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【三防強】増えるマタンゴ

●三高平防疫強化施策
 ぴんぽんぱんぽーん
「業務連絡です。この夏、酷暑の到来に伴う衛生状態の悪化により、
 関連エリューションやアザーバイド事件の増加が予測されます。
 これに伴い、アークではこれらの事件を優先的に収拾し、
 早期対処、早期解決を目的とする衛生強化施策を独自に展開する事が決まりました。
 リベリスタの皆さんはその様に宜しくお願いします」
 ぱんぽんぴんぽーん

 アーク本部に響く『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の声。
 まあ、何か今回そんな感じみたいですよ?

●トンネルを潜れば其処は……キノコの巣窟でした。
「ちょっと、パパ、本当にここで良いのー!?」
「大丈夫大丈夫、俺の情報網に間違いは無いって」
 えっちらおっちら山登り。籠を担いでゆっくり木々を掻き分ける父と娘。
 立ち入り禁止、と言う札が道端に転がっていたのに気付かなかったのは、
 この場合明らかに不幸の部類で有ると言えた。
 “霊峰近郊に古今東西のキノコが群生する山が有る”
 考古学者の父親が釣り仲間に聞いた噂に文字通り釣られ、この情報を調べ始めたのは春先の事。
 様々な文献に当たった結果数十年前のゴシップ誌の端にそんな記事を見つけたのがつい先月。
 そして遂に辿り着いた森へ踏み入ったのが半時間ほど前。
 きのこのきの字も無い山へ茸狩りに来るとか冗談にしても笑えない。
「ねー、パパーもう疲れたよー」
「いやいや待て、きっともう直ぐ松茸の山が」
 そう言って奇妙にうねった木々のトンネルを潜ると、そこには――

「おお、見ろ響姫こんなにきのこが!」
「え、え、嘘!?」
 茸の楽園が――何か一部歩いてますが。
「ぴきー」
 歩く茸に何か胞子っぽい物をかけられた。茸が生えた。ぽぽぽぽーん
 それで終われば、まあ、まだ良かったのである。

●天然キノコ探し、山菜狩りも含む。初心者OK。キノコ料理付のお得なツアーです。
「皆さん、茸は好きですか?」
 ブリーフィングルームへと集まったリベリスタ達を見回して、
 和泉の第一声は、どう贔屓目に見ても良く分からない物だった。
 遂に普通と言う安心感で知られる彼女ですらが、無表情ロリやロックな黒猫に毒されたか。
「あ、えっと今回の任務が茸狩りなので」
 そんなリベリスタ達の諦観の念を感じてか、和泉は慌てた様に説明を始める。
 目的地は三高平市外へ暫く行った場所に有る天然の山林。
 長年封鎖されていた森へ一般人2名が興味本位で足を踏み入れた事で事件は起きる。
 と言うのも、どうもその森、リンクチャンネルが度々開いている割とグレーな森らしいのだ。
「アザーバイド、識別名マタンゴ。人畜無害な全長50cm位の生きている茸で、鳴きます」
 鳴くんだ……もうその時点で植物の常識を軽く凌駕している。
 流石は異世界の生物、と言うかそんな物が上位世界種と言う時点で胸が痛くなる。
 嗚呼、ボトムチャンネルの悲哀である。

「マタンゴは、同族。この場合茸ですね。これを狩られる事に酷く抵抗します。
 まあ、戦闘能力は殆ど無いのですが」
 それは何というか、微妙に和む光景の気がする。気だけかもしれないが。
「マタンゴに触れると一般人は大凡1ヶ月で茸になります。
 現代の医療技術でこれを治療する手段は有りません」
 ここでいきなりホラーである。人畜無害と言う前振りは果たして何だったのか。

「でも、エリューション化している私達であれば何ら問題ありません。
 ただ夏だからでしょうか、偶々今、このマタンゴが森へやって来ているみたいで……」
 つまり、森へ踏み込む一家を説得して追い返すか、
 マタンゴを早々に捕まえてリンクチャンネルに放り込まないと――
「茸になってしまいます。これを何とかして頂ければと」
 大惨事であった。茸が好きとか嫌いとかそういう次元の問題では無い気がする。
「手段はどちらでも構いませんので、どうぞよろしくお願いしますね」
 説得か、捕獲か、平行して行うでも構わない模様。
 裁量は全てリベリスタ達に委ねられる。

 楽しい茸狩り――但し失敗すると大惨事――の始まりである。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月08日(月)23:31
25度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
放っておくと茸が生える季節です。きちんと仕事終えたら好きにして良いですよ?
以下詳細となります。

●依頼成功条件
 人間を茸にしない。

●マタンゴ
 全長50cm位の生きている茸。ぴきーと鳴く。
 夜になると集まって踊る性質が有る。戦闘能力は殆ど無いに等しい。
 攻撃を受けるか接触すると胞子をばらまき、胞子が身に付くと茸が生えます。
 一般人であればこれが体細胞を侵食し、1ヶ月ほどで茸になってしまうものの、
 リベリスタであれば服中茸まみれになる程度。生える茸は様々。食用可。
 人間の子供程度の身軽さで、追いかけると軽妙に逃げます。計10匹。

●リンクチャンネル
 森の奥にひっそり開いています。還したら塞いで置いた方が良いでしょう。

●学者一家
 森に入り込んだ考古学者の父親と、その娘。

・父親
 桜塚恭一。さくらづかきょういち。40代後半。のんびりとした気質で何かと豪快なタイプ。
 妻には逃げられ、残された娘をとても大切にしている。
 バイタリティに溢れており、学術的興味と家族サービスを兼ね山へキノコ狩りにやって来た。
 比較的常識人ながら、過去の神秘事件に有る程度精通している。娘至上主義。

・娘
 桜塚響姫。さくらづかひびき。10代前半。今時珍しい父親想いの少女。
 活発で強気、論理より感覚主義。好感を持った相手にほど我侭を言ってしまう。
 反感を持った相手の言う事には全くと言って良いほど耳を貸さないと言う扱い難い性格。
 警戒心も強く、人見知りをする猫の様なタイプ。好きな異性のタイプは話し易いイケメン。

●森
 古い立ち入りの札が転がる、木々トンネルの奥には茸がやたら生える森。
 通常の森同様にゼンマイ等の山菜も取れますが、茸が特に目立ちます。
 どうもマタンゴ達が度々訪問する事で生態系に影響が出ている模様。
 季節はずれの茸狩りにも最適。一般人除く。
 足場は悪く、日光は一定射しますが、日が暮れると光源は有りません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
金原・文(BNE000833)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)

●何故人は山に登るのか
「服とかキノコだらけになっちゃうから……洗濯しやすいのがいいよねっ!」
 額に赤い鉢巻を巻き、大層服で拳を握りしめるのは『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)
 さて、しかし突然であるが、菌類と言うのは植物同様に根を張って育つ有機物である。
 茸の形状を思い出して頂きたい。木壁等ににょきっと生えた、
 彼らが重力に従い落ちて行かないのは根と茎が確りと結び付いているからに他ならない。
 洗濯程度でこの根がどうにかなる物か。実際に試して頂きたい。夏の課題学習に最適である。
 閑話休題。
 夏休み明けに体操服を買い直す文の未来などはとりあえず置いておいて、
 ともあれてくてくぽくぽく山登りである。マタンゴの巣窟まではまだ少々の距離がある。
「はてさて、キノコですか……私はマイタケの天麩羅やお吸い物が好きなのですけどね」
 周囲を見回しながら呟くのは『灰燼天女』銀咲 嶺(BNE002104)。
 食費を浮かす為にやってきた彼女にとっては山道の苦労などどうと言う事は無い。
 それよりも食べるに足る茸が十分なだけ回収出来るか、問題はその一点である。
「茸は……まぁ、嫌いでは無いけれど……何だか上手く乗せられている気がするわ」
 ぽつり、日傘を器用に動かしながら木々の間をゆっくり抜ける『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)
 最後尾に位置する彼女はとにもかくにも体力が無い。意気揚々と先行する2人を見ては、
 そっと嘆息を溢して自分のペースを崩さない。
 しかして思い浮かべるのは何処かの普通が売りの眼鏡娘の話である。
 茸狩り、と言う切り口から始まったので何かそんな気分になってしまっている物の、
 これはバカンスや行楽ではなく単なる仕事ではないだろうか。細かい事を気にしてはいけません。
「……和泉も大分フォーチュナらしくなったわねェ」
 アークのフォーチュナは一癖無いと勤まらない法則でも有るのか。
 そんなもしかして、を想い浮かべながらも時折翼をはためかせ、森の奥へと歩み行く。

 そうして暫し、舗装も何も無い天然の山道に足が痺れてくる程度の間を置いて。
 一向は森の境へ辿り着く。燦々と降り注ぐ陽射しの中、ちらほらと増え始める茸の数々。
「おお、野生の椎茸か。こんな場所で確認出来るのは珍しい」
 『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)が料理人としての感性を刺激され、
 その内の一つ。大きく丸々と育った椎茸へ手を伸ばした。その時だった。
「居た!」
 文の声がするが早いか、達哉へ向けて走りこむ影。
 全長は50cm程。人間幼稚園児より更に小さい茸が――達哉に。
「あぶねえっ!」
 接触しようとして、『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)に阻まれる。
 個人はともかく、達哉が持って来た調理器具まで茸まみれにされてはたまらない。
 身を呈してのファインセーブ。その代償は分かり易い形で支払われる。
 ぼふん。
 視界が埋まる様な勢いで振り撒かれる胞子。傘が直撃した龍治にこれを避ける余裕は無い。
 体中に胞子の粉が降りかかり、瞬く間に生える。育つ。増える茸。茸。茸。
「……なんか新しい世界に目覚めそうだぜ」
 駄目! それリンクチェンネルの向こう側!
 危ない呟きを残して晴れて茸人間になった龍治を余所に、動く巨大茸が鳴く。
「ぴきー!」
「かわいいーっ!」
 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が上げた
 歓声を余所に、木陰から、森の奥から、顔出すアザーバイド『マタンゴ』達。
「追いかけっこなら負けるもんか――っ!」
 走り出した文を皮切りとして、ここに生ける茸と茸狩り達の鬼ごっこが幕を開ける。
 
 一方、茸狩り一向とは別行動を取っている『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)と、
 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の両名。
 彼らの仕事は山に登って来る仲良し親娘を追い返す事である。
 しかし恐らく普段のまま対峙すれば追い返し効果だけは抜群であろう九十九はと言えば……
「何時もの格好だと説得の前に、逃げられそうですからの」
 リュックサックに方位磁石、懐中電灯、高枝切りバサミ、トランシーバーと詰め込み、
 正しく山登り用完全武装。おまけに対話を可能とする為に動き易い登山用の服装へと換装済。
 怪しげな仮面も着けていないとなると既に別人。三高平であれば誰お前と言われるレベルである。
 余りのビフォーアフターっぷりに同行したエルヴィンすらも数度瞬く。怪人恐るべし。
「ところで、こっちで間違いねぇんだよな?」
「ええ、2人分の足音が聞こえますな」
 集御装置を頼りに歩き難い山道を辿ると、確かに。
 其処には九十九同様に正しく完全装備。その上茸を入れるのだろう大きな籠を背負った中年の男性と、
 小さな籠を手に提げた高校生位の少女のペアが何かを言い合っている。
「ちょっと、パパ、本当にここで良いのー!?」
「大丈夫大丈夫、俺の情報網に間違いは無いって」
 それはカレイドシステムがモニターした光景、正にその物である。
 確かに父親――桜塚恭介の情報網に間違いは無い。だが、この場合はそれこそが問題でもある。
「少々宜しいですかな?」
 草葉の影から九十九が顔を出す。見た感じ登山者、しかも至極まともに見える。
 とは言え、やはり場所が場所。多少の警戒は否めない。何所と無く不審げに恭介が問う。
「……貴方は?」
「申し送れました、私こう言う者です」
 胸から差し出す名刺。株式会社WARKと書かれたそれを受け取り、顔を見合わせる親娘。
 茸狩りの本隊とはそこに畳み掛ける様に、九十九が告げる。
「実はこの辺で危険な胞子を飛ばす毒キノコが発見されましてな――」

●そこに茸があるからさ
「実はこの辺で危険な胞子を飛ばす毒キノコが発見されましてな、
 申し訳ありませんが、現在この森は立ち入り禁止なのです」
「え、何それ!?」
 毒キノコ。日常的に余り聞く事の無い単語。上がった娘の声に恭介の頬が軽く引き攣る。
 おまけに其処まで事情に精通しているとなると、この森の管理会社か何かか。
 焦った様に娘、響姫へ視線を向ける。他方娘はと言えば明らかに引いていた、ドン引きである。
「ああ。それはご丁寧にどうも……その、ではこの辺に茸の良く生える森が有ると言うのは」
「ええ、毒キノコの所為でパァですな」
「パァですか……」
 がっくりと消沈するする父親を見て、けれど響姫は何所と無く不満げである。
 どうも説得が上手く運び過ぎて父親がやり込められている様に感じたか。
 何となく険悪な眼差しを向けられている気がする。
「でもこの辺は安全なんでしょ? 貴方だってマスクとかしてないもんね」
 じとっとした眼差しを向けて慇懃無礼に娘が問う。これはごねる気配である。
「何所まで安全か分かってるなら、その辺で茸捜すから放っておいてよ。
 別に誰に迷惑かかる訳でも無いし、そこまで危ないなら柵とか無い方がおかしいじゃない」
 言葉を重ねる事で余計ヒートアップしたか、あれこれと文句を付けて噛み付いてくる。
 これは無理矢理追い返した方が早いかと、九十九も一瞬考える。
「待った待った、一旦落ち着いてくれ」
「え、あ。誰よあんた」

 そこへ割り込むのは同行していたエルヴィンである。
 比較的近い世代の青年、驚いたか興味を惹かれたか、響姫の舌鋒が一旦矛を納める。
「俺はこっちの九十九さんの手伝いやってるもんで、エルヴィンってんだ。
 柵とか立て札とか忘れてたのは俺達が悪かった。すまねぇ。でもこっからはマジで危ないんだ」
 自分達が居たのがその証拠とばかりに告げられれば、
 不満の色を隠しもせず立ち塞がる男2名をじろじろと眺める。
「……何よあんた、バイト?」
 テンプテーションの効果も有ったか、問いはエルヴィンに。
 まあそんな様なもんだ、と苦笑いを浮かべるも、ふーん、と返る答えは何と無しに曖昧。
 当初不躾だった視線は徐々に値踏みする様な色へと変わり、ふむ。とばかりに小さく頷く。
「だったら、あんたが安全なとこまでエスコートしなさいよ」
 仕方ない、とばかりに出された妥協案は、けれど悪感情から来た物ではないだろう。
 それは態度を見ていれば何となく察せられる。エルヴィンもまた恭しくそれを了承。
「悪かったな、吃驚させちまったろ?」
「ほんとよ、ここまで上がってくるのがどれだけ大変だったか分かってるの?」
「何だ、お姫様抱っこで運んだ方が良かったか?」
「な、馬鹿! 誰もそんな事言ってないじゃない!」
 わいわいと、騒がしく声を上げながらあっさりと踵を返す2人を余所に、
 残された父親と九十九はその後姿を唖然と見守る。
「いや、年頃の娘さんは難しいですなあ」
「ええ、本当に全く」
 はあ、と嘆息する父親の、その背中に哀愁が漂っていたりいなかったり。

「このっ、捕まえ、きゃああああ!?」
 その頃茸狩り班はと言えば、まあ大体の所お察しの通りである。
 嶺がマタンゴを捕まえ、その瞬間噴出した胞子まみれになる。
 生えたのは何とトリュフである。嬉しい悲鳴と純粋な悲鳴が入り混じり森に木霊する。
 トリュフ、和名セイヨウショウロ。黒いダイヤ等と称されるが、
 実態としては中々にアレな形状をしている。
 それらが体中に生えた姿は、余り見目麗しいとは言い難い。
 年頃のお嬢さんでもある嶺的に、アウトかセーフかは微妙な所である。
「そっちにいったよ!」
「こっちからも、追い立ててるわ」
「ぴきー!」
 氷璃とレイチェルがマタンゴを追いかけ、るも向かった先では文がマタンゴを捕まえ、
 今正に悪戦苦闘の真っ最中。そこに更に2匹連れて込まれても捕まえられる筈も無い。
「え、待って、わたし今捕まえてるとこ、わーん全部こっち来たー!?」
 衝突。そして胞子。ところにより茸の雨が降るでしょう。
「ん、これはマッシュルームか。採集しておこう」
 1人マイペースに茸狩りに勤しむ達哉の所にも、勿論マタンゴは突貫を仕掛け……
「何だ、全員まとめて調理して絶滅させるぞ」
 不意に向けられた視線と手に持った包丁が本物の殺気を漂わせて居る事に気付き、
 Uターンして怪奇トリュフ女と化している嶺へと突撃するマタンゴ。遠くで再び上がる悲鳴。
 アザーバイドとは言え一応ちゃんと生きている以上、命は惜しいのである。
「おいおい、お帰りはあっち、だぜっと」
 とは言え、遊んでばかりもいられない。時間は有限なのである。
 龍治のライフルが火を噴いてはマタンゴ達の進路を誘導する。
 先には光の屈折がおかしい木の洞。リンクチャンネルが口を開いている。
 跳び込むマタンゴ。これで1匹。さて、次。

 と。

 一瞬思考が停止する。目線を向けた先に生えている茸。
 それが龍治の目線を射止めて動かさない。時折スーパー等で見掛ける事は有っても、
 それを口にする事は滅多に無い。円状に生えると言う変わった特徴を持つ茸。
 茸の帝王とも言うべき、ブルジョア食材の一角を為すそれの名は――
「こいつは――……まさか……」
 俺の勘が、これは旨いと告げている! こりゃまさか、マツタケ、とかって奴か……!?
「ふむ、良く実っているな。採取」
「て、おおおい!?」
 一瞬躊躇した間隙に割り込んだ達哉がさくさくとマツタケ様を回収して行く。
 料理の躊躇は不要、殺るか殺られるかの非情な世界である。
 円状に生えたマツタケ様(1本5桁)は漏れなく料理人如月達哉の掌に消えて行ったのであった。
 嗚呼、これもちょっと動揺してしまった小市民の悲哀である。合掌。

●戦い(?)終えて日は暮れて
 逃げては追い、追っては逃げる。あと捕まえて茸まみれになる。
 汗みずくになりながら追いかけ、追い詰め、追いすがり。気が付けば森全体が赤く染まっている。
 夕暮れである。残り2匹のマタンゴの内、片方を追い詰めたレイチェルがとびかかる!
「はい、捕まえたっ!」
「ぴきーっ」
 じたじたばたばた、と小さな足(?)を動かして抵抗するマタンゴ。
 まあ、勿論無駄である。抱きしめたレイチェルがご満悦そうに笑う傍ら、胞子が飛ぶ。
 茸が生える。けれどここまで来ると既に誰もそんな事気にしていない。
 何せ誰もがきのこ塗れである。茸が体から生えていない者など達哉位のものだ。
「迷惑な能力さえなければ、1匹くらい欲しいんだけどなぁ」
 捕まえたマタンゴを突くといやいや、と言う様に暴れるも、
 力が弱い為に何て事も無い。リンクチャンネルに放り込んで、敢え無くさよならである。
「マイタケ、ポルチーニ、エリンギにマツタケ、シメジ、キクラゲ……
 ふふ、うふふふ……」
「お、何かこれ見覚えあるぜ。確かエノキ茸って喰えたよなあ」
 こうして残り一匹まで来てしまうと、割と好き勝手に動く面々が出始めるのも、
 ある種の必然であろう。多種多様な茸を集めて悦に浸る嶺と、食べられる茸を追い求める龍治。
 そして木陰で飯盒炊爨に勤しむ達哉はマタンゴの追跡からは完全ドロップアウトである。 
 更には――
「トリュフはさっき見かけたけれど、セップやモリーユも生えてるのかしら?
 ……あら。これ……」
 日傘の似合う氷璃お嬢様は体力に限界が来て放棄。優雅に茸狩りを楽しんでいらっしゃいます。
 となると、現状残る1匹はどうなっている事やら。勿論答えは1つである。

「まてまてまてー! もう良い加減まってよー!?」
 臆病わんこは何見て駆ける。マタンゴを唯一人で追い回す文である。
 奇を衒うでもなく策を弄するでもなく一直線に駆けるその姿は、和むと言うか健全と言うか。
 勿論マタンゴも必死に逃げるも、その距離は徐々に縮まっていく。
 そうして漸く射程圏に納めた、その時。立ち塞がる巨大な影。出たなだいまどう!
「おや。まだ残っていたのですな」
 摘み上げた表紙に胞子が飛び散り、キノコ男と化す怪人Q、九十九が漸く合流する。 
 同行していた筈のエルヴィンはと言うと、どうも父娘の娘の方に捕まってしまったらしい。
 麓に送り届けてからも何かと注文を付けられ、未だ戻れず。
 テンプテーションが効き過ぎた、と言った所だろうか。止む無く1人戻って来た訳である。
「あ、はい。それで最後です」
「ではさっさと送り返して茸料理に舌堤を打つとしましょうか」
 山道を引き返す2人によって、最後のマタンゴもこうしてお縄となる。
 遠くからは蒸したマツタケ様の香り。持ち込んだ食材と採取した茸料理の数々。
 走り通しに走り続けた文のお腹がきゅるるーと鳴る。
「ん、やはり平和と美味い飯が一番だ」
 土瓶蒸しの味見をしていた達哉が満足気に頷く。
 一向に料理人が同行していた事実が、これほど歓迎される事も余り無いだろう。
 労働の後の食事は格別、それもプロが腕を振るうとなれば尚更。
 茸狩り最後の締め括りである。

「おおー、達哉ぐっじょぶ!」
「いっただっきまーす♪ わあ、いい香り……!」
 レイチェルが歓声を上げては親指を立て、座り込んだ文が感嘆の吐息を溢す。
 ランプを灯した夕暮れの森で座しての茸パーティ。
 飯盒の蓋を開ければ香り立つ松茸の芳香。
 口へ入れれば取り立ての食材独特の芳醇な香りが口腔を満たす。
「こんばんは和泉、茸狩り楽しんでるわよ」
 AFで連絡を取りつつ料理の感想を滔々と述べる氷璃すらが、料理の味に満足気に頷く。
 素材の味を生かした丁寧な味付けは彼女の嗜好を十分に満たしたらしい。
「……え? 別に他意はないわよ?」
 くすりと。何所となく毒を含んだ笑いが漏れるとかそんな事ある筈も無いのである。
 気のせい気のせい。
「ほうほう、これはどうやって味付けているのですかな?」
「ああ。これはだな」
 カレー用のマッシュルームとシメジを大量に抱えた九十九が問えば、
 達哉が懇切丁寧にレシピを告げる。ふむふむと頷く九十九。
 果たしてカレーにマツタケご飯をどう生かすのか乞うご期待である。
「俺にはちっと少なかったんだが……」
 隣では自分の分を食べ尽くした龍治が、余ったエルヴィンの分を凝視していたりもしたか、
 けれど仕方無しに持ち込んだバッグを見れば頬も緩む。まあ、土産がこれだけあれば、と。
「大変でしたけど、偶にはこう言うのも良いですね」
 その正面。よいしょと。嶺が持ち上げたのはバッグとかそんなレベルではない。
 箱である。重量は赤子の体重位だろうか。恐らく誰より茸狩りを満喫した彼女が爽やかに微笑む。
「あら、龍治さんそんな量で良かったんですか?」
 見比べるのはバッグと箱。確かに、倍は違うだろう内容量。
 龍治が軽くショックを受けた様に慄くが、事前準備と覚悟の差である。止む形無し。

「お、何だ。もう始まってんじゃねぇか」
 そこへエルヴィンがやっと合流。これを楽しみに山を往復して来たのである。
 差し出された土瓶蒸しを嬉しそうに頬張る姿は、歳相応の子供っぽさを滲ませる。
 しかして茸狩りは十分な成果と共に完遂される。
 その締め括りにはやはりこの言葉が相応しいだろう。全員を見回しレイチェルが手を合わす。

「茸、ごちそうさまでしたっ♪」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様お待たせ致しました。STの弓月蒼です。
イージーシナリオ『【三防強】増えるマタンゴ』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

美味しそうなプレイング楽しませて頂きました。
行楽という事で皆様にもわいわい楽しんで頂けたなら幸いです。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。