● 三時間目。社会の授業中だった。 教頭先生がやってきて、担任の先生に耳打ちをする。 担任の先生がやってきて、早退するように。と、アメリア・アルカディア(BNE004168)に告げた。 ● 「遡ること約1年半前、ひとつのフィクサード組織がアークによって壊滅した。俺がくる前だねー」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)が、資料に目を落とす。 配られた資料には、今は廃墟になった、木造校舎のような建物と付属の教会。 「で、ここがその最終抵抗地点。組織の暗殺者養成施設であった孤児院だった」 資料に載せられた写真には、弾痕生々しい室内の写真が数枚並んでいる。 「作戦は熾烈を極めた。もはやこれまでって無茶な抵抗されたからね。下部組織とはいえ、上のほうに巻き込まれたこの孤児院はいい迷惑。枯葉も山の賑わいとばかりに、盾代わりにされたり、人間爆弾にされたり、生き残ったのは、その日たまたま『仕事』に出ていた一人だけだった」 そのまま、彼女は帰る場所を失った。 「ここに、子供と女の人のE・アンデッドが出るので、討伐に行って来て下さい」 モニターに戦闘映像が映し出される。 「見ての通り、生前と見た目がほとんど変わってません。腐敗もないね」 生きてる子供と間違えないように。と、四門は付け加えた。 「子供は5人。子供の技量は駆け出しから、一本立ちの間。女の人はもう少し熟練しているかな。教官兼世話係ってとこだね。予想損耗率から言って、君達を差し向けるよりは駆け出しのチュートリアルとしてもいいくらいで、実際そうしました。これはそのときの映像です」 四門は淡々と話を進める。 モニターの映像に音声はない。 だが、皆同じように口が動いている。 リベリスタが死体を槍で突く。槍を抜く。 逆回し再生のように傷がなくなっていく。 「元に戻ってしまうんだそうです。斬ろうが、焼こうが潰そうが。魔法で焼いても、凍らせた後砕いても。鳥の式神に食わせるのもやってみたけど、だめ。およそ、考え付くだけの手段を講じて、数回投入したんだけど、いまだ解決に至ってません」 四門は、アメリアを直視した。 「アンデッドは、『アメリアはどこ?』 って言ってる」 だから、アメリアの安否が知れるまでは死んでも『死に切れない』 のだ。 「その『アメリア』と君が一致するまで、今日まで時間が掛かりました。俺の力不足です。ごめんなさい」 四門はぺこりとアメリアに頭を下げる。 「そして、君に行ってもらうしか解決法が見えませんでした」 用意していた書類が全て揃って、アメリアは秋頃から小学校に通っている。 一人でいた彼女が、ようやく同じ年頃の子供の中に混じっている。 「行ってもらえるかな」 学校がお休みのときで構わないから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月30日(木)23:06 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 生き残った女の子は、乱暴な墓堀りと似非神父と人造天使と死人の記憶を持った介添え二人につきそわれて、死人に会いに行く。 ● 「……ったく、雨でも降りそうな天気だな、こりゃ」 『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)が、 空を見て呟く。 鉛色。冬の空だ。 「アメリア。彼らの名前を教えてくれ。心残りなく眠れるよう全力を尽くそう」 『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)は、今も彷徨う彼らへの対応策に余念がない。 『兄』や『姉』の名と特徴を色々脱線しながら話しつつ、アメリアは呟いた。 「……またここに帰ってくることになるなんて……ね」 アメリア・アルカディア(BNE004168)がこの道をたどるのは、一年半ぶりだった。 あの日、アメリアに急に仕事が振られた。 『行きなさい』 シスターは、有無を言わさぬ厳しい顔をしていた。 眠い目をこすりながら戻ったら、そこは破壊されつくしていて。 「君が、『ちび』 か?」 今考えれば、それはアークの誰かだったのだろう。 だけど、そのときのアメリアには、何もかもが敵に見えた。 手を振り切って走った。ひょっとしたら、何発かは撃ったかも知れない。そんなことも覚えていない。 少なくとも、帰る場所をそのとき失った。 ● 「下手すると、私達はリベリスタを失うどころか、一人の女の子の心に傷さえ付けかねない」 ランディ・益母(BNE001403)としては、義母の答えが出るまで待つしかない。下手な口を利くと、ローキックが飛んでくる。 「あんた。行ってきてよ」 書類と一緒に突きつけられる義母の言い様には情緒が欠けていた。 アーク教官としての彼女は情が深いと評判なのだが。 「あんたなら、いい感じにあの子を蹴っ飛ばしてくれると思うのよ」 物理的には蹴るな。と、養い子は送り出された。 あの頃のアメリアにとって、『アークが来る』 というのは、それが来ると全部終わりになる。という漠然とした不安を伴う言葉。 人を殺すのは福音だと教えられる程、シスターは嘘は上手ではなかったので。 いつか、自分達も裁かれるのだ。 『もしもアークが来たら、抵抗しないでついて行きなさい』 あの日、シスターがそう言った。 『恨んじゃだめ。だって、悪いことをしているのは、私達だから』 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)のパラソルが落とす影は、今日はひどく薄い。 (心残りを解消するまで死んでも死に切れない、か――) 廃校に続く、剥がれかけたアスファルト。割れ目から生える枯れた雑草。道端に残る灰色の雪。 遅れ気味になるアメリアを立ち止まって待ちながら、ブリーフィングの中身を反芻する。 (人は生まれを選ぶ事は出来ない) 『人造天使』として生を受け、軍のリベリスタ組織に救出され、生き延びる術を得た氷璃は、血ではない絆でつながる家族を、かつて確かに持っていた。 校舎はあちこち傷み、昇降口は黒焦げになっている。 奥の方から、パタパタと軽い子供の足音。 「Aa-aMe-eeRiAa-a」 聞こえないはずの声が現世の空気を震わせる。 途切れながら何度も何度も耳障りなノイズと一緒に繰り返される。 「ちーびー、どーこー? 縮こまってるとー、ますますちっちゃくなっちゃうんだぞー」 それは確かに爆発して吹き飛んだはずの『兄弟』で。 背は同じくらいになってしまったアメリアの脇を通り過ぎる。 「にーちゃ……」 目は合わない。 目線を下げているのだ。彼は幼い『ちび』を探しているので。 「あめりあああどこどこどこどこどこおおおう?」 昇降口を出る前に、彼はばらばらに砕け散る。 だって、彼はそういう風に死んだから。 ばらばらとアメリアの上に彼の破片が降り注ぎ、とっさに伸ばした手は、彼の肉片をつかめない。 「あめぇりあぁぁ」 奥から声。 近づいてくる。足音が。パタパタと。近づいてくる。 よく知っている笑顔が、割れて砕けて、またアメリアに降り注ぐ。 覚悟はしてきたつもりだった。アンデッド戦だって、経験はある。 だが。 死んだ家族が今も現世をさまよっている事実を目の当たりにして、取り乱さずにいろというのか。 後ろに下がりかけた足が地面に着く前に、『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が、その小さな肩を両手でそっと支えた。娘の肩を支えたことがあるかどうかも怪しい男が。 「自分の意思でここに来ると決めたのだろう。本来なら取り戻せぬはずの時間だ。悔いのないようにな」 思い返せば、悔いばかりの男が言う。 一年以上前に死んだ青年の気配に引きずられる男。 羽根を持たない男が『熾天使』 なのは、羽根がある天使のような男の気配がするから。 彼が多感な年頃の娘に遠ざけられるのは、だからかもしれない。 「あたしね――来たよ」 アメリアは、掻き消えそうな声を振り絞る。 「あたし、来たから。だから、だから、みんなもう……」 近づいてきていた足音が途切れた。 「シぃぃスタああああああああああああ! アメリアが! あめりあがあああああああー」 銃声、爆発音、硝煙の臭い、魔法が発動するとき独特の気配。 リベリスタ達は、誰も戦闘体勢を取っていない。 空間の記憶――そんなものがあるとするならば。 時間が逆に戻っている。飲み込まれる。死者の時間へ。 ● 『ガキは全部で6人だよな。逃がしたか? あ? ひょっとして、アークに俺らを売ったのはお前らか? おお?』 『そんなことは……してません』 一番年上のねーさんの横っ面が張り飛ばされる。なんと答えても殴られるのだ。 『みんな殺すぜえ? 逃がしたガキもとっ捕まえて、どうぞ早く殺して下さいってお願いされるほど搾り取って殺してやるよ』 『何で、逃がしちゃったのかなぁ。いくら君達が子供でもわかるでしょ? できることは人殺しだけですなんて身寄りのない子供の行く末なんて、考えるまでもないでしょう?』 『どうせ、みんな、ここでご高名なアーク様に殺されるのよ。ガキの一人や二人どうでもいいじゃない』 『俺は死にゃしねえ。お前ら全部盾にしてでも生き延びてみせらあ』 『そう。じゃあ、精々、がんばって』 男が裏口から出て行く。 『やめて、いかないで、アメリアを殺さないでええええ!』 気だるげな女は、男を追おうとする子供達を片端からとっ捕まえると、ぶつぶつと注射していく。 シスターはうるさいと、あっというまに蜂の巣にされてしまった。 『かわいそうだから、少しは楽な気分で逝かせて上げるわぁ。悪いけど、あたし達と一緒に死んでよ。あたしたち寂しがりやさんなんだわぁ』 そんな言葉はまともに聞こえなかった。 耳の中で脈打つ血管。開く瞳孔、痙攣する眼球。ぶくぶくと口から吹き出す泡。 ● 歴戦の戦士は警戒を怠らない。 アメリアは、ホールの扉に手をかける。 小さなステージ、アップライトの音の狂ったピアノ。埃っぽい緞帳。 雑巾でスケートごっこをして、シスターに叱られたこともあった。 『アメリア? 危ないわよ。そんなことをしてはだめ』 シスターがモップとバケツをぶら下げて、ため息交じりでやってくる。 『やべーぞ、アメリア。ずらかろうぜ』 『あんた、おしりが出てるわ』 『ぐはっ、やられた』 『俺たちは終わりだ。ねーちゃんに捕まったら一たまりもない』 『アメリア、お前だけでも逃げろ。ケツを蹴られるのは俺たちだけでいい』 『失礼ね、あんた達!?』 「ただのガキだな」 ランディは、箒を持った年長の女の子に追い回される悪ガキの幻影を見て、そう言った。 「うん」 アメリアは、手の甲で目元をぬぐった。 小学校に行くようになって、アメリアにも分かった。 夜闇の中で標的をストーキングできたって、人を何人殺していたって、全然大人じゃなかった。 自分達は、世の中で何が起こっているのかもわからない、ただの子供だった。 「死んでからも、ずっと残っちまうくらい大切に思ってたんだろう。アメリアは、ここに居るだろう!」 先の『楽団』 事件で、劫は大切な人を守る力を切望し、運命の寵愛を受けた。 アメリアと自分の姿が交錯する。 もう二人とも「あの時間」 の中には戻れない。 「――おまえらの目の前に!」 死人は、見たいものだけ見たいように見る。 『アメリア、アメリア』 幻影の中に緑色の髪の女の子が混じっている。 一年半分小さなアメリア。 それが、アメリアに触れて、掻き消えた。 死人の目線が今のアメリアと重なった。 「俺達じゃない。他ならないお前の手で終わらせてやれ……眠らせてやれよ、凄く、辛そうだから」 劫は、アメリアに頼むように言った。 停滞するのは、幸せな時間だけがいいのに、世界は本当に儘ならない。 「ね、シスター」 バケツとモップが消える。スケート代わりにしていた雑巾も、おねーちゃんの手に握られていた箒も消える。 アメリアが去ったあの日、この人達が握っていたのは拳銃や自動小銃やダイナマイトや剣だ。 さっきまでの優しい思い出の中にも、あの日そのものの死体でもない、無表情な子供が五人とシスター服の女が立っている。 表情を失った唇が合唱する。 あめりああめりああめりあめりあああめりああめりああああああああああああああ――。 「あたしね、シスターが言ってた通り、アークに居るんだよ。シスターはこう言ったよね……きっとアークが来るけど恨んじゃいけないって……生き延びられたら保護してもらいなさいって」 返事はない。 合唱。床が震えるほどの。アメリアの声は届いているかどうか分からない。 死者は聞きたいことしか聞かない。 疑念が湧く。この声は届いているのだろうか。 「アメリア、何をへたってる」 ランディの仕事は、アメリアの尻を蹴り飛ばすことだ。概念的に。 続けろ。と、その赤い髪の下の赤い目が言っている。 (傷つくことになっても……あたしのぬくもりをみんなに伝えなきゃ……せいいっぱい抱きしめて……生きてるよって伝えなきゃ) アメリアは生き延びたから。 「あの日みんなしてあたしを仕事に行かせたのは……きっと知ってたんだよね。それで……一番年下のあたしを外に出したんだ……」 「お前はガキを使って暗殺させてたような組織の人間だろう?」 ランディは、子供たちとアメリアを呼び続けるシスターに言う。 「……愛着か、同じような育ちだったから家族と思ったのかね。なら大人のお前が何とかしてやるべきだったのさ」 死人に、たらればを語っても意味はない。それはランディにも分かっている。 「簡単じゃねーしガキ共の危険あったろう。でもそうしなかったのはお前だ。優しさだけじゃ救われねぇよ」 「そんなんじゃないよ!」 アメリアはランディに食って掛かった。 「それがシスターとみんなの精一杯だったんだよ! ここは見張られてて、いつだって仕事は一人で行ってたの!」 しくじっても、いなくなるのは一人で済むから。 「なら、こいつらが決めたんだろ。活かすならお前だって」 死人に、たらればを語っても意味はない。だが、生きてる人間の答えを引き出すには必要な時もある。 ランディは、大合唱をやめない六人を指差す。 「辛気臭い顔すんな。覚悟を決めて死んでいった奴に失礼だろうが」 辛らつな言葉だ。 「……あはは……困ったな……手が震えて……照準が定まらない……みんなを……眠らせてあげるのはあたしがしなきゃいけないのに……」 がくがくと制御不良のおもちゃのように大きく動く腕。 「別にいいぜ、俺はこいつらが諦めるまで何回何千回でも塵に変えてやる」 ランディは、冷静に言い放つ。 墓堀は、死者がおとなしく墓の中に収まるまで、どこまでも深く穴を掘る覚悟がある者の名だ。 「そしてリベリスタなんかやめちまえ」 空気が、止まった。 見開かれたアメリアの目を見ながら、ランディは続ける。 「クソ世界の定めたルールの下に、何もしてねぇ奴を殺ったり子供を必死に守る母親を殺ったりもする。 そんな連中を前にお前は自分の家族は大事だから殺せないって言うんだな? ならやめちまえ、そんな奴に殺される奴が不憫で仕方ねぇ」 アークは正義の味方ではない。崩界の敵だ。 世界を崩す存在なら、嬰児はおろか胎児でも妊婦の腹を引き裂いて掴み出さねばならない。 「俺らがやってるのはそういう事なんだ」 ランディの言葉が真実だ。アークのリベリスタは人殺しだ。 絶対的大多数を守るために、ごく少数を根絶する。 三高平では、革醒者に、戦わなくても生きていける道が示されている。 子供一人を丸め込み、戦い続けさせるなら、アメリアが元いた組織と同じだ。 今、戦うのをやめたとしても、彼女を誰が責めるだろう。 覚悟がないなら、そんな道もある。実際、そうしている者もたくさんいる。 ランディは言ったのだ。遠まわしに。それを選んでもいい、と。 氷璃の手がそっとアメリアの肩にかけられる。 「……うんわかってる……ちゃんと……生きていけるんだって……証明しないといけないよね。だから……あたしが撃たないと……助けてくれることに甘えて任せちゃいけないんだ……」 氷璃は、眉をしかめ、アメリアの両の頬を両手でぶにっと押しつぶし、ぐきっと強引に自分の方を向かせた。 「分かってないじゃない。子供が生意気を言うもんじゃないわ」 氷璃はアメリアの目の中を覗き込む。 「彼等が知りたいのは貴女の安否だけではないわ。此処にいる誰しもが一度は家族を失った者だからこそ、再び家族を失う事となった貴女の未来を案じているのよ」 アメリアは、アークに保護されれば、理不尽な目には合わないだろうが。 「一人残してしまった無念なら、もっと別の形で現れよう」 似非神父を辞められなくなったのは、仁の本質に近いからだろう。 「心残りは、彼女が一人で大丈夫か、だろうか」 誰が、暗くても大丈夫と虚勢を張るあの子と眠ってくれるのだろう。強がるあの子の涙をぬぐってくれるのだろう。大丈夫と抱きしめて、髪をすいてくれるのだろう。 十歳に満たぬ女の子の『家族』 になってくれるだろうか。 「彼等が見たいのは貴女が1人で立っている姿ではない。暗殺者として組織で学んだ通りに武器を振るう姿でもない。泣いても良い、挫けても良い、彼等に刃を向けなくても良い」 それは、私たちがしてあげるから。 氷璃は、アメリアと死人をむき合わせた。 「だから……今、貴女が孤独ではない事を。支えてくれる誰かがいる事を伝えて、“家族”の最期を見送ってあげなさい」 しばらく逡巡し、意を決した伊吹は咳払いをして、死人に呼びかける。 「すまないが、アメリアはもうそなた達と共には行けないのだ。今の彼女は我らの大切な仲間なのだ」 伊吹には、六人の合唱がアメリアをあの世への道行きに呼んでいるように聞こえてならない。 「彼女は今学校に通っている。普段の仕事ぶりを見るに、しっかりやっているのだろう」 だから、どうか。何が、どうかなのか、伊吹本人にもよく分からないが、だからどうかなのだ。 「編入が決まった時は、本当に嬉しそうだったな」 伊吹は、そう死人に告げる。 『後、必要なのは、君のサインだけなんだ』 そう告げられたとき、伊吹はひどい状態だったが、その時のアメリアの顔は忘れない。 事務職員は、いてもたってもいられず、アーク内部とはいえエリューション処理中の現場に飛び込んできたのだ。 作業補助の途中でそう言われたアメリアに現場に残れと言うリベリスタはいなかった。 過酷な作業状況だったが、祝福の拍手さえ沸いたのだ。 そのときの話を伊吹は死人にする。 アメリアは真っ赤になってうつむいている。 大人に露骨にほめられると、子供は赤面して黙るしかない。 「お前は、いい仲間に恵まれたな」 仁は、アメリアに囁いた。 アメリアは頷き、再び死人に向けて顔を上げる。 「みんな、優しいよ。ちゃんと叱って、励まして、手を引いて、背中を押してくれる人がいるよ。ちゃんと、あたしに考えろって言ってくれるよ。ねえ……あたしは今、幸せだよ。シスターやみんなとお別れすることになったのは辛かったけど……アークのみんなを家族だって思って……一生懸命生きてるよ」 合唱はやんでいた。 死体が無言でアメリアに問いかけている。 「あたしがやりたい。あたしが送りたい。他の誰かにやってほしくない」 氷璃と仁は、頷いて、下がった。 「……教わったこと……ちゃんと覚えてるよ」 だから、これはおさらいなのだ。いっそ、前よりうまくなったとほめてもらってもいい。 それは号砲。魂が還るどこかに向けての祝砲。 「さようならの時間だ。生き残った者の責務として、見送ってやれ」 魔法は解け、ゆがんだ時間と摂理は無に帰す。 ● 後には、廃墟だけが残った。 「みんなの形見……持っていかせてね……それから裏手にお墓を……」 ひぐっと、アメリアはしゃくりあげる。 「……ねえ……泣いても……いいかな?」 ランディは、無言でアメリアの頭からジャケットをかぶせた。 それは、温かくて、人が生きている匂いがして、とてもとても重かったから、アメリアはしばらくそこから動けなかった。 ようやく、アメリアが顔を出すと、みんな無言でそこにいて。 五人が五人、同じような顔をして、アメリアを見つめていたものだから、アメリアは今度は笑うのをやめるのにひどく苦労した。 いつのまにか、雲は割れ、空の青がのぞいていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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