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臭う!

●砂丘
夜の砂丘。
 一面に広がる星空と、まるで白銀の海原のように、遮るもののない砂の広がり。
 果てしもない砂の段丘を、一人の男が走っていた。
 息を切らし、必死の形相で。砂に足をとられ、もんどりうっても、すぐさま立ち上がる。
 ……一体。
 ……一体、やつは、どこから……。
 そう思った瞬間、足元から地鳴りのような音がして、下から突き上げるような衝撃が来る。
「ぐああっ!」
 跳ね飛ばされた男は、月を背にした、その化け物の姿を見た。
 目もなく、耳もない。
 巨大な砂虫。ミミズ。
 その口腔がパックリと開き、漆黒の虚無が口を開いている。
「く……くそ……」
 男は何とか、いまわしい巨大ミミズから逃れようとするが、相手はゆっくりと男に首を向ける。
 その瞬間、男のポケットから、何かが転げ落ちた。
 その場にそぐわない、甘い刺激臭がぷんと漂う。
(オーデコロン……ホテルからくすねてきた奴だ)。ビジネスホテルを利用した際、男は日用品を持って帰る癖がある。ポケットにねじ込んだオーデコロンを、男はすっかり忘れていた。
 すると、奇妙なことが起こった。
 さっきまで冷静に自分を狙っていた大ミミズが、急に躰をくねらせて、苦しんでいる様子を見せたはじめたのだ。
 あっけにとられていた男の頭に、不意に霊感がおりてきた。
(こいつ、目も耳もないのに、自分を追ってこられる……)
(ひょっとして、匂いか……!)
 男は歓喜に溢れ、立ち上がる。砂の中に潜ったミミズを確認し、オーデコロンの瓶を踏み割って、匂いの充満したその場から走り去る。
(助かった……)
 だが、男のラッキーもそこまでだった。
 オーデコロンの瓶から、十分に離れたところで、男は立ち止まる。
(ざまあみろ……もうあのクソミミズは、追ってこないはずだ……)
 静寂が、あたりを支配している。男は安堵のため息をつき、額の汗を掌でぬぐう。
 するとそこに、汗ではない、粘性のある感触があった。
 鉄臭い匂い。血。
 先ほどの横転で、傷を負っていたのだ。
(……)
 言い知れない、いやな予感。
 遠くから、しかし確実に自分をねらってくる、地鳴りのような音。
「駄目だ」
 絶望の呻きが男の口から洩れた。
 弾き飛ばされた男の影が、夜の砂丘にくっきりと映えた。

●任務
「ちっとこまったエリューションビーストが現れてな」
 将門伸暁は、頭を掻きながら、リベリスタたちに状況を説明し始めた。
 計器が静かに明滅するブリーフィングルーム。デスクの上に、伸暁はどっかり座ってしまう。
「元はミミズだ。砂ゴカイ……なんて言ったりする。あの気色の悪いやつだ。頭は悪い。砂丘の中から出てこない。ただ、砂に潜って、相手を追跡する」
 伸暁は、自分の鼻を指さす。
「ここがな、とんでもなくいい。獲物のにおいを嗅いで、地中から忍び寄る」
 眼前のディスプレイに灯がともると、地図が映し出された。
「ここ、この砂丘。けっこう見晴しがいいので、観光地にもなっている。ここで数日後、バスに乗り遅れて歩いて突っ切ろうとしたバカなサラリーマンが食い殺される。しばらくすると、観光シーズンが来る。非常に厄介だ」
 ディスプレイが消え、伸暁がこちらを向く。
「そのまま相手にすると、動きは早いし、砂のなかに隠れる。なかなかの強敵だ。だが、二つこいつには弱点がある。ひとつは『嗅覚が鋭い』こと。これは相手の武器だが、逆に利用することもできる。それから『他の器官が退化しきっている』こと。強烈なショックでも与えてやれば、びっくりするんじゃないかな。
 ……ちっと頭を使う仕事だ。そういうほうが、得意なんだろう? 頼むぜ」
 伸暁はそう言って、にやりと笑った。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:遠近法  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月21日(金)00:00
遠近法(えんきんほう)と申します。

●任務達成条件
・エリューションビーストの撃破。

●戦場
・月の照っている砂丘です。夜間ということもあり、人がいる可能性は低いです。特殊装備なども必要なさそうです。
・だいたいの場所の予測はつきますので、遭遇は問題ありません。

●エリューションビースト
・巨大化した砂虫です。他の器官はすべて退化していますが、嗅覚だけ非常に発達しており、それで獲物を捕らえています。『刺激臭』『甘い匂い』『血の匂い』の順に好んで反応します。
・牙による出血、体当たりなどを行います。
・非常に厄介そうですが、作戦によっては手際よく退治できそうです。

 プレイヤーの皆様の参加をお待ちしております。
 情熱あふれるプレイをしましょう!


参加NPC
 


■メイン参加者 7人■
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
★MVP
ジーニアスプロアデプト
メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)
アークエンジェプロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
ビーストハーフミステラン
テテロ ミミルノ(BNE003881)
ハイジーニアスマグメイガス
六城 雛乃(BNE004267)
   

●遠
 西の空から夜が押し寄せてきた。夕暮れの紫紺から、徐々に夜の群青へと色合いが変わっていった。
 瞬く間に星がちりばめられ、輪郭のくっきりした月が、砂丘を青白く照らした。
 七人のリベリスタたちは、とうにエリューションビーストの迎撃態勢を整え、敵の出現を待ち構えていた。
 戦闘開始とともに補助の術式を発動できるよう、集中を高める者。五感を研ぎ澄まし、索敵に余念のない者。
 遠視を用いていた『贖いの仔羊』綿谷・光介(BNE003658)が、ふいに眇めた目を瞬かせ、傍らのリベリスタに話しかけた。
「まだ、状況に変化はありませんね……」
「でも、そろそろですね」『天の魔女』銀咲・嶺(BNE002104)は、ふっとため息を漏らした。身にまとった白銀の羽衣が、夜風に靡く。砂丘のただなかにあって、彼女の美貌は、何がしかエキゾチックな、あやしい魅惑を感じさせた。
 光介は、ふっと表情を和らげた。どこか影のあるそぶりを見せる彼だが、そうしてみせる表情は、あどけないイノセントな少年そのものだ。「しかし……なかなかこんな作戦も珍しいですね。奇抜な相手には、奇抜な策というか」
「相手が、相手ですから」嶺も嫣然と笑う。今回の相手はミミズ、長虫だ。嶺は鶴の化身であり、鳥は虫を食らうというが、さすがに巨大ミミズは遠慮願いたい。
「……砂虫風情、地べたをはいずりまわっていればよいものを……」研ぎ澄ませた五感の集中を解くことなく『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が憎々しげにつぶやいた。和装の、華奢で可憐な姿に似合わぬ、強烈な毒舌だ。
「キモい」少し離れた場所から遠視を続ける『Eyes On Sight』メリュジーヌ・シズウェルが吐き捨てた。野性味あふれる、はっと目をひく顔立ちが、一瞬歪む。身にまとったミッドナイトブルーのバトルスーツが、月光を映じ、なまめかしく光沢を放った。
「ロマンティックな砂丘の夜、気分は最高なのにね。さっさと退場してもらおう」『ファントムアップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)が、香水の壜を取り出し、月光に透かして見せる。男性と思えぬ、憂愁に満ちた美しい顔が、香料のエキスの向こうでゆらめいた。
 今回のEビーストは臭いに反応する。効果的に誘導するため、リベリスタたちは様々な臭いの発生源を用意したのだ。
「まったく、せくしーミミルノに、ふさわしくないてきだね!」ぷんすか怒ってみせるのは『くまびすはさぽけいっ!』テテロ・ミミルノ(BNE003881)。かわいらしい顔をしかめて、熊の耳をひくつかせる。
 そんな様子を眺めながら『六芒星の魔術師』六条・雛乃(BNE004267)は、こわばった表情を一瞬緩めたが、すぐまたきっと顔を引き締めた。何の理由があるのか、美しいその顔は複雑な陰影が刻まれ、なにか凄味のようなものがあった。
 その時、ユーヌが呟いた。「近い」
 一同がはっとした。光介とメリュジーヌが顔を向ける。
 そして、絶句した。
「敵影確認。予想通り……しかし、これは」光介が言葉を切った。
「早い……」メリュジーヌが呟いた。

●近
 メリュジーヌは目に自信がある。人並み外れて視認の能力は高い。しかし、そんな彼女の目をもってしても……いや、彼女ほどの力の持ち主だからわかるのだ。
 相手のEビーストは、尋常ではない速度で移動している。
「超頭脳演算開始!」凛とした声で嶺が叫ぶ。「指揮と支援はお任せ。さあ、猶予はないわ!」
 その声をきっかけに、一同が行動を開始する。「よーし、みんながんばるのだー!」さっそくミミルノが秘儀を発動する。かわいらしい容姿に似合わず凄腕の術士である彼女は、腕の一振りで天使の羽を降り注がせ、仲間たちに限定的な飛行能力を与えた。
「化け物め! 悔やみながら朽ち果てろ!」ユーヌの構えた術符が闇に溶け、地に溜まったところから、ユーヌの影そっくりの人型が現れた。ユーヌの使役する『影人』は、シロップのパックを受け取り、義衛郎にぴったりと従った。
 義衛郎は、仲間たちから適切な距離をとって、幻想纏いからオーデコロンの壜を取り出す。そして、躊躇なくそれを自分の身体に振りかけた。
「うまく引っかかってくれよ!」
 その瞬間、あてのない暴走を繰り広げていた化け物が、一瞬静止し、義衛郎めがけて暴走し始めた!
「一名様、おなーりぃ!」景気よくメリュジーヌが言う。「白い人がへばっちゃったら、次は誰だろう。羽の人? お嬢ちゃん? 私だったりして」にやりと笑いながら、右手に術式の網を準備する。「そうなったら……囮頑張る!」
 嶺と光介は、状況の変化に備えて待機。なにしろ、臭いで誘導する作戦、血の一滴でも流れれば、それでおじゃんだ。化け物は血の臭いをもっとも好む。回復のエキスパートである光介の存在は、切り札ともいえた。
 そして、義衛郎。
「とあああっっっ!!」
 囮となった彼は、化け物をかく乱するように、右へ左へと動く。背後で時々ガバリと音がして、化け物が大口を開けた気配がする。追いつかれそうになったと見るや、彼に従っていた影人がシロップのパックを割って、そのまま化け物の餌食となった。
 そこに生まれた隙に、義衛郎は一撃を見舞う。凍結の力をはらんだ刃は、化け物の動きを鈍らせる。氷霧をまき散らし、巨大なミミズは悶え苦しみながら、砂中へと没していく。
 そして新たに召喚された影人とともに、再び義衛郎が駆け出す。臭いが弱まったり、化け物の気配が薄れれば、さらに濃厚な臭いを吹き付ける。オーデトワレ・オーデパルファム……。
 そうして動きを封じ、敵が逃れられなくなったところで総攻撃に移る、という段取りなのだが。
「まだだ! 紙切れ相手に踊れ!」懸命にユーヌが影人を生み出す、その傍らで、嶺はこめかみに伝う汗を感じていた。
 早い。早すぎる。
 すでに誘導用の臭いは、相当濃厚なところまで来ている。囮の動きは的確だが、展開が思ったよりも早い。手詰まりになり、誰かが傷を負ったら、この作戦は失敗する。砂虫の誘導は不可能となり、力押ししかなくなる。最悪、逃げられる。
 ミミルノは異界からの力を集中させた防護壁を、仲間に展開し続けている。
 嶺はばさりと、六枚の翼を広げた。戦士としての勘が「今しかない」と告げていた。高濃度のパルファムを、ためらわず全身に吹き付ける。動物性の麝香のようななまめかしい香りが、夜気とまざりあい、月光に照らされる砂丘に漂った。
「ガアアァァァツツツ!!」砂虫はすぐさま嶺に向き直った。ばくりと化け物の顎が開かれる。開いた口腔に飲み込まれるかと思われた瞬間、嶺は砂を蹴って天へと飛翔した。貪婪な顎は、香りだけ残して逃れた嶺の、その残滓だけをむなしく噛んだ。
 すかさず光介が、手にした蛍光色のプラスチックボールを投擲する。ボールは化け物の鼻づらにヒットし、すさまじい悪臭をまき散らした。
「メチルメルカプダン。玉ねぎの腐敗臭ですね。防犯用カラーボールは手軽に手に入りますけど、効果は強烈なのが多いですから」
 すさまじい勢いで体をのたうたせ、苦しむ砂虫。
「腹ペコか? 間抜け面め、前菜のお味はいかがかな?」
そこに飛び込んできたユーメが閃光を放射する。退化した目に、突然の刺激をあたえられ、砂虫は苦しみに全身をひきつらせる。さらにEビーストを縛り付ける、メリュジーヌの魔力の網。とどめに雛乃の家から持ってきたお酢が投げ込まれる。
 乱戦が始まった。

●至近
(……やるしかないか……)雛乃は、メガネを直して砂虫を睨みつけた。
 混戦でも、リベリスタたちは手を出しあぐねていた。「血を流した瞬間アウト」という縛りが、かれらの動きに枷をはめているのだ。
(危険だけど……一か八か、やってみるよ!!)
 低い詠唱とともに、雛乃は両手をパチンと合わせる。
 その掌の間隙から、どろりと黒い血が流れ始める。
 ゆるやかな詠唱は渦を巻き、それとともに雛乃の血は、まるで空中をつたうようにまっすぐ流れ始める。交差し、広がり、よじりあう。血の筋は鎖となり、瞬く間に鉄条の網が張られた。
「葬操曲・黒! さあ、飛び込んでくるがよい!」
 鉄臭い、まぎれもない血の臭いが、こんどこそあたりを支配する。
 その瞬間、砂虫の身体がずぐんと膨れ上がった。
全身の氷結をものともせず、血の網にむけて化け物は爆走を開始した!
「ひなの―っ!!」悲痛な声を上げて、ミミルノが術式を飛ばした。
 砂煙を盛大にあげて、猛進する砂虫。対峙する雛乃、血の網の主、蜘蛛の女王は、不敵な笑みすら浮かべ、向かい合う。リベリスタの矜持、それだけが雛乃を支えていた。
 轟音とともに、化け物が血網に絡め取られる。その瞬間、鎖が血を吹き出し、赤黒い大瀑布となった。砂虫は押し流され、のたうちまわる。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
雛乃の身体が宙を舞う。物理攻撃は無効化されていたとはいえ、衝撃は防ぎきれない。頭部から落下する雛乃。
その額を伝う血。
「危ない!」嶺が雛乃めがけて空中からダイブする。化け物が再び突撃を開始したら最後、雛乃に避けるすべはない。
 義衛郎はためらわず、自分の掌に刃を走らせた。
鮮血が夜にしぶきをあげる。
「よそ見するな! こっちへ来い!」義衛郎が吼えた。
 すでに相当動きを鈍らせている化け物は、それでも義衛郎めがけて突っ込む。
「ぶつりてきなこうげきを、なしにするのだ!」ミミルノはあくまで的確に、義衛郎のフォローに回る。その傍らから、ユーメの生み出した影人が飛び出す。手には血液パック。光介が用意したものだ。
 影人が砂虫に噛み砕かれ、あたりに濃厚な血の臭いが漂った。
「癒しの術の最奥義……『デウス』よ!」
 白日のごとき光が光介から放たれ、強力な癒しの術が、傷ごとリベリスタたちを回復させる。あとに残るのは血の臭いのみ。砂虫の狙うのは、その臭いの大本、血液パックの保持者……光介だ!
 彼は、笑っていた。一撃目は躱せても、そのあとの攻撃はやりすごせない。
 そのつもりもなかった。
「僕でも、役に立てることがあるのなら……」光介が、観念の笑みを浮かべる。
「させないぞ! 無意味で無価値な駆除対象、そんなものにやられるな!」ユーヌが叫んで、翼を大きく広げる。普段はきらって着物の下にひそめている翼で、気流のうねりを引き裂いて、地表すれすれを滑空する。
体制を必死で整えつつ、ユーメは術符を取り出す。すれちがいざま、砂虫に渾身の巫術を見舞う。星の加護を受けた術符は、砂虫を縛り上げる。
砂の波を盛大にあげ、光介を半ば引きずるようにして救い上げた。
 砂虫のまき散らした氷塊の上に、赤黒い物体が残される。
 最後の血液パックだ。
メリュジーヌは氷塊ごと、そのパックを思い切り踏み割った!
「さあ、ばっきゅんタイムだ! 整形必須にしてあげる!」
 笑いながらディグニティコアを振りかざす。その射線の先にあるのは、全身に氷をまといつかせ、すでに瀕死ながらも、なお猛り、えたいのしれぬ破壊欲につきうごかされた巨大な砂虫だ。
「フィアキィ! てきをこーらせるのだ!」
 ミミルノが絶叫する。彼女にこたえ、氷の精霊がまばゆい軌跡を描いて、砂虫の頭部に激突する。氷の破片がきらきらと、月光に反射して砂丘に舞う。
 そして上空から、雛乃を抱えた嶺が片手で鋼糸を放つ。狙いははずれることなく、砂虫を的確に貫く。抱えられた雛乃も、術の翼をはためかせ、マジックミサイルで狙う。
「くーらーえーっ!」
 絶叫とともに、メリュジーヌの銃が火球を放つ。一発、二発、三発!
 轟音と火柱がいくつも上がる。闇の砂丘に、化け物の巨大な影が踊る。
開いた化け物の口、その深淵の中に、いくつもの火球がさく裂した。
「これで最後だ!」
 そして跳躍する義衛郎が、ちいさな翼を波打たせて、夜に舞う。
 この世のものとは思われぬ、神技ともいえる剣さばきが、化け物の頭部に撃ち込まれる。
 そして義衛郎の姿は、剣撃とともに闇に溶ける。
 蜃気楼。彼の姿はうつろに消えはてるが、斬撃にこめられた怒りや思いはEビーストを正確に打ち砕いた。
『ラ・ミラージュ』……蜃気楼の名を持つその刃で、砂虫の生命活動は停止した。
 ゆっくりと砂の海にくずれていく砂虫。その姿を見ながら、義衛郎はうすれていく意識を感じた。血の臭いと、濃厚な香水の臭いを鼻孔の奥で感じたとき、暗闇がやさしく、彼を抱きとめていった……。

●そう、遠くない
「……以上のデータより、彼のエリューションビースト(以下、Xと呼称)は、いまだ未分化の器官、組織が多数存在しており、いわば幼形成熟(ネオテニー)であると想像される。フェーズの進行などにともない、Xには様々な亜種が存在し、また未来に発生しうると考えられる。そうした中には、特定の臭気にのみ反応する群体(以下、XXと呼称)、毒性の強い体液を保有する群体(以下、XYと呼称)などの危険な存在も想定される。現状で想定されるのは、これらを含めた五種であるが、以下、その発生経路、状況をシミュレートする……」
「けっ!」伸暁は、先ほど送られてきた報告書を、丸めてくずかごに放り込んだ。
「五種類だって? あいつらは寝てるんじゃないのか? あのくらいの化け物は、今後山ほど出てくるよ! 合体するの、火を吐くの、誰かに使役されてるの……」
 リベリスタ達の水際だった連携により、多少不測の事態はあったものの、Eビーストはぬかりなく撃退された。しかし、次の敵はすぐ間近に迫っている。伸暁は、データではなく、肌でその危険を感じていた。腕を組み、彼はじっとブリーフィングルームの椅子にうずくまる。その眼光は炯々と光っていた。
「つぎは、もっと苦しいかもしれない……頼むぜ……」

 そして、砂丘では。
 リベリスタたちは星を見ていた。
 だれも言葉を交わすことはない。言葉は不要だった。
 疲労のあまり失神した義衛郎は、そのまま眠りこけている。
 黙って膝を組み、星を眺める光介は、死ぬことのできなかったわが身を嘆いているのか。
 一方、血まみれになりながらも満足げなメリュジーヌは、ほほ笑みを浮かべて星を眺めていた。ちいさな事件……そう、リベリスタにとっては、この戦いさえもちっぽけな事件の一つなのだ。
 何かを悟るかのように、ミミルノがメリュジーヌのそばで安らいでいた。
 雛乃はその両手を血に濡らしたまま、星のきらめきを見上げて、幼女のように放心していた。
 そして、嶺とユーヌは、夜風に翼をそよがせながら、星を見ていた。
 嶺はそのたぐいまれなる美貌を、憂愁にくもらせて。
 ユーヌは繊細な細面を、いくぶん決意にこわばらせて。
 悠久とも思える砂の連なりを、風が吹き抜けていく。その風が一瞬、強く匂ったようだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ありがとうございました。
「臭いによる鬼ごっこ」というだけで、これでもかというアイデアの乱舞に驚きました。
 そのアイデアも、ひとつひとつが組み合わさり、よく整理された印象を受けました。
 そのなかでも「全体を見渡した戦略」と「プレイングの楽しさ」そして「熱さ」から、お姉ちゃんにMVPを進呈したいと思います。もう、だれがMVPでもいいんですが……。
 マスタリングしていても本当に楽しかったです。またぜひ、熱いプレイをしましょう!