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寂しがる少女と、旅人の閑話


 旅行が趣味なのです。
 自分の全く知らない土地、文化、其処で暮らす人々は、常に私の常識で囲われたセカイを大きく塗り替えてくれますから。
 例えば高度に進んだ文化の都市、例えば人っ子一人居ない毒と酸が降る大地、例えば目を焼くほどの光をのぞけば何も存在しない無の空間。
 そういうものを、たくさんたくさん知って、何時か私の世界に住む人々に、その体験を教えるのが夢なんです。
「……と言う事を、伝えたかっただけなのデスが」
「………………」
 今現在、私は困っています。
 目の前には女の子が一人。ぐしぐしと涙の溜まった目を時々拭いつつも、その子は私の服の裾をがっちりと握ったまま離してくれません。
「……えーと、お嬢サン?」
「ついてく」
「いや、あの、貴女くらいの子供にはちょっと危険かなーって、私思うんデスけど」
「行くの」
「……そのー……」
 十数分前のことでした。
 いつも通りに『世界旅行』をしている私は、その途中でただ一人、泣いている女の子――つまりこの子を見つけました。
 あんまり現地の人と関わるのは拙いと思いもしましたが、流石に見つけておきながら放っておくのも後味が悪かった私は、その子に話しかけて、何と泣きやませようと色んなお話をしました。
 ……はい。まさかこんな形になるとは思いもよらずに。
「色んなところ、行ってるんでしょ?」
「……そうデスねえ」
「つれてって」
「……んーと、親御さんの、許可トカは?」
「いらない。私、捨てられたんだもの」
 言っている事が嘘だとは、直ぐに解りました。
 着ている服は柄も素材も、この世界に疎い私にすら安物には到底見えず、髪飾りや、小さなポーチに入れた綺麗なおもちゃの類を見るだけで、少なくともこの子が親に可愛がられなかった筈は無いという立派な証拠です。
 些細な親子喧嘩か、この子が一方的に親を恨んでいるだけか。
 いずれにしてもどうしよう、なんて漠然と考えている私に対して、女の子がじっと私を見つめています。
 目にはたっぷりと涙。裾を掴む手はかたかた震えており、まるでこっちが加害者のようにも思えました。
「……うーん」
 寒々しい空気と、ぽかぽかした陽だまりの下。
 この、小さくて大きな問題を前に、私はひたすら悩みつづけるのでした。


「と言うわけで、私たちの出番」
 一部始終の未来映像を見終えた後、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がちゃくっと言ったものである。
 対するリベリスタも、その表情に真剣さと言う類のものは一切無い。或いは苦笑したり、嘆息したりと様々だが、少なくとも其処に鬼気迫るものは無かった。
「要するに、この子供の『家出』を防げと」
「そう。あのまま放っておくと、一緒に居るアザーバイドが持ってるアーティファクト使ってD・ホール開くから」
「……一応聞くけど、本当に捨てられたのか?」
 リベリスタらが問うたのは、当然子供に対することである。
 対するイヴは当然と言うか、首をぷるぷると横に振った。
「この女の子。ご両親が最近子供を生んだの。流石に生まれたばかりとあって彼らはお子さんの方にかかりきりで、放っておかれた女の子の方が勘違いした」
「……。おう」
 何とも牧歌的な話である。
「まあ、この子が家出すること自体に問題は無いけど、親御さんを泣かすのもアレだし」
「いや、有るだろ」
「無いよ。と言うか、やりようによっては寧ろ得」
 ――さすがに疑問符を浮かべるリベリスタに対して、問うよりも早くイヴが答えた。
「『万華鏡』で確認したんだけどね。少なくとも今回、あのアザーバイドが開いたD・ホールに干渉することで、あの女の子は革醒すると共にフェイトを得る」
「……戦力になると」
「長期的に見れば。まあ――人道的にはどうかと思うけどね」
 こっくりと頷くイヴが継いだ一言に、リベリスタも全くだと言わんばかりに苦笑する。
 人には決して得られない力は凡そ誰しもの魅力だ。それに多大なる制約と束縛が付いてこない限りは。
 少なくとも此度の少女にはそれを意図した部分が全く無い以上、強引に神秘の側へと巻き込むのは心苦しいと言うものも少なくないだろう。
「ま、その辺りは皆に任せる。
 今回の目的はあくまで少女の異世界行きの阻止と、アザーバイドの対処」
「……前者は兎も角として、後者はやっぱり」
「うん。場所が人気の多い昼間の公園だから。見た目こそ<幻視>っぽい能力で隠してるけどね。
 フェイトを有さずに、あまつさえアーティファクトまで持ってる以上、少なくともその場に留め置いたら周囲の一人二人は革醒しちゃうのは必至」
 よろしく。と片手を挙げるイヴに対して、リベリスタらは苦笑交じりで応じることとなったのである。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月30日(木)22:44
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
・『女の子』を他チャンネルに送らないこと
・増殖性革醒現象による革醒者が『女の子』を除いて一名も発生しない

場所:
昼をちょっと過ぎた頃。人気の多い公園内です。
遊びまわる子供や、昼食を取るサラリーマンの方々、井戸端会議に忙しい奥様方などが主。
天気は快晴です。

対象:
『女の子』
年齢5歳の女の子です。現在は一般人。
今回の未来視により、「今この場でディメンション・ホールを開くと革醒し、些少のフェイトを得る」ことが判明しました。
長期的に見込めば戦力にもなりそうですが、まだ幼い少女に神秘が絡む世界へ巻き込んでもいいものかと言う意見もあり。判断は皆さんに一任します。
因みにパーソナリティとしては、微妙におしゃまで泣き虫。
生まれたばかりの弟にかかりきりの両親に構って貰えない自分が見捨てられたと思い込み、下記『タビビト』に「何処かへ連れて行って欲しい」とお願いした、と言う経緯。

その他:
『タビビト』
両のこめかみ辺りに小さな羽を生やした、外見年齢15歳ほどのアザーバイドです。性別不明。<幻視>相等の能力を使用中。
自身の戦闘能力の一切を失う代わりに、個人での世界間の移動と、あらゆる環境下での適応がなされるアーティファクト『妖精さんの編み上げ靴』を装備しております。
人並みに優しいながらも、一人旅ばかりを続けてきたために対人能力が酷く低い子供。
上記『女の子』のお願いすら断るに断りきれず、放っておくとアーティファクトを介してD・ホールを開こうとします。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 4人■
サイバーアダム(メタルイヴ)プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
ハイジーニアスプロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
ビーストハーフクリミナルスタア
敷島 つな(BNE003853)

ナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)


 昼日中の陽光は、その下に立つ者に須く恩恵を与え続ける。
 その恩恵を拒むものも、それを得る資格のない者にも。
「説得、ですね……」
 告げた離宮院 三郎太(BNE003381)の言葉が、彼を含めた四人のリベリスタに、確たる目的と再認識させる。
 少しだけ、眩しそうにするナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003927)が、片手を額に当てて廂の代わりとして、『彼ら』を見つける。
 涙目を拭って、自分より年上の相手を見つめる童女。
 其れを前に、些か困り顔をした、旅装の子供。
 誰の目から見ても、それは子供同士の諍いに見えて、だから周囲の人間は気にすることもなく通り過ぎていく。
 けれど……見る者が見れば、それは過ちであると否応なく気付くこと。
 異界の属性を得た来訪者と、それに気付くことなく付いていこうとする、危うい少女と言う立ち位置に。
 ――少なくとも。
 命を失うことはないと、フォーチュナは言った。
 ただ、仮に彼のアザーバイドが開いた異界への門に少女が触れれば、真っ当なヒトとして生きていくことは難しいとも。
「ダメよ、ダメダメ! フェイトがあればいいってもんじゃないのよ、人間そんな打算のみで推し量っちゃ!」
 その言葉の真意を察する『砂のダイヤ』 敷島 つな(BNE003853)は、恐らくこの場にいる何者よりも、『変わってしまう』ことに対して敏感な存在だった。
 変異した自身を厭いもした過去と、それを子供にすら強いる可能性は、彼女にとっては耐え難いものだと見て取れる。
 故に、止める――と言う理由もあるが、何よりも。
「……一時の感情で家族を失ってしまう事が、どれだけあとで後悔する事なのかを伝えてあげないとっ」
 誰ともなく零す三郎太の言葉もまた、つなと同様に自らの経験則を元に語られる想いである。
 少なくとも、今の自分達に無いものを有している――それが本人にとって望むべきものか否かは兎も角――少女に対して、両者の想いは一致している。
 その気勢に触発されたかは、解らないが。
「こんにちは、兄妹かな? 良かったら、一緒に食事でもいかが」
 自ら人間嫌いを称する『不機嫌な振り子時計』 柚木 キリエ(BNE002649)が、未だ争う二人の子供達に近づく姿には、些少ながらにもやる気のようなものが、見え隠れしていた。


 子供達を食事に誘うこと自体は、さほど難しいものでもなかった。
 この年頃に相応しくか、胃袋に正直な少女はキリエやつなの持参した遅まきの昼食にあっさりと興味を示し、それに裾をがっちりと捕まれているアザーバイドの方も、人見知りと言うこともあってか、多少強引に話を進めれば強く反論することは無かった。
 ――唯一、誤算があったとすれば、三郎太が強結界の用意を忘れたために、ナターリャやつなの結界に頼らざるを得なかったことだが。
「あーら、ごめんあそばせ!」
 人気のない場所を探し、其処にぽつぽつと居たサラリーマンをふくよかな身体を活かして蹴散らしたつなにより、そうした懸念も無くなったのである。
 ……一児の母となる女性は総じてこのように強いものなのか、閑話休題。
 つな特製のキャラクター弁当を一心不乱に頬張る少女を尻目に、こっそりとアザーバイド、通称『タビビト』に対して会話を始めたのは三郎太であった。
 時として用法の難しい言葉のフォローをキリエがタワー・オブ・バベルで補いつつ、彼はフォーチュナから与えられた情報の殆ど全てをほぼそのまま、『タビビト』に対して打ち明ける。
 本質的に三郎太自身が詭弁を介するような裏表のある性格でないと言うこともあるが、これは彼、或いは彼らなりの、アザーバイドに対する信用を示していると言うことでもあった。
「……貴方も、現状は不本意なはずですよね?」
「……其処までハッキリは、言えませんが、そうデスねえ」
 真っ直ぐな彼の物言いに対して、『タビビト』は苦笑混じりに応えながらも、しっかりと自分の意見を返してくれる。
「――連れて行くこと自体には、何の問題も無いのデスよ。実際、彼の子のように、外の世界へ行きたいと私に言ってきた人も何人か居マシた」
 ただ。そう言って、『タビビト』は少女の方を見る。
 昼食を食べるために漸く服の裾を離した少女は、つなと和やかに話している。
 本物の親子と呼ぶには些か遠いが、それでも、親しいとは一目に見て思える程度に。
「……彼の子は、他の人と違う?」
「エエ。未だ、もう少シ」
 何の気無しに問うたキリエの言葉に、アザーバイドは笑いながら言う。
「未練を無くしてから、来て貰いたいんデスよ」
 彼女との話は、貴方達に任せると。


「あら、捨てられちゃったの!? それは大変。じゃあ、おばさんちにいらっしゃい。うちの子になりましょうよ!」
 簡単な話で、其処までの反応を示されたことに、少女は驚いていた。
 優しそうなおばさんだった。何より、少女は今も両親に捨てられたと思っていた。
 だから、うん、と頷く。
 頭でそうと判っていながら、それでも少女は躊躇ったのだ。
 ――逡巡する少女を見て、つなが一瞬、満足そうな表情を浮かべたことに、仲間の誰かは気付いただろうか。
「なんてね、早く帰らなきゃ。お母さんもお父さんも今頃心配して探してるわよ?」
「……え」
「だってあなた、こーんなに可愛いんですもの!」
 大きな身体に抱きしめられた少女は、少しだけくすぐったそうにしている。
「……でも、でも、ね」
 言って、少女は訥々と語る。
 生まれた弟にかかりきりで、自分を放ってけぼりにした両親のこと。ひょっとしたら、自分はもう要らない子なんじゃないかという不安を。
 ……ひょっとすれば、彼女はこのことを言いたいがために、『タビビト』に無茶なお願いをしたのかも知れない。
 一通りを聞き終わった少女に対して、返された言葉はつなのものではなく、
「そっか寂しいんだ。お姉ちゃんは、パパやママが本当に大好きなんだね。でも我慢出来て偉いね」
 くしゃ、と自分の頭を撫でたキリエに、少女は恥ずかしそうに、困ったように、俯いた。
「……出来てない。私、逃げたんだもん。家出、したんだもん」
 純粋に、わがままな言動でも返されるかと思っていたキリエは、だから彼女の、思いの外殊勝な応えに驚いた。
「……じゃあ、さ。これからそうしていこう。
 それに、赤ちゃんが生まれると、本当に大変だから、お姉ちゃんもパパやママを手伝ってあげて?」
 大人ぶっている、泣き虫な少女。そうフォーチュナに聞かされた彼は、故に彼女の想いを受け止めて、やんわりと返し、自分の言いたいことを教えていく。
「でも、私が嫌われてたら? こんな風に家を出て行った子だからって、本当に嫌われちゃってたら?」
「だったら、帰って、謝れば良いんですよ」
 とても、簡単のことのように、三郎太が言った。
 むっとした表情を浮かべる少女だが、それに面と向かって返すことは出来なかった。
 それほどに、彼の表情は、満面の笑みは、少女が言葉を詰まらせてしまうくらいに、悲しそうに見えたから。
「お父さんや、お母さんは、貴方が二人を大切に思うのと同じくらい、貴方のことが大切だったと思います」
「………………」
「だから、次は貴方の番です。
 生まれてきた弟さんを、お父さんやお母さんと同じくらい、大切に思ってあげてください」
 ――家族って、とても大切で、暖かくて。
 そう、言葉を続けようとした三郎太が、自身の涙によって其れを遮られたことに気付いたのは、少し後のこと。
 少女の代わりに、泣くようにしていた彼は、だからだろうか。
「……やくそく」
 お家に帰って、謝るよ、と。
 少女が差し出した小指を見て、漸く、その涙を止めてくれた。


 ――結局、少女の『家出』は、さほど大きな騒ぎにも成らず、事を済ませることが出来た。
 と言うより、そもそも少女は両親に対して何も言わずに家を出たらしく、昼間に帰ってきたこともあり、そもそも家出した事実に気付いていなかったと言うのが正確な結末である。
 別れ際、小指を立てた少女の行く末は、少なくとも暗いものではないだろうと、リベリスタ達は感じられた。
「……今回はありがとう。貴方の旅の無事を、祈らせてもらうよ」
 そうして、後。
 少女を見送った彼らは、結界を張るナターリャと共に待っていた『タビビト』に別れを告げるために、元居た場所に立っている。
「私、何かしまシタか?」
「あの子の面倒、見てくれたろ?」
「……あの子に振り回されてた、って言う方が正しいと思いマス」
 キリエの何の気ない言葉にがくりと肩を落とした『タビビト』を見て、他のリベリスタも少しばかり笑いを誘われる。
 それに、当のアザーバイド自身も笑いを誘われた後、編み上げ靴の踵同士をこつこつと叩いて異界の門を開く。
 人一人がどうにか通れる程度の小さなディメンション・ホールを前に、つなはあくまでも自分のペースを崩さずに言う。
「会えて嬉しかったわ、けど早くおうちにお帰りなさいね?」
「……ハイ?」
「あなたにも旅の話をしたいと思ってる、誰かがいるんでしょう?」
「……そうデス、ねえ」
 少しばかり思案したアザーバイドは、次いで小さく笑って、言った。
「不思議な話で驚かせたい人、くらいナラ」
「……意地悪なのね?」
 苦笑を浮かべたつなに『タビビト』は更に笑みを深くして、ゲートの向こうへと歩き出す。
 その、刹那。
「タビビトさん、君の旅の目的は……」
 手を伸ばすように問うた三郎太に、『タビビト』は振り返らない。
 振り返らなかった、けれど。
「旅行が趣味なんデス」
「………………」
「私にとっては、それだけデス。
 でも、貴方が私と同じような旅人だったら、何時の日か、違う目的を見つけられるんだろうなと、そう思いマス」
 半身を門の向こうに溶かした、小柄な旅人は、そうして、消える。
 ――貴方が貴方で居る目的を、何時か聞かせてくださいと。そう、最後に残しながら。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れさまでした。
無難に始まり、無難に終わった依頼に見えるかも知れません。
それでも、こうして無事に終わらせることができた皆さんの努力は、こうして形となってのこり続けます。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。