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ハッピーエンドで終わらせて。

●だけれど皆は最後に泣く。己の無力さに唇を噛み締めて。
「人生ってのは何時だって選択の連続だあ、少年」
 二を何回掛け合わせれば一生の選択量になるのかねえ、と男は嘯いた。
「だがお前の眼前に二つの選択肢があるのは紛れもねえ事実なんだ。なんだ、最近の脳科学とかいう胡散臭い研究によると、俺達は選択してるんじゃねえと、選択させられてるんだと。まあそんなこまけーことは知らねえけどよお」
 集落を突然襲った男と怪物たち。
 怪物に捉えられた女と少年。
 乱雑に破壊された家々。
「俺にも両親ってのがあってなあ、おー、やっぱ腐っても人間なんだわ、俺。俺にも母親が居たし、父親が居た訳よ、見たことねーけど、多分な。だから、少年にも、それくらい選ばせてやるよ」
 一転して暗くなった居間。
 少年と母。
 怪物に食われるのはどちらか。
「どっちが喰われんだ。時間はやる。選べ」
 紅い髪を刺々しく。
 浮かんだ笑みは飽くまで偽善者然と。
 人型の怪物は、いずれを喰おうかと思案気に。
 意識を失っている母を横に、少年は無様に頬を涙で濡らし。
「俺はやっぱり人間だから、その葛藤に二分くらいは付き合ってやるよ」
 月は限りなく薄く、室内は恐ろしく暗い。
 その二分は。
 少年にとって限りなく永遠に思える百二十秒だった。

「―――良い選択だあ、少年。間違っちゃいない、間違っちゃいねえよ。俺は好きだぜ、その『二分の一』」
 やっぱり俺は人間だあ。まーだ感傷に浸ってる。
 がちゃり、と怪物が人を食べる音。
 消化までに時間が掛かることだけが難点だった。


 そのEフォースは人を喰らう。
 身体にまとわりつき、侵食し、飲み込む。外見だけは殆ど変わりないように、その内部を乗っ取る。
 彼らはそうして進化する。今、辛うじてフェーズ2に留まっているけれど、それが次段階へと移行するのは時間の問題である。
 合計五体のEフォースを使役する彼は――銀生は――その時をじいと待っている。彼は戦闘が得意ではない。彼は思考したり造ったり、そういう方面で長けたフィクサードだった。 彼は自分でもそれを自覚していた。
 結局、『ヒト』に勝る神秘など存在はしない―――、それが彼の現状得られている解である。
 銀生は非道に成りきれていない非道である。彼は何時だって棄ててきた『もう片方の選択肢』について思いを馳せて、溜息を吐く。人を餌にしなくてもよかったのではないか、云々。
 だがそれは選択の結果なのである。銀生がリベリスタでない理由は、彼がハッピーエンドを信じていない所にある。彼を突き動かすのは果てしない疑問と、『運命』に愛された異能――そして、それは箍が外れている――である。彼はその戦いの果てに、追放される革醒者の姿を幻視した。例の『オルレアンの乙女』はそうやって異端審問に掛けられたではないか。いつかの平和に、革醒者の居場所などは無い。
 銀生は非道でありながら、臆病者である。彼はずっと恐れていた……、革醒した自分を。
 彼はリベリスタには成れない。彼には正義を追う強さがない。だから彼は、今日も町外れの集落を襲う。餌やりの為に。次の選択肢を探すために。


 ぽつぽつと家屋。電灯も十分に無い、田舎の集落。静まり返ったその居住空間。
 銀生は見遣る。五体のエリューションは、今となっては一見すると人のようである。彼らは『咀嚼中』だった。本体は体躯周囲にまとわりついた靄であるが、その境界は既に曖昧で、分かつことは出来ない。ただ言えることは、曖昧であるが故に、『人間の方はまだ息がある』ということ。それが消化の過程。
 汚ねえ絵ヅラだ。その根源を自分に見出しても、銀生の感想は変わらない。苦しげに呻くその姿も、いずれは完全に境界を消失して、神秘そのものとなる。人を取り込んだEフォースは、更に深化する。
 その姿を眺める。静かに眺める。肉体が養分となるまで眺める。
 静かなこの集落に少女の鳴き声が響く。銀生は眉を顰めた。全員殺したわけではなかったが、処理し忘れた者が居るようだ。
 重い腰をあげる。少女を殺すのは簡単だが、嫌だった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:いかるが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月24日(月)22:32
いかるが、です。宜しくお願い致します。

●作戦現場状況
・夜間、山あいの中にある小さな集落。月明かりも薄く、電灯なども少ないです。
・木造の家屋が十五軒ほど点在。全てが後述するフィクサード『銀生』およびEフォースに襲撃されており、死亡者や負傷者が残されています。
・Eフォース5体が各々1名ずつ一般市民を取り込んでいます。取り込まれている一般市民に関しては意識も息もありますが、Eフォースと一般市民を分離することはできません。また、行動自体はEフォースの支配下にあり、フェーズ2エリューションの能力を有します。
・Eフォースの攻撃を受けて死傷した一般市民の一部はノーフェイス化する可能性があります。その際は、フェーズ1相当個体のノーフェイスとなります。

●敵・登場人物状況
・『銀生』(ぎんせい)
 ・男性。フィクサード。ジーニアス、マグメイガス。
 ・短い赤髪。見た目二十代の若い男性。手袋型の武器を有しています。
 ・集落の中心部、少しスペースのある部分に、Eフォース5体を連れて佇んでいます。
 ・Eフォース5体を使役します。

・Eフォース×5体
 ・『銀生』に使役される敵性エリューション、フェーズ2。
 ・OPにあります通り、一般市民を取り込んでいます。つまり、見た目としては、赤黒い靄を纏わせた一般市民との戦闘になります。
 ・取り込みの段階は中盤を過ぎており、攻撃の判定は靄部分ではなく、一般市民の方で行います。そちらの方を攻撃してください。既に靄を狙うメリットはありません。
 ・一般市民の意識と体力は残っていますが、行動は完全にEフォースと同化しています。
 ・戦闘開始からしばらく経つと、Eフォースに完全に取り込まれて、一般市民は息絶えます。フェーズは上昇しませんが、敵個体の能力値に上方補正がかかります。

・ノーフェイス
 ・フェーズ1。数については流動的です。家屋に倒れている一般市民の一部がノーフェイス化する可能性があります。数値的には非常に弱い個体です。

以下、敵(『銀生』)能力について。
・マグメイガスRank 2までのスキルを用います。

以下、敵(Eフォース)能力について。
・「咀嚼」(A物遠単、失血、追:連)
・「人間の味」(A神近複、不運、猛毒)
・「明日会えたら」(A神近単、溜1、呪い、追:ノックB)

●要約
・山あいに位置する集落で、負傷した一般市民の救助を行い、男性フィクサード『銀生』を撃破あるいは捕縛し、彼の使役する、一般市民を取り込んだEフォース5体を破壊する。ただし、救助行為については成功判定に関係しません。また、ノーフェイスが出現した際は、その破壊を行う。

●作戦成功条件
・フィクサード『銀生』を撃破あるいは捕縛し、Eフォース5体を破壊する。一般市民がノーフェイス化した場合、その破壊を行う。

皆様のご参加、心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
メタルフレームナイトクリーク
シルキィ・スチーマー(BNE001706)
アークエンジェプロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
フライダークナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
ジーニアスマグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ヴァンパイアクリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ハイフュリエミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)


 悲哀、悲哀、悲哀!
『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)のその異能は、滞留する感情を読み取ることができる。そして、彼女の形の良い頭の中に響くのは、鼻に付く程に充満した哀借の念だった。或いはノイズのようにどよめくそのネガティブな感情に、ルナは少し顔を顰めた。
 違う―――と思った。
 生まれ育った世界も、環境も、何もかもが違うから。
 その果てに得られた彼の解を、ルナには正しく理解することは出来なかった。
 これだけの悲哀を呼び起こすに至った迷走……、けれど。
(何処かに向かっている様に見えるのは、私の気のせいなのかな?)

 月の光も薄く、静寂と暗闇に包まれた集落は、どこか物悲しい。
現代から忘却され、時代に取り残されたかのような、山間の盆地。そこで行われる、力任せの暴虐。
 ルナとは逆方向から要救助者を探索する『花染』霧島 俊介(BNE000082)はその美しい赤毛を揺らす。艶やかなその毛色と同じ紅眼は、神秘の眼。ある程度速度を犠牲にしたが故のタフなバイクに跨り、その異能の眼が無残に破壊された家々を見遣る。死んだら全て終わりと呟く彼は、死に逝く人々のその『死』を決して認めない。
「……いた!」
 俊介の言葉はAFを通じ原子の振動を通じ仲間の耳小骨を揺らす。

「これでよし、と」
『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)が声を掛けた。黄金色の鎧を纏った彼女の繊細な手つきが、簡単な応急処置を済ませる。ここから先は専門家の出番だ。
「立てる?」
 妙な切り傷に苛まれる女性は首を縦に振った。しかし、結果として、彼女は立ち上がれなかった。
 付喪はその女性の足が震えていることに気が付いた。突然と彼女らを襲った悪意は、そのまま彼女たちの心を壊した。だから、自分たち<リベリスタ>は此処に居る。
「……?」
 その女性が不思議そうに見つめたのは、黄金騎士が差し出した掌。
「怖いのは皆一緒だよ」
 重なる掌。
「それでも、こうやって手を繋ぐなりすれば少しは落ち着くだろう?」
 暖かい掌。
「―――さ、早く逃げな。途中までなら、一緒に行ってやるから」
 女性の足の震えは、止まっていた。


「ハーイ、とらだよ☆ 割と割と銀生さんと仲間っぽいっしょ? うちら未来を見る力を持った子に言われて、来たんだけど、ちょっとお話しない?」
「ん……?」
 月杜・とら(BNE002285)の声に、その赤髪の男は怪訝そうな顔で振り向いた。
「何だあ? お前ら」
 靄を纏った五つのヒトを従わせるフィクサード、銀生。夜の帳が降りた昏い集落の中で、一人佇む選択者。その視線が問う。
「リベリスタ。貴方達と相対するモノです」
 答えたのは『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)の玲瓏な声。澄み切った声は、澄み切った空気に溶けて伝わった。たった一言。たった一言だけれど、それで多くが伝わった。嶺が紛れも無く、正しくリベリスタであるが故に。
(革醒者の居場所が無い、ですか……)
 それは『万華鏡』を通して齎された彼の病巣。
(居場所を探さなかったか、見つけられなかった、のでしょうね)
 銀の瞳のその奥で。嶺の脳内電子伝達が速度を上げる。
(齢十七の歳より『箱舟』に居る身としては)
 そう思わざるを得ない。
「……」
 銀生の眼が探るようにリベリスタたちを見遣る。
(『もう一つの可能性』に想いを馳せる、か。なるほど、優柔不断だな)
 その視線を受け止めるように、『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の瞳がサングラス越しに瞬いた。
「ふうん。つまりはさあ、お前らも、『一緒』って訳?
 殺す、殺される。そういう極限の選択肢を背負ってるってことか?」
「まあ、そんなとこだ」
『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)が答える。
「あたいも。ひっさびさに帰って来たんだわ、このクソッタレな神秘の世界にさ」
 働いてない古参面子かく語りき。嘯くシルキィの表情はやや気怠げだ。
「銀生さんに訊きたいんだけど、貴方にとって幸せって何?」
「……幸せねえ」
 銀生は遠い目をする。そう。確かにそんなものを探していた自分も、何時かの昔には居たのかもしれない。
「いや、幸せに何てなれねえ。『革醒者』はきっと、そんなもの得られねえ」
 そんなのは幻想だ。そんなのは嘘だ。逸脱したら迫害されるんだ。普通じゃなかったら責められるんだ。そんなの、歴史が証明してくれているじゃないか!
「革醒者にハッピーエンドは存在しない。選択に選択を重ねて、バッドエンドを手繰り寄せるだけの不毛な存在だ。お前らだって……そうだろう?」
 立ち位置が違うだけで。お前らは俺を止めることで存在して。それでも、フィクサードと敵性エリューション共が消え去った後の世の中で、お前らの見つめる軸を見失って、座標を喪って、宙ぶらりんになったとき、それでも『リベリスタ』とかいう革醒者は求められるのか?
「俺様ちゃん、ハッピーエンド好きだよ!」
 みんなハッピー幸せラッキー☆
「ごちゃごちゃ難しいこと考えて、」
 今の自分を否定することで、
 正義なんていう幻想から目を逸らすことで、
 幸せを享受できないなんて勿体無い!
「ねえ、銀生ちゃん」
 それはいっそ、爽やかに、
「―――生きる意味がある人間って本当にいるの?」
『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の口が歪んだ。

 一瞬、震えた。銀生の体が、震えた。
 葬識の言葉に、震えた。
 それが感動だったのか恐怖だったのか憤怒だったのかは結局分からなかったのだけれど、とにかく、彼の体は震えた。それが恥ずかしくて、知られたくなくて、銀生は無意識に鼻頭を触った。
 目の前に居るのは五名の革醒者<リベリスタ>。話す猶予は与えてくれたが、どうもこちらのことはお見通しらしい。しかし、贔屓目に見て、分は五分五分だ。何故なら。
 ちらと銀生の視線が傍らの『彼ら』を見る。消化の遅い彼らは、未だ、『残って』いる。恨めしそうな目でこちらを凝視している。でもさ、体の支配は……。
「……っ!」
 結唯がその攻撃を受け止めた――見た目は自分達と変わりないその存在からの攻撃を。
 ぎりぎりと打ち合って、跳ねる。人間らしいソレは、人間らしくない不思議な挙動で間を取った。
「お前らの言いたいことは良く分かった」
 銀生は頷きながら言う。彼は外道だが、リベリスタの説く道を決して全く理解できないという訳でもない。彼は戦闘が苦手だが、考える。何時だって彼はリベリスタみたいに生きたくて、生きられなかった。
 銀生は外道である。外道であるが、この五つの化物に対しての責任を放棄しない。銀生は、その選択肢を選んだ少年を、決して忘却しない。どんな選択肢にも意味はある。選択したという行為だけが、尊い。だから、
「取り敢えずは、おまえらの選択、見せてくれよ」


 銀生は自然と後ろに下がる。その役目はお前らだ、とでも言わんばかりに、五体のEフォースが暴れ始めた。
 その見た目は『万華鏡』通りに人らしい。その眼に浮かぶ感情も、囚われて消化されていくだけの無情と、恐怖だけだ。確かに、『見た目』は不憫だ。しかし、
「……」
 嶺の身から放たれる気糸が精確無比にその残された人間らしい部分を穿つ。そこに、憐憫は無い。
 追い縋るように気糸群が空間に展開される、だん、と一体のEフォースが跳躍した。どうやらまだ子供のようだ。顔はぐちゃぐちゃに汚れて、直視するのが憚られる取り乱し様だ。正反対に躍動する自分の体を、その子はどう認識しているのだろう?
 狙い定めたように発砲音が連続。突き出すように片腕で銃を構えながら、結唯はゆっくりと立ち位置を変える。戦闘の余波で一般人に被害が出ても面倒だ。ノーフェイスに成られでもしたら手間が増える。戦闘に意識を割きながら、残る片隅で周囲に視線を配った。
 その弾道に若干の勢いを殺がれながらも、子供の眼をしたEフォースは飛び掛かった。
 彼らを分かつのは一本の杖のみである。助けて、死にたくないと暴力を振るう少年<Eフォース>と、しかしそれが叶う筈もない事を知りきったとらの視線は、たった三十センチ離れただけで交差している。
 革醒すら、していない。運命に愛されるとか、愛されないとか、そんな領域での議論では無い。少年はただ餌として喰われ、憑代として身体を提供しているだけに過ぎない。それなら、どうして僕は死んでいくのか―――。けれど、そんな意志だって神秘<エリューション>の前では無意味だ。
 押し返すようにとらが弾き返すと、そのまま蒼い翼が羽ばたく。大丈夫だよ、と顕現するのは、彼をいつか殺す神秘の代償。突如と吹き荒ぶ風は、断罪するかのようにそのEフォースを詰る。救えるものと救えない物を、見誤らない様に。救えるものを、救えるように。生殺与奪の権利を握る居心地の悪さを、とらは嚥下する。だからとらは、何時だって飄々と微笑む。

 フェーズ二とはいえ、敵性エリューション五体を五名で賄うのは、簡単な仕事では無い。シルキィは光源確保をしつつ、味方リベリスタたちに十字の加護を与える。蹂躙されたこの小さな世界を救うべく駆けまわっている俊介、付喪、ルナが此処に戻るまで、誰一人として膝は付かせない。シルキィはナイトクリークではあるけれども、補助に徹する。それは今のこの時、彼女にしかできない役目であった。
 嶺が解き放つその真白い軌跡たちが丸で鞭のように波となりEフォースを打つが、彼女の眼は結唯と同じく周囲に警戒している。成られたノーフェイスに依る妨害を見極めるのが嶺の眼であり頭脳である。この戦いで、正しく前衛を務めることが出来るのは葬識一人であるかもしれないが、連携が取れている。その平衡が歪みを正す。なればこそ―――殺人衝動に犯された葬識は、その『人殺しならぬ人殺し』に歓喜を見出さずには居られない!
 黒に染まったその体躯は、黒を出て黒に至る。起源も帰結も同値なら思案する必要は無い。空っぽの中身は空っぽ故にその空白を埋める。彼の前では全ての生命が等価値だ。善人も悪人も最後は一緒、その過程がどうであろうと、結末は一緒。全ての命が地球より重く、そうであるならば、全ての命は限りなく軽い。命に時間と同じアナロジーで相対的な重さを定義した時点で、人類の負け。
 死は肉体を束縛するけれど、それだけ。
 人に精神が巣食う以上は、死は人を罰せられない。
 葬識が振るう刀剣は切先から墨(くろ)い終末を侍らせる―――。
 そう、まずは、そのカラに覆われた人ならぬ人を消去するために。


 亡と五芒星が浮かんで、その紅い影が暗闇にぽつりと浮かび上がった。
「―――あ?」
 銀生は考える。その影は……、『此処に居てはならない影』だ―――。
 それまで、前線をEフォースに任せ安全な位置を確保し、戦局が大きく傾いたとなればそれに従うつもりだった彼は、本能的に右手を上げた。
肩の高さで水平に保たれた手袋をぎゅっと握る。それが彼なりの魔術回路の始動合図。
 胎動を始めた神秘が彼に同調し、カタチとなって現れる。中型の魔方陣が彼の同心円状に展開され、蒼く光る。正しく固定砲台となった銀生の身体から、赤い影を――俊介を――穿つ魔弾が放たれる。
 貫くべくして解放された光弾は淡い最後を携えて俊介を貫く。……筈だった。
 一切の予備動作無し。本能で反応した無秩序な神秘介入。だけれど、戦闘が不得手と言った銀生にしてみればそれは最高の出来だった。最高の出来の筈だった。ならば、何故。
 何故、目の前にその紅い影が迫っているのか―――!
「こいつは、此処の罪なき一般人のぶん!」
 ぐしゃりと。
「こいつは、お前のせいで死んだ奴等のぶん!!」
 ぐしゃりと。
「こいつは、葬ちゃんを虐めたぶんと九割俺の怒りだ!!!」
 おいおい、話が違う。
 虐められてんのは、むしろ俺の方だぜ?
 そんな言葉が届く前に、銀生の顔を三発目の拳が殴った。
「ぐ……」
 銀生は踏みとどまる。拳で口元を拭う。真っ赤な血が見えた。
(まだ手数が居たのか!)
 銀生はすぐにEフォースを呼び戻す……筈だった。
 筈だった、筈だった、筈だった。
 どの選択もうまくいかない。
「派手に吹っ飛ばしてやるから覚悟しな」
 その視界の先には、黄金色の騎士と銀色の妖精。
「―――上手くいかないにしてもよ、程度があるだろうよ」


「選択ねえ」
 一つを選んで一つを捨てる。それはリベリスタだって違いない。
 何が正しかったのかなんて、それぞれの心の中で決めるしかない。
 だから。お前の問題は。
「あんたにとってのハッピーエンドって何さ。あんたが満足できる選択って、何さ」
 シルキィの見遣る先では、消耗し始めたEフォースが一体、そして一体と倒れて逝く。

「か、は」
 結唯に撃ち抜かれて、一体のEフォースと、一人の女性が死んだ。Eフォースは何も言わず、そして女性は恨みがましい目で呪詛を呟きながら息絶えた。
 だがそこに感傷は無い。結唯には銀生の考えがほんの少し理解できる。この世には革醒者の真の居場所は無く、世界のはみ出し者というレッテルは消えることが無い。それは結唯も同感だ。けれど彼女は例外を知っている。側面、ないしは可能性と言うものを知っている。

「たすけて」
 嶺の気糸に腹部を撃ち抜かれて、一体のEフォースと、一人の少年が死んだ。Eフォースは何も言わず、そして少年は恨みがましい目で懇願を祈りながら息絶えた。
 こんな人間は、外じゃ暮らせない。でっかい翼と戦いに慣れた人間など。
 だから嶺は、結唯の言う所の可能性を明示する。
「アークは、三高平は、良いところですよ」
 こんな牙とか羽根とか。冷めきってしまった心を持っていたとしても。居場所が、ある。
 正義の味方になんか、成らなくていい。

「―――!」
 爛れた声は汚い咆哮だ。炎に焼かれて、一体のEフォースと、一人の少女が死んだ。Eフォースは何も言わず、そして少女も、何も言わずに息絶えた。
 選択の果てにヒトが出来るのなら。選択の果てに、君が消えるのは、きっと間違っている。
 ルナは嶺の言葉を肯定する。銀生も肯定する。
 リベリスタにも正義の味方にもならなくていい。選択が君を殺すなら、選択しなくていい。
 選択しないで良い未来が、ある筈なんだよ、銀生ちゃん。

「なんで?」
 それは凍りついたが故の破損。バラバラの破片に千切れて、一体のEフォースと、一人の男性が死んだ。Eフォースは何も言わず、そして男性は最後まで何も理解できずに息絶えた。
 とらはルナの言葉を肯定する。銀生も肯定する。
 道は一つではないのだから。選択しない、というのも、一つの選択肢なのだから。
 立ち止まってしまうことは逃げじゃない。立ち止まる、というのも、立派な一つの『動き』なのだから。
 一緒にきなよ。孤独にはさせない。でも、それでも選べないというのなら。

「あたい達が、決めちまうぜ」
 リベリスタってのは、そういうもんなんだよ。


「ありがとう」
 切り刻まれた老婆はけれど安心した様に。一体のEフォースと、一人の老婆が死んだ。Eフォースは何も言わず、そして老婆は感謝して息絶えた。
 分からない―――、分からない。
「人を殺すのが嫌だって感覚は、『ニンゲン』としては逸脱してないよね。 人を殺さないと我慢できない俺様ちゃんよりよっぽど『ニンゲン』らしい。
―――ねえ、どうして人を殺すのが『嫌』なの?
自分の手で『殺す』ことはそんなにニンゲンを逸脱することだと思うの?」

 葬識の貼り付いたような微笑みに、銀生は言葉を失くした。
 これで五体のEフォース全てが破壊され、残るは自分一人。
 独り―――。
 頭を軽く振る。駄目だ、弱気になっては駄目だ、甘言だ、彼ら彼女らのその言葉は甘言だ!
 きっとまた裏切られるんだ、選択の果てに裏切られて、きっとそこにハッピーエンドなんて無いんだ。
 よろよろと銀生が後退する。そこに居たのは餓鬼に違いない。
「お前の傲慢な盲目のせいで」
 俊介の足が一歩。銀生の足が一歩。
 声にもならない小さな悲鳴が、銀生の喉を通った。
「何人死んだ? 今、何人犠牲になった?」
 リベリスタの足が一歩。フィクサードの足が一歩。
 声にもならない大きな憤怒が、俊介の喉を通った。
「今の状況を選択してきたのはお前だ」
「―――あ」
 ぎらぎらとした銀生の挑戦的な瞳の光は消え去った。震える手を嫌々するように顔に、胸の前に上げるのが、彼にできる精一杯の抵抗だった。
 その距離は腕一本分。小さな食塩水の水滴が銀生の頬を濡らして、彼は自らの選択を悟った。
 ああ、自分は、此処で、死ぬんだ。
 でもそれは、正しい結果に違いない。だから……、『こうなる筈だった』。
 俊介の腕がその距離を殺す。びく、と銀生の身体は跳ねて、でもどこか暖かくて、
「俺んとこに来い」
「―――」
 それは、丸っきり、何処か処では無くきっぱりと暖かくて、
「不安なら俺が守ってやる。いつでも――この手を伸ばしてるから」
 ぼろぼろと綺麗な水滴が零れて、銀生は崩れた。
 取っても良いのだろうか?
 このリベリスタらの甘言を信じていいのだろうか?
 もう―――選択に縛られなくていいのだろうか。
 もう――――――ハッピーエンドを信じていいのだろうか。
「惰性でない生き方も、何時か出来るんじゃないかって」
 少し、信じてみたくなるね。

 彼の名は、銀生幸央(ゆきひろ)。
 幸福の中央で生きるようにと願われた、一人の不幸せな男の名。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 バランスの取れたプレイングだったように思います。
 バッドエンドが好きな僕でもハッピーエンドにしたくなるくらいのプレイングだったと思います。
 お見事でした。

ご参加いただいたリベリスタ皆様が楽しんで頂けること願っております。
『ハッピーエンドで終わらせて。』へのご参加有難うございました。