● 「みなさん」 彼女の微笑みは陽だまりのようだった。 「もっと、もっと『お祈り』を。世界の為、神様の為に」 エイメン、エイメン。 かくて、かくの如しに。 御父のおわす貴き御座に、我らの祈りの届かんことを。 ● 「ノーフェイスと、それに従うアンデッドの討伐」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、指揮棒よろしく棒菓子を振り回す。 「ドイツの山奥に飛んでもらうよ。 飛行機と車乗り継いでいってもらうから、エコノミークラス症候群には気をつけてね!」 「海外なので、万華鏡は使えません。幸いというか不幸にもというか、ノーフェイスはリベリスタとして目覚しい活躍をなさってた方なので、資料はあります」 四門は、ちらりとリリを見た。 「と、俺が言うより、詳しい人もいるかな。その辺は後でチームで詰めといて」 四門は、資料をリベリスタに手渡していく。 2ページ目に写真資料。 柔和な表情のご婦人の下には、輝かしい戦歴が掲載されている。 「『クロスファイア』ハンナがフェイトをなくした」 「十字砲火」、あるいは「炎の十字架」 エリューションを狩ることこそ信仰の証。と、『教会』という組織がなくなり、オルクス・パラストに急襲された後も、旧態然とした苛烈な「信仰生活」に身を投じ続けた結果。ある意味、当然の帰結。 「ご本人は、まだ自分が『世界の敵』 になったとは気づいていない模様」 常識的に考えれば、そんなことはあり得ない。 ならば、彼女は片目をふさいでいる。 「パターンからいけば、徐々に凶暴化。自我は崩壊し、化け物に成り果てる」 ふむ、と四門は、資料を叩く。 「皆がつく頃にはどうなっているかな。アンデッドが自分に付き従っているのに疑問を持たない程度にはおかしくなってるよ。多分、フェイトをなくす前なら、瞬殺してるんじゃない?」 紅茶色の目が、今日は酷薄に映る。 「努めて冷静に。今回は、情に引きずられるとろくなことはないよ」 かばんの中から転がり落ちる、ことさら和風味が多い菓子の山。 「フォーチュナとしてじゃなく、一般論だけどね。これ、良かったら、持ってって」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月26日(水)22:33 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 神を讃える歌が聞こえる。 「さあ、皆さん。今日は祈祷書第22節より『我が祈りは焔となりて敵を貫かん』を唱和いたしましょう。『われらは御主の振るわれる無数の焔の一つである――』」 朗らかな年配女性の声がする。 一緒にクッキーを焼きましょうと言うほうがよっぽど似合う温かな声だ。 「ハンナ様――」 言葉にならない想いが、それ以上の言葉を『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の唇から奪う。 ハンナは堕ちている。 彼女が共に唱和しようと語りかけているのは、動く死体なのだから。 「祈りは届かない」 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は、断言する。 「どれほど神に希っても、神は何もしてくれない。いいえ、神は何もできないのでしょうね」 だから、正確には、祈りの「成果」 は届かない。 「世界のために希うなんてゆめ物語。結局は自分のために希っているだけなのに」 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は、すっぱりと言った。 「フェイトを失って無貌化かぁ。じゃあ、早いとこ狩っちゃおう」 手にした鎖は、無貌を縛り、切り裂く為のもの。 「無貌狩りは宵咲の家業だし――」 だから、安心して前衛を任せてくれていい。 「ハンナが噂通りのリベリスタなら、狩られる事を望むに違いないしね」 この世で一番恐ろしいことの一つは自分が化け物に変貌し、自分の愛したものを破壊していくことである。 故に。悪夢を止めて、不幸にして堕ちたリベリスタの尊厳を維持するのは、後進の義務である。 「信仰、か」 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、死した喉から発せられる聖句の詠唱を聞きつつ、ポツリともらした。 (俺の故郷も、似た様なもので束ねられた集団の地だった。既に決別してから三十年程経っているが) 「……あそこの末路は、どうなるのやら」 自分の声色が思ってもみない響き方をした。 故郷への感情は、飛び出してきたときのままの青臭い小僧のままだ。 想うには腹に据えかね、忘れるには引っかかりすぎる。 「リリさんの先輩……」 『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は、いつも以上に真っ直ぐに立っているリリの背を見つめる。 (彼女と同じ教えを胸に、戦い続けた人……ある意味、彼女の将来の姿と言えなくもないのか) 目に狂信を携えたまま、死体の中で説法するリリ。 脳裏に思い浮かべてみるリリは、幸せそうだが。 「……嫌だな」 ボソリと呟いた風斗の言葉は、思いの他闇に響いた。 無貌化した者は、幸せだ。 ただ自分の欲望に忠実に。 文字通り、世界の中心は自分をおいて他になくなるのだから。 それゆえ、世界は悲鳴を上げ、看過は許されない。 風斗が何を思い浮かべたのかなんとなく分かってしまって、リリは大きく二度、三度と瞬きをした。 (それはいつか、もしもの私。教えが間違っているとは思いません、が) アークに来て、学校に入ったり、他の思想を持つリベリスタと生死と日常を共にするようになってから、リリの思考は立ち止まる。 思いません、が。 その後ろに続く言葉を、リリはまだ見つけられない。 (……リリさんが以前所属していた組織の成れの果て。敗れたら、或いはそれに近い事になれば行く末はこうなるという、遠くも近くもある私達の未来の姿。他人事ではありませんね……) 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、この先の自分とオルクス・パラストに所属している養父や姉に思いを馳せる。 討伐に向かうリベリスタの胸に浮かんでは消える思い。 私も堕ちたらこうなるのですか? そうです。あなたも堕ちたらそうなるのです。 少なくとも、命は下されたのだ。 このドアを開いて、その内に潜む崩界の徒を駆逐せよ。 コンコンコン。 灯璃は、陽気にノックした。 「アローアロー! お邪魔しまーすっ! 両手が塞がってるから蹴破るけど!」 ドカンと、盛大に、煉獄の門が開かれた。 ● 転がるベンチ。穴だらけの床。割れたステンドグラスが床全体に散らばっている。 蹴破った勢いのまま全力で突っ切る灯璃。 「無理無茶無謀は早い者勝ちなのさ!」 ハードルを飛び越していく要領で、ベンチを飛び越え、落花した天井の梁を迂回し、浴びせられる銃弾を笑みので受け止め、ダメージを最小限に抑える。 「今日はかくれんぼって気分じゃないし、さっさと撃たせて敵の位置を特定しよう。居場所が判ったら皆に報せるね」 リセリアと風斗がタイミングを合わせて、中に飛び込む。 風斗が右、リセリアが左。風斗の後ろを龍治が追っていく。 二本の火線が、灯璃を交点にして少しずつ角度を変えながら、二人の足元に銃眼から着弾していく。 少しでも足を止めたらくるぶしから足の先がなくなりそうな恐怖が背筋を駆け上がる。 がつがつと足元を削る銃弾が正確に打ち込まれていく技量に、リリが育った環境の片鱗を見る。 『――今更俺が口にする様な事でもないが。上手いないい遮蔽物構築だ』 龍治は、どこから壊してやろうかと火皿に火口を押し付けながら耳で拾った情報を口にする。 『祭壇の傾斜を利用して、斜線が重ならないように分担されている。追い込まれているぞ』 前を行くリセリアと風斗のAFからは龍治の声が着弾音の隙間から聞こえてくる。 「足元に気を取られていると――」 無音。 リセリアの青いポニーテールが跳ね上げられたように顔を打つ。 延髄から盆の窪にかけて何か恐ろしいものが通り過ぎたと、風斗の収縮した毛穴が行っている。 本当に恐ろしいものは音もなく忍び寄ってくるのだ。 ばらばらと何かが崩れる音が背後でした気もするが、振り返っている余裕はない。 『狙撃されるから気をつけろ。できるだけジグザグに走れ。止めたら死ぬぞ』 後頭部、はげてないかな。と、場違いな考えが風斗の脳裏に浮かんですぐ消えた。 『弾幕役が二人、狙撃役が二人と、ハンナだな』 海依音が呼んだ仮初の翼が六人の背中に宿り、リベリスタを死を告げる天使へと変えて、進軍を三次元戦闘に導く。 階段を駆け上がるように、高みへ。 ● 知性と戦闘経験はなんら遜色はなく、理性が破壊される。 ハンナの築いた障壁は、3メートルの飛翔ではわずかに斜線が確保できない 飛行戦闘時の3メートルは、地を這って生きることを運命付けられた生物にとっての分水嶺だ。 今まで体を支えてくれていた重力は、地獄の鉄槌と化し、自由に動いていた空間は、高低差と言う新たな概念が勘を狂わせる。 「そーいえば用件伝えてたっけ? 此処にノーフェイスがいます、以上! 其処の仲間も全員アンデッドだから、キミがしてきたように『お祈り』するね!」 灯璃は、強烈な光だ。だから、その分、影が濃い。 夜が来るぞ。明けない夜が来る。常闇が迫る。 それは、こうやって扉を叩く。 死人を障壁の隙間から見据えて強烈に打ち据える、運命の音がした。 「僅かにでも視界に入るなら、狙えるのだがな。全く、厄介な事だ」 その音にまぎれるように龍治が呟く。 落ちてくる障壁の破片の向こうに、死人を捕らえたのは龍治だけだった。 引き金が引かれる。 びしゃりとなにかが吹き出る音がした。 壁の向こうで何が起きているのかは今は見えない。 見下ろすのは不敬ではないかと、一瞬脳裏をよぎった。 「まあ、リリさん。お久しぶり!」 『教会』の廊下でばったり会ったような顔をして、ハンナは華やいだ声を上げる。 「すっかりお嬢さんね。私が年をとるわけだわ」 そういいながら、ハンナはリリに銃を向ける。 「ハンナ様。私がリリとお分かりなのですね」 「もちろんよ。あなたは、日々健やかですか?」 健やかに、神にお仕えしていますか? 日々、崩界の徒を倒し、その喜びを神に感謝する日々を送っていますか? 「はい。私は、リリは健やかに――」 声が震える。これがわたしが見る最後の貴女の笑顔だ。 「貴女は、ご加護を失いました」 『教会』の徒に、それ以上の理由は要らない。だから。 「『お祈り』を始めます」 構える銃の引き金を引く為に必要なたった一つの要素は。 覚悟だ。 「祝福を」 いまや、ハンナの全ての表現は引き金を引くことに集約されてしまっている。 自分に向けて放たれる無数の銃弾に、リリは刹那の時間、目を伏せた。 「――的にされても、それで皆様への攻撃が逸れるなら」 うがたれる神聖武装、壁に散る赤、覚悟の上の自己犠牲。 頭を下にして落ちなかったのが僥倖といえた。 「ハンナ様達を速やかに神様の下へお送りできるなら、構いません」 せきこんだ喉元にこみ上げてくるものを吐き出し、口元をぬぐう。 「この身にもったくなくも賜ったご加護も喜んで差し出しましょう」 高く高く神の家の残骸を積み上げて作られた障壁が無数の銃弾でうがたれる。 さあ、瓦解の始まりだ。 ● リリの傷は、跡形もなく、容赦なく癒やされた。 「海依音ちゃん、お仕事には誠実がモットーです。仲間の運命を散らすことなんてさせないわ」 御代は一万ですよ! と、笑顔で付け加える。 「お気遣い、かたじけなく」 改めて銃を取り、障壁に向けて銃弾を降らせるリリ。 「リリ君、貴方の過去の亡霊は消し去りますよ。覚悟をなさって」 「それは、すでに」 「では、問題ないです」 頷くリリの脇を、深紅の尼僧衣が飛んでいく。 「リベリスタとフィクサードは似たようなものだけど、ノーフェイスはもう、存在がこの世界から許されてないのよ。お気づきなさいな、貴方に運命の輝きが失せたことに!」 「いいえ。私が死ななかったことが、御主のお導きなのです!」 「それでも祈りを続ける哀しい存在。それが『狂信』というものなら、神は何をもってワタシたちに『エイメン』かくあれかしと紡いだのかしら」 「ただひたすらに信じるのです!」 神を信じない修道女・海依音が放つ絶対放逐呪言と、神を狂信する修道女の弾丸が交差し、互いの信念と肉体を削りあう。 回復請願を詠唱しかけていた青年僧が、海依音の呪言の圧力に耐え切れず、大きく眼を見開いたまま灰に変わる。 「回復役、撃破。海依音ちゃん、お仕事には誠実です」 ● 赤く血走った刀身は、持ち主である風斗の目にも似ている。 極限にまで高められた肉体の代償。目の毛細血管が切れて白目が赤く充血していた。 「教えに従って戦い続けた人が、最後にたどり着いたのがこれか!」 突きこまれた一撃が、急ごしらえの障壁の一角を突き破り、上から瓦解する。 落ちてくるものが当たらない訳ではないが、そんなことも気にならなくなるほど、掠め飛んでくる銃弾が気にならなくなるほど、彼は憤っていた。 ずっと彼に銃口を向け続けていたのは、包帯で重心を腕にくくりつけたまま撃ってきていた若い尼僧だった。 もう片方の腕ははじけ飛んで、肋骨の中まであけすけに見えるほどだった。 恩寵を使い尽くせば、誰でもそうなる。特典はない。 虚ろな目は、何も答えはしない。 リセリアは、仮初の翼の力を借りて、目の前の壁を駆け上がる。 裏側に滑り込むように飛び降りる。 とっさに銃口をこちらに向ける死人の顔を斜めに切り下ろした。 (このままでは、彼らは避難から戻ってきた人々を手にかけてしまう) 命を賭したものを全うさせてあげたい。 リセリアは、聞こえてもいない死人の耳元で囁く。そうせずにはいられなかった。 「貴女達は、立派に守るべきものを護り通しました。だから――もう」 戦わなくていいのです。せめて安らかに。 金色の飛沫と共に振るわれる青い刃が、戦いきった尼僧戦士に終焉を知らせた。 開放されたように崩れ落ちて、灰となる遺骸の向こう。 微笑を浮かべるノーフェイスがいる。 「あなたが守りたかったのは神の教えか! それとも人か! 答えろ!」 風斗は、声を荒げる。 それがなんと答えても、滅せなくてはいけないことには変わりないのに。 ノーフェイスは何も答えない。答えを選択できることこそが人の尊厳である。 ノーフェイスは出来ない。尊厳なき者だ。故に世界を歪める。 「まだ少しでも心が残っているのなら……もう銃を下ろしてくれ……っ」 戦士よ。肝に銘じるがいい。 心など残っていないから、ノーフェイスなのだ。 無貌にして、恥知らずな輩に成り果てるのだ。 ゆめ、恩寵を無駄にするなかれ。 彼らのようになりたくないならば。 ノーフェイスは、銃口をリセリアと風斗に向けた。 「お祈りをいたしましょう」 ハンナの目に迷いはない。 きらめく流星雨のごとき、無数の銃弾。 ノーフェイスに良心の有無を問うても、無駄なのだ。 良心どころか、悪心もないのだから。 「こんなことってあるかよ!」 世界は、それほどやさしくは出来ていない。 悟りきれない戦士が繰り出す一撃は、あちら側とこちら側を隔てていた障壁を完全に瓦解させた。 ● 雪崩れ込むリベリスタ。 「さぁ、眩む程の闇の中で灯璃だけを求めて?」 差し出された手にすがろうとすれば、奈落の底に切り刻まれて落とされるのだ。 そんなリベリスタだけをきれいに避けて、龍治の火の弾が死人と無貌を苛む。 「躊躇うな。あれはもう、お前の見知った者ではない」 龍治の言葉が、リリの背を押す。 「はい」 凛とした応えに、龍治は自嘲する。 (……口では簡単に言えるものだ。俺も、もし師匠と対峙する事となったら? きっと、やれる。そう今なら考えられる、が。) リリと同じ年のころなら、あんなふうに返事できたかわからない。 「貴女の強さと信心深さは、私の憧れでした。貴女と並び立ちたいとも思っていました」 いつかハンナの十字砲火隊に加わりたいと、幼い少女は夢見たこともあったのだ。 「見て下さい。あの頃より、私は強くなりました」 残酷な夜の処女神が、今宵の依代にリリを選んでもいいという。 淡く月の輝きをまとうことを許された銃から放たれるのは、魔力と意志を練り上げて作られた弾丸なのだ。 「お疲れ様です、幸いな方々」 リリがそう言って銃を構えるのに、風斗は唇をかみ締める。 そうしなければ、何が幸いだと叫び出してしまうかもしれなかった。 意志の力で限界を超えさせた体は、あり得ない威力で死人を赤いしみに変えていく。 (彼女らも、本来は誰かのために戦ってきたはず……それが、こんな結末を迎えるなんて……あまりにもむごすぎるっ!) でもそうしなくてはならないのだ。 (オレにできるのは、彼女たちがこれ以上誰かを傷つけないようにすることだけだ……) そのためには、死んだ体が動き出さぬよう、その形が失われるまで切り刻むしかないのだ。 「ゆっくりお休み下さい」 ――Amen 銃声。 ハンナの胸部に大穴を開けて、リリは彼女の尊厳を守った。 ● 「リリ君。ハンナ君の最後を見る?」 有機物である死体からは読めないが、無機物であるロザリオからはなぜ彼女が恩寵を投げ捨てることになったのか位は分かるかもしれない。 「はい」 リリの返事に迷いはなかった。 ハンナたちが追っていたエリューションは、大食らいのビーストだった。 ハンナたちと対峙し、幾人かのリベリスタを食い、きびすを返そうとするビーストを逃がすことは出来ないと、ハンナは覚悟を決めたのだ。 『あなたたちは、これを本部に知らせなさい。ここは私が刺し違えてでも食い止めます。私にもしものことがあったら、後は任せます』 そう言って、まだ逃げられるリベリスタを逃がした。 堕ちる覚悟も彼女はしていた。 それは狂信の果てではなく、リベリスタとしての彼女の覚悟だった。 リリは、それを直接見ることは出来なかったけれど、読み取った海依音からの言葉を旨に刻み付けた。 「『狂信』の先の悲劇が、リリ君。貴方に起きては欲しいとは思わないのよ」 海依音自身の言葉と共に。 ● 風斗には納得し得ない。 「この人たちは、神の教えに殉じてこうなったのでしょうか……」 「そうです」 「リリさんは、この人達を幸いだって言うんですか」 風斗の問いに、リリは、はいと答えた。 「最期まで『お祈り』を。とても光栄な事で、私もそうありたいと思っていましたが――」 リリの目からころりと一粒だけ涙が零れ落ちた。 「世界の為に、神様の為に。そんなの唯の自己暗示でしょ?」 灯璃は言う。彼女の言葉は時として残酷だ。 「人は誰かの為に戦う方が残酷になれるし、悩まないでいる方が全力を出せるんだから。心の弱い人間程、大義名分を求めるんだよ」 『宵崎』の名の元に刃を振るう灯璃にも、そう言う点がない訳ではない。 「信仰の裏に隠した守りたかったもの。キミが戦い続けた本当の理由、教えてよ――って聞きたかったんだけど。やっぱり、無貌は話が通じないね」 だから代わりにさ。 「貴女はどうなんです? 貴女が戦うのは、何のためですか?」 風斗は、単刀直入に聞いた。 「昔の私は、このように悲しんだでしょうか」 リリは、すぐには風斗の質問に答えられなかった。 仲間が死んだ後は、斃れた仲間を褒め称えこそすれ、その死を悼むことはなかったように思われる。 アークで変わった自分を認識することが必要だった。 「今、私が戦う理由は……世界が、貴方方の居る世界が大切だから、です」 それを大切に思っているのは、リリだ。 「私のために、そうしています」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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