●お前らもキャドラになる日 その日、VTSの前に集められたリベリスタ達は見知った少女の前に整列していた。 「来てくれたのね、ありがとう」 ひとこと、労い。それだけで緊急事態ではないのだと知れた。少しだけ、ほっとする。 流石に、大きな戦いを終えたばかりで連戦というのはいかに彼らといえど辛いものがあった。 「まずはこの映像を見て欲しいの」 そう言って、彼女は近くのモニターを指し示す。それと同時、ひとつの映像が流れ始めた。 「本部! 本部! こちら先遣隊! 部隊は崩壊しています! 聞こえていますか、本部!」 戦場、だろうか。灰色と火花。崩壊した都市。所謂、鉄風雷火と呼べるそれ。しかし、どこか非現実感のある風景。つまるところ、これはVTS内の映像なのだろう。訓練風景。どうやら、苦戦をしているようだが。 「もう嫌だ! こんなところ、早く抜け出し……あ、ああ、ああああああッ」 モニターに映った男が、突如苦しみだした。リベリスタ達も目を見張る。嗚呼、嗚呼。なんと悍ましい。なんと恐ろしい。モニターの彼。その姿が変わっていく。別の何かにすり替わっていく。己が己でなくなっていく恐怖に怯えている彼。嗚呼、嗚呼。なんてこと。早く助けなければ。 「落ち着いて、これは1時間前の映像よ」 1時間。1時間。自分達に招集がかかったそれと前後する。これだけの人数を集められたのもこれが原因だということか。嗚呼、嗚呼しかしなんという光景か。男は最早原型をとどめておらず、別のそれに成り代わっていた。黒い肌。大きな瞳。ギザギザの口。猫耳。巨乳。 …………。 「にゃーっはっはっはっはっは!!」 『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)だった。 なんか、連絡兵がキャドラになっていた。なんだこれ。 そこで映像が途絶えた。 なんだこれ。 「…………ね」 いや、ねじゃなくて。 「…………どうしよう」 うん、ほんとどうしよう。 「とりあえず、中入って、止めてきてくれる?」 ……………あれに、なるかもしれないのか。 そう思うと、すげえ嫌だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月10日(月)23:13 |
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■メイン参加者 14人■ | |||||
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●キャドラデイズ その空気を知るものは少ない。 あがる砂埃、火薬の炸裂する音、音、目をしかめたくなる硝煙の香り。慣れなければ、或いは壊れてしまわなければ精神に傷を残すその光景。 自分から好んで身を置くものは少なく、よってそれを知る数は限られている。 ましてや、そこにクソ猫を足した光景となると。 「ニャハハハハハハハ!!」 猫、猫、猫。どこを見てもキャドラ。どこに居てもキャドラ。知ってはいたが、実際にこの目にすると呆けてしまう光景だ。 どれくらいそうしていたのか。ひとつ、自分に近づいてくるものがあった。 猫耳、ギザギザ口。キャドラか。そう思い、武器に手を伸ばすが、その表情が敵意のないことを語っている。 よく見れば、胸部のそれが本物よりも遥かに薄い。つまりこれは、なりかけということか。 「た、助けに来てくれたのか! た、たのむ! このままではあちしもあいつらににゃにゃにゃにゃーっはっはっはっは!」 迷わず、それを殴り飛ばしていた。会話中に巨乳になりだしたから警戒はしていたのだ。 体がムズムズする。時間がたてば、自分もこうなるという予兆だろう。 一刻の猶予もない。これを解決するのか。それとも楽しむのか。どちらにせよ、動き出さなければならなかった。 ●キャドラデイズ 解き放て。 竜一にとって幸いなことに、身体だけが先にキャドラになってしまうようだった。最早鍛えぬかれた鋼のそれは、しなやかだが柔らかいものへと変貌している。 直に心も、であれば行動を。全霊を賭けるのは今しかない。 「なあに、何をしてもはキャドラだ! 俺だとバレることはあるまいさ!」 そう、今や竜一は竜一であって竜一ではない。そこではどのような変態行為も自分だとは認識されないのだ。「しかし、問題は、シマパンを穿けないこと……」 その時竜一に電流走る。 「逆に考えるんだ、下に穿けないなら、上に被ればいいんだって! シマパンをかぶって暴れまわろう。女性に誰彼構わずむぎゅむぎゅくんかくんかはすはすかりかりもふもふしに! うひょおお! 解き放て! 俺のリビドー!」 このタイミングで心まで変化したのは言うまでもない。 「わーい、キャドラになれるぞー!」 ブリリアント、大歓喜。だってキャドラになれるのだ。それはいったいどういうことか。それはつまり、いつも多額の金銭を費やしているキャドラへのスキンシップをセルフで行えるということではないか。 無料で! 無限に! 永遠に! 「わたし、天才!!」 おう、すげえ残念な思考だぜ! 「お、そう言ってる間にも体がキャドラ化してきたぞ……わーーーい! キャドラーーーー!!」 むぎゅむぎゅ。むにむに。……。 「うん……確かにこの感触はキャドラπなのだが……なんだ、この物足りなさ&虚しさは!? 科学文明におごり高ぶる人類への警鐘だというのか……!! くっ。やはり複製品ではダメだ! 改めて、うおー! きゃどらーーー!!!!」 手近な実物へと飛び込むキャドラ(ブリリアント)。 「やっぱり本物は違うにゃ……」 「ニャ、まいどあり♪」 「ふおお、猫耳が生えた!?」 肉があるということは、触覚が生まれるということである。初めての感覚に、舞姫は驚きの声をあげた。 「うう……ぱんつ、ぬぎたい……」 そして、キャドラになるということは、下着を履かなくなるということなのである。 「ダメよ、アークの清純ヒロイン枠として破廉恥な真似は許されないわ!」 ()つけたい衝動を抑えきれない。 「はっ、そうだわ! ぱんつを穿かなくても、身につけていればギリギリセーフのはず」 さもグッドアイデアとでも言いたげに、舞姫は颯爽と脱ぎ去ったぱんつをメットオン。丁度足を通す穴が猫耳にジャストフィット。 見よ、ぶっちぎりでアウトである。 「ふっ……ふはははは! 『敢えて穿かない』と『ぱんつ』のアンビバレンツな二つの力を手に入れたぞ! 光と闇のぱぅわーを併せ持ったも同然ッ!!」 せーの、清純ヒロイン枠(笑)。 「キャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラ~♪」 「ニャニャニャニャ!?」 びっくう、と。周囲のキャドラが総毛立たせた。この猫にも、よくわからないものがある。そして、よくわからないものは怖いものだ。例えばこの、陽菜のように。 「身も心もキャドラに捧げてもいい! けれどこの性癖までは渡さない! キャドラ猫LOVE♪」 性癖の本来の意味は云々とは言うまい。言語とは認識で意味が変わるものだ。 「いやごめん、混乱したニャ。これギャグパート。あちし、頑張るから」 「にゃおおぉぉぅっ!」 びっくう。それが、猫には「そこに居たのね」と聞こえたかもしれない。 これだけのキャドラが居ても、きっと彼女はそれを見つけるだろう。解き放たれた彼女。興奮に顔を赤くした彼女を見て。 猫は一目散に逃げ出した。 キャドラになったとしてそれを楽しむさまというのは想像できなくもない。性格はアレだが出ているところは出ているのである。そういった肉体への興味は理解できなくもない。 だが、 「心も身体も別人へと変化する。わたくしの心が、キャドラ様の心で塗り潰される! なんてたまらない……わたくしの心が捻じ曲げられ作り変えられるその様! たっぷりと堪能させて頂きますわあ!」 これは想像しようともしなかったわ。 「あ、わたくしこういうの大好きなド変態ですので」 わぁい、モノホンさんだ。 それでも撫那の変化は緩やかだ。抗っているのである。自分が変化し終えてしまうことを拒んでいるのである。それはけして否定ではなく。 「絶対に負けない、屈しない、抗う心……塗り替えられる、その感覚! たっぷりじっくり愉しませて! 頂きますわあ! うふ、うふふふふ!」 「た、楽しそうニャ……」 タグには突っ込まないことにする。だってあとで読み返してもちんぷんかんぷんだし。 「またあの猫はVTS好き放題して!」 夏栖斗は憤慨する。毎年毎年、公共施設をなんだと思っているのか。 「ちくしょう! キャドラ! お前いい加減にしろよ!」 あ、ぴょこんと猫耳生えた。 「女の子だからって、甘えは許さないからな!」 胸がでっかくなった。 「―――なにこれ重い! 揺れるすげえ! さ、触ってもいいのかな? ほら? 一応自分の体なわけだし? 仮想空間なわけだし? うんいいよね?」 「汝のなしたいようになすがいいニャ」 「いくよ、さわ、さわるよ? 深呼吸深呼吸。ひっひっふー(定番のラマーズ法)……うわぁあああああじぶんのでもやっぱむりだぁあああ! 僕の手はおっぱいに届かないんだあああ! うわああ、早く出して! もどる! 元にもどりたいよおおおお!」 「いいか、俺達は最期まで人として生き、人として戦い、人として死ぬんだ!」 「なんか大層になってるニャ……」 こいつフィクサードじゃねえのとは言われ慣れているものの、流石に非人間扱いは初めてである。快の発言に、猫じゃっかんしょんぼり。 「たかがミサイル一つ、人間の尊厳で押し返してやる!」 そう言って、猫の乗るミサイルをひとつ蹴り飛ばす男がここに。人間の尊厳ってすげえ。 また、すでにキャドラになりつつある仲間たちを次々に慈悲の刃と称して介錯していく。鬼か貴様。 「ばか! そんな格好で! リプレイが発禁になったらどうするんだ!」 「だいじょぶニャー。まだエロいって怒られたことないからニャー」 そして、自分にも猫耳が生えたことを知るやいなや彼は自決するのである。ハラキリ。これがブシドーだ。 「俺は人として終るぞ! お先に!」 なんていうか、その、ぼんさんがひとり光っていた。 「自分を……光放つ!!」 フツの解き放たれた身体からまばゆい光をいやいや脱ぐな今さっき発禁がどうのって言われたばっかじゃねえか。 「キャドラにオレ達が侵食される? 違うな、キャドラがオレ達と寝食を共にするのだ!」 仲間意識。博愛精神である。きっと。 「オレ達は裸だ。裸であることは心細かった。だが、今は違う。オレ達にはキャドラが共にいる。オレ達こそがキャドラだ! 世界と直に繋がる。そのことがわかった時、世界はこんなにも優しかったのだとわかる。裸無裸弥裸仏。さあ、そこのお前も解き放つのだ。身体を、心を。そして、光を!」 「あちしだってそこまで脱いじゃいねえよ!」 ところでこのタグついてる人ほとんど脱いでないんだけど。どういう繋がりがあったの。全員全裸でいいの。 「ふるふろんたる!」 ごめん、居たわ全裸宣言。これを人名にしたやつヤバ過ぎるよな。 しかし、ステイシィとて一気に脱ぐような真似はしない。ありがとう、このリプレイセーフやで。 「『あえて穿かない』その思想には感じる物があるのです。そう、解放感! 何にも束縛されたくない! 万物の霊長たる人に生まれたからこその解放感!」 ごめん、このリプレイアウトやったわ。 「狂気と正気の狭間の末に、貴女は其方を選んだのねぇん」 そして、そんなアウトな彼女の前に現れるのはステイシー。ステイシーはステイシィと違い猫になることを良しとはしない。ややこしいなこれ。 「そう、己を解き放ちたい本能はごく自然、否定する道理なんてこの世にはあるはずも無いわぁん。だけれどもぉ、あえて己を押さえ付け痛め続けるこの狂気を看過することはできるかしらぁ?!」 あれ、結構同じこと言ってないかこのふたり。 「あちしと同じ穿かないリスタになれにゃ!」 「さあ貴女も尊厳という名の拘束具で愉しむといいわぁん!」 サバ折りvsベアハッグ。だいたい同じ技なのでひっくり返しても意味は通じる。姿勢的にそれのやり合いって難しいんじゃね、とか言ってはいけない。 しかし、ステイシーはそこから追撃のバックドロップ。これは痛い。なにせ猫耳。聴覚器官が頭部にあるときた。三半規管がぐーるぐる。ダウンしたステイシィにステイシーはそっとぱんつを履かせると、キャドラが下着を履いているという存在の矛盾にCPUが過負荷を起こしたのか、ステイシィの身体は架空世界から霧散していった。 戦いの終止符。しかしステイシーも気づいていた。自分の下半身にも最早あるべきものがないことに。薄れゆく意識の中、最後の力で短刀を取り出すと。手早く自分の腹をかっさばいたのであった。 「…………ニャにこれ?」 「……さて、俺も少々混ざらせて貰うとするか」 拓真は戦場を眺めると、無駄のない動作で得物を構えた。 「随分とまた派手にやっているな……始めようか」 戦車、ミサイル、短銃兵と。大物から順に駆け、捌き、沈めていく。その度に猫の様子を探り、真贋を見極めていた。 「ニャアアアア、ヘルプ! こいつ洒落が通じねえ!!」 わらわらと逃げ惑う、または玉砕していく猫猫猫。一匹を捕らえてみても、この世界が終わらない。ならばそれは偽物だ。次を、次を。次を次を次を次を切り飛ばしていく。 「生憎と遊ぶつもりはない。邪魔をするなら……本気で行くぞ!」 「ニャニャニャニャ、かかれー!!」 開き直ったキャドラの指示により押し寄せる猫、猫、猫。溢れかえるコピー体。キャリアー。その渦中に男はひとり、身を躍らせた。 あれ、これなんのリプレイだったっけ。 「衣食住という言葉がある。人が人として生きるための要項……そのいずれかが失われても、人は人としての尊厳を失う……キャドラ! 人の尊厳を侵食する悪魔よ! 貴様を倒し、我々は『人間』を護り抜く!」 「だから非人間扱いするなし……」 風斗の言い様に、最早諦めたとばかりのキャドラ。 風斗が戦車の横面を思い切りぶっ叩くと、その超重量は横転し動きを止めた。そして素早く駆け上ると、中で目を回していた猫を引きずり出して持参したロングスカートを履かせていた。自分で気絶させた女の子を着替えさせる男、こう書くと結構社会的にヤバイ奴である。皆は明日からちゃんと接してやるんだぞ。 目を回した猫の近くに、またもうひとり。 「下着はダメでも、せめてミニはやめろ! あと白黒の髪被ってんだよ!」 「やだぷー。あちしの髪は真っ白ニャもーん」 「あえて穿かない……ですと?」 ユウはキャドラのプロフィールに異を唱える。 「否否否、いな! 秘するが花、と物の本に書いてあります。隠すべき物は隠し、見せるべき物は見せる。それこそが真理なのです!」 「ニャ、あちしも見せてはニャーのよ? うんうん、あちしも着エロは好きニャ」 しかしてこの状況である。戦場にはびこるキャドラキャドラキャドラ。ひとりでどうにかできるものではないのだ。 「私は一人でも多くの感染者を楽にしましょう! うおおー!」 鬼である。 「ああっ、猫耳が! 尻尾が! 垂れ目が釣り目に、胸も(メタいので検閲)渾身の爆乳にー! そしてそして、遂にすーすーした感触になり始めています……もはやこの身は完全にキャドってしまったようですにゃ……心までキャドる前に! ぱんつばんざーい!」 自決。キャドるってなんや。 「ここが四国……神の国か」 いいえ、VTSの中です。すっとぼけたことを言っている伊吹であったが、どうにもこうにもやる気がでない。 しかしまあ、事態もなかなか収束には向かわないようで。自分の変化を楽しむもの、それを良しとせず敵も味方も自分さえも殲滅していくもの、只々猫が好きなもの。何たるカオス。これはきっと、リアルでイヴも頭を抱えているに違いない。 そう思うと、なんだか眠くなってきたものだ。ごろんと、地べたに寝転がってしまう。だんだんとキャドラに変わっているこの身。こんなところで寝そべっていては無防備にも過ぎるだろうが、なんだかそのへんもどうにかなる気がする。 「もうどうにでもなーれ」 そのまま、鉄風雷火の中で寝息を立ててしまった。 「キャドラ? ほっておけばそのうち飽きるだろう」 ある意味、それが真理なのかもしれない。迷惑極まりないが。 ●キャドラデイズ なんやかんや解決した。 何がどうなったかと言われれば、なんやかんやである。 仮想世界として走っていたプログラムが終了してすぐに、現実の世界でキャドラは黒服のごっついひとらに捕まり、連行されていった。向こう何ヶ月か、給料カットだそうである。嘆いてはいたが、反省することはないだろう。 収束後、各々の様子は様々だ。あれの思考をトレースして、それぞれ思うこともあるのだろう。あれはあれで、思慮深い面も、うん、まあ、たぶん。 ともあれ、言えることはひとつである。 VTSのご利用は計画的に。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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