●町外れの洋館 三高平市から少し離れた町外れに古い屋敷がある。 立派な洋館で持ち主は分からないが、長い間放置されており、年季の入った状態になっていた。 ドアも壊れて久しい。 昔から、肝試しと称して子供やカップルが出入りしていたようだが、ここ最近それ以外の見物客も結構見かけるようになった。いわゆる廃墟を見たいという人たちの間で噂になっているらしい。 人が多くなると起こる問題が、ゴミだ。 元々がれきなどが散乱していて汚いのだが、コンビニの弁当箱や紙パックなどを捨てていく人がここ最近増えている。 「お屋敷を汚すものは誰であろうと容赦しませんわ……」 「そうだ、次はないと思え……」 空き缶の転がった先の暗闇から、そんな声が聞こえたような気がする。 誰もいないはずの屋敷に人の気配がする。それも複数。 そしてまた夏がやってきた。 肝試しのシーズンが近づき、さらに屋敷に足を運ぶ人が増えるだろう。 そうなると、ゴミが再び増えることはもはや時間の問題だった。 あの声の主たちはどうするつもりだろうか……。 ●アーク本部 「廃墟の風情はよいものだが、残念なことに人が増えるとマナーのなってない人も増えるものだな。人である故の傲慢さということなのか」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がリベリスタたちに語りかける。 「屋敷に潜むのはフェーズ2のE・フォース達だ。かつて屋敷に人が住んでいた頃の、使用人たちのような姿をしている。家に残された思念が怨念と化した……という所だろうな」 立派な洋館で働く者たちの記憶だけあって、フォースは屋敷が汚されるのが我慢出来ないらしい。 「もうとっくに主人も住人もいないというのに、立派なものだ。だが、エリューションである以上は、排除しなければならない。それに、今行われている『三高平防疫強化施策』の目的にもかなっているからな」 「三高平防疫強化施策(略称・三防強)」とは…… 夏の到来に伴う衛生状態の悪化、それに伴うエリューションやアザーバイド事件の増加を危惧した三高平市が、独自に展開している衛生強化施策のことだ。 要するに衛生的に問題のある敵の排除や事件の解決に力を入れていこうという事。 「今回の敵に衛生的な問題があるのですか?」 リベリスタの一人が質問した。 「いや、フォース自体はそうでもない。しかし彼らの怒りの原因はまさしく衛生に関係したことだ。屋敷が汚れるのが許せないのだからな」 だから屋敷のゴミを片付ければ、フォースをある程度弱体化させることができるのだという。 「要するに、今回君たちにお願いするのは屋敷の掃除とフォースの排除。この二つということになる」 掃除をきちんとこなすことが出来れば、フォースの排除は幾分か楽になるだろう。しかし、適当に掃除したり、かえって汚してしまったら、敵はますます怒るに違いない。 「そうならないようにしっかり掃除、たのむぜ?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青猫格子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月05日(金)22:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●小高い丘の上の屋敷 閑散とした郊外の住宅街。天気が良ければ見晴らしがいい場所だが、あいにく今日は曇りだった。 「あそこだな」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が道の先、小高い丘の上に建つ洋館を確認してつぶやいた。掃除用の荷物を手押し車に乗せて押している。 「立派な屋敷だな、半日で掃除なんて終わるのかよ。まあ、やるしかないか」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が言うが、その口調はあまり悲観していない。むしろ今すぐにでも体を動かしたいという様子だ。 「そうだぜ、頑張ろう、虎。どっちがより完璧に綺麗にするか勝負だ!!」 『雪花の守護剣』ジース・ホワイト(BNE002417)が相棒の牙緑に向かって言う。 「掃除もだし、戦闘もがんばらないとね!」 というのは、『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)。 「これだけの広さだとゴミを運び出すだけでも一苦労ですね。アークにゴミ収集車と軽トラックを依頼しておいてよかったです」 『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)が言う。彼女もメイド服を着ているが勿論本当のメイドではない。 丘を歩いて、裏口につくと、鍵の壊れた門扉が風に吹かれて揺れていた。 「いよいよだな……」 『闇狩人』四門 零二(BNE001044)がつぶやき、屋敷を見上げる。遠くから見るとただの洋館だったが、間近で見ると、建物全体が古く、所々窓が割れ、いかにもお化け屋敷と言った風情にあふれている。 『緋猿』葉沼 雪継(BNE001744)が慎重に門扉を開ける。といっても今のところ、エリューションらしき気配はない。 リベリスタたちは静かに邸内に入り、すぐ近くに建物の入り口を見つけたのでそこから館の中へいよいよ足を踏み入れた。 ●屋敷の掃除 洋館の中は確かに長い間人が住んでいない、というのがわかる状態だった。 家具は埃に覆われていたり、割れた窓ガラスの破片が床に落ちていたりする。 ただ、廊下は確かに老朽化して、掃除もされてないのがわかるが、人の通りやすい中央にはそれほど埃がない。 「つい最近も、ここに出入りした人がいるのでしょうね」 『永御前』一条・永(BNE000821)がその様子を見て言う。今は彼女が結界を張っているので、侵入者の心配をする必要はないだろう。 「ねえ、みんな来て!」 アリステアの声がしたので永たちが向かうと、屋敷の中の広い空間に出た。 大きな扉と階段のあるエントランスホールだ。 アリステアはというと、天井部分のシャンデリアの近くにふわふわと浮いていた。 「ほら、すごいシャンデリアよ! まずここから掃除しよう~」 彼女ははしゃいでいるが、男性陣はざわめいている。 「わ、わかった、アリス、シャンデリアの掃除は頼むぜ……だが……」 ジースはそこまで言って顔を赤くすると、うつむいてしまった。 「あっ、ごめんなさい。その、つい、はしゃいじゃって……」 彼女もようやくスカートの中が丸見えだったことに気づいてしまったようだ。あわてて下から見えないように、シャンデリアに腰掛ける。シャンデリアに体重をかけて壊さないように、飛行は続けているが。 とにかく、まず一番広いエントランスを掃除することになった。 アリステアがシャンデリアや天井の埃をはらい、牙緑、ジースたちが落ちた埃を箒でまとめていく。 上をあまり見ないようにしているせいか、二人とも黙々と床掃きを続けている。とくにジースは、牙緑に負けるまいと頑張っていた。 「じゃあこっちはゴミを集めるか……」 雪継が床に落ちているゴミをまとめてゴミ袋へと集める。エントランスは目立つからかそれほどゴミはないが、コンビニのポリ袋や空き缶などがわずかにあった。また先ほど通りかかった部屋にも弁当の容器などが落ちていたので、屋敷全体には結構なゴミがあると思われる。 「やはりゴミは持ち帰るべきだな。せっかくの屋敷がこれではかわいそうだ」 雪継はエントランスのゴミを集めて、他の部屋のゴミも探すことにした。 埃を掃き終わったあとは、ベルベットや牙緑たちがエントランスにモップや雑巾で水拭きをした。 「今こそメイドの実力を見せるときです」 ベルベットは慣れない様子だが、真剣にモップをかけているのがわかる。 「おう、頑張ってるな。俺も頑張らなきゃな」 牙緑もそれを見て雑巾掛けをはりきっていた。 数時間ほどで、エントランスはだいぶ綺麗になった。 「よし、ここはこれくらいでいいか」 ジースがエントランスを見渡す。古い屋敷であることには代わりがないが、掃除されているのとそうでないとでは、やはり違う。 「あとは、他の部屋をそれぞれ掃除だな。俺はゴミを出しにいくよ」 牙緑が言った。そろそろアークから依頼を受けたゴミ回収車がくる時間だった。 エントランスが終わり、皆は廊下の掃除、部屋の掃除、ゴミ出しなどをそれぞれ行うことにする。 零二は雪継と一緒に集めたゴミをまとめ、裏口へと運んでいく。 「フ……」 普段はなかなかしない仕事だが、体を動かすのは悪くない。と零二は笑う。 義弘もがれきやガラスなどを集めて、手押し車で外へと運び出していた。 時間通り、ゴミ回収車がやってきたので、集まったゴミを車へ運ぶ。 そのころ、アリステアは廊下にたまった埃を箒で掃いていた。 「掃除機が使えればよかったんだけどね」 あいにく電気が使えなかったので、箒で掃いているが、廊下は結構広い。永やベルベットたちと分担して、とにかく掃くしかなかった。 牙緑はトイレなどの掃除をしていた。終わったあとは、義弘たちと協力して、がれきなどを外へと運んだ。 ●ちょっとした休憩 「はあー……ちょっと休むか」 義弘がエントランスの階段に座った。特に彼は力仕事が多かったので無理もない。すでに掃除を開始してから結構な時間が過ぎていた。 「ほら」 零二がペットボトルの飲料を差し出す。 「おお、ありがとうな」 「休憩もなしでは、作業効率も芳しくあるまい」 零二の持っている袋には、人数分のペットボトルが入っていた。それを見て、アリステアや牙緑たちも飲料をもらいにくる。 いつの間にか、エントランスに皆が集まってちょっとした休憩タイムとなった。 「自分ちでもこんなに掃除したことないのにな……」 牙緑がだいぶ綺麗になった屋敷を見渡して、しみじみ言う。 「俺も頑張ったんだからな!」 と、ジースはここでも主張を忘れない。 「まあまあ、牙緑はトイレ掃除とか頑張ったし、ジースは廊下を全部磨く勢いだった。みんな頑張ったでいいじゃないか」 義弘がそう言って、ペットボトルを空にした。 「ゴミはここへ」 零二がゴミ袋を差し出す。 「自分たちで散らかしたら意味がないですからね」 ベルベットもそう言ってペットボトルを集めるのを手伝った。 ●日没 気がつくと、窓の外は夕日が射していた。 「うん……もうこんな時間か」 義弘が窓の外を見る。するとそのとき、背後の空気が変わったような気がした。 「何かの気配か」 零二も異変に気がつく。アクセス・ファンタズムで掃除に戻っていた仲間に連絡を入れる。 「とうとう現れたか……では、こっちの掃除も頑張らないとな」 庭に出ていた雪継や、ベルベットたちがすぐにエントランスへとやってきた。 「折角掃除された屋敷だ。戦闘により汚されるのは、俺にしても偲びない」 その間にも、エントランスの異変は続いており、まるで夏だというのに気温が下がったかのようだった。 階段や壁がきしむような音がして、ドアが風もないのに閉じたり開いたりする。 「な、なにかいるよ!」 アリステアが怖くなって、ジース、牙緑たちの影に隠れる。 「怖がっていたら、掃除なんてできないぜ、なあ?」 すでに武器を取りだし、戦闘態勢のジースが牙緑に呼びかける。 「ああ、そうだとも」 牙緑が答えるとほぼ当時に、日が完全に落ちて、辺りが一層暗くなった。 ゆら…… 暗闇の中に、青白い姿が浮かぶ。 「ゆるさない……お屋敷を汚すものは誰であろうと、ゆるさない……」 古めかしい使用人の姿をした影たちが、怒りの声を上げているのがわかる。 永が一歩前に進み出て、メイドたちに声をかける。 「お邪魔しております。私、一条永と申します。そしてこちらの方々は友人のリベリスタたちです」 「何の用だ……」 執事の一人が永に言う。 「みなさまと『話し合い』するためにです」 影たちの中から笑い声があがる。 「ここは私たちの主の家だ。出ていくわけにはいかない」 ベルベットがため息をついた。どうやら彼らは、ここが廃墟で、主人もすでにいないことがわからないらしい。 「……そもそも、このメイド達は何か勘違いしていますね。メイドは部屋が散らかるのを防ぐのが仕事ではありません。散らかった状態を元に戻すのが仕事です」 この使用人たちはメイドの本質を理解していない、というのがベルベットの主張だった。ゆえに、力の差は歴然であると。 「ここは私がメイドの真骨頂をお見せしますよ」 メイドたちは困惑したが、すぐにモップを構えて飛びかかってきた。 「怖くなんかないんだから……ええいっ!」 アリステアがメイドたちに聖なる光を放つ。 「ぐああっ」 メイドたちは直撃を避けたが、眩しい光に苦しみの声を上げた。 「よし、行くぜ!」 「おう!」 ジースと牙緑が声をかけあって、メイド長に立ち向かう。 ●使用人との戦い ジースと牙緑、二人が同時に武器にエネルギーを込めて、メイド長に向かって突撃していく。 二人の武器の軌跡が重なり、メイド長を斬りつけた。 「うおお……!」 メイド長は衝撃により吹き飛ばされて、地面に倒れた。 それを見ていた執事たちが、義弘たちにむかって食器を飛ばしてくる。 「まったく、これでは向こうも散らかしているではないか」 雪継が食器を避けながら、印を結び、皆を守るために守護結界を展開する。 「まあ、とにかく倒すまでだ」 義弘はそう言うと、永を取り囲んでいた二人のメイドの片方に突進した。 メイスを振りかざし、力を込めてメイドに直撃させる。メイドは衝撃で地面に倒れた。 「ありがとうございます」 永が義弘に言う。そしてもう一人のメイドに向かって、薙刀を振りかざし、真空の刃で切り裂いた。 「ぐああっ……」 メイドは唸り声を上げて地面に倒れ、そのまま姿を消した。 「よし、まずは一人」 「ゆるない……ゆるさないぞ……!」 倒れたメイド長が起き上がり、大声で叫ぶと、エントランス内の空気が震える。 「ぐっ……」 零二たちは大声を必死でこらえた。 「醜い……お前たちは、この屋敷の使用人としての誇りすら失ってしまったのか?」 「わけの分からないことを言うな!」 執事が零二たちに向かってナイフで斬りつけてくるのを、零二は剣で受け流す。 「ふん……!」 零二は剣に力を込め、一閃。敵を剣で斬りつけた。 その頃には義弘たちがメイドを片付け、メイド長と対峙しているジースたちのもとに駆けつけた。 「大丈夫か?」 「ああ、心配するな!」 牙緑が威勢良く答える。しかし、先ほどの金切り声のショックで少し消耗しているようにも見えた。 「みんな、もう少し頑張って!」 アリステアがバイブルを掲げて詠唱し、聖なる微風を牙緑に送る。それを受けて、牙緑が少し元気を取り戻したのが分かる。 「よーし、あと少しだ。頑張るぞ!」 「ああ、火炎攻撃には気を付けろよ」 義弘がメイド長の峰を警戒しながら声をかけた。 「ふざけた奴らだ。このお屋敷を乱す者たちは全て消してやる」 メイド長が手をかざすと、何も無い空間に炎が現れ、義弘たちを焼き尽くさんと襲いかかった。 「おっと!」 警戒していた義弘たちは辛うじて炎の攻撃を避ける。 「火力ならこっちも負けません!」 ベルベットがアームキャノンをメイド長に向けて発射する。魔力を帯びた攻撃がメイド長の体を撃ちぬいた。 「一気に攻撃を畳み掛けましょう」 永が再び真空の刃を、今度はメイド長に向かって放つ。それに続いて義弘、ジース、牙緑たちも攻撃を仕掛ける。 「ゆるさない……ゆるさないぞ……」 メイド長の声は次第に遠くなり、そして薄かった姿が更に薄くなり、とうとう消滅したのだった。 「残りは執事たちだな」 牙緑が執事と戦っている雪継たちを見る。すでに一体は倒れ、最後の一人と対峙していた。 「ここまでだな」 とはいえ、フォースに諦めるという選択肢はないようだ。再び食器を飛ばして雪継たちを攻撃してくる。 なんとか攻撃をこらえ、雪継が式神の鴉を呼び出すと、執事に向かって放つ。 「なぜだ、なぜこんなことに……!!」 式神が執事に命中し、恨みの声を上げながら最後の執事は消滅していった。 ●廃墟からの帰還 そして戦いは終わり、エントランスに静けさが戻ってきた。 「虎、ありがとな。助かったぜ!相棒!」 「ああ、こっちこそ助かったよ」 ジースと牙緑が互いの拳を交わす。 「何故だ……か。貴様らが負けたのはその信念故だ。この屋敷を汚すことを許せないという、な」 零二が執事の消えた当たりに向かって一人で呟いた。 だが、そこにはすでに何もなく、ただ古くて綺麗に掃除された床が残るだけだった。 「少なくとも私の知っているメイドは仕事に忠実だというのに、ここのメイドたちは無能ですね」 ベルベットが言う。 「まあメイドじゃなくて、実際にはエリューションだからな」 牙緑が武器をしまいながら言った。 「そうだな。かつて住んでいた住人たちは今どこにいるのか……すでにもういないのか……」 雪継はそう言ってかつての個々の住人に思いを馳せているようだった。 「さて、戦いも終わったし、すっかり暗くなったし、そろそろ帰るか」 義弘が皆によびかける。 「そうだね。はあ……なんだか疲れちゃった」 アリステアは戦闘が終わって、緊張が解けたらしく、疲れているようだ。 他の者達も掃除と戦いですっかり体力を消耗していたのは変わらない。早く帰ろうと来た道を戻り、屋敷の外へと出た。 外に出た永は改めて屋敷を見る。外見は昼に来た時とさほど変わらない、廃墟だった。 窓はきれいに拭かれていたが。 「御奉公お疲れ様でした。もうお休みくださいな」 彼女は小さな声で、使用人たちにそう呼びかけた。 「しかし、一回掃除したとはいえ、不心得者が絶えるとは考えられない」 零二が言った。また誰かが屋敷をゴミで汚すなどしたら、再びフォースたちが現れないとも限らないのだった。 零二は持ってきていた荷物から南京錠を取り出し、裏口の門扉に鍵をかけた。 「まあ、しないよりましだろう」 「そうですね」 永が頷いた。屋敷を荒らす人が少なくなってくれることが、一番の解決には違いない。 そしてリベリスタたちは綺麗になった屋敷を後にするのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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