●組曲V 空間を転移する等という経験はリベリスタであろうともそう滅多に出来るものではない。独特の『浮遊落下感』から立ち直った時――彼等はこれまでとは全く別の広々とした空間に放り出されていた。 「……全員、揃っているか」 何は無くともまずは重要なその事実を確認した『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)に仲間達が頷いた。体感の時間感覚は必ずしも当てにはならないが、意識の明滅は恐らく一瞬の出来事であっただろう。十人の仲間に欠員が無かったのはまず最初の最低限で幸いにそれはクリアされている。 「すごい……」 壁や柱には意匠の彫刻が施されている。 奥に続く幅広の通路の左右には驚くべきか永遠を思わせる魔力の灯火が揺れていた。 「ここは……何かの祀られている場なのでしょうか」 場を支配する――積年の時間と厳かな雰囲気に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が呟いた。この場所が『ラビリンス』の中でも一際特別に、頑健に造られているのはすぐに理解出来る事実だった。『転移』の影響で現在地の正しい座標は分かる筈も無いが、少なくとも空気は何処からか流れ込んでいる。 「お次はなんだろうな」 「きっとまだ……すごい仕掛けとかあるんだろうねえ」 呟いたフィティ・フローリー(BNE004826)、少し困った顔をして応じた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の顔にも些かの疲労の色が見えていた。それもその筈、『ラビリンス』探索に挑んだリベリスタ達の強行軍は既に一週間以上の時間を数えている。罠に満ちた暗い地下迷宮をここまで踏破出来たのは彼等がリベリスタという超人であるからに違いない。 とは言え……リベリスタがどれ程特別であろうとも。 「正直、家のベッドは恋しい頃合よね」 『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)の台詞は至極尤もな話であった。時期柄そろそろ浮かれたイベントの足音も近付いてくる頃合だ。偉い人の誕生日の方はさて置いてもその彼と同日に生誕した彼女の場合は特に――個人的事情からしてもわざわざ穴倉で二十四日を迎えたいとは思えない。 「うんうん、ちゃちゃっと片付けて祝勝会、だね♪」 「勿論、メニューはカレーでお願いします」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)の一言に、ゼロコンマの即座で『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)が応じた。 和やかな軽口にこの一瞬だけ――僅かに肩の力を抜くリベリスタ・パーティ。 しかし、彼等の穏やかな気分は然したる時間も続く事は無かった。 通路の奥からハッキリとした人間の悲鳴が響いて来たのだ。 「先に進んだ方々……ですよね」 『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)の言葉は殆ど確認するまでも無い位の共通認識である。この『ラビリンス』踏破を目指しているのは一パーティだけでは無い。先行したのは『ハインリヒ』なるドイツ人に指揮されたフィクサードの盗掘団。何者かの悲鳴が聞こえたという事はこの先に待つのが愉快なものである筈は無いのだが―― 「急ぎましょう」 ――雪白 桐(BNE000185)は、リベリスタ達は。まさに弾かれたように通路の奥を目指して駆け出してた。 鬼が出るか、蛇が出るか。正直を言えばどちらも出て欲しく無いのが本音なのだが、出ようと出まいと為すべき事は決まっている。 ●組曲VI 「見ての通りの緊急事態という訳だ」 白い探検帽を被り、如何にも探検家といった雰囲気を醸す五十程の男は端正なマスクを歪め、駆けつけてきたリベリスタ達を確認するなりそう言った。 「忙しいので手短に失礼するよ。 私はハインリヒ・バウマイスター。ドイツの『考古学者』だ。 諸君等が何者だかを私は現時点で確信していないし、確定していないが――雰囲気から察するに大方『ガンダーラ』側の人間だろう。東洋人が多く混ざっているのを見るに噂の『アーク』のメンバーだとも考えられるが、まぁ推測に過ぎない」 「フィクサードの盗人が学者とは良う言うたわ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)の口調に呆れが混ざる。 しかしてハインリヒはそれを気にした風は無い。 「正義も事実も立ち位置で変わるもの。自身の評価は後世の人々にお任せするのが筋というものだ」 悠長にも感じられるそんな台詞の一方で――通路の最奥、開けた『祭壇の間』は混乱と苦境に満ちていた。その理由は誰しもが一目で分かるものである。つまり、簡単に言えば―― おおおおおおおおお……! 広く、驚く程天井の高いその部屋の中央では五、六メートル以上もあろうかという機械兵が今まさに猛威を振るうように暴れていた。 ハインリヒを除くフィクサード達は暴れるそれに必死の応戦を見せていた。愚かな人間を赤く光る単眼(モノアイ)で見下ろすそれは巨大ながら恐ろしく俊敏で、巨大さを裏切る事無く同時に強靭な戦闘力を見せている。 「強いねえ……」 「かなりな」 一人ごちた旭に禅次郎が頷いた。 フィクサード達の正確な実力は不明だが、彼等もこの『ラビリンス』を踏破してきた連中なのだからひとかどの実力は間違いない。どう見積もっても純粋に見てリベリスタ側の戦力と大差ないといった所だろう。 ハインリヒは我が意を得たりとばかりにリベリスタ達に言う。 「我々の目的はこの『ラビリンス』に眠る神秘を獲得する事だ。 ソレは諸君等も同じ事と思う。しかし、現況は大変厳しい。苦労をしてこの『祭壇の間』まで到達したはいいが、『アレ』を沈黙させるのは相当な重労働になりそうだ。そこで提案をしたいのだが――」 「――手を組みたい、という事ですか」 「ご名答だ、お嬢さん。条件は五分五分と言いたい所だが――持ちかけた手前、少し遠慮しよう。四対六で手を打とうじゃないか。 我々は誠実に共闘し、この『ラビリンス』を突破し、確実に分配を行う。諸君等、『推定アーク』は戦闘力を供与し、私は諸君等よりも少しだけ深い知識を提供する。どうだね、悪い話とは思わないが――」 ミリィは――リベリスタ達は一瞬思案の顔を見せた。 確かに見るからに敵は強大だ。しかしてフィクサードの言を信用出来るか、或いは互いに信があった所で提案に乗るのが得策なのかどうか。 しかし、目前で暴れる敵は確かに手強い。リベリスタ側だけで乗り切れるかは正直不透明この上ないし、確率も高いとは言えないだろう。この状況で三つ巴を展開すればハインリヒに出し抜かれる可能性も捨て切れない。『ラビリンス』への知識がリベリスタ側よりも深いのも懸念の内だ。 「その神秘は分配出来るようなものなのか?」 フィティの言は全くもって的確な問いだった。 「私は可能と見るがね。何せあれはこの世界に与えられた『ギフト』なのだから」 言葉を受けたハインリヒは部屋の奥、数メートルの高さを持つ祭壇の頂きで緑色の光を放つ『それ』をじっと見つめていた。 「アレは『賢者の石』……かえ?」 「そうとも言えるし、そうでないとも言える」 ジャック・ザ・リッパーの事件では『賢者の石』が鍵になっていた。過去にそれを目の当たりにした事がある――瑠琵の言葉に彼は肯定半ば、否定半ばの返事を返す。 「アレは『真なる賢者の石』だ。より純度の高い、極上品。 この巨大な『ラビリンス』をあの程度で賄う、奇跡の中の奇跡と呼ぶに相応しい!」 ●組曲VII 「面白い提案じゃな。じゃが、それは本気かえ?」 瑠琵の素晴らしい直観、観察眼がハインリヒの様子を伺う。彼の態度、声の揺らぎ、話すペースから発汗まで――可能な限りその真の思惑を見抜かんとする彼女には抜け目は無い。 「本気だとも。言葉を幾ら並べた所で相容れぬ立場のお互いの言だ。然したる意味があるとは思えないがね。しかし、諸君等にも耳障りのいい――『信じやすい理由』を敢えて述べてみせるなら……『私はアーネンエルベに居た人間なのだよ』」 ハインリヒの言は暗に「諸君等がアークであるならばこれで十分だろう」という意味を持っていた。成る程、戦前『アーネンエルベ』に所属していた彼ならば特にあのリヒャルトについては詳しかろう。面識もあるかも知れない。彼がその後どんな道筋を辿り、どれ程恐れられたかも知らない筈も無い。つまり、それを撃破したアークを騙す面倒さは重々分かっていると言いたいのだ。 「話は分かった。しかし此方も『ガンダーラ』には土産の一つも持っていきたい所じゃ。盗掘者の身の上を少しは考慮して貰いたい所じゃな?」 「十分考慮しての提案だ。我々は状況に困っているが、それは諸君等も同じ事の筈だ。守護神(ガーディアン)の撃破にしろ、『ラビリンス』の抜け方にしろね。私を仲間にすれば諸君等には十分なメリットがある」 リベリスタは苦笑した。 ハインリヒの出方は概ね想像の範囲だったからだ。 「つまり、ここで話が纏まれば――この状況をクリアする為の情報や助力は確実に頂けると」 「勿論。私も困っているのだ。諸君と同じようにね」 桐の確認にハインリヒは頷いた。桐はその彼の言葉に納得する。どうやら彼は至極論理的で合理的なフィクサードであるらしい。善人ではなかろうがビジネス・パートナーにするには然したる障害があるタイプでもない。アークの事を下に見る訳でも、自身等がへり下る心算も無い――態度はあくまでフラットである。 「良いだろう。その話、俺は乗った」 禅次郎の言葉を切っ掛けにリベリスタ達は次々と賛成の表明をする。言いたい事が無い訳では無いが、あくまで彼等に与えられた任務は新たなる神秘を獲得する事である。過半の成果を得られれば本部への顔向けも十分に出来る所だろう。 「でも、考えてみて欲しいな」 「どーせならついでにアークに来てみない?」 「ほとぼりが冷めるまで確実に安全かとも思いますし……」 陽菜、旭、小夜、他のリベリスタも含めた面々は『駄目で元々』の心算でそうハインリヒに伝えるが…… 「御協力感謝する。しかし、説得交渉は取り敢えず目の前の事態を片付けてからにして貰おう。兎に角、私が諸君等に話を持ちかけた以上――これはそう余裕のある状況でも無いのだよ」 彼はリベリスタの賛意に一礼をした後、直ぐに暴れる敵側に視線を投げる。リベリスタ達は同様に戦闘態勢を整えて――彼の言葉の続きを待った。 ハインリヒの情報は最終局面に一筋の光明を与える。 突破が成るか、成らないか――全てはここからの戦いにかかっていた! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月09日(木)22:47 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●組曲VIII 斬った張ったの世界に居れば予想外のトラブル等、それこそ日常茶飯事である。 命をチップに刹那を生きる鉄火場のリベリスタ達は、時に否が応無く選択を差し迫る総ゆる状況にどう立ち回るべきかを経験と直感――謂わば戦士の本能とも言うべき超感覚を研ぎ澄ませ、戦場にある。 「さて、続きは賢者の石を奪取してから、じゃな。判ってるじゃろうが抜け駆けは無しじゃぞ?」 やや有閑にも思えるお喋りを切り上げたフィクサード・ハインリヒの言葉に『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が念を押すように言った。言葉の最中にも『共通の敵』の方に意識を向けた彼女に彼は「もちろんだとも」と何処まで信用出来るか分からない調子の言葉を返している。 日本より遥か、インドはハイデラバードの秘境に位置する現在地――この迷宮を『ラビリンス』という。アークのリベリスタ達十人は海外の同盟組織『ガンダーラ』、そして『教主』ラーナ・マーヤからの情報提供を受けて深き迷宮を探索するに到ったのである。 「名状しがたいアークのような集団としては、珍しい経験をさせてもらってることを面白がるべき、かな」 眉根を僅かに寄せて思案した風に呟いたのはフィティ・フローリー(BNE004826)だ。 (そういえばアークって認めちゃっていいのかな。そこら辺の政治は経験豊富な先輩方に任せよう……) 長丁場となった探索は紆余曲折、様々な苦労をリベリスタ達に強いたのだが……現在彼等が直面するのはその総仕上げという訳だ。それは、『ラビリンス』の最終ステージと思われる祭壇の広間で訪れた。無論、かねてより情報を受け取っていたハインリヒ率いるフィクサード盗掘団との遭遇……では無い。彼等が『呉越同舟』の提案を持ち掛けてきた理由の方である。 「人数がそこそこ揃ったので色々分担できますね。いける所までいってみましょうか!」 気を吐き嘯く『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)の視線の先にはその巨体を振り回し、暴れに暴れる金属の巨兵が存在していた。この祭壇の間に先に到着したハインリヒ一行がアーク側に休戦と協力を持ちかけたロジックは余りにも明白だ。 多くの映画の御多聞に漏れず、財宝には守護神(ガーディアン)が付き物という事である。 広間の奥の祭壇には一転協力者となったハインリヒが『真なる賢者の石』と称す貴品が鎮座しているが、彼の言う所によればその獲得には不可視の力場を突破する必要があるらしい。祭壇付近で二人のフィクサードが倒されているのが獲得を阻む邪魔と守護神の行動基準の証明にもなる。 ともあれ、『真なる賢者の石』の魔力で自己修復する『ラビリンス』において『敵を倒す事』は最大の解決には及ばない。この『ラビリンス』を突破するにはその魔力の供給を断つ他は無いのだから即席チームの狙いは一つだけである。 即ちそれこそ動力源――『真なる賢者の石』の獲得に他ならない! 「――――!」 唸りを上げて振り下ろされる大剣を硬質の音が阻み、痛烈な悲鳴を撒き散らした。 巨躯より繰り出された一撃を止めたのは余波にダメージを受けながらも持ち前の頑強さを見せ付けた小梢である。『恐らくは世界一堅牢なる』カレー皿を手にした彼女は口元をへらりと歪める。 「……お待たせしました。あ、ラグナロク使えないクロスイージスでごめんなさいねー」 「いやいや、十分助かるぜ……」 今まさに先んじて戦う『味方』に轡を並べんと前に出て戦線に参加した小梢――『名高い友軍』の姿に少なからずホッとした顔を見せる程度にはフィクサード側の骨も折れている様子である。 (んー……信用はできるけど信頼はできない、ってところかしら。 ま、それを相手に伝えても仕方ないし、協力できる間は協力しましょ) 理詰めの相手への思案という意味では『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)の考えが適正だろう。彼等は理由があってアークを求めた。『理由が無ければ』裏切らないだろうし、逆を言えば『裏切れない理由を作ってやれば』契約は果たされるだろう。 「ま、迷宮の作者が試したいのが何か判らないけどね。 欲深さは偽の財宝の間、チームワークみたいのはリドルで試されてる気がするから。 今度は実力の方の証明といきましょうか?」 「こんな化物じみた守護神を動かせるだけの力が真なる賢者の石にはあるって事だよね? ちゃんと持って帰れればアークの皆へのお年玉に丁度いいかも!」 「いくら浪漫とは言え一週間は長い……いい加減、外が恋しくなってきた。 とっとと終わらせて、石とか以外のまともな飯を食おうぜ」 「何とか皆で――絶対に二十二人揃って帰りましょう!」 セレアの言葉に『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)が、そして『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)がめいめいに声を上げる。 懸念材料は当然否めないが、長い探索の末に訪れた最高潮(クライマックス)に一同の士気は高い。暗中を模索するように穴倉を進むよりは目の前の明快な敵を殴り飛ばす方が『話は早い』。些か現金な話ではあるが、人間ゴールが見えれば力が沸いてくるというのはリベリスタであろうとも変わらないという事か。長々と会話する時間も無い局面でハインリヒの説明は端的なものに留まっているが、相談をするまでもなく既にリベリスタ達は必要な自分の仕事に動き出している。 「俺は抑え役だな」 「妾は予備じゃ。お主ら、分かっておるな?」 「はーい」 「ああ」 「頼むぜ、リベリスタ」 禅次郎、何をとは言わぬ瑠琵の言葉に小梢に加えてフィクサード三人が頷いた。 「長期戦もそれなりにはこなせますから。限界まで支えてみせます……!」 「ま、リベリスタと並ぶのはちょっとおかしな気分だけどな」 応えたのは前衛とも祭壇とも距離を取る格好となった小夜と盗掘団のホーリーメイガスである。 「桐さんとそっちのデュランダルさんに期待してるよ! アタシも及ばずながら全力攻撃を~♪」 「果たしてどれ程のものなのか……力を尽くさせて貰います」 「只管ぶっ壊すってスッキリしてて案外いいわね」 「え、ええと! とにかく頑張る! いっぱいたたく!」 「俺のパワーを見せてやる!」 陽菜の言葉を受けた雪白 桐(BNE000185)、セレアは頷き、可憐な美貌に決意の色を貼り付けた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)とパワー自慢の巨漢は強く気合を入れた。 (この『迷宮』を作った人は、何かしらの『解答』を用意してる傾向を感じるけど…… ここに来て守護神と殴り合いしながら壁壊すだけ、で十分なのかどうなのか……) 尤もセレア等はこの最後の試練に対して何か別に『攻略法』があるのではないかと思っているクチではあったが……少なくともハインリヒはそれ以上の情報を伝えていない。彼のブラフである可能性は完全には否めないが、逆を言えば『彼の助言と情報が無ければ壁を壊すだけのトリック』が極めて洞察するに厳しい難題として横たわったのは確実であるとも言える。 (守護神を破壊したところで再生の可能性もある以上、まともにやり合うのも面倒ですし……ね) 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の灰色の頭脳が状況に最適解を弾き出していた。 成る程、『パーティ』の主作戦は実にシンプルに分かり易い。チームの中でも耐久の高い面々が巨大な守護神を食い止めている間に残る火力役が『壁』を壊して『真なる賢者の石』を入手するというもの。小夜等回復支援役は状況に応じてその双方を支援する役割を負うが……守護神の動きが目前の敵を排除し、祭壇を狙う者を優先して攻撃するというルールを持っている以上、扇の要になる彼女等が比較的安全なのは朗報か。 「ハインリヒさん、長丁場の可能性もありますから……リソースのフォローはお願いします」 「任された。安心してくれたまえ」 桐の要請にハインリヒが了承の言葉を返した。 「私達も相応の戦力を出すのです。 貴方達にも同様に働いて貰う――であれば、問題ありませんね?」 「格別の御配慮に痛み入る。ではこの場の統制は君に任せよう」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の確認、そしてハインリヒのその言葉はリベリスタ側が盗掘団との同盟に際して用意した『慎重な気遣い』が十分であった事を意味していた。敵と問題は目の前の守護神のみには非ず。互いを百パーセント信頼出来ないこの状況においては『互いが信頼しやすくなるようにリスクを分散する』事こそが寛容である。ハインリヒが現場の指揮権をミリィに譲ったのはそれを確認してからの事だった。 「ならば、結構。一時的とは手を組むのです。私は私に出来る限りをこの場で尽くしましょう」 警戒は常に必要だ。しかして、協力も又不可欠だ。 全体の指揮役――瑠琵曰くの『船頭』であるミリィは高らかに代名詞とも言える『あの言葉』を紡ぎ出していた。 「舞台は整いました。さぁ、今こそ戦場を奏でましょう――」 ミリィ・トムソンの教条は全ての戦場に彼女の戦闘論理を点す『灯り』である。 ●組曲IX (時間を稼いでいる間に火力を束ねねば――) ミリィの鋭い眼光が祭壇の前の空間に突き刺さり、魔力の火花を散らしていた。 新たにリベリスタ達をキャストに加え戦闘は激化の一途を辿っていた。 先の無勢ではかなりの苦労をしていたフィクサード達も事実上戦力を倍にしたアークの参戦にその勢いを取り戻している。 とは言え、元々彼我の戦闘力にはかなりの開きがあるのだから簡単な話になる筈も無い。 守護神を長期に食い止め続ける事は難しいし、防御と祭壇を作戦の主体に置いている以上、これを倒すのは不可能に近い。即席パーティと守護神の戦闘はあくまで駆け引きの中にある。 「よし、派手に行け!」 状況に『許可』を出したのは祭壇の付近で倒れる盗掘団の二人を影人による救援で『動かした』瑠琵である。 「――ごめんね、ちょっと巻き込むかも! できれば避けてください!」 それを受け、可憐な外見と愛らしい声を裏切る――実に大雑把な注意を飛ばしたのはブロッカー達に守護神を任せ、祭壇側まですり抜けてきた旭であった。華美なる戦いの装束(ドレス)をひらりと翻し、両腕に備えた魔力鉄甲に地獄の炎を揺らめかせる。熱量の暴発で空間を灼滅せんとする赤竜は彼女が放った早速の大技だ。 「……うわぁ、本当に『ある』んだね」 並の相手ならば一撃で飲み込むその火力に空間が軋みを上げていた。しかし旭自身が呟いた通りそれはそこまで。彼女の放った極炎は目の前の壁に阻まれ、その後背には何の影響も及ぼしていない。 「首尾よく壁を破壊して――『一緒』に手に入れる事にしましょうか」 「ああ!」 だが、桐にしろデュランダルにしろこれは想定の内である。 簡単に壊れるような障壁ならば盗掘団は既に仕事を終えているだろう。仲間がこれに阻まれて倒されるシーンを見ていたフィクサードは言わずもがな、リベリスタ達もこれは先刻承知の上だ。 「行きますよ――」 静かな調子とは対照的に桐の小さな身体が躍動する。 体格と比して脅威的と称する他無い膂力を発揮した彼は全身全霊の破壊力を唯の一撃に集約して大振りの刃を振り抜いた。圧壊させ、切り潰すかのような斬撃は――ユニークな見た目と裏腹の激しい威力を秘めている。続け様に炸裂したフィクサードの斧の一撃もかなりの威力を見せ付けていた。 (守護神は――) スピードにはそれなりに自信がある――フィティが手にした槍で空間を穿つ。 ちらりと横目で暴れる敵を確認した彼女はそちらへの注意も怠っていない。 何故ならば、それは。 (正直、抑えの仲間が居るとはいえ、それで解決は……無理だよね。 この迷宮を作った人は本当に偉大な魔術師だったんだろうから。こんな空間があって、宝があって、それを守る守護神まで作っておきながら、宝の近くに居る敵に攻撃が届かない、なんて欠陥品を作るとは思えないんだ) それは確かに結論と言っても差し支えない。 守護神がその姿に備える弓と大筒は離れた敵を効率良く殺傷する為の手段に違いないからだ。 祭壇の広間の空間はかなりのサイズがあるが、祭壇と守護神の距離は三十メートル以内程である。 つまる所、苛烈な攻撃が飛んでくるのは抑え役の有無に関わらず確定的である。 「さて、盗掘団と一緒に壁を壊そうか」 嘯くフィティ。 轟音が立て続けに響く戦場は混沌とした喧騒に満ちていた。突破役が壁攻略に着手する一方で守護神との戦いを余儀なくされる抑え役の面々も巨兵を前にその覚悟を示している。 「来るぞ――!」 鋭い警告の声を上げた禅次郎の視界の中で巨兵の長い右腕がその手の得物を振り下ろした。 両手で押さえる形で大業物を横に構え、この縦の斬撃を受け止めた彼の膝ががくんと揺れる。叩き付けられる圧倒的な暴力は体力自慢の彼をしても簡単に凌げるものではない。 「チッ……!」 打撃を受けた禅次郎をフォローしようとするようにフィクサードのソードミラージュが打ち込んだ。二人のクロスイージスの内の一人はラグナロクの付与でパーティ全体を底上げし、もう一人は全力防御の構えで敵に相対している。 「聖骸闘衣でインドぱわーが満ち満ちます。物理攻撃ならまかせろー」 その身に更なる加護と防御力を纏った小梢がレンズの向こう側から敵を見据える。 体をギギ、と動かした守護神のその左の斬撃は自身の周囲に集る小さな敵を纏めて薙ぎ払うかのように放たれた。 横殴りの強烈な一撃に陣形が乱された。 パーティは傷みを見せるが、その中でも小梢はまだ余裕の顔をしている。 「攻撃が得意ではない私としては――今回の役目は護りに集中できるからイイネ!」 嘯く彼女を見たフィクサードが呆れたように苦笑を漏らした。その感想は恐らく彼等が『フィクサードが故』である。今後何処かで相手をする可能性のあるリベリスタがこうも頑健な所を見せればむべなるかな。 そして緩んだマークを嘲笑うかのように弓がしなり、砲が火線を噴く。 「ええい、好きに暴れよって……!」 臍を噛む瑠琵が巻き上がる砂埃に目を細める。 近接を薙ぎ払うそれが次に狙ったのは無論壁の攻略をせんとする革醒者だ。 当然と言うべきか抑え役よりは防御に優れない――火力寄りのメンバーは極めて危険な瞬間最大風速を備える連続攻撃に小さくない打撃を受けている。守護神の猛攻を受けた仲間のダメージをカバーするのは言わずと知れた小夜とホーリーメイガスのコンビであった。 「むしろ一手の回復力より、長期戦に耐えられるのが私ですから。 割とこういうのは得意……? でしょうか。 あとは一撃の重さが私と盗掘団ホリメさんの回復力を越えないことを祈るのみです――!」 奇跡に到る詠唱より目を見開いて。和弓が聖神の奇跡を顕現する。 小夜の回復に合わせて『相棒』となったホーリーメイガスが同様に可能な範囲で仲間達を癒していく。 「いったいなぁ、もー!」 活発で大きな瞳の端に生理的な涙を溜めて長いポニーテールを揺すったのは爆炎に巻き込まれた陽菜である。 「お返し!」 短い言葉に裂帛の気合が篭る。月の女神の加護を全身に受けた砲撃手(シューター)は星よ砕けろとばかりに威力を研ぎ澄ませた光柱を不可視の壁に叩きつけた。壁表層に光が散る。壁が震える。 「効いてるわよ、少なくとも」 ここまでも卓越した魔術知識で『ラビリンス』を洞察していたセレアのお墨付きは勇気になる。 幾ら知識があろうとも『ブラックボックス』と呼ぶ他無い古代魔術式の解明は困難ではある。 (或いはあのアシュレイ辺りなら分かるのかしら?) 壁を生じさせる機構と経路を探す事でより効率的な破壊が出来ないかという算段はここまで上手くいっていない。 ……しかし見つからない手段は兎も角、黒鎖を自在に駆る彼女もまた殺傷力の高い魔術師である。 蛇のようにのたうつ鎖の打撃がその神秘的威力で領域を脅かした。 フィクサード達もリベリスタに続けとここに更なるダメージを叩き込んでいた。 まさに手数を生かした猛烈な連続攻撃は先程までの戦いを圧倒する速度で最後の試練に牙を剥いていた。 されど、単に手数を増やせば攻略が成る程、最後の試練は甘くは無い。 順調にも思える風に威力を束ねるパーティはやがてそれを理解する。 頑強なる要塞を力で突き崩すその大事業がどれ程の困難を伴うものであるのかを―― ●組曲X (いざとなったら――) フィティは自分の能力を理解している。破壊役として壁を突破する仕事に関して自身が出来る事のたかは知れていた。耐久力が高いと言える訳でも無かったが火力を維持する為ならば身を挺する事も厭わない覚悟であった。 果たして。 「……っ、く……ッ!」 彼女は自身が覚悟し、信じ抜いた通りに行動した。 爆炎に咽ぶ仲間の内、最も傷付いていたセレアの文字通りの盾になった。その背に銀色の矢が突き刺さっている。長らくの戦いに運命頼りも過ぎ去った彼女は床に血の色を広げながら前のめりに倒れていた。 「この……!」 柳眉を吊り上げるセレアの姿を無機質な巨兵の緑のモノアイが映している。 長く続いた戦いはまさに熾烈なものとなっていた。 パーティ側の猛攻は強烈なものだったが、壁の耐久度は試練と呼ぶに相応しい程のものだった。 避けない敵に集中された火力は相当の段階に達しているが、これの突破は未だなっていない。 「やりますねぇ……これは後で本場のカレーをおごってもらわないと」 「まだまだッ!」 小梢、禅次郎等が必死に食いつく一方で―― (このままでは……) ――全体を俯瞰する小夜等が必死で支える戦場も徐々に綻びを見せ始めていた。 「……どうする、お嬢さん」 「どうするも何も、これからですよ」 「同感だ」 指揮と適宜それぞれのカバーに力を使うハインリヒとミリィは焦れる状況を良く理解している。 (ここからどれだけ粘り切れるかが勝負ですね) (……『提案』しておいたのは正解だった。やはり『推定アーク』は中々やってくれる) ミリィ、ハインリヒの互いの思惑はさて置いて。 倒されたフィクサード側のソードミラージュの穴はすかさず飛び込んだ予備抑えの瑠琵が埋めているが……『圧倒的な強敵に対して自陣が倒れ始めた』事実は連携を生命線にする革醒者側にとっては痛打である。 「影よ、かき回してやるが良い!」 瑠琵持ち前の身のこなしを模倣する符術の影達が守護神を翻弄せんと動き回る。 使い捨ての兵隊は時にそれを阻む数合わせとなり、時に誰かを守る壁となり。的確に時間を稼ぎ続けているが、あくまでそれは時間を稼ぐまでに留まっている。 「……この程度……まだこれからですッ!」 小夜の意気は努めて軒昂。 「……ひたすら皆さんのこと支える仕事って、割と好きなんですよ?」 それでも先述した通り。パーティが守護神を倒そうと考えていない以上は最終的な武力勝敗は常に敵の優位にあると断定せざるを得ない。『電源の寸断』こそがパーティの唯一の勝ち筋である以上、この状況は想定されていたが、だからと言って焦れない状態では有り得ない。 だが、リベリスタは不可能を不可能と思わない。 『唯の不可能を不可能のまま捨て置かない』が故にリベリスタなのである。 「もう一撃!」 不安な空気を切り裂く桐の豪打が身体の芯を揺るがした。 陽菜の砲撃が、セレアの魔術が、 「みんな、ふぁいと! わたしも、がんばる!」 消耗を振り切って気持ちを入れ直した旭の猛烈な攻め手が壁を覆う。見えない壁の表面を舐めるように走った獄炎がこの時、僅かにその内側に浸食したのをセレアは見逃しては居なかった。 「いけるわよ」 「え、えと。あとちょっと!」 拳を握った旭の瞳が輝いた。 「そうよ、もう一息!」 俄然気力を回復させたパーティが攻めに攻め出す。 『ラビリンス』の危機を痛感したのか――一層暴れ始めた守護神に遂に禅次郎が薙ぎ倒された。 「てめぇ!」 フィクサードが激昂する。「フィクサードとはいえ共闘している以上は仲間だ」。言い切った禅次郎に先程の危機を庇われた彼は感情を剥き出しにして守護神の腕にハンマーの一撃を叩き込んだ。 おおおおおおおお……! 「っ……!」 猛烈な大剣の一撃に小梢の眼鏡が宙を舞う。 祭壇側を襲った災厄のような火力の集中に次々と青い運命が瞬いた。 しかし、パーティ側の勢いは水をかけるその行為にかえって強くなっている。 「諸君! 共に祝杯を挙げる事にしよう!」 「勿論、ハインリヒさんのおごりだよね♪」 ハインリヒの檄に煤だらけの陽菜が応えた。 削りに削った長丁場。 「――今です! 華やかに剛健に――全ての決着をつけましょう!」 響いたミリィの号令にパーティは最後の力を振り絞り、全ての攻勢をここに注ぐ。 畳み掛けられるように展開された猛攻はここで最高の連携とキレを見せる事になる。充実する気力を十分に反映したその動きは――呉越同舟が心を一にしたからこそ生まれた特別な瞬間の証明だった。 やがて――ガラスの割れるような澄んだ音が戦場に響く。 おおおおおおおおお……! 怒りか、それとも慟哭か。 声を上げる守護神を置き去りに、桐が走る。デュランダルが続く。 「さあ、これで最後です!」 「そうありたいもんだぜ!」 奇しくも『約束通り』共に祭壇を駆け上がり、無限の魔力を揺らめかせる緑石をその手にとった。 『ラビリンス』に満ちていた危険な気配がその瞬間に見事に霧散していく。 何百年か、或いはそれ以上か――時を積もらせた古代の神秘の迷宮は今役目を終えたのだ―― ●組曲XI (して、わらわ達は合格かぇ? 終わりの守護よ) 瑠琵が漸く力を抜いた。 完全に沈黙した守護神は程無くして跡形も無く消え去った。 正確な事実原理は不明だが『真なる賢者の石』の特別な魔力で構成されていた不滅の兵隊は物質的属性を持ちながらもある意味で魔力の塊だったのかも知れない……とはセレア、ハインリヒの言である。 「やれやれじゃ。しかし、約束は守られるのであろうな?」 「勿論。我々の戦いは共に賞賛されるべきものだった筈だ。『平等』に」 人心地ついた瑠琵が水を向ければハインリヒはそう機嫌よく応えたものだ。 「フン。取り分は六対四と言いたい所じゃが……リドルへの回答は同数故に五対五じゃ。 よもや不満や異論はあるまいな?」 少し冗句めいてそう言った瑠琵にハインリヒは目を丸くした。 「勿論私は構わないが……諸君等はそれで構わないのかね?」 「まぁ、両者あっての結果だったとは思いますからね」 「惚けていいのか等と良く言う」とばかりに桐は大きく息を吐いて頬を掻く。 「ま、正直情報を得られなかった場合を想像するとぞっとする展開だったからな」 口を開く事で身体が痛んだ禅次郎は顔を顰めてそう言った。 「約定を守るのならばそれで良し、さもなくば相応の代価を払って貰いますと言いたい所ですが…… ……辞めましょう。『ラビリンス』の意味を考えても、これはそういうものなのでしょうから」 苦笑を浮かべたミリィが話を結ぶ。 ハインリヒの本心を考えればその位の妥協は止むを得ない部分もあるだろうか。何より怪我人多数、疲労困憊の状況で一悶着トラブルを抱え込むのは――恐らく両者がだが――御免蒙る気分である。 損して得取れ。 何よりアークとハインリヒの間は共闘で一定の信頼が得られたという部分も小さくは無いだろう。 「但し、少なくとも幾つかの情報が欲しいですね。代わりとは言いませんけど」 「好きに聞いてくれたまえ。答えられる範囲ならば善処しよう」 「真なる賢者の石とは賢者の石と何が違うのですか?」 桐の問いにハインリヒは片目を閉じて思案顔をした。ややあって彼は説明を開始する。 「純粋に秘める魔力量が違う……では、余り意味の無い回答だろうね。 では、もう少し踏み込んで。『賢者の石』が何かを諸君等は正しく御存知かね?」 「正しいかどうかは分からないけど、実物を見た事はあるよ。異世界の……何か?」 陽菜の言葉にハインリヒは頷いた。 「これ等は元々この世界に存在していない物質だ。上位世界のギフトとも呼ばれる。 生物めいた特性を持たない上、崩界加担も行わない事から通常のそれとは異なるが…… 言ってしまえば『そこのお嬢さんのように』アザーバイドのような存在と言える。ならば、その上位たる石は何だと思うね?」 「……私か」 「まさか……」 フィティが面食らい、セレアが眉を顰めた。アザーバイドの上位と聞いて当然連想されるのはミラーミスである。 世界樹エクスィス、片目だけを見たR-Type以外のそれとアークは遭遇した事は無いが…… 「流石にこの分片はミラーミス程の価値は持たない。強いて言うならばその落し子程度か。 何れにせよ、特殊な存在だよ。諸君等に分かり易く言うならば『ソロモンの魔神』のようなものか」 ハインリヒはそこまで言って大きく息を吐いた。 「勿論、この石は断片に過ぎない。例えばより強大な『秘奥の翠<エメラルド・タブレット>』が完全な形で残っていたとするならば……同等と呼べるのかも知れないがね。しかし、何れにせよこれが人の手に扱うには極めて過分かつ重大な力を秘めた財宝である事に疑う余地は無い」 ハインリヒは『真なる賢者の石』の砂のような欠片を手に取り、祭壇の下部を操作し始めた。 「『ラビリンス』は一方通行めいている。 別の手段で帰還する方法も無い訳では無いが、ここは任せて貰おう」 転移でやって来たこの空間は正確な座標が不明である。 『ラビリンス』の持つ一部機能を生かして外を目指すと説明したハインリヒにリベリスタは頷いた。 「そう言えば」 「うん?」 「ハインリヒさん、やっぱアークに来る気無い?」 戦闘前に中断した呼びかけを陽菜が再開した。 「結構色々メリットあると思うんだけど……」 「『ガンダーラ』側にもその旨伝えれば其方の安全も確保しやすいかと思いますし……」 「わたし達は石を護るために、あなたを護るよ。考えてみてくれる?」 援護射撃を行うのは小夜であり、旭である。頷いた桐といった辺りもその辺りの希望は持っていた。 「ふむ……」 作業の手を一旦止めたハインリヒは全員生存した部下達に水を向ける。 「どう思うね?」 「まぁ、悪い奴等じゃありませんね」 「……気に入らないフィクサードも、気に入るリベリスタも居るって事ですか」 やや罰が悪そうな彼等にハインリヒは口元を歪めた。 「私も同感だが。残念ながら答えはNOだ。我々は神秘を発掘し、それを糊口に生きている。 私は私の求める学問と発掘により得られる巨万の富、栄光に興味を禁じ得ない。それを素直に遂行するに『リベリスタでは都合が悪い事』も多々あるだろう。私は善人ではない。私は学者であり、探検家なのだ」 「うーん、なんか残念だけど……そっか。仕方ないよね」 「魅力的な提案を袖にしてすまないが」 「ううん。こっちこそごめんねぇ」 首を振った旭が軽く頭を下げたフィクサードに笑顔で応えた。 (うーん、いろいろな人がいるんだなぁ……) ハインリヒは善悪の区別を持たない訳では無い。 しかして彼はフィクサードらしくその状況に順番をつけるのだろう。 見果てぬ夢に、自身の浪漫に『多少の人の迷惑は気にしない』からこそフィクサード。 結果として悪行を働いている以上どんな言い訳をした所で詭弁ではあるが、彼はそういう人物なのだ。 「そっか」と少し残念そうな顔をした陽菜に彼は続きを述べた。 「だが、私は私の求める報酬や条件を提示する『誰とも』取引をする事にしている。 私はフィクサードだが、『推定アーク』がビジネスの相手足り得る事は良く理解した。 今後、仕事の話で再会する機会がある事を期待しているよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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