● クリスマスは終わった。新年はまだ来ない。 冬至直後。世界を守る太陽は遠く、聖人たちが去りし後。 今が一番世界を守る力が弱い時期。 聖なる夜に押さえつけられていた者たちが蠢き出す。 アークが稼動してから、しばらく定期的に発生していた小さな案件。 子供向けの菓子や玩具に潜んだ、ごく弱いエリューション。 万華鏡でなければ見つけられないほどのささやかな悪意。 ジャックが世間の連続殺人鬼予備軍に呼びかけたのに誤作動を起こして暴れた『魔女』=『ハッグ』によって、潜在的にエリューションの影響下にある女性が多数いることが発覚する。 そして、機会と用途に応じての人攫い集団『楽団(ムジク・カペレ)』 肉の壁にされる子供のアンデッド集団『パレード』 契約書に従い、家族を生贄にして、非道に手を染める魔女集団『ハッグ』 その契約書の化身にして使い魔『グルマルキン』 『グルマルキン』と契約したノーフェイス、『ライナス』 リベリスタ達は、幾度となく、そのたくらみを阻止してきた。 「楽団(ムジク・カペレ)」を壊滅させられた「ささやかな悪意」は、それでも徐々に勢力範囲を増していた。 アークの目の届かないところで、「ささやかな悪意」の根源、契約魔術師カスパールと錬金術師メアリがうごめいている。 現在、とある山中の廃棄されたニュータウン跡・識別名「オールドタウン」に根城を構えた連中を総攻撃する準備が着々と進められている。 ● 「ねえ、これ行ってみない?」 コタツでみかんを食べていた彼女が雑誌を差し出してきた。 大学四年生の冬休み。 吹奏楽サークルも無事に引き継いだし、就職内定も取れたし、交際半年の彼女も出来たし、かなり幸せだった。 「ニュー・イヤー・イヴ・ホラー・アトラクション」 山の中のテーマパークでドラマ仕立てのアトラクションをやるらしい。 「見て見て! 『恐怖の町・流血逃避行』 だって!」 アメリカっぽい住宅街を走り回りながら、ゾンビを倒しながら脱出するのだそうだ。 「逃げっぱなしとか戦いっぱなしとかそういうのやってみたかったんだ! 逃げてた時間が長いほど豪華プレゼントもらえるみたいだよ!」 人気番組の名前を挙げる彼女はかなり乗り気だ。 「あんまり怖かったら、ギブアップも出来るみたいだし。そののときはゾンビメイクして、記念写真撮ってくれるって!」 そういうのも嬉しいのか、ホラー好きって。と、平太は素直に感心する。 「ふ~ん。駅からシャトルバスも出るのかぁ。割りと大きなイベント会社なのかなぁ」 自分達で行かなくてはいけないとなるとあり得ないとしか言い様のない山の中だが、これならいいかも知れない。 平太はバイト、彼女は仕事で、イヴにはいっしょにいられなかったし。 彼も、彼女も気がつかなかった。 その広告に目を止めたのは、数ある読者の中でも彼らとごく僅かな人間だけだということを。 ● 「放置すると、この青年は改造されて、フィクサードにされてしまう」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、件のチラシという紙をリベリスタの前に広げて見せた。 「別働隊に、特定地域のゴミステーションに張り込みしてもらって入手した」 リベリスタの一人がおずおずと手を上げる。 「どっかのデパートの新年セールの広告に見えるんだけど」 別のリベリスタが、何を言ってるんだ? と、怪訝そうな顔をした。 「そう。これはある一定の条件を満たした人間にしか正確な中身を認識させない術式が印刷に紛れ込ませてある」 「サブリミナル?」 「そういう要素も含まれているけど、私達の領域のもの」 イヴは、背後のさりげない地模様に紛れ込ませた魔法陣をモニターに映し出した。 「分析の結果、この件を『ささやかな悪意』関連の案件と認定する」 「連中、性懲りもなく「楽団」を再組織しようとしてるみたい。確実にこのイベントに参加しようとしている青年は一人」 写真が映し出される。 おおらかそうな逆三角形。 いかつい外見と人懐っこさが融合されている。 「某工科大四年、有場平太君。純朴。一直線。一度なつくと、どこまでも系。変なサークルとかに気をつけてと注意喚起が必要なタイプ」 イヴは手書きで「人がよすぎる」とキャプションをつける。 「これは、以前の案件を警察に通報するどころか、就職活動中わりとあることなのだと思い込んでしまっ手いる辺りで分かってもらえると思う」 どこかで見た顔。と首をひねっていたリベリスタの内の幾人かが、ああっと声を上げた。 一度『ささやかな悪意』 煮目を付けられたところをアークに辛くも救出された兄ちゃんだ。 「被暗示効果が高いとも言える。このままいくと彼は『楽団』の新しい「チューバ吹き』に、大改造されてしまう」 だから、ホントは早々に確保したいところなんだけど。と、イヴはしぶい顔をした。 「連中の懐に入るのはなかなか難しい」 町には何らかの魔法装置が施してあるらしく、『ささやかな悪意』の構成員がそこから出てくることもないが、こちらから大人数で入ることも出来ない。 「だから、彼の安全を最優先にして、ギリギリまで連中を泳がせる」 できれば、連中の施設に損害を与えることが出来れば御の字だ。 「出来れば、首魁のメアリとカスパールの尻尾もつかみたいんだけど……」 リベリスタの一人が手を上げた。 「で、この該当条件ってなんなんだ?」 「機械大好きで、サイボーグとかにあこがれがあって、改造されちゃってもいいかもって潜在意識があって、楽器経験者で、ガタイがよくて、熟女に弱くて、子供に優しい男」 そりゃあ、ピンポイントだ。 「で、この彼女さんなんだけど」 平太君より年上――彼がランドセル背負っていた頃女子高校生だったんじゃないかなぁくらいのお姉さまだ。良かったな、熟女好き。 「ハッグの素質あるから。というか、広告見つけたの彼女だから」 ● 赤い風船、白い風船。黄色い風船。 「やっぱり、金管楽器は体が出来ていないとね。チューバはなおさらよ。肺を改造するにも限界があるわ」 メアリは、新たな楽団を磨き上げるのを最近の楽しみにしている。 「――いつも思うんだけど、君は君が思ってるよりずっと気が長いよね?」 カスパールは、術式を指でなぞる。 「そうでもないわ。こんな目立つ手を使わずに入られなかったんですもの。いっそアークがどこかの組織に潰されるまで待っていれば何の問題もなく手に入れられたと思うわ」 でも、それはできなかったの。と、メアリは言う。 「なるほど。改めて聞くと君の言うとおりだね」 まるで君の改造みたいだ。と、カスパールはメアリに言った。 「君の施術は、即興なのに綿密だものね。君以外の誰にも理解できないって言うのが惜しいよ」 メアリは、うふふと微笑んだ。 「あたしにも、どうしてそうなるか分からないんだもの。でも、そうすれば動くのよ。それは分かるの」 「君は、魔法使いというより、芸術家だね」 「自分でもそう思うわ」 薫り高いお茶にはたっぷりと温めたミルクと蜂蜜を。 クリスマスのケーキはココアでビターなロールケーキに赤いスグリのジャム。 分厚いタフタのカーテンの向こうにはクリスマスらしいイルミネーションが点滅し、子供の歓声。吊り下げられるサンタクロース。血まみれの白い袋はいびつにふくらみ、トナカイの首がもみの木の上に据えられている。 控えるハッグたち。 そのそばには、使い魔である黒猫・グルマルキンがそれぞれの足元や肩に寄り添っている。毛づくろいが入念なのは、今しがたちょっとおいたをしてきたからだ。 「さあ、ビッグバンドが出来るほど集めたわ。楽しみね」 「そうだね。子供達も張り切っていたよ」 「誠意を持って接したいものね」 「出来るだけ、自発的参加を願いたいものね」 「そうね。そして、もちろん契約書は――」 「「二通以上!」」 微笑を交わすカスパールとメアリ。 赤い風船、白い風船。黄色い風船。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月16日(木)23:27 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 赤い風船、白い風船、黄色い風船。 日はまだ高いのに、空気に氷の気配がする。 街は、まだクリスマスの名残があった。 ゲームの為にわざとすさんだ雰囲気にしてあるのだろう。ゴミ箱には無造作にクリスマスケーキがつっこまれているし、サンタクロースがつきっぱなしのイルミネーションで縛られて吊るされている。 「R-18G」 テレサがうわあと笑う。 山間部に位置するその分譲住宅地には、雪がそこここに残っている。 彼女は呟いた。 「きれいね」 そして、手の中のハンマーをつかみ直すとにっこり笑った。 「ゲームもこってて面白いし。転入届提出させられるなんて、笑っちゃうね」 二人は新しくこの町に越してきた若夫婦。 ゲームの受付は、公園の隣にある町役場で行われた。 追いかけっこして転んだりして万が一汚したときの為の傷害保険も兼ねているという参加申込書には、『転入届』と書かれていた。 署名・捺印すると、「オールドタウンのしおり」と「新居」が与えられた。 「サイレンが鳴ったらスタートです。家の中にあるものは何を使っても構いません。ここで準備して下さい」 「役場職員」のプレートをつけた人がにっこり笑った。 「楽しい年末を」 それから、二人でいかにも新婚さん用の小さな家を走り回って、リュックに食べ物や懐中電灯を詰めたり、分厚い服を選んだり、武器を選んだりした。 「結局あんまり重くないのにしたけど」 「猟銃とかもあったね」 「あれ、ホンモノかな?」 「わかんない」 自分たちは選ばなかったが、誰か使う人はいるんだろうか。しおりには『中はペイント弾です』 と書いてあったが、油と火薬の臭いはした。 「そろそろ時間だよね。楽しみね」 ゲーム開始を知らせるサイレンが鳴った。 ● 遠くからサイレンの音がする。 ねじれた鉄塔。くねる上り坂が遠くに見える。 どれだけ急いでも、リベリスタがオールドタウンに侵入できるのは今から五分後。 「――一応、神道でお仕事してるのでクリスマスはそんなに盛大にはやらないにせよ、誕生日とかの絡みもあるのでそれなりには、ですし。年末年始は割と忙しいのですがううう「支援用狐巫女型たドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)は、控えめに年末年始の殺人的状況をぼかした。 すす払いに破魔矢に御幣。お守りにおみくじの納品。アルバイトさんの教育。こっそりやる神事の段取りに御神饌の準備。ぶっちゃけ、分身したいくらいだ。 「相も変わらず鄙びた街だ。澱んだ玩具の箱庭か。アトラクションならもう少し凝ればいい物を――」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の身もふたもない言い様は、これから突入する仲間の認識を「死地」ではなく「C級アトラクション」に書き換える。 「……何なんですかね、この悪趣味なチンドン屋とテーマパークは。年末年始の派手なだけでつまらない特番の時期にはまだ早いですよね」 口の悪さでも定評のある『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)によって、ゴーストタウンの重圧は見事に木っ端微塵にされる。 「契約か……このフィクサードもやり口がいけ好かねーな。これから行く町の住人もほぼこいつらの犠牲者って事か?」 鷲峰 クロト(BNE004319)の問いに、『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は頷いた。 どこからか嗅ぎつけられて、いつの間にか奴らの仲間にされている。 「さっさと町ごと破壊してやりたいけど我慢我慢。今それをしたところで黒幕は逃げるだけだろうしね」 「ギャフンと言わせてやりてーが、先ずは眼前の救出だな」 もてる勢力を削って削って、最終的には根絶やしにする。 今はそのせめぎ合いだ。 だから、やつらに取り込まれたらかなりの戦力になる二人の救出は必須だ。 「なんとか2人は無事に救出したいなぁ……」 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、ぎりぎりまで前回までの潜入経験を生かして町の見取り図を作成していた。 前回あった目に付いた建物、今見える建物。 公園の横に町役場。南側と北側の街の入り口は変わっていない。 見はらし台はリベリスタを吊るすために使われた。 「向こうは契約者を増やす為にやってる訳だし……ルート変更とか、介入への対策はありえそう」 素の智夫は、冷静だ。 作戦遂行時に多くを望み過ぎない姿勢は、時として薄情にさえ見える。 「前回さんざん戦ってるから、いきなり攻撃されるなら、囮をやるよ」 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は、手袋を付け直す。 オールドタウンは、住人に三回攻撃したものをお客様とは認めない。 この地に再訪するのは、今回のチームが初めてだ。 前回、救出作戦に参加した面々は、攻撃することで住人をひきつける陽動班。そのリミットを超過している。 町を出たらリセットされるのか継続するのか、実際に町の住人に遭ってみなくてはわからない。 万華鏡を介してもなお、不確かな状況。 ここは、魔術師の庭。 理不尽な神秘にくくられた領域だ。 ● 「ねえ、今のうちに脱出しよう。このまま行くと、この家にたくさん来るんでしょ?」 しおりを読み込んでいた平太がテレサに言う。 「どこにも行かないわよ」 え? と、平太は首を傾げる。 「これから、町役場から一杯出てくるから、それを避けながら、北か南からか逃げなきゃいけないって書いてあるよ」 テレサは、じっとリーフレットを見ている。 「ここで時間ぎりぎりまで粘って、鐘を鳴らすことが出来れば、このおうちをもらえるんだよね」 豪華商品はゲームでの行動と直結している。 より困難な道を選べば、より豪華な賞品。 実際、優勝の条件になる鐘はこの家から目と鼻の先だ。 「どうせだったら、がんばってみない?」 ゲームなんだし。と、テレサは言う。 「じゃ、バリケードとか作る?」 部屋の中に詰め込まれた重たそうな家具。いかにもそういう風に使えといわんばかりだ。 「椅子とか机とか」 「ソファも使えるよね」 二人は顔を見合わせて言った。 「楽しくなってきた!」 ● 「携帯は……圏外!? ――旧式ガラケーか。GPSくらいつけろ。だから就活に支障が出るんだ」 電子の妖精を駆使したユーヌが、現在地検索に引っかからない平太の電脳的生活レベルの低さにご立腹だ。 10人のリベリスタが一団となって、裏道を縫って移動している。 小夜によって付与された仮初の翼で脚音一つさせずに、だ。 クロトと涼子とフツが千里眼で建物全てをすかしている。 「熱源も見ておこう。少なくとも体温がないものはエリューションだ」 前回町に入った虎美の先導。 猛禽類の目を駆使した移動で、速やかに町の中に浸透していく。 町の中は、それらしい二人連れが手に手を取ってきゃあきゃあ駆け回っている。 それをゆっくりとした足取りで『ゾンビ』 が追い立てる。 「いや、リアルー、怖いー!」 泣き言が風に乗って聞こえてくるが、その通りだ。まじめにゾンビだ。いや、E・アンデッドか。 「――あれも違う」 虎美は平太とは面識がない。平太に接触したことがあるのは、この中ではフツだけだ。 涼子も現場になったファミレスですれ違ってはいるのだが、どたばたの中口を聞いた覚えはない。 ハッグを撃つので忙しかったのだ。 それでも、かなりビルトアップされた平太は容易に見分けがつく。 「これ使おう」 二人以外の参加者を手の届く範囲でスタンガンで昏倒させ、契約を阻止しようと、とらは考えていた。 「遠い。無視」 虎美はにべもない。 分散すると危険なのは、前回で分かっていた。 (囮となっていただきましょう) 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は、彼らのことをそう考えていた。 噛み締めた唇が赤くなっているが、躊躇いはない。 少なくとも、リベリスタの手の届く範囲外にいるゲーム参加者は、オールドタウンの住人をいくらかはひきつけてくれている囮だ。 彼らの数は有限。彼らが他の一般人に行けば行くほど平太とテレサの生存率は上がる。 「でもさ」 おもちゃの武器とはいえ、町の住人を攻撃すれば三回の限度を超せば攻撃対象だ。 殺されることはなくとも、町の住人に組み入れられるだろう。 昏倒させておけば、町のルールを厳守した別動班が彼らを回収する可能性が残されている。とらはそれにかけたかった。 「あいつらは、町の連中に追われてる。あいつらの間合いに入るのは得策じゃない」 見たら最後、攻撃せずにはられなくなるパレードがうじゃうじゃしているのだ。精神無効を持たない仲間のことを考えれば、一般人に近接するのは危険だ。 歯を食いしばりながらの探索行は続く。 ● そういえば昨年の秋は、あの連中のトリックオアトリートの声を聞いていなかった。 ドアというドア、窓という窓に、死んだ子供がへばりついている。 篭城。 少し前の倫敦を思い出して、何人かが眉をしかめた。 「あの家にだけ、パレード共がたかってる」 虎美が指差す先、涼子の千里眼が向けられる。 「見つけた。平太とテレサ。何で逃げてないの」 涼子は、眉根を寄せる。 「中、戸にも窓にも全部にバリケード作ってあるぜ。時間切れまで粘る気じゃねえかな?」 クロトも目を細める。 「鐘を鳴らすのが目的ならひょっとしてって思ってたけど、ほんとにそうみたいだね」 虎美は、建造物の記憶に同調し、その家のドアから入った二人が出てきていないことを確認する。 「どうにかして接触しないと」 「どうにかって……」 一つ一つの扉で攻防している暇はない。ゾンビもなだれ込んで三つ巴など冗談じゃない。 めんどくさいから、いっそ壁でもぶち抜いて連れ出すのが一番早いんじゃないかな。 なんとなく全員の視線がモニカに集中した。 このメイドの前に、防壁など意味をなさない。ましてや建売住宅の壁など。 レンガのおうちも、わらのおうちと大差ない。 「攻撃箇所は指定するので――」 千里眼持ち三人がかりで、まかり間違っても二人が吹っ飛ばない場所が検討される。 「ハチの巣なんかにはなりませんよ。木っ端微塵ですから」 ぶち抜きます。と、メイドは言う。 「二階が崩れてこない程度にお願いします」 「心得てます。万一のときは、崩れていた二階もふっ飛ばしますので、ご心配なさらず」 殲滅式四十七粍速射砲が火を噴いた。 ぼぼぼぼぼっと着弾と粉砕は繰り返され、一階と二階の境目に、人一人分の隙間がうがたれる。 「皆さん、飛べますよね?」 足場がなければ、子供であるパレードがそこから進入するには時間が掛かる。 リベリスタは、一か八かでその穴に頭から吶喊した。 ● 平太とテレサは篭城していた。 一応退路も用意したリビングで、手にはフライパンやハンマーを持って。 バンバンと手の平で窓を叩く音に震えながら。 あくまでゲームだ。ゾンビたちが参加者に与えるのは精々かすり傷。 与えるのは、恐怖だ。 「ねえ、二階の窓も叩かれてない?」 「見てこようか?」 「い、いやっ、ここにいてよぉっ!」 自分で望んでここにいるのに、歯の根があわないほど怖い。 では、出て行ったほうがいいのか? いや、それも怖い。 どちらが叫び出してもおかしくない緊張感の中、いきなり家が揺れたのだ。 ごごごごごごっという連続した故の後、断続的なごん、べきっ、バンという何かを弾き飛ばしていく音がする。 「何かくるっ。なにかくるっ!」 テレサの目柄ぼろぼろとストレス性の涙が落ちる。 「だ、大丈夫。俺、守るから! テレさんは逃げて」 「いやよぉ! へーちゃん、置いて逃げるなんて、いやよぉ!」 「テレちゃん!」 「へーちゃん!」 愛が深まる。つり橋効果ではない。断じて、ない。 ドン! 最後のドアをバリケードのたんすごと蹴り破ったのは、グラサンかけたファンキーなお坊さんだった。 「やあ、有場平太クン! 久しぶり! ファミレス以来だね!」 周囲を見回した後、満面の笑顔で馴れ馴れしく近づいてくるフツに、平太は目を大きく瞬かせた。 「覚えてないかな……ああ、そうか、あの時は「髪」があったからね。実はアレ、カツラだったんだよ。実際はこの通り、ツルツル。この頭を生かして、今日は、ほら、坊主のコスプレをしてみたってわけさ」 数瞬の間。 「ああー!! あんときのぉ!」 「そうそう、そんときの!」 「じゃあ、御社は、このイベントの企画とかもしてるんですね。楽しそうだなぁ! 受かりたかったー!」 和やかムード。 テレサがくいくいと平太の服を引っ張った。 「誰?」 「俺が落っこちた商品モニターの面接担当さん」 記憶操作は、問題なく根付いたらしい。 「エクソシスト、日本だったら坊さんですもんね! ヒネリ効いてる!」 「は?」 フツの疑問には答えず、平太はニコニコと話を続ける。 「まだ、大丈夫っすよ? 俺も彼女も元気だし、リタイヤしないっす!」 「え、あ、ええ?」 フツは、話をあわせようと生返事をする。 「救助隊の人の役なんですよね? これのこれ」 と言って、平太はしおりの該当ページを差し出す。 「ギブアップ! 『救助隊』がエリア内を巡回しています。どうしても進行が不可能になったら、彼らに助けられて下さい。ただし、それまで皆さんが獲得したトレジャー、権利などは一切無効になります」 かわいらしいイラスト入り。ハッグにはそういうことが得意な面子も揃っているらしい。 「救助隊は、エクソシストですので、ぱっと見救助隊と分かる格好はしていません。救助隊と見せかけて、ゾンビの可能性もあります! 判断力が物を言います!」 『ささやかな悪意』 は、アークの介入を計算に入れていた。 来ても来なくても、構わない。 来たときは、勇気という名の軽率を促し。来なかったときは、蛮勇の果ての絶望を促せる。 「まだ、がんばれます。新居ゲットっすよ!」 真面目に優勝する気だ。 リベリスタ達は、平太とテレサのポジティブさに舌を巻いた。 「いや、スタッフさんと知り合いだからって、チートはダメっすよね! でも、声をかけてくれてありがとう!」 太陽のような笑顔を向けられてしまった。 「――そういう訳にもいかないんだよ」 フツは背後を振り返る。強硬手段にでるしかなかった。 ● 「やぁやぁ、なんかすっごい音したから来てみたんだけどさあ!」 クロトがさわやかに言いながら、二人に近づく。 「お二人さん、あんたらも参加者? しかもカップルってやつか?」 クロトが気を引き、背後から飛行に長けたとらとシエルが襲い掛かって気絶させる段取りになっている。 「おー、そんなら、俺らと組まないか? 大勢いれば攻略も楽だろ?」 「――攻略?」 テレサがうめいた。 「それにもし訳有りだってなら、花を持たせちゃうんだぜっ。なぁ、組むなら取って置きの攻略法、教えちゃうぜ……」 「へーちゃん!」 テレサが、それはいいねと目を丸くした平太の手をつかんで、隣の部屋に駆け込んでいく。 次の瞬間、ドアに鍵がかけられる音につづいて、重たいものを引きずる音。 「え、なんで、せっかく」 二人の声がもれ聞こえる。 「このゲーム、参加者はみんなカップルじゃない! わざわざカップルとか言う奴、普通の参加者じゃないわよ!」 「あ、そっかー」 有場平太には疑う心がありませんでした。だから、神様は、その分、注意深い岩間テレサを与えてくださったのです。 「悪夢を見てほしくないから……ごめんなさい」 シエルが音もなく死角から飛来する。フツとクロトが気を引いているうちに、逃げ道を封じていたのだ。 「仕方ないとはいい難いんだけどね、ほんと☆」 とらも、いつもの調子で。とは行かない。幸せな少女の特技が背後から不意打ちではいけない。 破裂音。オゾン臭。 「保護対象、確保」 平太をフツが、テレサを智夫がそれぞれ背負った。 「二人の安全が最優先。戦闘はなるべく避けよう」 智夫は周りを見回す。 「迂回するほうがロスになるときだけ。進行を妨害する個体だけ排除。後は突破する。いい?」 「――では」 モニカが、再び凶悪すぎるリボルバーカノンを担ぎ、重心を下げる。 「突破口を開きます。今度は派手に行きますよ。下手に思い残しのない方がいいでしょうからね」 より、ゾンビがいないほうを目掛けて、再び壁に大穴を開ける為の砲撃が始まった。 ● 保護対象を背負ったフツと智夫を取り囲むようにして、リベリスタ達は強行突破に入る。 『ピンポンパンポーン。役場からお知らせです。ゾンビで混乱しているのに乗じて、町に救助隊が突入ました。彼らは「アーク」 というカルト集団です! ゾンビは倒しますが、皆さんを強制退場させます! リタイヤしたい方はどうぞ! その場合、当然賞品はなしです! 目印は、坊主が二人で和尚がツーです! 後、なんか普通の女の子がいっぱい!』 背後からゲラゲラという笑い声さえ聞こえる。ティーンエイジャーの声だ。 「どっかから、見てるね」 実際、一行は大所帯に膨れ上がっている。 フツの影人――お坊さんその2だ――が、フツに寄り添っている。 「これって、ライナス達かな」 いつ化け物になるか分からない、ノーフェイス。 自分を食ってハッグになろうとした母親を返り討ちにして、グルマルキンを奪い、生き延びた恐るべき子供達。 「多分。パレードばっかり盾にして、ほんとにいけ好かない――」 「理不尽に小ばかにされた気がする。怒り付与はパレードの専売特許じゃなかったのか」 影人を侍らせ、周囲の守りとしているユーヌの舌は今日も快調に毒が回っている。 「連中がムカつくなんて、今日はじまったことじゃない」 涼子の手の中の拳銃が手袋とこすれて、ぎゅぎっっと音を立てる。 『彼らは、皆さんに悪霊退散という名の電気ショックを仕掛けてきまっす! リタイアはよく考えて! 役場からのお知らせでっした-!』 全ては、ゲームに呑み込まれる。カスパールとメアリの永遠の退屈を慰める遊びなのだ。 『ささやかな悪意』 損得勘定でリベリスタから隠れて、結局は身の破滅を招いてもそれは参加者の落ち度。 いつでも、そうだ。 アークの差し出す道は少しの痛みを伴い、『ささやかな悪意』の差し出す道はどこまでも優しい。 もちろん、そう仕向けているのは彼らだ。 悪魔とは、責めるものではなく、誘惑するものである。 ● それまでリベリスタを見ても、 「ゴドボゴドシ!」 子供殺しと言いたいらしい。 モニカに向けて、ゾンビ――町の住人総出の攻撃が始まる。 一般人には目もくれず。 回避を捨てているモニカに向けての集中砲火。 面白いように、モニカの前に立ちはだかるユーヌの影人が四散する。 ちぎれて紙に戻る影人を指差して、町の住人はゲラゲラ笑う。 「出し惜しみはしませんよ」 足を止めての面攻撃。 一般人以外の全てを木っ端微塵にする勢いで、砲弾と見まごう銃弾が放たれる。 アスファルトがひび割れ、爆風に巻き上げられ、黒い石の雨になって、ミンチ肉の上に降り注ぐ。 その赤黒い水溜りを踏みしめながら、町の住人が駆け込んでくる。 撃ったら下がり、下がっては撃つ状態では狙いもぶれる。 回避に優れた者、運のいい者、物影に潜んでいた者が、少しずつモニカに追いすがる。 一気に間合いを詰められる者もいるのだ。 「あたしの子供をぶっとばしたわね……っ!!」 両手に肉切り包丁を握ったハッグがモニカ目掛けて振り下ろす。 「やっとあたしはここで優しいママになれたのに! あの子をぶたなくてよくなったのに! あの子はとてもいい子になったのに!」 ドン! と、重たい音がした。 モニカの両肩に重たい刃が突き刺さる。鎖骨がへしゃげて粉々になり、急にモニカの肩幅が狭くなる。 「いけません!」 シエルの詠唱によって、通りすがりの御使いの吐息がモニカの骨をつなぐ。 「緋は火。緋は朱。招来するは深緋の雀。これぞ焦燥院が最秘奥――」 ごうと音を立てる炎にかき消され、符より生まれた式神の名は聞こえなかった。 モニカの眼前で、鬼婆と化した母親が灰になる。 その灰をぶち抜いて、モニカの第二射が始まった。 「後ろが火なら、前は水で行くか。綺麗さっぱり消毒してやる」 冬の日はつるべ落とし。 水気に働きかけるユーヌの符が、道端に残る雪が巨大な亀と蛇の姿に括られる。 半透明の玄武から噴出されたずっしりと重たい気が、死に損ないをぶよぶよの水風船に変える。 「ユーヌさんにチャージします! 回復の方、お願いします」 智夫は、ユーヌの精神に同調し、魔力を水増しして注ぎ込んだ。 インヤンマスターとしてのユーヌは、大型砲だ。火力につぎ込んでいる分、持続性が足りない。 今、ガス欠を起こされたら、リベリスタはあっという間にアンデッドの海に沈む。 有象無象の大群を相手に戦うすべは、三高平市防衛線で骨身にしみていた。 「若月さん、怒りついても困るし、聖神の息吹でいいですよね」 「そうですね。わたし、失礼してチャージ入りましたので、小夜様のよろしいように……」 癒やしつくすことは変わらない。 二人を背負ったフツと智夫は、精神防壁を張り巡らせている。 怒りに身を任せ、背中の二人を放り出すことはない。 ならば、突破口を切り開き、追随してくる敵をほふる仲間の正気を保つのが癒し手の仕事だ。 小夜は、かけまくもと詠唱を始める。 「私、極力戦闘は避けたかったんですよ。スキルも可能な限り控えたかったですし」 でもですね。と、小夜は続ける。 「あまり怒るの好きじゃないですけど、少し怒りそうです。さっきまでは、この忙しいときにと思ってましたけど、また別な感じで」 小夜は、表現が控えめだ。奥ゆかしいので。 「北なら、道分かる」 とらと涼子が先行する。以前も戦闘しながらの移動だった。 前回は、町のルールに翻弄され、上空5メートルで迷子になった。 「任せる。私は前回南から出たからな」 ユーヌが短く答えた。 「こっちだよ! どーんと行ってみよー☆」 「先にぶっ飛ばしてくる。あんまり近寄らないで」 涼子はあまりにも軽装に見えた。手にはゆがんだ拳銃一つ。服の下に潜ませた防具もごくごく薄いものだ。 町のルールにより、住人は「今日のところは」まだ三回敵対していない涼子を取り囲む。 何かしたら、そくやり返すため。自分たちに難癖を付けさせるため。 「オバエダンガダイギライダ」 にごった声音。なんと言っているのかはわからないが、ろくなことを言っていないことはわかる。それだけ分かるから余計むかつく。 「おまえらがむかつくのは今始まったことじゃない」 そういう風に作られている。 「だから、あたしはお前たちの親玉をぶっ飛ばしてやりたくてしょうがない」 こんな風に。と、振り回される手足はミキサーのようだ。 触れるパレード全てが面白いように千切れていく。 制御しきれない力が涼子自身も傷つけて。でも、今使いたいのはこの技なのだ。 荒れ狂う、大蛇のような、根源の力。 とらが今度は高く飛び上がり過ぎないようにして、パレードの群れに突っ込むとその翼を激しく羽ばたかせる。 起こる風が熱気を去らせ、腐った血肉を切り裂いて更に腐らせる。 それでもまだ動くものはユーヌの玄武によって醜く膨れ上がり、五衰図を目の当たりにさせる。 私も死んだらああなるのですか? そうです。あなたも死んだらああなるのです。 (契約書を破れればハッグは救える?) とらはぶっ飛んでいく女の腕を見る。 (ひょっとしたら、ライナスもフェイトを得られれば……なんて考える事もあるけれど、全てを終わらせるつもりで来たなら、後戻り出来ない彼等にかける情けは捨てる) 引きちぎれて行くぬいぐるみと同じように千切れていくライナスを見る。 (パレードの子供達にも、この町と一緒に眠ってもらおう。もうこれ以上、違う顔のパレードが新たに誕生しなくなるなら、自分は不幸を上塗りするだけの加害者、それでいい) そして、げへへ、げへへといつまでも笑い続ける子供の首を次のはばたきで粉々にした。 「時間かけてられないからな。すばやく行くぜ」 ソードミラージュは、すばやいのが専売特許だ。時の流れも追い抜く早さが売りだ。。 クロトの羽根のように薄いナイフが、時計の長針と短針のように時を切り刻む。 ぶよぶよした死体が凍り、ぴきんと澄んだ音を立てて瞬時に凍りつく。 轟音で地面もゆれる戦闘の中、その音だけは美しかった。 「怒り付与と翼の加護、回復は厄介だからね。パレード、ライナス、ハッグと潰していくよ」 虎美の銃口が冷える暇はない。 流星群の破壊力が子供の死体を量産する。 その脇をすり抜けるように、仏の朱雀が飛ぶ。 死体の上をリベリスタは通り過ぎる。 北は凍てつき、南は暑い。 風と水さえ伴って、リベリスタの戦う様子は太極図にも似ていた。 ダイヤモンドダストに包まれた玄武を魁、鉄の流星を背負った朱雀を殿にして、リベリスタは走り続ける。 後には灰が残り、それも風が全て飛ばしてしまった。 ● どれほど圧倒的な火力を持っていようとも、魔力が尽きればどうしようもない。 智夫が魔力を水増ししたとしても、一度に譲渡できる量をあっという間に使い切ってしまう。 影人が尽きてしまえば、魔法使いはもろい。 今回は軽装備の者が多いのだ。治した端からずたぼろになる。 モニカのメイド服はずたぼろだ。足を止めて撃ち合う心得がかろうじて彼女の命運をつないでいた。 モニカが倒れたら、モニカはともかく、その装備を担ぐのにもう一人いる。 倒れない。 それで精一杯だった。 町の境界線を越えた途端のことだった。 不協和音。ちゃんと音楽の体をなしているのに、感じるのは圧倒的な不快感。 覚えのある感触に虎美と涼子の眦が釣りあがった。 『不協和音協奏曲』 ムジク・カペレ――ささやかな悪意の人攫い担当――の、太鼓叩きとラッパ吹きに食らった。 それよりずしんと来る。あの時は二重奏。今回は……。 マーチングバンド。 指揮棒代わりのバトンをくるくると回して、マーチングバンドが町からやってくる。 太鼓やトランペット、ビブラフォン。クラリネット、アコーディオン、リコーダー。 もうすぐ化け物に変わるノーフェイスの鼓笛隊。誰もがぬいぐるみを携えている。 「ああ、残念。今の私達ではあなた方は止められないみたい。だから、今日は何もしないわ」 くすくす笑うあどけない顔。そこにあるのは捨て鉢の理性。 「それとも、私たちも相手にしていく? 結構ひどい感じみたいだけど」 この人数と一戦交えるとなると、フツと智夫の背に負っている二人も無傷とは行かない。 「まったく『楽団』なんて名乗る連中にはロクなのがいませんね」 恩寵を磨り潰し、速射砲で体をささえるようにしているモニカが毒づく。 「あはは、彼らはしがない辻楽団。一緒にしたら、地獄の底で気を悪くする方々がいるんじゃない?」 前に立つ指揮者の少女の口から、少年の声色が漏れる。 契約魔術師・カスパール。 「僕らは空気が読めるからね。去年の今頃も、梅雨の頃もそりゃあおとなしくしてたでしょう? もう、何度も言ってるよね。僕らは別にこの世界を壊そうなんてことは思っちゃいないんだ。このまま、ここで、のんびり暮らしたいのさ」 『楽団』 や『親衛隊』 をやり過ごし、手駒を温存していたのは欧州出身のカスパールとメアリの保身術だ。バロックナイツに目を付けられたら、草一本残らず蹂躙されるのがよくわかっている。 「ねえ、僕らはよく似ている。ある日突然こんな体になっちゃって、集まらずにはいられない。君達だって、そうじゃないか。ご近所さんや家族ごっこは楽しいだろう?」 ヒトリボッチジャキガクルッテシンデシマウヨ。 「そうしていても、いつも世界のご機嫌を損ねないように怯えてるんだ。僕らはちょっといたずらをする。まだ、世界が僕らを嫌いになってないのか確かめずにはいられないのさ。君達は、僕たちを止める。そうしていれば、世界はご機嫌を治すし、何より――」 ああ、聞きたくない。耳に入れたら、耳が腐れて落ちそうな言葉だ。 「君らが安心だろう? ねえ、想像してごらんよ。誰も彼もが世界に従順だったら、化け物軍団になった君達はどうするの? ねえ、突出した理解できない力を持つ者はそれだけで迫害されるんだよ。歴史を見たまえ!」 リベリスタの神経を逆なでするがごときのファンファーレ。 「僕らは君達といい関係が築けるよ。時々、ちょっと追いかけっこをして、そんな感じで共存できる。覚えておくといい。鬼を全部滅ぼしたら、君らが鬼になる番さ」 ゲラゲラ笑い。 「だから、君達、またおいで。メアリはたくさんの仲間が増えて大喜びさ。きっと君達を退屈させたりしないよ」 いらいらする。不協和音。 「また遊ぼうよ」 「おい」 カスパールの語尾が消える前に、声がした。 とらだった。 「おぼえとけ」 いつも軽やかに跳ねる声がいつになく低い。 「袋のネズミはそっちだと、教えてやる」 赤い風船、白い風船、黄色い風船。 ● もうすぐ、撤退の為の車が来る。 「たくさん見た。もう、地図なんてすぐ書ける」 「写真もいっぱい撮りました!」 「たっぷり町の記憶も読んできた」 もうすぐだ。このいけ好かない町を全部焼き払うのはもうすぐだ。 リベリスタ達は合流地点まで急ぐ。 「う、う~ん……」 背中で平太がうめいて、パチッと目を開いた。 「2人揃って急に倒れたから心配でした……仲良しさんですね」 シエルが笑う。 「行動不能になったからね。残念ながら、リタイヤだよ」 ゲームスタッフと思われているなら、そのまま押し通すことにしたのだ。 「そうなんですかー。あれ、なんでおんぶされてるんですか?」 「あはは、町の中はゲーム中だから車は使えないだろう? 駐車場まで人力だよ! その後、念のため、暴飲で精密検査をしよう。急に倒れるなんて心配だからね!」 そのまま、そのまま。と、フツは言う。 「お世話かけます」 きっと、テレサは目が覚めたら色々疑問をぶつけてくるだろうが、平太は心配になるほど信じやすい。 智夫は背後を振り返る。 救出可能な一般人を回収したかったが、それはかなわなかった。 戦闘の中に飛び出してくる一般人はいなかった。 あるいは、アトラクションと思われたのかもしれない。 助けられたのは、二人だけだった。 まだ、彼らはゲームを楽しんでいる。 彼らがそれをゲームではないと知るまで、約八時間。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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