● 人型アザーバイド、通称『嫉妬姫』<ゼロフィリア>。 嫉妬に狂い、嫉妬を慈しむ、異界の魑魅。 閉ざし閉ざされた、輪廻の門。 彼女の双眸がその領域を睥睨する時。 冥府へと降りて逝ったオルフェウスが、振り返ってしまった様に。 ……ああ、どうして胸の鼓動が消(とま)らないのだろうか! 詩人の唄う一片が涙を流させるのであれば、どうもない。 不信が齎す結末が男を八つ裂きにするのであれば、仕様が無い。 だからこれは舞踏。アジタートなロンドは巡り巡って終局。 彼女の名は、『嫉妬姫』<ゼロフィリア>。 対峙し者全てを情欲で蹂躙する、世にも薄気味悪い最後の鬼。 ● 「燦々と照らす日の光は我の背を焼いて」 嫉妬姫は優雅に髪を靡かせる。 「心地よいな、ボトムの諍いは」 ゼロフィリアが食い千切るのは一億年以上の愛欲の果て。 「我の心を焦がすのはいつも―――」 嫉妬姫を満たす条件:感傷、干渉、緩衝、嫉妬、嫉妬、嫉妬、嫉妬! 「―――愛でよ。我の前で、愛でよ」 ゼロフィリアを震わす条件:嘘、虚、憎、嫉妬、嫉妬、嫉妬、嫉妬、嫉妬! 「嘘を塗り重ねて、」 嫉妬姫を消せ。 「虚実皮膜を礼讃して、」 ゼロフィリアを消せ。 「宴の準備だ!」 嫉妬姫<ゼロフィリア>を、消せ。 『優しい鬼が微笑む季節』 ●ブリーフィング 「アザーバイドによる神秘事件が発生した。すぐさま介入して対処してほしい」 示されたのは美しい鬼。容姿は美しい鬼。けれどやっぱりそれは鬼。 「鬼は人に化ける。鬼は世界を侵犯する。彼女のコード<名>は」 『嫉妬姫』<ゼロフィリア>。 「正しく高位の存在である彼女は、多少、私達の常識から逸脱した思考を有している。彼女がボトムに現れ、人に仇なす明確な理由は、私にも図りかねる。けれど、如何なる理由であろうと、『彼女』の行為は正当化されない」 市民十名を襲った、猟奇殺人事件。表向き通り魔事件と処理された、一つの怪異。 その根源に佇む、一体の鬼。 「他のリベリスタらの誘導により、現在、彼女が出現した際に通ってきたと考えられるDホール付近へと戦場が移っている。初動を担当した当座凌ぎの急造チームではそれ以上の処理が厳しいと踏んで、皆に『そこから』をお願いしたい」 戦場は人々が犠牲となったその街の外れ。住居も商店も薄れた、田畑に囲われる平地。 「ゼロフィリアは戦闘面に於いての数値が極めて高く、完全撃破は難しいだろう、というのが『アーク』作戦部の見解になる。従って、今作戦では、どうにか撃退にまで持っていって欲しい」 フィクサードとも敵性エリューションとも異なるその敵。 撃滅すべき、忌避なる対象。 「周辺の人払いは済んでいるし、光源もこちらで用意した。――だから、余計な気は遣わないで、思う存分に戦って欲しい」 人殺しでは無い。これは、世界を侵犯する『鬼』を斬る―――退魔の闘い。 「それじゃあ、具体的なゼロフィリアの分析結果を手短に話すけど……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月21日(金)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●破綻した三段論法 嫉妬姫は唄わない。 嫉妬姫は正しく魔境の存在である。 嫉妬姫は嫉妬することでしか愛せない。 故に、嫉妬姫<ゼロフィリア>は死に損なう。 ● 常識とは、最も正確な妥協点の集合である。 そこに絶対的な定義を与える事は出来ない。解釈する主体の主観性に大きく依存した張りぼての振り子。そうである以上は、そうでない者の解釈は逸脱と捉えられる。 嫉妬姫は、ボトムのこの世界が好きだった。嫉妬姫はアザーバイドの中でも非常に人に近い個体であり、性別があれば感情もある、ただ、回路のスイッチが異なるからその思考の速さも質も大きく違う。 ただし、彼女はその上位世界の中でもまた異端であった。 夜の平原に佇む麗しい鬼。長く緋い髪を揺らし、翠緑の瞳が興味深そうに辺りを見渡す。何も無いその一面は『アーク』の者たちによって照らされ、さながら舞台に立つヒロインの様である。そして、そうであるのなら、彼女の眼前に立つ八名のリベリスタは、ヒロインを救いに来た勇者一行なのか、それとも、ヒロインを奪いに来た魔物共なのか。 双界の杖を地面に突き刺し、両掌を乗せ、余裕たっぷりに佇む『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)の姿はむしろこの世を統べんとする艶麗な魔王の様でもあり風が一陣吹き荒めば、彼女の艶やかな黒髪を撫で、凛然と輝く墨色の瞳を覗かせた。 「魍魎、鬼の美姫……。相対するのが天女に九尾に吸血鬼。さながら妖怪戦争ですね? 天女も、天竺では神の使いながら吸精と蠱惑の妖物らしいですから」 『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)はあくまで冷静に、この舞台を物語る。彼女が演じるのは天女。紅瞼明珠そのものの銀の瞳を妖しく光らすのは、今は亡き彼女の母親譲りの天性かもしれない。落ち着いた清楚さの中にそこはかとない色香が漂う、羽衣を纏った――天女である。 「お前さんが嫉妬姫か」 布が擦れる音。『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha”フツ(BNE001054)の袈裟が彼の声と共に揺れる。嫉妬姫は面白そうに目を細め、その揺れを眺めた。 「いかにも」 「ずいぶん人を殺してくれたみたいじゃねえか」 「殺す?」 姫を名乗るには質素な装いに身を包んだ細い左腕が、その緋い髪を撫でた。 「ああ、『君達の定義』ではあれを『殺害』と呼ぶのか。よろしい、確かに我は十個体を殺した」 「……無事にこの世界から帰れると思うなよ」 「我とヤル気か? はは、よいぞ、よいぞその心意気!」 美しい嗤い声が妙にハッキリと空間に伝わった。そして、今に至るまで目の前のリベリスタたちが『敵』であることすら認識していなかった嫉妬姫の常軌を逸した精神性を垣間見せた。 「あははっ、異界の鬼との戦いか。いいねぇ、気持ちが高ぶるよ」 そしてその嫉妬姫の笑いと呼応するかのように『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)も笑った。純粋な殺意だった。否、戦意と称した方が正しい。――戦闘狂。強さを求めるフランシスカにとって、十分に魅力的な嫉妬姫。 「その強さ、ぜひとも食らってわたしの糧にしたいわ。 ―――さぁ、斬り合おうか! 殺しあおうか!」 リベリスタが動く。彼らの取る陣形は、嫉妬姫を中心に十字。フランシスカは、無論、ゼロフィリア<嫉妬姫>の眼前、最前衛を買って出る。 (撃退?) 同じく前衛を務める『骸』黄桜 魅零(BNE003845)はその細く真白い首を横に振った。 (そんな甘い事言わせない。今ここで逃がしても、また次戻ってきたら犠牲が増える。 だからやるのは撃破。使えるもの、全部使ってでもコイツを倒す) 魅零の隻眼は蟠りを孕んで嫉妬姫を見遣る。そこに在るのは抑止力というよりも、視界の端に収まる『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)へと向けられた憧憬である。陽気に微笑む彼は鋏を手にし、ゼロフィリアを『殺す』つもりだ。魅零にはそれが我慢ならない。 「嫉妬姫」 先輩に殺されるなら、私が殺す。だってそれは最上級の『●●』だから。 「今日が貴女の命日。覚悟して」 その視線に嫉妬姫は歓喜した。素晴らしい感情の奔流である。彼女の暮らす上位世界では合理化の末に消滅してしまった感情である。 「我に命日などあるものか。あるとすればそれはこの世から『嫉妬』が失せたその日しか有り得ない! そして君達『人間』はどうやっても『嫉妬』する! ―――ああ、素敵ではないか。よかろう、それでは……『宴の開始』だ!」 高笑い。 打って変わって耳障りな残響がその場の雰囲気を変えた。異常な重圧が周囲を飲み込む。平原はいつしか平原ではなくなり、そこは嫉妬姫の庭へと変容していく。 予兆が歌となり、未来が過去へと変換される。嫉妬姫が喰らうのは一億年以上の愛欲の果て。リベリすたが対峙するのは感情そのもの。渦巻くような悪寒は全ての根源。 「サア行こうか、深緋」 戦いが、始まる。 ● (嫉妬姫さんが、どんな可愛い顔なのか楽しみだなー、と思っていましたけど) 体躯は人間大。違うとすれば禍々しいまでの圧倒感。 嫉妬姫の、嫉妬姫たる所以。 「綺麗ですねぇ、とても。とても素敵で……、素晴らしいことですよね」 ゆらと真上に振り上げられた嫉妬姫の腕が、たおやかに振り下ろされると、突如、地面が隆起した。意思を有するかのような土砂はそのまま蛇のようにのたうち回り、暴れ狂う。 リベリスタたちは各々膝をつき、武器をつく中、『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)もとい那由他は口元に微笑みを浮かべながら踏み込んだ。那由他の派手な衣装が轟音と共に抉られる中で、その手に持った槍を鋭利に突きつける。が、それが嫉妬姫の肌を貫く前に、彼女の視線に殺された。 「これはどうか?」 そのままの勢いで身体を入れ換える様に、嫉妬姫の『拳』が那由他の槍に沿う様にして、必然、その先に居る那由他の胸を直撃した。 「っ!」 もろに受けたその打撃に那由他の体躯は吹き飛ばされた。彼女には、嫉妬姫の有する攻撃の凡ゆる付加異常が意味を成さないが、単純にその威力が大きく優っていた。 「いっくよーー!」 「?」 直後、嫉妬姫に聞こえたのは場違いとも言える幼い声。彼女はそちらを振り向く前に、自らの腕を強く振り払った。 嫉妬姫の背後にはフランシスカと魅零の振るうアヴァラブレイカーと大業物が迫り――彼女は、右手一本でその二つを受け止めた。能力では完全にリベリスタを上回っている。……しかし、この違和感はなんだ? 「にゃろー、余所見してると殺しちゃうよ!」 フランシスカの黒剣がその第二陣を振りかぶる。ぎんと一際大きな衝突音が響き、再度、嫉妬姫に弾かれた。フランシスカの端正な顔も思わず歪む。 嫉妬姫からすれば、余所見もしたくなる。『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)の可憐で無害そうな外見は、嫉妬姫から言わせれば嘘だ。彼女のその異能は忌々しい――極めて忌々しい。 「ミーノはちからをもってる、よっ! みんなをいーーーっぱいかつやくさせることができる『ちから』がっ」 ……だって、ミーノはスーパーワンダフルサポーターだから! 七海と向かい合う形で嫉妬姫を挟む位置取り。ミーノの舌足らずな言葉が、けれど常に明確な拠り所を与え続けてきた言葉が、仲間を鼓舞する。彼女の言葉は確かに―――人を、輝かせる。 「気に食わぬなあ」 嫉妬姫の目は不満げにミーノを見遣る。彼女は『嫉妬』する事でしか愛せないし、『嫉妬』する事でしか自己を維持できない。彼女は『嫉妬』に依存しているが『嫉妬』そのものである。もっと爛れて、爛れ切った末にしか存在を肯定し得ない。 跳躍。嫉妬姫の身体能力は本質的に異質であるから、その結果が常識的に解釈できない。解釈できないのと存在しないのは同値ではないから、それは確実に其処に在る。だからいっそタチが悪い。 それまで実際は一歩も動いていなかった嫉妬姫が、ミーノへと間合いを詰める。七海の詠唱魔術がリベリスタらに擬似的な飛行能を付与し、機動性が大きく向上しているが、那由他の位置取りが大きく歪められている。十字で囲む以上は一つの単位に注げる戦力が削がれて、 (お姫様にはダンスパートナーがいないとシまらないよね) ゆらりと。ミーノを射程へと捉えた嫉妬姫の目の前に葬識が立った。 鬼は踊る。世界の底で。 ――今宵、終極に辿り着いた彼女のエスコートをするのは、鬼である俺様ちゃんだ。 ひゅんと風切り音が耳元を掠めて一閃、嫉妬姫の腕と葬識の鋏が派手な音を立てて交わった。 「嫉妬姫ちゃん、こんばんは。ダンスタイムは終わらせないよ☆」 弾かれてそのまま葬識が真横に一閃、バックステップで交わす嫉妬姫。 「やるのう」 戦闘中だと云うのに、嫉妬姫は腕を組んで顎をさする。だが、 「思考演算速度向上、魔力伝達良好。 支援は私とミーノちゃんにお任せを!」 思考とは即ち電子の流れである。意識が脳内神経回路の電子伝達の結果であるのなら、全ての事象は確率雲に支配された不確定な蜃気楼に過ぎないが、嶺の思考はそれを超越する。 正しくプロアデプトとして戦ってきた彼女であるが、今回は適任<ミーノ>が居る。自分は自分が出来る最大限の努力をすればいい。そのための異能であれば、 「――貴女を、討ちに来ました」 伝承の文献一冊分を全て緻密に刺繍してあるという夜行遊女。正に百鬼夜行と化したこの場で、嶺の放つ最高精度の気糸は嫉妬姫の身体を精緻に貫き、 「……ふん」 この戦闘が始まってから初めて、嫉妬姫<ゼロフィリア>に有効ダメージを与えた。 「貴女はここにきて新たな『嫉妬』の炎に身を焦がすことになるでしょう」 それは七海の言葉。語りというよりは宣告であるかの様で。 「わたくし達という存在に!」 ● 「示すは凶兆、現すは凶鳥。 ―――死相を喰らいて葬送せん!」 深緋色の無数の鳥が嫉妬姫を襲えば、まるでそれは鳥葬の様である。フツの攻撃は冷静かつ巧妙だった。彼はミーノと共に、彼女の指揮を受けて、幾度と戦場を乗り越えてきた。だから彼は、信頼という絆でしか築き得ない未来を知っている。 「小賢しいわ!」 群像を抜けるには、たったひと振り、右腕を振るえば良い。嫉妬姫の能力はその無謀を許容する。望星の異能を手繰り寄せた彼女には殆どの状態異常がメリットを喪う。そして、神秘を無に帰す。 「行かせませんよ」 その無謀の先には嫉妬姫を抱きしめたい一心の那由他が立つ。彼女がちらと視線を移せば、後ろから全体のダメージコントロールを行なっている七海の姿が目に入る。 「さぁ皆さん、望まれぬ者に闇の鉄槌を下すのです!」 敵に魅了され壊滅の危機を迎えずに済んでいるのは彼女の功が大きい。 「……所で、嫉妬姫さん」 振りかぶってからの一突き。多重の呪術を同時に刻印する極致の一突きを放って尚、那由他の顔は涼しい。その身体に蓄積した損傷は少なくないが、それ以上に。 「普段は、どうやって過ごされているのですか」 彼女に興味があるのだ。 嫉妬姫はその目を見た。感情の化身とも言える彼女には虚偽は通用しない。 「見目麗しい女性を前に、嫉妬なんて覚えませんよ。 どうやって美味しく、仲良くなろうかと悩むものでしょう?」 事態は深刻である。今、両者は命の遣り取りをしている。気を許せば互いに、いや、むしろ情勢的には那由他の身が危険である。しかし、言葉は全くその状況を反映していない。その不可思議さに、けれど、 「分からぬ」 と一言、戸惑い気味に嫉妬姫は答えた。うーんと那由他は唸って続ける。 「私の場合は、優しくするのも、傷つけるのも、傷つけられるのも、 何をするのもされるのも大好きですけどね。 だって可愛い子が大好物ですから!」 つまり、貴方も大好物だって事です。好きな人の趣味だったら、気になるものでしょう? そう言った那由他は、顳かみに汗が流れても、表情を変えなかった。 「――その目を、止めよ」 嫉妬姫は、『嫉妬』にしか生きることが出来ない。 だから、那由他の――歪んだ『純愛』は、彼女の奥深くを切り刻んでいった。 「痛ったいなー……」 よっこらしょ、とフランシスカは立ち上がる。魅零は初動に当たったリベリスタらの活用を試みたが、この巨大な力の前ではそれは微々たるものであった。何せ、『アーク』でも最上位の八名と言って良いリベリスタで五分五分、そしてそれは贔屓目に見ての五分五分である。 フランシスカからすれば、悪くないシチュエーションではある。手加減無しの剣戟は滾る彼女の中の欲求を刺激する。飽く無き欲求――戦いの果てにあるモノへの憧憬。 嫉妬姫の長射程の攻撃は、前衛を貫き後衛をも穿つ。被らない位置取りを常に維持し続けることは難しい。嶺と七海も例外ではなく、そして、前衛陣とは異なり耐久性に長けるとは云えない以上、その一撃が決まった時の衝撃は大きくならざるを得ない。 「みんなっ。きをつけてっ!」 それは七海と嶺が膝をついたことを察知したが故の、ミーノの素早く的確な指摘である。彼女は最優先で七海の回復へと向かえば、葬識がそちらへと吹き飛ばされていった。 「……そうそう、そうやって、俺様ちゃんだけを見てよ」 「減らず口を」 ぼうと嫉妬姫の周囲が淡く発光し始める。ミーノと嶺の観測、そしてそこから導き出される解を、フツは得ていた。彼にはその前兆が、広範囲に巻き込むものであることを理解している。だから、 「穿て、深緋!」 今までの攻撃では効いていない。が、効かせねばリベリスタ側の戦力は大きく削がれる。 なら信じて打ち込むしかない。 フツの喉が揺れる。その咆哮は裂帛のものである。 最早、それは声ではない。 「来い、坊主」 もっと嫉妬させろと、嫉妬姫が嘯く。彼女は真っ向からその一刺しを受け入れる。 「―――!」 一際大きな音が響いて、一瞬、時が止まった。飛ばされるのは女か男か。 ――うちのお姫様も、負けちゃいないぜ。 「っ!」 眉を顰めたのは嫉妬姫の方。その最上の一突きを、彼女は見誤った。そして、 「いらっしゃい嫉妬のお姫様、妬ましいぐらいの強さね。 その強さ、わたしに食わせて頂戴な」 待ってましたとフランシスカは黒剣を構える。 もう神秘リソースは枯れ果てた。フランシスカには、神秘を具現化した攻撃をする余力が無い。 焦りの様相を見せ始めた嫉妬姫を正面に見据え、ただ剣を構える。 上位の神秘技量ですら効果的だったとは云えない。だから、きっとまたこの地に膝を付く。結果は分かりきっている、が。 戦う事でしか得られぬ物がある事を知っているから。 「来い!」 只、斬り合いたいから。只、アヴァラブレイカーを振るう。 ● 「さあ、これからが本気だよ。 世界の終の終の果て、奈落の底のさらに先 鬼である君にも見えている?」 あれ、鬼は俺様ちゃんだっけ、まあ、いいや。 「天の恵みの祝福を! 姫様、私達はまだまだ遊べますよ!」 嶺の継戦能力も『アーク』随一である。彼女が齎すリソース量は、敵にとってみれば反則技である。 彼女の恩恵を受けて魅零が太刀を振るった。太刀筋は緩やかに柔く空間を切り裂き、嫉妬姫を黒い独房へと誘う。断罪を待つ永久の時間が逆巻き、気がつけば嫉妬姫は望星の加護を失っていた。そして、その隙を、殺人を愉悦する逸脱者でありながら、『アーク』でも無上の力を有する葬識が見逃すはずも無かった。 草原を踏みしめる彼の体躯は黎(くろ)く揺れる。揺れるのは彼自身か、それとも――。 だから魅零は気に入らない。その目がその切っ先が気に入らない。 (うー……葬識先輩……) 先輩に殺されるって事は先輩に愛されるっていう事なんだよ。 どうして貴女が先に愛されるの? 私だってまだ愛されていないのにどうして? その鋏が刻んでいいのは私の身体だけなのに――。 「黄桜後輩ちゃんヤキモチやいてるの? かわいいなぁ」 お願い……、私に、殺させて! と言うには、彼女の手番が早すぎた。だから、 「振り向いちゃいけないよ。振り向いたらそこが最後の別れだよ。 そんなの勿体無い。 そう思わない?」 冥府へ降りる時の、それがたった一つのルール。 ● 「もう来んなよ!」 「戦うのは楽しかったけどもう大変だから来ないでねー」 襤褸雑巾の様な姿で見送る姿は滑稽だ。けれど、それは名誉の負傷である。 「うーん、残念」 何とかDホールに押し込めたものの、嫉妬姫を抱擁する事は能わず、那由他は頬を掻いた。 美しいアザーバイド。もう二度と出会うことも内であろうとすれば……。 「死んででも抱きついておけば良かったですねえ」 嫉妬姫は『いつ』から『嫉妬姫』なのか? 嶺の問は、或いは七海の「何が貴女を駆り立てるのぁ」という問と共通する。 Dホールへと押し止められる間際、 「知らぬわ。この世に『見出された時』より我は『嫉妬姫』よ。 感情に綺麗も汚いも無いわ。――ただそこにあるだけ、だからな」 そう言った彼女の顔は何処か寂しげで。 「よくわかんないけどげんきだしてねー!」 嶺に「いや、駄目よ、彼女が元気になったら」「あ、そっか!」と窘められるミーノを眺めて、嫉妬姫<ゼロフィリア>は、不満げに、けれど嬉しそうに瞼を閉じて、ゲートが消失した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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