●梅はすいすい十六年 梅。日本の春の花としてはポピュラーな部類である。 花見といえば一般に桜だが、古くは梅を見る習慣もあったという。開花するときの華やかさはないが、だからこそ春を思わせる花の一つである。また、家紋などにも使用され、多くの市や町を示すでシンボルになったりと、春でなくても様々なところで見ることができる。、 三高平市にも梅を見るスポットがあった。 三高平公園の一角。遠くに富士山を眺めることができる場所である。 ●観梅 「その場所で観梅しねぇかって話しだ」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)は集まったリベリスタたちに、笑いながら尋ねた。 「かんばい?」 「読んで字の如く、梅を観る話だ」 酒瓶片手に徹は言う。ああ、大体趣旨はわかった。 「戦いに疲れた体と心を癒すのは、花と酒って相場が決まってるのよ。ここのところ色々あったからな。ここらで一息どうよ、って話だ」 確かにロンドンや四国などで色々息をつく暇が無かった。たまにはのんびりするのもいいだろう。ようやく春めいた気候になってきたし。 「春うらら、公園で騒ぐもよし。お日様の元でゆっくりするもよし。 ま、気が向いたら参加してくれや」 徹は笑いながら下駄を鳴らし、ブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月28日(金)22:15 |
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● 「三高平にきて四度目の春がまた巡ってきたのだな」 ようやく暖かくなってきた風を頬に受けながら、雷音が三高平公園を歩く。桃と白の梅が並ぶ公園は、かつての戦いを感じさせないほど穏やかな景観だ。 「ああ、そうだな……もう春だな」 四年前のことを回顧しながら虎鐵が義理の娘に言葉を返した。また春が来る。当たり前のことだが、戦いに身をおく者にこの意味は深い。今生きているという意味と、隣を歩く相手がいるということ。 「……口調」 「ん?」 「ござるはやめたのだな」 雷音が虎鐵の口調が変わっていることを指摘する。おどけるようにござると言っていた義父は、気がつけば少し古風な口調に変わっていた。 いや、気づいたのは今ではない。ずっと前から気づいていた。 「やはり、分かってはいても調子が狂うな。これが、本来の君であることは重々承知なのだけれども」 元剣林の虎鐵に、かつての部下がやってきたことは聞いている。剣林に戻るように誘われたことも。そしてその誘いを断ったことを。 剣林に戻る選択肢もあったのだろう。だが、 「選んでくれて、ありがとう」 虎鐵はアークを、そして家族を選んだ。その選択が雷音は嬉しかった。つながりを示すように、虎鐵の服の裾をつかむ雷音。 「雷音」 こういうとき、何をいえばいいかわからない。だから虎鐵は思ったままに言葉を紡ぐ。 「その……なんだ……お前は俺の傍にずっといろ。いいか、お前を幸せにするのは俺だ。お前はお前のままそのままでいいんだよ」 家族を選んだ修羅と、その修羅に拾われた娘。その未来を祝福するように、春風が吹いた。 「凄いです。梅は鉢植えに入った小さいものばかりと思っていたでありますよ!」 「ええ。立派なものですね」 梅を見上げながら歩くアティリオと幽華。遠目に見れば仲のいい女性が談笑しているように見える。 (おや、幽華さん何やら緊張していらっしゃるご様子……ここは男としてしっかりエスコートせねば!) 幽華の緊張を察したアティリオが、心の中で拳を握る。見た目は乙女でもれっきとした男の娘であった。緊張をほぐす為に会話を続ける。 「白と桃の梅が並んで咲くと、とても綺麗でありますよ。日本人の美的感覚は凄いであります!」 「あ、あの、綺麗ですね……お花。あ、アティリオさんももちろん綺麗ですけども」 「はい? 自分、でありますか? そう言われたのは初めてであります! ふふ、けれど幽華さんの方がお美しいですよ。もちろん花よりも!」 思わぬ暴露と天然カウンターを受けて、幽華の頬が淡く染まる。 「え、あ、ありがとうございます……! あの、えーと、お付き合いしてる方、とか、いらっしゃるのでしょうか……」 「それが生まれて此の方居たためしがないのであります、不甲斐ない……」 照れ隠しに問いかけた幽華の質問に、どんよりと落ち込むアティリオ。まさかの反応に二重の意味で慌てる幽華。 「あ、いえ、もしいらっしゃるのでしたら迷惑だったかしらと……その……」 「迷惑? そんなことはないであります。よい風景を二人で見れて至極幸せでありますよ」 微笑むアティリオ。その視線を追うように幽華も梅の咲く公園を見る。 富士を視界に含む桃と白の梅の景観。それは確かに二人で見れて幸せな光景だった。 ● 「観梅(かんばい)でカンパーイッ! なんちてー!」 ツァインが乾杯の音頭をとり……見事に場の空気が白く染まった。 「ハハハ……皆言うと思ってたけど、まさか俺だけとは……」 あっさりと流されて、集まった人たちは料理や酒を口にする。 「なんつーか、お前がイギリス生まれだってことを疑いたくなるな」 「アニさん! アイルランドはイギリスとはちがうんです!」 酒を口にしながら徹がツァインに語りかけ、それを訂正する。そのままツァインは酒瓶を手にして、徹の御猪口に注ぐ。 「知ってますよー。何でもいいから理由つけて酒呑みたいだけだってー。ウヘヘヘ」 若干酒が入って上機嫌のツァインに、まあなと答えて徹は酒を嚥下する。 「梅はアレだ、見た目の派手さはないけどこの微かに香る梅の香りがいいもんだよな」 「そういう情緒を楽しむのも、観梅の醍醐味だぜ」 「そうだな。桜とは違う香りがよい」 ウラジミールがウォッカを口にしながら、春の香りを楽しんでいた。無色透明の液体だが、アルコール度数は日本酒よりもはるかに高い。それを顔色一つ変えずに飲んでいた。 「日本の四季の移り変わりには、毎年のように驚かされるな」 「この移り変わりこそが、日本文化だぜ」 「確かに」 短くウラジミールは口にして、酒を飲む。徹もその隣で日本酒をあおっていた。同行していたエナーシアは、春の陽気とアルコールで眠りについていた。 忙しさもあって、ゆっくりと花を愛でている時間はない。だが毎年のように友と酒を組み合わし、ゆっくりとした時間を楽しむ。それだけでウラジミールは十分幸せだった。 「なるほど。奥が深いですな」 敏伍が会話に入ってくる。見た目はかなり老化しているが、これでも徹よりも若いのだ。 「失礼、アークの企画でいらっしゃった方でしょうか? わたし最近アークに入社……かな? させていただきました、加藤と申します。あ、これ名刺です」 「噂は聞いてるぜ。ネットカフェやってるんだっけ?」 「ええ。一度お立ち寄りください」 敏伍は笑みを浮かべて一礼する。商売用の礼儀だが、それゆえ不快感はなくするりと人の心に入ってくる礼節だ。 「ただでさえ老体なのに衰えが早くなってしまいます。おっと禁煙でしたっけ」 「吸う場所ならあっちにあるぜ」 喫煙者用の区画を指差す徹。それでは一服してきます、と席を立つ敏伍。 「秋は満月ときて、春は梅か。そなたらしい粋な趣向だな」 「花鳥風月を楽しむのは、いい酒を飲む秘訣だぜ」 伊吹が徹に酒を勧められて、一気に飲み干す。五臓六腑にアルコールが染み渡る。アルコールの熱を出すように、伊吹はため息をついた。 「アークに来て一年あまり。ようやくここに来た目的を果たせた。もうあの悪夢が繰り返されることはない」 「そいつはよかったじゃねぇか」 「何だか気が抜けてしまったのだ。死の予感のようなものはあった。だが得難い戦友に恵まれて、俺はまた生き残った。自分の悪運の強さに呆れるばかりだ。 アークにいる理由はなくなったが、他に行くあてもない。いまの俺は空っぽだ」 伊吹は独白し、そして酒を一気に飲み干す。胸に空いた穴に、酒が落ちていくような錯覚。 「今が空なら、そいつを埋めるものを探せばいいだけだ。案外あっさり見つかるもんだぜ」 徹の言葉に静かに笑み浮かべる伊吹。そのまま徹の杯に酒を注いだ。 「そうだな。世界の価値観は一つだけではない」 朔が酒瓶を手にして徹の側に腰を下ろす。 「初めまして、だな。君の話は耳にしていたので会ってみたいと思っていた」 「碌でもない噂が多いけどな」 「そうでもない。派手な噂は聞かぬが、話を聞くに戦うに値する相手だと思っている」 徹の杯に酒を注ぎながら、朔は笑みを浮かべた。 「四季というのは良い。自然の美しさというものは私の目を楽しませてくれる」 朔の目の前には雪のような白い梅と、淡い桃色の梅の花。そして遠くには絶景かな富士の山がある。派手さはないが、見るものを感動させる色合いと、壮大さがここにあった。一年の間で、この瞬間しか見られない芸術。 「願わくばまたこの景色をみたいものだ」 闘争に身を投じるリベリスタの寿命は、長いとはいえない。来年この命があるかといわれると、誰にも保障はできない。朔は様々な思いを篭め、自分の杯を傾けた。 「はいはい、お姉さんのお酌なんてどーう? サービスまんてん! 海依音ちゃんよ」 「か、海依音さんもう酔ってるの……?」 テンション高めにやってくる海依音と、彼女に連れられてやってくる悠里。既に酔っているのか、いつも以上に海依音は喋っていた。 「ちょっと、九条君。設楽君にいってあげてくださいな。このこ、すぐに無茶するんだもの。無事を望んで待たされるほうの身にもなってほしいわ」 「む、無茶そんなにしてるかな? 危ない事はしてても、危なすぎる事はしてないつもりなんだけど……」 海依音が悠里の怪我率の高さについて、語り始める。悠里は頭をかきながら、やんわりと否定する。神秘事件を扱う以上、多少の危険は覚悟の上だ。 とはいえ海依音の経歴を鑑みればこの行動は仕方がない、と徹は思う。ナイトメアダウンで何かを失い、それで受けた心の傷。それが絆の喪失を恐れる要因になるのも―― 「だから、簡単に死んじゃいやなのー」 「な、泣くの!? な、泣かないで!? ちゃんと帰ってくるから! 死なないから!」 泣きながらバシバシ殴ってくる海依音。それを受けながらなだめる悠里。 「……あー。これは元々泣き上戸だったんだな」 「冷静に解釈してないで助けてよ徹さん!」 「いーやーなーのー!」 ――宴会場は、遠目に見ても分かるぐらいに賑やかであった。 ● 「ふふ、賑やかですこと」 宴会場を遠目に見ながら、リサリサは春の陽気を受けて伸びをする。遠くに見える富士と梅の花が目に映り、その色合いに心が和む。 母を失い、三高平にやってきてどれだけ経っただろうか? 流れる季節を思い出しながら、リサリサがここにいる意味を思い出す。 (あのときの母のように、ワタシは変わらずにここで誰かを護れればいい) それが例え茨の道でも、その道を歩いてみる。このなんでもない日常を守るために。 手にしたカップを傾け、酒を口にする。温かい熱が、リサリサの体を駆け巡った。 「ひゃっはー、両手に花ッス!」 計都が嬉しそうに叫び、酒を口にする。隣にはユーヌと三郎太。確かに綺麗どころなんだけど、三郎太は男性です。 「それがいいんだろうが、わかれ! うむうむ、そちらはかわゆいのう。余は満足じゃ。これ三郎太、もう一杯ついでたも。ユーヌたん、その唐揚げあーんして」 酒の入った計都は三郎太とユーヌ相手に酌をさせたりしていた。健気な三郎太と、まあいいやと相手するユーヌは、特に逆らうことなく命令を聞いていた。 「ささっ、どうぞですっ。でもあんまり飲みすぎてはダメですよっ」 まだお酒の飲めない三郎太は、計都の酌に回っている。ほろ酔い状態の計都の顔を見て、笑顔を浮かべる三郎太。『家族』に拒絶されれなければ、こういうことは日常的に行えたのだろうか。ふとそんな思いを浮かべて、 「三郎太も一杯どうじゃ? ほれ」 「ボク未成年ですって」 そんな思いを維持する暇もないぐらいに、騒がしい。幸せとはこういうことなのだろう。いまこの瞬間こそが宝物。 「季節を楽しむのってとても日本らしい気がしますねっ」 「桜は死体が埋まってそうなひっそり感が良いが、梅は飛びそうなアグレッシブさがあって良いな」 ユーヌが梅に関する感想を口にする。用意した重箱の中には、酒のツマミになりそうなものや、酒の飲めない人用の食べ物を作ってきていた。 「ゆーぬたん、ゆーぬたん。なんすか、あらしも、めっさテクってるッスよ」 「影人召喚」 酔ってセクハラしてくる計都に、ユーヌは影人を召喚して相手させる。 「あれー、うーぬたん、どしたッスかー。さけもってこーい……ぐー」 影人を撫で回している計都は、そのまま酔いつぶれてしまう。そんな彼女に毛布をかける三郎太。 「酔っ払いの相手ばかりでは退屈だろうに」 「いいんです。ボクはこういう日常を守りたいからリベリスタになったんです」 「ふむ、三郎太は良い子だな」 三郎太を労うように、ユーヌはおはぎと団子を出す。一息つくように三郎太は手をつけた。 「……良い子でしょ、三郎太くんは。あたしのだから、あげないよ?」 寝転がっている計都が、そんな寝言を口にした。 「え、計都さん、何を言うんですかっ」 「起きてるだろ」 「寝言だよ」 慌てる三郎太。冷静にツッコミを入れるユーヌ。そして寝言と言い張る計都。このドタバタもかけがえのない日常。 公園の隅には快と天乃が飲んでいた。 「いわれた通り、ホワイトデーの酒、も持ってきた。特に、新田……は、裏野部の一件もあったし……まあ、少しは休んでくれても、いい」 「休むのはお前のほうだ! お前は自分の命を危機にさらし過ぎなんだよ!」 公園のテーブルをドンと叩いて、快が声を荒くする。 「新田が、言うの? 新田、が私を見る視点、はこうなのか」 納得しながら天乃は酒を飲む。それにあわせるように快も酒を飲み始めた。 「今日は仕事抜きで梅見つきあえ」 「うむ……いつもの慰労会?」 快が持ってきた酒も加わり、飲むペースが加速する。 「とにかく戦闘に傾倒しすぎなんだ。少しは気を紛らしたほうがいい。ほーら、リラクゼーション、リラックス」 「ん……っ」 快が天乃の背中に回り、首を揉み始める。首が弱いとか聞いたことがある。どんな反応するのか、と揉んでみれば結構いい反応をするじゃないか。身をよじって逃れようとする天乃を追うように揉み続ける快。 天乃の方も積極的に振り払おうとはしない。快の手の動きに、身を竦めて悶えるだけである(マッサージ的な意味で)。 「あんまり暴れると、押し倒して抑えつけちゃうよ?」 「……っ……そんな、度胸ない癖、にっ」 恋愛ではなく、友愛。こういう関係も、またかけがえのないものだ。 「お前ならば、必要ないと言ったかもしれんが……俺なりの献花だ、九郎」 一人、拓真は公園の隅で酒を飲む。その傍らには徳利。その仲に注がれた酒を飲む者は、既にこの世にいない。 賊軍との戦いの中で果てたフィクサード。剣林の『斬手』。その二つ名と戦闘スタイル以外を、拓真は知らない。酒が飲めるのかとか、梅の花が好きなのかも知らない。それも当然だ。彼とは敵同士だったから。 「斬手、剣林のフィクサードにして我がライバル……いや、友だった男よ。今は眠れ──何れまた、剣の道の果てに相見える事もあろう」 いまはこの景色を楽しもう。拓真は富士と桃を目にしながら、静かに酒を口にした。 ● 「もうすぐ春。シュスカさんと初めて会ったのも、お花見の頃でしたね」 「初めて会ったのってその頃だっけ。……じゃあもうすぐ一年になるのね。何だかあっという間ね。来年には高校生だし」 ぽかぽかと春の陽気を感じながら、壱和とシュスタイナが喋っていた。そろそろ冬服はしまったほうがいいかな。そんなとりとめのない会話から、二人の出会いの話になっていた。 「この前はありがとう」 シュスタイナが壱和に礼を言う。先の四国での戦いのとき、悪霊群との戦いのときに背中合わせで闘ったときのこと。怨嗟の坩堝に落とされた戦場でも、壱和がいてくれたから闘えた。 「……はい。ボクからも、ありがとう、を。 シュスカさんと一緒だったから、そこに立てました。守りたいから、強くなれた気がします」 壱和もシュスタイナに礼を言う。誰かの為に戦う。それがあれほど誇らしく、そして心温まるものだとは。けして勇猛とはいえない壱和だが、あの時は間違いなく戦場に立つ指揮官として恥じないものだった。 二人は互いの顔を見合い、嬉しそうに微笑む。あの地獄はもう、ない。平和な日常に戻ってきたのだ。 「くぁ……」 暖かい空気に包まれ、壱和があくびをする。犬耳もくた、と手折れていた。 「眠たいなら……どうぞ?」 一瞬迷った後でシュスタイナが自分の膝をたたき、壱和を誘導する。誘われるままに壱和はシュスタイナの膝に頭を乗せ、安らかな吐息を立てて眠りにつく。 「シュスカさんの顔が近いと、不思議な感じですね」 眠る壱和の頭を撫でるシュスタイナ。穏やかな時間が、流れていた。 「店長には桜よりも梅のイメージが合ってますよね」 「あら、桜より梅ですか? 余り言われた事がないので気にしたことなかったですが」 「単に可愛いよりも凛々しい感じが。別にお世辞ではありませんよ、素直にそう言ってみただけです」 「まぁ」 モニカが慧架と一緒に芝生に座り、のんびりと梅を観ていた。正確に描写するなら、慧架がモニカを膝枕して、梅を観ていた。 「たまにはいいものですよモニカもまったりするといいです」 「メイドが昼寝でしかも膝枕される側なんてレアすぎますね。まあ……悪い気はしませんが」 正座する慧架に座枕されるモニカ。芝生の上に寝転がっているメイドというのは、確かに三高平でもレアなのではないだろうか。春風が運ぶ香りが心地よい。 「こうしているといい香りがするのは、梅のせいだけではないみたいです」 「私の香りといったらせいぜい紅茶の匂いくらいですよ」 力を抜いて春の香りを楽しむモニカ。そんなモニカを優しく慧架が撫でていた。 そして、 「やはりこっちの方が私のポジション的には合ってますね」 「モニカの太ももはそうですねえ……硬くもないけど柔らかすぎでもない、ある意味まったりしやすい弾力ですねー」 今度は逆にモニカが慧架を膝枕していた。心地よさそうに寝息を立てる慧架。 「店長の顔を見下ろす視点はなかなか新鮮です」 眠る慧架を撫でるモニカ。春はもう、そこまで来ていた。 「ふわぁ~~~~。うめのはなまんかいっ! すごいっ!」 「うめみ! おはなみ! おだんご! やっぱりたべものがだいじなのだっ!」 ミーノとミミルノが満開の梅の下で叫んでいた。ミーノは驚きと感動のあまり尻尾を全て立たせ、ミミルノは花より団子とばかりに持ってきたお弁当を広げていた。 「ミーノが花をみて見とれてル。ある意味奇跡ダナ」 そんなテテロ姉妹の様子を見ながらリュミエールが静かに呟いた。食べ物のことしか口にしないと思っていたので、この変化は奇跡といえよう。 「……!? うめってことはうめぼし! すっぱいのはちょっとにがてっ!」 「梅干カー、ソッカー ヤッパリ食べ物が連想サレタナ」 そうでもなかった。テテロ一族は花より団子のようである。持ってきた団子を食べ始めるミーノとミミルノ。適度に付き添うリュミエール。 「ごちそうさまでしたっ」 「口の周りニ、食ベカス付イテルゾ」 「おなかいっぱい、ねむけもいっぱいっ!」 ミーノの口の周りをハンカチで拭くリュミエール。おなかが膨れ、春の陽気も手伝って眠くなるミミルノ。自分の尻尾を広げ、丸くなって布団代わりにする。 「しっぽ! かける9! かける2! しっぽまくらあーんどしっぽおふとんっ!」 「しっぽがたくさんあるからっ、ねごこちいいよっ」 「……シャーネーナ、寝ルカ」 十八本の狐の尻尾で作られたモフモフベットに横たわる三人。ミーノとミミルノは横になるとすぐに眠りについた。 (コノ二人、起キタラマタ食ベルンダローナー) そんなことを思いながら、リュミエールも眠りに落ちていくのであった。 春うらら。暖かさもあいまって眠そうな足取りで歩いているリンシードは、芝生で眠っているクノイチな衣装のリシェナを発見する。 「枕発見……!」 そのまま流れるような動きでリシェナの胸に顔をうずめるリンシード。押しつぶされるおっぱいはわずかな弾力を持ってその存在をリンシードに示す。眠りが深いのか、リシェナはわずかに呻くだけで目を覚まそうともしない。 「この感触……ねーさまでは得られないものなのです……。こんなに良いものなら……大きくしなくちゃ……」 使命感に燃えるリンシード。 だが胸の発育は乳腺の発達具合なので、成長期に激しい運動したりストレスかかったりすると成長が妨げられてしまうのだ。つまりリベリスタって職業的におっぱいが小さくなりが――うわなにをする。 「ちょっとこのまま寝かせてください……きっといい夢が見れる気がします……」 リシェナの胸を枕にし、リンシードが眠りについた。 「ようやく暖かくなってきましたね」 「春も近い空気っていいよねー。俺様ちゃん爽やかなの大好き」 魅零と葬識が芝生に座って談笑していた。その傍らには数本の酒瓶。 「先輩お酒飲みますか?」 「ん? おさけ? いいねー。黄桜後輩ちゃんも飲むでしょ? はい、梅花酒」 「梅花酒!? おされだ……格がちげぇ」 葬識の予想外の切り返しに、慌てふためく魅零 (話を逸らしたいけど、殺人以外で先輩が何がお好きなのかいまいち分からない……こうなったら!) 「質問! えっと……手とか繋ぐのは嫌いですか!」 「好きなものー? 俺様ちゃん日本のワビサビすきだよ。ジョーチョって大事だよねぇ。あと、お酒も好きだし、女の子も好きだよ。花も大好き。他に知りたいことはある?」 とっさに脈絡のない会話を切り出す魅零。それをさらりと切り返す葬識。その杯の中に、はらりと梅の花びらが落ちた。 「そうなんですか! 花は梅の次に桜がありますね! 黄桜も先輩がだいす……っふぇ!?」 思わず口走りそうになり、魅零は慌てて息を飲み込んで言葉をとめる。落ち着け、何を言いかけた!? しかし焦れば焦るほど心臓の鼓動と共に加速していく自分の感情。 「梅の次もまたデートして欲しいっていうお誘い? いいよ。俺様ちゃん、黄桜後輩ちゃん大好きだからね」 「あうあうあう……」 葬識の発言がさらに追い討ちをかける。二人の会話は、まだまだ止まらない。 「そういや、依頼はよく一緒になるけど、遊ぶのははじめてだよね」 「確かに何度もご一緒する事はありましたが、こうしてのんびりと……と言う機会は確かにありませんね」 夏栖斗とミリィが芝生を歩く。よく任務で一緒になるが、三高平でこうして穏やかな時間を過ごすということは少なかった。賊軍の件もひと段落し、春の空気を肺いっぱいに吸い込む。春一番が、駆け抜けた。 「春の風って気持ちいいよね! あ、ちゃんとスカート抑えとけよ! ぱんつみえるよ」 「も、もうっ! 夏栖斗さん、噂には聞いてましたけどやっぱりスケベです!」 スカートはいているミリィをからかうように夏栖斗が言う。戦場を奏でる指揮官も、こうしていると普通の中学生だ。そのことに安堵しながら、夏栖斗は疑問に思っていたことを問いかける。 「ミリィはさ、怖くないん? 戦うの」 ――それは戦場に立つものが必ず抱く疑問。 「怖いですよ、いつだって。でも、私が戦って誰かの笑顔を守れるなら、後悔する事はないと思っていますから」 ミリィは戦場に立つ恐ろしさを思い出しながら、しかし気丈に言い放った。 「そっか、そうだよな。報われなくても誰かが笑顔なら、それでいいってのは僕もわかるよ。 でもまあ、子供でいられるのって今のうちだけだし、無理すんなよ」 「はい!」 少し無理をしているミリィの頭を撫でる夏栖斗。その優しさに笑みを浮かべて、ミリィは元気よく言葉を返した。 ● そして宴が終わる。二次会に行くものもあれば、伸びをして家路につく者もいる。 いつしか梅はこぼれ、桜が咲き始めるだろう。長い冬が終わり、春がやってくるように。なんでもない日常が、緩やかに流れていく。 暖かい風が、三高平市を駆け抜けた。 春はもう、そこまで来ている―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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