●夕闇の中潜む男達 ロンドン、ピカデリー・サーカス周辺。 黄昏時を迎えており、日の光を浴びた建物が赤く染め上げられている。今のところは静かなものだ。しかし、それもいつまで続くか……。 倫敦派に属する2人の男。その片割れが気だるそうに、敵の接近を待つ。彼らの敵とは、アーク、そして、ヤードだ。そのメンバー全てを迎撃するよう命じられている。 しかしながら、ここは第一防衛ラインだ。例え、突破されたところで、後ろに控える奴らが……。男がそんなことを考えていた矢先。 「おい、アントン、ボーっとしてんじゃねぇ」 別の男が彼、アントンへと声をかけてきた。 「おっと、すまねぇな」 真面目にやらないと、またどやされるなとアントンは考える。できる限りのことを行わないと、今の立場ですら危うい。アントンは横にいる男、チャックの顔を一度見てから再びサーカスの目の前の道路を見る。 (監視の目もあるしな。やるだけのことはやるさ) 倫敦派が何をやっているのかはさほど興味はないが、変な力に目覚めた自身を引き取ってくれた恩がないわけでもない。このままのらりくらりと生きる為ならば。アントンはこの作戦へとそんな心持で参加している。 アントン、そしてチャックの後ろにはクリーチャーじみた化け物がいた。例えるならば、液状化した大男。それらは身体を崩しそうになりながらも、なんとか人型を保っている。時折、うめく声は苦しそうにも聞こえた。 (こいつらもいるから、なんとかなんだろ) リベリスタってのが強いとは聞いてるが。まあ、軽くのしてやるぜと高をくくるアントン。それを、横にいたチャックは真剣な顔で周囲を警戒しながら、顔を引きつらせて横目で見ていたのだった。 ●地下要塞制圧作戦 アークに集うリベリスタ達は、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の口から、今回の作戦の概要が告げられていた。 「モリアーティの攻撃計画をスコットランド・ヤードとの共闘で撃退したのは記憶に新しいと思います」 ロンドン市内での戦いは大きな被害を出したが、各リベリスタの活躍もあり、交戦から我々は倫敦派の情報の一部を獲得する事に成功した。 先の戦いでアークが収集した情報提供も含めた『ヤード』側の『捜査』は一定の成果を上げている。元々が神秘の警察機構である彼等は探査や情報収集には非常に強味がある。結果として若干の時間は掛かったが、彼等は小さな糸口から敵側の綻びを広げたのだ。 確かに、これまでのモリアーティの『慎重過ぎる位に慎重な動き方』と前回の事件のやり方は余りにも違いが大きい。神秘研究者・リー教授の言った『アーティファクト(モリアーティ・プラン)』存在の疑い、蜘蛛側傘下組織『イーストエンドの子供達』が発した情報――モリアーティの真の狙いは倫敦の覇権ではない――という部分も気にかかる。 しかし、不確定不安要素の存在、本拠の詳細も含め倫敦派の状況は完全に掴めてはいない事を鑑みても、天才・モリアーティに徒に時間を与える危険性は言うまでも無い。 フェーズ4キマイラが完成し、量産が行われれば手に負えなくなる可能性は低くない。 結果としてアークと『ヤード』の上層部はリスクを覚悟の上で早期の攻撃計画の発動に合意したのだ。 日本・三高平市への物理的干渉、奇襲を防ぐ為のロンドン市内の封鎖・監視は『ヤード』の予備戦力が担当する。アーク及び『ヤード』の精鋭部隊は敵本拠の進入口の存在が確認されたピカデリー・サーカス付近に進軍し、地下要塞の制圧にかかる。 そこまで説明を行った和泉は一度飲み物で喉を潤し、説明の続きを行う。 「皆さんはこの突入に当たり、侵入口付近で防衛を行うフィクサード、及びキマイラの殲滅を図ってください」 突入に辺りこちらのチームが出くわすことになるのは、倫敦派フィクサード2名と、彼らが率いるキマイラ、スライム人間8体だ。 敵はリベリスタの襲撃を警戒している。第一防衛ラインとなるこの場所は、最も最初に襲撃を受ける。場合によっては、彼らは後方への伝達を請け負うことにもなるのだろう。後に続くリベリスタ達のためにも、速やかに叩いておきたい。 「以上です。皆さんのご武運をお祈りいたします」 資料から目を離した和泉は、リベリスタ達へと激励の言葉をかけたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月08日(土)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●奇襲という名の猿芝居 ロンドン市街地――。 本来、夕暮れ時ならば、人気はあろうというもの。だが、まだ明るいというのにピカデリー・サーカス周辺には通行人はほぼ見受けられず、静まり返っている。 見慣れぬ町並みに、『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763) は少々調子を狂わされてはいるようだが、平常心を崩さないのはさすが場数を踏むリベリスタである。 「さて、ロンドンでの決戦だな。確かにいつもと勝手は違うかもしれないが」 この街もずいぶんと慌しいことになったと独りごちた、『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747) は持参した2丁の銃に手を掛ける。 「だがまぁ、オレのする仕事が変わるわけじゃない、鉛玉はたっぷり用意してあるさ」 クリスを含め、リベリスタ達の仕事……それは、キマイラを率いる倫敦派の撃破だ。 さて、先行する義弘は幻想の闘衣を纏って歩いていく。サーカス前はいくつもの道が交差する場所。見通しはよいものの、車が道へと何台も駐車されており、路地、地下への入り口など、隠れられる場所は思いの他多い。 敵はその地の利を生かし車の陰から飛び出す。拠点への突入を図る義弘目掛け、アントン・マクファーレンの手にする刃が夕日の光を受けて輝く。 「貰ったぜ、リベリスタ!」 しかしながら、その奇襲はリベリスタ達の知るところだった。一行は万全の準備の上でこの作戦に臨んでいた。不意打ちを完全に感知していた彼はそれを見事に避けてみせる。 「残念だったな」 倫敦派は気配遮断を使って潜んでいたが、それでも体臭は消すことができない。『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655) の読みは当たっており、アクセス・ファンタズムを使って皆と情報共有していたのだ。移動しながら、彼女は武装の魔力弾丸を装填する。 「通りすがりの観光客です。あいむのっとりべれすた」 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136) も、猟犬の力で敵の臭いを嗅ぎ分けていた。何かが入り混じって少し腐ったような臭い。スライム男の臭気は消せるものではなく、倫敦派メンバーにもその臭いは染み付いていたのである。 「その力を持つ者が、ただの観光客なものか」 敵も力を持つ者。アントンの奇襲に続き、チャック・オーチャードが熊と化した右腕を叩きつけてくる! ガキン! 前へと立つヤードのメンバーが武器を使い、その一撃を受け止めてくれた。予め練ったいりすの策に、ヤードメンバーも同意してくれていたのだ。 チャックはちらりとアントンを見やり、ふんと鼻を鳴らす。 「だから言っただろう。奇襲など無駄だと」 互いに猿芝居だとは、チャックも分かっていたのだろう。奇襲はアントンの策であったらしい。 「面倒くせぇな……」 諭すような言葉にも、アントンは悪びれるでもなく腰からショートソードを2本取り出した。 『』リオン・リーベン(BNE003779) は温度差のあるフィクサード2人のやりとりにふと思う。 (……倫敦派とはいえ、士気の違いはそれぞれということか。誰もがモリアーティに心酔しているような組織であれば厄介だと思ったが……これならまだ御しやすいな) のそり、のそり……。 その間に、こちらへと迫る物体群があった。ゆっくりと歩を進め、常時呻き声を上げる8体のスライム男の姿に、『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082) は顔を顰める。 「ぐぇぇ、またキマイラか。何が混ざってんのかよくわからないから怖い」 「元は人間か? ずいぶん苦しそうに呻くじゃないか」 『力の門番』虎 牙緑(BNE002333) はさほどその見た目に不気味さを感じてはいないようだ。彼はすでに幻想の闘衣を纏い、臨戦態勢に入っている。 「手始めにオマエらがせっかく作ったゼリー人形、オレの牙でぶっ壊してやるよ」 スライム男にも聴覚と、理解する脳はあるようだ。そいつらは颯爽と迫って言い放つ牙緑へと狙いを定めて両手を振り上げて覆い被さる。初撃は防御が間に合わなかったが、彼は次なる攻撃を防御してみせた。 「ミミミルノ、みなさんのかいふく、うけたまわりましたですっ!」 『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222) は、回復はもちろん、皆のサポートに全力を尽くそうと考える。前で構えるメンバーとしては、実に心強い。 アントンはその様子を睥睨し、正面に現れていたリベリスタ、ヤード共闘チームを見て、1つ溜息をつく。それを、チャックはギロリと睨んだ。 「ま、与えられた任務くらいはこなさねぇとな」 飄々と呟くアントンは両手の刃をぶら下げ、こちらへと仕掛けてきた。 ●自分らしい戦い方を サーカス周辺は相変わらず人の行き来がほとんどない。倫敦派の2人が強結界を使っているせいだろう。だが、それは通行人を戦闘に巻き込む必要がない点において、リベリスタ達にとっても好都合だ。 真っ先に駆けるはいりす。彼女は全体を見渡し、的確な指示を出しながらも、フリーになっているスライム男へと張り付く。動きの鈍いそいつへ、彼女は太刀を渾身の力で突き入れる。スライム状の身体を持つ人間でも痛覚を持つらしく、呻きが一際大きくなる。 速さなら、アントンも負けてはいない。普段は飄々としている彼だが、戦いとなれば電光石火の動きを見せる。その狙いは義弘へと向けられた。 「さあ、盾の意地ってやつを見せつけてやる」 「どこまでほざいていられっかな?」 速度を高めたアントンは残像を残しながら、2つの剣を倍、いや、十倍……幾百、千にも及ぶ剣戟を義弘へと叩き込んでくる。 見た目以上に重たい攻撃。それに耐える彼が横目で仲間に迫るチャックの姿を垣間見て、舌打ちをする。チャックは義弘をアントンに任せ、後方支援をするメンバー目掛けて豪腕を振りかざしてきた。 「オマエの相手は俺だ」 チャックの前に立ち塞がるのは俊介だ。後ろにいるリオン、ミミミルノ、クリスを守るべく、俊介は豪腕をその身で受け止める。そして、一撃の後に彼は強烈な閃光を放ち、近場のスライム男を巻き込んでチャックを焼き払う。ジュッという音と共に、臭気が辺りに漂った。 ほぼ同じタイミングで、カルラが状況を確認してスライム男に向き直っていた。義弘がフィクサードを引き受け、牙緑がキマイラを纏めて引き付けている、ならば。 「俺のやる事は、……まとめてぶん殴ることだ!」 カルラはスライム男達から距離を取り、覆い被さられないよう気をつけながら手甲から魔力弾を放つ。真っ赤な弾が彼の正面側にいる敵全てに目掛けて飛んでいく。弾はキマイラの身体を穿つが、それをあっさりと元の形へと戻してしまう。 そこで、銃弾がスライム男達へと立て続けに撃ち込まれる。銃弾はまた、前方にいたチャックの身体もヒットしていた。 「オレは弱いが、それなりの戦い方というものはある」 再び照星を敵へと合わせたクリスは引き金を引く。放出された魔力弾がチャックやキマイラへと浴びせかけられた。 「…………」 表情1つ変えず、チャックは次なる攻撃を叩き込むべく腕を振り上げた。今度はヤードの男性陣がそれを受け止める。 彼らの後ろにいるミミミルノも黙って守られているわけではない。彼女はツインテールを揺らし、魔力杖を振るう。 「みなさんにくっきょうなるはんしゃのよろいをっ!」 後衛から、ミミミルノが前にいる仲間を輝く鎧で最前線にいる義弘から1人ずつ包み込んでいく。 ミミミルノを守るように立つのはリオンだ。 「防御体勢構築。よし、いけ」 味方と防御動作を、そして、攻撃動作を共有させ、彼もまた最大限の支援を行うのである。 ●崩れ落ちるキマイラ達 人数はこちらが上。 しかし、相手はフィクサードに、強力な力を持つキマイラだ。互いに一歩も引かずに交戦状態が続く。 ヤードのメンバーはいりすの指示通り、義弘へとプロアデプトのフォロー。男性3人は後衛メンバーを守ってくれている。ホーリーメイガスの女性は全員の回復に当たってくれていた。 スライム男を相手にするのは、牙緑、そしていりすだ。フィクサード2人を仲間達がブロックしていることもあり、いりすは数を減らそうと考えていた。常に移動する彼女は時折立ち止まり、生命力を暗黒の瘴気へと変えて飛ばしていく。瘴気を浴びた一体の呻き声が大きくなる。運にも嫌われたそいつはただただ、溶解液を飛ばしまくるが、あさっての方向へと飛び散った。 牙緑は溶解液を難なくかわし、そのキマイラ目掛けて闘気を込めた一撃を叩き込む! ついにスライム男はその身体が維持できなくなり、ドロリと溶けてしまったのだった。 リオンはできる限り敵の情報を得ようと、敵の能力の解析に努めていた。 「……ふん、こいつはこういうことか」 リオンは即座にアクセス・ファンタズムを使って仲間達へと情報を共有する。 リベリスタ達にその能力の知るところとなったアントン。絶え間ないかに思える彼の連撃が止まる。 「リベリスタ……面倒くせぇ連中だぜ」 なかなか崩れぬ義弘にアントンも辟易し出しているようだ。 そこへ、完全な演算でヤードの女性が援護を図る。義弘の背後から、時折攻撃を仕掛ける彼女の攻撃がアントンの延髄にヒットすると、突然アントンが真顔になって目を白黒させ出した。 「どうなってやがる。目の前がくるくると……」 回る視界に戸惑うアントンへ、義弘が笑みを浮かべてメイスを振り上げる。 「さあ、今度は俺の一撃を貰ってもらおうか! 遠慮するなよ!」 彼は大きく上段からメイスを振り下ろし、さらに横薙ぎに振り払う! 殴打を受け、一度頭を振ってから我に返るアントンの顔からは、飄々とした表情が完全に消え去ってしまっていた。 こちらは、スライム男を相手にするメンバー達。キマイラの素材としてスライムが使用されていることもあり、物理攻撃が効かないことも懸念していたカルラだったが、思いの他物理攻撃も聞いているようだ。スライムとの融合は完全にうまくいっていないのかもしれない。 カルラは物理攻撃を受けるたびにスライム男の身体が崩れるのを見て、そのまま広範囲へと銃弾をバラ撒き続けていた。 「こんな入り口程度で足踏みしてるほど暇じゃねーっつの」 カルラの手甲から光が走る。宙を駆け抜けた1つがキマイラの身体を完全に捕らえ、人型の液体を完全に破裂させてしまう。 弾ける液体に合わせるかのように、まだ息のあるスライム男は、嗚咽を漏らしながらも溶解液を飛ばしまくる。それが、メンバー達の身体へと付着し、毒を与えていく。 「すぐにいやしますですっ!」 溶解液で身体を毒に犯されたカルラへ、ミミミルノは高位存在の意思を息吹として吹き付ける。見る見るうちに身体を浄化した彼はミミミルノへと軽く手を振り、再び魔力弾を撃ち放つ。 後衛メンバーの壁となっていた俊介はチャックの豪腕を幾度も食らい、攻撃の手を止めていた。チャックは俊介を熊の腕で叩き潰そうとするのだが、俊介は深く傷つくたびに高位存在による奇跡を顕現させて、自身を含めて味方全員の身体へと癒しを与える。 「俺と、オマエ。攻撃と回復でイタチごっこしよーじゃねえか!!」 全く崩れることなく余裕すら感じる俊介の言葉に、チャックの顔が初めて引きつった。 そのチャックを巻き込みながら、クリスは広範囲へと援護射撃を続ける。スライム男の頭を撃ち抜くと、そいつは仰向けに崩れて原型を留めなくなった。 (オレでは倒せないということはなさそうだな) 少しばかり自身の力を過少評価していたクリス。頼もしい味方に囲まれた中ではあったが、彼女は自身のできる役割をしっかりと果たしていたことに気づいていた。 ●思惑とは遠く…… 倫敦派の思惑はリベリスタ達のとる連携の前に、ガラガラと音を立てて崩れていた。 周囲から浴びせかけられる攻撃に右往左往するスライム男。数が減れば減るほど、リベリスタ、ヤードの攻撃が集まっていく。 スライム男を引き付ける牙緑は、そいつらの注意を常に引き付けつつ、1体ずつ確実に潰す。敵の数こそ減ってきていたが、スライム男の覆い被さりや、溶解液を受け続ける彼はかなり疲弊してしまっていた。 とはいえ、ミミミルノやヤードのサポートは完璧だ。彼女達は傷つく仲間の姿を認めると、すぐさまその傷を癒す。時折、自身の傷と共に味方全員を回復する俊介の存在も大きい。 カルラが手甲から放つ弾丸に撃ち抜かれたスライム男。牙緑は自身のオーラを電気へと変換し、ぐらりと揺らぐその身体へと捨て身で大剣を突き出しながら突撃していく! スライム男の身体の中心に大きな穴が穿たれ、さらに電撃が全身へと巡る。スライム男は蒸発するようにして、その場から消え失せていった。 「……チッ」 警戒は行っていないつもりだったが。チャックはキマイラの全滅を察して表情を曇らせる。自身の抑えについているのは、目の前の俊介、そして、ヤードの男性3人。さらに、クリスの銃が火を吹き、チャックの身体に銃弾が撃ち込まれる。 ここまでとは。だが、倫敦派の為にこの身を捨ててでも。 チャックは初めて大きく吼える。熊の腕で全身のエネルギーを篭め、ありったけの力を俊介へと叩き込む! リオンに援護を受けてなお、防御を貫通する程の一撃。 「……俺は死ねねぇんでな」 俊介は確かに一度は意識を失った……はずだった。運命の力で彼は意識を取り戻してにやりと笑って見せた、己に残る力でその傷を癒してみせる。 ヤードのメンバー達が合わせて攻撃を仕掛けた。スライム男を相手にしていたメンバーもそれに加わる。度重なるこちらの攻撃にチャックもまた、かなり息が上がってきているようだが……。 ミミミルノはここぞと攻撃に転じようと思うが、力が足りない。 「むむむ……リオンさんっ、ミミミルノのEPかいふくおねがいしますですっ」 リオンはミミミルノの頼みを受け、彼女の付きかけた神秘の力を回復する。快くミミミルノはお礼を彼へと述べた。 「気にするな、全力で補佐する。お前達は全力で敵に当たれ」 そこで、チャックは両腕を広げて身体ごと旋回を始める。巻き起こる烈風が、周囲へと旋回し、広がっていく。身が引き千切られそうなほどの風が、壁となっていたリオン、ミミミルノにも浴びせかけられた。 「っつ、さすがだな」 「みなさんをいやすやくめのミミミルノが、さきにたおれるわけにはいきませんですっ」 ヤードのメンバーも風に叩かれ、その身を麻痺される者もいた。チャックはさらに烈風を巻き起こそうと身体を捻らせる。 そうはさせじと、いりすがチャックの真横へと距離を取って立ち、生命力を暗黒の瘴気に変えて飛ばす。黒い物体がチャックを包み込むと、残り少ない体力をもぎ取ってしまう。苦悶の表情を浮かべたまま、チャックはがっくりと事切れた。 それを攻撃しながら見ていたアントン。お目付け役が倒れたことで、彼は攻撃の手を止めてしまう。 好機と判断した義弘は防御を解き、再びメイスを十字に振るう。渾身の力での殴打に、アントンは刹那目をチカチカさせた。 「けっ、やってられっか!」 彼は口の中に溜まった血を吐き出し、後ろ目指して逃げ出した。リベリスタ達はそれに気づいて走り出す。 「逃がしてなるものか」 「余所で面倒起こされてもウゼェからな」 クリスは即座に閃光弾を投げつける。強烈な光に怯むアントン。さらに、カルラがアントンの足を狙って魔力弾を撃ち込む。ただ、敵はソードミラージュ。その一撃は難なくかわしてしまう。 しかしながら、足止めは十分だった。メンバー達がアントンを取り囲んで包囲する。 「一度だけ聞いてやる。投降しろ、そうすれば命まで取らん。投降しないのなら……消えて貰う」 逃げられないと判断したアントンは、舌打ちして両手を挙げる。一行は彼をロープを使って縛り付けていく。 拘束されたアントンに向け、いりすはふと思っていた疑問を口に出す。 「時に君、イギリス人だろう? ウナギゼリーってうまいのかね?」 どうだろうなと、アントンは天を仰ぎながら答えた。 その近場では、残されたキマイラ、スライム男の残骸を見下ろす俊介の姿があった。 「救える方法、無くてごめん。おやすみな」 キマイラ達も被害者であるのは違いない。彼らはただ、安らかに眠りよう祈りを捧げる。 牙緑はふと、拠点への突入作戦が頭によぎった。彼は地面を見やる。 「中に入った連中がうまくやっていればいいがな」 「モリアーティプランがどこまで本気のものかはわからないが、我らアークを舐めてかかるような構成員に対処させたくらいだからな」 さぞ、敵は後悔していることだろうと、リオンは呟く。メンバー達もそれに同意し、今作戦の成功を信じて止まないのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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