● 空を覆った雷雲の様子をモニター越しに見つめた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「食中りにも程度ってのがあるわ」と吐き捨てた。 日本主流七派――今はそう言っても良いのか定かではない――が一つ、『裏野部』は首領の行った儀式を以って崩壊した。各派閥は裏野部の面々を受け入れ、ある程度の平和解決が行えるかとも思えたが、やはり『裏野部』は裏野部。血に飢え、殺戮の衝動を持った彼等が易々と他派閥と考えを共にし、改心する筈がない。 裏野部の中でもより『裏野部』であったフィクサードらは<賊軍>と名乗り、四国に集結しているのだそうだ。 「この雷雲……裏野部一二三が誕生させた、E・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』と言うらしいの。 今、この状況だと四国へ一般の艦船も航空機もいけないわ。三本あった橋も賊軍に封鎖されてる」 「孤立状態、って奴か」 「ええ。四国にある他派閥……逆凪、三尋木、恐山、六道、剣林――黄泉ヶ辻は少し違うかしらね、あそこは特殊だから――とも拠点の陣取り合戦とでも言う様に抗争が見られていたわ。 この状況だと四国は裏野部一二三の領土とでも言った感じかしらね。四国一つで満足してはいないようだけど」 世恋の言葉にリベリスタは頷く。 四国では無く、日本全てを手に入れ、王として神として君臨したい裏野部一二三。 彼は四国の民全てを食らい、自らの力にするべく<大晩餐会>を開いたのだろう。 「『蜂比礼』というアーティファクトを身に刻んだフィクサード達が虐殺を行わんとしているの。 皆には其れを止めてきて欲しい。……それに、これは裏野部一二三を倒すチャンスでもあるわ」 裏野部一二三に刻まれた『蛇比礼』。それと相互的な作用を持つ『蜂比礼』は裏野部一二三の能力に直接関わってくる。 裏野部一二三によって与えられた『蜂比礼』は刻まれたフィクサードらが人々を虐殺すればするほどに裏野部一二三に力を与えていく。 しかし、一二三に力を与えられたフィクサードが人々を虐殺出来ず、死した際は分け与えた力を回収できずに一二三は弱体化していく。 「機は逃さない。賊軍はアザーバイドを含む雑多な集団よ。一二三を殺す事が出来れば賊軍は瓦解し、この凶行も止められるわ」 だからこそ、と世恋はブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回せて口を開いた。 「陣地争いに六道のフィクサードが気まぐれか何かで参加して居るわ」 「敵……?」 「いいえ、敵であり、味方であるのかもしれない。どちらか、分からないけれど」 手を組むか、敵ととるか、それは此方からの持ち掛け次第だろうと世恋は言う。 六道側も『気分』であろう。危害を加えなければあちらとて『考える』事はできるのだろうから。 資料を机に置いた世恋はさて、とリベリスタへと激励する様に声を一つ。 「殺しに行く為に、」 ● 酷い流れ弾を食らった気分だった。 無論、『流れ弾』という程可愛らしい物であるのかは逢川夏生には分からなかったのだが。 「なあに、それ……」 人々の叫び声に紛れて、囁きが一つ漏れる。 甲高い声で鳴く河童の大小の群れを見詰めながら少女はある意味で気色悪さを感じていた。 この場所にはアークが来るだろう。殺戮を察知した『セイギノミカタ』達が。 彼らがこの場所を制圧するなら好都合だ、と絢澤は夏生に囁いたのだそうだ。戦闘の統計データが見て居たいだなんて安易な理由でこの様な戦場に連れ出されるとは、彼女も大概なお人好しなのだが。 「ほんと、なあに……」 零した声に応える様に巨漢はやけに少女染みた格好をして笑っている。握りしめられた剣を向けられて、少女の足がじり、と地面に擦れた。靴底に纏わりついた砂さえもが煩わしい。 視線を向ければ橋の下には渦潮が口を開けて嗤っている。 ――嗚呼、酷い、流れ弾を食らった気分だ。 「この場所、欲しい、な、って」 「あーげないっ」 子供か、と言いたくなるような問答に脳がくらくらする。 何処からか感じる気配にぴくりと肩を揺らした夏生が振り仰ぐ。遥か後方、見えたのはアークという正義の軍勢。 「きた……きたきたきたきた……とうりゃんせ、とうりゃんせ、うふふふふふふ」 喉を鳴らして嗤い出す着物の少女が杖を地面にとん、と付く。 夏生にとってアークは別段敵対するものでもないが、敵であることには変わりない。 どうしようかと思案する中で、賊軍側は新たな獲物の登場に喜び勇み身体を震わせている。 (ああ……、どうしたものかな) くらくらとする意識の中、殺戮と言う名のディナーを楽しみにしていた少女は舌なめずりをし、嗤った。 「……さぁ、殺しましょ」 雷雲からひとつ、雷が注いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月10日(月)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ぴしゃり、と。一つ轟いたソレを見詰めながら『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は溜め息ともとれる息を吐きだした。 上空を覆う雷雲はアザーバイドなのだという。そのアザーバイドを従えるモノは神になりたいのだと言う。なんと荒唐無稽な話であるかとクリスは肩を竦めずには居られない。咥えた不運(ハードラック)。薫る紫煙の向こう、見えたフィクサードの達の姿にクリスは煙草の火を消した。 「神に至ると言うのも妄言では済まない、か」 「ああ、けれどつまらない。国を変えるだとか、神になるとかー……実に、つまらないですねえ」 間延びした声をあげながら髪を掻きあげた『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)は世界最長のつり橋を見詰める。パールブリッジという愛称を持つこの橋は今は生憎の天気に見舞われている。不自然な雷雲は自然な風景美を壊しているではないか。しかし、黎子にとってはそちらの方が面白い。 高鳴る胸は恋をする少女の様に。爪先が固いコンクリートを蹴る。かつん、とヒールを鳴らしながら着様に片手で振るった双子の月。黒と赤の三日月が幸せそうに混ざり合う。 「実に、楽しみです。『裏野部を消せる』待ちに待った日ですから」 歪められた唇に乗せられた言葉は何とも過激な物だ。しかし、過激なのは言葉だけでは無いのだろう。生きたるビスク・ドールはルージュを塗った唇を歪めて首を傾げる。緩く飛び上がった『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の掌で箱庭を騙る檻がくるりと回る。 「『あの子』達もここで打ち止めかしら?」 氷璃の瞳が捉えたのは着物姿の小さな少女だ。何処となく黎子にも見覚えはあるが、上手く思い出せない。希薄な存在感を持った少女は地面を蹴り杖を振るう。きん、とナイフとぶつかる音。受けとめた六道の少女は瞬きを一つ送り、後ろへ小さく飛んだ。 轟く雷雲が、六道側を狙うのを見詰めながら『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の濁った瞳は何時になく真摯な色を抱いている。いやはや、言葉は難しい。「好きになった子は死んでしまう」という何ともお涙頂戴な台詞を言った訳でもないし、「生きて欲しい」と珍しい程に手を差し伸べた相手であった訳ではあるが、どうしてこうなのか。 「小生は、一緒に生きてくれとは言ったが……」 戦場でこうも危険な戦いに身を委ねて欲しいという意味では無いと肩を竦めるしかない。いりすの手に握られた無銘の太刀が緩く光を帯びて、前線に走り込んだ竜の存在を知らしめる。 「むべなるかな……」 確かに、彼女は自分の言った事を護っている。今日は友軍で、確かに共に生きているではないか―― ● 腕時計の灯りがぼんやりと照らし出す。緩やかに浮かび上がる『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が魔力を取り入れる中で、彼女は思案する。 王とは何であるか、神とは何であるか。定義すらも難しいその存在をシエルはどの様に考えるか。尤も、そうなる前に先ずは修めるべき事があり、力付くで奪う世界に幸福など無いのだと――実感できるのだが。 「……無駄な思考ですね」 それは放棄することにした。為すべきは変わらない。シエルを護るべく彼女の盾となった『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)はメイスを手に息を吐く。彼が纏った闘衣は英霊の魂を最高の加護に変えたものだ。幻想の闘衣を纏った義弘を見詰める六道のフィクサードの瞳が爛、と光りを帯びる。 「――アーク」 「ああ、オレはフツ、アークの焦燥院フツだ! 逢川は久しぶりだな!」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の明るい挨拶に目を丸くした逢川夏生は「うん」と囁く様な声で告げる。六道フィクサードの視線が集まる事がくすぐったいのか体を揺らす少女の代わりに、「有名人じゃあないか」と気障ったらしい口調で告げた絢澤・由岐は瓶底眼鏡を指先で弄りくつくつと笑った。 「で、その有名人様がお仲間と揃って何だろうねえ。ボクの研究に付き合ってくれるって事かしらん」 由岐の言葉を聞いて水無瀬・佳恋(BNE003740)は唇を噛み締める。少女の掌によく馴染んだ長剣「白鳥乃羽々・改」。白鳥の羽を思わせる長剣で河童の腕を受けとめた佳恋は破壊の神の如き戦気を纏い出す。 佳恋の表情の歪みに由岐が楽しげに笑う中、人当たりの良いフツは槍を手に前線で恥ずかしそうに体をくねらせていた男の前に躍り出る。 「オレ達の目的は賊軍を倒す事! だからお前さん達、六道とは戦うつもりはない! だから六道に攻撃はしない! つーか、もしよかったら今だけオレ達に協力してくれ!」 「……いやはや、莫迦な事を言うとは思わんかねえ」 呆れる様に肩を竦めた由岐に夏生はこれまた何とも言えないという表情で肩を揺らす。後衛で体を滑り込ませるように捻りながら魔力銃を手に弾丸を撃ち込んだクリスの足がふる、と震える。 「相手は神を目指している。それを阻止するにも橋を突破しなければ後が続かない……分かるだろ?」 「分かる分からないで云えば、まあ」 「敵対する理由もないし、協力してくれないかしら? 勿論、タダでとは言わないわ」 浮かびあがった氷璃の手首から伸び上がる黒き鎖が河童を狙う。彼女の瞳が睨みつけた妖怪は甲高い声を上げて「クフッ」と笑みを漏らした。何とも気色悪い笑みを浮かべているのは六道も一緒か。氷璃の言葉に「ほほう」と相槌とも取れぬ声を漏らして、その対価を求める様に視線を向けている。 「お代は、ベリィの杖で如何かしら? 惜しいと言えば惜しいけれど――」 「よく分かってるじゃないか、マドモアゼル!」 テンションを上げた由岐の弾丸が前線のフツや佳恋、いりすを避けて賊軍側へと伸びていく。先ずは一人、と氷璃が息を吐けば、前線で夏生の前に躍り出たいりすが「まいらぶりーなつお」と愛着を何処か感じさせるように笑う。 「小生は、一緒に生きてくれとは言ったが―― 夏生に神秘界隈から手を引いて、俗に世間一般で言うような幸せを手にしてほしいと思っているのだよな。それを見守れれば、それでいいと。……まぁ、今はそれを話している暇もなさそうだ」 「その話しは『後ほど』、で……」 いいかな、と囁く様に告げる夏生にいりすは「いい子だ」と牙を見せて笑う。後衛で指を組み合わせ祈る様に目を伏せていたシエルが「六道様」としっかりと声を発した。護られる立場に居るからこそ、癒すことを止めないシエルは『癒す』為に声を張る。 「皆様を回復支援しても構いませんか? 私達を不意打ちしたくなったら遠慮なく仰って下さいましね? 恨み事は言いませんが――覚えて置いて下さいまし、私は『オン』を忘れません……紫苑故に」 「勿論、死にたかないしね。夏生やウチの研究員にも頼むよ、お嬢さん。恩かね? 怨かなあ。ひひひ」 ひらひらと手を振る由岐に頷いてシエルは回復を施していく。六道は道の探究者。癒の探究者であるシエルにとって彼等の判断は理性的であり妥当なものだ。ほっと息を吐く彼女は緩やかに微笑み、羽根を揺らす。 清らかなる存在が響かせる福音に「未熟な身ではございますが、」と付けたす様にシエルは微笑んだ。 「私の戦闘データ取得はご自由に……」 これは有り難いと言う様に研究者はひらひらと手を振った。 ● 河童が放った水鉄砲らしき物質を受けとめながら義弘は肩を竦める。一筋縄ではいかない敵を前に気合を入れて行動すると息を吐き、背後で回復を担うシエルの感謝を真っ直ぐに受け止める。 「成程……賊軍のフィクサード二人だけではなく、アザーバイドの河童、そして落雷……。 六道のフィクサード――友軍だが……――全てがシエルの姉さんを狙う、位の覚悟をして護るべきか」 「そのお心、嬉しゅうございます。期待に応えられるよう、癒し尽くしましょう」 義弘の言葉に頷くシエルの紫の髪が揺れる。降り注ぐ落雷を受けとめて、後衛にいたクリスの足がびくりと揺れた。 「――ベリィ、ですよね。『偶然』ですが遺恨は此処で晴らしましょう」 前線の混ざり合った状況の中、杖を鈍器の様に使うベリィを受けとめて体を捻り上げた佳恋は背後の落雷を感じとりながら唇を噛む。 「どかんと一発ですねえ。怖い怖い。……んー? なんだか何処かで会った人と似た雰囲気ですね? まあ、良いです。私にとっては今日は実に幸運な日。素晴らしいので機嫌も良い。細かい事は気にしません」 「……素敵な、性格ね」 吐き捨てる様に告げるベリィに黎子は佳恋と対照的に楽しげに笑う。大きな河童の腕を受けとめた彼女が体を捻る。運命のルーレットの上を転がる小さなボールの行く末を見守る様に黎子は漆黒の瞳を瞬かせショート丈のスカートのフリルを揺らした。 「実に素晴らしい事です。『つまらない』が、素晴らしい。 あなた達の最期は何も為せず見窄らしく残念でくだらないものが良く似合う!」 かん、とヒールが地面で鳴る。踏み込んだままに双子の月が赤い血に濡れていく。踊る様に体を捻る黎子の後ろ、誘う様に呼び寄せて河童たちの攻撃を受けながら黒き瘴気を放ついりすが牙を見せてへらりと嗤う。 「しかし、まあ、ベリィ君か。こんな所で逢うとは。君が一番うまそうだと言う見立ては間違ってなかったが……すまないが『ついで』で死んで貰うことになる」 「どっちが、」 死ぬかなと囁く様なベリィの声を遮る様に渾身の力を込めて佳恋は剣を一気に振るう。剣を避ける様に体を捻るベリィの腕を切り裂くソレに和服姿の少女の表情が微かに歪む。眉がぴくりと揺れたのを見て、佳恋はぎと睨む。 「私にとっては不幸な日ですが……」 「……ふうん?」 「信条的には共闘したくない、今は纏めて戦えるだけの技量を持たない自分の身を恥じるのみです。 状況が悪い、仕方がない、で済ますのは嫌いです。無力だと私に思い知らせた貴女の事も嫌いですが」 戦士だと胸を張って誇る為には敵を滅する。誰かを護れない無力さを感じとらせたフィクサードに佳恋の灰色の瞳は凛とした色を灯していた。 一方の異色な男、クリリをまとめて火炎で包み込むようにフツは槍を振るう。 「カゲキねぇ! オネェさんすきよー!」 何処がお姉さんだよと吐き出す由岐の弾丸を掠め、クリリが体をくねらせる中、フツはけらけらと嗤い続ける槍を地面にトンと付き、普段の徳の高さからは感じとれぬ異質なオーラを周囲へと広げていく。 「緋は火。緋は朱。招来するは深緋の雀。これぞ焦燥院が最秘奥――」 ぶわ、と生まれた四神朱雀。業火は全てを焼き払う。河童の皮膚を焦し甲高い声を上げる河童を鎖で捕まえた氷璃は雷を避ける様に河童を近くに置きその攻撃を受けなからも攻撃を続けていく。 シエルの回復を受けながらも彼女を庇う義弘の額に汗が伝う。戦況が不利になるならば、この場所の殿を務める気だとどっしりと立っている義弘に懸命な癒しを与えながらシエルは目を伏せる。 (――ここは癒すのみ。私の癒しの陽光を届かせる) 「癒し尽くしてみせましょう。この一念こそ果たして、此処に立っている証明にします」 「シエルの姉さん、頼りにしてるぞ……! 皆の命を護って、悲しむ人を減らすために!」 激励する様な義弘の言葉に頷きながらシエルは六道を含めて癒しを送る。攻撃を受けとめる義弘の体を抉る攻撃に青年は吼える様に意地を見せる。 己は皆の盾。 ――なればこそ。 「最後の最後まで、この戦場に立ち続ける、その気概もなけりゃ、そんなの果たせないだろ!」 青年の雄叫び。其れに応える様に前線にいた夏生が光りの飛沫を上げる刃を振るう。 いりすの黒き瘴気の合間を縫った夏生に視線を送り「成程、夏生はいい子だ」と囁けば、夏生は肩を竦めて合図を送った。 クリスの弾丸が降り注ぐ。一番に攻撃を食らい続けることと鳴っていたのは雷撃の効果を確りと受け止めていたクリスだろう。 それでも脚は止めないと放ったソレに河童の一番大きな物がごろり、と転がった。 「アークは実に面白い! これは良いデータになる! しかしもったいないな、此方とのデータがないとは」 「……全く。私はそっちと遊んであげてもいいのですけれど、ま、いずれにせよあれを殺してからにしません?」 肩を竦める黎子の言葉に由岐は冗談だと言う様にへらへら笑う。共通の敵は未だに眼前に存在して居る。小さな河童達が倒れていく中、ベリィ、クリリは小さなサイズの河童の回復を受けながら余力を残して居る。 「塵で汚れた盤上では遊ぶ気にもなりませんのでぇ……」 ● 息を吐きながら佳恋は前線を支えていた。攻撃を食らい、傷ついても護る人がいる。 後方から攻撃を加える氷璃の瞳が緩く笑った。フツの炎に体を揺らせるクリリ。巨体の男は少女の様に恥ずかしげに体をくねらせて「やだぁ」と小さく笑っている。 「弱ってるやつから倒していく、それでよろしく!」 「……OK、それより、目の前のオジサンを早く」 夏生の声にへらと笑ったフツの炎の合間から氷璃の凍てつく矢が真っ直ぐに突き刺さる。彼女が体を揺らし仲間達へと「来るわ」と声を上げると同時、降り注ぐ雷撃に氷璃は体を補佐する様に丸くなる。 「雷、……こわい? くすくすくすくす」 「笑ってる所残念だけど、貴女は私好みのお菓子を持ってないわ。ローズのお菓子は好みだったのに。 ――それとも、隠し持ってるのかしら? 貴女の持つ私好みのお菓子を、ね」 ベリィの言葉に応える様に囁く氷璃の言葉にベリィは素知らぬふりで肩を揺らす。 クリリの体力を削る中、前線の六道フィクサードが膝をつき、由岐が「あーあ」と声を漏らした。 攻勢に転じ殺戮を愛する賊軍一派に対し、闘わなければ此処で負けるしかない。その意志を確り持っているからか、いりすは「いいねぇ」と声を漏らし黒き瘴気でクリリを包み込んだ。 「涙など、そんな物は無い。流すモノは血潮のみ。故に――」 「止まる所、なんて」 ないでしょうと囁く様に告げる六道の少女にいりすの牙がへらりと嗤う。雷撃舞う橋の上。下で渦巻く潮を感じながら振るわれた剣の衝撃で体を揺らしたフツの背中を氷璃は押した。 後衛のシエルが「義弘様」と声をかければ、彼は頷き、その場を懸命に守る様にしっかりと足に力を入れる。 炎の中で小さな河童たちが肌を燃やしながら干からびていく。回復の手立てを喪った賊軍側が一気に前のめりに傾く中で、後衛に移動していたベリィが黒き鎖で佳恋を捕まえるが、彼女はそれも厭わない。 「――行きますっ」 「さて、極楽浄土への近道だ。教えてやる。お前さんが行く先が何処かを」 フツの槍は真っ直ぐに男の体に突き刺さる。反撃だと言わんばかりに振るわれた剣を掌で受け止めれば、掌の肉に食い込む刃の感覚にフツは目を細めていく。 「蜘蛛の糸すら垂らせない。恨むなら恨め――誰がお前を殺すのか」 告げる様に一気に槍を引き抜いた。男の背へと露出して居たそれは赤い血をフツに浴びせながら笑っている。楽しげな少女の声は頭の中へと響き渡る。 コンクリートに鈍い音をさせ倒れたクリリを乗り越える様に戦況は一転する。後衛に居るベリィ目掛けて一直線にいりすの黒き瘴気が広がり、支援する様にシエルが万全の癒しを整える。 ぜいぜいと息を吐き脚を震わせる義弘の背に手を当ててシエルは小さく頷いた。後少し、そう励ます様なシエルの反応に義弘の目に力が籠められる。 黒い瞳に怪しい光りを乗せて、地面を踏みしめる様に進む黎子が小さく笑う。 腕に絡みついた鎖に氷璃を睨みつけるベリィの瞳を受けとめる様にフツは前のめりに彼女の元へと向かっていく。 一気呵成に攻め込む様なリベリスタ達を夏生は守手として立っていたいりすの傍でじっと見守っていた。 少女の頬を引き裂いたのは多角的な攻撃。ついで、弾丸、様々な呪いを乗せた槍が突き刺さり、後ずさる隙を作った彼女の視界一杯に黎子の顔が映り込む。 「貴女のヒストリーもエピローグも全カットです。さあ――さあ! せめて見た目位美しく、華咲く様に死んでみせて下さいよ!」 叫ぶように黎子は鎌を突き立てる体を引き裂く様なソレが内側にから花弁を散らす様にカードを散らしていく。 ばらばらと吹き荒れる嵐の中、黎子の指先が血に濡れながら選びとったそれこそがベリィの最期。 和服姿の少女の体がつり橋から揺らぐ。下で渦を巻くそれはこの場所ではよく見られる光景か。美しいとさえも言われたソレが灯りのない暗い夜ではぱっくりと大口を開けた奈落の様にも思えた。 「さあ、裏野部の野望諸共、海の藻屑と消えなさい」 氷璃の言葉に反撃する様に杖を投げる。眼前に迫るソレを佳恋は剣ではたき落としその体を真っ二つに切り裂いた。皮膚から溢れ出る血が、少女の長い黒髪をベタ付かせる。 「魅せる様な殺人? 人死には茶菓子?」 転がる杖を握りしめる六道の研究者の目が嗤う。佳恋はその視線を感じながら剣を下ろした。 「そんな殺し方に拘るならば自分を殺して、その美学を究めれば良いでしょう」 佳恋の瞳とベリィの目が克ち合う。フィクサードとリベリスタ。一般人を犠牲にするモノと護るモノ。 その違いを抜きにしても、佳恋にとってベリィは――『偏屈少女』は、 「性格や信条が嫌いでした、とても」 とぷん、と海の中に落ちる様に。 大口開いた奈落へと半分になった少女は堕ちて行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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