神秘探求同盟は、アークに於ける内的魔術結社である。 その目的はあらゆる神秘の発見とその探求に有り、構成員は日夜未知なる神秘の解析と取得、研鑽と発展に勤しんでいる。 その探究心の矛先は、決して一所に縛られる物ではない。 ソロモン王の末裔、魔神王キース・ソロモンとの交戦より早5ヶ月。 その神秘が実に12体もの魔神召喚と使役を可能とした事はまだ記憶に新しい。 だが、これらの魔術系統は少なくともアークにおいては失伝している。 召喚に類する魔術は唯一陰陽術の中に僅か残るのみ。 しかしこれら召喚術がキース・ソロモンの有する物以外絶滅している。 そんな事が果たして有り得る物だろうか? 否。胡散臭い神父姿の男がその確信を得たのは、つい先日の事である。 破界器を介し、そしてその完成度は大きく落ちるとは言え同系統――召喚魔術を蜘蛛の巣の魔術師デイブ=バスカヴィルもまた使用していた。 ならばその深奥は、無形なのではなく未知であるに過ぎない。 ――と、神秘探求同盟は、推論を立てた。 様々な文献は告げる。召喚と使役の魔術は存在する。 ではそんな中でも最も信憑性の高い物は。そう、ソロモンの魔術だ。 どんな高度な魔術も何らかの系統樹に属している。無から有は生まれない。 ゲーティア、ソロモンの鍵が実在するのであれば、レメゲトン、ソロモンの小さな鍵もまた、実在しても何らおかしくない。 推論に基づき、ソロモンの魔術発祥の地、イスラエルはエルサレム旧市街へと趣き、現地のリベリスタや知識人を辿り召喚術についての調査をしてみたい。 しかし、新参組織・アークの構成員が、件の土地をうろうろするのはあまりにもセンセーショナルが過ぎる。例え、それが本部の意向とは別のものだとしても。いや、別だからこそ、まずい。 では、どうしたらいい? 答えは簡単。合法的に入ればいいのだ。 神秘が飽和しているような土地だし、アークは、いまや、世界の便利屋として使われているのだ。 機会はいくらでもある。 ● ブリーフィングルームに集まったリベリスタを一瞥した『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、わぉ。と、小声で言った。 ものの見事に、とある結社の構成員ばかりだ。 「――分かるよ。まさしく、行きたくなるよね。その筋の人はね」 虚ろな笑いを漏らすフォーチュナの目が泳いでいる。 「発掘現場で、新たな竪穴が見つかったんだけど」 なにかを振り切ったらしく、いきなり本題に入った。 「場所がね、微妙なの」 エルサレム旧市街。 絡み合うリベリスタ組織の勢力範囲のちょうど交差するところ。 どこもうちの関係先といって譲らない。 三すくみ。放置したら、禍根を残すのは目に見えている。 「で、利害が衝突しなくて、今まで歴史的にもいざこざがなく、喧嘩売るにはめんどくさいうちにお鉢が回ってきました。実際、うちの経験値、この方面でもぶっちぎりになっちゃったしね」 分霊とはいえ魔王級との戦闘を経験して生き延びるのは容易なことではない。 「みんなには竪穴に入ってもらいます。なにが出るんだか、さっぱり。というか、何が出てもおかしくないね。古戦場だし、情念渦巻いてるし。当然、仕掛けもあると考えていいだろうね」 偏った決め打ちは、かえって危険かもね。と、フォーチュナは戦う考古学者の映画を上げる。 「で、なんか落ちてたり、埋葬されてたり、封印されてたりしないか見てきて。不用意な素人さんがうっかり開けたりしないようにしなくちゃいけないから。というか、もう怖い目にあって白髪になっちゃった人出てるから」 言うまでもありませんが。と、四門は言う。 「非常に微妙なところです。ありとあらゆる意味で。いい? 下手を打てば台無しなのはいわなくてもわかるよね。万華鏡使えないから、俺から言えるのは一般的申し送りと推察でしかありません。ぶっちゃけ、向こうの三組織のフォーチュナが言ってることがてんでばらばらで、まったく当てにならないの」 聖地である。 「くれぐれもやらかさないで。いいね。君ら死んだらいけないんだからね。無茶しないでよ。漁夫の利とか考えないでね! 見つけたものは速やかに提出! お持ち帰りとか考えない! 写しは取らない! 情報を隠避しない! 第三者機関として派遣されるんだから、当たり前!」 四門は涙目であるが、言わなくちゃいけないことは言うのだ。びびってるが。 「でもまあ」 これ、お餞別。と、ひっくり返して滝のように落ちる菓子箱の向こう。紅茶色の目が、三日月のようになる。 「たまたま見えちゃったのが目に焼きついて離れない。とかは、仕方ないけどね」 建前は大事なのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月13日(木)22:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● (初めての海外旅行がこんな形とは思いもしなかったが、なかなかどうして、面白い。ソロモン王縁の地、エルサレムか……一体何が眠っているのやら) 『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は、車窓から外を伺った。 これから挑むのは、竪穴だ。 地面に垂直に開いている、どこにつながっているとも知れない穴。 井戸のようなものだ。 ここエルサレムには、世界の終末の際、全ての魂が帰ってくるという『魂の井戸』と呼ばれている、黄泉路の二つ名に近い謂れの史跡があるが、アークのリベリスタとしてはそこが永遠にそんな事態にならないように奔走するより他はない。 観光客相手の露店が連なる辺りから一変、発掘現場ともなると武装した警備員が目に付くようになる。 神秘とは関係なくとも、学術的、美術的に価値あるものが出土してくる可能性はあるのだ。 (せっかくの旅行だ、土産の一つくらい持ち帰りたいものだな) できれば、露天ではなく、穴の底から見つけたいものだ。 「しんぴたんきゅーたんけんたい!!」 先陣を切って穴に入っていった『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)のおかげで、場の一触即発感は、かなり緩和されていた。 何しろ、日本から派遣されてきた連中は「日本」とは名ばかりの欧州の魔道名家に名を連ねる者が含まれていた。 『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、フランス・カレード家。 『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)は、ドイツのハルトマン家。 そして何より、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)と、この地で名乗る似非神父の胆力は特筆に値した。 場に渦巻く微妙な空気にすでに慣れっこになりつつある急成長新参組織の面々は、粛々と突入を進める。 「ふぅん、すごく興味深い」 『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は、この地に長らく住まう者には存在自体があるまじき無神論者だ。 (一応、目的は最深部への到達。一応……) 穴の中を覗き込み、くすくすと小さく笑うイーゼリットに、なんとなく周りの視線が集中する。 そうでなくとも、銀の髪と抜けるような白い肌はこの町では異質だ。 自分に集まる視線に、イーゼリットは自分が相好を崩して独り言をいっていた事実に気づく。 「何でもないの。それじゃ神秘探求を始めましょ」 「さてはて藪をつついて何が出るか、デスネ」 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)は、ぺたりと竪穴の壁にへばりつく。 「ロープは必要デスネ。下はどこまで続いてるのか分からないデスヨ。手を離したらまっさかさまデス。アハ」 足はつかない。どこまでも続く穴の底に下りていくのだ。 「盟友達との探索行、貴様等の保護者として楽しませてもらおうではないか」 豪胆な笑みを浮かべ、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)がその後に続く。 破壊神の加護を身に纏わせた二人が、凶事に煩わされることはない。 (――飛べて、よかった) シルフィアは、背中の羽根に感謝した。 イーゼリットは、もしものときは刃紅郎の上に落下するしかないと覚悟を決めざるをえなかった。 いかに非力とはいえ、神秘の器として身を解放した革醒者ならば、体の底から鋼と言う訳でもなければ自重を支えるくらいは朝飯前のはずだ。 あくまで、気の持ちようだ。自分のことをインドア派などといっている場合ではない。 そう、東洋にはいい言葉がある。 虎穴にいらずんば、虎児を得ず。 ● 精神年齢と持てる能力は必ずしも一致しない。 ピンク色の脳細胞は、この場において最も効率的な人の動かし方を常に計算し取捨選択に努めている。 「くらやみでもちょうよくみえるミーノアイ!」 言葉は人を強くする。そうあれかしと口することで事象は強化され、威力が増す。 ミーノは視界に入る時空のゆがみに、眉をひそめた。 「すとっぷ!」 ミーノは、次々と穴に飛び込んでくる仲間を制する。 「バグホールがいっぱい! これなんだろっ? なんだろっ? どうしたらいいっ!?」 ミーノは、判断を解析が出来る仲間に任せた。 「ふむ……」 要のミーノの護衛も兼ねた探索係と自らを位置づけたイスカリオテは、真上にいる黄泉路が照らす懐中電灯の明かりを頼りに、壁に目を凝らす。 楔文字に古代ヘブライ語。岩を削ってしたためられた文字のほかに、消えかけの判別不能の文字。 否、イスカリオテしか知りえない母国語、あるいは日本語さえしたためられている。 「ゼルマ?」 今一人の探索係、ゼルマがこしゃくな。と、呟く。 「ずいぶんとサービスがいい。全て、同じ意味じゃぞ」 そう。その場にいる誰もがどれかはわかった。 分かる言語で問われていた。 『何が知りたい?』 『何でも教えてあげよう』 『どれほど難解な事象でも』 『あなたが理解できるまで、何度でも、一番最初から教えてあげよう』 『何、時間なら腐るほどある』 『君が底まで落ちるまで。永遠にも近しい時間だ』 『さあ、何が知りたい!?』 意識の泉に投げ入れられた小石のような問いが、リベリスタの心に波紋を立てる。 イーゼリットの問いは、「あなたは誰?」 『なるほどなるほど。では――』 いきなり流れ込んでくる知識の奔流に、悲鳴が上がる。 「きゃ……」 (まずい) 背筋を凍らせる戦慄と共に、イーゼリットの常識を飛び越えたビジョンが今の状態を一足飛びで看破する。 この竪穴は、それ自体がアーティファクトなのだ。 ありとあらゆる知識を授けてくれる、魔道書のような性格。 大量のバグホールは、無数の上位世界のあちこちにつながっていて、必要な知識はそこから酔狂な『同好の士』によって行われる。 対価は、明確には定められていない。 彼らには、いと幼く、物分りが悪く、だが忘れる訳ではないから、いつかは会得する、知識欲には従順な存在を調教する――愛玩動物に芸を仕込む楽しみが提供されるのだ。 時間と言う概念は余り意味がない。 底辺世界的事象としては、疑問が発せられてから、穴の底に落ちきるまで。 とはいえ、穴の深さが分からない――逆に言えば、知識を会得しきるまで、穴の底につくことはないのだ。 翼を持たぬフォーチュナは言った。 『災いだ災いだ災いだ』 翼を持つフォーチュナは言った。 『我らの矛となり盾となるものが埋まっています』 異界との接触を拒むフォーチュナは言った。 『まったく何の意味もないガラクタだが、そこにあるのは忌々しい』 ● 深遠ヲのぞきし魔女・ゼルマも、また奥歯を喰いしめる。 『この奥にあるものは何ぞや』 探求の徒としての前提だ。 『なんでもいいぞ。なにがのぞみだ。魔道書か異界の召喚術か』 『それだけの器はあるか捧げられる供物はどこまでだ赤ん坊は処女は童貞は妊婦は。何人捧げられる一人か二人か村ごとか町ごとか国ごとか』 参考までにと視覚に流し込まれる、赤ん坊がごろごろごろごろごろと油を煮えたぎらせた鍋の中に放り込まれて上がったすすで書かれた魔法陣から呼び出された魔王がどうたらこうたら。右の耳からは堅牢な橋を作る為に必要な平均的な人柱の質と量についての考察、左の耳から、大天使の降臨させるために必要なゆりを栽培する為にどのくらいの乙女が必要か切々と訴える声。 こんなものを見せられては、一般人のせい神はあっという間にパンクしてしまう。 ゼルマだからこそ、今正気を保っているのだ。 『満月の夜に引き抜いたマンドラゴラは絞首台の下に咲くアルラウネは』 『魚の唾液鍛冶神の涙愛欲神の貞操』 『お前の家族の生胆膵臓腎臓もちろん直系が相応しいが三親等までは計算にいれられるか』 この世の地獄と犠牲の果ての天国と。成功した召喚とそれにかけられた供物のコストパフォーマンス。 片端から却下していく。 『あれもだめこれもだめ』 『場所も選ばず、星辰の定めにも囚われず、供物も捧げず、己が魔力だけでどれだけの存在を呼びつけられると言うのか』 『考察の余地はあるか?』 『おお、なかなかに難しいな。はてさて、どうしてやったらいいものか』 音量はデタラメ。音質もデタラメ。 チューニングとボリュームがおかしいラジオを頭の中で鳴らされている気分だ。 害意も悪意もない。 いっそあれば、攻撃だって出来るのに。 黄泉路の分析によれば、彼らは技術や情報の守護者に当たる神格で構成されている。 その所属する次元の底辺世界に対する干渉力の大小はあるにしろ、倒せる相手ではない。 彼らはボランティアのコーディネーターをやっているのだ。完全な趣味として。 カリオストロは交渉に転じることに決めた。 「我々は物を持ち出そうとしている訳ではないのです」 相手が何者か解析が終わった時点で、攻撃に転じようとしていた黄泉路は抜きかけた武器をまた収めざるをえない。 『では、理論か。よろこんで、教え込んでやろう。啓蒙は、我らの道楽。何、いかに短命な人間だろうと死ぬまでには終わる』 いそいそと、「ご好意」 が始まろうとしている。 ちょっと遊戯を見ていたら、斧の絵が腐れ果てた故事になぞらえるまでもない。 ありがたく頂戴したら、新たな技術を会得することは出来るかもしれないが、穴の外が氷河期になっている可能性だってある。 (穏便に事を進められないか) 竪穴で待っているのは、罠や障害で、その奥に宝箱よろしく「何か」 があると思っていた。 障害そのものが未知の召喚術を内包した「何か」 であることは想定していなかったし、そもそも交渉の為のカードは用意していない。 とにかくかけられる声、その感触を片端から記憶のひだに刻み込みながらも、強制的に頭の中を覗き込まれて、『望み』 を引きずり出される感触はいかんともし難い。 ぎりぎりと奥歯を食いしばる似非神父の様子を見上げる先遣隊。 磨耗する。 彼らは対価を望んでいるわけではない。 しかし、底辺世界の卑小な存在が、高位存在に触れられてなお『ジブンノカタチ』 を失くさずにいるただそれだけのために、多大な精神的消耗が強いられるのだ。 『習い覚える暇もない?』 『では、可能な限り急ぐかの』 ● (情報を仲間に……) 漏斗を口の中に突っ込まれて水を大量に流し込まれる拷問があったことをふと思い出してしまうほど、「ご好意」 は、苛烈且つ一方的だった。 『おお、おお、その件についてはな』 情報の奔流に枝葉がついて更に自我を呑み込もうとする。 それぞれが受けているのが、それぞれが潜在的に抱えていた疑問に添った答えで、圧倒的なインプットに自我を塗りつぶされないようにガードを固め、相手が寄越す以外の情報を引きずり出すのに腐心しなくてはならない結果、アウトプットが覚束ない。 リベリスタ達は、情報の面で完全に分断されていた。 そんな事態の為のミーノ、行方、刃紅郎と言えた。 破壊神は、戦闘から目をそらして忘我のビジョンに浸ることを、彼の庇護者に許さない。 「みんな、色々大変ぽいデスネ。トラップじゃなくて、これが本番だったと言う訳デスカ」 切り刻む以外の興味はアリマセンデス。と、行方は、ロープにぶら下がったまま硬直している魔術の徒を見上げる。 ロープ一本と命綱でぶら下がっているのだ。急いで離脱にも限度がある。 簡易飛行加護を持ち合わせたものはいないし、生来持っているのはシルフィアだけだ。 『聞きたいことはあるかね』 わくわくした感情を隠すことなく語りかけてい来る数多の存在を受け流す可能性を、鉄の精神防護壁が与えてくれる。 今にも、この状況を打破するにはどうしたらいいと尋ねたくなるが、そうしてしまえば刃紅郎言うところのお守り失格だ。 (――まじゅつにくわしければくわしいひとほど、このじょーきょーはつらいのね) まともに口を聞くのも困難となっている四人の様子に、ミーノは独自で判断しなくてはならないことを悟る。 ならば、「物理」で勝負できる先行班でどうにかするより他はない。 シルフィアが、動けずにいる三人の横をすり抜けながら、ミーノのそばに舞い降りた。 「勘だけど、ここはミーノのガードに入った方がいい気がするのよね」 このときばかりは、恐ろしい戦闘訓練をしてくれたおじに感謝せねばなるまい。 自分の肉体の相対的評価が駆け出しクラスだとわかっていたのにも拘らずのしごき。 フラッシュバックのように押し寄せる戦闘訓練の記憶が、シルフィアのうちからわいてくる疑問が表層意識に上がってくるのを阻止していたのだ。 だからと言って、二度とはゴメンだが。 「ミーノは、じげんのあなぼこをどーんとやって、ばりーんとするしかないとおもうの」 「無事に新たな神秘の深奥に辿り着けてるみたいデスケドネ。アハ」 恐ろしい域をで痙攣する眼球と震える舌と止まらない唇の動きで、魔術師たちが何がしかの知恵を授けられているのは推察できた。 「かおいろ、ひどいの。ぶじではないの」 ミーノの広域回復請願では、着々と削れていく魔力を継ぎ足していくことは出来ない。 「いまなら、よんたいよんなの。というか、ミーノもゆくえちゃんもしるふぃあちゃんもせおうのはむずかしいの。じんくろーちゃんにおっこっていかないようがんばってもらうしかないの」 行方の場合、力はともかく、体格的に支えきるのはちと難しい。 「危険を引き受けるのが我の仕事。罠に換わりに掛かってやる役は果たせなんだが、我が友の盾となるのに何のためらいがあろうか」 転がる大岩、動く床に生きている石像に正対することはかなわなかったが、この危機的状況を支えられるのは、刃紅郎しかいないのだ。物理的意味で。 今はなんとかつかんでいるロープを放したら、シルフィアが途中で追いついたとしても、精々一人か二人が限界だ。腕が二本しかない以上。 「デスネ。仕方ないデス。その後、ロープで引っ張り上げて担いでマショウ」 このままでは、健康の為に死ねたら本望って感じデスネ。 『おお、いかんよ。今、教えている最中だから――』 「またこんどよろしくね! なの!」 ミーノとて、高位存在に誓願し、回復の奇跡を分けてもらっている身である以上、この場に満ち溢れた無償の神秘の授与――まさしく福音についてまったくわからないと言う訳ではない。 だが、それを受け取るにはあまりに準備が足りていない。 それを受け取る神秘の器としても、装備や準備も。 体を支える大地もない。 いかに行方に面接着があるとはいえ、宙ぶらりんの術者たちをぶら下げたままでは、格好の人質を足られて戦うようなものである。あり得ない。 ミーノは『わんだふるさぽーたー』 なのだ。 サポートするべき大事な人達の心身を守るのが第一義なのだ。 今、この場でそれが出来るのは、ミーノしかいない。 その場に出現している数多の次元断層を全て割る。 『――まだ、序の口にも差し掛かっておらんぞ――』 不満げな声が、聞こえたような気がした。 ● ほんの数分もぐっただけのつもりだったのに、井戸の外に出てみればたっぷり三日かかっていたという。 報告の後、協議会はバグホールの崩壊に伴い、当面の危機は回避されるだろうが、長期的には危険と判断。 竪穴は、合同で見張られることになるそうだ。 『すごく長い自己紹介だったわ。聖なる大星霜会派修道士にして不滅のアレキサンドリア大図書館司書にしてトプカニカの大いなる保管庫の鍵を預かるものにして――』 「あなたは誰」と問うたイーゼリットは、延々と名乗られ続け、彼の魔道書収集についての功績について語られたそうだ。 「私のことは、とりあえずは、アントニウスと呼ぶといい。ですって」 ゼルマは、『見た者から学べ』 という方針の高位存在に当たり、延々とスケッチをさせられることになる。 少なくとも、かつて魔王の粗雑な分霊級を呼び出すには、都市の一つも差し出すくらいの犠牲を払わなければいけなかったのは骨身にしみて分かった。 黄泉路は、垣間見た高位存在の性質について延々と語ることになった。聞き取り担当が、時折感動の余り泣き出すのだけはどうにかしてほしかった。 そして、カリオストロは、あまりにも大量な情報を一度に流されすぎて、しばしの混乱を禁じえなかった。 結果、残った記憶はかなり断片的なものだ。瞬間記憶で見たモノはすべて覚えているが、それが何だったのかという部分が欠落している。 だが、現実に見ればきっと分かるという確信は持てた。 記憶の中には、確かにある。 『場所も時も供物も選ばんで、強力な存在を召喚できる術が載った魔道書なんて、ある訳なかろうが』 『が、そのあたりをごまかしてくれるものはあるな』 『集めればどうにかなるかもしれん』 ● 事情聴取は続いている。 「もう少し、探求家らしい力も着けておこうかしら――」 手についたロープのあとを見ながら、シルフィアは呟いた。 とりあえず、命綱の縛り方は必須なように思えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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