● リベリスタでも無く、フィクサードでも無く。普通の世界を普通に生きている人は居るのだろう。 大学で出会ったばかりの友人達とカラオケをしたり、ランチを食べたり、ゲーセンに行ったり。そんな当たり前の生活を送る――阿比留・鐘太。彼は家系的にはリベリスタの家系ではあるのだが。今日もほら、友人数人の輪の中で笑顔でクレープを齧って、他愛も無い話をひとつふたつ。 彼が裏世界に関わらない理由はこうだ。 『普通の少年として生きて、普通に死ねればそれでいい。触らぬ神に祟り無し。関わらない事が最大の防御』なのだと。 人一倍、普通の世界に生きる友人への憧れと、裏世界のドロドロしたものへの嫌悪感。此の世界の仕組みへの怒りが相成れば、普通である友人への執着心を抱かない事は無い。彼にとっては、此の心地好い輪の中から出たくないのであった。 かといってだ。何も知らない、何も関係無い一般人でさえ、運命が悪戯に裏世界へと引き込んでしまう世の中だ。 鐘太の年齢は二十歳。二十年間は普通を生きるのが許されたとしても、だ。 「……嘘だろ?」 彼等の前に佇むのは紛れも無く、怨霊の塊。 何が如何して其処に居るのか、そういえば此処は何人か飛び降り自殺があった名所であったか。だからといって、このタイミングで出て来るなんて悪い冗談である。 ともあれ、現実。鐘太は逃げろと友人たちへ言ってみるのだが、彼等は腰が抜けているのか地面に張り付いて動けない様。 仕方が無いと、鐘太にしてみれば最悪の決断であった。 クレープを放り投げ、代わりに手に持ったのは筆箱の中にあった鋏。其れを敵に向ければ、グラスフォック――周囲は一瞬にして凍り付く。だが敵は一体では無かった、凍らなかったフォースが触手上の腕で鐘太の顔面を弾けば、骨の軋む音と彼の頭が壁にぶつかる鈍い音。加えて叫んだ友人の声と、エリューションの呪いの声。 死ねないと思った鐘太は強かった。友人の為。そう思った彼は立ち上がった。「俺が相手だから!!」そう言いかけた所であった。 「お前等全員化け物だ!!!」 友人の吐いた罵詈雑言。他にも色々言われたのだが、覚えていない。 「え……」 其の時何故だか、全身の力が抜けてしまった鐘太。動けとも、行かなきゃとも思わなかった。只、只管の空っぽになった心で、フォースに襲われる友人達を見つめるしか無かった。 数秒経って、鐘太の前には五体のアンデットと一体のフォースが群を成した。こうしてしまったのは、こうさせてしまったのは、救えなかったのは。 「俺の、せいか」 次の瞬間、――いや、此の後は言うまでも無いであろう。 ● 「依頼よ、頑張って頂戴」 何時も通りに上から目線な幼女『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は集まったリベリスタ達へ資料を指差した。今回のお相手はエリューション。 「フォースのフェーズ2が二体と、アンデットのフェーズ1が五体。それと……もたもたしてると革醒者が一人食われるわね」 現場に居るその革醒者が殺された場合、ノーフェイス化して敵と成る。其れを含めた全エリューションの討伐が今回の依頼の成功条件である。 「因みにアンデットは其の革醒の元友人なのよね」 彼は自分が戦わなかった――否、戦えなかったから友人が死んだと思っているのか、戦う気力が薄れつつ……というより、心が無くなった様に茫然と立ち尽くしてしまっている。つまり、救うには工夫が必要な訳だが、敵に囲まれてしまっている上に革醒者本人の体力も薄い。 「無理と判断したなら切り捨てても良いのよ? マリアに言わせれば、救う事が彼にとっての幸せとも限らないわ」 現場はビルとビルの間に在る、裏道。 一般人の対策はしなくても大丈夫なのだが、少々暗いのだけが欠点か。 「じゃあこれでブリーフィングは終わり! マリアは行かないけれど、帰りくらいは待っててやるわよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月01日(火)22:49 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 振り上げられたエリューションの触手を黙って見ていた。 其れが直ぐに降ってきて、身体中を打ち付けられて潰されるなんて。標的にされた阿比留・鐘太が其れを察する事は簡単であった。 だが何故だ。全身に力が入らない。入らないと言うよりは、抜けていく感覚。 死が近づいてくる度に、其れを受け入れるように無意識にそうしてしまっているのに気付かないまま。鐘太は、瞳を閉じた。 遠くから聞こえる足音が、今は大して気にする事も無く記憶にも残らない異音として彼の耳を通り抜けていく。 ノイズが、混じった。 ――任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう。 「は……?」 鐘太の瞳が、悪夢から目覚めた様に開いた。 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の片腕が宙を優雅に舞い、一点を刺す。刹那、鐘太の瞳を鮮やかな真っ白が覆った。 何も見えない――聞こえるのは、怨霊の呻き声と死体の咆哮。それと……、 「旭さん、危ないですよ!」 「大丈夫、だいじょーぶ」 一目散に飛び込んでいった『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)。 「悲しい存在。もう戻れない存在。お仲間を此れ以上、誰1人作らせる訳にはいかないよ」 全部で36文字の言葉に力を乗せ、旭は囀るのは怒りの誘発。ミリィの麻痺は、勿論強力だ。だが其処に旭の怒りを混ぜて与える事で完全に敵の矛先を違える心算で。 フラッシュバンが届かなかったアンデットが一体、旭の喉元に噛みついて、旭の奥歯がギリと力を込めて食む。其の牙から流れていく毒の感覚はお世辞にも良いなんて言えない。 旭を侵すアンデットの濁った瞳が五十川 夜桜(BNE004729)を映した。 「ひぃ!?」 なんて条件反射で声を出してしまったが、アンデットと夜桜の間を隔てるように持っている魔力剣が何処かから漏れてくる光に、刃の奥から先まで煌煌と輝かせた。 今ならなんでもできる気がする――夜桜の腕に、力が籠った。 「うあぁ、うあ、うあああっ!」 元がなんだったか知っているからこそ、戸惑いの色に夜桜の瞳が揺れた。だが身体は、動いていた。 剣を旭に当てないように、無意識にも計算して振り上げて。空中を撫でるように、他に例えれば野球のバットでも振り回すようにしてアンデットの顔面を穿いて弾き飛ばす。 ぴょこん。 『Eyes on Sight』メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)は挟まれた建物の壁から、文字通りの顔を出して状況確認。 「ここなら安全☆ ……あれ怨念ちゃんこっちくrキャー☆」 触手が穿つのはメリュジーヌの身体では無く、壁。間一髪で顔を引っ込めてしまった彼女に攻撃が当たる事は無くて。だがそうも上手くいくのは一回までか、攻撃を代わりに受けた壁は崩れて瓦礫と成り、メリュジーヌの顔が一瞬青く染まって当たらなくて良かったとほっとさせる。 それでは気を取り直して。 「そこのお兄さん下がっちゃってー☆」 別の壁から出てきたメリュジーヌは利き手を前に、気糸を放って怨霊を射抜く。 「やれやれだわ」 其処に追撃を挟む『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)。 ペイロードライフルを構えて、弾丸を放つ衝撃を其の身で受けながら当てられるだけの敵に、万遍なく、そして容赦なく蜂の巣を形成していく。 嗚呼、ちゃんと当てないと弾丸が勿体無い訳だが。上手く前衛の仲間の合間を縫って弾丸を送り出す計算をするのはもう慣れっこで。 ふと、エナーシアの隣で動き出した大きな黒い影。 「引き付けてやってるんだから、ちゃんとやるのだわ」 「ああ」 エナーシナの声がAFの回線を通して、『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)の耳に入った。待機を行い、そして今動き出した仁は一目散に鐘太の元へ向かっては彼の腕を掴んだ。 「来い」 というだけで彼が、鐘太が動けばよかったのだが。鐘太は意外にも此れを拒絶した。否、其れは当たり前だったかもしれない、友人に拒絶され生きる意味を失った彼にとっては。 鐘太は仁の腕を振り払った。だが、仁は再度彼を掴もうと腕を伸ばす。 「離してくれ、おっさん! 誰だか知らないが、俺はもう此処で死なせてくれ!」 「拒絶されたのが怖いのか。お前の出した勇気は正しく、強い。友人の反応も、『普通』だな」 「普通……?」 仁の腕は捕まえられない鐘太の腕を掴むのを諦めた。代わりに、右から左へ振り払ったビンタが鐘太の頬を捕えた。 パァン、―――と一発。其の音がやけに大きく裏路地に響く。驚いた鐘太の横顔をけして瞳から外さず、仁は諭すように言うのだ。 「救えなかったと、そこで足を止めるなら、終わるまでそこにいろ。せめて眠らせてやりたいと思うなら、来い。その足を支えてやる」 「……っ、クソッ!!!」 くそ、くそ、くそったれ!! 心の中では罵詈雑言を吐き出しながら、鐘太の動かなかった足は―――。 「『そっち』には、行きたくないんだよ……わからずや!!」 まだ、其の境界線を踏み越える事を躊躇っていた。 ● 死は何時でも其処に在る。それが例え、表側の人間だろうが裏の人間だろうが。裏の人間でさえ、自分は死なないと思っている輩は少なくは無いのだが。 本当の意味では、表も裏も無いのかもしれない。エナーシア個人、そういった意味なのだろうか、人生裏街道では無くごくごく普通の一般人で在るという。 「お願いします!」 「あ、私なのだわ?」 ミリィの呼びかけ、彼女の指揮棒がエナーシアをさした。意味は攻撃の好機の合図であろう。 全く、ミリィの戦闘指揮はきれるものがある。彼女の鬼謀神算とドクトリンに身を任せてしまえば、自然と敵の方から攻撃にあたりに来てくれるというもの。 エナーシアはペイロードライフルを盾に、触手の呪縛をすり抜ける。それ以前に彼女の身体に触手が絡みつこうが、彼女の行動を制限する事は叶わないのだが。 呪いの言葉をその耳で聞き流しながら、エナーシアは、 「やぁーんこれ切ってー」←>< 「動かないで欲しいのだわ」 メリュジーヌに絡みついた触手ごと、怨霊の体に弾丸をぶち込んだ。 次。 ミリィの指揮棒はメリュジーヌへと駆ける。 「お姉ちゃんの、出番かにゃ? 頼まれたら本気出しちゃうよ、頼まれなくても本気出しちゃうけど!」 「3秒後に、怨霊の一体を――」 「ミリィくん、もっと可愛くお姉ちゃんに頼んで欲しいぞっ☆」 「シリアスとはなんなのでしょう……。メリュジーヌさんお願いします……っ」 「仕方ないにゃぁ!」 そんな会話の最中に、ミリィの指定した3秒はとっくに過ぎてしまっていた。されどもメリュジーヌは、頼まれた以上にまさかの本気を出したのだ。 「一気に当てるぞぉー☆」 言葉ではあっけらかんとしていても、其の腕は確かであるか。たった15%の確率で起こり得る、クリティカルを引き当てた。 ぎゅうと、得物を持つ腕に力を込めた。戦闘指揮の誘導も相成って、流れ動く敵の行動が未来予知をしているかの如くによくわかる。 怨霊や、アンデットに囲まれて傷つく旭や、鐘太と葛藤している仁の姿。其の3人を攻撃がぶつからない位置をきちんと予測して、撃ち放つのは気糸の群。 眩い、かといって淡い光が薄暗い其の中で線を引いた。其処に合わさったのは、夜桜の攻撃……だがその前に。 鐘太から敵を遠ざけようと葛藤していた夜桜。今も怨霊を遠ざけようとし、比較的存在がブレている……つまり、体力が低そうな方を狙おうとしたのだが。 つい口から漏れてしまったのは。 「怨念がおんねーん!」 「「「「「「………?」」」」」」 確実にスベった。一瞬、敵と一緒に回りが凍り付いた。 「ち、違うんです……! 出来心だったんです!!」 顔の手前で手を振り、少し紅潮した頬で弁解をはかってみたもののなんだか、死にたいと心の中で呟いた夜桜。 其の恥ずかしさのままに夜桜は得物を小さな身体で振り上げた。此の華奢な体型の何処に剣をぶんぶん振り回せる力が在るのかは不思議な所だが。 「流れる血潮は生きてる証」 ―――血の通わないアンデットや怨念なんかに負けるものか。 切り崩した怨霊の存在、一体が其の場から消え失せた。消える時に、苦しみの声を出していたが今はそれさえ感じない場所へと逝ったであろう事を願って。 「あと、怨霊一体……!」 夜桜の瞳にもう一体の存在が映った。だが、刹那。 伸びてきた触手が夜桜の身体に絡みついた。そういえば杏理の資料で、「ちょっとえろい」だなんて書いてあったのだが、なんだろう?程度に思っていたが。 「成程、こういう事だったのだわ」 エナーシアの、若干瞳のハイライトが薄れた目線で夜桜を直視していた。 「う、うわーん!? こんなの聞いてなかったよ!」 触手は夜桜の身体を、其の柔らかさと形を楽しむように這っていく。服を捲られ、其のなかに入ってくる違和感。紅かった頬も今では少し青色がかってきた。嗚呼、それ以上這われてしまえば彼女の底力が起死回生してしまうというのに。 どうしよう、夕影楽しくなってきちゃった訳だが、此れ以上やったら単なるえっちい依頼になっちゃうし? 女の子ににゃんにゃんいじめちゃうのは夕影のピュアな心が痛むので、夜桜ちゃんには色々なめにあってほしいななんて言っておいて。そうだなぁ、どうしようかなー。 全てはミリィの瞳の消えたハイライトが物語っていたという事で、ひとつ。 「来なさいよ、怨霊! 触手なんて捨てて掛かって来るのだわ!」 若干青い顔をしたエナーシアちゃんも、武器を構えて少し引けた腰が色々を色々物語っていたということで、ひとつ。 「にゃははははははは!!」 と、爆笑していた鉄壁の揺るがない心を持っていたメリュジーヌで、ひとつ。 「俺は、此処で死ぬんだー!!」 友達と一緒に、死なせてくれ。鐘太は未だ、駄々こねていた。 仁の手に掴まれた腕は、少し血色がよくない程に強く握られている。其れは仁なりの思いであり、彼を死なせたくない一心によるもの。 彼を庇い続け、彼の言葉を聞いてあげて。仁の身体に纏う服は、所々千切れて、切れて。其の間から見える身体には切り傷を大量に作ってしまっている。 先程、仁が言った言葉以外に彼は鐘太に聞かせる事は無い。いや、あれで精一杯であっただろう。 仁は正しい。だが、正しすぎた。其れは悪くは無いのだが、今更リベリスタに戻っても護れなかった彼の心は其れ以上に傷ついていた。 普通でありたかったからこそ、友を助ける選択であえて普通を捨てたのに。正義のヒーローみたいに、友達を救えれればかっこよかったのに。 どうして世界ってこうも優しくないのか。 「死なせてくれよ!!」 鐘太の声が、路地に響く。 敵の攻撃を留め、避け、時にはその身体に受けながら旭は言おうと口を開く。覚悟した。あとで殴られようが怒鳴られようが良いと思った。 「ごめんね、全部倒す」 其の言葉に、鐘太がびくりと身体が震えた。 友達を。友達だったものを、倒す? 何を言っているのだろう、この女の子は。 「やめてくれ」 無意識にそう、鐘太は言った。 「やめてくれ、彼等を二度殺す事は無いじゃないか! やめろよ!! 化け物はお前等だ!! お前等だ!!!」 「バケモノ。いいじゃにゃい! だから退治ができるのよ」 メリュジーヌはマイペースを貫いて。 「お姉ちゃんだってバケモノよ。でも、ここでしっかり心臓が鳴ってる。自分を受け入れるのって、勇気いるよねぇー☆」 きゃぴ☆っと笑いながら、右手で心臓の前をとんとんと叩いた。 逆に鐘太の怒号にミリィは口を閉じたままだ。彼に与えてやれる言葉は無いと思っていたからこそ、指示以外の私語は慎んだ。 (――貴方達が彼を信じてあげていれば、この結末を少しは変える事が出来たんでしょうかね) そう思ってみたものの、過去改ざんなんて大それた事はできる事もない。いくら何があったとしても、リベリスタ達は前に進むしかないのだ。 一点集中。 怨霊は既に虫の息(夜桜捕まってるけど)。 「しんき……閃こ……」 ミリィの指揮棒の先から光が溢れる。其れは彼女が『指定』した敵のみを射抜く光。 もしそれが貫通や範囲攻撃であるのなら、鐘太は飛び込んでいただろうし。仁が鐘太を離さないでいなかったら、友人を庇って鐘太はノーフェイス化。其の後はリベリスタを憎む存在として、立ち上がっていただろう。 偶然に偶然が重なって。 「やめてくれえええええええええええええええええええええええ!!!」 だけども、攻撃されていない鐘太の悲痛な叫びは響いた。 怨霊が戦闘不能し、ぽてっと落ちた夜桜は服を整えながら武器を拾う。 残りはあとアンデットだけ。なぁに、フェーズ1。倒せない訳は無い。 タタタタ、と銃声が響く。エナーシアの迷いの無い一撃がアンデットの身体に穴をあけていく。一体倒れ、また一体倒れ。精神崩壊しそうな鐘太をチラ見したエナーシアは、彼の足下にも弾丸を走らせた。 反射的に足をあげて見を小さくした鐘太。なんだ、まだ本能的に避けるのなら生きたいんじゃないかとエナーシアは思いつつ。 「過ちだと思ってるのなら呆けて殺られて態々過ちを増やしてるんじゃないのだわ。責任があると思ってるならせめて葬儀にぐらいは出てあげなさいよ、一般人の御同輩」 ぶつかった、鐘太とエナーシアの目線。 それの間にひらりと舞ったメリュジーヌの気糸も、夜空を駆けて。 「安らかに……」 最後に旭の腕が右から左へと振り払われた。其の腕から巻き起こった暴風が、アンデットたちを焼き尽くしていく。 悲痛な叫びは、まだ終わらない。 ● 「……ごめんね、あなたの日常をまもれなくて。間に合わなくて、ごめんなさい」 蹲る鐘太に、旭は彼の背中を撫でながら声をかけた。 キッと旭に鐘太が向けた目線は、おまえになにがわかるっていうだという意味を込めていたのだろうが。 「わたしも、力を得たのに心がついてこなくて。恐怖に竦んで、大切なお友達を喪ったことがあるの。だから、あなたの気持ちはすこしわかる」 少しだけ。ほんの少しだけ。旭にとってもそれは思い出したくない出来事であっただろう。心の奥がぎゅうっと痛むのがよくわかる。泣こうと思えばすぐに涙を出せるのも、そのせい。 あなたのせいじゃない。そうは言えども、なんのせいか。原因追究した所で何も帰って来ないのはわかっている。 だから今は生きようなんて鐘太には考えられないのは、旭はよくわかっていた。 でも、それでも。 「どうか、生きていて」 普通であることより、友を護ろうとした事。結果的に守れなかった事だが、それを誰が責めるというのか。 そんな貴方が死んだら悲しいと、旭は言う。 「ごくあたりまえの、あったかい、ひとのきもちだとおもう」 「……人?」 はっとした。鐘太は人、という言葉に息を吹き返した気持ちになった。 身体は人でなけれど、心はまだ人であった。人でありたかったからこそ、其の事を自らが忘れていた事。 「まだ……人で、いられるのか……」 「うん。十分、人だよ」 四つん這いで泣き崩れた鐘太に、旭はまた背中を優しく撫でた。 そんな光景の手前で夜桜は考えた、頭が赤くなり煙が噴き出すんじゃないかというくらいにまで考えた。 なんて声をかければ、いいのか夜桜の思考回路はショートを起こして導き出せなかったものの。きっと、もう大丈夫とは心のどこかで感じていた。 メリュジーヌは鐘太の頭をつんつんと、指でつついてみる。 「さて問題☆ 「本物のバケモノ」って、どんなものかにゃ?」 「え……ぇ」 選んで。選べるまで、側にいるから。 また、消えた命があった。 けれども、救えた命もあった。 きっとまた、こういう状況は何処にでもあるのだろう。其の度にリベリスタは奔走するのだろう。 ミリィは、これで良かったのだと思う。見上げた月を瞳に映して。 最大限の努力で、最低限の人は救えたのだから――――と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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