●煩悩を払うには 「皆さん、年越しのご予定は」 資料とリベリスタを視線が行ったり来たり。何か目が死んでいる『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)を前に、リベリスタ達は激しい既視感を覚えた。 そう、二年前のクリスマスの展開だ。当然、ある人間は多い。二年参りとか。 「チッ、こいつらも『姫納めと姫初めを』とか『百八回(表現規制)で煩悩を』とか到底払えねえようなこと言い出すんだろ。俺は詳しいんだよ……」 オイお前本当にどうした。どうした三十二歳。 大丈夫かアーク。切り札の万華鏡とかこんな奴に貸してよかったのか。 「予定がある方は帰って下さい。……帰れ、よ……!」 何でそこでサングラス外した。何で目尻抑えた。 首を振った。モニタ関連のリモコンを取り落とした。ホント何やってんだこいつ。 「……年末年始なんて車の中で過ごす人も居ればスーパーの店員みたいに数時間しか眠れない人もいればああクソ、これだからこの季節は……! 失礼、取り乱しました。フィクサードが除夜の鐘がアーティファクト化したものを入手して廃寺でえらいことしようとしてるので排除して下さい」 「スイッチ切り替わりはええよ。あとざっくばらんだなそれ」 「資料置いておきますので見て下さい。あと映像」 「おい説明義務」 「大丈夫です、資料でほとんど説明する方なんて僕以外にたくさん居ますから」 なんだか疲れきった声だった。 ●ガ○ャが一番……で堪るか 「諸君。今日は何の日だ」 『メシオ(救世主)! 年末であります!』 「そうだ年末だ。年の移り変わりを楽しみ次の年神を祀り詣でる準備をし蘇を屠る為に酒を供す準備をする、それが年末、大晦日だ。だがどうだ、この状況は! クリスマスと何も変わらない、変わっていないではないか! 我々の同胞は、峯岸 間は何のために道半ばにして倒れたというのだ!」 『覚悟の! 違いであります!』 「然り! 覚悟だ! 覚悟こそが全てだ! 百八回の煩悩を打ち払い、この世界に新しい規律を……!」 いやあすごいなこれ。この数十秒の映像で大体全部わかるよ。リベリスタは眉を顰めた。 こいつろくでもねえ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月09日(木)22:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●二年ぶり二度目 「もー、しろくん! 大晦日は、二人っきりで除夜の鐘を聞いて、それから初詣に行こうねって、約束したじゃない!」 「残念だが、箱舟の『戦姫』相手に軽薄な約束事を取り交わす程の仲は無いはずだが? あまり面白いことを言うな。思わず」 殺してしまうところじゃないか。 不自然な域に達した「自然さ」で今回の敵の首魁である『Nenio de Amanto』萩乃目 白九に接近しようとした『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)だったが、それを遮ったのは彼の手に握られたレイピアだった。飾り気も殆ど無い、無骨なそれが彼女の頬を僅かに裂き、一筋の血を吸い上げる。 かつての失敗を、この男は繰り返すことはない。堅実な相手に対して余りに無防備過ぎたのだ。そこが一点。 もう一点あるとすれば、彼らは余りにも「自分たちの立場を弁えていなかった」のだ。 まあ、どっちにせ舞姫、挑発技能活性化してねーんだもんそりゃ失敗するだろうよ。 「てい……あ」 そんな中に放り込まれた閃光弾がどんな結果を招くのか……推して知るべし。 「……本当に、あなたがたの道はこれだけしかないのでしょうか?」 「ないな。それと、今少しばかり君のような乙女から聞こえてはいけない単語が聞こえた気がするな。良くない、とても良くないんだそれは」 挨拶には余りにも長い大演説と共に“桜”を構えた『永御前』一条・永(BNE000821)に対し、ハンマーを構えた男が死んだ魚の眼をして首を振った。 誰も姫納めとか姫始めとかフィクサード側は一言も口にしてないんですがそれは……。 「ところで、姫始めとは何だ? 書初めみたいなものか?」 『童貞がおこしたしょーもない案件ですから、童貞には大凡関係無い話ですよ。あとそれ他の人に聞いたら多分殴られます』 ブリーフィングルームでのフォーチュナの切れ具合がよくわからないまま首を傾げた『完全懲悪』翔 小雷(BNE004728)の問いに、幻想纏い越しに返す『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が“殲滅式自動砲”を持ち上げる。 二年前のクリスマスには類似品の処理に走らされ、今回はまさかの大晦日である。そりゃ少しくらい憤らないほうが嘘というものだろう。 何故釣鐘堂を使わず本堂に鐘を持ち込んだのかは全く理解できないが、恐らく襲撃を受けることを前提に動いていたからだろう。 というか、そうとも考えなければこいつらの行動なんておかしいところだらけでツッコミだけで報告書一本分になりかねない。 「志を同じくする同胞とか同士とか、聴こえはいいけど寂しい言葉だよね」 「…………!」 仲間として機能している理由が、志だけだとしたら彼らはどれだけ孤独なのか。純粋な感想を述べながら前進した『ロストワン』常盤・青(BNE004763)の言葉に敏感に反応したのは、下位のフィクサード達である。 相応の実力を得て尚、自分の存在価値に意味を見出だせていない彼からすれば……志以外の繋がりがない集団が如何に虚しいものなのかを理解できなくはない。 それを突っ込まれたのは痛い。彼にとっては素朴な一言なのに集団からすれば明確な挑発に聞こえる辺りがなんというかもう。もう。 大鎌を肩に担ぎ、攻めの姿勢に入った彼の腹部に突き込まれたのは錫杖。縛術のかかったそれをまともに受けていれば、集団からの狙い撃ちは避けられなかっただろう。 強打でこそあるものの、クリーンヒットを免れたのは不幸中の幸いか。 更に殺到する集団、その最後尾の一人が、背後からの一撃に蹈鞴を踏んで目を白黒させる。 攻撃方向に意識を割こうとすれば、更に放たれた一撃が別のメンバーを大きく吹き飛ばしていくのが視界に入っただろうか。 「除夜の鐘つきたーい☆ ……あ、今回はダメかー」 攻撃方向から、異常なまでに脳天気な声を響かせるのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)。当然、彼とて場末のフィクサードですら名を知る者ではあれど、踏み込みの早さに追いつけるほどの傑物は、白九を除いて居なかったと見える。 その白九も、舞姫に対し苛烈な剣撃を向けている以上、そちらに目を向ける可能性は低い。鐘に到達するには未だ敵は少なくないが、困難であって不可能には程遠い。 鐘へと肉薄する終の視界に入ったのは、鐘を衝き、その流れで大上段に構えた男の姿だった。 「そこの鐘を私にくれたなら、先着一名にキスをしてあげよう」 「「「お断りします」」」 統制のとれた返答だった。統制が取れすぎていて、どこか機械的にすら感じるが……よくよく見れば男泣きしてる奴が一名、自ら目を潰さん勢いで瞼を閉じているのが数名。隙だらけである。 そんなものを見せられて、隙を衝かない『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)ではない。投擲した閃光弾は彼らの中心に襲いかかり、爆ぜる。 「……元気な人達ですね」 こころなしか嬉しそうに閃光弾に巻き込まれた者達に、『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)の視線は冷ややかだ。 年末だというのにこんな状況に巻き込まれるのは不幸という他無いが、こんな連中相手だからそれはそれで仕方ない気もする。というか、さっきから閃光弾やら範囲攻撃やら割りと打ち込まれているが、脱落者が異常に少ないのはどういうことか。 近場の一人を弾き飛ばし、飛来した弾丸を盾で受け流しながら周囲に視線を向けるが、既に乱闘になっている状況下、その原因を探すのは難しい。それなら最初から、鐘の確保に動くべきである。 最初から彼女が割り切っていたのは、幸いだったのかもしれない。 足を止めていれば、青を目掛け突っ込んだ連中が正気を取り戻した時、真っ先に孤立して倒れたのは青とメリッサの両名だったのだろうから。 ●大体年明け十分前ぐらいで会話が始まって三分前には開戦してる雰囲気 男は覚悟していた。 こんな騒ぎに混じった時点で、将来的に充実した未来が過ごせるなどとは思っていない。 何時か、過去が未来を収穫に来ることだろう。そうなれば、自分とて不幸になる。ならばいっそ、不幸という言葉に浸ってしまったほうが幾らいいことか。 箱舟の闖入はある意味想定外だった。故に、彼はいつも通り自分の役割を違わず果た―― ズガッ。 「あ、何か今倒れたのが術杖持ちっぽいですね。回復がやや減る分、目減らしは楽になるんじゃないです?」 『モニカさんナイッシュー☆ 鐘つき役は仕留めるから始末よろしくー☆』 終の応答から漏れ聞こえる戦闘の苛烈さを思えば、自分がこのまま無事でいられるとはモニカは欠片ほども思っていない。 だが、それに意識を割いて広域殲滅が遅れれば、足元を抑えてくれるであろう仲間の被害が拡大することになる。それはとても宜しくない。 なので、出来るだけまとめられるだけまとめ、回復役が居れば優先して落としていくのは彼女にとっての当然ではあった……の、だろう。 尤も。 彼女は俯瞰している以上分かっていたことだが、アーク側の戦力状況は世辞にも、約束されるべき『絶対優勢』からは逸脱していた。 「様式美を理解しない方ですね。鐘を付くならハンマーでなく昆でしょう」 「様式に囚われて未来を見ないのは愚だ。それに、俺にとってはこちらのほうが据わりがいい」 未来を見ているならば、現在の非リアの状態は直視しなくていいのだろうかとメリッサは首を傾げたが、相手は聞く耳を持たないだろう。 思い切りのよい上段からの振り下ろしは、まともに受ければタダでは済むまい。前のめりな編成である以上、倒れれば終わりだ。 鈍化した意識の中、確実に振り遅れ、弾き飛ばすのは失敗する……そう悟った彼女より、男より早く、脇から叩きこまれたのは終による一撃だった。意識をほぼメリッサに傾けていた男にとっては不意打ちであり、弾き飛ばされた分の間隙は痛い。 「……助かりました」 実力が未だ、遠いのも。飲み込んで戦わなければならない事実を彼女は知っている。構え直し、再び肉薄する彼にレイピアの鋒を向けた。 何よりまず、勝つ為に。 「こんな所で、疲れが来るなんておかし……」 青の膝が、笑う。 鐘への進撃は終とメリッサ、モニカの援護射撃が利いたのか上手いこと行ったのだが、如何せん鐘つき要員と残存兵、そして白九はなかなかどうして挫けも折れもしないのだ。 鐘つき要員は絶対者だ。大鎌を振り下ろし、会心の感触に笑みを浮かべた彼の隙を周囲を、そして相手本人は見逃さなかった。一方的な展開を脳裏に描いた一瞬で、しかし彼は運命を大幅に削り取られ、立ち上がっていた。 男は、追撃をかけず守りに入る。陰陽術師の放った針が彼の足を縫い止め、動きを止め、あとは本当に、本当に一瞬のことだった。 平時の疲れか。夜の所為か。 否。 これは、只の一瞬の結実でしか無い。 「なんでっ! ぼっち同士が、争わなきゃいけないのよっ! わたしだって! リア充を滅ぼしたいわよっ!」 「笑止、と言っておけばいいのか? 私には――友など居ない。仲間とわかちあう貴様は、ぼっちに値しない」 「……っ、それでも、滅ぼす為に動いたら惨めになるだけじゃない!」 「それもまた道理よ。惨めになる覚悟が出来ない正義に、正道を語る事は許されんのだ。分かるか『戦姫』、貴様に」 ぼっちプレイを楽しむ資格なし。 鮮やか(?)な論破と共に放たれたレイピアの連撃が舞姫を打ち上げ、留めの踵落としが後頭部を痛打する。 ぼっちとしての誇りと意識を高く持ち、今の今まで生きてきた舞姫の自信と運命を苛烈に削りとった連撃から彼女が立ち上がるには、今の戦いは余りにも時間が短すぎた。 一対一であれば彼女の優位は揺らがなかった。誤算があるとすれば……まあ、読みと準備の些細な差である。 「貴様の分まで私が救ってやろう。『恋人など無い』私がな」 あ、なんだろうこいつ異常にかっこいい。 「努力をせずに人を妬むなど言語道断! こんな輩を癒やして自らは傷つかないのか、心が!」 「う……煩いよ! そういうことを言うんじゃないよ! アタシが悲しいじゃないか!」 あれ、紅一点。 小雷が雷撃と共に叩き込んだ拳は、その一発が回復手にヒットしていた。その胸は豊満で、おっといけない。彼にはシゲキが強すぎる。 「こ、こんな所で妬んで居ないで相手を探せばいいだろう! 何故こんなことに手を貸している!」 「妬ましいからに決まってるだろぉ!」 「彼女は残念なんだ、察してやれ!」 「…………えっ」 こいつら付き合えばいいんじゃね。 実直な小雷でも、今のやりとりにちょっと疑問符。まあでも彼が次の一撃打ち込むか、モニカがそっちに砲身向けたら終わりなんですけどね? 「もう一度言うけど、キスは要らないんだね?」 「「「勘弁してくれよ!」」」 覚悟は決めていたんじゃないのか。男ども、血の涙を流しながら彩音の誘いを華麗に断り、殺到する。 あ、こいつら誘い受けじゃなくて無理やりする気だ。そんな馬鹿な。 「残念だなぁ、私だって割りと本気で言っていたのだが……」 そして割りと本気で、彼らが断ると踏んでいたのだが。全く、由と応じる相手を想像できなかったのだが。 “希望の輝き”と銘打たれた弓を媒介に、ありったけのオーラを弾いて貫いていく。 それでも突っ込んでくるなら、閃光弾を投げつけて。 「……スキルとか、もうちょっと覚えたいよねぇ……」 漏れてる漏れてる。 彩音さん、白九のレイピア見て艶っぽいため息つかんといて下さい。アンタ唯でさえ熟れてんだから。若いけど。 「悪い覚悟を持った人たちは凍らせちゃおうね~☆」 「くっ、私の動きを止めることは出来てもこの覚悟までは……!」 「お……お母さん……!」 何だこの場末の世界の終わりの光景みたいな、この何。 白九の方を向いたまま、氷結の波に飲まれ動きをとめていく面々を、小雷が何処か淀んだ瞳でトドメとばかりに動きを完全に止めていく。幸いにして、心音はとまっちゃいないのだが。 概ね全員の処理が終わらんとしていた時、既に白九は膝を屈した永を前に踏み込んだところだった。 遡ること数十秒。 「お参りは不躾にするものではありません。分かっているのですか?」 「願いは軽い言葉で片付けるものではない。そちらこそ、それを弁えて居ないようだな」 “桜”から放たれる流麗苛烈なその剣捌きは、しかし西洋の剣捌きとは根底から異なるものだ。 殲滅に手間を取られた仲間のためには、今彼を止めねばならない……そう考えた彼女だからこそ、前に出て白九に挑んだのだが、彼の覚悟の前に十全な力を出しきれていない。 舞姫を下し、疲弊を纏った彼と打ち合いやっと互角。『無難にいけば』永に軍配が上がるだろうか。 あるとすれば覚悟の差。覚悟を口にした彼は、恐らく敵味方含めて最も決意が強固なたぐいだ。 運命を削り立ち上がれば、きっと勝利は遠くない。ならば立ち上がるだけだと彼女が見上げた時。 「今年の煩悩ごと貴様を吹き飛ばしてくれる!」 小雷のやぶれかぶれにも近い一撃が、白九の胴を掠めた。 勢いのせいで蹈鞴を踏んだ彼を狙いすまし、一撃が振り下ろされようかというタイミングをまたも遮ったのは、モニカによる精密射。 咄嗟に掲げた盾は、しかし代わりを見つけることが適わず罅が入る。破壊までは行かない当たり、すさまじい強度と言わざるを得ない。 そして、姿勢を崩した彼へ刃を向けたのは――メリッサ。 「油断も隙も無いな君らは……!」 「逃がしません」 姿勢を崩しているにも関わらず、自らへ真っ直ぐに突きこまれる刃にメリッサは憧憬に近いものを覚えていた。 寧ろ、それよりは実務的な、自ら受け、当て、剣戟から吸収しようとする貪欲なまでの意識の高さか。 利き腕側の肩を深々と突き刺す刃の冷たさに、ああ今は年の瀬なのだ、間もなく年が明けるのだ、などと益体もないことを考えながら、神経が伝わる限りにレイピアの軌跡を上へ向ける。 僅かに切り裂いた感触に笑みを浮かべた彼女に気圧されたか、退いた彼の胴を叩いたのは、終の全速力の一撃。 最後の一歩、退いたそれは恐らく。 覚悟に全てを捧げた救世主もどきの一瞬の気の迷いだったのかもしれない。 ●当然、年くらい明ける 「……なんかニ年くらい前も似たような事やってましたね、私が拾ったわけじゃないですけど欲しいひと集めてじゃんけんでしょうか」 「欲しいクマー☆」 二年前と似た状況に嘆息するモニカに、我先にと宣言したのは終だった。まあ、それ以外にも何名か居たわけだが。 結局のところ、その結果がどうなったかはじゃんけんした当人たちに聞いていただくとして。 「皆、あけましておめでとう」 煩悩に囚われず、よい一年を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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