●少年は英雄でした 振るわれた剣が風を切った。切った風からは錆が舞った。 舞った錆は『ソレ』に付着した。付着した『ソレ』は錆に飲まれた。 「はっ……ははっ」 それを、笑う少年がいた。 年の頃は十代半ば。ザンバラな短髪と凡庸な容貌、黒い学制服越しでも解る、ひょろりとした肉付きは、どう見てもただの冴えない学生にしか見えない。 その手に担う。刀を除けば。 「きょ、今日だけで何匹倒したん、だっけ……。もう、覚えてない、や」 息切れする身体は、疲労でなく高揚が故。 合間合間に呟く独り言も、言葉とは裏腹にエネルギーを持て余しているようにすら聞こえる。 そう、嬉しいのだ。この少年は。 敵が居る。それを打倒しうる力がある。そしてそれを成す度、自身を凡人より高位の存在と錯覚する魅力がある。 だから少年は止まらない。否、止めることが出来ない。 すでに陶酔という酒精は脳の随を満たしており、彼を健常な思考へ戻すことは不可能と誰もが理解できるであろう。 ――それを、仮に現世に戻せるとすれば、それは。 ●少年は人間でした 「……破壊? 回収じゃなくてか」 「うん」 リベリスタたちの疑問の声に対し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は逡巡もなくこくりと頷いた。 浮かぶ表情は、何処か重苦しいものではあったけれど。 「今回の対象となるアーティファクトを持つ少年は、元々がゲームやアニメの世界に並々ならぬ憧れを抱いていた。『常ならざる力』を手にした現在、その少年は最早正常な思考を失い、自分を物語の主人公と錯覚している」 「それを根本から折るために、ソイツの自信の元を壊す必要がある、と」 苦笑混じりに、フォーチュナの言葉を継ぐリベリスタである。 中二病、邪気眼、そうした幻想を実際のものとした同類も少なくない彼らとしては、確かに今回の依頼を放ってはおけない。 「……で、能力は?」 「基本的なスペックとしては、とにかく――『速い』。その上、受けた攻撃の殆どは彼の持つアーティファクト……『錆蝕み』が放つ錆によって、殆どが封じられる。致命打、状態異常は殆ど与えられないと思っていい。 そして、彼の攻撃方法なんだけど……これも、何ていうか、結構変わりもの」 「?」 訝しげな顔の彼らに対して、もっと難しい顔をしたイヴは、暫し頭の中で情報をまとめ……それが終わったのか、再び彼らに向き直る。 「彼の攻撃には、基本的にダメージがないの。その代わり、彼の攻撃を一定数受けた者は全身を錆に包まれ、何の行動も取れなくなる。要は戦闘不可能。体力を削られたわけでないからフェイトでの復活も不可能だし、状態異常でもないから回復も出来ない。とりついてる錆を砕くのも無理。少年自身が対象からかなりの距離を取るか、アーティファクトを手放すかすれば別だけど」 「……錆に包まれるまでの攻撃回数は?」 「多くても、五発は要らない。因みに距離をとっても無意味だよ。彼は刀から放った錆を、風に乗せて飛ばせるから」 頭を抱えるリベリスタたちである。何ともまあ、面倒きわまりない能力だ。 かと言って、それで攻略を諦めるわけにもいかない。 「彼は普段、夜に人気のないところをうろついて、エリューションの狩りを行っている。少年が倒したエリューションの方はこっちで対処してあるから、其処は心配しなくていいよ」 何時も通りの無機質な瞳は、リベリスタ達を見て小さく呟いた。 「虚像の英雄を、人に戻してきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月06日(土)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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英雄とは、即ち何だろうか。 選ばれた者。その解釈に違いは無い。主人公。間違ってはいないだろう。畏敬される者。それもまた真実だ。 だが、一つ一つの解に是と頷くことは出来ても――それらから一つを抜き出すことだけは、どうしても出来ない。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が苦笑する。不思議なものだな。そう言う彼ではあったけれど、言葉ほど問いには執着してはいないように思えた。 他の面々も、それは同じ。人が一度は望む存在。それに足る力を持ちながらも、彼の思いに共感する者は総じて在らず。 「英雄、ね。正直その辺の願望は判らないわ。 私はリベリスタやってるけど、別に名をあげたいワケじゃないしね」 『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)がぽつりと呟いた、その言葉こそが理由であろう。 それが本当に、物語の英雄だったら、魅入られる者は居たかもしれない。主人公なら、選ばれし者なら、多少の痛みは伴えど、最初から最後まで、おざなりなハッピー・エンドが約束されていたはずだ。 けれど、彼らは違う。『正義の味方』であることと『リベリスタ』であることは、必ずしも等号ではなく、故に伴う痛みも、得る喜びも、全く別種のもの。 ――だからこそ。 「普通に生きていけるうちは、普通に生きるのが一番ッスよ」 『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)は言う。それが叶わない身だからこそ、未だ救いが届く者に、優しき剣は慈悲を垂れる。 「だいたい同じだねー。ぐうぜんにてにいれて振るってみたちからに魅入られてー、じぶんは特別でなんでも出来るんだってー」 「……異能を手に入れることは幸せだけとは限らねえんだけどな」 平時の在りようをそのままにする『キーボードクラッシャー』小崎・岬(BNE002119)と、反してその形を潜めている『平常運転』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉は、しかし見事に噛み合っている。 唯一つに力を見いだした者、かつて英雄を望んだ者。共通項がある故の合致か。それが今では、『合する者』を無くすために力を振るうとは、皮肉なものである。 時刻は夜。場所は袋小路。 彼らの言葉を聞いていた、少年は――それに対して、小さく笑う。 「言いたいこととか、やりたいこととか、色々あるんだろうけど――結局は、僕からこれを手放させたいだけなんだろう? 嫌だよ。これは僕のものだ。そして僕は、唯人を襲う化け物のためだけにこれを使っている。人に迷惑をかけていないんだ。何で手放す必要があるんだい?」 解答は否。解っていたこと。 解っては、いたことだが――其処に一抹の寂しさを覚えてしまうのは、何故だろうか。 「――おい、屑野郎」 端を発する。 言葉は『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)のもの。人格も何もかもが薄っぺらい『現・一般人』は、『元・一般人』の確たる啓示に顔を歪ませる。 「英雄何てな自分で名乗るもんじゃねえ、自覚するもんでもねえ、誰かがそう呼んで初めてなんだよ」 ――馬鹿げた自己主張を、たたき直してやる。 言って、武器を構えた彼に、少年も構えを以て返す。 「……なら」 「君たちを倒して、そう呼んで貰うよ――!」 ● 動作は誰よりも早く、少年が穿突を撃つ。 鉄の塊を肩口に受けた鈍い痛みに、夏栖斗が顔をしかめる。傷は無い。鈍の刀が与えたのは裂傷ではなく、所詮錆だけのこと。 ばきばきと言う音が鳴り、肩から先が完全に錆に塗れた。錆と錆は凝固もせず、腕は十全に動く。錆と言うよりは瘡蓋のそれを思い起こさせるそれだが、実際に目の当たりにすることで埋め尽くされる恐怖は一層増していく。 さりとて、止まるには至らず。 夏栖斗が動いた。並んでイーシェが、その背後にレナーテと凍夜が付いた。 地形が多くの者の同列を許さない戦場である以上、一列ごとに並べる人数は限られてくる。故に彼らが選んだ二人ごとの合計四列は、戦力を損失させずに狙うことのできる佳良の陣形。 「『此方』の住人でない者には、過ぎた代物。あなたが道を誤る前に――破壊します」 「君にその権利が有るって言うのか!?」 神鳴る縛鎖が、鴉の式神が、中空を走る。 狙ったのは少年ではなく、破界器の側。『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)のチェインライトニング、フツの式符・鴉は的確にそれを狙うも、半歩を避けた少年によってあっさりと躱される。 部位を狙った攻撃は精度が落ちる上、アーティファクトを持つ少年からすれば、向かう攻撃はあくまでも「自分の方向」に在る。回避動作を取るのは自明であり、故にこの作戦は予想していたものより大きな戦果を挙げることが出来ない。集中を介しても精々五割強だろう。 「そんな攻撃……!」 笑う、と、同時に――がきん、という音が、鳴った。 「錆による攻撃、そして防御。面白いですね。 ただ、それを使う貴方は酷くつまらない。俗物も、甚だしい」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が、笑うと共に重弓の矢を放っていたのだ。 穿つには、折るには至らずとも、重い衝撃を受けたアーティファクトが大きく軋む。軋み、撓んで――僅かな僅かな罅を、走らせた。 「少し、お灸を据えて差し上げましょう」 「……! お前ェッ!」 自己の矜恃の証を傷つけた敵に対して、少年はより一層激昂する。 飛ばした錆の欠片が付着すると同時、イスカリオテの脚部も錆に覆われたが――彼はそれを見て、寧ろ新たな神秘のカタチを間近に見られたことに対する喜びを示すのみ。 自身が異質なものに覆われる恐怖を感じぬ彼に、少年が微かに、恐怖を覚える。 そして、その隙を――夏栖斗とイーシェが、縫う。 身中を狙った掌を、ギリギリで躱す彼ではあるが、それが牽制であることに気づいたときには、既に遅かった。 「さて、覚悟するッスよ、錆まみれの英雄さん」 轟撃。威力の高さ故に、自身にまで痛みをもたらすその一撃は、的確に少年を袈裟斬りに裂く。 「がぁ……ぃい!?」 当然、つい先日まで只の一般人であった彼からすれば、それすら地獄のような痛みでもあろうが――『英雄』で在ることを捨てるよりは、痛みに耐えることを選んだのか。顔を歪ませ、ぼろぼろと涙を零し、苦悶を口から漏らしつつも、少年は前に立つ二人に、再度錆を纏わせる。 ――武器の力に溺れながらも、何故今まで一人で戦って来れたのか。 これが、答えか。悠月はその執着心を目の当たりにして――しかし、その濁った決意は、戦う理由には能わないと判じ、今一度の光鎖を伸ばす。 場所が多くのゴミであふれている場所だからこそ、物陰に潜み、千里眼を介しながら攻撃するという彼女の案は確かに有効であった。 面倒な拘束役の攻撃を何度も避けつつも、反撃することは出来ないというジレンマが、少年の怒りをじりじりと高めていく。 「くそ……っ!」 何より、少年にとって面倒なのは――道幅が少ないこの地形に於いて、ほぼ全ての人間が距離を問わぬ攻撃手段を持っていたこと。 環境上の有利を取れば、少なくとも何人かの攻撃手は減らせるものかと思えば、後列にいた凍夜は壁を蹴って上空から飛び込むような攻撃を浴びせ、岬は両断した斧の風を飛ばして少年を切り裂いていく。 形勢は、今現在に於いて言うならリベリスタ側に分が有ると言える。 当然、楽観は出来ない。総体としては確かに彼らの有利だが、個人――前列に立つ夏栖斗とイーシェの状態は特によろしくない。後一撃か、二撃で完全に錆に塗れるまで、その身を赤黒に覆わせている。 「……っと」 だが、それを感じた段階で、イーシェが鎧を解除する。 錆が付着した装備無くせば、その分攻撃を受ける回数にも余裕が出るのではないかという彼らの作戦である。 結果、予想していたよりも錆は装備の内にまで付着しており、それほど錆に塗れた表面積は減らなかった。良くて一回分程度、攻撃を受ける回数が増えたくらいだ。 甘かったか。苦笑するイーシェに再び降ろされるアーティファクト。 鎧の無くなった今、鈍とは言え刀を叩きつけられる痛みに顔をしかめながら、彼女は再度錆に塗れた身体を見て、後方に下がろうとする。 ――より、早く。 「させ、るかァ……!!」 強引に動いた少年が、二度目の斬撃を叩き込んだ。 重ねて、合計三回。錆は急速に残った部位を駆逐し、彼女の身体を完全な錆のマネキンへと変えていく。 錆に視界が覆われる寸前、『彼女』の言葉が、イーシェの脳裏に響いた。 ――基本的なスペックとしては、とにかく――『速い』。 ● 「敵が倒せるのがそんなに嬉しい? 倒してどうするのさ? その後考えたことあるの? 後始末とかどうしてきた? 目立ったら知人が巻き込まれるかもとか考えた事も無いワケ?」 イーシェが封じられた後、夏栖斗と入れ替わりに前線に出たレナーテが少年に問いかける。 二回行動の危険性を考慮し、最前線に二体の『障害物』が出来ることを恐れたリベリスタ達は、結果としてローテーションの速度を速めることとなる。それはつまり、被害の速度が速まると言うことでもあるのだが。 戦闘が始まってから、幾度も集中を重ねたレナーテの双盾による攻撃は、文字通り少年を圧する絶壁である。 胴を押しつぶす殴撃に、血を吐き、骨を砕き、更に彼女の言葉に動揺した少年の切っ先は、彼女の予想通りブレていた。 「……倒したんだ! 人を襲う化け物を! それで誰かが助けられたんだよ! 知り合いが狙われるなら、その前にまた僕が倒すさ! それが出来るんだ、僕には!」 童子の意見である。解答になっていない解答に、小さく嘆息するレナーテを見て、少年は苛立ち紛れに何度も刀を振り回す。 しかし、それに応じて、レナーテの身体も急速に錆に包まれていった。盾を捨て、軽防具を解除しても、その速度には及ばず、レナーテは舌打ちと共に再度のローテーションを余儀なくされる。 速度。戦いに於ける最大限のポイントは其処だった。 命中、回避と言った挙動の高さに加え、件の少年はイーシェへの連撃以降、かなり高い確率で二回行動を行ってきている。 被害はローテーションと共に拡大していく。そしてそれも確実ではない。遠距離攻撃を持つ以上、少年が錆に覆われかかったリベリスタの誰かを封じるために、攻撃対象を前線から外す可能性は十分にあり得る。 「お前さんのその黒い錆で、オレの光をかき消してみろよ。まァ、できねえだろうけどな!」 「ああ、相手はしてあげるよ……後で、ね!」 自身を、戦場を照らす灯りとするフツの挑発も――効果があるとは言い難い。 後ろに下がったレナーテ、そして夏栖斗に再度の錆がまとわりつく。ギリギリで全身を包まれるには至らなかった夏栖斗と違い、レナーテの動きも、それで止まった。 それを見た凍夜が、怒りと共に再度の多角攻撃を撃ち込む。 「知らねえなら憶えとけ『屑野郎』。錆び付いた心で護れるもんなんざ、何一つありゃしねえ!」 「……誰が、屑だよッ!」 部位狙いの精度は、やはり彼らの行動に大きな枷を与えていた。 少年自身の速度も相まって、彼らが与える攻撃は、集中を用いてもおよそ五割強。少年自身を狙うより、アーティファクトの側が脆いのは彼らの予想通りではあるものの、それとて当てるまでの消耗は予測の範疇を超えていた。 だが。 「いつまでもアンタレスに使われてるままじゃかっこつかないからねー」 「破壊するには惜しい品ですが……仕方がありません」 その程度で諦めるほど、彼らは弱くない。 岬が再度の疾風を巻き起こす、残る余力を注ぎ込んで、悠月が縛鎖で絡め取る。 手数の多さ、そして連携。少年個人では決して手に入れられぬものこそが少年の弱点であり、それによって徐々に徐々に、その刀身は罅を広げていく。 「……っ、嫌だ、嫌だ!」 力の喪失を遂に間近にまで近寄らせた少年が、怯えてアーティファクトを抱きしめる。 その少年自身も、既に傷だらけで――倒すには容易いという、そのレベルにまで、彼我の差は拡大していた。 「なあ、英雄君、物語の主人公になりたいよなぁ。ああ、わかる僕もそうだった」 それに対して、構えを取り、言葉を投げかけたのは――褐色のヴァンパイア。 ガタガタと震えながらも、視線だけを寄越す少年に対して、夏栖斗の瞳は何処までも、優しくて、厳しい。 「でもお前はただ手に入れた力を振るいたいだけだ。何かを救うためじゃない、自分の力を誇示したいだけだ。 ……自分の英雄に対する理想を護りたいだけだ」 「っ、来る、な……!」 殺される、とでも思ったのだろうか。 全身の殆どをさび付かせた彼に対して、少年は後ろに下がりつつも――アーティファクトを再び手に持ち、錆を放とうとする。 が、 「人を助けるなんて甘いことじゃねえ。僕は『錆蝕み』に魅入られたお前を助けたい。それで傷つくなんざかまわねえよ!」 その瞬間を、夏栖斗は奪った。 腕が伸び、刀に触れて――最後の一撃を、叩き込む。 リン、と言う音が鳴り、破界器は刃も柄も残さず、粉状の錆となって虚空に消えた。 ● 最初に言葉をかけたのは、先ほどまで錆に囚われていた、イーシェだった。 「夢から覚めたッスか?」 「……っ! うるさい、うるさい、うるさい……!」 総てが終わって、後のこと。 少年の矜持の源は砕け、それまで彼を取り巻いていた神秘による強化も急速に静まりつつある。 重くなる身体、知覚する無力、理解する絶望。 それでも、彼は認めない。英雄である自らの『死』を、認めない。 「違う、僕は! 今までとは違うんだ! 有り得ない力を持って、化け物どもを倒して、ヒーローになったんだ! ……そんな僕が、負けるなんて!」 這い蹲り、地団駄を踏む餓鬼のように暴れまわる少年。その見苦しさと言えば、他にないだろう。 少しばかり、『痛い目』を見せる必要が有る。そう思った凍夜が近づくより先に――神父服の探究者が、前に出た。 「宜しいですか、『英雄殿』。英雄とは、運命を捻じ曲げる存在です」 「……!!」 その言葉に、少年は頭を上げる。 自己を認める存在が居る。それがつい先ほどまで命を削り合った間柄の者でありながらも、少年はその言葉に救われたような、笑顔を浮かべる。 ――だが。 「今の貴方は殺されかかっている。このままなら殺され、死ぬでしょう」 「……え」 「ああ、死後の世界が有る等とは考えない事だ。死ねばそれで、貴方と言う存在は終わる」 見上げた先には、笑顔。 それこそ、本物の神の使途が浮かべるような、柔和な表情。 だが、その内に孕むものが外面通りの『ソレ』では無いことなど――英雄気取りの餓鬼ですら気づいた。 対し、イスカリオテは少年が何を感じ取ったかを理解し、ゆっくりと頷く。 「死が恐いですか? 宜しい。ではそれが、英雄の世界のスタートラインだ」 「ま……待って、くれ!」 此処に来て。 ようやく少年は、理解した。 自分が刃を向けた相手が何かを。その尊厳を自己の錆によって、どれほど汚したかを。 そして、それに気付くことが、余りにも遅すぎたことを。 イスカリオテは、その胸中の変化を気にも留めない。福音書を開き、高々と片手を上げるのみ。 「運命を覆して見せなさい。貴方にそれが出来るのであれば」 ――出来ないのならば、此処で死ね―― 「あ、ぁ……うわぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああ!!」 光降。 視界を埋め尽くす光の群れは、『少年以外を』的確に穿ち、削り、焼き焦がす。 その間、狂乱の声は延々と袋小路に響き渡り――閃光の終息と同時に、その声もぴたりと止んだ。 ……そうして、リベリスタ達が去った後。 かつての戦場であった其処に居たのは――身も心も、無様に砕かれ、気絶した彼の姿のみであった。 ――後日。 件のアーティファクトを破壊された少年は、その数日後に消息を絶ったという報せが入ったと言う。 彼がその先に向かった場所が何処なのか。知る者は誰も居ない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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