん草も生えない状態にするなど朝飯前の剛の者が、ひしゃくの先を見つめるばかり。非常に間抜けな話である。
 小鳥の声が、のどかさに一役買っている。
(こういう事は別に嫌いではないのだが――)
 あまりにも働いてなさ過ぎる気がする。
「そうだな……例えばだが素振り3千本やら、修練の様に思えば良い」
 静寂を破る一言に、うっかりひしゃくの中によだれが滴りそうな空気が破壊される。
「心を落ち着かせ、無の境地に達し、滝の水を汲む事だけを身体に意識させる……さすれば、何れ滝の水汲みの極意が会得出来る筈……!」
 急に明鏡止水な事を言い出した拓真にみんなの視線が集中する。
「だ、大丈夫かえ。においで酔ったかのう……?」
 気分が悪かったら横になるが良いぞ? と、おばあちゃんがほれほれと地べたを叩く。
 ミラクルナイチンゲールにいたっては、ブレイクフィアーの用意に入っている。
「大丈夫です。すぐ、頭すっきりさっぱりしますからね!」
 オチ担当に真顔で心配されると、どう場を収めたらいいものか途方にくれてしまう。
(と、言う冗談はさておいて――そう繋げるはずだったのに、この圧倒的に心配されている空気をどうしたら)
 助けを求めようとも、頼みの快は酒に目がくらんでいる。ヘルプミーシュゴシン!
 結局うまい切り返しも見つけられず、いそいそとブレイクフィアーをかけられ、拓真はぎこちなく礼を言い、満面の笑みとなぜか拍手で迎えられた。
   

「酒の採集と環境調査でしたな……」
 小五郎は、辺りを見回した。
「持ち帰りに支障のない範囲で、最大限入れてしまえば良いだろう」
 龍治はそれはシリアスに気づいたことをメモしていく。
「破壊器やその他神秘存在はなさそうですなぁ……」
 おじいちゃんの手に、手振れ補正に定評のあるカメラが握られ、軽快に辺りにシャッター音が響く。
 残念ながら防水対応ではないので、きっちり首から下げられている。
「動物の生活圏とも離れているようだな」
 さくさくと調査が進んでいく。非常に意欲に溢れている。
 龍治と小五郎の見交わす目に、この作業が終わった後のお楽しみへの期待が満ち溢れていた。
(終わりましたら楽しい宴会ですな。長男の嫁が酒のあてにと持たせてくれた煮つけもありましたな……皆で楽しみますじゃ)
 小五郎だけではない。
(あ~……匂いだけでもテンション上がる)
 ヒロ子の金属の瞳がらんらんと輝いていた。
(労働の後の酒はマジで最高だもんね! 美味しい酒を楽しみに出来る、これぞ正しい労働だ)
 おいしいお酒の前で、みんなの心は一つになった。(未成年者は除く)
 BOTのごとく注ぎ続けていたリベリスタは、タンクを満水にした。
「す……少しだけ舐めてみてイイ?」
 だめと言う人間がいるだろうか、いやいない。
「……うお何これウマッ! 神秘の力スゲエ! 何の罠? 後でお金取られたりしない!?」
 ヒロ子の叫びは、庶民を代表していた。
「…うわ、これは美味しいな、喉越し爽やかで癖がなくかつまろやかだ」
 ぱあっと、遥紀の顔が明るくなった。
「これは……良い酒ですな……」
 ごくごくと喉を鳴らすおじいちゃん、かなりイケル口。
「も、もう一杯、だけ……飲みたいかな……」
「はっ。折角じゃし、酒も一口。味見、味見だけ……うむ、これは中々……もう少し……」
 その台詞、エンドレスフラグ。
「ただ酒、うまいっ!」

 一方、プロは酒を凝視していた。
蛇の目猪口――白い器の底に青い同心円状に模様が入っている利き酒用だ――に一口取って分析。
「日本酒度-12、酸度1.5、いや2ってとこかな。かなりの濃厚芳醇な酒だな。合わせる肴は刺身とかよりもむしろ、日常の食卓に上がるような惣菜の方が向いている」
 今日、お煮しめ持って来たリベリスタ、超勝ち組。
(……違う。そんな表面的な分析では届かないんだ)
 そこまでの分析は、アミノ酸含有量などで機械でも測定できる。最近は客観的な「おいしさ」さえ分析できるようになっているのだ。
 快がつかみたいのは、そんなことではない。
(酒には造り手の思いがある。伝統の上に試行錯誤を重ね、研鑽の末に辿り着いた味がある。神秘現象によって自然に生まれた酒だとしても、その酒を生み出した何者かの意志がここにある筈なんだ)
 そこに、この酒の必然性が――魂があるはずなのだ。
 それを見極めてこその酒飲み! 酒精だけではなく、その背後に潜む物語に酔ってこそ、真の酒飲みだ!
「……もっと呑まなきゃ、分からない!」
 俺はこの謎を解き明かして見せる。酒屋の息子の名にかけて!

「日向燗で飲ませる、きっと此処にそのヒントがある」
 快の謎解きが続いている。


「おや……桜がもう開花してるのですな……今日は花見でしたかのう……?」
 ぐびぐびと飲み出した小五郎じいちゃんの言葉に龍治は、「桜の開花確認」と最後の一言を付け加えると、龍治は、気合で担ぎ上げてきた荷物を開いた。

 お重が並んだ。
 龍治は、かわいい恋人がお重に酒の肴をつめてくれた。もちろん、傷みにくいものと心遣いが行き届いている。プラスとマイナスが組み合わさって、全てがゼロになる。 
「おばあちゃんの煮物じゃよー」
 重箱いっぱいの、しいたけ、たけのこ、高野豆腐、結びこんにゃく、彩りのにんじんに絹さやが入ってはいるが、基本的に茶色い。
「……若者の口には合わないかの?」
 ぶんぶんと一同首を横に振る。
「ほう、さすがだな。準備が良い。有り難くご相伴に預かる」
 拓真はいただきますと手を合わせると、相好を崩した。
 おばあちゃんの煮物って、最近レアな食べ物だからね。
「浅漬け、だし巻き玉子、鳥皮の唐揚げ――リクエストあったやつね」
「手作りおつまみとかすごいな!皆色々出来んのね。私なんてもっぱらコレだよ……」
 コンビニ袋から出てくる味海苔とスルメとナスの浅漬け。
 出すのには、ちと勇気はいったが、しかし手ぶらでと言う訳には……と思う日本人・ヒロ子。
「クオリティ高きおつまみを準備しておられる方 大変図々しいお願いで申し訳ございませんが、どうぞ物々交換して頂けないでしょうか……」
 おずおずと差し出されたそれに、真っ先に冬路が手を伸ばした。
「私の料理を喜んでもらえるのは嬉しいぞ。ささ、たんと召し上がれ」
 おばあちゃんの笑顔、プライスレス。田舎に帰りたくなるノスタルジー。
「うへへ、かんぱーい!」
「――お仕事の後のいっぱいは格別ですね」
 ミラクルナイチンゲールは、湧き水で玉露を入れている。
「はいはーい、長くお酒飲めるようにたまにお茶もねー」
 お茶請けに浅漬け、最高です。

 快の考察は続く。
 小皿叩いてのドンちゃん騒ぎに背を向け、利き酒に勤しむ会は孤独な戦いの真っ只中だ。
(冷酒よりも周りが早いよな。燗酒ってのは。でも熱燗だと燗冷ましになる前に飲みきらなきゃいけないから、自分のペースで飲めない……)
 くわっと、探求者の目が見開かれた。
(ああ、そうか。この酒は養老の滝。老いた父親に飲ませるための酒、だったよな)
 謎は全て解けた。
「自分のペースで飲める温度であり、かつ、飲み過ぎる前に酔いを感じさせる温度。『呑んでもいいけど飲み過ぎるなよ』という労りこそが、この酒に込められた想いなんだよ!!」
 なんだってー! と書いて、様式美と読む。
 見えた、見えたよ、養老の滝が!

「正解に辿り着いたところで、もう一度乾杯といこう!」
 快の歓声に、お疲れお疲れと座が一人分あけられる。
「ぐいぐいっと呑んじゃうよ!」
 差し出された煮つけを口にして、快は破顔した。
「お、この煮物美味しい!」
 細かいことは気にせず、誰かと共に楽しむ酒もサイコーだ!


 ハートフルの後には、カオスが待ってる。

「んあ? 酔ってなんかないよ? ふつーふつー……何か暑くない? ちょっと脱いじゃおうかなー」
 脱ぎ上戸は座を盛り上げる。
 遥紀が、妙齢なおねーさんなら留も入ったが、妙齢のおにーさんなので誰も止めない。
「暑いのぉ。マントはいらんの。どう考えても」
 冬路はぽいちょっと、マントを後方に投げた。
 ついでに窮屈な襟元をくつろげたが、ステディ持ちとナイチンゲールとおじいちゃんとアラサー女子しかいない。問題ない。
「大丈夫だ。こんな山奥に、ヒトモドキは来ない!」
「エロガッパもいない!」
「なんてこった! 八人もいるのに、ボケしかいない!」
「杯が空いておるぞ。どれ、日本男子なら、ぐいぐいいかんか。ぐいぐい」
 昭和の働くヤマトナデシコには、お酌スキルがしみ込んでいる。空いた杯にはすかさず酒を注ぐのだ。
 ちなみに今それを求めるとセクハラになるので注意が必要だ。
「飲ませる気だろう、その位は俺でも分かる。もう二度と人前で醜態を晒す事は……!」
「酒を飲んだら酔う。当たり前じゃ。さあさあ、のめのめ」
 注がれて飲まぬは、日本男子の恥。
 無理にお酒を勧めるのはアルハラですので、注意しましょう。
 そして、ノーと言う勇気と流されない自制心を持ちましょう。
 聞いてますか、あっというまにぐてんぐてんの外見年齢18歳のおっさん。あなたに言ってるんですよぉ?
「この前は子ども達の卒園式でね……わあわあ泣いちゃって可愛かったなぁ……」
 ぷちぷちとボタンを外しつつも、遥紀のおのろけは止まらない。
 幼稚園の行事に参加するために、高原からの深夜単独帰還を果たす奴だ。
「でもランドセルを背負ったらにこにこしちゃってね。けど、家に帰ってくる時間が遅くなっちゃうよなぁ……嫁といちゃいちゃしてたら良いんだろうけど……」
 大丈夫よ。給食食べたら帰ってくるから、幼稚園より早く終わるよ。寄り道しないで帰ってくれば!
「寂しいいい――脱ぐ!」
 なぜ。
 こういう場では、正気に戻ったら負けだ。
「ていうか、何気にりあじゅー組多いんだっけ? ノロケとかもいいんじゃないかな? 俺も嫁と息子娘の可愛さとか語っちゃうよー!」
「嫁、いいよね、じーちゃん!」
「まったくですじゃ!」
「当たり前だ。多くは語らんが」
 小五郎と遥紀と龍治の俺の嫁可愛いバトルは、どんどん過熱していく。

「――寂しくなんかないんだから、ね?」
「もちろんですよー」
 お茶組も、それなりにほっこりすることにした。今日も元気だ。お酒がうまい。独り身でも。


「帰り道も、中々ハードだろうが……まあ、修行の一環だとでも思えば精神的には然程負担は掛からん。俺はまだまだ、強くならねばならないのだから」
 拓真の真っ直ぐさに、僕らは思わず涙する。
 少しでも多くの酒を担ごうと、腰を痛めたりしている場合じゃない。
「持ち帰りに支障のない範囲で、最大限」
 大事なことなので繰り返した龍治は、多くは語らぬと語りつくした婚約者へののろけた事実に、ひざが震える。残念ながら、全員記憶鮮明のお肌ぴちぴちだ。
「ついでに自分用に少しお持ち帰りできたりしない? 頼む、少しで良いんだ……!」
 ヒロ子、涙目。
(横領? 役得さ)
 人の倍タンクを担いでいる快の笑みがいつになく黒い。1つは店のためだ。
「一杯貰ったからね。ちょっとだけ、お返しだ」
 一押しの酒をそっと滝にお供えして、リベリスタはきびすを返した。


 帰りは帰りで色々遭ったが、割愛する。

 タンクに詰めて持ち帰った分は、分析に使えなかった。
 ほんのり日向燗だった酒は、帰り着いたときにはすっかり冷え切り、ただの水になってしまっていたのだ。
 今後も継続案件として、定期的に観察されることになった。

 胸に抱いて温められていた分だけが酒のままでいた。
「ばーさんや……久々に花見酒なんてどうかのう……?」
 養老の奇跡だけが三高平まで届いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 慟哭の削り作業と相成りました。
 おおきなたるよりちいさなおちょこにしあわせはあるらしい。
 いいとこまで考察はうまくいってたんですけどねぇ。

 楽しく飲んでいただけましたでしょうか。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね。