とある神社。 そこは、正月ともなると、初詣客で賑わう。 普段着の者も多いが、晴れ着姿の者もいるし、大勢でやってきた家族連れの姿もある。 参拝客の応対の為か、神主や巫女が忙しなく動き回っている。神社にとって、それは正月の風物詩なのだろう。 新しい年に、思いを馳せる人々。今年はよい年になるだろうか。それとも……。 そんな中、集まる人々を是としないモノがいた。 「ウットウシイ……」 休みなく御神籤を吐き続ける自動頒布機。この赤い機体には人が列を成し、1枚、また1枚と今年の運勢の書かれた紙を出し続けている。この神社には2台設置されているとはいえ、参拝客の列は途切れることがない。 「私ニ群ガルナ……!」 突然、頒布機が浮き始め、周囲へと御神籤を吐き出して来た! しかも、ただの御神籤ではない。その1枚1枚は刃状になっていて、それらが参道にいる参拝客へと次々に突き刺さる。参道は吹き出す血で赤く染まっていく。 そこかしこで叫び声が上がる。自動頒布機から逃げ出す参拝客はドミノ式に倒れ、さらなる被害を生む。神社ということもあり、神へとすがる者も多くいた。 「フン、コンナ時ダケ、スガル神ナド……」 自動頒布機はくだらないと思いながら、刃を飛ばし、神へと呼びかけるその声を完全に止めたのだった。 「……初詣、行く?」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は挨拶もそこそこに、リベリスタ達へと問う。初詣に行く行かないはリベリスタ達によって様々。 本題に入るイヴ。年明け早々に起こる事件を、万華鏡で目の当たりにしてしまったようだ。 「御神籤の台がE・ゴーレムとなって暴走してしまうの」 E・ゴーレムとなるのは、神社でよく見かける御神籤の自動販売機だ。この神社は参拝客が多く、御神籤箱では対処できないということで、自動頒布機を導入したのだという。しかし……。 「この1台はすでにE・ゴーレムとして覚醒してしまっていた」 普段は参拝客もそれほど多くなく、大人しくしていたが、七五三の時にかなりストレスを受けていたようだ。この時、もう1台の頒布機もエリューションに覚醒してしまっている。 そこでも黙っていた2台の頒布機だったが、さすがに初詣となると人が多くなるのは避けられない。不満が爆発した頒布機は、ついに周囲へと牙を剥く、もとい、鋭い刃となった御神籤を飛ばす。その刃によって、参道が参拝客の血で染まる未来が予測されているのだ。 「皆には、この惨劇を止めて欲しい」 また、頒布機は、自身から出たおみくじの巻きついた木、4体を配下として行使する。頒布機と合わせて撃破したい。 E・ゴーレムをうまく倒せたならば、初詣ができるかもしれないが……。リベリスタ達の働き如何というところだろう。 「……本当は皆もゆっくり初詣したいと思うけれど」 リベリスタ一行はこれも依頼だと割り切りつつ、件の神社へと向かうのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月13日(月)23:08 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●年の瀬の神社にて 12月31日、夜――。 準備に追われる神社の関係者達。神社にとって、初詣は書き入れ時だ。それに備えて行う作業はいくら人手があっても足りないくらいである。 境内や参道には、現在、人の出入りはまばらだ。日が沈み、人は少しずつ集まり出してはいたが、そのピークにはやや早い。 ふうと息をつく神主。もう一踏ん張りと作業を進めようとするところに、警官姿の男女が現れた。簡単な挨拶を交わした後、彼らは話を切り出す。 「実は、この神社に爆破予告があった」 男性警官に成りすましているのは、『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)だ。リベリスタとて、年末年始は忙しい。手早くこの依頼を片付けようと考える牙緑の口調はやや早かった。 「爆破予告……この神社に?」 そうですと、女性警官に扮している『魔術師』風見 七花(BNE003013) が頷く。しかしながら、神主は訝しむ。警官の姿はたったの2人だけなのだ。神社に爆破の話があるにしては、警官の数はあまりに少ない。 「最近導入した頒布機に爆弾を仕掛けたと予告がありました。安全の為、一時頒布機周辺を閉鎖させていただきたいのです」 頒布機は本殿の手前2ヶ所に設置されている。その周辺ということは、本殿周辺を封鎖する必要があるのだ。 「……すみません、しばし、考える時間をいただけませんか」 すでにかなり準備は進んでいる。いや、爆発による人的被害を考えれば……。神を祭る神社で事件を起こすというのも、神様に、歴代の神主にも申し訳が立たない……。神主はどうすべきか、対応に悩み出した。 「さてとまずはこの一般客の対応だね。これだけの人では効果も薄いだろうが……。それでも何もしないわけにもいくまい」 その間に、『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276) 、『』離宮院 三郎太(BNE003381) の2人が神社へと結界を張り出す。 その展開が終わると、参拝客の足が外へと向き始める。確かに人は減り、セッツァーの予想以上には人が境内からは減ったが……。 参拝客の中には、この神社を懇意にしている者もいる。結界の力だけでは全員が外へと出ることはない。新たに参拝する者も確かに減ったが、それでも来ないわけではないようだ。そんな参拝客の流れを、『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136) はぼんやりと眺める。闇夜でも目が利く竜眼で辺りを見渡しながら『猟犬』の鼻を使い、いりすは周囲の状況を確認していた。 神主が判断に時間をかけている間に、徐々にではあるが、参道に人が集まり出す。万華鏡で予知された人数に比べればかなり少ないが、それでも、3、40人ほどはいるだろうか。 さて、年が変わるまで、残された時間は少ない。 「仕方ない。本殿の付近だけでも封鎖させてもらうぞ」 牙緑は今だに判断に迷う神主をそのままに、本殿付近へとカラーコーンを置き、黄色いテープを張り出す。七花もその手伝いを行っていた。アークに手配した助っ人が多ければ、もっと手際よく作業は進んだろうが、残念ながらその数は片手で収まるほど。圧倒的に人手が足りない。 時は経ち、訪れる人々が口々にカウントダウンを始める。 「3、2、1……」 カウントが0になると、巻き起こる拍手とおめでとうの声が巻き起こる。 しかし、起こった声はそれだけではなかった。 「ウットウシイ……」 声と共に、おみくじと書かれた2つの赤い箱はゆっくりと浮かび上がる。そして、それらはたくさんの白い御神籤札を吐き出した。御神籤札の端は鋭い刃となり、空を飛ぶ。 何事かと参拝客の視線が本殿へと集まる。そこへ、御神籤の刃が宙でくるくる回転しながら一斉に飛んでいった。 ●襲い来る御神籤頒布機 参拝客へ向けて空を飛ぶ御神籤カッター。本殿が封鎖されていた為、参拝客からは少し距離はあったものの、ほぼ一直線にその距離を詰めてくる。 その前へ、三郎太が立ち塞がった。彼はその身を盾にして、刃を受け止めてみせる。 「みなさんっ! ここは危険です……っ! 早く避難してくださいっ!!」 突き刺さる刃からは赤い液体が流れ出る。参拝客からは悲鳴が上がり、その場から逃げ出そうとする者が出始めた。中には、三郎太を気遣って駆け寄る参拝客の姿もある。彼はそれを手を張って遮った。 「だ、大丈夫です……ボクは見た目より全然丈夫なんですよっ!」 その身を張った三郎太だが、カッターの全てを受けきることはできていない。残念ながら、参拝客の中には、刃をその身に受けた者がいたようだ。身内の傷に、神へと縋って祈る高齢の女性の姿もある。 アークのスタッフがその参拝客へと避難を促す。爆破予告と気を引き締めていた神主も、参拝客へと避難を呼びかけていたようだ。 「フン、コンナ時ダケ、スガル神ナド……」 ふらふらと浮かび上がるエリューションはその真上から声を投げかける。 見下すように浮かぶ頒布機へといりすは飛び上がり、ジャックナイフを突き出す。闇夜の中でも煌くように繰り出される技はこれ以上なく洗練されており、無駄がない。 いりすは思う。所詮『神』など平時の手慰みに過ぎないと。喰うタマもない粗大ごみの予備軍が随分と偉そうな事をほざく。まぁ、反抗期なのかしらね。如何でも良い事だが。それこそ。 「雉も鳴かずば撃たれまい。大人しく自販機していればよかったものを」 挑発の受け取ったのか、真っ赤な頒布機の台がさらに赤くなったように見えた。そして、頒布機が吼えると、周囲の木に結ばれた御神籤がほんのりと輝き、その木がゆっくりと動き出す。 できる範囲内で、セッツァーは客の誘導を行っていたが、動き出した木が邪魔をしてくる。枝に結ばれた御神籤を少し邪魔そうにしながらも、その巨体を動く者目掛けてぶち当ててきていたのだ。セッツァーは体当たりに体勢を崩されながらも、起き上がって攻勢に打って出る。 牙緑、七花も、エリューションの相手を始めていた。戦気を纏った牙緑は、右手の指をくいくいと動かし、頒布機の注意を引く。 「おら、こっちだ。来なよ」 うまくエリューションの気を引く仲間達を把握する七花。本殿付近にいる頒布機、そしてそれを相手にするリベリスタ達。 木々がこちらへとつられてくるのを見計らう七花。ある程度、避難が終わったと判断した彼女は陣地作成を始める。七花が外と切り離した空間の中は、魔術師の空間だ。これならば、しばしの間は参拝者がこちらへ近づくこともない。 そこで、リベリスタ達はエリューションを排除すべく、持てる力を全力で叩き込んでいく。 ●リベリスタ達の運は 敵の数は、合わせて6体。数で劣るリベリスタ。頒布機2体は、個々のリベリスタよりも力量が上だろう。 それを、リベリスタ達は戦略でなんとかカバーしようと試みる。 いりすは最初に動き出した頒布機へと狙いを定め、御神籤カッターの切れ間を見計らいながらジャックナイフを突き出す。瀟洒なその突きを受けた頒布機の動きに異常が起こり始めた。 「ウ、ウッ……!」 頒布機は何を思ったか、もう一体の頒布機と、木々目掛けて御神籤カッターを飛ばし始める。それを幹へと突き刺した木は、勢いをつけていりすへと体当たりを繰り出す。彼女は勢い余って大きく吹き飛ばされてしまった。 「一般の方に被害が及ばなればこちらのものです」 三郎太は戦闘に入り、自らを超集中状態におく。この劣勢の状況下でいかに自分達を勝利に導くか。考えられる全ての可能性を脳内で導き出した彼は、改めて敵を見据える。 「覚醒してしまったおみくじ機が全て悪いわけではありませんが……。それでも人を傷つけるというなら討伐以外の道はありませんっ」 ふわふわと飛ぶ頒布機に狙いを定める三郎太。もう1体の頒布機は我をしっかり持ち、こちらへと御神籤カッターを飛ばす。それを再び体へと刻み込みながらも、叫びかける。 「ボクには不運不吉なんて起こりえませんよっ!」 精神無効のスキルを持つ三郎太には、不幸の御神籤から流れ出る悪い運などは意にも介することはない。三郎太は頒布機の行動パターンを全て解析した上で、魔道書を閉じて叩きつける。もちろん、一撃ではない。導き出された最善の解を、三郎太は形にすべく、逃れようとする頒布機へと再度殴打を繰り出す。 「ウットウシイ奴ラメ……!」 頒布機はその口を大きく広げる。そして、その中の御神籤を逆流させるように御神籤を吐き出した。それらは近場にいたリベリスタ達の身に浴びせかかる。 後ろから構えるセッツァーは、紙吹雪、いや、刃の嵐というべき御神籤カッターが自身にも飛んでくるのを受け、手にする銀色のタクトを振り上げた。 「相手の攻撃が侠気のおみくじであるならば、そんなものワタシの炎で燃やしつくて見せよう」 彼の振る指揮棒に呼応するように、敵陣に生み出された炎。それが徐々に膨れ上がっていく。 「ワタシの炎は少々荒っぽいようだ……。巻き込まないように注意はするが、君たちも注意してくれたまえっ」 さらに、セッツァーがタクトを振るうと、炎は大きく爆発を起こす。エリューションとして意識を持つ木は、枝や幹に引火した炎が危険な物だと感じて身をよじる。 燃え上がるその木へ、七花が迫った。彼女は唯一、木々を先に相手を行っていた。相手は体当たり、御神籤の付いた枝の振り払いと、近距離攻撃をメインで行う相手だ。彼女は可能な限り距離を取って一条の光を飛ばし、木々の体に電撃を浴びせかける。炎を上げていた木がついに横倒しになり、境内の上で燃え上がり始めた。 残る木々は自分達を狙う七花へ、直感として危機感を覚える。そいつらは七花へと近づき、その巨体を彼女へと繰り出してきた。 「私に、狙いを……」 それに気づいた七花は、攻撃の手を止めて防御体勢を取り出すのである。 さて、魅了されていた頒布機は我に返り、自身の体でリベリスタを潰そうと己をスタンプ代わりに踏みつけてきていた。が、その体はすでにボロボロ。リベリスタ達の攻撃で、中にある御神籤が漏れ出す。 「自販機とか木に追っかけられるなんて、なかなかシュールな体験だよな」 物が人を襲う状況など、何度も体験できることではないだろう。牙緑はふと、この状況を冷静に考えて思わず笑みを浮かべる。いりすのナイフが乾いた音を幾度も立てるのを見計らい、彼は右手の大剣を持つ手に力を篭める。全身の闘気を極限に高めた牙緑は、動きを止めた頒布機へと大剣を叩きつけた! 「ウ、ウアッ……」 弱弱しい声と共に頒布機は砕け散る。中の御神籤が飛び出て、風に吹かれて舞い散り出した。 ●運を味方につけたのは 頒布機1体と木1本を倒したリベリスタ達の攻撃は続く。 しかしながら、エリューションの攻撃は激しい。 「大丈夫ですか、今回復しますよ!」 三郎太は静かな詠唱で癒しの力を具現化し、仲間達へとそれを分け与えていく。確かにリベリスタ達の傷は癒えていくが、それでも、一行の体力の減少は激しかった。 全力防御する七花も限界が近い。3本の木々に攻め立てられ、その体の所々に痣が浮かぶ。御神籤付きの枝での薙ぎ払いで、運気も低下しているようだ。 防御一辺倒では、敵のいい的。ただ、仲間達が頒布機を先に倒してくれたなら。そう願いながらも七花は攻撃を受け続ける。 しかし、メンバー達は頒布機をようやく1体倒したばかりで、2体目の攻撃を集中させている。さすがに1対3では七花には荷が重い状況だ。 振り払う枝が七花の顔を殴打する。フッと、彼女の意識が飛んだ。地面へと落ちそうになるその時、彼女は地面に落ちた御神籤を目にした。結ばれた御神籤は弾け飛んで地面に落ちていたのだろう。そこには、『大吉』と書かれている。 そこで、七花の意識は覚醒した。彼女は一言、二言呟くと、自身を中心にして炎を生み出して暴発させる。1体の木が大きく燃え上がり、樹上で大きな弧を描くようにして崩れ落ちたのだった。 一方、常に頒布機へ取り付いて攻撃を仕掛けていたいりす。御神籤カッターで全身に傷を負っていた彼女が膝を付きかける。セッツァーがその姿を見て、すっと息を吸い込んだ。 「我が回復の歌よ……ワタシの声(うた)よ……皆のもとへ……っ」 声高らかに、テノールが響き渡り、天使の歌がいりすの体を癒した。 「すまないな。こんなもの……!」 いりすは癒える傷口から御神籤を抜き去る。そこに書かれた御神籤は、『末吉』。ささやかなる運の書かれたその結果にも、彼女は自分をペースを崩すことなくその籤を放り投げたのである。 頒布機へリベリスタ達の攻撃は続く。三郎太は起き上がった七花や、いりすに向けて激励の言葉を飛ばす。 「もう少しです。頑張りましょう!」 彼は小さく詠唱を始める。高位精霊の力を具現化させ、仲間達の体力を癒していく。 その傍ら、セッツァーはタクトを振りかざし、頒布機の付近へと爆発を巻き起こす。 「さすがに首に噛みついて息の根を止めるのは難しそうだがな」 動きを止めた頒布機へ、牙緑は大剣での一撃を叩きつけ、爆裂を起こす。 「祈れよ。信じる『神』がいるならな」 さらに、いりすはゆっくりと太刀を抜き、頒布機を幾度も貫く。 E・ゴーレムにも、信じる神がいるならば。頒布機の心に少しだけ逡巡が生まれた。こんな力を自分に与えた神はいるのだろうか、と。 太刀はその台を貫く。そこで、頒布機の意識は完全に途絶える。ぼとりと地面に落ち、壊れた台から大量の御神籤があふれ出たのだった。 リベリスタ達はその後、残る木々も打ち倒す。重い音が境内へと響いた。 全てが終わった境内。ほっと息つく三郎太だったが、そこには、改めて野次馬が集まり始めていた。この騒ぎで怪我人も出てしまっている。何が起こったのか気になる者も多いだろう。リベリスタ達は彼らに気づかれぬよう、こっそりと神社を後にしていく。 「皆にとっては一年の始まりの大事な日……初詣をこれ以上邪魔するわけには行かないであろう。……しかし、とんだ新年になったものだな」 セッツァーの言葉に、リベリスタ達は一様に頷く。年明け早々厄介ごとに巻き込まれ、何とも幸先の悪い新年を迎えてしまったわけだから。 「このまま初詣と行きたい所ですが、今回は別の神社が無難ですね」 この状況では、先ほどの神社に戻るわけにもいかない。神主へと事態の収拾完了を伝えるのを、七花は断念していた。おそらく、リベリスタ達の用意したカラーコーンなどは、アークのスタッフが撤収してくれていることだろう。 一行は厄を落とすべく、別の神社を目指す。そこで祭られている神は、彼らにご利益をもたらしてくれるだろうか。それこそ、神のみぞ知るのかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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