● そこは、大きな声で言えないご趣味をお持ちの殿方の欲求を満たす所だったのだ。 「スプーン、スプーン、かわいいスプーン」 かわいらしい声で少女は歌う。 つい先ほどまで、彼女の方が震えて許しをこう役だった。 運命とは皮肉だ。 身分的強者は絶対的弱者に、身分的弱者は絶対的強者に。 純粋な暴力は、全ての洗練された力関係を無意味にする。 殿方を守っていたモノは全て少女によって無力化された。 血の臭いと汚物の匂いが辺りに漂う。 そもそも殿方の口から顎、突き出た腹にかけて、彼の吐瀉物がついたままだ。 少女は、そんな臭いは気にしない。 そういうのには、もう慣れてしまった。 椅子に巨大な尻の十分の一がかろうじて乗っている。 拘束具のついた椅子は重量オーバーを警告するようにぎしぎしときしむ。 男は、目を見開いている。 閉じられないのだ。 特異なご趣味は、強制的にまぶたを固定するグロテスクな器具まで必要とする。 もっともそれを自分に使われるのは初めてだが。 「おじ様のおめめは変わった色で素敵ね」 少女は、本心からほめている。 何のことはない、加齢による黄班で黒目が黄色がかっているだけだ。 だが、それは少女にはたいした問題ではない。 少女は、その目玉の色が気に入ったのだ。 「だから、私を下さいね。大事にして、かわいがりますから」 びしゃびしゃとその目に目薬が垂らされる。 麻酔薬だ。動きが止まる。せめて、視線をそらすことも出来なくなる。 近づいてくるスプーン。スプーンは、スプーンだ。 カレーをすくうには小さいが、砂糖をすくうには少し大きい。 「スプーン、スプーン、かわいいスプーン」 少女は歌う。 「私にお友達をくれる、素敵なスプーン」 ● 「縁は異なもの。おっちゃんもそんなもの持っていかなければ、その女の子を指名しなければ、そもそもそんな趣味でなければ――」 意味のない「たら」と「れば」を羅列する『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)の顔色はすこぶる悪い。 「うえっ」 口元にハンカチで押さえて、えづく。いつもは菓子をくわえている口元。 ハンカチから強烈なミント臭。 「アーティファクトによって革醒したフィクサードの討伐。及び、アーティファクトの破壊か回収。更に、アーティファクトによって発生したE・アンデッドの討伐」 てきぱきと紙の資料を配る。 「現場は、狭くはないけど、敵の数が多い。目玉を抜かれた男のアンデッドが三体。二人は拳銃持ってるし、格闘技の心得もある。もう死んでるから、目玉がないのはハンデにならない。でぶいのは、力持ち。押しつぶされないようにね」 四門は、それと。という。 「目玉に手足が生えて、高速で動く、例えて言うなら、ムササビみたいなのが2かける3で六体。これは、スプーンの影響で擬似生命を得ている。スプーンを破壊すれば元の目玉に戻るけど、アーティファクトって頑丈だから。得手不得手もあるだろうし、どっちを先にやるかは現場の判断に任せる」 更に真打。と、四門は続ける。 「そんで、フィクサード。女の子。事件前までは、いたいけな被害者。今はとりあえず三人殺した。スプーンはこの子が持ってる。このアーティファクトに自律性はない。彼女はスプーンが囁くのとか言うけど、信じないで」 銀のスプーンをくわえて生まれてきた子は幸せになれるの。 「フェイトを得たのは幸せなのかな。でも、この子を取り逃がすと不幸せな人が増える」 行ってらっしゃい。と、赤毛のフォーチュナはリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月20日(月)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 秘密倶楽部なんてところに通う奴にろくな奴はいない。 やけに空調が効き、無駄に豪奢なつくりの通路を急いでいる。 「すごく……ぶ、不気味な場所。さすがに中々足を踏み入れない場所だしね」 『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が二の腕を両手でこする。 暖かいはずなのに、底冷えがするのは地下だからではない。 足元の空気がよどんでいるのだ。どれだけぬぐっても取れない何かが。 ここは、それなしでは生きられないもの達の遊戯場だ。 「全く、しょうもない変態はどこにでもいるわね」 『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は、冷静だ。 この程度のことには慣れきっているのか、それを表に出さないのか。 激動の時代に練磨された彼の本質を人形然とした容貌が煙に巻く。 「……というか、なんかエースっぽい人多くないです? エリエリ後ろでじっとしてていいです?」 『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)は、居心地悪そうに呟く。 友達の『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)が出向くというので、一肌脱ごうとついて来たのだ。 かなり受身の存人が、カギャク少女にやられてしまうようなことがあってはいけない。 友を案ずる心、プライスレス。 「ねえ、尖った趣味に奉仕って言葉で誤魔化していても本当は嫌だったんじゃないのかな? 傷つけさせられて傷ついて」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、聞くともなく口にする。 そうしなければ、生きていけない環境。いや、嬉々として殺される環境。 渡された資料には、倶楽部で行われていたことがごく散文的に記されていた。 夏栖斗と養父が出会わなければ、今頃夏栖斗もここの一角に部屋を与えられていたかもしれない。 あの時は、子供の一人や二人消えようが誰もその後を追えはしなかった。 「だから暴力に暴力で返す、そんな生き方しかできなかった。そんな思考にしか到達できなかった彼女を責めるわけじゃない」 「おめめ抉るのは悪い事です! 目は一生ものなのです! 視界がないと割と大変なんだから!」 右目をすでに喪失している『骸』 黄桜 魅零(BNE003845) が言うと説得力が違う。 ないものを生やしてくれるほど高位な存在への接触に成功した者はいない。今のところ。公には。 熱く主張する魅零に、『情死する白花』黒縄 滸(BNE003623)は、ノーコメントだ。 (抉りぬくことに抵抗があるかと問われれば否であり、俺自身もそれを魅力に感じる部分は少なからずありますから) 17番の扉が蹴破られる。その部屋に『備え付けられている』 から、17番。部屋には少女が付き物だ。 スプーンをしゃぶるランジェリー姿の少女と、血の涙を流しながらニヤニヤ笑いを浮かべる三人の男の死体と、六匹の変質した目玉が、招かれざる客を迎える。 豪奢な内装に、いわくありげな拷問器具。 壁には剣や斧がディスプレイされ、刃の曇り具合がそれが装飾品ではなく実用品だと告げていた。 ● 「何も喋らないお友達は、嬉しいものですか。其れとも普通のお友達を知りませんか」 『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)は、憂いを含んだ目で17番を見る。 はかなげな微笑。蝶や小鳥でも飛んでいれば絵にもなったろうが、17番の周りを飛んでいるのはムササビのような目玉の成れの果てだ。 「一緒にいたいと思い合うのをお友達なら、ここではかなわぬ夢でした。この子たちなら、一緒にいてくれそうじゃありませんか?」 ついっと飛眼が空を滑った。床に滴る水滴。擬似生命体は泣くのか? 潤んだ目と血走った目。黄ばんだ目はサーのものに違いない。 「私はとてもさびしい人間なのです」 「でも、だめだめ。俺はあんたに賛同できません」 滸は、体内のギアを切り替えた。世界は相対的に低速となる。 滸は律儀な男だった。 「その飛ぶ眼と、あと、そのスプーンが気に入りません」 きちんと理由を言う。 17番は、滸と同じスプリット・タン。 二股に分かれた舌は、滸の場合神秘による変化だが、17番には奉仕の一環だ。体の柔らかな部分に無数のピアスや錠前。外に逃げてもすぐ分かる。 夏栖斗の眉が、痛ましいものを見るようにしかめられる。 (できることなら捕縛してアークに連れ帰る。暴力だけじゃない世界があることを知ってもらいたい。まだきっとやり直せる) フィクサード組織に育てられ暗殺者として飼われていた少女が、アークで保護されリベリスタとして活躍している。 そんな一人になればいいのだ。――そう、学校に行って、友達を作って。 革醒して、フェイトを得られたことは幸せの第一歩なのだ。 ● 「さて、幸せというのは何だろうね?」 地脈に働きかけ、リベリスタに利する結界を張り終えたストロベリーブロンドの髪を揺らして、『奇譚騙り』高槻 オリヱ(BNE000633)は小首を傾げる。 金盞花色の瞳が、死体の向こうにたたずむ少女に問うでもなく向けられる。 「まあこの場所はそれにほど遠くあるように思えるけど、誰かにとってはそうじゃなかったのかも知れない」 戦況を見定める作業を終えた存人が応じる。 「趣味に生きて趣味に死んだと言えば聞こえはいいですかね。俺は好きな人になら多少痛い事をされても平気ですけど、好きでもない人にされるのは嫌でしょうね」 気に入りの少女に殺された彼の幸せを計る秤はない。 「人の目玉を抉るのは、悪い子です。彼女も彼らも、どちらも」 ドムドムドムと打ち込まれる銃弾。 目のない男が前に立つ夏栖斗の挑発は、死者の怒りを誘発する。 「いっちー。そっちはまかせた」 二人の内の片方に、破壊神の加護を背負った壱也が肉薄する。 「りょーかい」 膨れて上がり断裂を繰り返す筋肉を片端から修復する再生者の恩恵。 この小柄な少女の膂力の限界の果てにある一撃がまともにボディガードの腹部に入った。 ぼつんと音がした。 遠心力でちぎれた上半身が後ろに吹っ飛び、鉄の処女に飛び込んでそのまま扉が閉まる。 下半身がしりもちをつく。 「――あっけないな。もしものときは盾にしてやろうと思ってたのに」 部屋の反対側に蹴り飛ばし、壱也は赤い刃を腰だめに構えた。 「気をつけないとね。何を武器にしてくるかわかんないし」 猛烈な肉体再生で、壱也の体から陽炎が立ちこめる。 「悪い子にはお仕置き、そう習わなかった?」 17番の言葉は聞かない。 耳に粘土をつめ、戦った狂戦士のように。 透明な目をした壱也が、17番の周囲を飛ぶ飛眼に狙いを定めた。 だらだらとよだれを垂れ流す、口元にしまりのない殿方の前に魅零が立つ。 「君が全ての原因だって?少女趣味もいいけど、因果応報って本当だよネ☆ どっちが先に細切れになるか勝負しようよ!」 鞘から刀を抜き放つと、あらん限りの呪いを込めて、その肩口に叩き込む。 「お、お、お、おっ」 嫌がっているのか喜んでいるのか、腹を突き出し、だぶついた喉をそらして、殿方は嗚咽を漏らす。 刀の食い込んだところから硬化は始まり、ぼろぼろ砕けて床に落ちた。 生者は、呪う。 死に切れないものに報いあれ。そうやっているのを見せられると、死が恐ろしいものに思える。 「エクスタシーを感じさせてほしかったのに、そっちばっかりずるいなぁ」 それでは、お返しにといわんばかりに、サーは魅零目掛けてダイブした。 「え、そんな」 暗転。 「ぎゃー黄桜潰れちゃう、中身が出ちゃう!!」 肉に潰された魅零の足先がじたばたと動く。 「隙あり」 魅零の腹の上に暖かい感触。 死体の分厚い背中から突き通る槍が魅零の腹に刺さっている。 「うふふ。おねえさん、蝶の標本みたい。髪の黒がじゅうたんの赤に映えて、とてもお綺麗」 17番の方が、蝶のようだ。ひらひら動いてせわしない。 「黄桜、しっかり。傷は浅くはないですけど、ちゃんとフォローしますよ」 滸は、正直者だ。動けない魅零目掛けて飛んでくる飛眼を斬り飛ばす。 あり得ない方向に飛ばされた飛眼同士が激突するのを、瞬きしない目が確認した。 「折角の眼なのに。勿体ない。本当に。こんなものになるなんて。いれものに嵌ってきらきらしてるから、いいというのに。こんなひらひらじゃ、愛でることもできやしない」 存人が概念としての『目』 に執着しているなら、滸は物体としての『目』 に執着している。 「槍、引っこ抜きます。その後引きずり出してあげますから」 「うん、なるべく早くそうして☆」 滸の眼球礼賛は、聞く人を選ぶ。 ● 「あら、やだ、うっかり壊しちゃった」 エレオノーラのアタッシュケースの下でびきびきと音がする。 リベリスタは、部屋の破壊に余念がない。 壁の留め具は叩き壊して、斧も剣も17番とはあさっての方向に蹴り飛ばす。 「いいえ、お気になさらず」 ひゅんひゅんと音を立てて飛眼が部屋の中を飛び回る。 部屋の中央に旋風。 ぱっくりと開いた背中の痛みに、壱也の目が見開かれるが、破壊神は動くことを止めることを許さない。 「当たり損なったみたい。でも、隙だらけですわ」 その傷口に17番のスプーンを握った指がねじ込まれる。 びきびきと力任せに骨から肉を引き剥がそうとするスプーンが、追撃してくる刃を避ける為に引っ込められた。 「私、17番とは相性悪いんですよ」 エリエリは、なるべく距離をとる。 視界に入る皮膜で飛ぶ目玉が乗る空調の気流、方向、次の足場となり得る場所を計算し、軌道を割り出し、最も効率のいい形で、自身の魔力で練り上げた瘴気を部屋全体にぶちまける。 「生身の目玉は嫌いです」 存人の呟きに、滸はもったいないと言う。存人は首を横に振る。 目は口ほどにものを言うから。存人を責めるから。そう思えるから。 「けれど飛眼は大丈夫でしょう。だって此れは死んでいる」 映っているけれど、もう見えてはいない。もう、その目にはどんな感情も乗らない。 ● 「キミ、危ないよ。計算してみて」 オリヱは手を伸ばして、エリエリの肩を指でちょんちょんと叩く。 「オレの勘をちょっと信じて」 滸の刃に狂わされた、白目が血走っている飛眼が、17番に迫る。 もう動かないボディーガードの上半身を振りかざす17番。 ボディーガードの顔に刺さった。それをエリエリめがけて投げつける。 「「邪悪ロリが許されるのはかわいげの一匙があるからです。貴方の行動は、かわいげがない」 それを、巨大な柱で叩き落すエリエリ。殴り系プロアデプトの面目躍如。鼻先ぎりぎりかすめていったのが、邪悪ロリのかわいげだ。 「そんなことありません。みんな、いい子だ、いい子だとほめてくださいました」 17番の穏やかな口調に、かわいげはない。やけにキラキラした目が、その底に潜むどろどろしたものを透けさせる。 「だから、今日まで生きてますのよ?」 笑顔なのに、背筋が寒くなる。 「お前は目が美しいから、きっと心も綺麗なのだろうって」 「騙されないようにしなきゃね」 オリヱは、存人と目を見交わし、頷く。 存人は、手指から滴る血を黒鎖に変えて、部屋の隅々にまでいきわたらせた。 17番に酷使されたボディーガードは、穴だらけになって床に転がる。 魅零を下敷きにしたサーは、魅零の呪いをたっぷり乗せた刀で喉笛を掻っ切られて、その尖った趣味を二度全うすることになった。 「じーちゃん、よけてね」 「夏栖斗ちゃんたら、もう」 仕方のない子ね。と、エレオノーラは言う。 ちょろちょろとリベリスタを傷つけて歩く17番を間合いに収めた夏栖斗は、17番の死角、床すれすれの所から続け様に放たれる武技を飛ばした。 エレオノーラがその場で踊るようにするたびに、飛んでくる拳や蹴りは17番だけを痛めつけ、血の華を咲かせるのだ。 「あ、あぁあ、死んじゃう。もう、死んじゃう――おとうさん、おかあさぁん」 そう言って泣く声は胸を打つ。 だが、その眼は吹き飛んでしまったアーティファクトを探している。 じゅうたんに埋もれた幸せをかき集める為に伸ばされた手を踏みつける滸。 彼は、ずっと17番を瞬きもせずに観察していたのだ。 「眼はとっても素直にものをいうのです。あんたと違ってね?」 オリヱが、そこそこと一点を指差す。 「こんなもの、あるのがいけないんだ」 「世界にあってなんの意味があるっていうの」 壱也と魅零がそれを拾ってへし折ろうとする。 「二人とも、手を引っ込めてください!」 エリエリがスプーンの上に石柱を叩きつける。 床がひび割れ、音を立てて凍りついていく湿り気を帯びたじゅうたんが陥没した。 エリエリの信仰心のごとく、あちこち割れて鋭利になった巨大な打製石器の圧倒的な質量に、華奢で可憐な匙などひとたまりもない。 「手に取るのさえおぞましい」 仲間を穢れから守るように、エリエリは吐き捨てるように言う。 魅零の眼窩に空虚。エリエリの手のひらに空虚。 空虚にそんなものを宿らせてはいけない。 「他人を苦しめて喜ぶ趣味はありませんもの」 (わたしだって、革醒してなければ拷問の末に死んでいたのかもしれない。その点において、拷問者を殺した彼女を責めるつもりはありません) だが、連鎖は断つ。 エリエリの手には、自己犠牲の空虚。 神は見限っても、復讐に走らなかった少女の一抹のかわいげが世界を支えている。 ● 「ナンバーで呼ぶのなんて嫌だけど17番ちゃん、君に名前は欲しくない? 居場所は欲しくない?」 そういう夏栖斗に、17番は目を細める。 「もちろん欲しゅうございます。あなたは、私にそれを下さる方ですか?」 ぱっと夏栖斗の顔が輝く。 「なら。一緒に――」 それまで傍観を決め込んでいたエレオノーラが、夏栖斗を制し、口を開く。 「……お上手お上手。でも、だーめ。目は口程にものを言うの。あなた、仲の良い人を殺すと気持ちがいいでしょう。今も、夏栖斗ちゃんを殺すことを考えてうっとりしていたんじゃない?」 目の表面をさっと掠めた喜悦の色を、エレオノーラは見逃しはしなかった。 「利用しないと生きていけなかった事には同情しなくもないけど、今、貴女も『そう』しなくちゃいけない理由はどこにもない」 ああ、欲をかきすぎた。 大好きなの。大きく見開いた目の中に写る私を見るのが大好き。 信じられないという顔をして、わたしをまじまじとおおうつしにする 「じーちゃん。でもさ、そういう人、アークにいないわけでもないしさ――」 「夏栖斗ちゃん、この子はリベリスタにはむいていないわ。そうね。暴力とか破壊衝動をフィクサードやエリューション存在に傾けることで結果崩界阻止に与するというのも無理ね」 この子のことは諦めなさいな。 と、エレオノーラは言う。 「この子は、人を不幸にするわ。とりあえず、夏栖斗ちゃんは強い子だからやられちゃうことはないだろうけど、この子を三高平に連れて行ったら早晩死体が出るわね」 エレオノーラの言葉は、少女に逃げ場を与えない。 「あたし、嘘吐きだけど他人に嘘吐く子は嫌いなの。いくら可愛い女の子でも。好みじゃないから願い下げだわ」 「隙を見せてやれるほど強くはなくて、わるいこの甘言に惑わされるほど優しくもないんだ」 オリヱは仕方がないね。と、醒めた目で17番を見る。 エレオノーラの、17番より繊細な手の中のナイフが、命の境界線に突き立てられようとしている。 「他人につくんじゃなかったら、誰に嘘をついたらいいの」 少女は、自分の今までのクソみたいな人生を懸けて問うている。 「自分に嘘をつくなんて、それこそ願い下げですわ」 「この後なにをしますか? 自分がされたことを誰かにして回りますか?」 エリエリが詰問する。 「違う選択肢だってあるはずなのに、結局は過去に囚われてるだけなんじゃないですか!」 17番の目は澄みすぎて、その奥の澱みが見えすぎる。 「あるはずなんて、簡単に言わないで」 生き残るのは、殺せるから。 「私、死んでいく人の目に自分が移るのを見るのが大好きなんです」 滸の足首に激痛。 踏みつけられた足首をつかんだ逆の手指が皮膚に突き刺さり、なお内部に入り込もうとしている。 「アーティファクトなんて高すぎる玩具手に入れちゃって暴走しちゃって――本当に不運な可哀想な子」 魅零は、刀を振りかぶる。 「だからといって容赦できる黄桜じゃない。駄目な事は駄目なの」 振り下ろす。頭に。正確に。 「フェイトもあるかもだし、何回でも頭かち割って殺すよ」 17番が最期に見たのは、自分を赦さないという魅零の目の中の自分。 今日は、特別綺麗と思った。 最後の一撃。 17番の両の目は見事に崩れ、じゅうたんに吸い込まれた。 「心は痛むけどね、痛いのは嫌いじゃないの。黄桜」 生かしていたら、世界を壊してしまう誰かを殺す。 17番は、世界を壊す存在だった。それだけのこと。 ● 「人を壊すのが上手な女の子は俺は怖いです」 存人が呟く。 最後に吸い込まれるように魅零の目を凝視していた17番の恍惚とした顔を思い出す。 肉を抉られた壱也と魅零は、眉を寄せた。 「女の子だからって区別しちゃいけないわ」 効果の大きさは、エレオノーラが世界で最もよく分かっている。 「一匙の幸せの代わりに、他人の目玉はなってくれましたか」 存人の問いに、自分の目玉さえ失った17番は答えることは、ない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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