● 日本の主流七派には七つの派閥が――なんて今更かもしれないが。 其の一角である三尋木が首領『三尋木凛子』という、名前通りに凛とした雰囲気を散らせる唯一の女首領が存在している。 其の下で思うが侭に自由を生きている『クリム・メイディル』という、仕事を気が向いた時にしかしない幹部が居るのだが。 「……おや、行くのかい?」 「ええ、野暮用ですよ」 武器を持ち、赤色の燕尾服という戦闘服を身に纏うクリムに、凛子は話しかけた。 真っ暗である廊下に光るのはクリムの赤い瞳と、凛子の熟れた瞳だけ。 四国では今、同じく主流七派『であった』裏野部が賊軍と名を変えて好き放題に荒らしているという。勿論、四国には三尋木の拠点である施設はあったし、其処には三尋木のフィクサードも居たであろう。しかし今更助けに行っても―――最悪、手遅れかもしれない。 行っても無駄だ、其れにどうせあの国内八柱目の箱舟が如何にかしようと躍起になっている最中であろう。しかし、だからこそ行くのだ。 「四国に居る子なんですがね。以前……お世話になった女の子からのSOSでしてねぇ。時間も経っていますが生きてるのなら助けますし、生きてないのなら……賊軍に八つ当たりもいいかと」 「そうかい。クリム、あんた……死相が出ているよ。止めはしないけどね」 「それはそれは、気をつけなければなりませんねぇ」 凛子の前に膝を着いた彼は、凛子の手の甲にキスを落した。 穏健だからこそ、自由に動ける三尋木の彼。 賊軍? 箱舟? 日本? そんなもの他に任せておけば如何にかなるだろう。だが己が被害を被るのであれば黙ってはいられまい。 だからこそ、たまには情に流されるままに敵を討ちに行くのもいいだろう。三尋木としてでは無く、クリム・メイディル個人として。 ● 「皆さま、お集まり頂きありがとうございます。それでは……賊軍を討ちましょう」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は青白い顔でそう言った。何時もながら七派には手を焼いているが、此処まで来ると怒ればいいのか、呆れればいいのか。 昨年末から大きく動いている日本国内主流七派の一角『裏野部』は形を変え、末路わぬ民と呼ばれたアザーバイドたちを封印から解放し、『賊軍』と成った。 彼等は四国を拠点として動き、本州から四国へ通ずる路という路を封鎖。空や海からはEエレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の砲撃を食らうので近づく事もままならない。つまり、完全に賊軍は四国に立て籠もった形になった。 ヤクサイカヅチノカミが階位障壁というものを機能させている為、人間が作った兵器は四国には通らない。最早、E能力者の力で無ければ彼等に風穴を空ける事ができないのだ。 これから彼等は囲った死国という籠の中に置き去りにされた命を食らい尽くさんとしている。其の命達を食らえば食らう程、負の想念は裏野部一二三に力を与え、其の身を強化していく。 其の後は想定せずとも、日本を国盗りに来るのは見えている事だ。 だからこそ。 「此処で、四国で彼等を止めます。皆様、どうか力を貸してください。」 此の班は四国への入り口の一つを突破して貰う。先にも言った通り、四国への玄関口を全て封鎖されているのだ。後続のリベリスタを四国の中に入れさせる為にも、玄関を開かせるのは大きな役目だ。されど、入口である其処らにはヤクサイカヅチノカミの落雷が待ち受けている。侵入者を拒む為のそれであろうが、賊軍と乱戦になれば安易に落雷を落してくる事も無いとは思えるのだが。 そこで相談なんだが。 「皆さまはえっと……賊軍フィクサードは別にいるんですが。大変申し上げにくいのですが、裏野部一二三を百五十人倒して欲しいのです」 ちょっと待て。 「本当は! 本当は、化け狸なのですが……如何にもこうにも、裏野部一二三に化けた様なので、総勢……ざっと数えて百五十前後かと」 ちょっと待て。 「大丈夫ですよ! 布瑠の言のとか、蛇比礼とか間違っても無いので! ただ、クリミナルスタアのスキルは使用しますね……威力や、能力はお察しなのでそんなに怖がらなくても全然、ぜんっっぜん大丈夫ですよ!」 つまり、化け狸が百五十体いるので倒して道の封鎖を突破しろ。である。 見た目は裏野部一二三ではあるが、最凶である本物の質まで真似る程、タヌキ達は逸脱していないようなので、量で勝負だ。時折、変化の能力を駆使して別の個体を真似る事もあるだろう。少々厄介な敵でもある。 「あ、あと三尋木の幹部が応戦してくれます……」 嫌がる顔をしながら、付けて足したように杏理はそう呟いた。 三尋木の幹部で杏理が嫌そうな顔をする人物なんて一人しかいない――― ● ―――つまり、クリム・メイディルであるのだが。 「うわぁ、無理無理無理無理無理無理無理帰りたい帰りたい帰りたい」 敵を目の前にして、首領はやっぱり女の子が良いとか。 死相ってこれかなとか。 やっぱり家で大人しく台風が通り過ぎるのを待てば良かったな。 とか思っていた彼であった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月10日(月)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 大鳴門橋に到着した―――刹那。 「戦争は数とは言うけど、ちょっと増」 「あんまり喋ってると舌噛み千切るぜ?」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の顔面目掛けて、通常より少し大きいであろう裏野部一二三、もとい狸の拳が飛んできた。 スレスレで身を捻って回避したものの、頬についた傷から血がぷくりと膨れ上がって垂れる。避けたと思ったが、第二第三の一二三が通常物理なのか無頼の拳なのかよく解らない拳を振り上げている。 「最後まで喋らせてくれよ……」 そう義衛郎は嘆いたのだが、敵は待ってくれない。足に力を入れ、避ける為のルートを探す。 そんな中、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は遠くに見える紅い物体に手を振り。 「ねっねー、メイディルちゃん、沖縄の借り今回でチャ……うー!? 痺れるゥ!!」 頭上から降り注いだ天の雷が葬識を含めリベリスタ8人を的確に射抜けば、開戦の合図なんてとっくに過ぎていて。 「朱里ぽんどこですかな?」 「この肌色の中で探すのは無理だ! とりあえず此の、有象無象をなんとかしてくれ」 「ほいさ」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)へそう言ってみたが、次の瞬間一二三に遮られていりすの姿が見えない。 仲間と分断されないように――だが、此の圧倒的人数差では無理だ。 早くて重い拳を受け止めたゲルトだが、背後から撃たれれば背中に穴が空く。ゲルトの堅い身体だからこそ、弾丸が貫通せずに身体の中に残る。数十発と入れられた弾丸が体内で弾丸を押し、其の違和感にゲルトは眉を歪めた。 其の瞬間。 引き延ばした影を撃ち払ったいりす。槍の様に飛んでいく直線は一二三を総勢24人貫き、一気にかき消していった。人数が大幅に減った事により一番喜んだのはタ影って奴なんだ。 いりすの右目下がぴくりと動いた。 「あら」 なんだか。 「弱い……?」 「みたいだな」 皆さんが強いのかもしれない。 むくりと『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)は起き上った。 今しがた劫は、一二三の攻撃を避けたら一二三が後ろからナイアガラバックスタブしてきて一二三がヘッドショットキル×3を零距離してきたので頭痛のする頭を押さえていたら一二三の拳が飛んできて其の儘バランスを崩した劫は地に伏したら一二三の踵落としが飛んできた、其処で味方の暗黒が周囲の有象無象を消す。此処まで、僅か5秒の間に劫の身に降り注いだ出来事。 腕立てをするように起き上った彼はそんなにダメージを受けていない程に元気だ。但し脳天より流血。 「数が全てだと思うなよ」 そう宣言した劫は、処刑人の剣を掲げつつ残像により己が姿を増やす。一斉に動き出した数多の劫達は、一斉に一二三に襲い掛かった。より前へ、此の前衛たちの奥には倒さねばならない蜂比礼が居る。 「ン、ァァ。リベリスター? 三尋木がいンノニ冗談じゃねー!!」 神傍麗。 常人では脳でも爆発するんじゃないかと言うほどの代物を持った賊フィクサード。麗が右腕を振り上げれば、ヤクサイカヅチのものではない落雷がリベリスタ達を的確に射抜く。此の時点でゲルトのラグナロクがリベリスタを守っていれば良かったのだが、ゲルトの詠唱は未だ終わらず。 歯を噛みしめた深崎 冬弥(BNE004620)は人差し指と中指の間に挟んだ札に、祝詞を乗せた。 幾ら、一二三共が弱いとは言え流石指揮官……麗の攻撃はリベリスタの身を痛める事は容易い。次の瞬間に発動するであろうゲルトのラグナロクを除けば、唯一である回復手段を持った冬弥の存在は貴重だ。一回で癒し尽くせないのであらば、二回やれば良い話。 二枚の札が光と共に飛沫に成り、其の光が仲間の傷を癒す中、冬弥は後方の『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)と『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)を見る。 「無事か?」 「俺様と龍治は大丈夫だ! ありがとうな」 「当たり前の事をしただけだ」 例え此の戦場であろうとも木蓮の無邪気な笑顔に冬弥は少しだけ顔が緩んだ。近くで龍治はムッとしていた。 ちょっとした嫉妬心を抱えた龍治は得物の標準を上に向けたのだ。突然の行動に木蓮は「どうしたんだぜ?!」と呼びかけてみるが返事は無く。 塵も積もれば山となる、という。だが其の山、崩してしまえは意味なんて無いのだ。 「俺の役目は……何時でも此れだ」 今まで此の攻撃で何人何体を殺してきただろうか――想い馳せ、天へと撃った弾丸。其れが空中で燃え上がり、炎の雨が一二三の身体を一体一体燃やし尽くして骨も残さず消していく。 「ほら。さっきより景色が良くなっただろ?」 「同じ顔だらけって悪夢だったもんな……」 神秘を纏う木蓮は頬から汗を垂れ流した。大量の一二三ってやっぱり目に毒だよね。 ひゅー。 「あたっ」 不発弾が一つ葬識の頭に落ちた。フードの上から直撃点を擦りながら、構わず葬識は左手で捕獲した金髪を引き寄せてみる。 「沖縄の借り今回でチャラにしなーい? 助けにきったよー☆大ジョーブ!」 「ひ、ひいいいい、血!? 血ー!?」 だが葬識。直前に受けた敵サジタリーの弾丸が見事防御貫通――もとい、右目をとらえてしまったからか、出血と頭痛が相成り前が見えない。 「今回俺様ちゃん後ろから切りつけなーぁ……ぁぁあれなんで震えてるのー?」 「あわわわ」 よく見てみれば身長が明らか低く、男と思って掴んでみれば非常に柔らかい。 「あれ? 間違えちゃった」 葬識は赤神朱里をポイっと投げたのであった。 ● 時間にしてみれば30秒。 早くも一二三の姿は疎らに成り、あんなにも肌色が勝っていた光景も風景を映すようになってきた。 「おや、アークが来ていたとは思いませんでした」 此処でやっと『Crimsonmagician』クリム・メイディルがアークの存在に気づいた。自分こそ、烈風陣を撒き散らし敵の数を減らしていたものの、後から来た存在には目も暮れていなかった。 されど劫は構えた。 「お前……本当に三尋木の奴だろうな?」 というのも数秒前にクリムの格好をした狸が劫へメガクラッシュを仕掛けたのだ、無理も無い。なんと言っても見分ける術が、無い。 「信用しろなんて言いませんがねぇ」 恐らく此処でクリムが劫に手を出すのであらば、化け狸として葬っても良いのだろうが。クリムは一二三の胴を鎌で真っ二つ。其れが意味するのは賊が敵という事で語る事も無い。 「貴様が化けられていると面倒なんだ」 「褒め言葉ですか?」 劫とクリムの間に落雷が落ちた。其れをかわす様にして二人は別々の敵へと斬りかかる。 クリムが斬りかかった先。頭を飛ばした一二三の胴から鋏の二又がずぶりと貫通してきた。 「いっ!?」 恐らく背中側から葬識が突き刺しているのだろう。 其の開いた刃に丁度クリムの頭が入り、危機感を覚えたクリムは上半身を引いた、刹那。バチンと閉まった刃に、胸を強引に切られて消滅した狸。 「あ、いたいた!」 「今、軽く殺される所でしたよ俺」 「俺様ちゃんが? メイディルちゃんを?」 うーんと腕を組み、身体をくねりと横に反らしてみた葬識。 「してないよ! 言うなら、事故だよね、事故事故! だぁーって俺様ちゃん、裏野部ちゃんが大きすぎてそっち側見えてなかったんだもん☆」 「あぁ、はい」 扱い辛いなぁとクリムは心底思った。 「それよりメイディルちゃん! 今日は助けに来たよ! 切りつけないよ嘘つかなーい☆」 轟、と燃える槍を手にした朱里が座り込んでいた。目の前に迫った魔曲の音色を其の身に貫通させて。只、絶対者である彼女が呪縛を受ける事は無いが息は荒く。 「リーチ差を意識して無理に突っ込まないようにしたまえ」 いりすは朱里へ向かった弾丸を切り伏せ、背中で語る。 クリムだけが戦場に居たのなら見捨ててアーティファクトのみ奪って帰っても良かったのだが、朱里が居るのであらば話は別だ。 「なんで、助けんの。あと敵に戦術教えていいの?」 「あえて言うならば、答えには成ってないだろうが。朱里ぽんの頬をなめなめして良いのは小生だけだ」 「……!? ほんと、いっ、意味わかんない!」 仮面を被るいりすの表情は見えない。だが、朱里は負けられないと立ち上がった。 立ち上がれば朱里の意志に呼応してか槍の炎が勢いを増す。舌舐めずりしたいりす、其の真意は朱里という原石の素晴らしさにか、それとも槍というアーティファクトに対してか。 「先、行ってるぞ」 「小生もすぐ行くよな」 義衛郎はいりすと朱里のすぐ近くを進軍して行く。体勢低く、飛び舞う弾丸を時には避けて、時には掠めて、時には直撃して。 狙い―― 「ったく、んっとにアザーバイドって使えネー」 神傍・麗。 義衛郎の刃に金茶と天色から為る剣気がちらつく。彼の首さえ取ってしまえは、今後の有利には遥かに影響を与える。 麗の傍まで走り込んだ義衛郎。だがナイフを横に振り上げた麗の、其のナイフに義衛郎の顔面に赤い線を引く――のだが、 「あ?」 「そっちは幻影だ」 傷着けられた義衛郎の姿が消えていく。麗は後方から聞こえた声に振り返るのだが、其の時には義衛郎は刀とも太刀とも言えない得物を振り上げていた。 「これで終わりですよ」 落される、刃。 「あー? そう簡単にデきると思うナヨォ」 だが、義衛郎の刃は突然浮かび上がった魔法陣によって弾かれてしまう。 「ルーンシールドですか……面倒なものを、お持ちですね」 「……あ」 一二三に投げられ、後方までズザーと飛ばされてきた朱螺。其の儘彼を押し潰そうと片足を上げた一二三の――だが、その前に木蓮が一二三の心臓を脳を射抜いて狸へと戻す。 「大丈夫かクリム兄!!」 「朱螺です。どうもありがとうございましたエクス……なんとかのお姉さん」 お腹に落ちた狸の死骸を橋の下へ投げながら、朱螺は帰りたそうに帰り道の方角を見た。其処に木蓮は敵が周囲にいない事を確認してから、朱螺の耳元へ唇を寄せる。 「所で……朱螺。クリムは翼の加護とか持ってたりしないか、知らないか教えて欲しいんだぜ」 「あるんじゃないでしょうか。でもアイツ面接着あるから使ってくれないと思いますので」 「性格悪い奴だな」 「性格悪い奴ですよ早く殺してあげてください」 「聞こえてますよ、其処の御二方」 CTが高いという事は、其れなりにFBも起こすという事でもある。 クリムの胴に一二三の拳が貫通し、口から血を吐いた。だがすぐに鎌で頭を飛ばせば、刺さった腕から胴体まで消滅してソコに居たのはただの狸。 「いやーたまには良い事しようと思ってみたんですがね? ゲルトさん」 「似合わん無茶をして朱里の前で死ぬなよ」 そういうゲルトも一二三に頭を掴まれて地面に叩きつけられるナイアガラバックスタブ。コンクリが割れ、残骸が舞い上がる。脳震盪が彼の眼を白目に向けさせたが、一瞬にして我に戻った彼は後ろ手にナイフを回して一二三の腕を切断。其の儘起き上る動作に力を乗せて首にナイフを押し込んだ。 「そんな真似をしたら、俺はあの娘を連れて帰るぞ」 ボタボタと。血が伝う其の腕でゲルトはクリムの胸倉を掴む。 「お父さんは許しませんよ」 「なら、護るんだな。自分で自分の命を」 「龍治殿!」 「ああ」 冬弥の呼びかけ。もしかしたら戦場を一番見渡せていたのは彼であったか。 此処まで時間がかかってしまったのは少し予想外でもあったが、化け狸の姿は確実に少なくなっている。それに、だ。いりすのアッパーの引き寄せが聞いている今、全体攻撃を持った冬弥や龍治が絶好の好機を見逃す事は無い。 ゲルトとクリム。二人の間を無数の弾丸が駆け抜けていく、続いた氷の氷柱。 炎に彩られ、逆に氷の刃がどんどんと硬化していく。それらは麗のルンシは勿論、少なくなった一二三の残骸を壊し尽くしていく。 龍治としては、三尋木とナカヨシをするのはあまり……否、凄く面白くない事ではあるのだが。失った目が疼くものの、今回ばかりは仕事として割り切るのだ。 彼の攻撃によって開いた道を劫が駆け抜けた。追って朱螺や葬識も同じ道を行く。 残ったのは後衛陣のみなのだが、やはり敵の前衛が駆け抜けて来る光景は畏れとして見えるのか。 冬弥が思っていたのは、フィクサードを先に倒すには道を開けなければならない。最低限、狸を蹴散らすだけでも良かったのだが。龍治と合わせて攻撃してみれば、一掃してしまったのだから都合が良い。 「もう、逃げられないと思ったほうが良いですよ」 冬弥が用意した札が、仲間の傷を癒す。少しだけ零れた彼の笑みに、フィクサードは。賊は。 「麗様……撤退した方が……」 とも部下は言うのだが、玄関口から此の有様であるのなら中へ戻ったとしても戦火は免れまい。 蜂比礼を持ちし麗が、負けて帰って来たともなればあの一二三は許すまい。恐らく、冬弥の言葉はそういう意味を秘めていた。 「ま、いっか」 麗が出した結論は割とあっさりしていた。 神たる傍。ナァニ、マダ負けた訳じゃナーイんですから。 ● 傷ついたリベリスタ達ではあるものの、敵の後衛まで乱戦に持ち込んでしまえば怖いものでは無かったのだが。 耳を抑えたくなる程の落雷音と地響き。橋の中心が大きくひび割れ、悲鳴を上げていた。 落雷では、冬弥が龍治を庇って其の運命を燃やした。大事なダメージディーラーを落す訳にはいかない、決死の策であった。焦げ付いた身体に黒ずんだ服。されど冬弥は前を向く。次、次、次の一手を考えるべく。 「効かねえ、効かねえ、効かねえよ!!」 いりすの剣も、劫の技も、義衛郎のグラスフォック――は味方を巻き込んでしまうから使えない。速度を誇る三人の技は全て麗が無効化してしまうのだから、更に後方の敵を狙うしか無く。 されども、上から下に。 「ひっさーつ☆」 葬識が刃を振り落す。弾かれたのは葬識の腕では無く、麗の壁。硝子が割れる様に消えていくそれに乗せて黒い箱から伸びた幾重もの手が彼を其処へと仕舞っていく。 ころん、と落ちた箱に足を乗せた葬識。 「俺様ちゃんね、案外この日本って国好きなんだよね。わびさびあるし、御飯美味しいし。秩序があってそこそこ平和、いい国だよね」 見据えた葬識の瞳に映ったのは、仲間が逃走を図る賊軍の背を追う光景。 義衛郎の刃が時を刻む。周囲の温度が極度に下がり、そして地面が凍れば敵の足も凍る。 「朱里、お前と共に戦えるのは嬉しい。惜しむらくは、これが最後になるだろうということだ」 「ん」 朱く燃える槍がレイザータクトの胴を吹き飛ばした。内臓と共に断末魔が吐き出される光景を目に移す事も無く、ゲルトはレイザータクトの頭の上から下半身まで両断。 血が噴き出した所で、其の上を龍治の弾丸が飛ぶ。蜂の巣でも作る勢いだ、ホリメが優先? 関係無く。全部が全部を飲み込む勢いで龍治の弾丸は賊軍の身体に穴を空けては燃やしていった。 「貴様等のせいで暫く裏野部一二三が夢に出てきそうだ」 冬弥は溜息混じり。取り出した札、残っている彼の力は極極僅かな程。最早、氷の氷柱は出せないのだが、彼の手数の多い選択肢は彼の足を上げさせた。 「少し……否、かなり痛いぞ」 鎌鼬とでも呼ぶべきか。跳躍し、回転させた脚力から放たれたそれはサジタリーの女の胸から血を溢れさせた。 続く木蓮の弾丸も。彼の殲滅の意に応える様にして、殺し尽くせなかったサジタリーの脳天を穿った。白目剥き、其の侭横へ倒れて橋の下へ落ちていくサジタリーの生死は確認するまでも無い。 「あと、3人だぜ!!」 木蓮の声。 「一人が、ノルマ一人でよ」 いりすの声に、劫と義衛郎が頷いた。 「オレはホリメに」 「小生は……マグメかね」 逃げ場は無い。 逃がす心算も無い。 イヤだの、ゴメンナサイだの、シニタクナイだの、幾らそれを積まれたからといってもう許せる度はとっくに過ぎた。 「じゃあ、俺はタクトか」 劫は走り出す。両手を劫との間に隔てた壁のようにして、いやいやと顔を横に振った賊。 「人が安穏と過ごしたいってのに、お前らはちょっと暴れすぎだ。……ここで終わって貰うぜ、お前達にはな」 勢い着けた刃が光の飛沫を放つ。闇夜を照らす、劫のそれ。本来ならば美麗と呼べるべきものなのだろうが、賊にとっては死兆星以外のなにものでもなく。 「さよならだ」 ――断末魔が響き終わるまで、あと数秒。 「平和って大事だよ? 賊軍ってそう言うジョーチョすらも滅茶苦茶にしちゃうんだもんなー俺様ちゃんぷんすこ☆」 嗚呼、馬鹿野郎め。こん畜生が。 スケフィントンの黒い箱に押し込まれていたら、最期に残したい言葉も言わせて貰えないじゃないか。序に、一二三様や。こんな俺に蜂比礼を着けた事。頂いた力を返せずに死ぬのは、かなり悔しいもんでさぁ。 足に力を入れて、黒い箱を踏み潰した葬識。 バキバキと、ボキボキと、メキメキと音がした。其の足下から、一般男性分の大量の血が湧き出て来た。 しぃん……と静まり返った其の場所。 「朱里! ……朱里?」 ゲルトは周囲を一周見回してその姿を探したのだが、何時の間にか三尋木の姿は無く。 只、再び轟く雷鳴の音が。 戦争の終わりを未だ告げてはくれなかったのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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