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100%になる依頼

●ことのほったん
「……どうしましょうか、先輩」
「どうしようか、後輩」
 アーク本部地下、VTSモニター室の中で、二人の男性が途方にくれていた。
 呆然と二人が見るモニターに映された光景は、まあ長閑と言って良いものなのかもしれない。
 例えば、ぽかぽかとした陽だまりでお昼寝してる熊が居たり。
 その上でとぐろを巻きながら日光浴してる蛇の周りを、狐と鼠がちょこまか走り回ってたり。
 そのちょっと向こうでは、種類も翼の色もまちまちな沢山の鳥が、少し大きめの蜘蛛と猫に混じってじゃれ合ってたり。
 かと思えば、大量の家電製品や、良く解んない電子機器が粗大ゴミか何かのように一緒くたに集められてたり。
 それでもまあ、これだけ多種多様な動物やら機械やらが集められている場所においても、未だ争いが起きていないという点においては、少なくとも長閑な光景である。と二人の男は自分に言い聞かせていた。
「……見なかったことにしちゃ駄目かなあ。後輩」
「あの全部に追い掛け回される覚悟があるんなら試してもいいんじゃないでしょうか。先輩」
 ――気づく人はそろそろ気付いたであろう、VTS内の『彼ら』を暫く呆然と見つめていた男性のうち、先輩と呼ばれた男が、どことなく虚ろな目をしながら言う。
「……リベリスタのみんなに、対処お願いしてこようか。後輩」
「減給と謹慎喰らおうと命が大事ですからね。先輩」

 ……この数十分後、アーク内のリベリスタは降って湧いた『問題』の対処のため、ブリーフィングルームに集められることとなるのである。

●たいしょいらい
「……まあ、心掛け自体は立派だったんですよ。彼らも」
 それだけは理解してあげてください。と言う津雲・日明(nBNE000262)に対して、ブリーフィングルーム内のリベリスタらが疲れた表情で息をついた。
 眼前には先の男たちが見たものと同じ映像。大量の動物やら機械やらがVTS空間内でのんびりしてる光景である。
「……要するに、獣化度やら機械化度やらの調整法の研究がトラブったと」
「はい。既にお分かりの通り、今仮想空間内でのんびりしてる彼らはほぼ全員がビーストハーフかメタルフレームです」
 ――基本的にアークは崩界の阻止を目的として動く組織ではあるが、それ以外にも優先度が低いながらに行っている研究は多々存在する。
 今回の案件はその内の一つ、『獣化、機械化した革醒者の進行度、部位の調整』という研究中に、VTS内で起きたトラブルが元だという。
「まあ、革醒者の人権を基本的に認めているアークからすれば、大きな課題の一つとは言えますからねえ。
 彼ら二人の研究者は、これを解決すべく様々な実験を行っていました。流石に本当の人体実験なんてものは出来ませんから、希望者をVTSに移して色々と」
「その過程で、これか」
「これです。『獣化、機械化の調整方法』を探している彼らは、そもそもの問題から『獣化、機械化とは何故起こりうるか』と言う研究にシフトしてしまいました。
 我を失った研究者に有りがちな、手段と目的の迷走ですね。……で、今回その研究の為、VTSに送り込まれた我らリベリスタの皆さんは、一時的にシミュレートの応用で獣化、機械化度を100%にされてしまったわけですが」
 ――その状態のまま、現実世界に戻らなくなった、と言うわけで。
 阿呆か、と頭を抱えたリベリスタに対して、対する日明は苦笑交じりで言ったものである。
「まあ、問題と言えば問題ですが、これに対する対処はそれほど難しくないんですよ。
 彼らは現在獣化、機械化に引きずられて、意識が『そっち側』に引っ張られているだけなので。それを引き戻す方法を取れば、割合簡単に自意識は戻ってくれます」
「具体的には?」
「ぶっ飛ばすか、心を込めて説得するか、ですね」
 えらく分かり易いプロセスである。
「ただまあ、この状態で戻るのは意識だけです。見た目は元に戻りません。
 現実世界への帰還は今から三時間後、それまでに自我を取り戻した人を対象に行われます」
 言葉にすれば割合簡単な任務に聞こえる。
 が、それがそのまま済むはずもない最大の理由に関して、リベリスタが最後に問うて。
「……それまで、身体が戻らない奴はどうすれば」
「……まあ、映像、画像記録は残さないんで」
 ――そっと目を逸らした日明の解答が、全てを物語っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月04日(火)23:02
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
VTS内のビーストハーフ、メタルフレームの自我を三時間以内に取り戻す

場所:
VTS空間内。何も無い広い原っぱです。人の多い場所から離れて二人きりの空間を作ったりとかも可能。
時間帯は昼。太陽の光がぽかぽかと暖かいです。

対象:
『ビーストハーフ&メタルフレーム』
VTS内に存在するビーストハーフとメタルフレームです。主に本シナリオ参加者が対象ですが、NPCモブリスタも在り。
進行度が100%状態になっており、見た目は只の動物か機械です。(アウトランドの人は深化元となった動物の姿になっております)
下記『他参加者』側から見て、どの動物、機械が誰であるかは、現実世界側からナビゲートして貰えるのでご安心を。
シナリオ開始当初は獣化、機械化元となった形質に本能が従ってますが、他参加者が一発叩き込むか、ちょっと説得するかで即座に自我を取り戻します。喋ることも可能。
が、身体まで元に戻ることは無く、少なくともシナリオ開始から三時間後までは自我が戻ってもそのままです。逃げ回るなり、可愛がられるなり、お好きにどうぞ。

『他参加者』
上記に当てはまらない種族の参加者の方々です。
基本的に上記種族の方々の自我を取り戻すことが目的ですが、それ以外の行動をとっても構いません。本当に何となく日向ぼっこに来たりもOK。
但し、映像や画像を保存して弱みにしたりの行為に関しては、アークの研究開発室が目を光らせております。ご注意。
因みに、こっそりと津雲・日明(nBNE000262)が参加しております。主にNPCモブリスタの方々を戻しておりますが、絡みたければご自由にどうぞ。

その他:
『イベントシナリオのルール』
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
津雲・日明 (nBNE000262)
 


■メイン参加者 19人■
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ビーストハーフソードミラージュ
閑古鳥 比翼子(BNE000587)
メタルイヴプロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
メタルフレームクロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ビーストハーフホーリーメイガス
伏見・H・カシス(BNE001678)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
アウトサイドプロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ビーストハーフクリミナルスタア
オー ク(BNE002740)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
メタルフレームクロスイージス
鎧 盾(BNE003210)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
ビーストハーフレイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
ハーフムーンレイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
メタルフレームスターサジタリー
街野・イド(BNE003880)
ギガントフレーム覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)
   


 昼日中の陽光に包まれた草原は長閑なものである。
 清清しいほどの空と、微風を受けてそよぐ草花『だけ』を見れば、其処は昼寝でもするには心地よい空間だったろうが。
「――――――」
 一角に視線をやれば、種々様々な動物やら機械やらがだだっ広い草原を駆け回ったり鎮座してたりするこの光景は、まあどう見ても休まる空間には思えない。
 ――数十分前。アークによるVTS空間での機械化・獣化の実験に於いて発生したトラブルは、このように協力したリベリスタの殆どを人外化した状態のまま、元に戻してくれずに居る。
 その対処のために送り込まれた者たちをしても、それが容易ではないことなど自明のことだ。
「有益な実験と思って参加したんだろうが、まったく、あいつも運が無い……」
 機械化した友人を元に戻すために訪れた風斗の言葉が、対処班のほぼ全員が抱いた感想であるのは言うまでもない。唯一の相違点を挙げれば、それが彼我の双方に言うか一方に言うかであるかだ。
 居並ぶ変化したリベリスタの中には猛獣も居れば、なにやら危険な機械や、一見したところ何をしでかすかわからないような代物も存在する。
 まっとうな人種であればあまりお近づきになりたくないであろうが、かといって放っておけばアークの貴重の戦力は永遠に失われたままであるし、当人の人権が無視される事態になり続ける事は間違いない。
 ――斯くして。
 予想だにしないトラブルに巻き込まれた被害者たちと、その対応に追われることとなった被害者による任務は、音も無く始まりを告げたのである。


『あれ。いつもより視界が広いです。
 それに高い。うわあ……ずいぶん遠くまで見通せます』
 草原を悠々と歩く羊ことカシスは、何だかちょっと得意げに自分の変化を楽しんでいた。
 ちょっとだけ重くなった頭を除けば、以前よりちょっとばかり強くなった身体と広がった視界、何より好きなだけご飯(=草)を食べられる環境下にも非常に満足している。
『この体ならいつもより走れるかな……。思いっきり勢い付けてみよう』
 四足を伸ばして、蹄をしっかりと地面に当ててぱたぱたと走り始める。
 草原を駆け抜けて、太陽の光とささやかな風を楽しもう――と思った矢先。背の辺りにぽすんとなにかが当たる感触がする。
 はて、と軽く身体をゆすれば、背中から黄色い何かがぽとりと落ちてきた。
 ひよこである。
 正確には、比翼子である。
 振り落とされたそれは一瞬だけカシスと眼を合わせた後、はっと我を取り戻して再び彼女の背中に上った。
『おおきないきものがたくさんいる! あたしよりおおきいなんてずるい!
 のっかれー! つっつけー! どうだ! こわくてこえもでないか!』
『……』
 ふかふかの羊毛を小さな嘴で突っつく比翼子を、再び身体をゆすって落とすカシス。
『みよ! このうつくしいからだ!
 あたしこそこのせかいでいちばんつよいにちがいない!』 
『………………』
 再び背中に移って小さな翼を広げるひよこを、またしても身体をゆすって落とすカシス。
 このやりとりを見守っている一般リベリスタが何時助け舟を出すか見守っているほのぼの空間に比べて、別のグループでは安穏ならざる空気が流れていることも珍しくは無い。
 例えば。
「フヒッブプギブップフゴフッフ! フゴキュキャプップブーヒフフン!」
「――――――」
 オー クと盾のコンビとか。マジで。
 それまで泥遊びに本気で臨んでいた豚と無言で佇む中身の見えない鎧とかB級ホラーのアレである。周囲の動物やら機械やらも本能的な恐怖によってか近づこうともしない。
 一応、誤解無きように言っておくと、この二人、つい先ほど一般リベリスタによってしっかり意識を取り戻している。が、
『お、おい……なンなんだよ! その……捕食者の目はよ!
 こいつら……普段からあっしの事を豚足だのミンチだのと言ってやがったが…!』
『身体が全て鎧甲冑になった状態でどう動くのか、中身はどうなってるのか、興味があるが……』
 見た目相等の姿に落ちたオークの恐慌(被害妄想と言えないのが何とも)に合わせて、それに一切のフォローもせずに自己考察に埋没してる同コーポメンバーによって、寧ろ意識を取り戻す前よりカオスに成りつつある状況である。どうしようこれ。
『うぉおおおお! こンな姿のまま殺られてたまっか!
 村や町や王城に美少女や人妻や女騎士があっしの戦火を待ってるンだ!』
『……ひとまず考察はさておき、撮影に従事するか。なかなか面白いものが撮れそうじゃないか』
 一人ビビって逃走を始めたオークを追いながら、周囲の動物やら機械やらに変じた仲間達の写真を撮っていく盾の姿は、その後VTS解除まで各所で見ることが出来たとか。写真は速攻削除されたけど。
『……ふむ。……暖かいから、寝よう』
 そうした獣とか機械とか人とかの喧噪を遠目に見遣りつつ、のそりと日向ぼっこをするのはコモドオオトカゲこと鷲祐である。
 体長3mにもおよぶ巨大な身体を緩慢に動かす彼からすれば、自身の強さを自覚している分、どんなトラブルが舞い込もうと対処できる自信は有るのであろう。
 それにくらべ、周囲をきょろきょろと見回す羊こと光介は、鷲祐とは違った意味で自身の力量に気付いている分、安全圏を探すのに必死である。
『何せこの世は敵だらけ。弱肉強食、食物連鎖。自然の摂理は苛酷です。
 アルガリみたいな大羊さんは別として。ボクみたいな仔羊は逃げるしか能がないのです』
 元の姿だったら溜息でも吐いていただろうもこもこの動物は、漸く落ち着けそうな場所を見つけて一安心――する寸前。
 むぎゅ、と何かを踏んづけた感触に気付き、其方に視線をやる。
『……あっ羊』
 踏んだ尻尾の先にいた鷲祐と、ばっちり目と目が合ったりして。
『……Oh……my God……』
 ――運命の出会い(被食者と捕食者的な)を果たした二人が自我を取り戻すまでどうなるかは、まあ、想像にお任せするとして。


「うふふふ、うふふ、うふふふ……
 ドっ、ドっ、ドラムかん……おっ、おっ、おす、おす……」
「……もしもーし、えーと、中村さんですか?」
 再び、視点は別に移る。
 他の一般リベリスタの手伝いに回っている日明の前に鎮座しているのは、着物を着て喋ってる白いドラム缶と変化した夢乃だった。正直この解説だけでも相当アレだと思う。
『自我ってなんですかそれ。ところであの、動けないんですが。
 ……誰か、押してくれませんか……?』
 何やら自分では動けないらしきドラム缶の自我を取り戻すべく、ひたすら声をかけ続ける日明の横を、ひゅっと大きな影が過ぎる。
 見えたのは大きな犬型ロボット。黒いカラーリングと所々が尖ったデザインに、ワンポイントのように巻かれた首の赤いマフラーが印象的である。
「あ、コヨーテさ」
 日明が言い切るより先に、犬型ロボットことコヨーテは目の前のドラム缶目掛けてがっしゃんがっしゃんと突進を仕掛けた。
 先にも言ったとおり、自分では動けない姿となった夢乃である。
『目がっ目がっ!? 目が回……うぷっ、気持ちわるっ……!』
 がたーん、と倒されたドラム缶に乗っかってごろごろと転がし始めたコヨーテの姿は、玩具に喜ぶ室内犬さながらというか。
「あの、コヨーテさん? その方、中村さんなんで! お仲間です! お仲間!」
 流石にヤバイと感じた日明が彼に向けて声をかけたり、何度か身体を揺すっていく内に、両者の自我も戻り始めた。のだが。
『えっ、コレがオレ……? すっげェ、超かっけェ!』
 自我を取り戻す前とあんまり変わらないコヨーテによって再び転がされ始めた夢乃共々、二人の影は何処かへ消えていく。
 其れを呆然と見送った日明が、役目は終わったからと目を逸らしたのは、こう、致し方無しというか。
「……壱和さん、分かる? 私はシュスタイナ。貴方のお友達よ?」
 打って変わって、再度ほのぼのエリアである。
 変化した壱和を元に戻すべく参加したシュスタイナは、小さなヨークシャテリアと変化した友人と視線を合わせたまま、何度か言い聞かせるように言葉を紡いでいた。
 それまでは尻尾をぱたぱた振って彼女を見つめていた壱和も、時間と共にその瞳に理性の色を取り戻し、今ではすっかりと元の意識を取り戻している。
「……わ。シュスカさんが大きいです」
 ちょっとだけびっくりした子犬は、その後に『友達』と発した言葉に照れているシュスタイナに鼻先を近づけたり、ぐるぐると周囲を走り回ったりと、普段に比べて実に忙しなく動いている。
 自らの手の甲にぽんと肉球を当てて、お手をチャレンジする壱和を見ながら、シュスタイナは「可愛くて困るなあ」などと口の中で呟き――思い切って、その細腕で子犬となった友人を抱きしめる。
「……たまにはいいでしょ」
 言って、二人揃っての日向ぼっこを始めたシュスタイナと壱和は、互いに小さく笑みを浮かべる。
 一方、壱和達に比べて上手く行かない仲良し二人もまた、漸く落ち着きを取り戻した具合であって。
「え、えらい目に遭った!」
「……うむ。本能とは、恐ろしいものだな」
 アークが認めるリア充筆頭、木蓮と龍治である。
 かたや牡鹿の角を生やした牝鹿、かたや右目の潰れた白銀の狼を、一見異彩を放つ荘厳な二頭の獣だが、その胸中と言えば実にほのぼのとしている。
 自我を取り戻すまでは正しく獲物と狩り手であった二人は、それこそ本気に近いレベルで追いかけっこをしていた。
 ……のだが、それが捕食の為ではなく、何処か恋人同士の追いかけっこに似た感じすら得られたのは――気付けば龍治の方に近づいてた木蓮とか、一息に捕らえず、緩急を付けて追いかけ回す龍治とかの、獣の本能に因らない行動が多々あったためだろうか。
 姿形や心まで変わろうと、それを超えた思慕の情を抱く二人である。自我を取り戻せばそれはより顕著となろう。
『……しかし、何だろうか。木蓮が、とても旨そうに見える。人の肉を喰らう趣味はないのだが』
「龍治もマジお疲れさ……ま……、……お、俺様の首に何かついてる?」
 ――微妙に危ういのも、まあお約束と言うことで。


 漸く、短いようで長かった対処班のお仕事も、終わりが近づいてきた。
 危険な種族や機械に変化した者達の対処も大半が終わってきている。
 その立役者足る『彼女』は、そうして今正に最大の障害への対処作業に勤しんでいた。
「識別コード該当ナシ。Unknownヲ敵性ト認識」
「……普段通りでない、のが少し残念、だね」
 攻性兵器を備えた人型ロボットに変化した快と、それへ果敢に躍りかかる天乃。
 一部危険な空間もありはしたが、何か次元の違う戦いを繰り広げている両者は、少なくとも現状を不快には思っていないご様子で。
「FCSリンク開始。SRM6レディ……ファイア」
 快がボディの各所から発射した小型ミサイルを、或いはかわし、或いは得物で迎撃する。
 強力と言えば強力だが、あくまでも通常の兵器の範疇とされた快に対して、対する天乃はこの世ならざる力――E属性を介した能力をふんだんに使用している。
 決着はそう遠くなかった。各種兵器の間を縫うように近づいた天乃がロボットとなった快の額に当たる部分に毒の口づけを交わせば、派手なショート音と共に彼の意識も取り戻される。
「おはよう……目、覚めた?」
「ここは、『おれは しょうきに もどった』とか言うトコ?」
 笑みを交わした二人の、力に物を言わせる作戦によって、作業は一気にスピードを上げる。
 ――そのかたわらで、ぽつんと。
 お昼寝のフリをしている黒猫ことレイチェルは、直ぐ傍にある奇妙な機械にじいっと視線を送っている。
 対する奇妙な機械……彩歌の方は既に自我を取り戻しており、黒猫の視線を一身に浴びながら胸中で延々と思考を繰り返している。
『というか、この状況は拙いわ』
 具体的には、今、裸だ。
 円錐を乗っけてアームを生やした金属形が思うには微妙に的はずれとも言えようが、当の本人は大まじめである。
 一先ずくっついてるアームで適当な人でもどついて服をかっぱらうか――などと考えている彩歌に対して、近づく黒い影。
『しっぽ! しっぽ! しっぽしっぽしっぽうわああああんん!!!!!』
『……』
 目の前を、ベルカが横切っていった。
 自分の尻尾を追いかけて本能の侭にぐるぐる走り回り続ける彼女は、その最中にレイチェルらの視線に気付いたのか、はっと動きを止める。
『わ、私はいったいなにを……いや、確か、実験に参加したのだった。
 技術発展に協力するのはやぶさかではないが、よもやこんな事になってしまうとは……とは……』
『なにしてるの、たのしいこと? わたしもまぜて!』
『………………』
 再び視界にちらつく自身の尻尾を追い始めたベルカの奇行に対し、好奇心に目をきらきらさせているレイチェル。
 何の気無しに彩歌がアームをぐいんと回してみれば、それに一旦はびっくりして飛び退く黒猫。
 が、暫くするとまた寄ってきては、今度は四角形の本体を興味深そうにてしてしと叩いている。
 どうしよう、と悩む彩歌をよそに、何かのスイッチでも押したのか、ボディからDVDドライブをういーんと出したレイチェルは、再度目を輝かせ始める。
『うわ、内臓が出たみたいで嫌な感じ……』
 悪寒に身を震わせていれば、遂に目を回したらしきベルカが、ちょっと離れた池に身を落とす姿が確認できた。
 早く元の場所に返してくれないかなーと言う思いを、この場の誰よりも深く抱いた彩歌であった。


「……なるほど、こうして見ると、普段どんなに人間性が希薄に見えても、それなりに『らしく』なってたんだなあ……」
 期限となる三時間、その少し前。
 周囲の混乱に時に巻き込まれつつ、時に迂回しつつと時間を取られた風斗の前に立つ友人――イドは、その姿を完全なロボットのものと変えさせていた。
 人工皮膚や、硬質な瞳などが目立つが、大まかに見たシルエットは、元とさほどの齟齬は見られない。あるとすれば、それは中身の方だろう。

 I、私は機械
 I、私は人形
 I、私はアークへの奉仕を命じられた“モノ”

「……目を覚ませ。お前はイド。オレの仲間で、大切な友人だ。」
 苦笑を浮かべて、頬を軽く叩いた風斗に対して、イドは――ある種、頑なにも見えるように――返事ではなく、応答を返す。
「こんにちは、リベリスタ。命令の入力をお願いします」
「……命令だ?」
 歎息を吐いて、彼は「じゃあ、命令してやる」と言う。
「人として生きろ。他人の命令より自分の気持ちを優先しろ。あとおいしいコーヒーを煎れられるようになれ」

 N、私は人ではありません
 N、私は“気持ち”を持ちません
 Y、貴方の美味しいと判断するコーヒーの為に、行動を開始します

 幾度も、繰り返した言葉だったろう。
 対するイドは、其れに逡巡無く答えを返して、その後に。
「……お手数をお掛けしました、楠神さん」
 嘗ての在り様から、少しだけ剥離した意思で、イドは応える。
 差し伸べた青年の手をとって、二人は、電脳空間からの帰還を果たした。 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れさまでした。
初イベシナと言うことで、中々難しかったですが、同時に楽しんで執筆できました。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。