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<ライヘンバッハに宜しく>戦太鼓でぐるりと廻し

●鬨の声、霧の間
 アーク、そしてスコットランド・ヤードの活躍は霧の都の混乱を最小限に留め、『倫敦の蜘蛛の巣』の迎撃に成功した。
 それは同時に、『勝ちを確信した戦い』を挫かれた彼らに綻びを生むきっかけでもあり、同時に数多の情報を与えるに至った、ということでもある。
 神秘に長けた調査力を力とし、霧の都を護ってきたスコットランド・ヤードの名は伊達ではない。僅かな糸口は結果として幾つかの推論を導き出した。

 ひとつ、『アーティファクト(モリアーティ・プラン)』が存在する可能性などから推察される、『モリアーティの本来の狙い』が倫敦の外に向いている可能性。
 ふたつ、『倫敦の蜘蛛の巣』の本拠地が、ピカデリー・サーカス地下に存在するという事実。
 みっつ、これは殆ど確信であるが……フェーズ4キマイラの量産が進み、手に負えなくなる前に打倒するには今を除いて他はない、ということ。
 リスクは充分に承知の上だが、アークと『ヤード』上層部が手を緩める決断をするはずもない。
 計画は相応に速やかに勧められることとなる。

「概ねの方針については、恐らく皆さんご承知のことと思います。僕達は『倫敦の蜘蛛の巣』本拠地、ピカデリー・サーカス付近及びその地下の要塞の制圧が任務となります。『ヤード』の精鋭も同行してくれますし、市街地は『ヤード』が目を光らせる以上、大きな混乱は無いとみていいでしょう。
 ここに集まって頂いた君達は地上の制圧戦を。当然、迎撃は激しいものが予想されますので充分に警戒の上挑んで下さい。キマイラも現れる可能性が大きいでしょう。それと……」
「それと?」
 簡単な説明のみに留め、資料を手にした『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)が逡巡する。
 彼の様子は何か隠している、というよりは本当に分からない時に見せるそれである。……舞台は倫敦、万華鏡の探索の外での戦いを推論で口にするのは、さしもの彼でも難しいという証左であろう。
「……いえ。こちらで探知出来ない以上、不測の事態を充分に勘案の上動いて下さい。真に警戒すべきは『キマイラ』なのですから」
「ああ、成程な」
 キマイラを作ったのは誰か。成果が出て得するのは、損するのは果たして誰か。
 言外の警句に、リベリスタは当を得たりと頷いた。警戒は、十二分にすべきだと。

●笛は無くとも太鼓は響く
 ピカデリー・サーカス、その直上とも言える戦場……そこで言えば謂わば『戦端』に配されたキマイラ『ハンデライト・クラシカ』――『無減貪手』と呼ばれたキマイラの発展形であるそれを前に、明らかに日本人と分かる男はじっくりと値踏みするように眺めていた。
 数は相当数。彼とその部下を囲むようにして存在する以上、逃がす気はさらさら無いというのは分かる。逃げる気もなかったが。
「貴様等がアークか。それにしては随分と」
「随分と、悪党っぽい? そりゃ褒め言葉だぜキョーダイ。俺は根っからの、そう、悪党だからなぁ……」
 男が手に持つ太鼓を鳴らす。腕に装着された、小ぶりなそれから響いたとは思えない音圧は、一歩引いて状況を見届ける男の鼓膜と精神にまで影響を及ぼそうとしていることが分かるだろう。
「堂々とそう名乗るか……貴様、『此方側』か」
「そう言ってんじゃねぇか。だから歓迎してくれよ、オンナのケツおっかけて倫敦くんだりまで来ちまったあの人も、俺もさ」
「どっちだろうと変わらん。女々しいな、それは」
「おいおい、女々しいたぁご挨拶だぜ」
 男の表情は凶暴だ。振り上げたバチを抱え、鳴らす音はより凶暴さを増しつつある。
「それが男の甲斐性だってェの……馬に蹴られて死んどけやドクズが!」
 太鼓の音に紛れる声の主は、『巡輪太鼓』榛生 浅鵜(はしばみ あそう)。壮年を過ぎた、老兵に過ぎぬ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月12日(水)22:53
 出張直刃編。

●成功条件
・キマイラ『ハンデライト・クラシカ』撃破
・直刃フィクサード全員の撃退

●エネミーデータ
『ハンデライト・クラシカ』:エリューション・キマイラ。液状化した手の形状をしており、分裂特性を持つ。
 初期数20、一度に被ったダメージ量により分裂数が変化。分裂体全てがHP/EPを共有しており、BSは個別判定となります。
 全・複・範・域などで纏めて攻撃を受けてもダメージ判定は一度のみ。(ヒットレートが最も高いものを採用)
 単体スキルのみ、態勢系BS付与が多めです。
(『無減貪手』については拙作『 <倫敦事変>悪手万節万里を穢す』に詳しいですが、概ねOPとエネミーデータ以上の必要情報は無い為、読む必要はありません)

『倫敦の蜘蛛の巣』フィクサード×5:リーダー格(ホーリーメイガス)を筆頭に、支援・継戦能力強化系が多い。実力は相応であり、『ハンデライト・クラシカ』撃破を回避するために尽力します。(かばうことはしません)

『巡輪太鼓』榛生 浅鵜(はしばみ あそう):メタルフレーム×レイザータクト。凪聖四郎直轄『直刃』構成員。
 凪聖四郎の目的達成を支援するために倫敦に乗り込んできた老兵。(以下データはアークに存在するデータ。概ねは変化しないと思われる)
 アーティファクト『迂咎太鼓』とバチ二種を所持。ターンロスなしで持ち換え可。
└『迂咎太鼓』:太鼓型アーティファクト。腕に装着するタイプで小さい。全ての攻撃に「Mアタック小」を付随させる。
 バチ(黒壇):装備時、HPロスト(小)。『迂咎太鼓』のMアタック強化、物理ダメージ特化。装備者の命中強化。
 バチ(檜):装備時、EPロスト(小)。神秘ダメージ強化、装備者の回避強化。

『直刃』フィクサード×3:少数精鋭。『倫敦派』ほどではないですが相応に戦えます。ホーリーメイガス一名を含め、かなりの前傾陣形。『ハンデライト・クラシカ』に囲まれています。

●サポート
・『ヤード』精鋭:4名程が同行します。
 精鋭の名に違わず、必要とされる役割は相応に果たします。
・『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255):フライエンジェ×マグメイガス。マグメイガススキル及び天使の歌、翼の加護所有。
 相談掲示板の最新の指示を参照して行動します。指示がない場合、『目立つ』フィクサードを優先します。

●位置情報
 地上、戦場としてはアークの進軍方向入り口にあたる地点。
『直刃』と『倫敦派』のにらみ合いに突っ込む感じです。時間は夕刻。やや薄暗いでしょう。

●重要な備考
1、全体的な戦況(あくまで『倫敦の蜘蛛の巣』本拠攻略の結果)は、リベリスタ側の戦略点とフィクサード側の戦略点の最終結果で上回った側がどちらかで決定されます。(双方が戦略点を持ち、それぞれのシナリオの結果で加算や減算が行われます。守備側であるフィクサード側は初期値に補正を持ちます)
2、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
3、海外任務の為、万華鏡探査はありません。


 戦局を左右するのは気合です。
 頑張っていきましょう。
参加NPC
兵藤 宮実 (nBNE000255)
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
ジーニアスデュランダル
春日部・宗二郎(BNE004462)
フライエンジェスターサジタリー
鴻上 聖(BNE004512)
フライエンジェスターサジタリー
我妻 湊(BNE004567)


 愛憎に身をやつすことを馬鹿馬鹿しいと斜に構えて笑う者が居る。
 リベリスタならいざ知らず、フィクサードが愛に絆されて目測も判断も誤る様では元も子もない。『巡輪太鼓』榛生 浅鵜は斯様な嘲りにはしかし興味が無い。
 女のために血を流せない男も、血を流す行為に意味を見出せない男も愚かの極みだと思っている。若い輩、特に自分の部下がそれをわきまえているかは別問題だろうが……多くを語るには、今は時間が余りに足りないのは確かだった。
「スグハと言ったか。貴様らの主が何を考えているかなど知る気はないが、『これ』の運用データの足し程度にはなってくれるのだろう。……感謝するよ、その浅慮に」
「餓鬼が玩具片手に粋がってんじゃねぇよ。しかもそりゃァお前らのモンでも無え。データだ何だ小賢しいのが真っ先におっ死ぬって相場決まってんだよ、どきな」
 浅鵜の言葉は、蜘蛛の面々にとって明確な合図だった。だが、戦うのは彼らではなく、闇から這い出た影絵の役目。
 舐められたものだといきり立つ直刃と、余興に笑みを深めた蜘蛛、そしてキマイラ。数だけを見れば圧倒的不利に立たされた直刃をして、その戦場の闖入者達はあまりにも……そう、余りにも『度し難い』一手に打って出たのである。

 遡って数十秒。
『闖入者』ことアークのリベリスタとヤードの随伴者達は、遠巻きにでも理解しうる戦禍の中へ向いながら互いの状態についての確認を怠らなかった。
 作戦の手筈、狙うべき敵、戦場での立ち回りなど、ひとつ抜けても余計な戦いに至る、危険な橋を渡る行為だ。だが同時に、そんな時間でもなければお互いの面識をあらたにすることは出来ないのだろう。
『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と宮実の繋がりとは、正にそれだ。過去に救い、救われた仲である二人をして、戦場の空気を置かずして何を語るべきだというのか。
「他の3人は……元気なのでしょうか」
「お陰様で、皆元気にやっています。そちらこそご健勝の様で安心しました」
 素直な笑顔を見せる彼女からすれば、それが真実であることは理解に難くない。かつての因果が自らに振りかかることは彼女とて数あろうが、いい形で流転したそれに何を思うだろうか。はたまた、今は目の前の敵に対する戦意か。
「蜘蛛の巣だけじゃなくて、直刃もこっちに来てたのか」
「はー。面倒なことになったわね、ホント」
 直刃。凪聖四郎直属の威力部隊をそう呼ぶが、彼らが倫敦くんだりまで足を運ぶ理由があるとすれば、主君のため以外であるわけもなし。
 彼ら……ではなく、その首魁が三ツ池公園に攻め入った一件を思えば、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の呆れたような物言いも頷ける。キマイラを友軍とした人間が、キマイラを排除して目的を達成しよう、などと。
『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)を含む何名かのリベリスタは、他の『直刃』、加えて凪聖四郎の出現を伝え聞いている以上驚くのも今更といった体。
「凪ぷり直々の頼み事もあるからな。直刃を殺すようなくだらないことに小生は労力を使いたくない」
 面白い玩具と遊び、喰らい尽くすことが出来るならそちらに使ったほうがよいではないか、と嘯く『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の行動原理は本日も一分の隙も無く完璧に、敵を『喰らう』ことのみに注力している。
 ……それ以上に気をかけることもあろうが、それは後に響くことであろう。
「……最近、鴻上さんとよく戦場が一緒になるわね。偶然って不思議ね」
「ロマンチックな話はいいものですからね、人手が足りないなら駆り出されるのも必然でしょう」
 シュスタイナの揶揄まじりの言葉を飄々と受け流す『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)に、悪党の都合まで考えるほどの思慮の余裕は無いようではある。が、それを放っておけとはアークも言わない。それが弊害になる可能性を知っているから。
 たまさか彼女を見かけたので手助けに、という部分があったかどうかは扠置くとしても。リベリスタの原理として、どうしても喧嘩両成敗となるのは仕様がないのだろう。……『両』成敗とならないのは、むべなるかな。
「お喋りは結構だが……アーク、我々はどう動けばいい? 見たところ君たちの方が何倍も上手だ、自由に動けというなら、そうさせてもらうが」
「後衛のフォローに三人、射撃が出来る手合いを後衛ブロックと後方火力の方向でお願いする。小生は生憎、増え続ける餌に忙しい」
「面白い表現をする。食中りを起こさぬよう祈っておくよ」
 いりすの端的な指示に、ヤードのリーダー格がくすりともせず冗談を返す。冗談は上手いが飯は不味い英国人らしい、というところか。

 ぐんぐんと近づく戦場、そこかしこを蠢く悪意の気配を振りきって、武力衝突の先端たる場へ躍り出る。
「ここにアークが呼び込まれた事自体が教授のプラン通りであったとして。俺らの動き全てがプラン通りに運ぶと思っていては大間違いだ」
 フィクサード達とキマイラの状況を視界に収め、リベリスタを迎え撃つべく現れた『蜘蛛の巣』が直刃と接敵していた『例外』は。
『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)にとってはこの上ない好機として写ったのは事実である。自らを装うには、冷静であらねばならぬ。装う自分を疑っては何も出来ず、綻びを見せれば動きも鈍る。 
 ならば、相手方が勝手にほころんでくれたならどれだけよかろう。自分らしく戦う為に、それはとても心地よいものだ。

「ウザいわねぇ、面倒な戦いが余計面倒になるじゃない」
 最大射程に踏み込んだ『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の手元にある“魔術教本”が閃き、彼女の魔力を増幅させる。
 扱うは魔術ではなく夜の住人による極技。狙うは誰でもなく敵のリーダー格ただ一人。差し向けた指先が相手の意識と意気を削ぐべく振るわれるのとほぼ同時に、メンバーの一斉放火が戦場を覆う。
「ドーモ、蜘蛛の巣=サン、アークデス。蜘蛛の巣殺すべし、慈悲はない」
 不敵に“魔砲杖”を突きつけ、『落とし子』我妻 湊(BNE004567)が笑みを深める。正しき的であるはずの彼らが、闖入者として自らを襲う状況はこの上ない厄災だ。
 ホーリーメイガスは後悔する。数を頼ったキマイラの運用は前回重々理解したつもりだというのに、ここで失敗を繰り返すことを。
「あなたは――第二層のッ!」
「なんだアイツか。逃げられる前にやっちまおう」
 そして彼はその不幸を呪うべきだ。猛と宮実にその顔を覚えられていた事実と、逃げ手に移る前に、癒やしを口に載せる前にそれ以上の破壊を撒き散らすリベリスタ、その巡り合わせの最悪さに。


「ンだぁ、リベリスタ……アークか? こいつらだけでも手間だってのに『王子様』はまだかよ、笑えねえ」
「そういや、そっちの大将はうちの別働隊と共同戦線張るらしいがどうするね」
「へェ? あのお坊ちゃんが敵さんと手を取り合って仲良くお姫様を迎えに行く手筈か。悪くねェ冗談だぜ坊主」
「小生は凪ぷりを淫乱ぴんくの元に届けてやろうと決めている。命をかけてでもな」
「オイオイ、淫乱とか言ってやるんじゃぁねえよ。あれはあれで中々いい女じゃねぇか。じゃじゃ馬が過ぎて坊っちゃんには手にあまろうがよ」
 横合い、意識を完全に直刃に持って行かれていた蜘蛛の巣の面々がアークからの側撃に即応できたか、と問われれば否だ。直刃に全てを差し向け、自らの対応を遅らせた彼ら、その全員を仕留めるなどとてもとても難しいことだ。……だが、絶対安全圏を確保した気になって緩く構えていたリーダー格の命脈を過半まで削るには十分すぎる初動でもあった。
 そこに生まれた精神的余裕があれば、無駄口ひとつ叩く程度も許されよう。猛といりすが攻め手を休めること無く浅鵜に接触出来たのは、混乱があってのことだ。
 尤も、彼らの言葉をして浅鵜がまるまる信じきっているわけではないのは、『迂咎太鼓』のバチを彼らへ向けて突きつけたことが証明しているのだが……それでも、無差別に攻撃せず、自陣の強化に時間を割り振ったのは『そういう意図』があってのことだろう、とは理解できる。
「倫敦派を落とすのは何よりです……しかし、直刃を放置するのは……!」
「攻撃したいかもしれないけれど、回復も大事なお仕事ですものね。一緒にがんばりましょう……ね?」
「無駄な戦いは避けられるだけ避けたいのがアークの現状です。抑えてください」
 ぎりと歯噛みして前方を見据える宮実を、シュスタイナとリセリアが宥める。彼女がフィクサードに対し思うところがあるように、彼女たちにもこの場の全てに思うところがあるものだ。
 叶えてあげられるほどアークに余裕は無い。戦況に遊びは無い。それを理解させた上で、彼女の欲求を、フィクサードの殲滅の願望を満たすには、優先される相手を狙うほかない。

「あれで落ちないとか面倒すぎるわね。生憎生かして置く気もないけど」
 その気はないが、そうすることが出来る時間を稼がれるのは厄介だ、とソラは心中で毒づく。アーク、ヤード、直刃の全てを丁寧にブロックで分断して尚余るそのキマイラが更に増えることを想定すると頭痛すら覚える。
 傍ら、聖が“神罰”をキマイラに向け当たるを幸いに、攻め手を放つ。数が増えるということはそれだけ蜘蛛の本隊に近付くことが困難になるのだが、外す心配が少ないことは僥倖でも有る。
(今のところは話を聞く姿勢にはあるのですね……問答無用であるよりは楽でいいですが)
 無駄な戦いを避けたい、というのは彼に限らずメンバー全員の共通認識だ。ヤードにとっては未知の理念を持つフィクサード、相手にしないだけ有り難いとも言える。
 数を頼みに攻め入る戦い方はアークとてよく行うが、相手方が『減らない敵』を率いて現れるのは面倒極まりない。
 猛達との会話からするに、下手な刺激をしなければ浅鵜はアークを一顧だにせずキマイラに全勢力を傾けるだろう。お互い、正しい判断をしたものだと思う。
 ――振るわれた直死の大鎌が勢いをまし、闇を深める中で口元を歪める『その男』以外は、信頼はすまいが信用はしようと。考えていたのかもしれなくて。


「野郎共、のたくったクソに巻かれて死ぬにゃ若すぎんだろうがァ! 声張れ!」
「「「ウス!」」」
「……何度聞いても暑苦しいわね。緊張感のかけらも感じられないわ」
 間に入る必要あったのか? 纏わり付くキマイラを避け、或いは迎撃しながらシュスタイナはその光景に疑問を持つ。彼女の姉が赴いた戦場でよもやこんな冗談はあるまいが……やはり神秘界隈は面倒なのである。
 返す返すに、彼らはフィクサードでありどう好意的に解釈しても敵なのだ。が……。
「ったく、よくも此処まで増えやがって……お父さんは悲しいぞ!」
「……そうね、あっちもそうよね」
 逆方向で地面から跳ね上がったキマイラに追撃をかける猛の勇姿は、しかし今の彼女には暑苦しい以外の何物でもなかった。嗚呼、これだから男という生物は。
(鴻上さんが……いや駄目だ、あの人も割りと当たるを幸いに好きにやってる)
 期待なんて無かった。

「お替わり自由なだけの屑飯なら、と思ったが、なかなか楽しませてはくれるな」
 いりすが手にするには余りに禍々しい二刀は、その意思を反映するように自在に、しかしそれ自身が意思をもつようかにのたくり、キマイラを切り裂いていく。だが、その回避力をして、溢れんばかりの数差だけは覆せない。避けた先に現れたそれを収めた視界に飛び散る体液に舌打ちしつつ、肉体を貶めるその重さに吐き気を覚える。口元が体液で汚れたまま、吐き出すことも今遅く。
 喰らい切るには些か多すぎた。面倒極まりない……
「皆さん、『倫敦派』は順調に削れています! 榛生……さん、は健在ですが――こちらも回復が追いつきません、慎重にお願いします!」
「……だそうだ主力。お嬢さん方は我々が護っておくから、早く終わらせ給え」
「歌うのは慣れたけど疲れるからね、早めにお願いするわ……」
 宮実の状況報告にヤードが言葉を添え、もう慣れたが、と言わんばかりのシュスタイナの声が響く。戦場に残った倫敦派は三名。守りに特化したであろう男と、後方火力二名。かばい合うなりして残したなら、成る程彼らは大分、賢い。
 翻ってアークは、湊が既に行動に限界を来しつつある以外は、各々健在、若しくは運命に頼るか否か程度までで済んでいる。
 直刃はといえば、浅鵜の健在以外、そう優位に立てる側ではない状態。……『彼』が動くに、絶好機だった。

「打ち鳴らされる太鼓の音色は崩壊の調べ。これより開く劇は『犯罪王』の最期。その余興をとくとご覧あれ」
 芝居がかった言葉を振り上げた大鎌に乗せ、宗二郎の身の裡から噴き出したかのような闇が戦場を覆う。蜘蛛を、キマイラを、そして――浅鵜を。
「……オウ箱舟。随分狡い真似すんじゃねぇか」
「利用できる状況は利用する、それだけのことだ。貴様らとて同じであろう?」
 部下に片手でキマイラの掃討を支持し、浅鵜が檜のバチに持ち替える。先ほどまで倫敦派に向けられていた殺気、そのほぼ全てが宗二郎を中心としたアークへと噴出する。
 当然、これに焦りを覚えたのは優先的に不可侵を提言し、それが破られないと信じきっていたリベリスタ達だ。宮実でさえ、そうだった。
 逆に言えば、ソラのように隙あらば、余談を許すなら攻めてもいいだろう、と割り切っていた面々には衝撃的ではなかった。ヤードはこちらがわに該当する。

「邪魔するなら容赦はしない。ヤるなら、派手にやろう」
「勘違いしてんな。誰にとっての利益で誰が邪魔で何処に行きてえのか、お前らも俺らも手札を開いたろうが。それからベットするようなクソをそこの餓鬼がやってんだよ。……ゴミを掃除するついでにそこの『ゴミクズ』も掃除して何が悪いや、なァ?」
 緊張感を増す中、戦場は歩みなど止めない。浅鵜の攻めがアークに及ぶに至り、現実的に動けるいりすは挑戦を買って出ようと構えをとった。だが、それでも尚。キマイラの多くがそれを阻んで進めぬ。残り僅か、『共同戦線』なら受けるわけもない被害を上乗せされた数十秒で両者が被った被害が如何程まで膨れ上がるかなど考えるまでもない。檜へと持ち替えた浅鵜の意図など、リベリスタ達に理解の外だ。
 だが、その男は命を粗末にはしない。リベリスタ達は、最後にあてつけのように攻めを及ぼし、部下の命が散る毎に表情を曇らせた男の背を追うことはしなかった。

 そんな余裕、この広い戦場に手を付けたばかりだった彼らのどこにあるというのだ?

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 方針を統一する・しないは正直限りなく自由だと思います。
 それによって得た有利不利は、皆さんが結果として被れば良い話であって。
 それが楽しいか否かは、私にもわかりません。
 ただ、このような結果、成功でもこうなった、と言った感じで。
 対蜘蛛だけを見れば被害僅少、だったかもですね。
 三つ巴の怖いところです。

 お疲れ様でした。