● 何の為に生まれたか? 人を悩ます難しい其の問い掛けも、彼は即座に答えるだろう。 走る為に。人を運んで遠い場所まで走る為に。 其れは道具としての業かも知れない。だが其れは彼の意思であり喜びだ。 其の為に生まれて来た。其の為に生きて来た。 ナノニ、何故其れを奪う? 昨日の彼の引退を見る為に、カメラを持ったファンが押し掛け、彼の勇姿をアルバムに残した。 長年彼に乗り続けた運転士が涙を流して語り掛けて来た。 だが、其れが何だと言うのだろう。 ただ自分は走りたい。生まれて来た意味を果たしたい。 何故、人間の都合で其れを奪われなければならない。 深夜、架線から流れてくる電気を喰らい、彼は一歩を踏み出す。ガタン。 意味等は無い。ただ、走らなければならない。ゴトン。 それが彼の存在の意味なのだから。ガタン、ゴトン。 ガタンゴトン、ガタンゴトン。 電車は終点を目指して走り出す。己の中に、偽りの運転士と車掌、そして乗客達を生み出して。 ● 「電車はただ終点を目指して走ってるだけだけど、絶対に到着させるわけには行かないわ」 クレヨンで描かれた電車の絵を片手に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はリベリスタ達に語りかける。 「何故なら、終点に到着する事で電車と其の乗員はフェーズを一つ進行させるから」 現在のフェーズは2だが、終点に到着した時点で3となり、その後の行方は予測不能となるそうだ。 このE・ゴーレムと化した電車を倒す方法は2通りあり、一つは走る電車の中に侵入して、電車によって生み出されたE・フォース運転士を消滅させる事。そしてもう一つは、E・ゴーレム電車の先頭車両を徹底的に叩き潰す事だ。 「今回は事前工作と事後工作にアークが少し力を貸してくれるけど、でもあまり大きな事は無理だから、頼りになるのは皆の知恵」 イヴの描いた絵の中の電車は、青空の下を走っている。 「だから、お願いね」 資料 電車:引退した電車が覚醒したE・ゴーレム。8両編成。フェーズは2だが元が元なのでかなり強力。 電車として走る為には架線と線路を必要とする。電車としてありえない手段で足を止められた場合や、停車状態で攻撃を受けた場合には車両を蛇の様にくねらせ持ち上げ襲い掛かってくる。そうなれば乗り込むのは先ず不可能となります。 攻撃手段は車両でぶつかったり殴りつけたりのみだが破壊力は満点。他の特徴としては、HPが異常に多い事や、大半のバッドステータスの無効等が挙げられる 運転士&車掌:電車によって車内の残留思念から生み出されたフェーズ2のE・フォース。運転士を倒せば電車は崩壊する。車掌は車内に入り込んだ異物を積極的に排除しに来る。 攻撃手段は切符乱舞や制帽ブーメラン、白手袋パンチ等。 乗客:電車によって車内の残留思念から生み出されたフェーズ1のE・フォース。車両一つに付き20人~30人程の数が居る。4番目と5番目の車両のE・フォースは全て女性である。やはり車内に入り込んだ異物に対して敵対してくる。 攻撃手段は普通に殴りかかったり掴みかかったり、傘を振り回してみたり等様々。 一番前と後ろの車両は携帯電話電源オフ車両なので、通信機器やテレパス系統、スキャン等の能力は一切の使用が不可能となる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月10日(水)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 終点を目指して直走っていた電車、E・ゴーレムが徐々に減速し、リベリスタ達の待つ駅へと止まる。 プシュ、と扉の開く音が、如何にも不承不承と言わんばかりの不満に満ち溢れて居た様に思え、 「電車は運転管理局の指令には逆らえないぉ。電車ルールに則る限り」 そう言い、『ライアーディーヴァ』襲 ティト(BNE001913)が薄く嗤う。 「……これで乗り込めなければ、打つ手無しでしたけどね」 そんなティトとは対照的に、実際に鉄道管理局への手回し等をアークの助けを受けて行っていた源 カイ(BNE000446)は安堵に胸を撫で下ろす。 もしこれで止まらなければ線路や架線を破壊し、怒り狂って暴れまわる電車との無謀な戦いに挑まなければならなくなるところであったからだ。 穏便に乗り込む為の正着手を正しく選び取ったリベリスタ達は、運転席のある前から1両目へと乗り込んでいく。 新たな乗客となったリベリスタ達に、残留思念から生み出された乗客達のE・フォース達はちらりと視線を向けたりもするが、特にそれ以外の反応は無い。 ドアが閉まり、ゆっくりと電車が走り出す。最早退路は存在しない。 兼ねてからの打ち合わせ通りに、『バーンドアウト行者』一任 想重(BNE002516)と『最終電車を悲劇に染める』オーク(BNE002740)が後方車両からのE・フォースの侵入を防ぐバリケードを築く為に車両の後方へと走り、他の面々は少しでも多くの敵を自分の攻撃に巻き込める位置へと移動する。 一度でも攻撃を発せれば其の者は乗客ではなく電車に紛れ込んだ異物とみなされるであろうとの予測から、リベリスタ達はアイコンタクトで攻撃のタイミングを合わせ、そして最終電車一両目に異能の力の嵐が吹き荒れる。 初手に最大火力を放ったのは『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)だ。厳然たる意志を秘めた聖なる光が、乗客達を薙ぎ倒し、焼き払っていく。 荒れ狂う白い光を何とか耐え切り、俊介にと襲い掛かった一人の乗客の体に3条の線が走りバラバラに崩れ落ちていく。 「悪いが、ここで途中下車してもらうぞよ!」 「ナイス、レイライン嬢」 俊介の声に猫の爪みたいな武器を翳して応じたのは、『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)。ちなみに俊介とレイラインの二人は電車に挑むのは初めてでは無いそうなのだが、其れはさて置きリベリスタ達の猛攻はまだ終らない。 カイのダンシングリッパーが周囲の敵を切り裂けば、『エセ中国茶芸士』ケイマ F レステリオール(BNE001605)から伸びた黒いオーラ、ブラックジャックが乗客の首を圧し折る。 普段は回復役であるティトですら第一手目はマジックアローで攻撃を選択している。 ただの一瞬で半減した一両目の乗客。だが残った乗客達は明確にリベリスタ達を異物として認識し、排除の為に臨戦態勢に入っている。 そして其の時、 「おい待て、御主! 一体何を考えとるんじゃ!?」 想重の悲鳴にも似た問い掛けが、一両目の戦場に響き渡った。 ● 想重の声を背に、2両目へと乗り込んだオークは1両目を目指す乗客達をごつい見た目からは想像も付かない超柔軟な身体を駆使してすり抜け、更に後方の車両へと向かう。 「ブヒヒッ! 最初から遊びが目的よ! ま、7人で先頭車両はどうにかしな!」 この豚野郎。 未だ自らは攻撃を加えていない為に乗客達から異物と見做されていないオークは、難無く目的の4両目である女性専用車両にへと到達に成功する。 だがそんなオークを待ち受けていたのは、まさかの女性乗客達からの不意打ちだった。 今まで乗客からの攻撃を受けて来ず、更に目的地へと到着した事で浮き立ち油断のあったオークの目に向かって傘の先端が突き出される。 咄嗟に身を捩って失明を免れたオークだったが、しかし今度は其の頭に向かって旅行用のキャリーバックが振り下ろされた。そして車内に響く鈍い音。 「フゴッ、……フゴゴッ(てめっ、……洒落になんねぇぞ)」 今までの車両では乗客扱いであった為に異物としての攻撃を受けてこなかったオークだが、けれどこの女性専用車両でのオークは紛れも無く異物であり、そして女性乗客達の敵、痴漢として認識されている。 頭部への一撃でふらつき、思わず日本語を忘れたオークだったが、それでもリベリスタの端くれである彼はこの程度では倒れない。 女性乗客達の乳、尻、太腿を視姦するまでは、あわよくば掴みかかって来た彼女達とくんずほぐれずするまでは倒れる訳に等いこう筈も無い。……あれ、リベリスタ? 崩界を防ぐ事より己の欲望を優先させようと、彼が力を持つ個体である事は変らず、彼の卑猥な視線、テラーテロールが女性乗客を捕らえ、其の心を深いトラウマを残す。 「このラインは女子高生だな。ブヒヒッ!」 オークの視線に蹲ってしまった乗客に、彼は口の端から涎を溢しながら笑い声を上げる。 だが彼は気付いていない。不意打ちを乗り越え心が高揚していたが故に、陵辱すべき獲物の群れを前にしていたが故に、オークは何時の間にか自らの後ろに出現していた車掌の存在に気付いて居ない。 その後、 「ブヒィー!(ヤメロォー!)」 傷付き、押さえ込まれ、身動きの取れなくなったオークの丸い身体が、女性乗客達の手によって窓から深夜の暗闇へと投棄される。 ● 其の頃、先頭車両では想重が苦境に陥っていた。 「ええい、一人では抑え切れん……仕方ない」 スワンボートとサーフボートで築いたバリケードを押さえながら、想重が苦々しげに呟く。 バリケードの向こうには無数の乗客のE・フォース達。前の乗客を押し潰さんが如く数の力で圧を加えて来ている為、想重はバリケードの放棄を決意せざるえない。 サーフボートを押さえていた手を離し、後ろへと飛んだ想重は大きく息を吸い、 「戦舞台に迫り出す華は、夜風に揺れる髑髏袈裟。構え刃に寄せ手を散らし、血潮に染める鉄轍。葛城護法一任坊 沙門想重の暴れ舞い。いざ、敬って参る!」 目を見開き、構えを取る。彼に迫る絶望的な数の前に、唯一つの救いがあるとすればオークの始末に車掌が動いている為に、未だこの場に車掌が現れていない事のみ。 ケイマのハイアンドロウにより、爆発音を上げて運転席へ扉が吹き飛ぶ。 先頭車両での戦いにも、リベリスタ達がドアを叩いても、無反応に運転に集中し続けていた運転手の首がぐきりと180度回転し、リベリスタ達を睨みつけた。 「申し訳ないが、終点はこちら。じゃ」 運転手に爪を向け、宣言するレイラインの言葉に運転手は唇を笑みの形に歪め、ハンドルをフルに倒す事で応じる。 ガクンと電車が大きく揺れ、大幅に加速する。 振るわれるレイラインの幻影剣に切り裂かれながらも立ち上がった運転手の白手袋に包まれた拳がレイラインを捉え、彼女に大きなダメージを与える。そんな二人の間に割って入ったのは、 「必ず、この電車は止めてみせます」 面接着を駆使して壁、天井を足場に狭い空間を駆け抜けたカイだ。彼のオーラで創造された爆弾、ハイアンドロウは、だが咄嗟に気付いた運転手によって振り払われ、先頭車両の扉を吹き飛ばすに終る。 電車の速度は刻一刻と加速を続けており、扉の外では深夜の景色がすっとんで流れ行く。 ● 俊介の浄化の鎧がレイラインの傷を癒しつつも彼女に防御の力を与え、リベリスタ達と運転手の戦いの激しさは、電車の速度と同じように加速する。 決して広いとは言えない車内を縦横無尽にぶつかり合う人外の者共。まるで車内の空間全てを埋め尽くすかの様に運転手から放たれたのは、大量の切符だ。 だがその切符の猛威にも、傷付いた仲間達を俊介の天使の歌が、そして特に傷の深い者はティトの天使の息が癒す事で深刻な事態になる事を防ぐ。 けれど、この列車内には運転手に並ぶもう一つの脅威が存在する。 「すまん、抜けられたっ!」 迫る乗客をツインストライクで切り伏せながら、想重が警告の声を飛ばす。乗客達とは一線を画した鋭い動きを取る車掌の急の出現に、大量の乗客の相手で手一杯の想重は車掌を食い止める事が出来ない。 折しも電車は川を渡る鉄橋へと差し掛かり、ガタガタと車内が揺れる中を車掌は真っ直ぐに駆け抜け、仲間達の回復に躍起になっていた俊介の身体を壊された扉から外へと放り出す。 既に電車はあり得ない速度に達しており、このまま鉄橋へと叩き付けられれば俊介を待つのはぐずぐずの肉塊と化す運命のみ。俊介の体感する時間は奇妙に遅くなり、俊介は自分の身体が鉄橋に向けて落ちて行くのをゆっくりと感じる。 だがそんな仲間の危機に唯一反応出来た者が居た。優れた速度を誇り、尚且つあまり運転手に意識を向けていなかった『エースランナー』音無 光騎(BNE002637)は俊介の後を追う様に開いたドアから自らの意思で飛び出し、空中で俊介を抱え、勢いのままに鉄橋を超えて川に向かって落下していく。 数を欠き、強力な癒し手を失ったリベリスタ達。だが相対する運転手や車掌も、既にこれまでの戦闘で其の身にダメージを刻まれている。ただ一人でリベリスタ達の相手をしていた運転手は勿論の事、車掌もオークが意外にしぶとく抵抗した為に消耗は小さくない。 想重が必死に乗客を食い止めている為に、数の利は未だリベリスタ達に存る。 自分に施したオートキュアーにより、比較的ダメージの浅いカイが運転手と車掌、2人のエリューションの攻撃を其の身で食い止め仲間達の攻撃への好機を作る。そしてそこからのリベリスタ達の攻撃は、運転手に集中して、尚且つ粘り強く行われた。 電車の壁や天井を蹴り、縦横無尽の多角攻撃、ソードエアリアルで敵を切り裂くレイライン。彼女が跳ね回る度に其の大きな胸が揺れ、際どいスカートが翻る。 そして傷付いたカイをティトの天使の息、更にケイマの傷癒術が癒し、カイに敵からの攻撃に耐える体力を再度呼び戻す。 運転手と車掌の拳がカイに突き刺さるが、傷を癒されたカイは其の攻撃にも膝を突く事は無く、ダンシングリッパーで二人のエリューションに対してダメージを返していく。 放たれ、回転しながら刃を化した制帽をレイラインの爪が切り裂き、再び放たれた切符にリベリスタ達は壊滅寸前に陥るも運命を対価にギリギリの淵で踏み止まる。 しぶとく、粘り強くリベリスタ達は運転手の体力を削り取る。運転手さえ倒せば全てが終る。車掌も、無数の乗客達も、全てが消える筈なのだ。 ● 永遠に続くかに思われた死闘にも、やがて終わりは訪れる。 粘り続けたリベリスタ達の攻撃に、運転手の動きが目に見えて鈍ってきたのだ。 リベリスタ達とて限界は近い。だが漸く見えた戦いの終わりに、リベリスタ達の動きは寧ろ鋭さを増す。 ケイマによって植えつけられた爆弾、ハイアンドロウを爆発寸前で払い落とした運転手だが、それは次の攻撃に繋げるリベリスタ達の誘いの一手だ。 弾き飛ばされて爆発したケイマのハイアンドロウ。だがそれと同時に運転手の首元でカイが使用していた、本命のハイアンドロウの爆発が起こる。 ふら付きながらも下がろうとした運転手を縫い止めたのは、回復の手を捨ててまででもこの好機に賭けたティトの放ったマジックアロー。 更に動きを止められた運転手を、壁をけって流星の如き速度で迫ったレイラインの爪が、真っ二つに分断した。 そして、E・フォース運転手だった2つの切れ端は、霧と化して散って消える。次いで、レイラインに反撃しようとしていた車掌が、数の暴力についに捕まった想重の首を絞めていた乗客達が、次々と煙の様に薄れて霧散していく。 けれど……、 「何で止まらんのじゃこの電車は?」 徐々に速度を落としながらも変らず走り続ける電車に、喉の痛みに顔を顰めた想重が呟く。 運転手が倒された以上、この電車はもうエリューションではなく単なるスクラップの筈なのに、まだ走り続けている。最も、あの速度を出している中で急にスクラップと化されてもクラッシュしての大事故となっただろうから助かりはしたのだが。 そしてスピードを落とし続けた電車がついにその動きを止めたのは、先に見えた駅へと辿り着いてからの事だった。 駅に辿り着いた瞬間に、一気に朽ち果てスクラップと化した電車の残骸に、 「君の最期は見届けたぉ」 この電車はきっと自分達を駅に届ける為に、駅まで朽ちる事に耐えたのだとティトは想う。 電車は最後にただ無目的に走るのでは無く、人間を運ぶ為に走る事を思い出したのだろうと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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