●一幕 「へぇ。『ウチ』に挑戦状たぁ。連中も中々面白い事をする」 「案外、風情のある連中ですな。『剣林』らしくもある」 「……よし、折角だ。ちょっくら俺が相手してやるか」 「御冗談を」 「洒落が通じねぇな。『道場破り』をいちいち相手にする程暇じゃねぇよ。 第一、一の字は兎も角よ。こっちにも体裁ってモンがあらぁな」 「何でもこれは意趣返しとの事。師が『世話になった』箱舟の連中を相手にするならば。 やはり、『師範代』たるこの私以上の適役はおりますまい」 「……ま、梅の字が戻らねぇ以上は、な」 「御許しを頂けますか」 「む」 「何でも『誠の双剣』はひとかどの使い手だとか。ならば、同じ剣士としてはまみえてみたくなるのも必然」 「許すも許さねぇも――適任がおめぇなら是も非もねぇよ。 だがなぁ、実際連中は中々やる。俺がお墨付きにする位だ。大したモンだぜ?」 「箱舟の勇名は十分に聞き及んでおりまする」 「看板を汚すような真似だけはするんじゃねぇぞ――ま、おめぇには意味の無ぇ忠告だ」 「恐縮です」 「それで、条件は?」 「八人で挑むと。ならば私も弟子を連れて参りましょう」 「成る程。何時やる?」 「今夜――『あの河原』で」 「――あぁ、そいつはいい。 そうだ、おい。雪の字よ。ついでにこいつを持ってきな」 「これは……」 「ヤツの『虎徹』だ。一緒に連れてってやりゃぁ本望ってモンだろうよ――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月17日(金)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●再 しんしんと雪が降る。 寒い季節のこの時間に――人寂しい河原に来る者等余程の酔狂に決まっている。 しんしんと雪が降っている。 『彼』の纏う黒い羽織に水滴となって溶けていた。 居住まい正しく――そんな酔狂者を待つ剣士はそんな事は歯牙にもかけぬ。 「――よう、待たせたかい?」 日常の連続に存在しながらあくまでも日常とは断絶された空間だ。 気配も無くそこに佇むのは八人。やって来たのも八人だ。 「純粋に――また随分な強者が怖い得物を手にやってきたものです」 「まったくだ。百虎の野郎……虎徹と一緒にお前を出してくるかよ」 「待つ価値はあろう。貴殿等は己の価値を正しく知るべきだ」 むしろ友好的とも言える口調の『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)、『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)に冷然と応えたのは、元・剣林の虎鐵が見聞きしていた人物だった。 「まぁ、いい。俺は俺の刀を振るうだけだ」 そう言った虎徹の感じる怖気立つような鋭利な空気は『変わらない』。体感の気温を何度か下げているかのような存在感は首筋に突きつけられた刃の冷たさだ。 「私達の挑戦状に如何程の存在が現れるかと思えば―― 成る程。相応に私達の事を買ってくれていたようですね」 「剣林、どちらかと言うと好きやし、せやから挑戦状の話に乗ってみたけど…… そんな強い人が相手に来たって……こりゃ、随分と評価されとるみたいやなぁ」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)にしろ、『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)にしろ、そう口にしたのは聞き知る名声が理由では無い。相手の腕前をその眼力で見破る事が出来るだけの技量を有しているが故である。 「御機嫌よう。先ずは挑戦状に応じてくれた事に感謝を……と、言ったところですね」 「何、礼には及ばぬ。全てはお互い様、故にな」 逆を言えばこの戦場に立つ資格を有するのは――かの『剣林』より歓待を受けるだけの意味を持つのは彼等が『そう』であるからだ。逆凪に言わせればナンセンス、裏野部に言わせれば生温い。しかし、それが『剣林』である。 「この場所……確か以前『雨四光』が指定した場所でしたか。 雪降る夜の河原――冷たく澄みきった空気。良いですね、風情がある」 「如何にも。成る程、美への理解は老若男女、国も問わぬか」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の言葉に応えた『彼』は秀麗なその美貌に薄い笑みを貼り付けていた。彼女が口にしたその名こそ、ある意味で彼をここへ駆り立てた理由だったに違いない。 「かの右腕の――高弟か。これは実に楽しみだ」 「かの剣客の弟子と見える事が出来るとは――分からん物だ」 「この剣戟の格別は約束しよう。 然り。分からない。されど、分からぬが故に人生は面白い。違うか? 『誠の双剣』よ」 唇を舐めた『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)も、 「あの時にぶつけられなかった思いがある。そして何より、相手は同じく双剣を扱う者……面白い!」 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)もこの答えにはそれぞれが満足したようだ。 『彼』――刃桐雪之丞はリセリアが『雨四光』と呼んだ剣士の弟子である。かつて日本最強の革醒者とも呼ばれる剣林百虎の右腕だったその師はアークと因縁を秘めていた。病没を間近に控えた時、彼は剣林を辞し『新たな時代』の象徴とも言うべきアークに挑戦状を叩きつけたのである。数年の時を経て、奇しくもそのアークが差し出した挑戦状を雪之丞が受け取ったのは偶然等では無いだろう。 「私としては勝たせていただきたいですね。 殺し合いではなく、単純に力と力のぶつけ合いで」 「結果に責任は負えぬな」 慧架が構えを取れば、否が応無く緊迫感は強くなる。 此方八人、彼方も八人。今夜、彼等は激突する。雪之丞にとっては師がそうしたように、リベリスタ達にとっては仲間がそうしたように。その『攻守』を入れ替えて――即ちこれは仕事に非ず。憎悪に非ず。但しスポーツにも非ず。恨みっこ無しの『唯の死合い』という訳だ。 「最早、長い言葉は不要。……『誠の双剣』新城拓真、いざ……尋常に!」 張り詰めたピアノ線のような緊張感は刹那の永劫である。 時間にして十秒にも満たない沈黙は一層にこの夜を際立てた。 頬を掠める雪の冷たさは寒さに関わらず火照った肌を収めるに心地良い。 「――さあ、『お祈り』を始めましょう」 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の声が夜に吸い込まれた。 リリの双眸が見る世界の色は白く。故に彼女を強く沸き立たせる。 「貴方方とのお祈りは、どこまでも純粋なものとなるでしょう」 それは予言。予言の使徒は聖別の銃を両手に構えた。 「リリ・シュヴァイヤー、神より遣わされし魔弾――推して参ります。剣の徒よ!」 ●対決 「鬼蔭虎鐵……いざ参る! 語り合うは刀でって奴だ」 『死合い』に礼儀正しい始まりの合図は無い。 双方の緊迫が頂点に達した時、双方が闘志なる抜き身の刃を掲げた時。 どちらからとも無くこの死闘は始まっていた。 「――今日という日を楽しみにしていた。分かるか、刃桐君。 いや、分からないだろう。私ならぬ誰も私の歓喜は理解すまい!」 薄く積もった雪と小石を跳ね上げて誰よりも早く戦いに先鞭をつけたのはその目を爛々と輝かせた朔だった。 しなやかな肉食獣のような彼女はその膂力を一瞬で爆発させ、電撃さえ帯びる超高速を纏って敵陣へ斬り込んだ。 舞い散る雪さえ空中に縫い止めんとするかのような斬撃の飛沫は前に出た彼女に応じた雪之丞に猛烈に襲い掛かっている。 金属の噛み合う高い音が少し遅れて耳を突いた。 「確かに解せぬな。しかし、貴殿の想いばかりは伝わった」 雪之丞が両手に構えた双剣が剣の間合いで展開した壮絶な打ち合いを見事に制していた。 「ふっ――」 「――ッ、面白い!」 反射神経――否、『予感』だけで身を捻った朔の肌から血が噴き出す。 牽制に横薙ぎにした葬刀魔喰が退いた雪之丞の影だけを切り裂いていた。 「……そうだ、こうでなくては!」 彼女の目には今、『雪之丞の放つ氷刃の切っ先が見えなかった』。だが、この反応はだからこそ。 背筋を舐め上げる感覚は、熱病のように彼女を捉えて放さない。 最高のスリルは、他の何を捨てても捨て難い彼女の好物だ。 彼の背後に控える弟子達は師の動きからその意図を汲む。まずはリベリスタ側の目論み通り、雪之丞の相手は朔が勤める事になったのだ。その結果は兎も角として。 パーティの作戦は単純である。 編成上、回復能力を持たない彼等は長期戦に臨む体力を有していない。 或いは一対一を望めば敵は応えたかも知れないが、彼等は今回集団戦での勝負を選択した。 ならば、どうするか。答えは簡単だ。倒される前に倒す、突き抜ける以外の手段は無い。 (任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう。私は私の役目を。皆さんは皆さんの役目を。 その先に、勝機はきっとある筈です――) 冷静なミリィの眼力が戦場全体を見通した。 成る程、敵は確かに回復手段を持っているだろう。 しかし味方が有し、敵が有さない第一はこのミリィ――つまり全体を統率する司令塔である。 「いきましょう、皆さん!」 彼女の指揮に応え動き出したリベリスタ陣営はその教条(ドクトリン)でその動きを一層鋭くする。 (作戦通りに――何処まで迫れるかは分かりませんが!) アイ・コンタクトで意思を疎通したリセリアが敵のデュランダルに肉薄した。 彼女等が狙う優先順位は極めて強力なアタッカーであり、比較的早い段階で確実に狙う事が出来るデュランダル、敵の要になるであろうホーリーメイガス、『聖骸凱歌』という鬼札を持つ可能性のあるクロスイージス、そして本命である雪之丞の順である。 勝負は殊の外早く決まるだろう。 爆発的な破壊力が上回るか、否か。何れにせよ立て直されれば勝機が薄れるのは明白である。 低く地面を滑るように疾駆したリセリアの背を無数の光弾が追いかけていた。 「撃ち合いましょう。灰は灰に――塵になるまで」 曲がり、敵を追いかけるリリの魔弾は敵側の前衛に次々と突き刺さる。 敵もさるもの、文字通りの『弾幕世界』さえ、彼等の全てを圧倒するには到らなかったが、ダメージを刻み、続いた仲間の動きを助けるという意味で飽和攻撃の効果を十分に挙げていた。 「貴方の相手は私ですね」 「止め切れるかな?」 「此方の台詞です――」 目前の巨漢――クロスイージスに比して対抗する慧架は小柄で華奢ですらある。 されど、慧架の戦闘能力を外見から判断すれば待つのは手痛いしっぺ返しばかりである。 「では、此方も丁寧にご挨拶を」 華麗と言う他は無い武術家の身のこなしがステップだけで相手の構えを振り回した。 鮮やかに間合いを奪った彼女は唸りを上げる鉄扇で夜を炎に咽ばせる。 「さぁ――折角の相手に失望されんよぉ、全力で挑んでこか!」 リリの弾幕を突っ切って向かって来たナイトクリークを椿がここで食い止めた。 「俺の対戦相手はお前か」 「いやまぁ、なんや……申し訳ないけど進まれても困るしなぁ……って、やる気やな!?」 闇夜に伸びた死の光線(デッドリー・ギャロップ)を間一髪、彼女の護符手が弾いた。 ダメージを受けた彼女の狙いはそれでも――目の前の『対戦相手』では無い。 「タイマンも魅力的ではあるんやけど……集団戦は集団戦で、喧嘩みたいで楽しいと思わん?」 ダメージを受けるも辛うじて動きを奪われる事は避けた彼女が嘯いた。 被弾も幸い、彼女は痛みも力に変える。その指先の操る憎悪の鎖は――『対戦相手』ではなくまさに今、拓真と応酬を繰り広げるデュランダルの首に蛇のように巻き付いていた。 「……ッ!」 「悪いが――これも勝負の内だ」 椿の絞首に動きを奪われたデュランダルの隙を見逃すような拓真では無い。 黄金の剣の一閃、白銀の剣の二閃が痛烈に敵を切り裂いた。 パタパタと散る鮮血が黒衣の剣士の頬を濡らす。されど、崩れない。 剣林にて剣を修める彼は――両足を踏ん張り、強く目前の敵をねめつけた。 「『五十文』刃桐雪之丞と――その弟子達に違いは無いか」 呟いた拓真に符術の鳥の濁流が襲い掛かる。彼は手にしたその剣でこれを捌き切るが、更にマグメイガスの雷撃とスターサジタリーが炎の矢が自陣を焼けば流石にダメージは否めない。その隙にホーリーメイガスが崩されかけたデュランダルを救援し、クロスイージスがラグナロクの凱歌で自陣の士気を奮い立たせている。 初手の攻防――短期戦を狙うのならば、後詰めの不足は結果『一手』を遅らせた。 「……こりゃ、楽させてはくれねぇな」 「貴殿等は楽をしたかった訳では無いのだろう?」 「違いねぇ」 比類するもの無き、破壊の闘気を纏う虎鐵が苦笑い。 「俺が目指すは剛の剣……全てを貫き通す剣だ……あいつにも負けねぇ『剣』が必要なんだよ……!」 ●決着 「一切合切、有象無象を蒼の魔弾が逃がしはしません――」 ――Amen. 「続いて下さい!」 幾度目かリリの声が自陣の攻撃をリードする。 「行きます――」 「小手先ばかりの技で申し訳ありませんが、貴方達に動かれるのは面倒なのですよ。 ――どうかご容赦を」 リセリアのセインディールが容赦無く敵の全身に傷を刻み、美しい死の輝きでその魂を魅了する。ミリィの投擲した光の塊がホーリーメイガスを中心に着弾し、敵陣後衛複数の動きを止める。 「小技だけだと思いましたか?」 「あー、怖い顔せんといて、な?」 「我が双剣、存分に受けよ……!」 一対一の戦闘局面で羅刹悪鬼の如き武闘を見せた慧架は敵を守勢に追いやり、目前の敵の視線に首を竦めた椿の技、拓真の剣の冴えはデュランダルを一気に追い詰めていた。 この流れとて、更なる攻めへの呼び水に過ぎない。 「っらぁ――ッ!」 圧倒的な破壊力を誇る虎鐵の渾身の一撃は雷撃と共に河原の石を跳ね上げた。 猛打を受け切れなかったデュランダルは縋る運命も使い切り、河原に叩きのめされ倒された。 「はぁ、はぁ、は――」 誰のものかも知れない荒い呼吸。白い息が夜気に弾む。 戦いは激しさを増して続いていたが……多くの時間が過ぎ去った訳では無い。 大方の予想通り展開は速やかなる決着を望んでいた。 勝つにせよ、負けるにせよ、長丁場は必要無い。 前のめりなパーティは攻め切れれば良し、さもなくば観念する他無いからだ。 「ええっと、お次は――」 「――次は無ぇよ」 椿の全身に今度こそ光る糸が絡みついた。 椿の防御面での実力はマッチアップした敵を無視出来る程のものではない。 詰まる所、彼女が他所に攻撃を向けた分、敵が彼女を狙ったならば『一対一』はそれだけ苦しくなる。 メインアタッカーの一人を喪失した敵陣だが、猛烈な反撃は一気にリベリスタ側を苦境に追いやる。 敵インヤンマスターの特殊結界が強烈なプレッシャーとなってパーティの速度を殺しにかかる。 ナイトクリークに続いたマグメイガスの魔曲が守りに劣る虎鐵を直撃する。 「チッ、だがこんなもん――」 闘気を纏う虎鐵には状態異常を通じないが受けた傷の方は別物である。 クロスイージスの放つ光がミリィの止めた味方を救出し、サジタリーの火力が更にパーティを脅かす。 何より―― 「クッ――」 「――その歳でその技を知る貴殿の才に私は感嘆と尊敬の念を禁じ得ぬ」 ――雪之丞の抑えに出た朔は既に全身を血に染めている。彼女はブリッツクリークを弾き飛ばされつつも、これまで十分に健闘した。防御を織り交ぜながらの戦いは言葉通り雪之丞を感嘆させるもので、故に彼は多彩な手管を有しながらも『これまで朔以外の相手をしようとはしなかった』。 (攻撃を束ねる事さえ出来れば……いえ、『束ねなければ』勝ち目は無い……!) ミリィは臍を噛んだ。個々の実力ならば十分にリベリスタ側が上回っているマッチアップも存在する。現状でも勝敗のあやでどう転ぶかは分からないし、幾ら強いと言われる雪之丞も『人間』である以上は集中打に倒れない筈も無い。 (手は……どう打つ? 必ずチャンスはある筈。 私とて指揮者。クェーサーを扱うものですから――) しかしてミリィの灰色の脳細胞さえも最適解を導き出せぬ。状況は明るくは無い。雪之丞さえ倒せば勝ちの見える戦いではあるが、現状までの競争(レース)はフィクサード側の優位を示している。 「終わりか?」 「まさか」 目の前を伝った血に構わずに朔は目を見開いた。 「――改めて、『閃刃斬魔』推して参る!」 言葉に守りを捨てた朔の攻めは――むしろ彼女の本懐であった。 ――最初からこうすれば良かったのだ。 いや、むしろこの男がもう少し『軟派な移り気』であったなら。 自分から目を離して他所に注意を向けるような男なら。 早くこうする理屈も立ったのに―― 黒い羽織を斬る感触。交差の攻防に朔の視界が暗転する。 「次の相手は――私です、『五十文』!」 凛と叫んだリセリアにやや消耗を見せた雪之丞が双刀を向けた。 長曽根虎徹の刀身が血に濡れ、妖しく揺らめいた。 (数段格上の剣士との戦い――奇跡に縋っての勝利等無粋の極みというもの。 その太刀筋一つも見逃すな、観察し、見切り、盗め――) 鋼が噛み合い、高らかに剣戟が啼き喚く。 「――私の剣の全てを以て攻撃し、打ち勝ってみせる!」 朔の鬼気に、リセリアの気迫に応えるようにリベリスタ側の決死の猛攻が再び敵陣に襲い掛かる。 (制圧せよ、圧倒せよ。運命を燃やして立ち上がり、一時でも多く攻撃を……!) リリの猛攻は幾度と無く敵側を追い詰め、意気も体力も軒昂なる慧架はまだ勝利を諦めていない。 「俺は負ける訳にはいかねぇんだよ。 俺の力不足ってだけでこの手から零れ落ちるのは……もう沢山なんだよ!」 虎鐵の豪剣が間合いを切り裂き、強烈な風の刃と化して遂にはホーリーメイガスを打ち倒した。 だが、代償に椿が倒され、更に遂には拓真が膝を突く。 (持てる力は、全て吐き出せ。 限界など笑って捨てろ、剣を振るう度に一歩でも良い。 前進し続けろ、この果て無き剣の道を突き進め――何時か) 命よ枯れよとばかりに気を吐いた。 「そう、何時か……あの遠い背中を追い越して、俺は強くなる……!」 運命を燃やし立ち上がる拓真。 「我が双剣、存分に受けよ……!」 仕掛け、雪之丞を一瞬気押した彼だったが、パーティの限界は最早明らかだった。 「――仕舞いだ」 雪之丞の短い言葉だけで戦場が魔性を帯びた。 目を見開いたリセリアは間近で彼の『技』を見た。素晴らしき死合いへ手向けるかのように――両の刀の帯びる冷気は舞い散る雪とはまた別の白い世界を刻み出す。 それが『分かった』最後だった。 ●雪見頃、舟之上 刃桐雪之丞は血を拭い、虎鐵をその鞘に収める。 倒れている者も、残った者も居る。しかし決着には違いない。 死合いは叶ったのだ。ならば殺すも殺さぬも蛇足に過ぎぬ。 夢現 刃金たゆたう 舟の上 雪酔う今に 名折れなど無く 「か、はっ……」 吐血した彼の表情は笑みである。 彼は好敵手の生死に頓着する事は無い。 死ぬも運命、生きるも一興。 唯、詠んだ歌は賞賛めいている。 願わくば再び対戦叶う事を祈りながら―― 彼は彼にしてはやや頼りない足取りで雪の河原を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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