● 夜。 他の建物より一寸高いビルの屋上で、金色の髪と猫耳を風に揺らす女が居た。 彼女の後方に舞い降りたのは白銀の翼を持った女だ。彼女は足が床に着いた途端に、猫耳の彼女の背を後ろから抱きしめた。 「やっほ、両輪。上手に剣林の居場所を教えて上げられたかい?」 「もっちろーん! 九(いぢちく)ちゃんが大嫌いな剣林のコは、裏野……じゃなくて賊軍に殺されちゃうね!」 「うん。あいつ、ボクが呼んだ飛龍をアークと一緒になって追い返した野蛮だからさ。あと少しで街中大混乱になって面白かったのに……」 奥歯を噛みしめ、過ぎた日の過失を思えば自然と表情が怒りに満ちた九。 両輪は九を愛おしそうに見つめ、彼女の露出した首筋を舐めて慰めたのであった。 「そうだね、九ちゃんが殺したそうだから両輪は命懸けで頑張っちゃった。もうちょっとであいつの不幸顔拝めるよ?」 「……裏から離脱した奴等の身柄も確保したし、ボクら黄泉はキケンな四国から撤退しようか」 「キシシシシシ、裏も剣林も割と如何でもイイケド、嫌な奴の泣き顔は最高ですな。んーでも九ちゃん、これからアタシらどうなっちゃうの?」 「さあ、ボク達は首領の下で自由にさせてもらうだけさ」 イヒヒヒ、キシシシ。二種類の嗤いが星ひとつ無い不気味な空に響いた。 ● 銃声、銃声、そしてまた銃声。 全身が穴だらけになった剣林の少女、戸部馨は霞む視界の中もがいた。 「なんで、この場所バレてんだよ、意味分かんない!!」 おかしい。 四国に在る、剣林フィクサードが己を磨く為に作られた施設だが、ビル最上階に作られており、これまで剣林以外の派閥の者が訪れた事も無い。 そういえば先日、胡散臭い銀色のフライエンジェが『剣林に移りたいでぇす♪』なんて、思ってもいない事を言われて近づこうとしてきた。彼女は黄泉ヶ辻所属であったか。黄泉ヶ辻と裏野部の仲良さを考えてみれば――― 「―――あいつ、私の事つけたって事か……相変わらず私って馬鹿だな!!」 されど今、己を嫌悪している場合では無い。 扉を一つ閉めて、更に奥へと突き進む。流れ出る血が此方に餌が居ると教えているようなものだ。最早敵から身を遠ざけるのは、己の寿命を少しでも長くする為の足掻きであろう。 しかし、此処で負けを認めて死ぬのも剣林にいる己としては、ふざけんな、である。 奥の部屋に辿り着き、手に取った愛刀――鋼心丸を握り締めた。 武装も最低限だ。生きている仲間を数えてみれば、既に何人か食われてしまったようだ。こうなったのは馨のせいでもある、ならば仲間は巻き込まれただけ。謝罪の前に、馨がやらなければならない事とは。 「生き延びたい奴がいれば、私が全力で逃がしてやるが?」 しかし剣林のフィクサードは、逃げるという選択肢を選ぶ者はいなかった。 「馬鹿め、本当に馬鹿どもめ」 瞳が潤む間もなく、馨は攻め入る敵の方向へと向いた。 幼少時より刀を持ち、師から受け継ぎし此の剣を振るうに相応しい己に成るために日々、日々、日々、馨は腕を休める事はしなかった。しかし剣はなかなか手に馴染んではくれず、人を斬る事を止めた時さえあった。 だが何故だろう、今は剣が言う事を聞いてくれている感覚がある。 「さよならです、九朗、百虎様」 最期まで剣林として生きられるのなら、死などこれっぽっちも怖くは無い。 「バァーッカでー!!」 「なーんだ、こんなもんか。なんか全然楽しくなかったなぁ。ついでに下のビルのゴミを掃除して帰る?」 金切り声と共に、笑い声。 裏野部一二三に着いて行き賊軍と成りし、元裏野部フィクサードが二人。それと蠢く意思ある影達が、血まみれの肉塊の上で肩を揺らしていた。 「はーい、賛成! たまには黄泉ヶ辻も役に立つよね! ね、ハヤテ」 「情報が無ければ動けなかったのは俺等の駄目な所だよ、あんまり頼るの良くないし。ね、サクヤ」 ● 「皆さんこんにちは、今回も依頼を宜しくお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を見回した。 「遂に、裏野部が動き出しました。彼等は名前を変え、『賊軍』と名乗っております」 昨年末に多発した裏野部に寄る、女性革醒者誘拐事件だが。封印されたアザーバイド『まつろわぬ民』を中心に解放し、裏野部が自勢力を増やす事で『単独でアークと渡り合える戦力の確保』を目的とした物だった。 結果的には大規模雷雲スーパーセルに寄り、四国を始めとし、多くの末路わぬ者達が解放されてしまったのだ。 其れを期に、裏野部は主流七派を脱却。黄泉ヶ辻を除いた五派との衝突は避けられないものへと成っていた。なお黄泉ヶ辻は首領間の仲や、裏野部一二三に着いて行けずに一二三の元を去ったフィクサード達の受け皿と成っている為に、一定の配慮が有るという。 今や賊軍と成った彼等は、四国を拠点に動いている。彼等の動きの全貌はまだ見えていないが、其の内大きく動く事は確実だろう。 表の世界の人々を守る事は当たり前だが、彼等の情報を得る為にも此の件への介入は避けられない。 「皆さんに言って欲しい場所は、剣林の施設です。 以前、飛龍が街中を襲う事件があったのですが、其れ事態はアークが撃退。居合わせた剣林がDホールを壊してくれたようなのです。 でも飛龍は黄泉ヶ辻フィクサード『十 九(もがれ いちぢく)』が呼び出したもののようでして、九が配下を使って賊軍へ剣林フィクサードの所在をリークしたので、事件が発生しようとしています」 其処は剣林フィクサードがお互い切磋琢磨する為の、云わばジムの様な場所に成っている。寝泊まりは勿論、少し階を降りれば一般人さえ存在する。 されど場所が悪かったか。四国に在る為、賊軍が陣地より敵を一掃する為に戦力を引き連れて戦闘を始めるのだ。 「一般人への被害を抑える事が第一です。その為に賊軍をなんとかして追い払ってください」 賊軍の戦力は元裏野部フィクサードであり、何度か箱舟の邪魔をしてきた庭師の少年ハヤテと、メイド服の少女サクヤ。お互いを相棒とする二人が一緒に行動すると言う事は、それなりの連携で攻めて来ると言えよう。 なお、末路わぬ民の存在も見受けられる。土隠と呼ばれた種族の子達であろう、彼等は糸を自在に操り引き寄せる攻撃をも行ってくる為、注意が必要だ。 「ともあれ、剣林の拠点に行くので勿論剣林のフィクサードも存在しています」 戸部馨、その他剣林のフィクサードが数人。 元々は数十人居たが、賊軍の戦力に押されてしまい箱舟が到着する頃には数人程度の人数までに減らされているだろう。 「彼等はフィクサード。死にかけていても剣林です。 彼等のプライドもあるので、共闘はあまり期待できないかもですし……」 特に戸部馨は、箱舟の事が大嫌いだ。 過去、大切にしていたアーティファクトを壊されるわ、怖いお兄さんに突然抱き付かれるわ、散々な目にしか合っていない。 「敵として攻撃してくる可能性も十分考慮して、下さいね。 場所が10階建てのビル内になります、8階から下には一般人が。 主戦場は10階なので其処から下に行かせないように……が一番良い方法でしょうか。 なお、剣林フィクサードは10階の奥に居ます。屋上もありますので、屋上から攻めるか、9階側から攻めるか、或は両方からかは皆さんにお任せしますよ。 皆さんがやるべきは……被害を出さない事。それでは宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月11日(火)22:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「はは…」 身体にまた穴が空き、左肩を撃たれた勢いのままに回転しながら壁に激突した『切り裂き魔』戸部・馨。膝が崩れ、床に座り込んでしまった。 十階は暖房が入っている為、割と快適な程に温かった。だが、突如外気か? 冷たい風が彼女の身体を撫でていく。 そう、馨は運が良い。只、其れだけの出来事。 「リベンジマッチもまだしてないのに死なれても困る。それに、こんな形で終わって満足か?」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の金色の髪が風に揺れ、馨の目線の中を其れが埋めたのだ。 「あン、じゅちゃん?」 「そうだ。もう一度だけ言う。死なれては困る」 杏樹にとって馨は羞恥やら何やらで因縁を持った相手であっただろう。其の、なんとも言えない不思議な縁が杏樹を此処へ結びつけたか。 馨は杏樹の敵に変わりは無いのだが。杏樹は自分の敵を違う誰かに喰われても良いと思える程、寛容では無い。 招かれざる客の来襲に驚いたのは、元裏野部こと賊軍さえ同じ事。 「聞いてないし、アークが居るとかァ! やっぱり黄泉も殺した方が良かったかなぁ、ハヤテェ」 「いいや、アークなんて何時でもこんな感じじゃないか、サクヤ」 ハヤテは何時もの如く冷静に、少し怒り気味の佐久弥は頬を膨らまして抗議した。 「御機嫌よう、裏野部……ではなく、今では賊軍でしたか? 貴方達とも奇妙な縁が続いていますね。私としては早く清算したい類の物でしかありませんが」 九階側からは『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)と『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が姿を現す。いわば、アークによって挟み撃ちの陣形だ。 いりすは到着直後から体勢を低くしながら走り出していた。ふと、目に入れたメイド服の彼女。 「君の相方は可愛らしかった。ベッドの中で激しく悶える姿は」 そういえば病院のベッドにハヤテを押し倒した。そんな事もありましたね。 「ハァ!? ハヤテ、不潔!! 私というものがありながらあああ!!」 これには佐久弥、精神的ダメージを受ける。 周りに居た土隠は、新顔の登場に如何したらいいか戸惑っていたが、おそらく数秒も経たぬ内に全部殺せばいいという結論に至り、襲い掛かって来るだろう。 だが馨は、否、剣林は憤った。馨は声を荒げ、壁に拳を叩きつけ。 「帰れ!! 箱舟の!! 貴様等に手を貸して貰う程に私達は落ちぶれていない!!」 全身から絶えず血を流す馨の足下には血溜まりが出来上がっていた。アークからしてみれば、其の傷つき『過ぎた』身体では説得力が皆無なのは当たり前の事か。 だが賊軍は待ってはくれない。 「ごちゃごちゃ話してんじゃないわよぉ!」 再び佐久弥が放った銃声。弾丸を真っ二つにしたのは『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)であった。 「『切り裂き魔』戸部・馨、そして剣林に所属する者達よ。アークとしてでは無い、リベリスタとしてでもない。これは俺の挑戦状だ」 「君…確か……」 馨と、『斬手』九朗は親しい関係であるからか。彼から拓真の話は聞いていたか、馨が其の本人を目の前にするとは思っていなかったのか、驚愕の表情を露わにしていく。 「けど、共闘は」 そう馨が言いかける前に。 「共闘をしろとは言わない。どう行動するかはそちらの自由だ」 箱舟の方が幾らかお頭は良いようだ。否、万華鏡のお蔭か? いや、それだけでは無いだろう。 「私達が何を救いに来たか、討ちに来たかは言わずも解っているでしょうが」 決めてには『現の月』風宮 悠月(BNE001450)が馨や剣林の傷を癒していく。 まるで心の中を見透かされている様。 先手、先手を打ってくる賊軍にも、アークに苛立ちが一つ。そして何時も後手に回ってしまう馨は、恥ずかしさと情けなさに顔が真っ赤になっていく。 「だが、帰れ! フィクサード同士の喧嘩なんぞお前等の出る幕じゃねぇんだよ!!」 中指をたて、再び声を上げてみたのだが。 「――軽い。 貴方達の武と魂は、あんな血と殺戮に酔うだけの浮ついた賊徒如きと相打って善しとする程度のものなのですか。死に場所位は選びなさい」 最早、悠月の言葉に何も言えなくなった馨。 確かに剣林にも何かしら譲れないものはあるのだろう。理解していたミリィは噛んで含ませるように優しい口調で言うのだ。 「ただ無為に死ぬのと使えるものを使い一矢報いるか、貴方の望みは何ですか?」 複雑にも廻る感情。だが、今はこんな事で口論している場合でも無いのだ。 「……ならば箱舟の。敵は同じだ。だが邪魔なら賊と一緒に切り裂いてやる。それで、いいわね?」 「問題無い」 杏樹の銃口から、弾丸が放たれた。 ● ミリィがアッパーを比較的弱い土隠相手に行っていたからか、剣林への被害は抑えられていく。そして悠月の回復もあったお蔭もある。 されど、いりすが向かう先。血の刃が佐久弥を守る中では、佐久弥が自由に攻撃できている分。剣林たちにとって死という文字は払拭されていないも同然。 下で一般人対策をしている『彼等』の到着はまだなのだろうか。戦場を奏でるミリィにとってはそればかりが不安であった。 「だがよぉ、どうせ五人程の増援じゃあねーんだろ?」 一気に口調がキツくなったハヤテは拓真に奈落剣を振り落した。 あらゆる呪いを溜めこんだ剣は拓真の交差させた刃に止められる――が、押し負け肩口が大きく切り開かれ赤き断面が見える。ジャガーノートが効いている拓真だ、其の呪いたちは効かねど呪い殺される事はある。 「そうだよなぁ?」 「どうかな」 に、と笑った拓真。そう、拓真の正面からは―― 「二十五歳なのに浮いた話のなさそうなおねーさんだっているのに!」 ――『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が、飛び込んで来たのだ。其の侭、彼に割と勢いで蹴り飛ばされたハヤテの身体が飛ばされていく。 ハヤテも佐久弥もリア充であるのだと彼は踏んだのか。リア充は竜一の敵である。其れだと世界のほぼを敵に成りえそうだが。本当にそれでいいのか。 「な! 馨たん!」 「こっち見ないで」 「一緒に此の憤りをぶつけてやろう!」 「私がぼっちみたいな言い方やめて!」 竜一は馨にとってのトラウマだ(抱き付かれたあたりで)。必死に他人を装う彼女だが、逆に不自然さが目立っている。 「なんで馨たんこっちみてくれないの!?」 「絶対嫌あぁ!!」 サムズアップしている竜一だったが即座に糸が巻き付き、引き寄せられていく。その時だけ馨は僅かにも思ってしまったのだ、賊軍やるじゃないか、と。 「竜一は、後で仕置きだな」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が到着。即座にミリィを攻撃している土隠達目掛けて放つ、行動不能へと陥らせる光。 「すまないな。少し手間取った。エレベーターのロックから防火扉のロックまで全部済ませて来た」 「ええ、それで十分ですよ。私は大丈夫です、悠月さんのお蔭様で」 「そうか。さて遊ぼうか? ゴミがゴミ掃除とは嗤えるが」 ふらついたミリィを支え、ユーヌはしかと前を向く。そうすれば視界がチカつき前が見えていない土隠達がいるからだ。 「殺れ、杏樹」 「一秒待て」 ユーヌの言葉に、頷いた杏樹。即座に複数の弾音が響き渡り、部屋中を幾重にも弾丸が飛ぶ。 ミリィとユーヌを綺麗に避けたそれらは土隠の身体に穴を空け、着弾の勢いに負けて踊る様に崩れていく土隠達。だが、彼等もアザーバイド。こればかりで倒れる訳では無い。 「くそ、がああああ!!」 全身から血を噴出し、内臓を露出した土隠の一人が巨大な蜘蛛に変化した。バキィバキィ、と伸ばした毒の顎。其の顎先を辿ればミリィを狙っているのは一目瞭然だ。 その時、一回り元気な声が響き渡る。 「はーい、ご機嫌麗しゅう! アークだよ! 賊軍の皆さんと馨ちん達。息災だったー?」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が壁を蹴破り、飛び込んで来たのだ。其の壁に潰され、蜘蛛は呆気なくも四方八方に身体の部品を飛散させたとかなんとか。 「ん? なんか今踏んだ? ぷちって聞こえたけど」 「結構踏んでるな」 首を斜めにこてん、と向けた夏栖斗に、ユーヌの指が彼の下を指差した。 「うわ、マジで? うわ、マジだ」 「ちゃんとやる事やってきたのか?」 「勿論! AからZまで全部オールグリーンってやつ?」 ユーヌは夏栖斗に問う。そう、遅れて来た彼等は一般人対策をしてきたのだ。竜一は魔眼を使い、ユーヌは電子の妖精を、夏栖斗は力仕事で建物中走り回って来たが息ひとつ切らしていないのは流石であろうか。 何はともあれ。 「これで全員だ、賊軍共。さあ、本番は此処からだぞ裏野部。──新城拓真、推して参る」 「賊軍だ。次間違えたら、てめぇの嫁に蜘蛛の子供産ませてやんぞコラ」 ● 賊軍。例え名前がそう変わったのだとしても。 「小生のやることは変わらんね」 だが、刹那に銃声が響いた。空気を震わせて飛んできた弾丸――避けようと思って避けてみたのだが、なんとも不運か防御を貫通し直撃したのだ。 「ばぁーか!」 血がいりすの視界を濡らし、頭痛が響いた。狙ってきたのは顔面、其れも右目。着実に殺しに来たと見ていいだろう。 如何やら佐久弥は、先ほど発した挑発に乗ってくれている。依存している相手をNTRったと魅せれば、なんとも簡単な事か。彼女の思考はあんまり賢くないと見える。 されど喰う前に喰われるいりすでも無し。血の刃が邪魔なのであらば、ハヤテに標準を切り替えるいりす。 其れを横目で見ていたユーヌはやれやれと首を振る。 「脳筋と空頭なら前者がマシだな」 鞘に入っていない刀を振り回して強くなった気か、と思い溜息を吐いた。 「あと四十秒で終わらせるぞ。喧嘩していてもつまらん」 「俺の彼女、痺れる!!」 と、ユーヌからキツい時間制限が提示された。竜一はガッツポーズしてやる気アピール。 「あんた彼女いたんだ」 此方、馨が何故か残念そうな顔をした。気付いた夏栖斗がつい、 「馨ちゃん恋の予感?」 「強い奴は……嫌いじゃないわ」 瞬間に響くのは、呪いを払う光である。其れが行き渡れば、土隠の糸に呪縛されていた悠月と杏樹が動く事ができるのだから。 光の余韻が未だ響く室内で、ミリィが放つ光はユーヌのものとは違い、フラッシュバン。視界と五感を光によって奪われた土隠が、怯んだ所で。 「悠月さん! 杏樹さん! 今です!」 ハッとした悠月。馨の精神力の補強をしようとしていたが。 「私の事はもういい、お前はやれる事をやりなさいよ。私とお前は敵同士だしな」 柄から先が無い刀の、刃を精神力で埋めた馨は前へと走っていく。彼女は彼女の仲間を守りに行ったのだ。 「……お任せ下さい。ご期待に応えて見せましょう」 「三秒待て、悠月」 「問題無いですよ、杏樹さん」 だが、その前に杏樹が動き出した。魔銃バーニーを片目で照準を定め、撃ちだす弾丸の音は何重にも部屋に響いていく。 「あ、やっ!?」 血の刃を弾き、弾いていき、破裂すれば元の血に戻る刃。部屋中が血臭い。 「他愛も無いな」 杏樹がそうする事によって、佐久弥を護る壁が一切無くなったのだ。 その時発動した、悠月の翼の様な氷柱たちが一斉に賊軍へと降り注ぐ。土隠は凍り、その檻から出る事は不可能に。佐久弥こそ降り注ぐそれに頭を押さえて雨が止むのを待つしかなかった。 「凍り付いた奴から始末しろ」 馨の言葉に従う剣林のフィクサードが土隠を肉塊へと変えていく、そして馨も土隠の一人を目の前に剣を振り上げた。 「馨ちん、いつもみたいにキャキャキャって笑ってよ! 僕あの笑顔好きだよ。それともそんな余裕なんかない?」 こんな時だからこそ、笑顔だと夏栖斗が笑って彼女に魅せるのだが。 「死ね」 ぶぉん、と振られた刃が土隠を斬ったのだが、一緒に夏栖斗も斬ろうと『伸びて来た』のであった。背を反らして避けたが、前髪が数本床に散らばっていく。 「うお、あぶな!! 其の剣、変幻自在? 面白いね」 「あげないわよ」 「いらないよ? 僕、覇界闘士だからね」 轟、と燃えたトンファーで土隠から放たれた糸を振り払った夏栖斗。 火が移った糸が、糸を辿って放った本人を燃やさんとしていく。糸を斬り離した土隠へ夏栖斗は駆け寄り、逃がさないと言う。 「竜ちゃん、そっちに飛ばすから注意ね!」 「へ?」 夏栖斗は跳躍した其の身で、横回転した。土隠一体の身体を蹴り飛ばし、竜一の方へ其の身体が剛速球で飛んでいく。 「ばっちこい」 其の身体を竜一は横斬りで真っ二つに解体した。切り離された上半身と下半身は血と内臓を散らしながら、壁にぶつかって落ちた。 「遊ぶな、二人とも」 ユーヌの言葉が竜一と夏栖斗を貫いた。 ● 状況はアークの介入により、非常にリベリスタ側が有利であった。 剣林の事もそうだが、リベリスタ達の連携は完璧だ。其れを察して来たのであろう、 「畜生、てめぇら全員……こ」 「小生ら全員殺す?」 「るせえ!」 ハヤテはいりすの足止めに苦戦していたか。魅了の恐ろしさはそうなのだが、上手く噛みつけないからか、血の刃の生成が追いつかないのだ。 「前の話の続きだが。君を殺して、余さずその血肉を喰えば、それは小生のモノになると思わないかね?」 「なンねーよ!」 奈落剣を寸前で避けた、いりす。もう、彼の速さは見飽きてしまったか。必死さを魅せて来た彼の顔は、いりすにとって面白いものであっただろうか。 だが彼は其れだけで留まらなかった。暗黒を放ち、夏栖斗、竜一やミリィ、貫けるだけ貫いていったのだ。 しかし即座、悠月がその傷を完璧とは言わないが埋めたのだ。 「現状を説明するなら、賊軍。貴方達の詰みですよ。でも、逃がせないので……」 ミリィは片腕を上げた瞬間、能力値を底上げするドクトリンを剣林を含めて繋げたのであった。此の状況で、更なる強化は賊軍にとって最悪の事態であっただろう。 「今日は相棒も入るのです。――ならば、寂しくはないでしょう?」 何か仕掛けて来るのでは無いかと悠月はずっと佐久弥を目線で追い続け、何時でも攻撃が放てるようにしてある。 夏栖斗が殴り飛ばした土隠――其れを竜一が前から刺し、拓真が横から身体を二等分にすればそれで最後の一体の土隠が断末魔を上げる前で消えてなくなった。 ハヤテの――相棒、佐久弥は武器を落とした。 ガシャン、と轟音が響き、初めて佐久弥は身体が震えたのだ。だが、きっと。 「ハヤテ、た、助けて……」 「無理なお願いは頼まない方がいいな」 ごり、と。佐久弥の後頭部に押し付けたのは魔銃バーニー。 「や、やめてぇ……」 賊軍は叩き潰すと決めた杏樹だ。此処でおいそれと其れを破る事は絶対に無い。 ハヤテの頬から汗が流れた。殺される寸前の女や男が助けを乞うて来たのは何十と見て来た。其れを全て殺してきたハヤテだからこそ、佐久弥を救うから命乞いをするなんて出来なかった。 だからこそハヤテは選んでしまった。 「弱い奴は死ぬしか、無いんだよなぁ」 「はやて……そんなぁ……これからだったじゃん」 「長い付き合いでしたが……」 ミリィが、そう言い目を閉じた。 ガァン! 響いた銃声に、部屋中が震える。 顔面が表情確認できなくなる程にぐじゃぐじゃに破裂した佐久弥の頭。だが目もくれずにハヤテは動き出す。 「最期まで、根っこから裏野部なんだよ!! 全員、一二三様の餌に成って死ね!!」 振り回した刃は最早、正確さを失った。避けられないはずが無い――いりすは少し後退して、刃を避け。ハヤテの後ろから拓真が彼に剣を突き刺した。 「イギッギギギ!!」 「裏野部は、全部止める……俺等、アークが」 拓真は突き刺した剣を奥へ、奥へと刺していく。傷が広がっていく胸の激痛は、拷問にも近かったであろう。 「食事の時間であるな」 「チキショウ、ちきしょう!! 地獄で待っててやる!!」 「その方が嬉しいな」 いりすのリッパーズエッジがハヤテの首を胴体から切り離した。 一気に降り注いだ、赤い雨が全てを真っ赤に染めていく。 だが、それだけでは終らない。 「箱舟の!! キャキャキャキャ、戦おう? 共通の敵はいなくなった、今からお前等が私達の敵だ!!」 「無駄な戦いをするつもりですか!?」 助けられた、なんて思わない。リベリスタとフィクサードは相容れない敵だ。 何より、剣林である彼女達は彼等と戦える事に喜びを覚えるのだから。だが、この戦いを避けられないかとミリィは即座に思考を巡らせたのであった。 拓真を狙った馨の刃が振り落され――その目の前に夏栖斗が身体をはって前に出た。 「今日の相手は賊軍で、助けたいから助けた。だから今日はもう、お終いにしない?」 「う、く……できない」 「そっか……」 ● 精神を喰われる刀から手を離した馨は崩れた。 見事にもアークは此の場から去ってしまった。してやられたと変な笑いが出る。 ふと、取り出したのは携帯電話。 「九朗、心配していないだろうが……こっちに来てもらっては困るからな」 だが、携帯は戦闘の衝撃か砕かれ壊れていた。 「せめて無事だと伝えたかったんだが」 ふらついた仲間と共に四国を出ようとする馨の背後―――事を起こした、黄泉ヶ辻のフィクサード、十・九(もがれ・いちぢく)と上下・両輪(かみした・りょうりん)の大きな影が嗤っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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