● 「さて、田中君に問題です。此処に水梨さんと田口さんが居ますね。では2引く2は幾らでしょう?」 教壇の前に立たされた二人の少女、水梨と田口の縋る様な視線を受け、田中の額に脂汗がにじみ出る。3人の、否、教室に居る生徒達全ての首に嵌められているのは、無機質な『首輪』。 狂師からの質問は既に幾度目か。その結果も、既に何度と無く見て来ている。 「ぜ、……ぜろです」 少女達から目を逸らし、田中は『正解』を口にする。其の瞬間、水梨は泣き崩れ、田口の瞳が非難の色に染まった。 そして、……BOM! 首輪が爆発し、二人の少女の頭部が宙を舞う。 「はい、田中君正解です。席に着いて良いですよ。さて、次の問題は誰にしましょうか?」 幾度目かの狂師の台詞。田中はこの結果を知っていた。 けれど、選ばざるを得なかった。何故なら、間違いを答えれば自分の首が飛んでいたから。 一斉に目を伏せた生徒達の中から、狂師は次なる犠牲者を選ぶ。 「水野さんと日比野君、それに高津君、前に出なさい。……ふむ、随分減りましたね。じゃあ回答者はクラス委員の伊藤さん」 狂ってしまった教育者。狂わせたのは生徒達自身。彼等の授業は、まだまだ終らない。 ● 「ノーフェイスの元の名前は溝口茂樹。高校教師よ。昔みたドラマの教師に憧れてこの道を選んだらしいのだけど……」 集まったリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が事件について語りだす。 「生徒達にはその時代遅れの熱意が鬱陶しく、馬鹿馬鹿しく思えたらしくて、溝口は生徒達から虐めを受けたの」 其の虐めは、黒板消しを落とす等と言った生易しい物ではなく、掲示板に合成写真が張り出され、鞄の中には鳥の死体が入れられた。更には口に出すのも憚られる内容の物まで……。 「其の恨みや、生徒を導けなかった無念さ、色々な物が交じり合って、溝口は革醒したわ」 けれどそんな彼に運命が微笑む筈も無く、溝口はノーフェイスと化して狂師となった。 既に彼は狂っている。復讐に、憧れた教育に、歪み、狂っている。 「依頼内容はノーフェイス・狂師の撃破と、生徒達の救出。思う事はあるかも知れないけど、お願いするね」 資料 ノーフェイス:『狂師』と名付けられたノーフェイス。フェーズ2。姿は人間のまま。一見理知的に見えるが其の精神は狂気に犯されている。能力として、『愛の鞭』『クラスの絆』『チョーク投げ』の3つがある。 『愛の鞭』:指をさした相手を見えない鞭で打ちのめし、歪んだ教えに導く。物理、遠距離攻撃。魅了のBS付与付き。 『クラスの絆』:自分の生徒のみに有効。生徒の首に首輪を出現させ、更に半径100m以内にある首輪の爆破(手番は消費しますが、一度に複数を選択出来ます)が可能。既に全ての生徒に首輪が嵌められており、命を脅かされている状態です。 『チョーク投げ』:無数のチョークを生み出し、四方八方に打ち出す。物遠全連。ただし生徒達を巻き込む使い方はしません。 生徒達。 最初は30名居ましたが、リベリスタ達が到着する頃(最大限に急いだとして)には既に14名まで減っています。 リベリスタ達を『狂師』が認識した場合、クラスの敵の排除を生徒達に命じます。逆らえば死ぬ為、彼等は必死にリベリスタ達に襲い掛かってくるでしょう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月05日(金)22:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「それでは皆さんに新しいクラスの仲間達を紹介します。君達、自己紹介をなさい」 突然の闖入者に授業を中断させられたにも拘らず、狂師は上機嫌でクラスの新しい仲間である『みす・いーたー』心刃 シキ(BNE001730)と『赤帽子の』マリー・ゴールド(BNE002518)の二人に自己紹介を促す。 狂師の機嫌が良い理由は2つ。一つは単純に生徒が増えた事を素直に喜んだから。そしてもう一つは転校生の紹介と言う、一度はやってみたかったシチュエーションが叶ったからだ。 授業中に不意に扉を開け「生徒になれると聞いてきた……きました」と切り出したのが、高校生にはとても見えない怪しい少女の二人組み、しかも一人は微妙に敬語が喋れて居ないと言う事も、二人の服装が丸っきりの普段着で教室の中なのに帽子すら外していないと言う事も、今のウキウキ気分の狂師には不審を感じさせる要因ではない。 「今から2年C組の仲間になります、心刃シキ。よろしくね」 クラスメイトに向かい、頭を下げたシキに向けられたのは不安の視線だ。 死しか見えなかった授業の中断は彼等にとって喜ぶべき事だが、けれど何を仕出かすか判らない、正体不明の2人の存在は、彼等にとっては狂師の起爆剤になりかねない不安要素でしかない。 その生徒達の不安を感じ取った訳ではないだろうが、機嫌良く二人の自己紹介を見守って居た狂師が不意にポンと手を鳴らし、 「あぁ、うむ。いかん。これは一大事だ。君達、そう、シキ君とマリー君だ。君達は立派な2年C組の一員だが、その髪と服装は良くないな。いや、君達に非がある訳ではない。目立ちたいと言う短慮な思考で其の格好をしていると疑ってる訳でもないが、人間とは他人の違う部分を目聡く見つけて排斥する生き物なのだよ」 長い台詞をスラスラと淀み無く、自分に酔った様に吐き出す狂師。だが其の言葉の根底にあるのは強い人間不信だ。 自分の通った道を、新しい可愛い生徒達に歩ませたくは無い。狂師は狂っても教師であり、 「勿論、我がクラスにそんな理由で君達を排斥する者等は居ない筈だが、それでも君達は彼等に合わせる必要があり、彼等もまた君達を受け入れる為に君達に合わせる必要がある。それでこそクラスが一つになったと言えるだろう。まぁ髪はこれで染めるにしても、制服はどうしようもないからね。全員服を脱ぎたまえ。それなら誰一人違いは無く平等だ」 教師であってもどうしようもなく狂っている。 教室の隅に置いてあった墨汁を手に、狂師は薄ら笑いを浮かべながらとんでも無い事を言い放つ。 狂師の発言と、その笑みに、シキとマリーが思わず一歩後ろに引いた其の時、彼女達は首に先程までは無かった重みを感じ取る。 硬く、無機質で、ずしりと重いクラスの絆。 「さぁ、全員早く脱ぎなさい。2人も脱いだらこっちに来なさい。髪を染めて授業を再開しよう。時は金なりと言うだろう? 知っているかな? 時間は時に金銭よりも貴重だと言う意味だよ」 ● しかし狂師の妄言が実行に移されることは無かった。 狂師の視線に怯えた生徒達が、シキとマリーに恨めしげな視線を向けながらも己の上着に手をかけた其の時、 「汝が授業、其処までにせよ」 古賀・源一郎(BNE002735)をはじめとした残りのリベリスタの面々が扉を蹴破り教室内へと雪崩れ込んで来たからだ。 「全員、すみやかに教室から出なさい! とくに責任者、あなたは拘束させてもらうわ」 ぴしゃりと強い言葉を狂師に向かって叩きつける『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)の言葉に、狂師の唇が歪む。 狂師の視線は『コドモドラゴン』四鏡 ケイ(BNE000068)、『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)、『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)を順番に値踏みした後、源一郎の、カタギには見えない姿を見据える。 「これはこれは、何処から如何見ても社会不適合者の皆さんではないですか。何の御用ですか? 人間のクズ達。出来れば生徒達にあなた方の様な悪い見本を見せたくは無いんですが……」 リベリスタ達からぶつけられる敵意に狂師は溜息を吐き、 「しかし社会不適合者からの妨害も、教育には付き物の障害でしょうか、ね。さて、皆さんでクラスの敵を排除しましょうか。大丈夫。相手は人間のクズなので暴力を奮う事も許されますよ」 生徒達にとって、古風なヤクザ然とした姿の源一郎や其の仲間達は物凄く怖い。けれど狂師の言葉に刃向かえば待っているのは確実な死であり、どちらも選びたくなくとも、どちらがマシかは明白だ。 鞄や掃除用の箒やモップ、椅子等を武器に動き出す生徒達。そして其の中には、武器を構えたマリーとシキの姿も。 狂師目掛けて襲い掛かるリベリスタ達の前に、死に怯えて及び腰の生徒達が立ちはだかった。 唸りを上げて空を引き裂くかまいたち。凪沙の回し蹴りから放たれた斬風脚に、神秘の力を始めて目の当りにした生徒達は逃げ惑い、真空の刃は真っ直ぐ狂師に向かって突き進む。 けれど、其の攻撃が狂師に命中する事は無く、割って入ったマリーの身体によって防がれた。 「この程度なら問題ない」 身体を大きく切り裂かれながらも、マリーは自身の健在と其の価値をアピールする。 そしてクローを殊更凶悪に構えたシキもまた、己の影をサーヴァントと化して纏う事でこの戦いが異能の戦いである事。無能力者が関われる物では無く、戦力外である事を強調した。 「チッ、手ごわい奴も居るじゃないか。クソッタレ! 増援呼んで、一気に叩き潰してやる!」 そんな二人のアピールに、戦う仲間達の影で自分の仕事を終えたおろちが便乗する。 増援の存在を示唆しながら教室を飛び出したおろちに対し、一部の生徒が、 「あいつを逃がすな! みんなで追うんだ!」 と叫んで後を追い始める。勿論、単なる学生である彼等がこの様な決断力のある行動に出れたのには理由があり、其れこそが仲間達の影でおろちが果たしていた仕事の成果だ。 おろちを追いかける生徒は全て、彼女の手で魔眼によって催眠状態となった者達である。 そして突然与えられた選択肢に戸惑う生徒達を教室から追い払ったのは、リベリスタ達に対して大きく切り込んだマリーの一喝。 「今だッ、行け! 全員でだ!」 怪しげな能力と武器を用いて敵と交戦するマリーやシキ、そして侵入者達は、生徒達にとっては狂師と同類の化物だ。其の化物がこの訳のわからない空間から逃れて良いとわざわざ許可を出してくれたのだ。従わない者は一人も無い。 ● ひと気の減った教室で睨み合うリベリスタ達と2人の生徒。 しかし狂師は明らかに自分を狙うリベリスタ達の方を見もせずに、窓から校庭を走って離れて行く生徒達の背を見詰めている。 既に彼等との距離は100m以上離れており、しかもおろちは生徒達にもう首輪は爆発しない事をばらしている。 彼等の担任が狂わなければ行っただろう事の代役を務めただけだとのおろちの言葉を理解出来た生徒は、果たして何人居ただろうか。 彼女に向けられた視線は、感謝に、恐怖に、憎しみに、と、それぞれ様々だったが兎も角生徒達の無事は確保された。 「歪んだ汝の眼、閉じるが良かろう」 源一郎のフィンガーバレットから放たれた弾丸が、離れ行く生徒達を見詰める狂師の目を穿つ。 だが其の瞬間、狂師の額に、頬に、首に、新たな瞳が生まれ、ぎょろりとリベリスタ達を見据える。 「ああ、あなた達、まだ居たんですか。邪魔ですよ。私にはこれから家庭訪問があるんです」 其の事が、例え人の形をしていようとも彼は既に化物、ノーフェイスであり、人とは相容れない存在だと言う事を知らしめる。 けれどそれでも、 「ノーフェイスとして革醒に至るまでの経緯には同情しますが、だからと言って今行っている行動が許されるわけではないです。子供たちも命を代償にするほどのことをしたのでしょうか?」 真琴は残念に思う。かつては情熱ある教育者であった筈の彼が何故この様に陥らねばならなかったのかと。 「壊れちゃったあんたはもう手遅れなんだよ。だから、あんたはもう先生じゃないんだ!」 真琴とは真逆に、凪沙の口から出たのは狂師に対する全否定。其の拳に炎を纏わせ、凪沙は己を鼓舞するかの様に強い言葉を狂師にぶつける。 「あなたが何をしたくてここにいるのかわからないけれど、せめて教師として、教室に殉じさせてあげるわ」 生徒を傷つけずに済んだ安堵で緩みそうになる気持ちの糸を張り直し、沙由理はコンセントレーションによる集中力を高めていく。 狂師に吹き付ける敵意と殺意。けれど、彼はそんな事を気にした風もなく、 「命を代償……。ハハハ、私はただ教育を施しているだけですよ。この子を見てください」 転がっていた水梨真理の首を大事そうに拾い上げる。 「水梨君は気の弱い生徒でね。田口君に逆らえずに居たんですよ。田口君の命令で万引きや……まぁ、色々やらされていましてね。助けようとした私を田口君の命令で嵌めもしました」 そして其の隣に転がっていた田口由比の首と一緒に教卓の上に並べる。 「でも、もうそんな心配もありません。水梨君は真に自由となり、田口君もまた虐めをやめた。彼女達は全てを受け入れ、昇華した存在になったのです。多少の痛み伴ったでしょうけども、これが私の教育の成果ですよ」 嬉しげに、愛しげに、二人の首を見詰める狂師。 だが不意にその腹を突き破り、雷光を纏った刃が顔を覗かせた。 「やはり、生徒の気持ちを考えない教師ではダメだな」 背中から狂師を串刺しにし、見下した様に吐き捨てるマリー。全ての生徒が逃げ去り、人質に取られることが無くなった以上、慣れぬ敬語を使う必要も、本音を隠す必要もまた無くなったからだ。 更に咄嗟にマリーの首輪を爆破しようとした狂師の身体を、シキの気糸が捉えて縛る。 「級友が危険に晒されたんじゃ、先生相手でも見過ごせないよ」 狂師の身体が糸に切り刻まれ、噴きだした血が黒板を真っ赤に染める。 茶番の時間に終わりが来た。2人の首輪が音を立てて爆発し、マリーとシキは運命を対価とする事で、首と胴体の生き別れを防いで踏み止まる事を強いられた。 ● 生徒が誰一人居なくなった教室内で、異能の力同士が激しくぶつかり合う。 リベリスタ達に降り注ぐ無数のチョークに、ダメージの残った居たマリーの体力が限界ギリギリとなる。 けれどマリーとてただでは落ちない。倒れ込む様にして放たれたのは爆砕戦気で強化された、マリーの持つ最大火力の攻撃ギガクラッシュだ。走った雷光は狂師の腹部を大きく切り裂き、傷から零れた臓物がだらりと垂れ下がる。 だが其の技を放った反動は、限界間近だったマリーの体力を更に削り、彼女から立ち上がる力を奪い去る。 腹からは臓物を垂らし、目は銃弾に穿たれた狂師。並の人間なら間違いなく死んでいるダメージだが、化物と化した彼を止めるには未だ足りない。 ケイのライアークラウンが不吉を与えてミスを誘い、沙由理のピンポイントが狂師の足の骨を砕き折り、更に凪沙の業炎撃による拳のラッシュが叩き込まれていく。 しかしそれでも狂師の妄念は折れない。邪魔な垂れ下がった臓物を引き千切って投げ捨て、狂った教育の信念の為に砕けた足で前に進む。 リベリスタ達の攻撃が激しければ激しい程に、彼は障害に立ち向かう教師像に自己陶酔して力を得ていく。 だが……、一人だけ障害としてでは無く狂師の前に立った者が居る。 「生徒の証、無くなっちゃった。もう一個頂戴? 先生の生徒として戦わなきゃ意味無いんだ」 未だに終った筈の茶番を続け、それに浸り切ってしまったシキは、或いは狂師以上に狂っていたのかも知れない。 間違いとして切り捨てた筈のシキの愚かな、縋り付く様な言葉に、狂師の身体が揺らぐ。 「ねぇ。ずっと私の先生でいてよ」 狂師を自分だけの物にせんと、その一滴まで啜り尽くそうと、牙を剥き出して迫るシキを見た教師は、彼女の無知と危うさを感じ取る。 ただ只管に自分を慕う生徒。望んでも得れなかったモノが前に現れたのに、狂師……、溝口の心に喜びは訪れない。 僅かに戻って来た理性で行いを振り返っても、反省する気持ちは湧かない。もし過去に戻れても、自分は同じ過ちを犯すだろう。 凪沙の言ったとおりに、溝口はもう手遅れだし壊れている。けれど、そんな溝口から見ても今のシキは、『間違って』いる。 吸血を行わんとしたシキの顔に、狂師としての能力ではなく、溝口の拳が炸裂する。 「お断りします。私に貴女を導く事は出来ません」 無知で純粋であるが故に危うい彼女が、良き友と、良き指導者に恵まれる事を、溝口は願わずに居れない。 勿論壊れてしまった自分が今更願える事ではないと知ってはいても……。 狂師としての力の源である妄念が薄まった事で動きの鈍った溝口の開いた腹の中に、ケイのオーラで創造された爆弾が出現する。 そして……。 全てが終わり、誰も居なくなった教室に忘れ去られたのは2年C組の出席簿。その最後には赤ペンで、心刃シキとマリー・ゴールドの名前が付け加えられていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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