●ソレは その巨体は一体何なのか。 四国に繋がる橋の一つ。瀬戸内しまなみ海道と呼ばれる場所の一角に“何か”が居た。 橋を横断する巨大なソレはまるで蛇の様。鱗の端々から漏れているのは水――いや、油だ。 大量の油を撒き散らしている。その個体の顔と尻尾は橋の両端を超え。視えない程に巨大であれば橋は完全に封鎖されている状態。 なんだこれは、と思う者もいるだろう。あるいは聞いた事のある者もいるだろうか。この国の海に出る妖怪。 巨大なる身を持つ――“イクチ”の事を。 ●ブリーフィング 「裏野部……いや、今は賊軍と言うべきなんですかね。 四国にて彼らの動きが活発化しました――非常に危険な状態です」 『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)の語る内容は、裏野部の事だ。 裏野部。国内主流七派の一角にして、その過激な凶暴性に関しては随一とされる組織だ。そんな彼らの首領、“裏野部一二三”は昨年とある封印されたアザーバイドを復活させようと行動し――成功させた。 それが“まつろわぬ民”と呼ばれる者らだ。彼らを制御下においた一二三は一気に勢力を拡大。強力なE・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の力も用いて四国の空と海を封鎖し、今やかの地は一二三の手に完全に落ちている。 そうまでして、彼はまだ止まらぬ。 更なる力を手に入れる為――彼は四国の民を、喰らうつもりなのだ。 己の力を訳与えたフィクサード達に。まつろわぬ民に。 封鎖された、逃げ道のない四国で。虐殺が始まるのだ。 「ただ、彼らは纏まりとしては強固ではありません。首領の一二三さえ倒せればどうにかなります。アレは、一二三個人の力によってのみ纏め上げられ、率いられ、行動しているだけなんですから」 そう。“賊軍”と呼称され始めた彼らは、一二三によってしか統率出来ない。 ならば一二三さえ倒せれば彼らは瓦解するのだ。そこを突くのが最上である……のだが、 「ヤクサイ、カジ……カツ……ハクサイカヅチノカカミ! は、ですね! 強力なE・エレメントでして、あちこち雷落としてくる上に階位結界を持ちます! つまり皆さんの扱う武器じゃないとダメージ与えられないんですね。特に雷の所為で船や飛行機の類は全部アウトです。四国に上陸出来ません」 噛んだ。まぁともかく海と空からは無理、となれば後は陸路しかない。 そして、本州からは離れている四国に陸路となれば行ける道は限られる。――“橋”だ。 「いくつかルートがありますが、ここの皆さんには瀬戸内しまなみ海道ルートから入って貰います。道中に“まつろわぬ民”。……彼らが橋を封鎖していますので、撃退して下さい。ああそれと、さっきも言ったハクサイが雷落としてくる可能性がありますので、空からの攻撃には気を付けて下さいね!」 ハクサイじゃなくてヤクサイカヅチノカミ……まぁ良い。 で、それよりも。 「“アレ”はなんだ? アレが“まつろわぬ民”、か?」 リベリスタ達がモニターを指差す先にいるのは、橋を封鎖する巨大なソレ。正体は、 「そうです。アレは識別名“イクチ”――海に出現すると言われる妖怪です。 伝承だと油を放出し、その全長は数キロにも及ぶと言う……まぁこの個体はそこまでの長さは無い様ですが。巨大なのに変わりはありませんね。橋に横たわる様にして封鎖している様なので、必ず撃破をお願いします。万華鏡によると撃破後は霧みたいに消えるみたいなので」 更には二つの頭に四本の腕と四本の足を持つ“両面宿儺”。 高い機動性とどんな戦場にも対応できるバランス力を持ち、“まつろわぬ民”の中でも出現率の高いと言える個体。それが二体もこの戦場には存在している。 古き時代のアザーバイド達。薙ぎ払えるのか。否か。 「数はそこまで多くはありませんが……決して侮れないアザーバイド達です。なんとか突破して下さい! 四国の虐殺を止める為にはとにかく封鎖されている橋を破らないといけませんので……どうか、宜しくお願いします!」 アザーバイドを復活させ、力を求め、裏野部一二三はもはや“人”を離れた。 誰が止めれるのか。誰が止めに往くのか。 他でも無い。アークの者らが往かねば誰が往く! 往こう四国へ。突破しよう“民”の封鎖を。 一二三の元へ到達すべく。今、橋の封鎖をぶち破れッ! ●妖 敵が来る敵が来る敵が来る。 感じ取った民らは戦闘の態勢を整えるのも瞬時。 両面が剣を構え、イクチが身を動かしその巨体を震わせる。 来るのか来るのか贄如きが。食物如きがなんとする。 平伏せ塵が! この地を超えられると思うてか! 『ヵ――』 我らは民ッ! 『ヵッ――!!』 まつろわぬ、民ぞある! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月14日(金)22:45 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●民 雷光が瞬く。白黒反転する世の景色。 ここは四国へ続く陸路。その内の一つたる瀬戸内しまなみ海道である。 封鎖する“民”は三体。両面二つの顔を持つ宿儺二体に、橋を直接封鎖する巨大な蛇――イクチ。 超えねば成らぬ。倒さねば成らぬ。封鎖された四国の地で、虐殺など起こさせる訳にはいかぬのだ。 「全く――こんな“伝承”なんて言われる様なモノまで引っ張り出してどうするのよ」 『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の想いはソコに。 何故起こしたのだ彼らを。眠らせておけば良かったのだ彼らは。 まつろわぬ民。古き時代に生き、古き時代に栄華を誇り、古き時代に――終わった彼ら。 「これじゃまるで痛めつける為に蘇ったみたいなものじゃない。 もう、彼らの時代は終わったのよ。過ぎ去って今は今の生命が生きている時代なのに」 「なに。どうであろうが連中は屑とつるんでる屑ってなだけだ。そいつだけは確定してる」 そう。無力なる者を一方的に痛めつける事に、何の頓着もしない彼らは下種に変わり無しと、『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が断じる。 裏野部。いや、今は賊軍と名乗る者らと共に四国を地獄に叩き込まんとしている民。 彼らの行いに矜持が許せぬ。思考が許さぬ。下種共めが。贄? 食物? 何を言っている。 「往くぜ――理解させてやるよ何もかも。 テメェらは屈辱の中息絶え、俺達に踏み越えられるだけの存在だって事を!」 往く。踏み込む先は宿儺の一体。極限なる集中で景色が鈍化、思考は高速。撒き散らされるイクチの油を脅威のバランスで踏み越えて、何も問題無しに往く。手甲を構え、狙い定めて炸裂威力を宿儺に射出させる―― ――が。狙う先は目の前の宿儺ではない。もう片方。ブロックしていない方の宿儺だ。なぜならば、 「まずは一体毎。狙って潰した方が効率的だものね――私はこちらから往くわッ!」 そう。『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の言う様に、一体一体を狙って落として行く為に。 彼女自身の動きはカルラと同様。攻撃集中させぬ側の宿儺へと向かい、攻撃自体はもう片方へ。同時。弓持つ女神、その祝福と加護を身に宿しながら、己が身体を昇華させ。万全整え尚進めば、 「あーあ。どーしましょうかホントこれ」 視界の端に、『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)が映り込む。 足元の感触は最悪だ。靴は油に塗れ、ドレスは汚れる。幸いな事に転ばぬ様、工夫する術は持ち合わせている――が。憂鬱である事に変わりは無い。 ああまた汚れる。最悪だ。ああ最悪だ。このストレス。如何すればよいのか。 「ええ。うん。本当に、どうやって晴らしたモノでしょうかねぇ……?」 彼女の見据える先は“まつろわぬ民”共。油の元凶。つまり敵。つまりは滅殺。 よし倒そう。満ちる殺意が民にも劣らぬ。漆黒の闇が彼女を包み、珍粘の――いや、那由他が抱くストレス解消先が、ソコに居たのだ。 「やぁ全く……四国で虐殺なんて、冗談じゃありませんね。突破しましょうか」 『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が言葉を重ね、そして、 「行きます。通さないのなら力尽くで――押し通りますッ!」 雪白 桐(BNE000185)が駆け抜けて。 雷光瞬く夜に。今、闘争は始まった。 ●複数戦場 二体の宿儺。その内の片方に攻撃を集中させ、落としに掛る。 それが可能となったのはカルラとミュゼーヌの両名が遠距離攻撃出来るが故だろう。離れていても攻撃を届かせる事が出来るのは大きい。不安要素としてはサジタリーが前面に出る、という面はあるが――二人とも耐久面は決して低い訳で無いのは幸い。 宿儺を倒し。その後でイクチを始末する。大雑把に言えばこれがリベリスタ達の戦略であり、桐がイクチを。カルラとミュゼーヌが宿儺の“抑え”側ならば、 「さぁさ皆さんこんにちは。橋の封鎖、お仕事お疲れさまでーす。 ちょっとお願いがあるんですけれども……」 那由他・シュスタイナ・慧架の三人が“攻める”側だ。 先の感情を心の奥に。那由他は己の武器に呪いを染み込ませ、跳躍共に宿儺を一閃。苦痛の概念を直に叩き込めば、 「この橋から居なくなってもらえませんか? 傷が少ない内に早々と。それがお互いの為だと思いますけれど」 笑顔と共に、獲物を振り切る。 突破したい。させたくない。二つの対極する意思がある以上実現はあり得ぬ願い事だが、そんな事は彼女も承知の上。故に槍を構え、宿儺と対峙しつつの言葉なのだ。 「本当、さっさとどいてくれれば楽なんですけどね――そうはいきませんか」 直後。慧架は踏み込んで、鉄扇を握り締める。 身長的に己を遥かに勝る相手にも臆さず。叩き込む連打は暴風の如く。 腹に横から。肩に二撃目。胸を、腕を、二の面を、膝を。 壊さんとする意思と共に連撃する。ここで倒す。ここで終わらせねばならない。 『――』 されど相手は人外。まつろわぬ民。 この程度の一撃なんとするものぞ。耐えれぬものか。封印されし時の流れに比ぶれば。 右に構えた剣が上段より風を切る。直下一閃。左に構えた剣が下段より風を切る。直上一閃。 上下より、鋏状に見立てた二撃は双方共に。目の前、慧架を狙っていて―― 「くッ――」 「おっと。そう簡単には行かせないわよ」 その刹那をシュスタイナがフォローする。羽を動かし撓りを効かせて放つは魔の風。 立ち位置としては那由他と慧架の後ろ付近。出来れば宿儺の視線からは外れたい所だが、完全に視界から隠れてしまえばそれは己からも相手が見えぬと言う事だ。攻撃の意思ある以上それは仕方ない。 ともあれ放つ風は攻撃に合う形で。振り抜かれる刃と風が宿儺を刻むはほぼ同時。舞う血は混じりて一体どれがどっちのモノなのか。 「まぁ、手数が多い以上こっちのが与えたダメージは上だろ。 んで……当然これで終わると思うなよ?」 舞う血の中。ソレを突き破る銃弾はカルラが放つ一撃。 狙い外さぬ精なる射撃。硬貨すら撃ち抜いて見せよう銃弾。 その威力と精密さをもってして――宿儺の両眉間に捻じ込む。完璧なる、至高を。 しかし。 注意を少しばかり払うべきだったかもしれない。己の“目の前”の相手に。 『ヵ――』 遠方より攻撃できる者が抑えるのは良かった。されど、相手は身軽かつ複数回動ける相手。 そんな者が目の前にいるのだ。片方を即座に落とす為とはいえ、少々危険ではある。 宿儺の構えた剣が突きの形でカルラへと。弾丸放つカルラに、己が身を弾丸の如くとして、 停の状態から速の状態へ。踏み込んだ。 「チッ――やっぱ、来るか」 舌打ちするカルラ。だが、と宿儺は思う。もう遅いと。 予想していたとして何が出来、 その時。宿儺の背後で音が響いた。 落下音。軽い、金属か何かが落ちる音。ソレはバウンドし、直後。 強烈なる閃光と鼓膜を破る様な耳晦ましの音が鳴り響いた。 『――ォォッ!?』 「失礼。そちらの行動を、自由にさせる訳にはいかなかったから。ごめんなさいね?」 ミュゼーヌだ。音の正体は閃光弾。 宿儺の狙いが逸れる。身の痺れが“速”の動きを“停”に戻し。明らかに鈍った矛先はカルラを削りすらせず。 「その様子だったら幾らかはまだ動けないでしょうね――今の内に、向こうを叩かせてもらうわ」 十秒か。二十秒後か。分からぬが、いつかは解除される痺れだろう。 が、それでも動かぬ隙は隙だ。 抑えの二人は引き金を絞り上げる。一刻も早くあちらの宿儺を即殺せんと。 なぜならば戦場は宿儺二体以外に“もう一つ”あるのだ。ここに手間取っている訳にはいかない。 抑え、とは少々違うがあちらは大丈夫だろうかと。誰かが目線を傾けた先に、あった。 “もう一つの戦場”。イクチへ向かう、桐の戦場である。 ●現と過去と 最初に抱いた感想はただ只管に“大きい”と言う事だった。 でかい。大きい。何だお前は馬鹿なのか。 見据える目に映るのは胴体の“一部”。顔先? 尻尾? 視えはしない。水面に続く、どこかにはあるのだろう。無限に伸び続けている筈が無い。しかしでかい。でかいのだけは分かる。 「ああ……全く。本当に通せんぼしたいんですね」 障害物としては凄まじい。油も撒き散らしてくるのだから面倒極まりない。 ああ成程良く分かった。通せんぼしたいのだと。その大きい身体で。 「ですが……」 瞬間。イクチの鱗が幾らか持ちあがる。何の動きかと思えば直後、その馬鹿でかい鱗が、 射出された。ああこれもまた弾丸の如く……いや、大砲と言った方がまだ近いだろうか? 大砲と言っても尚、あまりに規格外サイズの、武骨な塊ではあるが―― 「私達には、ここを通りたい理由があるんです」 足元の油。不意に滑らず、意思で滑る。 足を止められる事は無い。コツさえ分かるのならば滑りを利用する事は可能なのだ。バランス感覚を全開に。射出される鱗の下をくぐる様に。 往く。 頭部スレスレを鱗が通過するが頓着しない。第二射が装填されようとしているのだ。だから即座に、 「――ッ!」 至近到達。剣撃一合。 移動の合間に漲らせた闘気と共に狙い穿つ。重要なのはこの一撃でイクチを押せるか否かだ。 剣が油に滑り威力が軽減される。しかし当たった命中の深さはまた別で。僅かだが、押せない事は無い。 往ける。一度で駄目なら二度やろう。二度で駄目なら三度往こう。 何度でも。何度でも。身じろぐ範囲を遠ざける為に。 「あちらは大丈夫な様ですね……ならば後は」 こちらですか。と慧架が口にする。 現状。五人の威力を集中させている宿儺はかなり押している。これで推せねば勝機など初めから無いが、しかし。 『ォ――ォォオ!』 宿儺の剣撃は衰えない。 二回行動の得手を利用して。慧架に、那由他に剣を。ミュゼーヌとカルラに反撃の弓を。 シュスタイナには慧架自身が遮りとなっている為か、比較的攻撃が少ない。それは幸いだったが、民の妄執がこれでは終われぬと叫んでいる。攻撃は苛烈だ。 「ふふ。あちらも、退けぬ理由があると言う事ですかね。 これは仕方ありませんねぇ……無為に無惨に無駄に散って頂きましょうか」 「ま、概ね同感ですね」 振るわれる剣撃の間を縫って、慧架と那由他が一気に動く。 不吉なる概念を宿し繰り放たれる槍。繰り出す鉄扇。双方が嵐のように襲いかかる。 連打される鉄扇が宿儺の全身を。槍が致命たりうる一撃を宿儺の胸に。 崩れ落ちる。その身が。その魂が。終わりを迎えて、 『ガ……ガガ……ッ!』 寸前に。悪あがきとも取れる最後の二撃は、しかして至近の二人を完全に捉えた。 「ああもう。天使とか、柄じゃあないんだけどね……!」 危険を察したシュスタイナが唱えるは、癒しの力だ。 天使の歌。己としては“天使”の名を使うには柄で無いと思っているが、複数に展開された魔法陣がその威力を強化して皆の身を癒す。 「良し、一体は倒せたわね。このまま――」 もう一体。とミュゼーヌは言葉を続けようとして、感じ取る。 殺意が迫っている。警戒に、視界をもう一体の宿儺に定めた時は遅かった。 麻痺の痺れが抜けた宿儺の一閃。刹那の虚を突いた、完璧なる一撃が彼女を横から斜めに切り裂けば、痛みが掻き走る。 「ッ! クッ――まつろわぬ、民よ。現し世は既に貴方達の住まう世界ではないの。 貴方達の住まう世界は遥か過去……もう過ぎ去っているのよ」 ――だからどうした。なんなのだ。 ――血を寄こせ。現在も過去も関係無い。寄こせ寄こせ貴様らの血肉を! ミュゼーヌは感じ取る。彼らの異常を。ああ駄目だ。これは駄目だ。故に。 「故に……大和の末裔は再び貴方達を征伐する。武力を以って、この世界から!」 討つ。祈りを口にするは言霊となりて真とす。 リボルバーが至近の距離から片腕で構えられる。炉心供給する銃弾は輝きを伴い意思を具現。引き金を絞り上げるまで一息分も必要無く、放たれて。 距離は零。狙うは頭部。血が飛沫。顔が潰され、 『ォオおぉオ!』 憤怒と共に返しの一撃。左の剣が―― 「させ、かっよッ――!」 構えられた所に先んじてカルラが往く。 今回はいつもより数が多くないのだ。倒れる訳にはいかない。最悪致命を受けなければそれで良い。 割り切り、しかし同時に勝利への執着は揺るがない。妄執なんぞとは違う。彼の想い。 振るわれる剣閃はカルラへと。リベリスタへの意趣返しなのか、狙われる先は顔面。刺突の形。脳髄諸共切り裂く殺意。理解した。良く分かった。ああだから。 宿儺の刀。突き状に繰り出されるその真上ギリギリを。削り抜ける程に紙一枚の距離隔て、拳を突き出し相手の残った顔面一撃。火線集中。一斉砲火。 彼の技巧が民を勝る。 「倒れろ屑共がァ――ッ!!」 言った筈だ。理解させると。 宿儺の身体が大きく揺らいだ。順調だ。この敵もそう長くは保つまい。 ならば。 ならば後は。残る民は。 ●果て地 「ふ、ゥゥゥッ……!」 桐は動き続けながら呼吸一拍。 油が増えて来ている。それ自体はハイバランサーで問題ないが、イクチの攻撃を凌ぐのが中々に辛くなってきた。なぜならば、雷が降り注ぐ。 この雷を避けるべく宿儺の近くで闘っていた五名に関しては特に気にする必要は無かった。実際に落ちる事すら無かったのだから。しかし、イクチの戦場は違う。容赦なく降り注ぐ。 再生の身が傷を癒すが。さて。 しかし離れる事は出来ない。元より注意を引く事が目的なのだから。それに、 「離れても……無駄ですか」 離脱しても鱗が容赦なく飛んでくるだけだ。 大きさが故か威力が高い。注意を引けているのか、宿儺を相手取っていた面々にはあまり効果が及んでいないのは幸いだ。が、イクチは身を動かすだけでも相手を攻撃できる。身じろぎも中々に面倒で堪えるモノだ。 ただ、桐は対イクチならば今メンバー最高の適性とも言える。再生能力を持ち、身じろぐ事によるBSも耐性がある為に付与されず。ノックBもある。油も効かぬ。こんな条件は彼以外いない。 故に抑え続ける。足が滑りそうになる瞬間に体勢を、優れたバランス感覚で立て直す。 重心を移動させ。足裏を地から離さず滑り移動。 身じろぐ、その身に。 「大きくても……斬り続ければ、いつかは崩れるでしょうッ!」 唸りを挙げて剛剣一直。イクチの巨大なる身を攻め立て続ける。 しかしソレだけに集中はしない。後ろから宿儺の矢が飛んで来ぬとも限らぬのだ。前も後ろも気が抜けぬ。おまけに攻撃すればする程に雷が落ちた直後は反射のダメージが積み重なる。癒しの効果はノックBを行ない続け、離した結果故に届き辛く。 音を挙げるのはどちらが先だ。敵か。味方か。 飛ばされる鱗を捌き、身じろぐ衝撃を耐え続けて。 出た、たった一つの答えは―― 「やぁ大きいですねぇ。これは鬼より大きいんじゃないかな?」 声が聞こえて判明した。この声は賊軍のモノに非ず。 「でも。いくら大きくても――この世、全ての呪いを弾ける程度の力はあるのかな?」 那由他だ。槍から漏れる呪いを全力でイクチへと。突き刺さる。 ああ楽しい。獲物より伝わってくる敵の震えが。血が。痛みが。数多の断末魔が愛おしい。 宿儺は倒れた。心地よい無念の悲鳴と共に。後はイクチ、一体のみで。 「やれやれ、油で随分滑りますねぇ。これは攻撃を通し辛い……」 「だが射ち込み続けりゃいつか限界来るだろ。巨体つっても不死身じゃあるまいしな!」 次いで慧架、カルラも続く。 集中攻撃だ。今まで宿儺二体。より厳密に言えばその更に一方だけに集中していた火力が――今ココに、イクチにのみ定められる。 雷を帯電させる事による反射によるダメージも、 「昔栄華を誇っていたとして。昔この国に存在していたとして。 結局存在意義がないから歴史の中で淘汰されたんでしょう?」 シュスタイナが癒し、傷を塞ぐ。 同時。詠唱の隙間に語るのは彼らの罪。消えたのはあくまで民に原因ありとして。 「だったら、何度蘇ろうが一緒でしょ。永久に繰り返しても変わらない。 ……人間だってそのうち、地球の歴史から消えるわ。さ、もう眠りなさいな」 天使の歌が奏でられる中、余裕ありと見た瞬間には攻撃に転ずる。 放つ風。イクチの身を数多に切り裂き続けて。 「所詮、過去なのよ貴方達民は。 現し世から消えなさい。過去こそが貴方達の世界で、もう、通り過ぎて戻ってこない世界なんだから」 ミュゼーヌの駄目押しが加われば、趨勢はもはや決まったも同然。 天より降り注がれる雷がリベリスタ達を狙うが、とても間に合わないのだ。 イクチの巨体が揺らいでいるのはその証左。シュスタイナの回復も加われば有利なのは明らかにリベリスタ側で、故に。 「終わりです。……この地は、押し通らせてもらいます!」 序盤より耐え続けた桐の、全力全開の一撃ここに成れり。 イクチの巨大な鱗を砕き、身に届かせ、そして。 『――ィ、ォォォ、ッ――!』 この地、最後の民が亡き叫ぶ。水面の下で。 弛緩する身が完全に力を失い、訪れる変化は霧の様。辺り一面覆っていた迷惑な油も消え失せて。 栄枯盛衰の如く。派手に暴れまわった巨大なる民は、嘘の様に全てが失われた。 ……やがて。 晴れる霧。通れる橋。邪魔する存在の無い――その先に。 四国が、見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|