●弔わず喪わず 「いや、箱舟は手強くしぶとい。聞いたか貪狼、ウチの文曲がやられてしまったよ」 「……武の字、彼奴の死をどう見る」 一面の闇が支配する部屋。光源はなく、それを当然のものとして処理する存在が二人。 片や、【杓】の武曲。 片や、【魁】の貪狼。 何れも『七天』なる組織の中核を成すフィクサードであり、実力はアークと渡り合うに遜色ない者達である。 飽くまで、現状まではという但し書きを要すが。 先だって、武曲を含む数名が二度目の行動を尽くアークに阻止され、あまつさえ同格クラスの文曲を打倒された現状がある。 彼らを甘く見るほど組織力があるわけではない。順当に損耗し、『機会』を逸して彼らの今までの全てが水泡に帰す可能性さえ、現在の彼らには存在する。 貪狼の問いは、『指針を改めるべきでは無いか』という「知略派の杓」に対する牽制だ。より力を以て推し進めてはどうかという、彼なりの。 「それは早計だ、貪狼。文曲は優秀だが卑屈だった。卑屈であるが為に引き際を遅きに置くきらいがあった。覚悟の尺度が我々より死に傾いていただけだ。……貪狼、貴様はどうだ」 どうだ、というのは死ぬ気ではないか、という問いかけである。武曲は力比べや正面からの駆け引きは好まない。それは領分ではないからだ。正面から戦うということは、臨死により深く携わることである。……この男は誰よりも、『七天』の真実に近い。此処で死なれていい器ではないのだ。 「死を恐れずして生きること能わず。生きること恐れずして死に場を得ること能わず」 「誰の言葉だ」 「俺のだ……“然(さ)らば”だ武曲」 マントを翻し、貪狼が歩き去る。 武曲はそれを聞き、安心したのだ。 覚悟はできているなら、彼は死なないだろうと。アークがそれを上回らない限りは、だが。 ●飢えた牙を濡らす血は紅 血まみれの雪原がある。慮外の武器がある。そして、その持ち手が在る。 無機質な雪を有機的な色に染め上げたのは異界の住人たちだ。彼らが生きてきた世界との接続点は既にそこにはなく、世界からすれば彼らは異質な存在として排除される運命でしかない。 ただ、同じ運命を辿るにしてもその雪原は危険すぎた。誰のためでもなく、『ボトムチャンネル』にとって。 「……なるほど。アザーバイドを殺す儀式、か? それにしたってこれは殺しすぎだろう」 「ええ。最終的には命を奪わなければならないのですが、この雪原に配置された陣形……魔法陣と言うべきでしょうか。この中に於いて異界の存在を殺害することが、世界の状況変化、ひいては崩界を促進する可能性が高いことが判明しました。出来ればアザーバイドを回収後、別地点にての『処理』が必要となりますが……まあ、普通に考えて殺すけど場所変えるよ、なんて素直に応じないでしょうからここは陣形破壊のほうがスムーズでしょうね」 神妙な表情で状況の俯瞰図を表示しながら、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は陰鬱な表情で説明を続ける。殺さなければならないアザーバイドを、保護ないしは儀式阻止後に殺害する。 狩られる側と各々の理由で狩る側2勢力、余りにバランスとタイミングが悪い三者の干渉は中々に危険な戦いとなるだろう。 『殺さねばならないが、殺す機を待たねばならぬ』。この指示はリベリスタとて、気分の善いものではない。殺すべき相手に生きる希望と慈悲を、一瞬なりでも与えろというのだから。 「アザーバイドを殺して崩界を促す? アザーバイドを放置したほうが寧ろ楽なんじゃないのか」 「だと思うんですが……この陣形の効果でしょうか、殺害したアザーバイドの階層より更に上の位階とのリンクを繋ぐ気でやっていると思えば、まあ分からなくは無い」 「それを繰り返したら」 「ええ。とんでもないことになるでしょうね」 心底嫌そうな顔をしたリベリスタの横から、別のリベリスタが顔を出す。モニタの、それを成す面子を眺めているようだ。 「んで、こいつか。最近小煩いフィクサード組織の親玉は」 「親玉とは大きく異なりますけどね。まあ重要人物であることは間違いないでしょう。 フィクサード組織『七天』の幹部、名を『貪狼』。コードネームだそうですがそれ以上の情報はありません。詳細情報は別添資料に纏めるとして、彼の最優先事項はアザーバイドの殺害完遂です。それを実行できる状況であれば如何な状態であれ、それを再優先に動くでしょう」 「つまり」 「君達に移動を阻まれても射程圏内ならそちらを優先する。どれほど切り刻まれても。押し通り、ねじ伏せる。君達ではなくアザーバイドを」 さて、これは厄介だ。 正面からの戦いを何より好むと言う男が、一方的な虐殺に全力を尽くす。止めて止まる器ではない。何らかの対策を練らなければ、あちらの目的など余裕で達成されるだろう。 「君達が現場に到着するのはコトが起こる直前、現地にバグホールが発生した上でアザーバイドが全個体出現、帰還先が消滅した後のことです。距離は『貪狼』配下と此方側、何れもアザーバイドとの相対距離20メートルとお考え下さい。丁度正三角形のような陣容になるでしょう。なに、彼らだって膝より高い位置から落ちただけで死ぬやわな存在じゃありません。猶予ぐらい、あるでしょうとも」 「……つまりそれは、俺達が殺すにも手間ってことだ」 「ままなりませんね。皆さんの最大が、最善を生み出すことを願っています」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月03日(月)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「その剣の威力は身に沁みて知っているさ……俺ならば耐えられる、ってことも!」 「そう、思うか」 その声は冷徹だった。 彼の得物そのものを表すかのような静寂。ともすれば柔らかさと慈悲すら覚える声に伴い、質量が前進する。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の言葉は結果として、この戦いに於いては偽りない結果を残すのかもしれない。だが、違う。目の前の存在が放たんとしている一撃はそんな彼のプライド(或いは彼が口にするには軽く、安いそれ)をも割り砕きにきている。切り結べば負けはない。……少なくとも作戦には勝利する。だが勝てない。 守れば勝ちで、受け止めれば勝ちで、勝利なんて造作ないもののはずなのに。 彼の持つ様々なものが否定される、錯覚。 「余所見……して、文曲のよう、に死ぬのがお望み?」 「戦いに、俺に気を取られすぎて足元の小石で転んで死ぬのが貴様の望みか。哀れだな」 貪狼を戦闘の中心に据え、かれの狙いを自分たちへ絞らせようと挑んだ『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は……或いは、貪狼へと戦意を向けた全てのリベリスタはその可能性に気付くのに後れを取った。浅い呼吸が数度響いた後に、『貪狼を含めた数名を狙って』意識の奔流が叩き付けられる。既に技術体系として彼らが乗り越えて久しいそれは、しかしタイミングさえ把握すれば絶大な影響を及ぼす。 爆発に一歩遅れ、当初の目的達成に一手先んじて貪狼に近づきつつあった『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の声が戦場に響く。 かの問いは全ての訳者を混乱させたものであり、貪狼の答えはその数ある答えの中でも特に、彼らを煙にまくにふさわしかったというのに。 「To Be or Not to Be」 「……『世にあらぬ』。脆き者、汝の名は正義か」 問うは戯曲の一節になぞらえた死生観。解釈を多に分かつそれをして、いりすの問いは貪狼に通じた格好となろう。だが、相手の回答は元を同じくする戯曲のなぞりか。 正義という脆いものに賭けたがためか、はたまた異なる問いであったか……理解は無用だった。 彼らに、正面からぶつかり合う以外の問答は愚問愚答にしかならぬのだから。 世界のありようを歪める破界器を打ち砕くために前進した『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の視界の端に、惑うアザーバイドの姿が映る。七色に光る髪は確かに美しい。状況が違えば、或いは理解できる関係にもなれただろうか。彼女らの姿に感嘆の声を漏らすこともできたのだろうか。だが、それらは全て詮ないものであることを彼女は知っている。 世界のかたちを維持する為に小を切り捨てることなど今まで数えきれぬほどあった。だから、フォーチュナが彼女らに任務を告げた時、殊更に鎮痛な面差しに見えたのは気のせいだろうか……或いは、自らの映した鏡のようなものだったのか。 「……シュスカさん」 「大丈夫よ、大丈夫。いつも通り『やる』だけだもの」 彼女より前線に立ち、眼前の激戦において辛い思いをしているであろう『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が自らを呼ぶような。気遣わしげな声に、しかし彼女は気丈に応じる。気丈を装って応じる以外の、何が出来るというのか。 「とんろーさんいがいのうごきがおかしいですっ! ぜんえーさんたちをちかづけないようにうごいてますっ」 リベリスタ達に課せられた使命は、『ロギーロの討伐』と『征服陣形の破壊』である。後者を優先し、前者は事後処理程度になるだろう、というのが大凡の見解だった。 その作戦に於いて最大の障害が貪狼であり、彼の配下であるならばそれの排除も必要となる……が、それは飽くまで副次的なものでなければならない。 正面切って戦うわけではなく、飽くまで足止め……それを心得ていただけに、支援に注力していた『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)の驚きは察しがつこう。 彼らが、快と貪狼の戦闘をお膳立てする理由がない。目的達成を主眼に置くなら、彼は真っ先に無視すべき対象ですらあったのだ。それでも、彼に手を割いた。 「虐殺(さぎょう)の邪魔をしないなら好都合だ。大勢を見誤った相手ほど楽な戦いもない」 「面倒な仕事から面倒が減ったなら、作業にすらなりません。お引き取り下さい」 「……、か」 主戦力が状況を悪化させないなら、それ以上に楽な戦いが何処にあろうか。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)と『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)の両名の言葉に、一片の偽りもありはしない。 だが、その言葉が彼らの意思を挫くことは終ぞ無かった。ただの妄執のために全戦力をつぎ込むほど、全てのリソースを消し飛ばすほど、彼らは浅はかではない。只の一度、それを見せることだけを考えればいい、それだけのことだったのだ。 異界の種族に、老若男女の別は無い。外見から、あらゆる立場にある者が揃っていることが伺えるが、彼らは若かろうと老いていようと、一様に流麗な髪をたたえていた。 成程、彼らが狩られる側として長くこの世界と関わりあいがあるというのも理解できよう……同情には至らぬが。 「何時もどおり送り出してくれれば、よかったのに」 シュスタイナが、もう一度ぽつりと漏らす。 何時もどおり容赦も無く躊躇も無くやってみせるから。 何時もどおり迎えてくれればいいだけなのに。 なのに『彼』はそれを、してくれない。 ● 諭はちらりと上空を見やる。ファミリアーは間違いなく作用し、恐らくはロギーロ達を見失うことはないだろう。 だから彼らを此処で逃しても、最終的に殺すことは困難ではあるまい。 自分と共にコアユニットの破壊に動く影人達も、そう簡単に落とされることはまず無いといっていい。彼はクレバーだった。敵方からみればこれ以上ないくらい面倒。これ以外無いと言い切ってしまえるほどに滑稽に基本通りを遂行する。 だが、そこに過信の跡は無い。今しがたとて、彼の少し前に出ていた影人が最大射程からの一撃を受けて溶け落ちた。嫌がらせか何かのように、射撃は飛んでくる。 だが、それは飽くまで牽制程度にしかならないだろう。射手が使える長射程射撃は一人ずつ狙うのが精一杯だ。際限なく潰し合いをするには、時間も状況も非効率に過ぎることを互いに知っている。 「クソ食らえだぜあのガキが……!」 「子供扱いは不愉快ですね。無駄とわかってこちらに牙を向く不可解さこそ、子供じみていないですか?」 相手をするだけ面倒な相手だが、挑発した結果として精細を欠いてくれるなら願ったり叶ったりである。面倒な仕事をしているのだ、その程度させてくれても文句はあるまい。 「せいいっぱいがんばりますっ、ミミミルノがうごかないとみなさんがたいへんになってしまいますっ」 戦場の趨勢を決めるのは、前衛後衛の別よりは寧ろきめ細かな状況判断とサポートにその多くが託される。その意味では、彼女は自らの求める位階に近づきつつあった、と言っていいだろう。 だからこそ、自らの手が足りないことを重々承知の上で回復にリソースを振り分ける現状に心苦しくもあろう。 重力の軛から放とうと、仮初の鎧を与えようと、一撃で砕かれれば詮もない。 優先順位を組み上げる。魔力の貯蔵は未だ潤沢。無事に皆をここから帰すことだけを、彼女は愚直に考え続けていた。 ……故に。炎の雨に焼かれ凍て付く術式に襲われ、痛みを重ねる味方を十全に癒やしきれぬ現状は、つらい。 がんばらなければ。幼い器から溢れそうな義務感は、知らず彼女の頬を濡らしていた。 「っ痛ェな……!」 「どこを見ている? 目の前で邪魔されるのを眺めているだけがお前の仕事か? なら楽でいいが」 コアユニットの中心を裂くべく放たれた旭の一撃を正面から受け止めた大男が、しかし血を吐きながらも笑って彼女へと大剣を構える。痛みを糧にするタイプは、倒しきれない状況に陥った場合は極めて面倒だ。 正面切っての殴り合いで彼女に分が悪い筈も無かろうが、如何せん目的とは大幅に異なる。何より時間が大幅に無駄になる……その状況に合わせるべくユーヌが挑発を向けたのは僥倖だったという他ない。 立ち尽くされても撃ち合いになっても面倒な相手が欠けるのは有難い。 (ありがと、ユーヌさん) 声に出す暇は無い。だが、視界の端でその意思を伝えたかった。 ……自分には状況なんて詳しくは解らない。ややこしいことを理解しようとして、無理に出来るものじゃないことも、知ってる。だからこそ、確実に。自分にできることだけを考えて戦うのだ。 コアユニットの破壊に移行した戦場に叩きつけられるのは、シュスタイナの翼が打ち下ろした突風。魔力を伴ったそれを呼吸と同程度に行使する彼女は確かな脅威だが、脅威だからこそ深入りして痛手を負うことの愚を『七天』のフィクサードは心得つつある。 「――『異物』を払え。アークとて望んで排除しに来たそれらが、何より先だ」 ぞっとする声が戦場を舐める。快からの攻め手を受け、しかし射界にあるロギーロを一体、また一体と遠間の一撃で薙ぎ払う彼の存在は、半数を欠き、征服陣形の崩壊を間近に控えた状態であっても希望は捨てていない。可能性に賭けている。 任務の達成のためであれば自らを的にかけることに一切躊躇がない。同じ殺すにしても、この相手は酷く空虚だ。重い決意が必要だったシュスタイナより、ずっと軽々しく。 あの男は、このフィクサード達は命を奪うことをするんだろう、というのが分かる。 「良いも悪いも。何かしら背負ってる奴は大抵強い」 「つれない態度、は……嫌われる、よ」 数多の傷を受け、回復手の手に余る状態になりながらも刃を構える貪狼を前に、さんざ突き放され、弾かれたいりすと天乃が肉薄する。意志であれ実力であれ『強い』相手を屠るために此処に来た二人が、互いにその獲物を手放す気がないように。 快を含め都合三名を迎え撃つ貪狼が、それ以上彼女らを無視できるわけもなし。 「喰うぜ。喰うよ。喰い殺す」 「癪だが、貴様等を捨て置けんのも事実か。……同志!」 目的のため。何より自らが崇めるに足る者のためにその享楽を棄ててまで挑んだ戦いが斯様な結果になることは、貪狼には解せない。 或いはここで戦い続ければその目もあったろうが、目の前に参じた少女の言葉が現実になるのは否定したかった。 文曲はよくやった。目的遂行のため、あの性質でありながら酷く善戦した。 それを殺した相手の一部が目の前に居ることは、度し難く許しがたいが……そうではない。彼とて、死ぬのは怖い。 死ぬという事象ではなく、死がもたらす影響がこの上なく怖い。だから、足掻くように刃を振るい、天乃の動きを縫い止める。いりすに痛打を差し向ける。掠った、程度で。 「殺せるだけ殺し乱せるだけ乱し、命を守って四方(よも)に散れ! 策を捨てよ、貴様等の命は俺が拾う!」 「……ますます喰いでがありそうだ」 「させるか! 倒さなければ止まらないなら、お前を含めて全員、倒す!」 快の決意が響き渡る。 いりすの持ち上げた口角から、ぞろりと牙が覗く。 貪狼が刃を構え、弥増した振動を叩きつける。 その一合が早いか、フィクサード達が逃げに回るのが早いか、或いはその頭をユーヌの鴉がついばんでしまうのが先だったか。 『それ』が砕け散る音は雷轟にも似て轟いた。 ● 彼ら、彼女らに横のつながりがあったのかどうかは、言葉が分からない以上知る由もない。 ただ、あってもなくても守り合うことを知っている連中なんて面倒だし、それを見て目を伏せる仲間の前で殺すことも酷く面倒であることを諭はよく知っていた。 感情論で飯は食えない。心のつながりは必ずしも奇跡を呼ばない。現実主義者にとって、葛藤することそれ自体が大凡無駄なものなのだ。 「ファミリアーで補足した分は全てこちらで『処分』しました。あとはそちらにお任せしますよ」 『都合いい。今しがたこちらでも終るところだった。戻ってくるといい』 諭の声に幻想纏越しに応じたユーヌの声は平板だ。何時もどおり、何の感慨もなく作業のように殺したのだろう。 血まみれの雪原から、ミミミルノは目をそらした。戦うことに精一杯だった彼女はその必死さ故に現実の重みにまではキャパシティが追いつかなかったが、全て終わった状況下ではこの上なく凄惨なそれを見る勇気は無い。 旭の表情は鎮痛そのもの。終わってから感傷に浸ることが出来るのは、それを作業と割りきらなかったが故の彼女なりの足掻きだった。感傷に足を取られていたら、或いはもっと手傷を負っていた。……危なかった。 覚悟することと心を潰すことは何とも異なる。それを堪えた勇気は、讃えられるものだった。 「ごめんなさいね。意味もなく殺される貴方達は、私達を恨んでいい」 かひゅ、と末期の息を吐き出し、光を失いつつあるロギーロに顔を近づけたシュスタイナの頬を、喀血が濡らす。 涙も出ない。血も流れない勝利。 正義の意味も無くありったけを血に染めて、果たして彼女は。彼女たちは、どこから血を流せばいいというのだろうか? じくじくと傷が疼く肩を握り、快が歯噛みする。 最後、あの男は。貪狼は、彼に膝をつかせた。運命の加護が無ければ、劇的な復活劇すら許されないままに倒れたかもしれない。 絶対の自信を水際まで押し込んだ、あの男の獰猛な『牙』が。 天乃を、いりすを、そして快を抉って縫い付けた。そして、彼の牙未だ、折れず。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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