●蜘蛛の巣 モリアーティ一派の攻撃を凌いだ事は皆の記憶に新しい。 かの闘い。アークも交えたロンドンでの結果、ヤードはとある情報の入手に成功した。それが、ロンドンにある広場、ピカデリーサーカスの地下に“蜘蛛”の本部があるという情報である。 「――急げ」 これは好機である。今まで尻尾すら掴めなかった蜘蛛の中枢、その場所が分かったのだ。 これは好機である。“今まで”の慎重すぎる程慎重な動きをしていた蜘蛛と、前回に派手な動きを見せた様は若干の違和感も生じるが。それ以上に彼ら。特に天才たり得るモリアーティに時間を与えるのが非常にまずい。 「――急げ。時間が無い」 フェーズ4キマイラの完成も間近かもしれない。時間が無い。時間が無いのだ。量産が本格化されれば手に負えぬ。故に多少の不安要素があったとしても、往かねば不利。だからアークとヤードは協議の末に決定した。 彼らの本拠に、攻め入る事を。 “だから”。 「――急げ。本部の“エレベーターを爆破”する。準備を進めろ」 彼女は言う。蜘蛛の一人、ジナイダは。 要らぬ要らぬこんなもの。必要なれば後で修繕すれば良い。最悪なのは敵がこれを使い、より“下”に到達する事である。 ならばもう爆破してしまおう。準備に多少時間は掛るだろうが、構いはしない。 あちこちで微かながらも聞こえてくるのは戦闘音。あぁどこでもどこでも戦闘か。無理も無い。いずれここにも奴らが来るだろう。その前に。 「出来得る限り、やれる事はやらねばな」 爆破出来たとして。ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないが。 この一刺しで得た時間が、こちらの優位になるやもしれぬ。 なればやろう。まだ見ぬ敵を、待ち構え。 蜘蛛の巣の扉は開かせぬ。 ●ブリーフィング 「さぁさぁ皆さんきましたよー! ロンドンでの闘いです!」 騒がしく。あるいは新たな情報が来たのを待ちわびたかのように『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)が言の葉を紡ぐ。ロンドンで動きがあったのだ。蜘蛛とヤードの騒乱。ついにその続報が届いた。 内容は一言で言えば倫敦派の本拠地襲撃である。まだ彼らの本部に対する全容がつかめた訳ではないが、諸々の事情から早期の攻撃が必要と判断した二つの組織は、 「アークとしてはヤードの要請を受諾! 共同戦線で“蜘蛛の巣”へ攻勢を仕掛ける事になりました! ……ただ、まぁ。案の定カレイドの影響外です。情報に不足が生じてるのは、否めませんね」 海外である以上、その辺りは仕方ない。ヤードの“捜査”によって得られた情報が全てとなる。いつもとは勝手が違う事になるだろう。 とはいえ彼らの情報収集能力も決して劣っている訳ではない。カレイドが異常なのだ。表にも顔の効く彼らの情報収集“捜査”で、蜘蛛達のほんの少しの綻びからでも彼らの本拠の特定に成功したのがその証左である。 しかし不安もある。ロンドンに戦力を派遣するのは良いとしても、その隙を突いて倫敦派がアーク本部に強襲を掛けてくる事はないのだろうか。無いとは言えないだろう。相手は策謀の達人なのだから。その点は―― 「あぁその点、不安になる気持ちは分かりますが……大丈夫ですよ! ヤードの皆さんが日本、引いては三高平市への物理的な干渉を防ぐべく封鎖作戦を開始するみたいです! 皆さんは敵の地下本部制圧に全力を傾けて下さい。敵の手強さは侮れないですよ……!」 望月が一息つく。テンションが上がっているのはここが正念場だからか。あるいは天王山とでも言おうか。 敵本拠への襲撃――間違いなく、事態が動く。どんな事が起こるにせよ、だ。 「皆さんに担当して頂くのは、敵本拠第二層。エレベーター付近の制圧となります。 地下中枢へ手を届かせる為に必要な一角の制圧です……! 頑張って下さいね!」 ●急げ急げどちらとでも 戦闘音が近付いてきている。想定よりも早い。こちらの爆破準備に気付いたのだろうか。さて。 しかしまぁ分の悪い事をしているものだ。 爆破すれば退路は無く。勝てねば滅び。そも爆破出来なければ全てが無為になると言うのに。 「……ま、勝算は無論あるがね?」 視線を横に。エレベーター前。そこに陣取らせるキマイラを見据える。 一言で言うのならば――“蜘蛛の巣”だ。 敵を防ぐ。時間を稼ぐ。ただそれだけの為に作り上げた“壁”のキマイラ。これで敵の進路を塞ぐのだ。名前は何と言ったか。興味は無い。 あとは、まぁ。退路は無いが援軍はいる。ここはこちらのホームなのだ。爆破した後も時間を稼げば命も拾えるかもしれない。どうなるかはやらねば分からぬが――だからこそ。 「やれるだけやってみようではないか。フフフッ、本気で抗ってみようか、諸君」 偶には退き時考えぬ闘いも、悪くない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月12日(水)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 視認した、その先に存在していたのは“蜘蛛の巣”である。 網目状。固有の肉を持たぬキマイラが五体。超えた果てにフィクサード達という構図。 視えると言えば視える。五体のキマイラが障害物の様に立ち塞がるも、網目の隙間から奥の奥。フィクサード達の姿は一応視える。捉えられるのならば、 「待ち伏せタイプの捕食者がこういう状況になったら、普通は立場が逆転するモノなんだけど――」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が突き穿つ。気糸が網目の脆弱点を見極め、突破の意思を。一、二の三・四で五すら突き果て。一度で壁の五枚抜き、物の見事に成し遂げれば、 「けど――相手はかの有名なバロックナイツの配下。なら、まだ油断は出来ないわね。 追い込んだと思ったら何時の間にやら罠の中……なんて事態は避けないと」 努々油断はせぬと心引き締め。立ち塞がるキマイラ、SNBLを見据える。 ソレは正しく壁だ。蜘蛛の巣のイメージだからか隙間はあるが、流石に人が通れる程の隙と空間は存在しない。獲物を絡め取り、束縛せんとする意思の塊。下手に触れれば蜘蛛の餌食となってしまうだろう。壁として絶好のキマイラだ、が。 「だが、己れらでボーダーラインを設定してしまうとは愚かな事だね。教授の意思があるとは思えない」 「ほう? 我らの行動を愚かと、貴様は言うのか?」 当然だとも。とは『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)。 壁の果て。蜘蛛の取った戦術はとても良策とは言えぬモノだ。なぜならば、 「戦場は水物だよ。状況を常に流動的に推移させられる展開にしておかねば敵の動きに対応出来ない。最終的にジリ貧になるのが関の山……現地の判断が教授に水を差したのかな、これは?」 阻止限界点を決めてしまっている事自体が悪手。臨機応変性を失い、何が出来るのか。 強引にでもソコを突き破るべく、放つ黒線はSNBLへ。こちらの攻撃は脆弱な箇所を狙う事はせず、ただ突き破る事を目的に放ったモノ。故に彩歌の様な五枚抜きは出来ないが――枚数にして二枚に。本来の威力を保ったままに直撃させる事が出来て。 「チッ。まぁいい準備を進めろ。どうせ奴らの攻撃は十全には届かん」 「ええでしょうね――だからこそ、こんな所で足止めを食らう訳には行きません」 「全くですわ。こんな所で時間なんて稼がれて…… 折角上のピカデリー・サーカスでお買い物をしたかったのに」 指示を飛ばすジナイダの声に被せたのは、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)に『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の両名だ。 時間が無いのは理解できている。しかし急いては事を仕損じる。海依音は己の身に魔力の循環活性を施し、万全を。ジナイダの持つAFは身体の向上効果を阻害するが、コレの一部は別である為に。 人は本来持つ能力以上の事は出来ないのだ。故の“頭より高くは跳びあがれない”。身体の強化許さぬ能力。目に見えぬ再生の類が許されるのはAFの出力が弱いからか分からないが、 「ならば素の力で打ち破って見せましょう。何、大丈夫。見えますよ――勝機はね」 レイチェルが放つ複数の気糸は、彼女が眼で捉える先へ。蜘蛛の、網へ。 一撃一撃が粘つく横糸を避けて各個の敵に着弾。高速を伴う複数弾が、命中の確率落とさずに糸を穿つ。 「壁など小細工だな。だが、まぁ。有効な手だ。それは正しいよ。 ……個人的に、好みはしないがね」 言うは『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)だ。レイチェルの放った気糸に続く様に一歩の跳躍に全霊を込めて、 「あぁ。だから私は正面突破で行かせてもらう。 全て食い千切り、この刃を届かせよう。君達の――」 喉笛に。 言葉を置き去りに跳躍優先。さすれば来る。SNBLより放たれる糸の鞭が。 それは撓り、本物の鞭の様に朔へ。粘つく麻痺の属性を伴った一撃である。更に後方のSNBLもほぼ同タイミングで彼女へと。二つの鞭が一斉に襲いかかってくる。当たれば束縛は免れない一撃だ。 が、恐れない。前に踏み込み瞬加速。掠れもせぬ、二撃を回避し。 居抜く一千。吸い込まれるかの様に、網へ直撃した。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上! さぁ……全力でガンバっていくよッ!」 更に追い打ち掛ける様に『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)が奏でるは、葬送曲だ。 紡ぐ詠唱の速度は人より早く。十秒を圧縮して瞬時へと。 負けられない。負けられぬ一戦と理解すれば言の葉に籠る力が自然に増すモノ。視認し、届く限りの敵に黒鎖の連打を放ち砕いて。 「やーれやれ……キマイラとも長い縁だけどさ、そろそろ終わりにしようぜ。 何時見ても。何処で見ても。何を見ても……見ちゃいられないからよ」 「決着付けるのは同感だなぁ。いい加減あっちもこっちも終わりにしようや、ここいらでよ」 そうして最後。『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)に『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の二人が往く。 各々に思いがある。キマイラにか。作りし者にか。蜘蛛にか。あるいは全てか。 種別違えど向き先は同一。――決着である。 「さぁ導火線に火ぃ点けようぜぇ! 行道拓けよ! 緋暴! 鬼業紅蓮!」 裁きの光。燃え上がる炎の渦。 防衛線を超えられるか。今、全ては始まった。 ● 五の壁を超えねば成らぬ。一枚目は然程難しくは無い。二枚目も同様だろう。“そこまで”はフィクサード達の攻撃も届くか、届かぬかと言った距離だ。射程が30mある技で狙い定め、糸に絡まぬ様放てねば互いに干渉出来ぬ。両陣営共に全員がそんな技を持ち合わせている訳でなければ、攻撃はぶつかり合いからの始まりでは無い。 届く位置までまずは進む。それがリベリスタの始まり。 前に進む。道を開く。前を見据える。道を模索す。 最的確はどこだ。どの道だ。どこを穿てばどう進める? 思考し、演算し。自身の装備すオルガノンの機能を生かし、前へ前へ。このキマイラ達と彩花は相性が悪くない。部位狙いで纏めて薙ぎ払え、射程もある。恐らく、最も効率的にSNBL達にダメージを蓄積しているのが彼女だ。 「時間稼ぎの為のキマイラだったんでしょうけど、残念ね。 そんな糸/意図では私は止められない。私を絡め取る事なんて、出来ないのよ」 思考に迷いは無い。身と共に直進する様に、糸は躱す。意図は振り払う。 唯ひたすらに目指すのだ。前を。前を。 「魔を以って法と成し。 法を以って陣と成す。 描く陣にて敵を打ち倒さん!」 そしてその流れに乗る様に、連続行動の余裕を得た双葉が複数の魔法陣を展開し、一気に攻め込まんとする。 が、それは残念ながらジナイダのAFの効果により打ち消された。あらゆる背伸びは、己が頭を飛び越えるのは許さぬ能力で。ならばと双葉が放った声は、 「紅き血の織り成す黒鎖の響き。 其が奏でし葬送曲。 我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 曲だ。奏でる意味は、己が血液を元にした超重の如き黒鎖の波。SNBLの糸に絡み、そのまま引きちぎらんとする勢いだ。行使する度に自身の身を削る感覚が彼女を襲う――が、構いはしない。元より全て承知の上なれば。 「ふむ。突破力は中々のモノだな…… ――だがそこまでだよアーク諸君。止まって頂こう」 瞬間。蜘蛛の陣営側から響いた声と共に網目を超えて飛来する刃があった。それはまるで――蛇。 刀身が断裂し、うねる勢いは不規則に。蛇腹剣の特性である。距離のある位置まで届く長さは流石に特注品故のモノであろうが。網目を狙って的確に超えて、射程圏内へと入った者へとジナイダが攻撃を開始する。 「妙な動きを……! ですが、如何に武器が動こうとも“予測”は可能です……!」 高速の切っ先。レイチェルの目が捉えるのは剣そのものではなく網“目”の方。 如何に攻撃が届こうとも束縛等を嫌うのなれば網を避け、目を通してくるのは確かにその通り。少なくとも射線の通る箇所は必ずある。そこに注視すればある程度予測する事は可能であり、 「ッ――見えまし、た。やはり網目の先に人影が見えたら要注意ですね皆さん。 攻撃が、届きます」 「ああ実感している。……注意するとしよう。なるべく効率よく叩き込んで行きたい所なんだが、ね」 レイチェルの飛ばした注意を、宗二郎が受け取った。 彼もまた先程から射線に注意し動いている。どこに位置するのが最大限のダメージを叩き出せるのか、という攻撃的な思考に寄ってはいるが、被害少なくすべくと考えると概ね同じだ。漆黒の殺意を、移動を繰り返しながら放ち続けて。 「ジナイダ君。美味しいフィッシュアンドチップス出るお店知りません? 折角の倫敦なのに貴方達の所為で観光の余裕も無いのだから教えて下さいよ!」 「はぁ? そんな店がこの国にあるかァ! 倫敦の闇を舐めるなよ――料理的な意味でな!」 海依音の陽気な言葉。が、ジナイダに突き刺さったら自虐が来た。それで良いのか英国人。と言うか、敵の紹介した店に行くつもりか海依音。 「ええ勿論ですわ! だって私達は勝ちますもの!」 SNBLへ光を叩き込みつつ、海依音は確信している。 勝つと。勝てると。勝ってみせると。だから、 「――あなた達を撃破した後、存分に食べに行きますわッ!」 眼前のキマイラ。焼き落とさんと光を強めた。 「たくッ! 多いなマジ、あと何枚だっつーんだよ!!」 そして、海依音より一手遅れて魔力の循環を施した俊介が、裁きの光を放ち続けながら叫び声を。蜘蛛の糸を強引に押し千切るべく、数多き壁を潰して往く。 「撃て撃てェ! これ以上近付けさせるな! 設置はまだか!?」 ジナイダの一喝と同時、攻撃が激しく成り始める。SNBLを撃破し、この距離にまで至ればもはや物理的距離による束縛意味は弱っている為に。 「おぅ。どうした余裕無くなってんぞ? 今更焦りでも出て来たのかぁ?」 とは言っても、余裕はリベリスタ側にもある訳ではない。時間は敵。足を止める訳にも遅くする訳にもいかぬ状況となれば尚更に。しかしその状況にこそ彼は、火車は。 「もう少しで手が届くからなぁ……そうなったらたまんねぇなぁ……?」 ――闘争心が漲っていた。 今はまだ届かぬ。届かぬ、が。もうすぐだ。 もうすぐ直にこの手が届く。想像すれば自然と拳に力が篭り、糸を砕かんと炎を振るい。 「さぁ……こんなモノなど前座だろう? ここからが本番なのだろう?」 そうして最後の壁。他のよりも強度を高めに作られた壁を前にして、朔は言う。 この壁にもダメージは既にある。初期から放ち続けたダメージが蓄積されているのだ。硬かろうともこの八人が攻撃を仕掛け続ければそう長くは保つまい。放たれる糸にも恐れる事はない。進むのだ。この先へ。エレベーターへ。 故に焚かれよ心を。ここより正念場なれば。流るる感情に身を任せ。 戦場に、残すは一つ己が“名”を。 「『閃刃斬魔』――推して参る」 最後の一歩を踏み込んだ。 ● 爆弾の設置完了まであと数十秒と無い。 ヤードの予測では完了まで二分から三分。それは当たっている。ジナイダが見込んでいた設置完了時間は二分十秒程度だったのだから。だがアークの介入によって誤差が生じそうだ。どうなるか、まだ分かりはせぬが。 「魔弾よ、指し示すがままに敵を撃ち、穿ち、貫け!」 双葉が唱える。魔力の弾丸だ。残った魔力総量はおよそ半分。 これ以降は集中して撃たねばならぬと双葉は思考し、ジナイダに放つ。最前面に出て来ている彼女に。 防衛の為だろう。最も硬き彼女が前に出て、時間を稼ぐ。道理である――その、タイミングで。リベリスタ達は一斉攻勢に出る。狙うは爆発物の処理を行っている地点。およびその者ら。 「さぁレイチェル君。彩花君。ここからでも爆弾の破壊が出来るかどうか、やってみましょうか!」 海依音が裁きの光をフィクサードらに放ちつつ、爆弾を狙う。 裁きの光が直撃すればラグナロクの加護が打ち消える。ジナイダは再使用しない。もはや暇も無い故に。代わりに蜘蛛側は爆弾設置とその防備に全力を傾けた。蜘蛛の目的は元よりコレなれば。 蛇腹剣が。サジタリーとクリミナルスタアの銃弾が。リベリスタ達を襲う。近付けさせぬ様に放ち、放ち、 「いいや。これ以上、時間稼ぎ等には付き合わんよ! 盾を並べようと、強固な者が居ようと、それら諸共万物切り裂くのみッ!」 朔が往く。狙うはイージスその命。 連続行動で敵身を切り開き、流れ出る血飛沫を己が身に吸収すれば血湧く血沸く。倒そう倒そう踏み越えよう。言った筈だ。この刃を届かせると。 次いで出来得るならば連続行動時。爆弾に接触し持ち去りたい所だったが。如何に行動出来ようと数で勝るフィクサード達をすり抜けて盗むのは無理だった。道があれば可能だったやもしれないが、時間が無さ過ぎる。 「正直、貴方達が今まで闘ったバロックナイツでは一番怖いわね。 貴方達は何をするか分からない。何の計算をしているのか、読めないんだから」 彩花が言うは蜘蛛の本質。計算を主軸にし、裏で動く彼らは真に恐ろしい。 だが、言いつつも彼女は狙う。直接。爆弾そのものを。俊介が千里眼で正確な位置を見据えようとするが、生物たるフィクサードが邪魔で中々に確認が取れない。 その間に蜘蛛側に爆弾を庇う動きが見える。SNBL突破時に使用し続けて居れば対応するのは当然か。貫通する攻撃とは言え、庇われてしまえば届かない。 間に合わない。 あと一手、何か。せめて庇い手さえ排除出来れば―― 「……打ち砕かせて頂きましょう。突破させて貰いましょう。 ここは超えてみせます。貴方達の、防衛線を」 正にその時だった。動いたのは、レイチェル。 彩花が動くより先に放ったダガーが、庇い手となった蜘蛛を弾き飛ばす。ノックバックである。彼女の速度と命中なれば通常の攻撃でも十二分に効果は発揮する。 道が、拓けた。 「――今、ねッ!!」 その刹那を彩花は見逃さない。放つ気糸が、作業するフィクサードの身を貫通して、爆発物を狙い撃てば――直撃した。 「なッ……く、が、貴、様らッ……!!」 蜘蛛側の声が震える。よもや、よもや間に合うとは想像してもいなかった。 崩れる。計算が。何もかもが。爆弾は小さな破壊音を響かせるのみで、爆発なんぞしない。ああ何たることか。しかし今更どうしようもない。こうなった以上後は、 「お前ら……それで良いのかよ。一応聞いておくが、投降する気は……ねーんだよな?」 「……無論だ。教授の為、我々の命の懸け所は“此処”なのだよ」 この場の防衛だ。退く気は無い。俊介の優しさすら彼らは切って捨てる。敬愛すべし“教授”の為に命を懸けているのだ彼らは。陰謀。策略。暗躍。その中に生きて来た者にとっての至上たる存在。 教授の、為に。 「ああそうかよ。分かったぜ。 お前ら全然頭よくなんかねーよ……馬鹿ばっかじゃねーかッ……!」 殺したくは無い。だが、割りきらねば成らぬ状況に歯噛みして。 フィクサード殲滅のみに思考を切り替え、ぶつかり合った。 残された時間はもう一分前後だろう。どちらが押し切れるか、一斉攻撃が始まった。 サジタリーは弾幕を張るかの如く全面に。リベリスタ達に襲いかかる。 弾丸が腹を抉る。掠める勢いは肌を焼き、身を振り絞っていた双葉や宗二郎には少し重いダメージとなるが、 しかし、それでも。俊介が皆を救わんと、癒しの力を味方へ飛ばす。 避けた致命傷。まだ闘える者。生き残る者。戦闘のバランスは傾かない。ラインは超えない。 行け。 踏み越えろ。 ボーダーラインを。 今。この瞬間にこそ踏み越えろ。 「これ以上は越させんよ……!」 この下こそ第三層。そう易々と進ませる訳にはいかない。 ジナイダの声に、残ったフィクサード全てが奮起する。 「あーそうかい。最後の最後。うぜぇ仕掛けご苦労さん。 最初から最後まで慎重に慎重に……逃げるだけだったなバーカ!」 瞬間。攻撃乗り越え、火車が跳ねる様にジナイダを蹴り上げる。 当たったのは腹か。防御を突き抜ける一撃。浮く体の口から零れ落ちるのは、胃液か。血か。 「犯罪王の終焉に、今宵は相応しいんだ。 さぁこれにてこの地の舞台は幕引きと行こう――所詮は、余興であるのだから」 闇が包む。敵を。全てを。 反動の痛みすら頓着せず。宗二郎の放つ闇は残った敵を全て包んだ。 「ま、だだ……!」 刹那。闇の中から剣先が振るわれる。 それは最後。執着の一撃。往く先は一点。全てを潰したレイチェルの元。 全身の膂力で振るわれた蛇腹剣が彼女の肩に叩き込まれて、 「無駄ですよ――もう、超えたんです。私達は貴方の、ボーダーラインを」 それでも動じない。運命燃やせばまだ立てて。 剣の伸びている先。そこに高速のダガーを一撃、振るい投げる。 相手を支配するかの如き一撃。倒れ往く相手には、効果の意味は薄いものとなってしまったが、それでも。 闘いは、終わるのだ。ジナイダとAFを欠いた残存兵力だけでは押し切れない。そもそもが遠距離主体の構成。SNBLを失った時点で、蜘蛛側は優位性を失ったのだ。 後ろから聞こえてくる増援の足音。間に合う前に倒し切り、踵を返そう。 教授の部屋まで後一歩。焦る事は無いのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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