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雪とかまくら、ときどきパンダ


 最初に“視えた”のは、見渡す限りの雪景色。
 月と星々に照らされた雪原は、真夜中だというのにほんのりと明るい。
 雪が積もる前と後で闇の深さがまるで異なるのが、北国の夜というものだ。

 足跡ひとつ見当たらない雪の上に、ぽこり、ぽこりと半透明のシルエットが幾つも浮かぶ。
 瞬く間に形をなしたそれは、デフォルメされたぬいぐるみにも似た――小さなパンダだった。

 短い手足をぱたぱたと動かし、パンダたちは雪の上で遊び始める。
 彼らの仕草は、まるで雪にはしゃぐやんちゃな子供のように思われた。


 故郷には雪が降るのだと話した時、自分を見る幼い瞳が輝いたのを覚えている。
 いつか連れて行ってやるよという約束を果たす前に、あの子は旅立って。
 自分はといえば、未だにかの地を踏めずにいる。
 血縁は絶えて久しく、帰る理由も特に無いのだが――故郷を離れてから、もう十六年になるだろうか?

 フォーチュナが“視る”ものに、本人の願望が反映されるかどうかは知らない。
 けれど、自分が故郷や、そこに似た風景を“視る”ことが多いのは確かで。
 そういう時は、長い時を経てもまだ繋がりが残っているものかと、妙に安堵したりもする。

 こんなことを考えるあたり、自分ももう若くないなと思わなくもないが……。
 あるいは、それが年齢を重ねるということなのかもしれない。


「雪山に、E・フォースの群れが出た。
 この寒い時期に申し訳ないんだけど、ひとつ頼まれてくれないかな」
 アーク本部のブリーフィングルーム。集まった面々を前に、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言って話を切り出した。
「E・フォースは識別名『悪戯パンダ』。パンダのぬいぐるみっぽい見てくれだけど、小さな子供や動物の『腕白さ』だとか『悪戯心』とか、そういう思念が集まって具現化したものらしい」
 戦闘力は殆ど皆無と言って良いが、エリューションである以上は放っておく訳にはいかない。
 彼らは『存在しているだけで崩界を促進してしまう』ものであり、それの対処にあたるのが世界の守り手たるリベリスタの使命だからだ。
 幸い、『悪戯パンダ』は六時間ほど人の近くに居れば自ずと満足して消滅する。
 現場に到着するのが日が変わった頃になるので、そこから夜明けくらいまで粘れば良いということだ。
「連中は悪戯盛りだから、黙ってても色々とちょっかいかけてくるだろうけどな。
 基本的には無害だし、ガチで危ないことはしないんで適当にあしらっておけば問題ないと思う。
 寒いから温かい格好しないとキツいけど、暖を取るためのかまくらも作るし、鍋つついたりするならアークの経費で落ちるから、仕事ってよりは遊びに行くつもりで付き合ってもらえると有難い」
 どうやら、今回は数史も同行するつもりのようである。本人曰く、「雪には慣れてるし」とのこと。
 ここまで黙って話を聞いていた『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) が、初めて口を開く。
「僕(やつがれ)は構いませんよ」
 ドイツも、冬になると雪が沢山降りますから――という彼の言葉に、数史は少し笑って。
「そんなわけで、一緒にどうかな」
 と、その場のリベリスタ達を見回した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月11日(火)22:29
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。
 一言で要約すると『雪の中で夜明けまで好きに過ごそうぜ!』なシナリオです。
 友達同士で騒ぐも良し、恋人としんみりするも良し、ご随意にどうぞ。

●成功条件
 夜明けまで現場で過ごし、E・フォース『悪戯パンダ』の群れを消滅させること。

●E・フォース『悪戯パンダ』
 幼い子供や動物の『腕白さ』や『悪戯心』が具現化したもの。それなりの数が存在しています。
 体長50cmくらいで、パンダのぬいぐるみのような外見。ふかふかもふもふ。
 二足歩行で、手先はそこそこ器用です。

 現状では特に危険な能力はありませんが、遊びたい盛りで元気が有り余っており、悪気なくイタズラを仕掛けてくるのでご注意を。
 6時間ほど『生きた人間』に接することで満たされ、自ら消滅します。
(直接ふれ合わずとも、その場で過ごしているだけでOKです)

●現場
 人が立ち入らない山の中。雪が積もっており、見渡す限り真っ白です。
 時間帯は深夜~明け方で、天候は晴れor微かに雪がちらつく程度。
 一般人対策は特に必要ありません。

●推奨行動
 大まかに分けて下記の2つ。

【1:遊ぶ】
 悪戯パンダを構ったり、仲間内で遊ぶのをメインにするコース。
 存分に雪に塗れたいという方はこちらで。

【2:のんびりする】
 かまくらの中で酒盛りしたり、鍋をつついたり、雪景色を眺めたり、思い思いに過ごすコース。
(泥酔状態で雪に埋もれるのは非常に危険なので、外に出る予定がある方はお酒は程々に抑えた方が無難です。
 かまくらの中はそれなりに暖かく、防寒用の装備も揃っているので今回は問題ないものと扱います)

 プレイングは一場面に絞った方が描写が濃くなると思います。
 防寒具や遊び道具など、普通に手に入る品物はアイテムとして装備していなくてもOKです。
 また、鍋の道具や食材などは、基本的なものはアークの経費であらかじめ準備されています。
 特殊なものを持ち込みたい場合のみ、プレイングにご記載下さい。
 (あまり無茶なものでなければ採用します)

 ※状況によっては、プレイングの内容を見て他の参加者と場を共にさせる可能性があります。
  空気を読む努力はしますが、他の人と絡むのはちょっと……という場合は【絡×】とご記載下さい。

【禁止行為】
 ・戦闘行動(遊びの延長でじゃれる程度は問題ありません)
 ・未成年(実年齢)の飲酒・喫煙。
 ・公序良俗に反する行動、他の方に対する迷惑行為。

●描写人数
 可能な限り全員を描写します。
 (白紙プレイングや、上記の禁止行為については描写致しかねます)

●NPC
 奥地 数史(nBNE000224)とフェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)が参加しています。
 基本は【1】で悪戯パンダの相手をしていますが、お誘いがあれば【2】にも喜んで伺います。
 面識の有無に関わらず何らかの反応は返しますので、話し相手にでもどうぞ。
 (お声掛けがない場合、原則として描写は行いません)

 ちなみに、この日は数史の誕生日(2月20日)ですが、スルーでOKです。
 特に構う必要はないので、お好きなように過ごして下さいませ。

●その他
 過去、宮橋のシナリオに登場しており、かつ下記に該当するキャラクターは『プレイングでお誘いをいただいた場合に限り』登場する可能性があります。
(キャラクターによっては登場不可というケースも考えられるため、ご希望に添えなかった場合はご了承下さいませ)

・アークに所属しているリベリスタ
・アークの保護下にある善性アザーバイド
・アークと友好関係にあるリベリスタ
(中立的立場or敵対しているリベリスタやフィクサードは不可)

●備考
 ・このシナリオはイベントシナリオです。
 ・参加料金は50LPです。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 ・特定の人と絡む場合は『時村沙織 (nBNE000500)』という形で名前とIDをご記入ください。
 ・グループで参加する場合は【グループ名】をプレイング冒頭にご記入いただければ、全員の名前とIDの記載は不要です。
  (グループ全員の記載が必要です。記載が無い場合は迷子になる可能性があります)
 ・NPCに話しかける場合は、フルネームやIDの記載は不要です。
参加NPC
奥地 数史 (nBNE000224)
 
参加NPC
フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)


■メイン参加者 24人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ノワールオルールスターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
サイバーアダムクロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
ハイジーニアスデュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
フライダークナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
フライダークスターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
ハイジーニアスマグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
ナイトバロン覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
フュリエミステラン
シンシア・ノルン(BNE004349)
ジーニアスミステラン
イシュフェーン・ハーウィン(BNE004392)
フュリエミステラン
アガーテ・イェルダール(BNE004397)
ビーストハーフミステラン
ミミ・マーキス(BNE004739)
メタルフレームマグメイガス
シエナ・ローリエ(BNE004839)
ジーニアスソードミラージュ
御陵 柚架(BNE004857)
ヴァンパイアフォーチュナ
断頭台・ギロチン(nBNE000215)
フライエンジェフォーチュナ
月鍵・世恋(nBNE000234)
ジーニアスマグメイガス
向坂・伊月(nBNE000251)


 ほのかに明るい雪原の上、ちょこまかと動く“もの”たちが見える。
 丸い顔、太く短い手足、白と黒の二色で構成されたふわふわの毛並み。
 そう、それはまるで――

「ぱんだの、ぬいぐるみ……ですか……!」
 E・フォース『悪戯パンダ』の群れを前に、リンシードが声を上げる。
 腕に抱えたぬいぐるみと見分けがつかない彼らの姿に、彼女も興奮が隠せないようだった。
 今すぐもふり倒したい衝動に耐えて腰を下ろし、雪を集める。
 大きなお城を作るリンシードのもとに、パンダたちが突進した。
 先頭の一体が勢い余って顔からダイブした隙を逃さず、彼らを纏めて捕獲する。
 手足をばたつかせるパンダたちを抱き締め、彼女はふかもこの毛並みに顔を埋めた。
 壊れたお城は気の毒だけど、この至福には代えられない。
「パンダ! パンダ! 可愛いよね!」
 じゃれついてきた一体を撫でて、シンシアも表情を綻ばせる。
 片時もじっとしていられないパンダを前に、首を傾げて。
「悪戯かぁ。誰かの服に雪入れちゃう?」
 適当な標的を探して辺りを見回す彼女の襟元に、不意に冷たいものが触れた。
「……っ!?」
 驚いて振り向くと、いつの間にかよじ登っていたパンダが雪の塊を手にドヤ顔。
 お仕置きとばかりもふってやると、前方ではリンシードたちが雪合戦を始めていた。
「うふふ……この私に一発でも当てる事ができますか……?」
 片っ端から雪玉を避けていくリンシードと、ムキになるパンダたちを見て、一度やってみたかったんだよね――と勇んで参戦。

 別の一角では、ひとつの再会があった。
「アンペルー!」
 キャリーバッグから出てきた白猫を抱き上げ、夏栖斗がくるりと回る。
「久しぶりだね。元気だった?」
「あれから変わりない?」
 悠里と糾華に代わる代わる頭を撫でられ、猫――『アンペル』は淡い色の光を輝かせた。
『アンペル』は、フェイトを得たアザーバイドである。共に暮らしていた主人を失い、エリューション事件に巻き込まれたところをリベリスタに救われた“彼”は、現在はアークの保護下で新しい生活を営んでいる。今回、人気の無い山で遊ばせてやりたいということで、別働班に頼んで連れてきてもらったのだ。
 夏栖斗から『アンペル』を受け取った柚架が、小さな体をぎゅっと腕で包む。
 いきなり寒いところに来て戸惑うかもしれないから、落ち着くまでゆっくりさせてあげたい。ずっと山で暮らしていた“彼”にとって、三高平での毎日は驚きの連続だろう。
「アンペル、見てっ。これが雪だよー!」
 壱也の言葉を聞き、『アンペル』が首を巡らせる。
 伸ばした前足に、木の枝から舞い降りた粉雪が触れた。
『つめたい』
「不思議でしょ? これはね、空から降ってくるんだよ」
 興味津々といった様子で、『アンペル』は色とりどりの光を瞬かせる。
 背中をさすっていた手を止めて、柚架は“彼”をそっと地面に下ろした。
「じゃあ、アソぼ!」
「……そうだな、皆で鬼ごっこでもするか?」
 傍らを元気に駆けていくパンダたちを横目に、拓真が提案する。
 最初の鬼は俺がやろうと告げると、悠里はぶつかってきたパンダを頭の上に乗せて笑った。
「じゃあ僕は逃げるね!」
 いきなり縮地の走法を全開にする大人気の無さに、拓真の眼光が鋭さを増す。
「――この新城、容赦せぬ」
 優れた平衡感覚を武器に猛然と追い始める彼を見て、夏栖斗が『アンペル』を手招き。
「アンペル、こっち!」
「簡単に捕まると思ったら大間違いよ?」
 全力で逃げるわよ――と糾華が声を上げると、夏栖斗がフェイントに投じた雪玉が柚架を直撃した。
「喰らった不意打ちはバイ返しですっ!」
 柚架、すかさず逆襲。舞い上がった雪が、光を受けてきらきらと輝いた。
『ゆき』『きれい』
 雪に塗れながらも楽しげな『アンペル』の姿に、壱也はほっと胸を撫で下ろす。
 人目を避け、殆どを家の中で過ごしてきた“彼”には、色んなものを見て欲しかった。
 もう一人にはさせないと、寂しい思いはさせないと、そう誓ったから。
「約束だったからな、今日はたくさん遊ぼう」
 拓真が呼びかけると、『アンペル』はひときわ明るい光を放った。

 パンダと遊ぶ仲間達の声が、向こうから聞こえてくる。
「この手の無害な奴には丁重に対処するってのは、ウチの甘さなのかね?」
 どう思う、と傍らの旭に尋ねれば、少女は微笑って言った。
「いーんじゃないかなあ。だってかわいーんだもん」
 舞い落ちる六花のひとひらを掌で受け止め、天を仰ぐ。
 きれい、と囀る声に、ランディは問いを重ねた。
「雪は好きか?」
「ずーっとみてても、あきないくらいすきだよ。落ち着くよねぇ」
「俺も嫌いじゃない」
 降り注ぐ雪は、汚いものも一緒に隠してくれる気がするから。そう語る彼に「そっか」と答えて、雪の中を歩く。気が付くと、喧騒は随分と遠ざかっていた。
「……静かだな、賑やかな場所から外れて悪い」
 寒くはないかと気遣うランディに、平気と首を横に振る旭。
 一人なら、活気のある方に足が向くけれど。相手に合わせて、のんびり過ごすのも好き。
「ランディさんの楽しみかた、おしえて?」
 立ち止まった彼女の肩に、ふと大きな手が触れた。
「こうやって、好いた相手と雪を見るのは好きだぞ」
 改めて言われると、何だかくすぐったくて。思わず、笑みが零れる。
「わたしもだいすきなお友達と一緒にみるの、うれしい」
 違うっての――と聞こえた時には、旭は力強い腕に抱かれていた。
「一緒に居たいって意味で好きって事だ」
「え、え……? それって……っ、や」
 混乱する旭の唇を、熱を帯びたランディのそれが掠める。
 口付けの後、彼は耳元で低く囁いた。
「毎度命知らずに気張っているのを見たら、放って置けなくなっていたんだよ」
 真っ赤になった少女と視線を合わせ、その頬を撫でる。
「あ、あの、ごめ……なんかいま、あたままわんな……」
 旭が落ち着くまで、ランディはずっと彼女を包んでいた。


 いつものバトルスーツの上から、厚手のコートを羽織って。
 シエナは雪原に座り、近くのパンダを手招き。
 膝に腰を下ろしてからも、小さな悪戯者の動きは実にせわしない。地面の雪をすくってみたり、振り返って頬をぺちぺち叩いてきたり。
「ん、ちょっとくすぐったい……けど」
 柔らかな手の感触は、どこか温かくて。この寒さも、あまり気にならない。ユーモラスな仕草を眺めているだけで、心が和んだ。
 背中に負ぶさってきた一体も面倒を見つつ、自分の幼少期に思いを馳せる。
 ずっと研究所暮らしで、同じ年頃の子供と触れ合う機会を持てなかったシエナにとって、パンダたちの挙動はとても新鮮だった。
「……もっと知りたい、な」
 幼心を具現する彼らを眺め、ほんの僅か、表情を綻ばせる。
 願わくば、朝までずっとこうしていたかった。

「雪だーっ! わあい、雪ねっ、雪っ」
 その頃、世恋は見渡す限りの銀世界に大はしゃぎ。
 テンションに任せて一人雪合戦とか始める勢いの彼女の前に、一体のパンダが歩み寄った。
「あ、歩いてる……!」
 あまりの愛らしさに心奪われ、傍らに屈む。手を伸ばすと、思った通りふかふかの触り心地がした。
「フェルテンさん、見てみて、もふも……きゃーっ!」
 この感動を伝えようと声を上げた時に顔を引っ張られ、すてんと転倒。
 救援に駆けつけたフェルテンが見たのは、パンダ(こども)と同レベルで張り合う世恋(いいおとな)の姿だったという。
「じ、地元で最強の月鍵さんの力みてみろー!」
 そんな中、とらはパンダを集めて何やら企んでいる様子。
「――お約束できる人、挙手」
 内緒の計画と念を押してから、いざ作戦開始である。雪を固めて形を整え、その中身をくりぬき。ターゲットの接近には、パンダをけしかけて対応。
 数史のマフラーをひったくって走り去るパンダに「グッジョブ☆」とサムズアップを送り、とらは残る作業を急ぐ。
 一方、逃げるパンダの前にはユウが待ち受けていた。
「やーん、ふわもこー!」
 あっさりパンダを捕まえ、撫でもふ堪能。
 追いかけてくる数史の姿を認めると、彼女は一計を案じた。
「さて、パンダくん。悪戯という物はですねえ、皆でする方が楽しいのです」
 素早く耳打ちした後、パンダと同時に腕を振りかぶる。
「せーの、うてーーー!!」
 タイミングを合わせて投じられた二つの雪玉は、正確に数史を捉えた。
「……ぶっ!?」
 すっ転んだ彼のもとに歩み寄り、顔を覗き込む。
「ふっふっふー。油断大敵ですよう? 奥地さん♪」
 立ち上がった数史が漸くマフラーを奪還した時、とらがパンダたちを伴いやって来た。
「はい、目隠しして」
「え、何」
「いいから、こっち来て」
 よたつくフォーチュナの腕を引き、元の場所に誘導。
 彼が目隠しを外すと、その眼前に煌々と輝くパンダ型の雪灯篭が幾つも並んでいた。
「じゃーん! ふみふみさん、お誕生日おめでとー☆」
「あ。……そうか、日が変わったのか」
 サプライズの仕掛け人に礼を述べる数史の後ろで、ユウが慌てる。
「贈り物はひとまず雪玉でご勘弁を。おわびに一杯奢っちゃいますから!」
「や、その気持ちだけで充分嬉し――」
 最後まで言い終える前に、数史はパンダの雪玉攻撃で埋められていた。

「……死ぬかと思った」
 ややあって。伊月の助けで難を逃れた数史が、タオルで顔を拭く。
 彼の誘いを受け、二人でエイヒレを肴に熱燗で一杯やり始める頃には、微かに雪がちらついていた。
 目を細め、雪は好きだ――と伊月が呟く。音も無く降り積もる様は、眺めているだけで愉しい。
「奥……数史さんは、雪遊びとかしましたか」
「ガキの頃はね。寒いと鼻の中まで凍るんだこれが」
 懐かしむような声に、伊月も僅かに表情を和ませて。
「もうそんな歳ではないですけど、見てる分には楽しそうです」
 雪を暫し観賞してから、誕生日を祝う言葉と共に箱を手渡す。中身は、深緑のネクタイ。
「何がいいかわからなかったんで、良かったら使ってください」
「――有難う。大切に使わせてもらうよ」
 今後も宜しくお願いしますと告げると、数史はこちらこそ、と笑った。


 ぴんと張り詰めた山の空気には、厳しい寒さと透明な清々しさが同居している。
 通り過ぎる風の冷たさにアガーテが目を細めた時、脆い雪玉が彼女の肩に当たって砕けた。
「きゃ? ……イシュさま?」
 振り返ると、そこには“旅人”を名乗る青年の姿。
「やあ、アガーテ君。ラ・ル・カーナでは雪は無かったから、珍しいかい?」
 遠い異世界を故郷とするフュリエの少女が微笑んで首肯した時、彼――イシュフェーンは雲間から覗く月を見上げた。
「……まあ、こんな素敵な夜はボトムでもなかなか無いものだけれどね」
 厚手のジャケットを着込んだところで、寒さは容赦なく肌を刺してくる。それでも、月明かりに照らされた雪景色は良いものだ。
 水筒から温かい飲物を注ぎ、アガーテに振舞う。冷えた体に甘く沁み込んでいくそれが“ココア”と呼ばれるものだということを、彼女は覚えていた。
 出来れば雪見酒と洒落込みたいけれど、未成年に呑ませる訳にもいかない。
 イシュフェーンがそう語ると、アガーテは軽く首を傾げて。やがて、自分達の背後に並び立つ雪のドーム――かまくらを指し示した。
「あちらでお酒、飲まれては如何でしょう? 私でよければお酌いたしますわ」
「はは、君みたいな美人にお酌して貰えるなら光栄だね」
 耳馴れぬ褒め言葉に少し落ち着かない気持ちになりつつ、二人でかまくらに入る。
 火鉢にあたり、毛布を引き寄せて。外の風景を眺めながら、イシュフェーンがしみじみと口を開いた。
「不思議だよね、雪で出来てるのに暖かい」
 あるいは、それは優しい人と一緒だからかもしれない――。
 ふわり笑って、アガーテはイシュフェーンのグラスに酒を注いだ。

 別のかまくらでは、ギロチンがシンシアや世恋らと鍋を囲む。
 風情があるからと普段は呑まない日本酒をセレクトしたシンシアは、自分で強いと言うだけあっていける口で。ちょこまかと悪戯にいそしむパンダたちを横目に、ぽつり一言。
「パンダもお酒呑めるかな……」
「子供みたいですし、やめた方がいいんじゃないですかね」
 鶏つみれを口に運びつつ、ギロチンはかまくらの中を改めて見回した。
「ぼく何気にかまくらってちゃんと入ったの初体験かも知れません」
 祭りなどで子供が中に居るのは見たことがあるが、いざ自分で経験すると新鮮である。風を凌げるだけで、こんなに暖かいものか。
「あ、数史さん」
 世恋の声に振り向き、通りがかった数史を招き入れる。
「そうだ、奥地さんお誕生日じゃないですかおめでとうございます」
「いい一年になるといいわねっ」
 酒を勧めると、数史は「それじゃ有難く」と笑った。
 皆で鍋をつつき、雪を眺めてのんびり酒を味わう。
 夜中だというのに、外はほのかに明るかった。何より一人じゃないのが幸せだ、とギロチンは思う。
「また今度、普通の場所にも飲みに行きましょうよ」
「いい店教えてくれな」
 答える数史の声に、鍋が煮える音が重なった。

 光る白猫を伴った面々も、鬼ごっこを止めて一休み。
 悠里に高い高いされてキャッキャと喜ぶ『アンペル』に、夏栖斗が声をかけた。
「アンペル、寒くない?」
『へいき』
 ならさ――と言って雪に飛び込み、人型の穴を作る。
「おもしろいっしょ? アンペルもおいでよ!」
『アンペル』が悠里の腕から雪原に身を躍らせると、近くでそれを見ていたパンダたちも次々に“彼”に倣った。まっさらな白いキャンバスに、猫とパンダのスタンプ。
 そうこうして皆で遊ぶうち、壱也が思い出したように言った。
「あ、そうだ。今日はアンペルにプレゼントがあるんだー」
 じゃじゃーん、と取り出したのは、手作りの首輪。『アンペル』と自分達の、友情のしるし。
「えへへ、頑張ったけど初めてだから不格好かも」
 目を丸くする“彼”の首に、それを着けてやる。窮屈そうだったり、嫌がるようなら無理強いはしないつもりだったが、どうやら心配はなさそうだ。
「首輪、似合うよ」
『ありがと』
 柚架に褒められ、『アンペル』がはにかむように光を纏う。
 続いて、糾華が黒蝶館謹製の猫缶セットを差し出した。
「この金色のは特別な日に食べなさい。お姉さんとの約束よ?」
 一番上等な“猫缶Gold”を示し、優しく言って聞かせる。頷いた“彼”をそっと撫でると、糾華の胸に温かな幸せが満ちた。
 二人のプレゼントタイムを見守っていた拓真も、横から手を伸ばす。
「ふふ……良かったな、アンペル」
『うん』
 心底喜んでいる様子なので、こちらも嬉しくなってしまう。
『アンペル』の隣に腰を下ろした夏栖斗が楽しいかと問えば、言葉よりもずっと饒舌な光が色とりどりの気持ちを伝えてきた。
 ふと、拓真は思う。『アンペル』の亡き主(おとうさん)も、空から見てくれているだろうか。
 ひとり残してきた“彼”の近況を知り、少しは安心してくれているだろうか。
 寂しい時は家に遊びに来ても良いのよ――という一言を呑み込んで、糾華は壱也に抱き上げられた『アンペル』に慈愛の篭った視線を向ける。今が楽しいなら、それで充分。
「ね、イッショに生きていこ。この世界で。きっときっと、イッパイのものが見れると思うから」
 そう告げる柚架に続いて、悠里が『アンペル』の顎を撫でた。
「僕達はずーっと友達だから。安心してここで暮らしてね」
 いつか、“彼”の口から『おとうさん』の話を聞けたら良い。懐かしさと、幾許かの寂しさも含めて。
 それを自然に分かち合える日が来ることを、悠里は願っていた。

「――よーし! パンダワン! パンダツー! パンダスリーたちよ!」
 時を同じくして、竜一はパンダたちに号令をかける。
「皆で雪玉を作るんだ! 連携こそが勝利の秘訣と心得ろ!」
 作戦を語る間も、腕に抱っこした一体をもふるのは忘れない。
 ターゲットが連れ立って姿を現した瞬間、彼はすかさず突撃を命じた。
「な……っ!?」
 驚く数史とフェルテンを囲み、一斉に雪玉を投げつけるパンダたち。
 二人が雪で真っ白になったのを確認してから、部隊を撤収させる。
「ヒャッハー! 次なる獲物を探しに行くぞ!」
 ついてこいと叫ぶ竜一を、パンダたちが見上げた。
 あれ、何この不穏な気配――。
「やめて! 雪まみれにしな……ぎゃあああ!」
 懇願も空しく、パンダの的にされる竜一。
 抱いていた一体の温もりだけが、彼にとっての救いだった。

 その一方で、シェリーは酒瓶を手に数史のもとを訪れる。
「心配せんでも飲んではおらん」
 軽く機先を制してから、彼女はグラスに酒を注いだ。
「最初に飲む時は、おぬしの酌でと決めておるからの。
 ……まさか、嫌とは言うまい? 妾の初めての相手にしてやると言っているのだ」
 途端に、危うく酒を噴きそうになる数史。
 かなり誤解を招きかねない一言だが、突っ込むのも躊躇われる。
 ぐっと酒を飲み込んだ彼に、シェリーは追い撃ちをかけた。
「妾も成長したしの。だいぶ女っぽくなったと思わぬか? ん?」
 からかわれているのは理解するが、相手の年齢を考えると割と八方塞がりである。
 控えめに窘めると、彼女は良いではないか――と囁いた。
「子供の相手は好きであろう? こんな日に、律儀にこんな依頼を受けているのだからの」
 言い当てられて、数史が目を見張る。
『おめでとう』と告げると、彼は「敵わないな」と笑って感謝を述べた。


 寒いのは大嫌いだけど、パンダと触れ合えるとなれば話は別。動物園の檻越しに見るのではなく、彼らと一緒に遊ぶという夢のような依頼を、放っておける筈もなかった。
 疲れ知らずのパンダたちと駆け回り、雪の上を転がる。
 両腕で包めばほんのり温かい彼らを胸に抱き、ミミはファイアオパールの瞳を輝かせた。
「ね、あたしの家に来ない? おいしい笹くらいきっと手配してくれるわ!」
「こらこら、そういうこと言わない」
 それを聞き咎めた数史を振り返り、ここぞとばかりに問う。
「ねー奥地さん、この子たち持って帰れないのぉ?」
「エリューションは危ないから駄目」
 当然の如く却下されるも、ミミはさらに食い下がった。
「この前もフェレット殴るお仕事だったし、一匹くらいいいじゃない」
「駄目ったら駄目」
「どうしてよー、こんなに可愛いのに」
「……あの、話聞いてる?」
 いかん、この子酔っ払ってるかも。

 ミミを漸く宥めた後、数史はかまくらに足を運ぶ。
 見回りが一段落したら呑もうと、快たちに誘われていたのだ。
 かまくらの中では、既に鍋が湯気を立てている。メインの具財は、ウラジミールが持参した猪肉だ。
「ぼたん鍋ですか」
「馴染みが薄いかもしれないが美味いぞ」
 ちょこちょこ出入りするパンダたちに甘酒を振舞っていた快が、この雪なら酒を冷やすのに冷蔵庫要らずだと笑う。無論、熱燗の準備も万端だ。
 大人全員に酒が行き渡ったところで、乾杯の音頭をとる。
「それじゃ奥地さん、お誕生日おめでとう。――乾杯!」
 数史が早々に酒盃を殻にすると、杏樹が徳利を軽く持ち上げた。
「誕生日おめでとう数史。あまり凝ったことはできないから、酌くらいだけど」
「充分だよ、有難う。……にしても旨いねこの酒」
「北海道の地酒。流氷で冷やして作ってるんだ」
 面白いのが手に入ったのでお披露目、と語る快の隣で、ウラジミールが祝いの品を差し出す。
 ウシャンカと呼ばれる毛皮のロシア帽は、厳寒の地に生きる民の知恵が詰まった防寒具だ。
「貴殿に似合うと思ったものを選んだ」
 早速被って見せつつ、数史は丁重に礼を述べる。 
 男衆の酒量を眺めながら自分の盃をちびちびと舐めていた杏樹が、ぽつりと呟いた。
「三人共、酒には強そうだな」
 ほろ酔い気分も良いけれど、あまり浸っていると流されてしまいそうで。うっかりすると真っ先に酔い潰れるのではと、少し心配になる。
 そんな彼女に答えたのは、やはり“アークの酒護神”と名高い快だった。
「別に弱くても、お酒を楽しむことはできるよ」
 空いた徳利を転がすパンダを制してから、静かに言葉を重ねる。
「酒に呑まれるな、なんて言うけど……偶には、酔いに自分を預けてみるのもいいもんだよ。
 お酒は、心に休憩する時間をくれるのさ」
 数史が頷いて同意した時、ウラジミールが渋く酒盃を傾けて言った。
「酔わない酒など味気ないものだ」
 現に、酔うからこそロシアーネは酒を好むのだよ――とは、実に彼らしい至言である。
「今度お勧めでも聞いてみたいところだな」
 微かに口元を綻ばせる杏樹の方を向き、快が自分の肩を示した。
「眠くなっても大丈夫。ここなら俺達しか見てないし、何なら肩くらい貸すよ?」
 彼の申し出に、「寝ないよ」と杏樹。もう暫く話もしたいし、眠るのは勿体無い。
 夜明けまで飲み明かさんと、ウラジミールがもう一度盃を掲げた。
「――ザ・ヴァーシュ・ズダローヴィエ(あなたの健康を祝して、乾杯)」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
フェルテン「お疲れ様でした。彼らも満足したようですね」
数史「夜通しの仕事になったけど、帰りも温かくして風邪ひかないようにな。あと、ご馳走様」

 全員描写しております。万一、抜けがありましたらお知らせ下さいませ。
 構成上、一部の方(グループ含む)は二場面に跨っての登場となっておりますが、トータルの描写量は大差ないと思います。

 皆様にとって、良き夜であれば幸いです。NPC達に対するお声掛け、お気遣いにも感謝を。
 この度は、ご参加いただきましてありがとうございました!