● どうして、ズボンを腰というかお尻の真ん中ではくんだろう。 そこまで出すんなら、もうパンツで歩けばいいじゃない。 見せるなら見せる。見せないなら見せない。 あたしはあいまいな世界の境界を憎む。 選べ、どちらか。 ズボンぬぐか、ズボンずりあげるか。 ● 「どうして革醒したんですかと聞いたら、この子がなんて答えるか興味がある」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ふっと鼻で笑った。 「覚醒したてのほっといたらフィクサードをとめて。彼女は腰パンが大嫌い」 なんですか、それは。 「パンツを見せてズボンをはく男子が大嫌い。可愛さ余って憎さ百倍」 まあわからない気もしないでもない。 「完全に見せるか、絶対見せないようにするか、どっちかにしろー!と、革醒した」 それは、履歴書に書けない経緯だね。青春の憤り。 「そして、不幸なことに彼女が通ってる学校は、近隣の学校と比べても男子の腰パン率というか、ズボンの位置が低い傾向にある」 何でそんな学校に入っちゃったんだよ。っていうか、事前にわかるもんでもないか。 「そんな青春女子がどんな行動に出るかというと、きちんとはくか全部脱ぐか選択を迫る。きちんとはくことを選択すると、きちんとはかせてサスペンダーで固定する」 それは、ヨーロピアンスーツ男子ならともかく、高校生男子としては耐え難いアイテムでは? 「サスペンダーを拒否すると、男子のズボンを腰から引っこ抜く」 は? 「物質透過の一種と推察される。とにかく、ズボンをつかむとどういう原理かズボンが脱げる。言い忘れてたけど、サスペンダーもノーアクションで装着される」 それは、非常にまずいんじゃないか。というか、何だ、そのまったく無意味な能力。 「心に傷を抱える男子高生の山をこしらえるのは忍びない。行動に移す前にふんじばって連行。説教」 殺さないように。ノーフェイスになったら大変だから。と、イヴは一同に釘を刺した。 「で、これが青春ちゃんの通ってる高校の制服。推奨作戦としては、登校してくる男子高生たちより前に、通学路に潜伏している青春ちゃんに接触。人目につかないところにおびき寄せ、ぼこる」 腰位置ずらしてはけってことですね、わかります。 「あまり不自然な人がはくと逃げるから」 うんそうだね。なんか、ほんとに、青春ちゃんがぶちきれたのがわかるくらい、すっげー腰位置下げないとはけないズボンだね! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月01日(水)22:59 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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● 朝一番。 コンクリートはしんしんと冷え、足のつま先から冷気が染みあがってくる。 暖を取る為に買ったミルクティーもすっかり冷め切り、唇に触れるスチール缶の冷たさが背筋にぞくりと寒気をもたらす。 なんだか世界が変わってしまってから、三日目。 魔法少女になったにしては変身できないし、エスパーになったにしてはテレポートできないし、それでも馬鹿力になったのと、走るのがやけに速くなったのは間違いないから、スーパーヒーロー的ななにかなのは間違いないと思う。 我慢できなかったことをどうにかするため、サナエはこうして座っている。 とりあえず、先のことはもうちょっとしてから考えよう。 ● おととしまでは高校生でした。な、『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、白シャツ白カーディガンまではいいとして、なぜか首のタイがリボン結びだった。 世界を股にかけ、貞操も悪魔に売り渡して資金に変えたと噂のギャンブラーに、高校行ったんですかと聞くのもはばかられる『純潔<バンクロール』鼎 ヒロム(BNE004824)は童顔だったので、それほど違和感はなかった。 「囮役は男の子にお任せ☆」 この寒空にホットパンツの『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は、この寒空にビキニにパレオに三叉戟の海フュリエみたいなフィティ・フローリー(BNE004826)の背中を押して、最終決戦ちの空き地に向かった。 「あとででござるよ~」 「脱走すんなよ。別動班狙撃仕様で来てるからね!」 年末なので、特殊な依頼の人手が足らん反面、戦うことしか能がない連中は暇をもてあましているのだ。 今回ゴージャスだぜ。面子聞いて飛び上がれ。 「心配しなくても、『簡単なお仕事』に比べれば、腰パンになって通学路を通るだけの仕事なんて、簡単すぎて欠伸が出ちゃいますYO」 そんな智夫をヒロムはじっと見ていた。 (そーいや内薙って男だよね。なんか女子力高くない?) 「最近食べる依頼が続いちゃって、おなか回り見られるの恥ずかしいでござるよ」 ぽ。 とか言いつつ、おなか出てるのだ。 もち肌――つきたてのおもちみたいに白くて肌理の細かいおぽんぽんが。 いや、男の腹にぽんぽんはおかしいだろ。だがしかし、ぽんぽんとしか言い様がないぷに感、ゆで卵感。 腹筋? 何それ、おいしいの? (もしかしてだけどー…実は内薙は女の子で履いてるような縞パンなんじゃないの――って、何考えてるんだ俺) ヒロムの脳裏に縞パン智夫(♀) 三高平で、割りとよく抱かれる考えベスト100に入ると思うよ? 腰パンである。 この場合、囮である観点から、パンツははみ出てなくてはならない。必須だ。 で、見えているのは、白いゴムの部分のみ。 「な、内薙、俺はトランクスはいてきたんだけど、今、どんなパンツはいてんの?」 女子に言ったら定番の変態台詞だが、男の子だから問題ないもん。 「パンツでござるか?」 上目遣いで、口元に人差し指を当てちゃうのはすでに癖になっているので許してやってほしい。 「この間、とある依頼でエリューションからパンツゲットしたけど、それもエリューションだったので破られてしまったでござるよ」 詳しくはウェブで。 「少ししたら同じデザインのパンツが送られてきたので、それをはいてきたでござる」 憧れのアイテム送付というやつでござるかな、どきどきとか言っているが、アークはそんなものを作って送る趣味もなければ云われもないが、智夫から報告を受けていないのでこの事態についてはまったく把握していない。 「どんなデザインかは、内緒でござる。あ、ひもパンではないでござるよ」 で、柄は縞ですか。なんて、聞けない。 (また凄い称号付くフラグ立っちゃうでしょ!?) 君、じきにどっかの縞パンマスターから連絡来ちゃうかもしれないよ。 ● 「待ってたわよ、腰パン野郎!」 『青春ちゃん』四谷サナエの鼻の頭と耳の先っちょは真っ赤になっている。 彼女の努力は認めよう。 「そのズボンずり上げるか、いっそそのパンツ脱ぐかどっちか決めなさい。今ここでっ!」 片手にはサスペンダー。唇に脅迫。背中に乙女の羞恥心を。 ギャランドゥ生えかけの腹なんて見たくないちゅうんじゃ。 ヒロムは考えていた。 (だが、彼女の神速に抗う術はない…だから誰かがここで足止めをしなくてはっ) 妥当な状況判断である。 (――なので内薙を差し出してトンズラッ) 正しい状況判断である。 だがしかし。 「拙者とて脱走王の名を欲しいままにした漢っ! 鼎殿、囮役として共にいざ参ろうZOOOOOO!!!!」 とか言いつつ、あらぬ方向にダッシュする智夫。 「え、そんな! ホリメなのに!」 スタートダッシュで後れを取ったヒロムが、智夫の意外と抜け目ない逃走に抗議の声を上げる。 「拙者、クロイーでござるよ!?」 「立ったら、余計にっっ!」 「クロイーがみんな速度抑え目と思ったら大間違いでござるっ!」 みんな不沈艦と思っても大間違いだ。 「ひどいっ!?」 「ひどいのはあんたたちの格好よ!」 体のギアを切り替えて、速度に魂捧げたソードミラージュはクソ速い。 「やめて、白旗、脱がさないで! これは君とお話する為の単なる手段で……っ!」 「問答無用! ぬげちゃえ!」 物理法則を超えちゃうのが青春の証。すっぽん。 ヒロム君のパンツはトランクス、冬はちょっとあったかい起毛タイプでした。ぬくぬく。 ああ、おまわりさん、今だけ来ないで。公然わいせつ罪で捕まりたくありません。 「犠牲は無駄にしないでござるYO!」 (鼎殿を犠牲にしつつ時間を稼いだ上で一ブロック先の空き地へ移動→華麗な拙者がターゲットを取り押さえ――るふりをしつつ逃走するという華麗な計画が今ここに成立するぜふはH) ぴっと腰の辺りをつままれる気配。 (風が……) そのとき、智夫はなぜか清々しかったと言う。 (風。風が吹いている――どこに?) 主に、下半身に。 お尻ひんやりする。 白くておなかの真ん中にちっちゃいリボンついてて、裾にレースなんかあって、なんとなくこう色々カバーしてる感じの、一見女子のアンダースコートなボクサーショーツって言ったらボクサーショーツから抗議が来るようなパンツ。 「うん。拙者こうなるって判ってたYO」 お、男の子だから恥ずかしくないもんっ。 男の子だからこそ恥ずかしいのではなかろうか。審議中。 ● 少なくとも、フィティの腕にも悩ましげな胸元にも鳥肌は立っていない。 「――割と寒さには頑丈です。フュリエなので大丈夫です」 そうなんだー。と、とらは頷く。 実際全てのフュリエがそうなのか、誰も統計を取っていないので分からない。 「でも暑いのは死にます。本気で死にます。人前ではどうせ幻視使ってるので服装が目立っちゃうことはありません。露出癖とかそんなのはなくて、単に動きやすい格好で、でも女っぽさを失うのも何か嫌だな、と思った結果がこれです」 決定する前に、アークのお姉さんにこの格好はありやなし矢と確認するべきだったのではないだろうか。いや、服装は個性の表現、基本自由、怪人だっているんだもの、年中水着のフュリエがいたっていいじゃないあははん。 「女らしさは忘れたくないよねー」 すけすけベビードールの上に、パンツ丸出しで飛んでた過去があるとらの台詞に根拠はない。まったくない。 とらも大体アンヨはずっぎゃーんと出ていたので、露出はいけませんよ、ポンポン冷えますよとか言わない。 さすがに、今日はズボンをはいているが。 しかし、とらとて、言わなくてはならぬことくらいは言うのだ。 「ていうか、非常に残念なお知らせなんだけど。君がやってる事ってば、ハタから見ると、まるっきり痴女だよ?」 とらによる四谷サナエさんへの冷静な突っ込み。 申し開きは、まず不可能。 だって、智夫とヒロムの脱がしたてズボン、手に握ってるし。 ヒロムのチェックのトランクス(起毛)はともかく、智夫のパンツ、明らかにそんじょそこらにあるパンツじゃないし。 痴漢の漢は『男』という意味。つまり、痴女とは痴漢の女版という意味だ。 そんなもん握り締めてる時点で、ヤッチマッタゼー。だ。 「脱走王が失礼いたしました」 「気にしなくていいよ、ナイチンゲール~」 と、慣れた様子のとら。困惑するフィティとヒロム。 「はしたない姿をお見せするわけにはいきませんし……ちゃんとスカートを着用いたしますね」 いそいそとなん茶って制服っぽいプリーツスカート(膝丈-5センチ)を着用する智夫。 「何でスカートなのよぉ!? ズボンずりあげろって言ってんでしょおっ!」 パンがなければお菓子食べればいいじゃない。的に、スカートはかれた日には涙ちょちょぎれる。 「男性がスカートを着用するのがおかしい、ですか……?」 ぶっちゃければ、腰パンでズボンはいてるより、スカートはいてる方が見栄えがいい。 神は、我らに名誉女子を与えたもうた。こんなにかわいいのに女の子のわけがない。世界はそんなに優しくないってどこかで誰かが叫んでた。 「目のやり場に困るでしょうがぁ!」 サナエ、地団駄。 やめるんだ、革醒者が本気で地団駄ふむと、場合によってはアスファルトが割れる。 「何で女子が困んなきゃならないのよ。しまいなさいよ、メタボ予備軍の腹とか、これ見よがしの腹筋とかぁ! つうか、尻えくぼとか出して歩いてるとかまじないから!」 それはパンツもずり落ちているただのレアケースでは……。 「にきびも治せ! 毛もそり落とせ!」 汗と埃と紫外線がにきびの原因です。 色々鬱屈している思いがあるようです。 そんなことが原因で覚醒しちゃったとしたら、もう涙が止まりません。 「月並みな言い方だろうけど、他の人の服装まであまりとやかく言っても仕方がないよ。世の中には色々な人が居るし、それが当たり前みたいだから」 「真冬に水着は正気の沙汰じゃないっ! 見ただけで寒いわ!」 フィティの発言には、悲しいことだが説得力はない。 人を説得するには、まず相手への共感を示すことが必要なのだ。テクニックとして。 (実際のところ、何が正しいか、何が服装として相応しいか、なんて私には判らない) フィティは、こんなことで人は時として革醒を果たすのだということを学んだ。 世界は、時としてあまりにも適当だ。 (この世界で学ばなきゃいけないことは、まだいっぱいある) その理不尽さもこっけいさも。 「まあ、実際わかるけどね。ぱんつはインナー、人前でだらしなく見せるものじゃないし。舌打ちの一つもしたくなるよね。きっと家で母ちゃんにも、しかられてると思うよ?」 とらがのんびりと言う。 『あんた、またそんな格好で!』 お母ちゃんは百万年たっても、きっとみんなおんなじことを言う。 「でも、だって。ほんとにほんとにやなんだもん」 ぶー垂れ。 とらは、ズボンのフロントはずして、ジッパーを下ろし、すぽんとズボン脱いじゃった。 パンツには、ヒロムが智夫のおしりにうっかり思い描いちゃった縞パンが。 「ちょ、あんた、何してんのよー!?」 ひらひら逃げるとらさんは、なかなかつかまらない。速度特化、命中高くない。 「どうよ。青春ちゃんは、これで往来歩けるか?」 「出来る訳ないでしょー!」 「意に沿わない格好で歩いて恥ずかしいのは、男も女も一緒だよ。そういうの人に強要しちゃダメっしょ」 そういわれると、黙るしかないじゃん。 「ほら、ズボンをずらして履くのはファッションだし…それにさ、あの履き方だと足が短い男子とかカッコ悪さをごまかせてほんと助かるそうだから、寛大に見逃して生暖かく見ててあげようよ」 ミラクルナイチンゲールから差し出されたサブコスチュームをノーサンキューしながらヒロムが言う。 「小さい声で、『プ、ヤダー足短かぁ~』 って笑ってやんな」 ズボンはきなおしつつ、とらが混ぜっ返す。 「うん、でも本人はごまかせてるとおもってるからさ……というか、ズボン返して……」 今回、バスタオルの用意はない。 「腰パンしない?」 「しないしない」 「じゃ、返す」 ヒロムは自分のズボンを手に入れたぞ! ちなみにミラクルナイチンゲールとかした智夫はズボンを取り返そうという気はまったくなく、ヒロムに祝福の拍手なんかしちゃってる。 その顔に、思いっきり投げつけられる智夫のズボン。かわいい男の娘は女子の敵だ。 「大人しくアークに捕まりなさい?」 これで死ぬのは馬鹿馬鹿しすぎる。と、なんか怖いことを言うお姉さんの海より深い青い目に見つめられて、サナエの足は止まった。 「死ぬ……って――冗談でしょ?」 それまで喜劇の片棒を担いでいた三人は黙った。 例えば、アークがもう少し強権的な組織だったら。 そうでなくとも、こんなことを続けていれば、じきにどこかのフィクサードの目に止まるだろう。ちょっかいを出されたら、怪我をする公算は高い。 そんなことをしなくても、誰かが張った結界の中にそれが何を意味するか『知らずに』踏み込むことがあるかもしれない。 少し考えただけで、余り長生きできそうな未来は浮かんでこない。 革醒した時点で、人生は大きく捻じ曲がり、世界に愛されていることは『特別のお目こぼし』と変わる。行動いかんによって、いつでも『いらない子』 として切り捨てられるのだ。 「おいでよ」 生き方を教えてあげるから。 ● 『革醒したばかりのあなたへ』 とかいうリーフレットを渡されて、四谷さんはこれからちょっぴり叱られて、彼女に何が怒っていて、これからどうしたいのか聞かれたりするのだ。 「帰ろー」 「鼎さん、お迎えの車来てますよ」 「いっす。俺、一人で帰りたい気分っす」 え~、どうする~? と、女子気分三人、ちょっと会議。 男子が往来でパンツ一丁ならまだしも、ズボンのみ消失はやはり精神的ダメージが大きいのだろう。 ミラクルナイチンゲール的には良くわかんないけど。 「……うん、痛ましい事件だと思うよ」 フィティは背中丸め気味のヒロムを見て、言う。 朝一番の住宅地でそそくさとズボンに足を通さなくてはいけない悲しみ。 何しろ一度靴を脱がなくてはいけないのだ。ひんやり冷える足先が郷愁を誘う。 「主に囮になった仲間のことは、何というか、貴い犠牲だと思うし、今夜お酒を飲む時ぐらいまでは忘れない」 お姉さま、あなたは堕落しました。 (『飲んで忘れちゃったほうがいいこともある』 って旅行中に出会ったオジサンが言ってたのは割と痛感してる今日この頃) 「えっと、えっと、じゃあ、交通費の領収書は忘れないようにして下さいねー!」 ミラクルナイチンゲールとの約束よ! ヒロムは確かに痛ましかった。 またすごい称号がついちゃうフラグが、折れるどころか継続しちゃったから。 (縞パンより、白パンの方がインパクト強かった) でも、そのことを周囲はおろか、本人もまともに認識してはいない。 なんかこう、もやもやしたものが沈殿しているのだ。 どうか、このまま意識の底に埋没せんことを。 いろんな人のために。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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