● 幸福な時間は、過ぎればその人にとって薄汚れたガラクタに成るんだろうか。 ぽつぽつと降る生暖かい雨に身を晒しながら、私はそんなことを考えていた。 ――目の前には、ゴミの山に紛れて、薄汚れたブレスレットがある。 彼の誕生日の日に私が贈ったそれは、既に持ち主の熱を孕んではおらず、触れれば只鉄の冷たさを、私に与えてくるだけ。 「………………」 愛していた。 だから、愛されていた。――そう思っていたことは、只の間違いだった。 手の平に包み込むことも難くはないそれを、私は両手で抱きしめて、膝を着く。 雨音は、鳴りやまない。 水を吸って肌に張り付く衣服も気にせず、私は思い出を胸に、唯泣き続けた。 ● 「……これが、今回の依頼を行わない時点で迎える未来」 未来映像が暗転し終えた頃に、話し始める虹彩異色の少女――『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、それと同時に何枚かの写真をリベリスタに提示する。 それらは一枚を除き、先の未来映像でリベリスタが確認したものばかりだった。あの少女の正面からの写真と、ブレスレット等々――だが最後に写るそれを見て、リベリスタは思わずその内容を声に出してしまう。 「……ゴミ捨て場?」 「そう」 漸く声を発した少女に、リベリスタ達が視線を向ける。 「今回の依頼は、三高平の市内ゴミ捨て場のうち、計六カ所から、先ほどのブレスレットを探してくること」 「……。は?」 あまりにも普段のそれと毛色の違いすぎる依頼内容に、さしものリベリスタ達も目を丸くする。 が、相対するフォーチュナの瞳は何処までも真っ直ぐで、だからこそその発言が本気であることを疑わせない。 「巫山戯ているわけじゃない。何故と言って、この女の子は狭間の能力者――リベリスタ、フィクサードどちらでもない、エリューション属性とフェイトを持った存在なの」 その言葉を聞いて、漸くリベリスタ達も合点がいった。 「振られた腹いせに……力を使って殺す気か?」 「只振られただけで殺すほど、本来のこの子は不安定じゃないんだけどね。今回はその彼氏が浮気性な上、かなり手ひどく振ったみたい。今のところは平静を保ててはいるけど、自分の贈り物までゴミとして捨てられているのを見て、彼女の精神は完全に崩れるらしいの」 少し伏し目がちなイヴを見て、リベリスタ達も僅かにため息を吐く。 未来のフィクサードを産まないために必要な使命、と言えば聞こえは良いが……まあ、結局の所は只のゴミ漁りである。多少なりともモチベーションが落ちるのは仕方がない。 「……それと」 「未だ何か用件があるのか?」 「と言うか、依頼に関するもう一つの情報。現在三高平は、独自に衛生強化施策を展開している話は知ってる?」 「……夏の到来に伴う衛生状態の悪化、関連エリューションやアザーバイド事件の増加を危惧した上役がどうこう、って言うのは」 「うん。で、今回みんなに行って貰う六カ所のゴミ捨て場には、何れもエリューション・ゴーレムが発生している地点なの」 「……」 只のゴミ漁りではなかった模様である。 「基本的に敵の数は二体から三体。特殊能力は持っていなくて、遠近どちらでも攻撃可能な程度、なんだけど……今回は市内各所に有るゴミ捨て場を回るために、貴方達一塊では映像で見た未来までのタイム・リミットまでにはどうしても間に合わない。必然、人数を分ける必要がある」 「……そして人数を割り振りすぎれば、今度は逆に戦闘に時間を取られるため、上手い人数構成を考えろ、と」 「そう言うこと」 案外ハードな依頼に対しても、フォーチュナの表情にはまるで変わりはない。 信頼の証か、若しくは素か。窺い知れぬ感情を読み取るより早く、フォーチュナはリベリスタに言い放つ。 「手に入れたブレスレットや、女の人に関する処遇は特に決まっていない。みんながやりたい事があるなら止めはしないけど……今の彼女の精神状態をよく考慮した上で、行動してね」 以上、と言われたリベリスタは、若干苦笑を交えながらも、少しのやる気を起こして、仲間達と共にブリーフィングルームを後にする。 何処まで行っても行為は結局、ゴミ漁りではあるが――少女の笑顔を守るためとでも銘打てば、正義の味方としても吝かでは無かったから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月12日(金)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●開幕は、曇天の下で。 曇天が、空を包んでいる。 雨が降るまでもうじきだろうか。熱帯夜、湿気を孕んだ風が身体を汗ばませる不快感を感じつつ、『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)は空を眺めていた。 「失恋……ですわね」 浮かべる表情は、哀惜。 狭間の能力者足る少女の、傷ついた心。その痛みがどれほどのものであろうか。想いを馳せても、答えは返らない。 「自分から振ったと思えるだけの強さがあれば……全てをさらけ出して思う存分吐き出せる親友がいれば…… 後はもう、日々の人との触れ合いでゆっくり悲しみを磨耗させてゆくしかないですわ」 語る言葉は真実であろう。それが摩耗できるほどの悲しみであるのなら、という前提にはなるが。 今宵、傷は心を殺す。無惨に捨てられた少女の悲哀は杯よりあふれ出し、怨嗟となって彼女を包み――そうして、少女は敵となる。 「心情は察するに余りあるけど、それで現在も未来も全てを台無しにしてしまうのは……」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の表情は優れない。否、それは恐らく、皆同じ。 (そんな結末を覆すためにも、すぐ先にある分岐点を私達の手で変えてしまわないと) 嘘をつこう、真理を隠そう。そうして救われる誰かが居るのなら、その罪を是として受け止めよう。 ――けれど、それは真の救いと成りうるのか? 「……どうせ俺たちが隠しても、彼女に現実はすぐ訪れる。その時フィクサードとなってしまっては、意味が無い」 『一人スタイリッシュ』司馬 鷲祐(BNE000288)の言葉は、硬く冷たい。 真実は、神秘と同じだ。隠匿しても端々は見え、そうした断片が見られる度、映るそれらはより大きく覗いていく。 きっと、結果は変わらない。言う彼ではあるけれども、それは決して、無慈悲が故の言葉ではないのだ。 愛は一つの力だ。人の心を変容させることさえ容易とするそれは、深いほど強く、強いから尚深まっていく。 だが、現実は愛をも喰らう。心に根強く張っていたそれらを千々に喰い裂かれ、今の彼女は傷んでいる。 ――ならば、彼女の愛故の痛みは全部受け止めよう。 それが苦い記憶でも、醜い男性(ひと)との辛い過去でも。 その全てを唯の傷として残して欲しくは無いから。それを一つの思い出として、受け止められるようになって欲しいから。 「彼女は、とても辛いんだね……。それでもボクは彼女に罪を犯して欲しくないよ……」 「同感。こんな酷い男のためにフィクサードになっちゃうなんて絶対に嫌だよ。だから、その子のために、あたしががんばるよ」 沈痛な表情で言う『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)に、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は憤懣やるかたないと言った調子で応える。 愛した人に裏切られたら。その仮定を現としたかのような少女に対するアンジェリカの想いと、人でなしの男に人の運命を変えられて堪るものかと臨む二人の姿は、正しく意気軒昂と呼ぶに相応しい。 「ええ。必ず彼女よりも先にブレスレットを見つけないと……」 依頼内容を再度口にし、確かめつつも、手首に嵌めた白金の円環を撫でる『深き紫の中で微睡む桜花』二階堂 櫻子(BNE000438)は、それと共に自身の幸福を改めて実感する。 誕生日、愛する人から贈られたブレスレット。永遠の絆の意を込められた金剛石は、この闇夜の中でも小さな街灯の光を照り返し、その美しさを欠片も損なわない。 それだからこそ、解る。この宝物を仮に芥として捨てられた者の苦しさが、哀しさが。 離別は既に起こり、一先ずの悲劇は成ってしまった。ならばそれをさらに積み重ねることだけは避けなければならない。 「探すことも重要じゃが、おそーじとはいえのー、ちゃんとした依頼じゃしのー。 気を引き締めていかなければのー」 「オウ。エリューションも早々と片付けて、あのお嬢ちゃんを助けてやらねえとな」 手元の懐中電灯をくるくると回しつつ、気さくに言う『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)と『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)。一人の少女を救うことも大切ではあるが、それと共に、より多くの者に害を為すエリューションへの対処を疎かにはしておけないと語る二人の様子は、言葉ほどものを軽くは見ていない。 「それじゃあ、行くとしようか」 開幕は、フツの声から。 頷いたリベリスタらは二手に分かれ、狭間の能力者と、多くの民間人を守るための行動に移り始めた。 ●商業地区、にて 隠蔽用の赤いコーンと、玲の強結界で張られた異界で、鷲祐の千刃が夜を裂いた。 バキバキと言う音が立ち、声にならぬ声を上げるエリューションでは有るが……それに返された巨大な節足を、しかしリベリスタらは紙一重ながらも回避する。 ふん、と気息を整え、拳に炎を纏わせた凪沙は、仲間を鼓舞するが為に声を上げた。 「早く倒して、ブレスレットを見つけるよっ!」 二手に分かれた班の内、Aチームと名付けられた彼ら……玲、鷲祐、櫻子、凪沙の四人は、慎重でありながらも、確実に敵を追いつめている。 比較的他より強化されている個体が居るエリアに対し、余力が有る内に臨むという彼らの判断は正しかったと言える。 更には、その役割もバランスが取れていた。単体、複数、状態異常を回復させうる櫻子と、拘束を主とする鷲祐。そして火力担当の玲と凪沙の二人という編成。 生まれたばかりのフェーズ1が、実力、戦法の二つが伴った敵に対して抗するも、それを崩すには当然、呼ばず。 「……うぅ……帰ったら風呂じゃな……」 黒い気鞭が敵を討つと共に、バラバラと降り注ぐゴミにげんなりとする玲ではあるが、それとて決して手を緩めはしない。 元より二体しか居なかった巨大な甲虫らは、僅か数十秒の内にその存在をあっけなく散らせる事となったのである。 「……う」 戦闘が終わり、熱感知によって周囲を見渡す凪沙ではあるが……残念ながら、これはあまり効果を為さなかった。 事前に金物や粗大ゴミが捨てられていると教えられた商業地区に於いて、鉄などと言った金属は比較的珍しいモノではない。更に、リベリスタはたった今、それらを砕き、千々のパーツへと成したばかりなのである。 凪沙の指示を受けつつ、可能な限り輪っかの形をしたゴミを漁るリベリスタ達ではあるが、中々目当ての物品は現れない。 焦らされるような感覚が、リベリスタらを消耗させるも、 「心の篭ったプレゼントを捨てるなんて……」 一つ一つのゴミを、白魚のような美しい手で懸命に拾い、確かめる櫻子の姿を見れば、そうした想いも自然と静まっていく。 結局、商業地区からブレスレットは発見されなかったが、彼らの気勢は僅かにも削がれることがなかった。 ●居住地区、にて 一方、居住地区二箇所目での戦闘は、かなり苛烈なものとなっていた。 「やはり、この数では酷ですわね……!」 次々と近寄るエリューションの群れ。その一匹を気剣で弾き飛ばすアイシアだが、彼女の呼吸は徐々に荒くなっている。 正確には、余裕を無くしつつあるのは彼女だけではない。残るBチームの面々……アンジェリカ、フツ、リセリアの三人もまた、若干ではあるものの、その動きには徐々に疲れが見え始めている。 敵が多数であることを予想されたこの居住地区。A、Bチーム含め、両面で範囲攻撃を撃つ者が居なかったことは仕方がないと言えるが、それでも技の消費量を顧みずに次々と猛攻を仕掛ける彼らの戦い方では、どうしても消耗が激しくなってしまう。 当然、敵が倒れるスパンもかなりのハイスピードではあるが、その分この後の戦闘が少しばかり厳しくなることは想像に難くない。 ――が。尤も、それはそれで後の話。 「この程度で手こずっていては、姉さん達には追いつけません……!」 強引な挙動を以て追行動に出るリセリア。 残ったエリューションの二体を、彼女の剣が両断することで、戦闘は終了した。 「フム……駄目だな。この辺りにはブレスレットはなさそうだ」 「そう、ですか……」 戦闘終了後。此方の流れも、Bチームの面々はAチームのそれとは対照的であった。 一般家庭に於いて出るゴミの量は、不燃ゴミの側が可燃、資源らよりも比較的少ない。リベリスタの攻撃によって散らばったそれではあるけれども、フツの熱感知はそれらを簡単に区別し、残った不燃ゴミからの探索を容易とする。 かかった時間は五分もないだろう。もう一つの居住地区のゴミ捨て場を調べる前に、アイシアが携帯電話をコールして、Aチームの面々に経過を報告することとした。 ――その時、である。 「! オイ、アイツは……」 「え……?」 フツと、それに誘われたアイシアの瞳が、ある一点を凝視する。 其処には、遂に雨の降り始めた曇天の下、傘も指さずに夜を歩く――少女の姿が、映っていた。 ●幕間 深夜。人気のない住宅街で、私はゆるゆると足を運んでいた。 先刻より、一滴、一滴と落ちる水滴を感じつつ、私は近くの街灯に身を寄せる。 「……何、我慢してるんだろう」 言葉を向ける。雨に、私に。 降らせたいなら降らせればいい。途方もない大雨を。 泣きたいのなら泣けばいい。人が驚くほどの大声で。 思わず、笑ってしまう。自分が惨めで、無様すぎて。 くつくつと音を立てて、喉を鳴らす私の頬を――触れたのは、暖かな雨のひとしずく。 「……ねえ、貴方」 唐突に、少女の声がした。 慌てて頬を拭い、周囲に視線をやると――自身の眼前、すぐ其処には夜を固めたような、黒い服と髪の少女が立っていた。 現実離れした、その光景に私が何も言えずにいると、少女は私よりも早く口を開く。 「人を探しているんだ。40位の、神父服を着た人を知らないかな」 「え? ……いえ、私は、何も」 「そう」 一歩。少女が後ろに下がる。 何故だろう。何かの神秘に魅了されたかのように、私も一歩、少女へと近づいていた。 「ボクはその人を愛してるんだ……。ボクを置いて出て行ったのはボクを嫌いになったのかもしれないけど……そうだとしてもボクは会いたい、会って言いたい……」 「『愛する事を教えてくれて有難う』って……」 「っ、え、え……?」 解らない。 この少女が何を言っているのか、解らない。頭では理解しているはずなのに、それを心が受け付けてくれない。 だって、まるで、この子の言葉は――。 「教えてくれて、有難う。それじゃあ」 「ま……待って!」 少女はくるりと背を向けて、年相応と思えない早足で私から離れていく。 私は追う。それを、追う。 私とは全く似ていない――しかし、私に似た何かを持っている少女に、それを教えて貰うために。 ●港湾地区、にて 「……うん、解った。そっちも気をつけてね」 言葉と共に、凪沙が携帯電話を懐にしまう。 居住地区に少女が現れ、それを遠ざけるのに若干の時間を要する。連絡を受けたAチームの面々は、既に港湾地区に到着しており――其処にいる運搬業者のトラックを、スーツに手袋という、刑事姿の鷲祐が説得し、その場から遠ざけている最中であった。 「捜査の一環で、関係者に遺留品の捜索を願っています。ご迷惑をおかけしております」 「オイオイ、本当かよ!? こっちだって仕事で来てるってのに……」 「申し訳ありませんが、もう暫く時間がかかると思われますので……」 結界、強結界の助けは確かに人の出入りが多い場所に於いて有効ではあるが、目的意識の強い人間にはそうした能力も功を為さない。自然、こうした備えも必要とされるのだ。 暫しの会話と共に、鷲祐が戻ってくる。 それを確認した残る三名、それぞれの態勢を整え――今現在、彼女らが隠れている港湾倉庫の壁の向こう。其処を徘徊するエリューションらに、戦いの合図を告げた。 「さぁ、参りましょう……」 敵も彼らを知覚すると共に、ギチギチ、と、海水で濡れそぼった身体を鳴らす。 「絶対に……あの子をフィクサードになんか、させないんだから!」 叫んだ凪沙が、振りかぶった拳をエリューションに叩きつける。 自身の身を成す海水、其処に溜まったゴミが蒸発することでエリューションが悲鳴を上げるも、そのままで終わりはしない。 「ぅく……!」 当てた拳が、急速に熱を失う。やがて分厚い氷に包まれた右手に、更なるエリューションの猛攻が襲いかかる。 少人数戦に於ける凍結能力は、確かに厄介であった。行動不能な仲間が出来ることにより自然と戦闘には時間がかかり、同時にダメージも与えられる。 回復役の櫻子と、カモフラージュ役の鷲祐の存在が、此処に際だったと言えよう。対処法が設けられたが故に、脅威とも成りうる敵の攻撃は、しかし僅か短時間で彼らに滅ぼされる道を辿っていった。 「これにて……仕舞いじゃ!」 余力を使い切った玲が、穿ち抜いた弾痕より、最後のエリューションを崩れ落とす。 「さて……これで、最後か」 鷲祐が言い、仲間達が苦笑する。 込めた決意は確かに強い。強かったが――それでも此処までの行動が少しばかり面倒であったことも、嘘と言い切ることは出来ない。 だが、だからこそ。 その言葉を胸に秘めて、Aチームは最後の探索を開始した。 ●三高平南駅、にて 「この三高平も人の住む街、という事ですね。 防疫は……大切です、からっ」 斯くて、此方の戦闘も佳境である。 戦った敵達はそのどれもが個体としては雑魚であるものの、事前に多くの数を相手にした彼らの消耗はその予想を遙かに超える。 夜の幻影に融かしたリセリアの剣が、甲虫を薙ぐも――それとて、この一撃で最後である。 「……ッ!」 返す刀。残る三体がそれぞれ彼女を襲い、その傷口を広げていく。 アンジェリカの拘束、アイシアのノックバック。そうした助けをもってしても、ほぼ同数に至る敵の攻撃を完全に防ぐには僅かに足りない。 「待ってろよ、今回復を……!」 フツが叫び、態勢を取るが――僅か、僅かに、遅かった。 「――――――!!」 リセリアが、先ほど攻撃を当てた敵に人たちを見舞い、倒す、と同時に。 別の個体から、一際強力な攻撃を受けたリセリアの身体が、傾いだ。 敵の数は残り二体。それらもBチームの面々の猛攻で傷ついてはいたが、いかんせん余力の尽きた状態での攻撃は、彼らの勢いを僅かに削いでしまう。 「仕方が無ぇ……な!」 フツが叫び、回復用に残していた力を式符・鴉に乗せ――敵の内、一体を打ち抜く。 不細工な甲虫が爆ぜると共に、残る一匹にも逃亡の隙無く、アンジェリカの黒弦がそれを絡め取り…… 「逃がさないよ。君には此処で……」 「……倒れて、頂きますわ!」 次いで、アイシアの気剣が、それを砕いた。 全てが終わった戦場にて。リセリアの応急処置をアイシアが救急箱で行っている間、残る二人は探索を開始していた。 フツの熱感知は、こうした場所でも効果を発揮する。ジュースやビールの缶が放られているゴミ箱の中を開け、雨足が少しばかり強くなった中でも集中して探索を行う二人に―― 「ウン? コイツは……」 「……多分、これだね」 ――鈍銀の円環は、姿を現した。 ●閉幕は、雲間の光と共に。 夜明けの頃。雲に閉ざされて未だ暗い、コンクリートの森の中で、私は彷徨っている。 上空からは、ぱたぱたと降り注ぐ雨。無様な私を無様に濡らしてくれるそれらを、唯、忘と見つ めていて。 「……バカみたい」 自嘲気味に言っても、私は私を笑ってはくれなかった。 時は過ぎる、場所は変わる。 冷え切った体は私を侵す。かちかちと歯が鳴るけれど、それでも私は足を止めない。 胡乱げな目で周囲を見渡す。ふと、その時。なぜか何でもないゴミ捨て場が、私の目に留まって―― ――その時。ふわり、と、温かいものが、私の頭にかけられた。 「え……」 「……そんな恰好では、風邪をひいてしまいますわ」 振り向くと、綺麗な女の人が、其処に立っていた。 月のように輝く金髪と、人形が着ているようなゴシック調の衣服。奇異に映るそれらも、恐らくは彼女だからだろうか。寧ろ容貌と相まって、とてもそぐっているように思える。 気づけば、その女性の周囲には何人かの人がついていた。先ほど私と話をした、黒髪の女の子も一緒だ。 思わず、目を丸くしている私に、近づいてきた坊主頭の男性は声をかける。 「お前さん、なんかあったのかい。良かったら話をあっちで聞くぜ」 唐突な誘い。困惑する私では、あったけど―― 「……え、えと。それじゃあ……」 「ちょっとだけ……愚痴、聞いてくれますか?」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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