● フォーチュナ控え室。 いつまでも放置は出来ない資料を携え、フォーチュナは動き出す。 「この案件、どっしよっか……」 四門は、闇璃に話しかけた。 知らず、涙ぐんでしまう四門から闇璃は視線をそらす。 「どうもこうも。説明する以外にどうするっていうんだ。それが僕らの仕事だろう……内容が何であれ」 「そうだけども……」 二人して、同じ案件を担当することになったのだ。 運命を感知する力に指向性があるとすれば、この二人は同じベクトル上にいるのだ。 言葉にならない。 「なんでこんなんばっかり……」 四門の嘆きに、闇璃はため息を吐いた。 「僕だって訊きたい」 二人の間に、嘆き色のシンパシー。 「俺、俺がいなければ、みんながこんなのに関わる確率減るんじゃないかって時々思う」 こんなことが世の中で起きていることを知らしめねばならない。 それに積極的に関われと、誰かの背を押さねばならない。 「別にお前がいなくても他の誰かが告げるだけだ。……さ、行くぞ」 「闇璃ん、強いんだねぇ……」 無表情でズカズカ行ってしまう闇璃の背を見て、また四門の目から涙が噴き出す。 「……諦めてるだけだ」 闇璃はボソッと呟いた。 ● ブリーフィングルームで、二人のフォーチュナは一方的にリベリスタらへとしゃべりだす。 「生贄を求める土着アザーバイドが発見されました」 「数十年に一度目覚め、数日でまた休眠する」 「起きてる間の慰めに、村の少年を館に来させるように言い置いてるんだよ」 「村も、アザーバイドに助けてもらった経緯があるらしいので、逆らえないらしい」 「少年達は無事に帰ってくるけど、みんな異様に無口になったり、感情を表さなくなったり、人が変わったようになったんだって」 「で、アザーバイドを倒すためにも、若い男が何人も行ってんだけど、ことごとく失敗」 「不思議なことに女が行っても、森をさまようだけで化け物どころか館にも辿りつけないらしい」 「実害と倒すために払われる犠牲を天秤にかけると明らかに分が悪い」 「それで、今まで放置されてたみたいだね」 「でも、アークが来てくれるならって」 「少年たちは、館で何があったのか絶対に口を開かないんだ。話そうとすると、錯乱しちゃって……相当な精神的ダメージを受けてんだよね」 「そして、今年も白羽の矢が立った」 「という訳で、勇気ある男子諸君。少年の代わりに行ってきて、アザーバイド倒してきてくれる?」 「男の後を追えば、女も館に辿り着ける可能性はあるしな」 とまぁ、口を挟む余地もなく、交互にしゃべりまくった。 いわゆる、ローテーショントーク! というやつである。 説明しよう、ローテーショントークとは二人で交替に喋ることを言う。 なお、わからなければ、続いてミュージカルトーク、民謡トーク、ウェストサイドストーリー風トーク、カルメントーク、狂言トーク、カーリングトーク(未完成)と続くのがお約束だが、一応リベリスタはわかったようなので、ローテーショントーク終了。 四門が集めた面々に背を向け、残ったリベリスタへ闇璃が話し出す。 「お前たちの任務は、四門が集めた班を尾行し、アザーバイドを倒すことだ。不自然な霧が立ち込める森だと言う話だから、慎重にな」 化物が出るのは、ミルクを溶かしたような不明瞭な霧の森だそうだ。 ターゲットを見失うことに注意すべきだが、注意が尾行に偏って『他の危険』への警戒を怠ると、瞬時にして窮地に立たされるだろう。 おそらく、四門班とて追ってきてもらっていることは知っているので、手がかりを残してはくれるだろうが。 「すでに森はあちらのテリトリーだと言うことを忘れるな。敵の親玉は一体だろうが……配下がいないとも限らない。敵の数についての情報はないからな」 奇襲、撹乱、手がかりの隠蔽……とにかくあらゆる手を使って、招かれざる客を排除してこようとするのは間違いなかろう。 おそらく霧も敵の術かなにかに違いないのだから。 「すみやかに四門班に追いつかなければ、彼らが被害者になる可能性もある。いかに尾行を成功させるかが作戦の成否を握るだろうな。そもそも女がどうしてもアザーバイドに辿り着けないと言うのも、僕は気になる。性差で任務の難易度が変わる可能性があるからだ」 なお、敵についての情報は、たった一つらしい。 「被害者は一様に、こう呟くそうだ。『ルー・ガルー』……と」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月20日(木)22:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●あべこべアリス 真っ白な空気にぼんやりと立ち並ぶ針葉樹の影、影、影。 まるで影絵の絵本の世界に迷い込んだよう。 少年たちを追う女性達を追い、少年を襲うルー・ガルーを倒す使命を帯びたリベリスタは、必死に人影を追っていた。 「ルー・ガルーって言えば、人間に化ける狼ッスよね。男はみんな狼なのよ……?」 少年とは思えぬ鈴の音のような声で、『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は、呟きつつ小首を傾げる。 最前列を行く彼の隣に、『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)、そして奇しくも目標と同じ名前を持つ娘『』ルー・ガルー(BNE003931)が並ぶ。 野生児のルーは時折、地面に鼻をつけてクンと嗅ぐ。 「ニオイ、スル」 確信を得たと頷く彼女に、ロアンは少しホッとしたように頬を緩ませた。 「よかった、匂いはするんだね。どうも、普通じゃない霧みたいだ……熱感応式暗視装置がまるで役に立たない」 苛立たしげに重量感のする暗視装置を額へ跳ね上げ、ロアンは目を凝らす。モノクル越しに、確かに娘らの影は見えるのに、まったく熱を感知しない現象――霧は、自然現象では、ない。 「ツイセキ、エモノ、サガス。ナカマ、アト、オイカケル、オナジ」 任せておけ、とルーは胸を張る。 「霧が邪魔するなら、霧が下りていない地面は問題ないということか」 こちらも暗視ゴーグルが役に立たない『Delta2』アリーセ・フェルディナント(BNE004862)は、得心したとばかりに頷く。 (はじめから、ゴーグルはあまり信用していなかったが……ある意味予想通りということか。ならば、すでにここは戦場だな) 依頼中の彼女は、普段の少女らしい口調から、傭兵時代の口調に切り替えている。 周囲の音に注意をはらいつつ、ちょうど密集形態の真ん中に位置するアリーセは、仲間がはぐれぬように気を配る。 ロアンも同じことを考えていたらしく、特に『たどり着いたことがない』とされる女性の動向に気をつけているらしい。 周囲に気を配るのは、全員同じ。殿を守る『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は、不意に背中を取られぬように全身の感覚を研ぎ澄ませている。 「この霧はどこまで隠すのでしょうか」 ルーと同じように地面に着眼した『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)だが、彼に猟犬並みの嗅覚はない。彼が感知するのは音だ。不穏な足音が無いかと光介は耳をそばだてる。 キョロキョロと上や横へ注意を向けるのは、アリーセの横を進む『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)である。彼女は追跡ではなく、奇襲への警戒に重きを置いている。 (私の暗視も意味ない感じ……せいぜい動く影が無いか慎重に……) 双葉達がルー・ガルー討伐に失敗すると、四門組の少年の花が堕ちると聞いている。 (落花ってなんだろう……はっ!) 双葉はハタと思い当たって、顔を真っ赤にした。 「もしかして、おねえちゃ……」 「? どうした」 アリーセの問いかけに、慌てて自分の口を手で押さえた双葉は、引きつった笑顔でブルブル首を横に振り回してごまかす。 (え、ええええっちなのはいけないと思うんだ! 止めるよ! 絶対!) 真っ赤になった顔をキリと引き締め、双葉は再度任務へのモチベーションを上げる。 「失敗したなァ、コソコソすんのは嫌ェなんだよ」 双葉の横で、『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)は頭を掻く。 任侠の世界、しかもトップの銀次にとって尾行というチマチマした行動はあまり得意ではなかったようだ。 しかし、彼はマスターファイヴの持ち主。聴覚も嗅覚も視覚も超人的である。 「他の奴よりゃ、よく見えるぜ」 「嫌な予感がするッス」 前でリルが苦く発した言葉を、銀次が拾う。 「お、リル、てめえもか。俺もどうにも嫌ァな予感がしやがるぜ。気のせいだといいんだがなァ?」 「……いや、四門組はちゃんと目印残してくれてるんスよね……?」 リルの疑問に、ロアンが頷く。 「たしか、地面の跡と小石だったか……」 「それが……何も、ない気が……」 明確なコレといったものが地面に見当たらない。 「あっ、枝! 枝が妙に短いところがあるよ」 藪から飛び出す者がいないか注意していた双葉が、立木の枝が不自然な長さなことに気づいた。 「ん……? 枝が中途半端な所で切れてるなァ? ……だが気取られないように付けた目印にしては、仕事が丁寧すぎるぜ……」 双葉より外側に居る銀次が、自慢の視力を活かして指摘箇所を確認し、眉根を寄せる。 「敵の隠蔽工作、と考えるのが妥当だろうな。だとすれば、敵はこの近くで、機をうかがっている……」 アリーセが自分の考えを述べた途端、仲間内に緊張が走る。彼らも、彼女の考えが杞憂とはどうしても思えない。 ミルクのような霧の中、一寸先すら見えづらい。 より一層の注意を払い、リベリスタは人影を追う……。 ●ざんねんヘンゼルとグレーテル 「……ねぇ、いるわ」 ティアリアが不意に小さくアクセスファンタズムに囁く。 彼女の直感が危険を感じとったのだ。 ティアリアの忠告に、身構えようとした瞬間。 「っ!」 真っ白の霧からいきなり何かが飛び出してきた。 「あっぶねッス!」 不意打ちに対抗できたリルを目掛けた攻撃だったことが幸いした。 初撃を辛うじて避けたリルは、何かめがけて凍る拳を突き出す。 「う~っ!!」 突き出されたのは棒、いや何かの柄だった。棒を通じて、リルの拳の衝撃が伝わったか、奇襲者が呻いた。 「まだいるっ! そこっ」 上に注意していたのは、双葉だけだ。だが彼女の注意が空中からの強襲から仲間を救う。 「ギャンッ」 双葉が鋭く放った魔法の矢が、樹上の輩を撃ち落とす。 「ガゥ! オマエラ、ジャマ!!」 ルーは鉤爪状に折り曲げた指で、眼前の獣臭い何かを引っ掻いた。パリパリと凍る敵が、冷たさに悲鳴を上げる。 「もう、こんなところで、野暮ったいですわね。屋敷で皆と一緒に楽しみましょうよ♪」 ティアリアは指差した対象から力を吸い取ろうとするも……。 「あら、どこかしら……アッ!」 「うしろですぅ!」 対象を見失った一瞬のうちに背中に回りこまれ、したたかに打たれた。 「ここは僕に任せてもらおうか。カフェの資金の為にひと仕事っと……」 ロアンが不敵に笑って、目にも留まらぬ速度で複数を切り裂く。 土の上に赤が散る。 取り囲むように陣取った刺客らが、たじろぐ。 しかし、鞭のように鋭く声が響いた。 「それしきでたじろいで何がメイドでございますか!!」 霧の中、ぬうっと現れたのは、モップを手にしたメイドが五人と……、青狼の耳を生やしたメイド長らしき鋭い爪を持つ女性であった。彼女はにこやかに笑っていた。 狼女は笑顔のまま、しずしずと進み出て、ひらりと重そうなスカートの裾を摘んで、片足を後ろに下げ、身をかがめる。 「ご機嫌麗しゅう、お館様の慰みを邪魔する無粋な方々」 狼女の礼と同時にモップメイドもペコリとお辞儀をする。 「私はソフィ。お屋敷のメイド長でございます。これらなるは、屋敷のメイド一同、アマンド、フェリシテ、エムリーヌ、セシール、セリアにございます」 「男の子を好き勝手弄ぶ主人の犬、ってことかしらね?」 ティアリアの言葉に、彼女の後ろをとっているメイド、セリアが吠える。 「言葉を慎みなさい!」 「私共は狼……群れの長に忠実なるが誇りなれば、死んで頂きましょう。逃げ帰り、二度と来ないと誓うならば生命くらいは……」 「ごめんだね!」 ロアンの鋼糸が煌めく。ピシッとソフィの頬に赤が一線……。 ソフィは笑顔を崩さず、告げる。 「……招かれざるお客様のご意思、よぉく分かりました。なれば私共も引けぬ身、容赦はすまい。この地の養分となり果てていただきましょう」 乱戦が始まる。 「陣形を崩すな! 向こうの思う壺だ!」 フェリシテを狙撃しながら、アリーセが叫ぶ。 「分かってらァ!」 セシールを殴り飛ばし、銀次が叫び返す。 「ま、荒事なら本業に任せとけってなァ!」 と拳を振るいながらも、銀次は冷静にホーリーメイガスの保護や、己の精神力を使い果たさぬように気を配りながら戦う。それも含め、荒事のプロ、ということなのだろう。 双葉は新手が来ないか警戒しつつ、次々に詠唱、眼前に展開した魔法陣から生まれ出る魔力の結晶を射出する。 メイド達も見事なモップさばきでリベリスタを打ち据えるが、光介の天使の息が次々と癒して回る。 「っし! 凍ったッス!」 リルが歓声を上げた。 アマンドは凍らされ、自由を奪われてしまった。 「ルー、ツメ、ヒエヒエカチコチ」 ルーのアイスネイルもリルの拳と効果は同じ。エムリーヌが動けなくなる。 ティアリアに生命を吸い取られ切ったセリアが倒れる。 「凍ったくらいで私共を止められるとお思いですか」 ソフィがロアンを引き裂く。 「止められないなら、止めるまで、だね」 血を溢れさせながらも、ロアンの表情は余裕だ。なぜなら、すぐに光介が癒しを送るからである。 癒えていく傷に、眉をひそめるソフィに、ロアンが一瞬で近づいた。 「君の生命を奪えば、流石に止まるだろう?」 にこりと笑って、メイド長に蕩けるようなキスと称される刻印を贈る。 「ぐ、がっ」 猛毒に血反吐を吐き、狼女のソフィは地面にどうっと倒れた。 彼女が倒れるなり、メイド達は意識を失うかのように、もしくは糸の切れた操り人形のように、崩れ落ちた。 アザーバイドの能力か、はたまたアーティファクトの力なのか……ともかくメイドはソフィの人形だったらしい。 仲間が残していた地面への痕跡は、メイドのモップによって掃き清められたのだろう。しかし、掃きが甘かったのか、匂いだけはわずかに残っていたらしい。 リベリスタは、哀れな人形達を後ろに、足を早めようとし……。 「ちょっと待って!」 双葉の声に足を止めた。 「ハヤク、イク。トマル、ヨクナイ」 ルーが苛立たしげに言うも、双葉が何やらソフィの傍らから、少し血液で汚れてしまった紙片を拾い上げるのを見て、黙る。 「メモ? ……あっ、日本語だよ!」 ここはフランスだ。ならば、日本語のメモは日本から来た仲間、四門組からの連絡と考えてよいだろう。 全員が双葉を囲むようにメモを覗きこむ。 もちろん、全員周囲への警戒は続けている。急にメイドが起き上がらないとも限らない。 メモには、館の造りの説明や侵入経路について記されていた。 「どうやら、皆、潜入には成功したみたいだね」 ロアンが腕を組み、己の顎を撫でる。 そうと分かれば、こちらも急がねば、少年たちの貞操が危ない。 道はルーの鼻が教えてくれる。 一同は、先ほど以上の速度で屋敷へ迫る。 ●美少年と野獣の悲哀 メモに書かれていた通りのルートで、屋敷に侵入を果たしたリベリスタは、豪奢なのにどこか冷たい不気味な雰囲気の屋敷を眺め回した。 周辺に漂う魔力を吸い上げ、ティアリアはため息を吐く。 「こんな周到に事立てて、さぞご満悦でしょうねぇ」 千里眼で周囲を見回し、光介は言う。 「近づいてきてる。紳士みたいな男の人が一人」 「何もしなくても接敵するんだよね、じゃあ、戦い易いところに移動しようか」 双葉の提案に、一同は玄関ホールから大広間へと進んだ。 「家捜ししなくていいのは楽でいいなァ。ま、伝説みてぇに噛まれたら自分も狼に……っつーのは御免蒙りてぇとこだがなァ」 銀次が肩をすくめる。くるりと回してグッと握り直すのは、無銘の刀。鞘は殴打に酷使されて傷だらけだ。 「相手が主人ならもう省エネはやめるッスよ! 全力で行くッス!」 とリルが気合を入れた瞬間、大広間のわざと開けておいたドアから、ぬるりとルー・ガルーが現れた。 「……ああ、こんなところに鼠が」 「え!」 一瞬、リルは自分のことをピンポイントで言われたのかと肩をびくつかせたが、いわゆる闖入者だとすぐに分かって、落ち着きを取り戻した。 「どうしてこう、邪魔が入るか……」 憂いのこもった陰気な声と同時に、びきびき、と皮膚が軋む音。 息を呑むリベリスタだが、ルーだけは至極当然という表情だった。 めりめりと紳士の仕立ての良い服が破け、中から艶やかな獣の毛が現れる。 逆三角形の体、顔はすでに狼。四肢も獣の太いそれ。銀狼、と呼ぶにふさわしい……。 「……来るか」 アリーセは銃器を構えた。 「所詮ボクらは羊と狼。相容れぬ運命なのです」 光介は、いつでもどんな致命傷でも救えるように構える。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 くるりと回って、双葉は黒い魔法のために詠唱を始めた。 「紅き血の織り成す黒鎖の響き、其が奏でし葬送曲、我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 迸る黒鎖がルー・ガルーに巻き付く。 「かかった!」 だが、いとも簡単に鎖を引きちぎられ、双葉の顔は曇る。 「……そう簡単にとらせてくれないよね」 ガウッ! 咆哮と共に、人狼に噛み付くルー。バチバチと己のオーラを紫電として、人狼を苛む。 ルーを振り払い、ルー・ガルーは、目にも留まらぬ動きを見せる。武器は己の牙と爪。 その動き、ロアンは見切り、思わず声を上げる。 「ソードミラージュ!」 ならば、魅了の技も使ってくるはずだ。 「くっ! 男、しかも人外に魅了されるなんて御免蒙るよ」 死の刻印を与えようと糸を伸ばすも、神速で動き出した彼には届かない。 「援護する!!」 アリーセが正確無比なる射撃で狼を追い詰める。 着弾点から意図を悟ったルー・ガルーは、怒りに唸って、アリーセへ飛び込んだ。 「くっ」 重傷を覚悟して身構えるが、アリーセの前にティアリアが飛び出し、牙を肩代わりする。 「……ティアリア……さん」 「ふふ……この子に手出しはさせないわ。そもそも男の子は宝物なのよ? それを好き勝手弄んで、笑顔を消してしまうなんて。万死に値するわ」 己を癒やしながら、ティアリアは不敵に笑って、ルー・ガルーを蹴り飛ばした。 一瞬止まった人狼に、集中を重ねたリルが襲いかかる。質量のあるもう一人のリルと共に、拳を振り上げ、 「食らうッス! 必殺革命――Hai Bà Trưng!!」 クリーンヒット。 悲痛な悲鳴をあげ、しかしまだ人狼は動けた。再びソードミラージュの、誰にも捕らえられぬ速さでリベリスタを次々と引き裂いていく。 すぐに光介が奇跡を呼び起こし、リベリスタを癒やさなければ、すぐに床に伏せたまま動けなくなっただろう。 「魔を以って法と成し、法を以って陣と成す。描く陣にて敵を打ち倒さん」 双葉が複数の魔法陣を周囲に展開。あふれだすは黒い禍。 「当ッたれー!」 怒涛のような黒は、面で人狼に迫り、とうとう縛り上げることに成功する。 ギチギチと毛皮に食い込む鎖に身を捩り、吠え猛る人狼へ、悠々と任侠男が進み出た。 「銀もトリカブトもねェが、鋼で頸刎ねられりゃ死ぬだろ?」 ずらりと引き抜く無銘の刃。 シャンデリアに映えて、ギラギラと血を求めて光る。 一瞬で銀次は、人狼の背後へと回り込んだ。 「さァ派手に散れ。でないと面白くねェ」 まるでそれは、切腹の介錯人のように。 ズバァッ。 小気味良いくらいの音と共に、刃はルー・ガルーの脊髄ごと頸動脈を断ち切った。 尖すぎる太刀筋は、人狼の生命だけを奪って、肉を元通りに付けてしまう。 故に首は、海石榴のようには、落ちず――。 ●さよなら眠れる森の狼 ゆらり、ゆらり、と近寄る人狼を、光介の千里眼が捉えた。 「また、来ます」 ティアリアと共に仲間の傷を癒やし終え、光介が警告を発する。 「おいおい、またか」 何度でも来い、と銀次が拳を固めるが。 のろのろ現れた執事めいた黒い人狼は、血を流しながら広間に現れたが、リベリスタには目もくれず、倒れた主人であろうルー・ガルーに近寄る。 「ああ、御館様……フェリクス様……」 悲痛に呼び、執事は主人に取りすがった。 「……かかってこない、かな」 ロアンはクレッセントを引き伸ばしながらも、少し警戒を緩める。 「ああ、ああ……御館様のいらっしゃらない世界など……何の意味が、私に指示をくださいませ、私は貴方が、貴方が命じてくださらねば何も、いえ貴方が生きていない世界で何をしようと……」 悲嘆に暮れ、ブツブツと何やら訴え続けながら執事は主人を抱き上げ、ゆらり、ゆらり、とまた屋敷の奥へと消えていった。 「……主人を倒すのが依頼だったわね。なら、任務は完了だわ。引き上げましょう」 アリーセが一同に撤収を呼びかける。 「そうだね。せっかくのフランスだ。美味しいものでも食べて帰ろうか」 ロアンが笑顔で頷いた。 「皆大丈夫だったのかなぁ。笑顔失われたりしてないよね?」 屋敷から離れつつも、双葉が気をもむ。 そして、しばらく歩いただろうか。 急に爆発音のような音が森に響き、白い霧が晴れた。 ギャアギャアと大騒ぎで空を舞う鴉の大群。 その下で、ゴウゴウと燃え落ちていく人狼の屋敷を見て、一同は悟る。 依頼の成功と――もうこの世に、ルー・ガルーは居ないこと、を。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|