●静粛境界 -Iydilice- 全てが敵であった。 魔王と呼ばれるようになって、憎み続けて戦う事が全てだと悟った。 虚空より異界の侵略者が現れたが、侵略者"以外"と戦い続けてきた。一切合切を消し去りたいと激情に身を委ねた結果、やがて誰もいなくなった。 侵略者だけが残る世界と化した。 瓦礫の城に長い時間を独りで居た。 静寂のみが支配した。 時々、侵略者が瞑想を破ってくる。 友人か何かと思っているらしいが、その度に奇妙な所へ連れだされる―― ●魔王 -Prince of Black- 夜分、すっかり月も冴えたる冬の夜。 月下の公園のブランコで、男女の二人がわびしく座っていた。正確には少女と青年。双方とも、出で立ちはコスプレの様な格好である。男は黒いマントを羽織り、その下には西洋の鎧の様なものが垣間見える。 少女は魔女の様な三角帽子に、巫女の様な広い袖の衣装である。 「イラ アリジュラ オン イマイ♪」 少女は夜空を仰いで、奇妙な歌をうたいながらブランコをこぐ。 「ウラトン ナトナ ヴァプマ アス♪」 「何のつもりだ、侵略者。今日の此処は何だ?」 黒衣の男は苛立たしげに、少女へ切り出すと、対してぴらぴらと応答する。 「とっておきさ、『魔王』。ボトムチャンネルっていう所だ。『此処の愉快な奴等』からの要望で、えむえむおーっていうのをしたいらしい」 「何だそれは」 『魔王』と呼ばれた男は、いささか解しかねるといった様子で首を傾け、眉間に皺を寄せる。 「よく知らないが、調べたら魔王というのが必要らしいんだ。魔王といったら私が知る限り君だ。『魔王』」 少女は青年の返事を聞かずに続ける。 「私の眷属も一体やられているから、君も満足すると思うんだ」 「……その話は興味深い。どうすれば会えるだろう」 「奴等は私たちの居場所を突き止めてくるから、何もしなくていい。暫くしても来なかったら『君の世界で君がやった事』をもう一回やってみよう。そしたら確実だ」 「そうか。ならば、群れを探す方が効率的か。あちらが明るいようだ」 『魔王』は立ち上がって繁華街の方を見る。 「乗り気になってくれてごっちゃんです。一杯遊んでいってね!」 少女はぴらぴらと手を振って、夜の闇に姿を消す。 いつの間にか、月には斑雲がかかっていた。 ●崩界した世界から来たモノ -Emergency- 「強力なアザーバイドが現れた」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、端末を操作して映像の準備しながら告げた。 額に汗が滲んでいる。平静さがやや欠けている様に見られる。普段はともかく、こと任務の説明時では、滅多にないのであるが。 「識別名『魔王』。これを撃破あるいは撃退する」 エンターキーが押下された次に映像が流れる。美麗なるプラズマスクリーンに現れた者は、人の類似した容姿の一人の男であった。 ただし額にある第三の目が、人外を雄弁に物語っている。また、フュリエと同様に、この世界とは原理が異なる様な力を秘めている様に思われた。 「何故『魔王』と呼ばれるかは、断片的ではあるのだが――どうも奴は自らの世界を崩界させているらしい。狭い世界らしいが」 この世界は階層が積み重なっている。出来の悪いパンケーキの様なものである。 上位だからとて、個の力量に優劣が生じる訳でもなければ、ボトムより広大な領域があるのかと言えば、そうとも限らない。 だが世界を崩界させるクラスともなれば、強敵である事には間違い無かった。 「目的はアークのリベリスタと戦う事らしい。酔狂なアザーバイドがいたものだが――放置すると存在自体が崩界を招くだけでなく、自らの世界に行った行為をボトムでもやりかねん」 掴んでいる限りの情報が資料として並べられる。 「敵は物理と神秘共に高いレベルで使用してくる。戦闘スタイルは、今までに余り見ないタイプというかな。独特だ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月11日(土)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●勇者の挑戦 -Hero's Challenge- 冴ゆる月光。冬宵の斑雲。 肌に刺さる空っ風と、空っ風に煽られたヒマラヤザクラの樹影が、ざわざわと蠢きながら暗闇に溶けて消えていく。 『魔王』は歩みを止めた。 『臆せず良く来たものだ』 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は闇の中から立ち現れて、背を向けたままの『魔王』に大きな息をついた。 「……ただの寂しがりやでしょうか?」 『胸中を読むのか』 『魔王』は振り返り、レイチェルの言葉を半ば肯定したように応答すると、背負った剣を抜いた。 抜いた剣に向かって、黒き影が射す。固い金属音と共に跳ね上げる。 「『魔王』だ何だと忌み嫌われ一つ世界を滅ぼそうと、結局のところ孤独には勝てなかったという事だろ」 黒い影――『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が、続いて魔王の胴へ一刀を刻まんとすると、眼前に"剣の腹"が現れる。咄嗟に得物を交差させて受ける。身体に浮遊感を覚える。空中で体勢を整えて着地する。 「なるほど。暇つぶし程度にはなりそうだ」 いりすの呟きと入れ替わる様に『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が『魔王』の前へと降り立つ。 「魔王。貴方は何故、自分の世界を滅ぼしたんですか?」 セラフィーナの言葉に、『魔王』は首を傾げた。 「貴方のいた世界がどんな世界だったのか、私は知りません。滅ぼす正当な理由があったのかも知れません。でも……」 相対した者は首を正して笑みを浮かべ。 『正当な理由があれば、君は滅亡を受け入れるのか?』 『魔王』は、剣を右肩の上で構える。刀身が視線と平行になる上段構えである。途端にセラフィーナは首の裏に冷たい殺気を覚えた。 「……構えた」 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)が、樹梢の影からひらりとそぞろ立つ。 「異界の王よ。この世界に何用ですか?」 『かの侵略者の一角を滅ぼしたと聞いている。些細な興味だ』 侵略者とは、彼を手引した者のことだろう。 「筋書きに乗せられるのは気に入りません。貴方を此処に誘った者の思惑は兎も角、招かれざる来訪者には御帰還願いたく思うのですけれど」 『想像以上に愉快だ』 「この場を判断材料にしているということでしょうか」 悠月が自身を守る障壁を展開するや『そうだ』と短く返事が来る。 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が、身体に光を纏って参ずる。黒い濃霧の如き場を払う。 「私は勇者なんて柄ではありませんけれど……」 手甲の握りを改め、拳を突きつけるように『魔王』へと向ける。 「貴方が元の世界と同様にこの世界の全ても消し去ろうと言うのならば、魔王を倒す存在として全力で立ちはだかりましょう」 真っ直ぐに見据える事、僅かな空白の後、『魔王』は言う。 『綺麗な言葉で飾り立てる者ほど、本音では世界などどうでも良いと考えているものだ』 「何が言いたいのですか?」 『単なる愚弄だ』 ここで、ギンッと固い金属に銃弾が当たる音が響く。 『魔王』の鎧の胴部へ弾丸が突き刺さる。 「お主を唆して連れて来たのはヴァプマの奴か」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、携えた銃に弾丸を再装填しながら言った。 「自我はあるようじゃがお主も侵蝕されてるのかぇ?」 『闇の化身である奴と私は相反する』 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)も瑠琵の言葉に応じた様に、狙い澄ます。 「正気の上ですか。アレに手を貸されると困るんですがのう」 堅い鎧、瑠琵の星占いの力が宿った弾丸を、九十九が全く同じ箇所を撃ち、ねじ込み、押しこむ。 「個人的には黙って帰っていただけると嬉しいんですが、まあ、無理なら仕方有りません」 瑠琵が言う。 「さて――やる前に、おヌシの真の名を聞こうかの?」 『君からは名乗ってはどうだろうな?』 「俺は結城竜一だ。名を聞こう!」 ここで『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の声が、高らかに矢を放つ。 続き二の矢。 「名がないのなら、目的を聞こうか。なぜこの世界にきた! あんたがこの世界に悪影響を与えることは知っていてきたのかい?」 『順番に答えよう、竜一とやら。アクィテス。魔王は勇者と戦うものだ。悪影響は知っている』 『魔王』は悪影響を確信しているのならば。 「一度だけ聞くぜ。おとなしく、帰ってくれないか?」 『諸君等には、強力な戦う理由というものが必要らしい……そうだな、かの侵略者に手を貸す事にした』 竜一が剣を抜く。 「それがお前の答えならば、戦うのみだ……!」 ●勇気を失う理由など -Un-Brave Reason- 月前の公園は、たちまち黒い霧が立ちこめているのかと怪しまれる程に、闇が支配した。月が隠れて行く。月光が消えていく。…… 『崩しの術法か』 『魔王』が姿勢を崩しかける。いりすが好機と見るや『魔王』の頭上から強襲する。 「そも小生は勇者という柄ではなし」 いりすの太刀と『魔王』の剣が接触する。するりと手応えを流される感覚に、横から魔王の剣が飛来する。またも身体ごと弾かれる。 今度は浅い。空中で姿勢を正し、もう一撃を袈裟懸けに下す。 「負けも多いだろ」 『負けばかりだ』 奇襲され慣れているといりすは確信する。だが何だろうが。己の方針は何一つ変わらない。 ――精々らしく喰い散らかす。 得物の二刀を逆手に握り直すと同時、横をレイチェルの投げナイフが通り抜ける。『魔王』の腕に突き刺さる。氷結していく。 「戦う理由を頂戴しましたが、別に世界を滅ぼしたがってるという訳でもなさそうですね」 レイチェルがやや距離を置いた所で呟く。 『私には何方でも良い事だ』 呟きも悉くテレパスの様な能力で拾っているのか。 「成程。満足のいく戦いがしたいようですので。遠慮なく、身体に叩き込ませていただきましょうか――セラフィーナさん!」 レイチェルに「はい」と応じて、セラフィーナが翔ける。刀を振り下ろす。『魔王』は氷結を意に介さず剣で応ずるも、セラフィーナの光輝く軌跡が先に届く。 「魔王。今からでも元の世界へ戻って、世界を復興するつもりは無いのですか?」 『剣筋が曇っているな。もっと踏み込めた筈だ』 「……世界に自分しかいないなんて」 魔王の姿が闇に溶けたと思った途端、腹部に魔王の剣腹は当てられていた。強い嘔吐感と共に跳ね上げられ、中空で静止する。 「その鍛えた剣をぶつける相手すらいない……」 『君は純粋過ぎる』 視線がセラフィーナへ行った事を、悠月は見逃さない。 「ここです」 たちまち虚無の掌が生じて『魔王』へと突き刺さる。魔王は片膝を着きかける。 「自らの属した世界を滅ぼした――まさに絵に描いたような『魔王』だけれど。何が貴方をそうさせたのか」 『それは――』 言葉の途中で『魔王』は剣を突き出す。悠月の胸に突き刺さらんとするも、見えない壁で切っ先は静止する。 『厄介な障壁だ』 歯噛みする『魔王』の脇を、彩花の拳が刺す。上段構えが崩れ去る。 「『魔王』、先の言葉を訂正して頂きましょう」 『図星か?』 「侮辱に対しては、あまり寛容ではありません」 『ああ、愚弄だ』 彩花は、無言で軽蔑の視線を送った。 竜一が吠える。 「お前は本当に魔王なのか!?」 限界を超えた一刀を下す。魔王の剣が迎え撃つ。手応えはふわりと得体が無い。竜一は力任せに己の剣筋を曲げる。鍔迫り合いへと噛み付く。 「質問を変える! 魔王と呼ばれる以前は何だった!」 『……っ』 微かに、僅かに、鍔迫り合いで感じる『魔王』の気魄が緩んだ様に感じた。押しこむ。血は赤である。鮮血が赤々と吹き出した。 「ようやく一回ですか。随分とまあ硬い付与ですよな。解除するのも一苦労ですよ」 九十九が、自らの魔力銃のシリンダーを抜き取って排莢。再装填する。月は隠れてしまったが、弓を持つ射手の加護が十分だ。 「何で私達と戦いたい何て思ったんでしょうな?」 『化けの皮を剥がす事も一興だろう?』 『魔王』は彩花を見る。 『様々な異界の勇者と名乗った者達。綺麗な言葉を飾り立てた挙句、逃げる者。仲間を売って命乞いをする者――軽い言葉に飽き飽きしている』 瑠琵が銃口を向ける。 「これはわらわの推測じゃが、お主が魔王となったのはヴァプマの仕業じゃろう」 『君は、奴の特性をかなり心得ているな』 「アヤツは万象を侵食する者じゃ、抱いた激情は本当に自分のものかえ?」 星占いの弾丸を撃つ。『魔王』は跳躍して回避し、剣を背中の鞘に納めた。 『問答もそろそろ飽きてきた』 『魔王』は、背負っていた鞘を片手に持った。 次に『魔王』の攻撃を封じていた氷結が砕ける。『魔王』の姿が消え、竜一、セラフィーナ、彩花、いりすは、そよ風の様なものを感じる。 たちまち、熱い痛みと鮮血に気がついて――キンと、『魔王』が納刀する音が耳に入る。気づいた時にはもう遅いのだと知った。 ●誰よりも振り続けた剣 -Acytes the Braver- 戦局は、一種、交響曲の如く転調した。 下段構えへと転じた『魔王』の反撃は、反撃で復数人を斬ってくる。リベリスタ達の布陣は『魔王』取り囲む様に動く。 「それが、世界を滅ぼした力、か」 竜一が戦鬼の如く剣を叩きつけると同時に、魔王の抜刀。光の軌跡が竜一の脇腹を拐っていった。竜一の脇を『魔王』はすり抜けて、いりすの眼前に立つ、立ったかと思えば既に斬られている。 「どうせ小生も暇人だ。夜は長い。精々踊り明かすとしよう」 返す刀でアル=シャンパーニュ。口角に垂れた赤い液を拭う暇すら惜しい。更に反撃が襲来する。あゝ、本当に踊っている様な激戦じゃないか。 竜一が、膝を正して剣を握り直す。 「誰よりも降り続けた剣」 竜一が思索する。 生まれつき努力の必要が無い程の存在であれば、剣など振る必要が無い。 「……何となく分かった。魔王と呼ばれる前は何だったかな!」 こいつは努力型だ。 「魔王!」 袈裟懸けの出血をそのままに、セラフィーナの一刀が『魔王』の背を斬る。 「貴方の、ただ一人で振り続けた剣技には負けられない!」 『……私の剣が、一人で得たものだと』 たちまち『魔王』がセラフィーナの剣を跳ね上げる。抜剣、反撃でもって応答する。 「それは……仲間が居たという事ですか?」 セラフィーナは、跳ね上げられた切っ先を強引に打ち据える事で、鍔迫り合いの如く斬撃を防ぐ。 無言の返答の後、セラフィーナの腹部に蹴りが刺さる。 『魔王』の視線は、今動かんとした悠月へ向く。横薙の剣が悠月の障壁を砕く。 『さて、魔法使い。次手はどう凌ぐ』 短き時を、かつ短く駆け抜けるが如く悠月が思索する。一刻も早く砕く事が先決か。 「……ソウルクラッシュ!」 虚空の見えざる手が魔王を貫く。貫いたと同時に、反撃の一刀が悠月の胸部を貫く。 「……っ」 決定的な部位への命中。当たり所が非常に不味い。喉の奥から鉄臭い液がこみ上げてくる。 『魔王』もソウルクラッシュを受け、喀血していた。 『君も何か言わないのか? 信念、意志、薄っぺらい言葉を』 「……」 ここへ悠月の頭上から癒しの光が降り注いだ。 『魔王』が下段構えへ移行した段階で、距離を開けていた彩花のものだった。 視線が彩花へ向く。 『……君の方は何か言いたそうだな』 「無意味でしょう」 『君は、世界を護る為と言ったか。――本当は身近な者を護りたい、ではないのか?』 「妙な事を仰いますね」 『諸君らにチャンスをやろう』 『魔王』は"構え"を改めながら、全員へと視線を動かす。 『命乞いをするが良い。望み通り此処から出て行ってやろう』 たちまち、氷の粒が周囲に浮遊する。火の粉も混ざって散り出した。 「奥の手の魔法ですか……」 レイチェルが手を止める。戦局を見る。 "かの魔法"を許せば、一斉に崩れる事は間違いない。 「命乞いをすれば、帰ってくれるのですか?」 『約束しよう』 レイチェルが前衛の目をチラチラ見る。 いりすの目は静かに、しかし凄まじく殺気立っている。竜一の目も死んでいない。セラフィーナの目の意志は強い。悠月の目は冷めている。彩花の目は『魔王』への軽蔑の二文字である。 思わず笑みが出る。 「命乞い? 御免ですね」 レイチェルがナイフを投射する。『魔王』の第三の目に突き刺さる。 『……それが答えか』 引き抜かんとする魔王の手を、弾丸がはね上げる。 「クックックッ、帰るべきだと思いますな――私はその、『魔王』さん。貴方を心配して言っているんですがね」 九十九が呑気な調子で言う。 「それも無理なら、仕方ありませんな。二度も言いましたよ?」 瑠琵の弾丸が『魔王』の額に刺さったナイフを、銃弾で押し込む。 「交渉するタイミングは、相手より圧倒的に有利になってからやるものじゃ」 『どういう事だ?』 いりすが飛びかかった。 首、腕、胴を次々に刺し、片手に携えた真紅のナイフを口に咥え『魔王』の額に刺さっていたナイフを下す。 「夜は長いという事さ。寂しがりの坊や」 顔面縦一文字に夥しい血を撒き散らしながらも、『魔王』は反撃。いりすを斬る。竜一を斬る。 『っ……何故立つ』 いりすは膝を着き、しかし立つ。 「小生は喰らい足りないんだ。まだまだまだ。返事はこれで満足かい?」 いりすは飄然と、得物のナイフを宙で遊ばせ、握り直す。 ●勇者というものは -Braver- 『魔王』の投降勧告に対して、しかしリベリスタは運命をくべて立つ。 『魔王』の顔は、狼狽の色を隠せずにいた。第三の目が潰れて、反応も鈍くなっている。 竜一も、運命をこの閑寂とした冬の夜にくべながら、力を貯める。 セラフィーナの剣が再び軌跡を描いた。 「貴方の仲間は、世界が滅ぶ事を望んでいたのですか? 今の貴方の行いを見て――」 『黙れ』 何度目かの鍔迫り合い。 「私はこの世界を守ると決めた。私の剣は、姉さんとの絆。そして、アークの皆と共に鍛えたものだから!」 押しこむ。ただの攻撃を得手とする『魔王』に刺さる、蜂の一刺しが如き――ただの攻撃。シードを伴ったブレイクの成立であった。 たちまち、周囲に散っていた氷の粉と火の粉が雲散する。 「『魔王』。次手をどう凌ぎます」 悠月の詠唱。返事は待たず放たれるは、再び虚空の掌。 先の返礼とばかりに、その胸部を貫く。 足が揺らいだ『魔王』に、彩花が征く。構えは解除された。再び構えられる前に決めてしまえば良い。 「想いを踏み躙る行為に愉悦を覚える貴方には、かける言葉などありません」 彩花は、拳を顎でピタりと止める。 「――が、一つだけ。護る者が無い者に、私達が負ける道理がありません」 そして撃ちぬく。顎を大きく上へと殴り上げる。 『魔王』の上体が反った所で、竜一が剣を天に掲げていた。 「俺が正義とは言わない。だが、人の営みを壊させるわけにはいかない」 咄嗟に『魔王』は鞘を盾にせんとするも、レイチェルのナイフが飛来する。鞘が手から離れる。 「話し相手が欲しいなら、平和的に来訪していただきたかったですね」 『――寂しがり屋か。そうかもしれん』 竜一の、地を揺るがす全力の一刀が下される。 「お前が破壊する者であるならば、俺は、守る者、とも言わない。俺は、守るために、破壊者を打倒する者だ!」 竜一の剣が、『魔王』の肩口から腹部までを両断する。 『魔王』の身体の先端から、塵の様に光の粒子が散りだした。 : : : 『トドメを刺すが良い』 人類ならば、致命傷この上ない傷であるが。 『魔王』の言葉に対して、悠月が間髪入れずに応える。 「いいえ、御帰還願いましょう」 『……何』 「満足したなら帰って欲しいですかのう」 九十九は銃口を頭に突きつけている。 「お主はその身が滅ぶ事を望んでいるようじゃが、そんな末路など贖罪にもならぬ唯の自己満足じゃよ」 瑠琵の言葉に、『魔王』は顔を上げる。 「それで。お前を連れてきたヤツってのは、誰なんだ? どんなやつなんだ?」 竜一が納刀して尋ねる。魔王の後ろには大魔王がいるに違いない。 『上層階層『侵食凶星ヴァプマ』。無数の個体を持ちながら、一つの意思。万象を侵食する世界そのもの』 「ミラーミス!?」 誰ともなく驚きの声が上がる。 「ミラーミスでありアザーバイドといった所ですかな。以前、侵食されたE・ビーストを倒しましてな」 心当たりがある九十九はうんうんと頷いた。 『魔王』が剣を杖にして立つ。 『つくづく甘いな、諸君等は。また一刀振る程度の余力が生じたが?』 レイチェルは偽りの殺気を見抜いて言う。 「その甘さで拾った命という事をお忘れなく」 『……』 「また来るなら。当然ですが、こちらにはこちらのルールがありますので。逆に言えば、逸脱しないなら多少の融通は」 剣を納刀する『魔王』に、彩花が問う。 「愚弄した真意だけ聞いておきましょうか」 『護りたいと考えていた者に裏切られた時、果たして諸君等は勇者でいられるかな? という質問だ』 「愚問という言葉を知っていますか?」 これをセラフィーナが切って捨てる。 『俺の世界の"奴"を滅ぼせば、新たに侵食される者は無くなるだろうな』 踵を返した『魔王』に対して、いりすが最後に言う。 「帰るのであれば、何か置いていきたまえよ。ガラスの靴ははいてなさそうだがね」 『ガラスの靴は、少しだけ待って貰おう。いずれまた来る。次は――として』 『魔王』が去った閑寂の公園、いつの間にか月が顔を出していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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