●努力は報われるものである 「アハ、アハハハハ!! イヒハッハハ――! いやぁ笑いが止まらねぇぜこりゃあよぉ!! 最高だなァ!」 男が金を数えている。 札束だ。いくつ在るのだろうか正確な数は分からないが、机一面に広がった様は悪趣味と言う他ない。しかし男は気にせず金を乱雑に、舐めるかの如く一枚一枚数えている。 「あぁ~あ。やっぱいいわなぁ。長い事努力した甲斐があったってもんだぜ…… やっぱさぁ“努力”ってのは“報われる”もんだよなぁ! 御天等様は視てるもんだぜ報われるべき人間を! イヒ、ヒヒィ!」 何をして稼いだ金か。 何をどうやって稼いだ金か。 そもそもそれは“合法”か“違法”か。 ――問わずとも。勘の良い者ならば察しが付いているのではなかろうか? 「いやぁこいつは本当に最高だぜ! 金の成る木だ――“麻薬”はなッ!! アハハハハ――!!」 視線を机の下へ。 そこに転がっているのは瓶詰された“白い粉”だ。幾つかは錠剤タイプも混ざっているが、意味としては“白い粉”の範疇で全て通ずる物。人の心と身体を犯す、太古から忌み嫌われし薬毒である。 男はこれを極秘に売買していた。派手に動き過ぎず。数多の目から逃れて。少しずつ。少しずつ成果を溜めて、 今日この現状にまで至ったのである。 「さぁってぇ? 次はどこに売り捌いたもんかねぇ。 あんまりやり過ぎると大きな組織に目ェ付けられるだろうし、そろそろ七派様辺りにペコペコしとくべきかァ? あるいはちっと都会から離れるのも手っちゃ手だよな……ヒヒ、ヒヒヒ……!」 さてどうやって更なる金を溜めたものだろうか。 薬で廃人になった連中なんぞ視飽きた。ああ、足が付かない様にそれなりに慎重に“処理”はしてきたがな? だぁがそろそろもうちょいスピードアップしておきたい所でもあるんだよ。 「ああ楽しいなぁ……! 努力ってのはマジで楽しいよなぁオイイ!!」 高笑いが木霊する。 とある倉庫の内部。ゴミが散乱する一角に陣取って、金に包まれた男の、“努力”がしかと実っていた。 彼の努力は“報われた”のだ―― ●ブリーフィング 「さぁ。諸君らにはこの畜生染みた小悪党を磨り潰してもらう」 『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)の声は響いて、この場に集った六名へと紡ぐ。 「フィクサード集団のリーダーを撃滅するのが諸君らの任務だ。集団としてはそこそこ多いな。万華鏡からの情報だと20人~30人程で纏まっているらしい……実力自体は突出して高い者はいないのが幸いだがね。リーダーだけは他と比べて強い様だが、それだけだ」 リーダーは佐々岡、という名前の男であるらしい。 とにかく金欲しさに薬に手を出している屑である。が、今の今までその所業がバレる事無く暗躍し続けた能力だけは厄介だ。行動原理そのものは小物と言って差し支えないものの、決して無能では無い。曲がりなりにも集団の纏め役なだけはあるのだろうか。 「彼らは今日に至るまでそれなりに慎重に行動していた様だ。が、数が多いのが仇になったな。 ――万華鏡が彼らの動きを探知した。彼らが根城としている拠点も含めてな」 「へぇ、そいつは朗報だ。ゴミ溜め共のゴミ屋敷が見つかったんなら駆除しねぇとな?」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が地図を視る先。その場所は海沿いの倉庫だ。 と言ってもその倉庫は管理者が居らず放置され、今では不法投棄のゴミが溜まりに溜まっているらしい。その所為か内部は大分狭いとか。範囲攻撃の類には注意すべきだろう。 「ふむ……情報通りなら戦場は相応に狭いな。数の優位を打ち消せる半面、闘い辛いのは否めないか」 「まぁ諸君らの実力ならば、この程度の障害は問題無かろう……ただ、まぁそうだな。 気を付けるべきは“このフィクサード達の数”だけではない」 「……と言うと? 何か別の不安要素でもあるのかしら?」 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)の確認の声に次いで放たれた疑問の声は『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)。別の要素とは何か、八雲は一息の後。 「20名で構成されている内5名がインヤンマスターでな。それら全てが“影人”を量産して送りこんでくる。3名がリーダーの付近に居る事は分かっているが、他は不明だ。ついでに、インスタントチャージで常に補給役を行うプロアデプトも5名居る」 「また面倒臭い事をする輩だな。そうまでして増やしても、有効的に使えるかは別だろうに」 数だけ増えても何になるのか。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は溜息一つ。まぁ影人が増え続ければそれの対処にも体力を使う。数がある事に無駄とは言わないが――まぁそもそも補給が常に間に合う訳が無い。どこかで必ず限界点は来るだろう。それまでは数に悩まされるかもしれない。 しかしその後は楽だ。影人そのものは術者能力に依存し、耐久も低い。臨機応変な対応も出来ないとなれば、数があっても紙の如く薙ぎ払えるだろう。 少なくとも。ここに居る六人ならば、 「あぁ何も問題ない。増えるより早く減らし、連中の首を取れば良いんだろう?」 「些か骨も折れそうですが。まぁ確かにそうですね“何も問題ない”です。やるべき事は同じなのですから」 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288) に、『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)が言葉を繋ぐ。 敵が多い? それがどうしたと言うのか。 全て纏めて潰せば障害無し。問題無し。心配不要。 此度の目的。単純明快ただ一つ! 「神秘の秘匿など後の事は気にするな。諸君――全力でブッ潰してきたまえ!!」 ●受けろ 「お、おい。おおいおいおいおいおいおいなんなんだよマジでええええ!!」 先程まで金を優雅に数えて居た佐々岡が取り乱している。 無理も無い。有頂天気分だったその瞬間に何者かが倉庫を襲撃してきたのだ。 今や感情は焦り一色。どこだ。どこからの襲撃だと思考を回せば誰かが叫んだ。 アークだ。箱舟がやってきたと。 「チィィィッ! アークとかざッけんなァ!! おい外にいる連中も集めろはやくしろォォォ! 影人も全部出して囲め囲めェ! 数はこっちが上なんだッ! あいつら全員薬漬けにしてやらああ!!」 狂乱の如き声を張り上げて。佐々岡は己の身を守る事に全力を尽くす。 “努力”は実った。実っていた。彼の努力は報われる――神は視ている。 故。ならば、 “報い”を受けろッ小悪党!! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月28日(火)22:48 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●奇襲 フィクサード達は侵入したリベリスタに即座に反応を示した。 当然だろう。敵が来たなら追い返す。迎撃する。潰す。それは反射レベルの行動である。例えそれは如何なる戦場であろうと例外は無い。誰であろうと一定以上戦闘に身を置いた者ならば当然だ。 しかし、 「……努力は評価しよう」 剣を構えた。銃を構えた。それよりも“速く”に動いた者がいた。 「だが、好悪は問わないな? ……潰させてもらうぞ。その意思と努力」 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)である。雷光纏いて一閃跳躍。 誰よりも速く。誰よりも一手先んじて、彼は往く。倉庫の入り口に最も近かった者に狙いを定め、 その顔面に蹴りをぶち込んだ。 脚を弾に見立てて射出するかの様に。 「はー……世の中いろんな努力があるんでしょうけど、こんな形の努力まで報われるなんて。 正直、良い事じゃないわよねぇ。全くもって」 努力の形は無数。仕事・趣味・道楽――あらゆる事象に置いて己が関わる事は“努力”する事が出来る。 しかしながら彼女は、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は認めがたい。“こんな形”の悪事に関わる努力すら報われるなど。幾らなんでも努力の神様の仕事は適当すぎやしないか。 認めがたい。許し難い。故に、 「まぁでも――こんな“馬鹿”の努力が報われるなら、私達の努力が実っても不思議は無いわよね?」 鷲祐が蹴り込んだフィクサードに追撃する形で翼を振るう。背の黒き羽、筋に力を。羽ばたきとは別種の力を込める。 伴うは魔力。伴うは風。伴うは殲滅の意思。己が目に入る複数の敵を纏めて薙いで、 「さて。どうも初めまして諸君無駄な努力御苦労そしてさようなら」 なれば死せ。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)に繋ぐ。 言葉の終わりには既に行動だ。五指に挟んだ符を放ち、指でなぞって印を成す。示すは北。玄武の証。 ――濁流が発生した。 一歩踏み込んだ先にて放った符術は範囲が広くても味方は巻き込まない。だが敵は、障害物の影。見えぬ地点にいようとも須らく巻き込み飲み込む。なぜならば彼女が持つ五感の飛躍。視角も聴覚も何もかも発展状態である今、おおよそであろうとも“そこ”に“何”がいるか、あるか。理解できるのだ。分かるのだ。彼女には。 だからこそ障害物があろうと工夫で潰す。濁流は無差別に、発生点を中心に敵を突き流していた。 「ガァッ!? くそが、くそがくそがあ! んなんなんだよこの水はあああ!?」 「神の目を甘く見たな、フィクサード。いつまでも逃げおおせると思っていたのか?」 佐々岡の悲鳴にも似た叫びに『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が言葉を被せる。 「お前が行ってきた所業……もう既に知る由は無いだろう。その機会は恐らく俺達には無い。だがな……」 神の目たる万華鏡から逃れ続ける事は出来ない。 いつか捉える。必ず捉える。そうして“今”がそうなのだから。 全身に満ちる闘気と共に敵を見据えて、 「神の目に映り視えた以上、貴様の悪事は今日まで限り。覚悟して貰うぞ! 貴様には――蜘蛛の糸すら伸びん!!」 「ざけてんじゃねぇ! 覚悟すんのはテメエらだ! 俺の薬で天国みろやァ――!!」 佐々岡の号令で、濁流を凌いだフィクサードらが一斉に入口へと吶喊する。 人の指揮、と言う事に関しては本人の善悪性質は関係無い。戦況を如何に上手く見れるか、誰をどう動かすのが効率的か。その点、佐々岡は心得の無い者よりも数段上手く人を操る手腕に長けていた。 戦力として見ればフィクサード側の数が多く。ここは彼らの拠点。 ならば初手において数で包み込もうとする手段は決して下策では無かった。なかった――ものの、 「オイオイどしたよテメエら、揃いも揃って早漏なのか?」 いつ入って来た。 いつからそこに居た。 無動作。と言える程の接近方法。それを人は縮地と呼び、 「往き掛けの駄賃ぐらい持ってけよ――なぁ?」 この場でその技術を使えるのはただ一人、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)だ。包み込もうとした敵の動きに合わせて纏うは炎の渦。地に叩きつければ万殺せんと広がり捕まえ地獄を見せる。 灼熱。あるいは火焔たりうる地獄が顕現した。これで薬諸々巻き込めれば尚良かったが、 「ま、流石にそうも見えやすい場所にはおきませんか。 こうまで分かりやすい集団なら或いは、とも思いましたが……」 薬そのものはもっと奥に隠してあるのだろう。推察するは『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)。 どうにもこうにも分かりやすい集団だ、とも思う。己れらが“何”をしているのか理解し、“何”を食い物にしているのか把握した上で笑うとは。あぁ主語が無くとも大体の意味が理解できるとは本当に、実に分かりやすい連中だ。 まぁその辺りは己も。聖自身も。人の事をとやかくは言えない身の上だが。それでも、 「ハハハッ――ま、これぐらいは言っても許されますよね?」 極限の集中が彼を包む。 世界の動きを停滞させる程に。高まった果ての集中は極致。己だけの世界である。 視える。視える。敵を視界に。収めて捉えて。 「覚悟しなクソ共。てめぇら全員、一人残らず地獄行きだ」 銃撃轟音、蜂の如く連射して。 彼の“神罰”が踊り始めた。 ●対応 リベリスタ達は半円に陣を組んでいた。 入口を背に、では無い。倉庫の壁際の方を背にして、だ。理由は単純に後方からの増援対策である。中にいる者達だけと闘うのであれば唯一の逃げ道たり得る入口を潰すのが最善。しかし外に。外にまだ敵が散開している。それらが中に雪崩れ込んで来た際、挟み撃ちにされるのは非常にまずい。 よって後衛を半円の中心に。前衛が前に出て壁と成す。一方のフィクサードらは、 「出過ぎんなよ! 囲め囲めとにかく削れぇ!」 佐々岡指揮の下リベリスタ達の“削り”に掛っていた。 仮の話だが、何も無い平地でマトモにぶつかり合えばリベリスタ側が有利だ。それは高威力・広範囲技の連打を叩き込まれれば多少の戦闘指揮など関係無い故に。勢いで押し切れる。このメンバーならばそれも可能だろう。 しかしここは平地では無い。障害物がある。射線は通らない。範囲も打ち辛い。この地で範囲以上の技で複数の敵を効率良く倒すには、それこそマスターファイブを所持するユーヌの対応力レベルが必要になる。 だからこそ佐々岡は狙う。長期戦に持ち込ませ、リベリスタ達の“気力”切れの瞬間を。 「……ッだぁー! 話と違ぇ!? このままじゃマジィだろオイ! 芋決め込むとか聞いてねーぞ!!」 接近して来た一人を腹から殴り飛ばして、火車は口汚く現在の戦況を罵っている。 ――が。それは本気では無い。追い詰められている様な声色を出して、相手を油断させるべくの行動。 調子に乗りたければ乗れば良い。幾らでも幾らでも。今だけ特価の大サービスだ。 「成程。これは厄介と言えば厄介だな。一気に攻め込めないというのは」 鷲祐が言うは地形の悪さ。ゴミに隠れている連中が煩わしい。数も多い故に、迂闊に出てしまえば囲まれる危険性がある。面倒だ。 だが、彼の目は隠れる敵すら暴き見つめる。ゴミ山の中に隠れようが“熱”までは隠せない。だから、 閃光の如く瞬く技術が敵を魅せる。 速さを。ただ速さを突き詰めた動作は音の壁を感じようかと言う程に。 「おっと、流石にそろそろ来るわね――外からの援軍よ!!」 シュスタイナの叫んだ声より若干速く、フィクサードらの増援が目に映る。 入口を封鎖していない陣形の為、中と外の合流は容易い。少なくとも陣形の維持を考えると、ブロックしての完全封鎖は無理だ。まぁそれは致し方ない。代わりに挟撃されない形に持ち込んでいるのだから、メリットとデメリットの面がここで出た、という訳だろう。更には、 「外からも影人が来ているな……ま、予想はしていたが外にも影人使いはいたか。 とはいえこの程度の足止めで、俺達を止めれるとは思わんで欲しいがな……!」 拓真の目に複数の影人が映りこむ。中と外から少しずつ。ただ只管にリベリスタ達を目指してくる影人だ。 単純動作しか成せぬ影らしい動きである。これもまた気力削ぎの為の道具だろう。特攻させて技を浪費すれば上々。最低でも注意を惹ければそれで良しと。影人なんぞ人と違い、作るだけなら幾らでも出来るのだから―― 「だから――どうした?」 瞬時。接近する複数の影人が、全て纏めて飲み込まれる。 波だ。先の、放たれた玄武の意を冠する術と全く同様のモノで、 「紙の無駄だな。厚紙でも立てておいた方がまだ役に立つんじゃないか? そうしたら、ほら。紙相撲ぐらいなら出来て遊べるぞ? どうだ有用だろう」 ユーヌは流す。敵の紙をゴミの如く。影人なんぞ脅威にすら見ていない。 あんなモノは唯の的だと言わんばかりに潰して往く。庇う? だとしても次手で潰せばよい。むしろ庇ってくれるなら纏まってより狙い易くなるだけだ。 遅く、鈍く、脆い。無い無い無い無い何も無い。無い無い尽くしの虚仮威し。怖くもなんとも無い無い無い。 「ハンッ……だがそっちだって無限に今の状態を維持出来る訳がねぇ! 勝つのはこっちだバアァアカ!」 「口ばっかりは達者ですね。御託喚いている暇があるなら、さっさと実現に移せばいいものを。 無論。実際に出来るなら、ですが」 銃を乱射し続ける聖。羽を動かし僅かに飛行して。足場の影響も高度飛行の悪影響も受けない位置を保つ。とは言え流石に複数体の敵を纏めて攻撃し続けるのは消費が激しいのか、一体一体のみを狙おうと。戦術を少し変え始めて。 次いでその攻勢を保ったまま、彼らは移動する。入口の、付近へと。 「なッ――」 先程、陣形の維持を考えると封鎖は出来ない……とは言ったが。 逆に言えば全員で移動するならば問題無いのだ。陣形を維持しつつ、その陣形展開地点そのものを入り口側に移動させていく。少しずつ。ほんの少しずつであろうとも。封鎖の道は成されていき、 「ッ、お! 舐めた真似しやがって!」 故にこそ防ぎに掛る。唯一の出入り口を、最初は開けて居た上で己らが入った後に閉じに掛るとはなんとも舐められたものだ。一斉攻撃の指示を出し、佐々岡自身も武器を抜き放って。疾風の如き一閃を繰り出しながら、リベリスタ達へと攻勢を掛ける。生み出し続ける影人を壁にして。 「ぐッ、くそ……! このままじゃあよぉ……!」 さすればその攻勢。火車が声を挙げる。 無数に襲いかかってくる敵の姿とその攻撃の嵐を見据えて。顔が歪む。どうしても、歪んでしまう。 ああ駄目だ。このままでは駄目だ。このままこんな状況が続いてしまったら―― 「しまったら――よぉ、テメェら全滅出来ちまうじゃねぇかァアアアッ!!」 轟音。炎波。大一喝。全てを薙いだ。 吹き飛ぶ影人が木っ端の様に。炎に塗れて砕けて消える。その様が皮切りなのかは分からないが、 戦況傾く、音がした。 ●“努力” 「フッ――!」 入口の封鎖が完了した拓真が眼前。疲弊している様子のフィクサードに剣撃一閃。彼だけは己を満たす闘気の循環で、他の者よりも気力の消費が薄い。故に全力で踏み込み、敵の腹に掌底。身体がくの字に曲がった所に、逆手に構えた剣撃を斬り込ませれば、 「入口から入ってくる敵はもういまい――後は中だけだ! 往くぞ!!」 倉庫の奥を見据えて狙う。具体的にどれだけの敵が外にいたのか把握していないが、外から接近する敵の姿は視えない。事ここに至って出し惜しみする様な余裕が敵に無い以上、残る敵は中だけと推測。前進を行い始める。 「ふむ。確かに、取りこぼしは無さそうだな。 ……あぁ、そう逃げようとするな。つれないな。ゴミは綺麗さっぱり無くなっていけ」 ユーヌも増援が無い事を確認して中に目を向ける。さすれば居たのは、無理やりに突破して逃げようとする一部のフィクサードだ。チンピラ上がりでは度胸も無いか。 投げる。神秘における閃光弾、注意をこちらに寄せ付け引き付け。逃がしはしない。片を付けようと。 「ぐ、ぉ、なん、なんだと……? 馬鹿な、俺の努力がどうしてこんな所で……!!」 「努力ですか。ええ、まぁ。確かに、貴方は努力したんでしょうね。 ですがその努力で一体何人が犠牲になったと思っているんですか」 聖の言は過去の犠牲者に思い馳せての事。 佐々岡の行動によって幾人犠牲になったのだろうか。こんな下らない努力に巻き込まれて、何人が。 「因果応報。あんたらのその地味な努力、しっかり評価してやんよ」 ただし評価するのは地獄の閻魔である。彼の立場的には地獄の神と言った方が正しいのか。 どちらでも構わない。どの道ここで一度評価と言う名の裁きを受けて貰うのだから。ユーヌが引き付けた連中を優先して連射を再開する。こうなってしまえば気力が消費したように“見せる”必要は無くなった。個人攻撃から再び蜂の如き連射を敵に叩きつける。 ただ、全てが全て実際に演技では無い。ジャガーノートのある拓真はともかく他のメンバーに気力を回復する手段は無いからだ。消費はそのまま。強いて言うなら唯一節約可能な、 「さぁって。体力回復させるのもなんか板についてきちゃったわよね――ま、いいけど」 シュスタイナぐらいは別だろうか。彼女の翼による攻撃は低燃費。味方の身を癒す事にだけ消費を考えるのならば、まだまだ十全に彼女は動く事が可能だ。本職的には回復よりも攻撃だが、回復も昨今すっかり慣れてしまい。唐突な奇襲にも対応すべく集音装置を使い続け、警戒前進する。 また、彼女の身は聖が警戒している。問題はなさそうだが、回復手たる彼女が狙われる可能性を考慮しての事だ。警戒するに越した事は無く、いつでも動けるように彼は気にとめて居る。全く持って盤石である。 そうして奥へ進めば――あるではないか。大量に溜められた金と白い粉が。これでもかと言う程に。 「あぁこれが貴様らの成果か。努力は実った、おめでとう。熟れた果実の行く末は落ちるだけ。 腐った果実は土へと帰る。後は肥料に……いや、貴様らの努力は肥料にもならないか」 もう一度言ってやろう。ゴミの末路はただ一つ。 ――綺麗さっぱり消えて行け。 最後の玄武の力を顕現させる。僅かに残った影人全て。術者諸共波に呑み込み下して壊して。もうマトモに残っているのは佐々岡程度。だから、 「薬なんざやる方にも問題があるもんだ。 だがな……火種がなければ火は発生しない。“無い場所に持ちこんだ”奴の責は言うまでも無いだろう?」 ついに、鷲祐が佐々岡の身に肉薄する。 一歩の跳躍が速い。敵の反応を置き去りに、言葉と共に駆け抜けて。 「言い換えようか。……おれはその“努力”は嫌いだ――認められんよ」 超速の勢いから一撃。佐々岡の身に叩き込む。 彼を守る駒も壁ももう存在しない。気付けば何人だ。残っているのは何人だ。疲弊は多く、動けるか怪しい者を含めても片手で数えられる人数しか確認出来ず。 もはや、もはやこれでは。消費や傷付くよりも先に、 「づぉおおあラァああああッ!!」 絶望の思考を振り払うかのように。高速回転するチェーンソーの刃が鷲祐の身を穿つ。 肉が削れる骨が削れる。狂乱の如く、滅茶苦茶に振り回した一撃ではあるが――近くにリベリスタしかいないのならば、彼らのいずれかに当たるのは必然。削る音は鈍く響いて。しかし、 「シュスカ! 炎ぉ合わせろよぉ!」 「ええ、サクッと決めましょう!!」 火車とシュスタイナの二人の連携が輝く様に繋がる。 炎と炎。似通った、しかし別種の炎が二つ。佐々岡を狙って突き放たれて。彼の身をくぎ付けにする。 直後。火車が地に転がる麻薬を、佐々岡の口にぶち込んで。 「自分から手ェ出すくらい好きなんだろ? 何が何でもヤッて貰う。だからよ――天国みてこいや」 右腕アッパー。顎をカチ上げ口内粉塵。 悲鳴が響く。焼けるような感覚が佐々岡の口から喉へ。天にも昇る感覚と同時に。 麻薬の山に倒れ伏す。 「あぁ全く」 無様に倒れる佐々岡から目を逸らし。シュスタイナは呟く。 密閉の倉庫内では臭いが籠る。だから戦闘なんてしてしまえば、 「身体が煤臭いわ――さっさと帰って、シャワーを浴びたいわね」 洩らした言葉は本音の一言。燃える薬が消えて行く。余分な成分を吸いこんでしまう前に退避してしまおう。何。後の事はアーク本部が幾らでも処理してくれるだろうから。 努力は報い、報われ。果たして誰の努力が幸いなのか。誰の努力が真に報われるべきなのか。 果たして、神がいるのならばなんと応えられるのだろうか。分かりはせぬ、が。 「まぁ……こいつの下らない努力だけは、こういう“報い”が妥当な所だったな」 ユーヌの言葉が静かに漏れる。視線の先には影人を構成していた符の残骸。 宙を舞う。ソレを手で払い除けて、燃え盛る薬の残骸後ろに外へと歩き。 吐く息それは、白かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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