●我が軍、進軍せり それはとても不可思議な光景であった。 白い壁を持ち聳え立つ建物――ホテルの正面ロビーに向けて鎧武者達が一斉に押し寄せているのだ。 時代も文化も違うはずの舞台と登場人物。B級映画にしても滑稽過ぎる。 だがその続きを見て笑えるはずもない。 玄関口のガラスを突き破って侵入した鎧武者達はその勢いのまま手にした槍でロビーにいる人間を手当たり次第に突き殺し始めた。 悲鳴、絶叫、騒乱を経てそして訪れる静寂。微かに聞こえてきた何かを求める声は喉を掻き切られ黙らされる。 鎧武者達の進軍は止まらない。一階を制圧すれば二階へ血溜まりを作り、二階が終われば三階の命を全て刈り取る。 それを繰り返し、ついに辿り着いた最上階でこのホテルのオーナーの首を落とした。 その首は髪を掴んで持ち、高々と上げられる。 「テキショウ、ウチトッタリィィィ」 一人の鎧武者が声高にそれを叫ぶ。そして上がる勝ち鬨の声。 白城は血に赤く染められ、美しき繁栄は全てを蹂躙される。 それこそが戦場。これこそが戦。ただそれは、群雄割拠であった次代の残り香でしかない。 ●戦場はそこに在る 海岸線沿いの道路を走る輸送車両。窓の外には綺麗な海が見えるが今はそちらに意識を割いている余裕は無い。 車両に備え付けられたモニターに『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の姿が映し出されている。 「もう一度確認する。今回の依頼はホテルを襲撃してくるエリューション達を退治すること」 モニターに映るイヴの姿が端に縮小しホテル周辺の地図が大きく表示される。 そこは一種の陸の孤島。海岸線に小高い山が連なる中で一部を刳り貫いたかのようにして敷地を有したホテルが建つ。 外へと繋がるのはそこへと走る道路が一本のみだ。 イヴが何か手元で操作するとモニターに鎧武者の姿が映し出される。 「今回のエリューションは純和風の鎧武者の群れ。ううん、軍って言った方がいいかも」 万華鏡を使い未来視された映像では鎧武者達は統率の取れた動きをしていた。 必ず班の単位で動き、先走ることなく一階ずつホテルを制圧していった。 そしてその数。100には届かないであろうが一つのホテルを制圧できるだけの数だ。 「一体一体の力はそれほどでもない。ただ数が多いとやっぱり大変」 そこには注意してとイヴは人差し指を立てて忠告する。 そしてまたモニターには地図が映し出され、ホテル裏手の砂浜に赤い丸印が描かれる。 「鎧武者は海から上がってくる。だから皆にはここで迎撃して貰う」 ホテルまでの距離はざっと50メートル。ホテルに被害を出さない為には全てを砂浜で討たなければならないようだ。 そこまで説明したところでモニターの地図は閉じイヴの姿がアップで映される。 「このエリューションには大将格がいる。未来視の映像では映らなかったけど」 イヴの言葉から推測すればそれは未来視の中では出るまでもなかったと言うことか。 幾つかの懸念事項はある。だがそれをじっくり考えている暇も無い。 輸送車両は軽いブレーキ音と共にその車体を止めた。目的地――戦場となる場所へと到着したのだ。 車の窓の外では日の沈む寸前、すぐに夜が来る。 「皆、気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:たくと | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月03日(水)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦の前に巡らす想い リベリスタ達が浜辺に着いた時、丁度海の彼方へと太陽が沈んでいく。 結界の力で一般人は一人も居ない静かな海だが、ここはもうすぐ戦場へと変わる。 「そろそろのはずだね」 日本鎧に見立てた鎧を纏う『デイアフタートゥモロー』新田・快(ID:BNE000439)は波の音を聞きながら黒に染まった波打ち際を見やる。 その背にはアークのエンブレムが刺繍された旗指物を背負いその姿は正に侍大将というに相応しい。 「殿、味方軍勢の配置が終わりましたぞ!」 そこに同じく武者鎧を着こなす巨漢――『星守』神音・武雷(ID:BNE002221)が快の前で傅きそう報告する。 その背中には同じくアーク印の旗を背負っていた。ただ、旗の余白にウサギの落書きがある所為でギャグにしか見えないのが残念である。 武者に成り切る二人の少し後ろで『水底乃蒼石』汐崎・沙希(ID:BNE001579)はこの事件について考えを巡らせる。 「戦国の世はとうの昔ですが、彼らは今が『合戦』なのでしょう」 過去に縛られている。いや、彼らにとっては今も戦国なのだ。ならばこちらもその意を汲み情念に応えるしかない。 その少し離れた場所で同じように鎧武者達の存在に興味を持つ『星の銀輪』風宮 悠月(ID:BNE001450)は海を眺める。 「遥か数百年。それほど永い時を経た思念さえも、異界の浸食を以て現代に顕現してくるなんて」 今回の武者の軍勢も本来であれば現世では存在し得ない過去の存在のはず。 エリューションという力は場所も時間さえも超越して発動する。未だにそれを理解しきるには至らない。 「だが許せねーな。夏のレジャーの代名詞の海で暴れるなんてよ」 『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(ID:BNE001845)の踏みしめた砂が擦れ音を鳴らす。 彼にとって高校生活最後の夏。それを満喫するのを邪魔する輩はどうにも気に入らない。 「けど海から現れる鎧武者かぁ……何か映画みたいだ! かっこいいよね!」 「そうだな。鎧武者なんて相手にするの初めてだし。オレもワクワクしてきたぜ!」 これから現れる鎧武者の軍勢を思い興奮して止まない『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(ID:BNE001008)は心情を隠すことなく自身の狼の尾をぶんぶかと振っている。 その隣でアクセス・ファンタズムの懐中時計を手元で遊ばせていた『駆け出し冒険者』桜小路・静(ID:BNE000915)も玲の言葉に賛同して早く来いと言わんばかりにまだ穏やかな海へ視線を走らせる。 そんなやる気十分の玲と静の一歩後ろでほやーんとゆるい表情をしている来栖 奏音(ID:BNE002598)が一言。 「浜辺でお昼寝しても気持ちいいかもしれませんね~」 特に鎧武者などに興味もなくそんな事を考えている彼女はある意味大物かもしれない。 ――ガシャリ その時。リベリスタ達の纏う空気が変わった。 リベリスタ達は各々のアクセス・ファンタズムより武器を顕現させ変わらず波音を立てる海を見やる。 ――ブオオオォォォォ! 突然に響き渡る法螺貝の笛の音。そして鎧武者達の姿が現れ始めた。 広い浜辺にて左右見渡せばあちらにもこちらにも。黒塗りの鎧に統一された武者達が海の底より進軍してくる。 波打ち際まで現れた武者達はそこで一度足を止める。それがリベリスタ達に気づいたからかは分からない。 だが、場の雰囲気でも言うべきか。それに飲まれた。いや、乗った快は名乗りを上げる。 「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目 にも見よ。我こそはこの合戦を預かりし侍大将、新田快なり!」 威風堂々と高らかに宣言。ならばその後に続くはこの言葉。 「悪行の限りを尽くす悪鬼の武者よ。我らが武の前に地獄に叩き返してくれる!」 宣戦布告――戦場を熱する為の炎が投げ込まれた。 ●戦場は其処に在る 鎧武者達は波打ち際より一斉に押し寄せる。狙いは明らかに侍大将として名乗りを上げた快だ。 しかしその前に布陣した二翼がその進撃にぶつかる。 器具を使った僅かな灯りだけの砂浜に突然大きな明かりが灯された。 右翼側にて天を突かんとする火柱が大地から噴出して鎧武者達を飲み込んで行く。 「ひたすら攻撃あるのみなのですよ~」 奏音は魔力を極限まで高めてから宙に魔方陣を描き魔炎を召喚する。まさに手当たり次第と言わんばかりに火柱が一本、二本と立ち上っていく。 その火柱を掻い潜るようにして砂浜を駆ける一人、静は鉄槌に力を流し込む。 「ここから先へは進ませねーぜ! 雑兵は引っ込んでな!」 静は少し焦げた鎧武者に目をつけ接敵する。片足で砂浜を思いっきり踏み抜き支えとすると、体を捻る反動で駆ける間に腰溜めに構えた鉄槌を横薙ぎに思いっきり振りぬく。 それを鎧武者は篭手で受けるがそれをまるで薄いベニヤ板でも割るかのように軽々と粉砕し、そのまま胴にめり込ませる。 そしてまだ終わらない。体の捻りを逆回転させ鉄槌を引き抜くと、遠心力を利用したまま腕ごと背後に回し体のバネを最大限に使って頭上より振り下ろす。 粉砕――砂浜に鎧に破片を撒き散らして上半身が砕けた鎧武者が倒れる。 「流石静さん。なら俺も頑張らなくっちゃだよね!」 静の豪快な戦い方に魅せられ玲も静に闘志を燃やす。 そう思ってる矢先に火柱の中から目の前に躍り出てくる二体の鎧武者。突き出される二本の槍を静は極限まで姿勢を下げてそれを避ける。 そして顔に砂が着きそうな体勢のまま疾走。槍を引き戻そうとする二体の鎧武者の懐に潜り込むと、片手を地面につけそこを軸に前転するように体を回転させる。 狙いは武器を持つ腕。畳み込んでいた脚を一気に伸ばし、鎧武者の腕を蹴り上げる。 思惑通りに宙を舞っていく二本の槍、さらに一体はバランスを崩して転倒。もう一体は腰に携えた刀へ手を伸ばすが、それよりも早く玲の中段逆蹴りが鎧武者の胴を突き破った。 一方で左翼でも炎が上がる。 「おうおうおう! 喧嘩だ喧嘩!! 派手に散らすぞぉ!!!」 火車はガントレットを打ち鳴らしその時に散る火花を大火へと変じさせ両腕に纏わせる。 大きく叫ぶ火車に複数の鎧武者が殺到してくる。だが、火車は動じることなく余裕の笑みを浮かべて見せた。 そしてあと数足にて火車に鎧武者の刃が届こうとした瞬間、砂浜に青い光が瞬く。 火車が軽く横にずれるとその背後には魔方陣の上でローブをはためかせる悠月の姿があった。 「全てを縛る鉄鎖よ、其に貫く牙を授け解き放たん」 そして詠唱が唱えられると共に悠月の伸ばした手のひらに浮かび上がる別の魔方陣。 「荒れ狂え青き雷!」 始動鍵が宣言されると同時に、鉄鎖を模した青い雷が放たれる。 雷は一番正面の鎧武者の胸に直撃するとその体内を余すことなく駆け巡り焼き焦がす。 さらに感電する鎧武者の背中を突き破り枝分かれするように拡散した雷は周囲にいる鎧武者達に次々に襲い掛かる。 その様はまるで猛獣が獲物を蹂躙していくソレであった。 「こいつはたまげた。流石の威力だな」 青い閃光が去った後には煙を上げて崩れ落ちた骸ばかり。 辛うじて生きているらしい鎧武者も痙攣を繰り返しまともに動く事はできそうには見えない。 武雷は動かない鎧武者を斬馬刀で軽く叩き潰す。 「だが呆けるにはまだ早いらしいな。ほれ、お代わりが来たぜぇ」 火車が見る波打ち際からはまた十数体の鎧武者達が海の底より上陸してきていた。 「さあ、かかって来な。こっちはまだ燃え足りねーんだ!」 吼える火車に鎧武者たちも雄叫びを上げて応える。 敵味方入り乱れての乱戦を呈してきた戦場はまだまだ燃え盛り衰えることはない。 「あれ、割とこっちに来るのは少ないね」 中央を守る快の正面に居る鎧武者は四体のみ。 それは両翼がしっかり抑えてくれているという証拠であるので何も拙い事はない。 寧ろ大将を名乗ったからには敵に囲まれることも想定しなければならなかった快にとってはありがたいことだ。 そんな考えにふけっていると一体の鎧武者が槍を構えて突撃してくる。だが快は慌てることなく手にしたナイフをそちらに向ける。 瞬間、十字の形をした光が走り鎧武者の兜を吹き飛ばす。さらに後に続く鎧武者達も同様に十字の光に打ちのめされ砂浜に膝を突く。 と、其処に幾つかの魔法矢が快の背後から飛ぶ。それは寸分違わず鎧武者の頭や胸を貫いてその命を完全に刈り取った。 『――新田さん、その力では倒すまでには至らないのでは?』 「あー……あはは、そうだったな」 正義の光は殺傷を許さない。沙希の念話によりそれを思い出した快は気恥ずかしげに頬を掻く。 「ところで敵の大将は何処に居るんだろうね」 海辺を見渡すがソレらしき影は今のところ見えない。やはりまだ海の底でこちらの状況を窺っているのか。 『――それでは、呼び出してみましょうか』 と、そういった沙希は快の隣へと並ぶ。 そして戦場全体を眺めてからテレパス能力を最大に引き上げて全員に送信した。 『――我が主君新田様の城は私達家臣也。 ――人は石垣、人は城。 ――そして主君は万夫不当の益荒男よ。 ――さあ、崩せるものなら崩してみせよ。 ――塵芥の如き雑兵は疾くと散れ!』 念話ではあるが、覇気のある声高な宣言が戦場の喧騒を一時的に打ち消した。 沙希は一見はお淑やかな和服美人であるが、その心は強き女であった。 そして、程なくして戦場に異変が起こる。 常に攻めあがっていた鎧武者達が距離を保ったまま集まり始め陣形を整えだしたのだ。 そして一気に空気が変わる。これまでとは違う重ささえ感じる気配が海底より這い上がって来ているのが分かる。 「おいでなすったね」 海面が盛り上がり、それを割って現れたのは赤黒い鎧を纏った武者。他の者とは違い一回り大きく、そして格が違う位に強い。それがすぐに感じられる。 「吾ハ赤海、海スラ血ニ染メル軍勢ノ将ナリ」 擦れた声ながら流暢に喋る赤海を名乗る鎧武者。彼こそが敵軍の大将格である。 「我等ガ進軍ヲ邪魔スル愚カナ者達ヨ。ソレヲ罪トシ死ニテ償イトセヨ!」 赤海は刀を抜き大きく振るった。それと同時に待機していた他の鎧武者達も一斉に突撃を開始する。 「上等だぁ! 一人残らず粉々にしてやるよ!」 迎え撃つリベリスタ達もまた前に出る。 こうして戦場はついに最終戦へと移り変わった。 ●生死入り乱れる合戦場 戦場に爆炎が華咲き、雷光が駆け巡る。 犠牲を厭わぬ突撃を開始した鎧武者達。その数の暴力にリベリスタ達は僅かに圧され始める。 これが本当に数だけならばどうにでもなったのであろうが。今この戦場には質も伴った強敵が出現していた。 「サア、存分ニ死合オウゾ!」 赤海に腕が鎧越しでも分かる位に膨張する。正面に居た快はすぐさまその場から飛び退る。 次の瞬間、砂が爆発した。赤海の振り下ろした刀が衝撃により叩き付けた周囲の砂を吹き飛ばしたのだ。 流石は大将を名乗るだけあって周りの雑兵とはレベルが違う。 「増援を呼ぼうにも両翼とも手一杯か。参ったね」 快は戦況を見極めながらどう対処すればいいか考える。 と言っても、考え付く手段は少なくどれも気の進まないものばかりだ。 『――私が後ろで援護致します。存分に戦ってください』 ふっと頭の中で語りかけられる沙希の言葉。快はそれに一つ苦笑を零すと手に力を篭めてナイフと盾を構えなおす。 「大将戦だ。戦場で一番見事な華にしよう!」 両翼を襲う鎧武者達の攻撃も苛烈であった。 仲間の犠牲も厭わぬ、いやそれすらも想定しての攻撃、攻撃、また攻撃である。 「うざってぇんだよぉ!」 振るわれる槍を片手のガントレットで弾き、火車は懐に潜り込んで頭に拳を叩き込む。 頭を砕かれ倒れていく鎧武者の後ろからまるで狙ったかのように振り下ろされる鋭い刀刃。火車は舌打ちと共に体を捻って避けるが僅かに肩に痛みが走る。 「行きますっ!」 掛け声と共に青い雷の鎖が複数の鎧武者達を食い破る。一瞬視界から迫る敵が消えたかと思えば、また海の中から鎧武者達は現れる。 また突進する鎧武者達。数体が後衛の悠月へと向かおうとするのを武雷が体を割り込ませて妨害する。鎧武者達は構わず武雷の体に槍を突き立てる。 「畏れを知らぬ愚か者め! 地に伏して姫の御威光知るがよい!」 背中のアーク印の旗を翻し、己の鎧を突く槍を掴むと持ち上げて鎧武者を宙吊りにする。そしてそのまま地面に叩きつけて、追撃に斬馬刀で地に伏している鎧武者の体を叩き斬った。 右翼側でも同じく脚を止めることの出来ない戦闘が続く。 「静さん、危ない!」 一足飛びに宙を駆けた玲の跳び蹴りが静の側面に迫った鎧武者の胸を穿つ。 着地して追撃に鎧武者を蹴り飛ばした玲は静と背中合わせになるようにして構え直す。 「サンキュー、玲!」 静はそちらを見ずにそのまま鉄槌を目の前の鎧武者に振り下ろす。鎧武者は刀を構え防ぐがそれごと砕き地面に強引に叩き伏せた。 二人は完全に半包囲されている。だが全くと言って良いほど恐怖は浮かばなかった。 「行こうぜ玲、一緒に戦場を駆けぬけようぜ!」 「うん、俺は静にどこまでも着いて行くよ!」 破壊の力を宿した鉄槌と、炎と冷気を纏った脚甲が同時に目の前の敵へと解き放たれた。 快は渾身の力を込めた一撃を赤海の胴に叩き込む。だが、その刃は甲高い音と共に鎧に弾かれてしまった。 「堅い……ぐっ!」 ナイフを弾かれた反動で固まった所に赤海の前蹴りが快の腹を捉える。具足を纏った爪先が突き刺さり快の体は軽く後方へと放り飛ばされた。 快は一度砂浜を転がりすぐさま立ち上がる。腹の痛みは酷いが動きが鈍るほどではない。 『――癒しの微風、傷いても立ち上がる強き人に力を』 また赤海へと駆ける快に沙希の癒しの魔法が届く。 腹部に走る痛みが消え、快調を取り戻した快は赤海の横薙ぎにした刀を伏せて交わし、さっきのお返しにとその胸に向けて十字の光をぶつける。 「効カヌワァ!」 だが赤海はそれすらも防いだ。物理にも魔法にも堅牢さを見せる。 そしてまた倍近くに膨張させた腕を振るい快へと振り下ろす。快はそれを盾で防ぐがその衝撃は想像以上。上から叩きつけられた力により足元の砂場が陥没する。 「参ったね。付け入る隙がないや」 攻撃と防御を上げる特殊能力。それは単純ながらに反則的に強力である。 快が一人で相手をするには確実に勝ち目はなさそうであった。そう、一人では。 「乱入不意打ち上等っ!」 「ヌゥッ!?」 横合いより火車の炎の拳が赤海の腕に叩き込まれる。赤海はその不意打ちに反応して見せその拳を篭手で防ぐ。 「殿、助太刀致す!」 さらにその反対側から武雷の斬馬刀が突きこまれる。赤海はこれも手にした刀を打ち合わせ止めて見せた。 だが、これで両腕は塞がった。そこを逃すはずもない。 「魔力よ集い、我が敵を捉えよ――穿鑿の連弾!」 がら空きの腹部に悠月の放った無数の魔弾が叩き込まれる。 幾つにも重なった衝撃により赤海は後方へ数メートル押し込まれ波打ち際に立つ。 「ヤリオル。ダガ、我ハ負ケヌ!」 「いいねぇ! 手前みてえな奴が居るから暇しなくて助かるぜぇ!」 両腕の炎をさらに一段階燃え上がらせて火車は肉薄する。それに続く武雷はまた赤海と刀を打ち合わせる。 二人が赤海を抑えている間に快は沙希の治療を受ける。 『――無理をしますね、主君様は』 「主君なら体張らないと家臣がついてこないだろう?」 一つの冗談を交えて冷静に周りの状況を見る。 何時の間に周囲の鎧武者は大部分が片付けられており残りを静と玲が片付けている。 そこに奏音が近づきぽつりとこう言った。 「あの大将、豪腕と鉄壁。どっちか一つしか使えないみたいだよー」 観察をしていてそれはすぐに分かった。本来は別の目的であったのだがそれは少し叶いそうにない。 ならば折角だしと報告をしにきたのだ。 「そうか。ならやりようはあるね」 小さく口元に笑みを浮かべた快はすかさず赤海に向けて十字の光を乱射する。 全てが直撃するが鉄壁を纏う赤海には然したるダメージは通っていない。 「どうしたんだい赤海。さっきから防戦一方じゃないか。もしかしてそろそろ降参かい?」 明らかな挑発。稚拙とも言える嘲りでは普段の赤海では効果はなかったであろう。 だが、今の赤海は抑えきれないない感情が渦巻いていた。そう、普段なら在り得ぬであろう怒りという感情が。 「吼エタナ! ナラバコノ一撃ヲウケヨ!!」 そして発動する豪腕。肥大化した腕を持って大上段からの振り下ろしが快へと迫る。 怒りに任せたそれは避けるのはたやすい。だがここで避けてはいけない。快は盾を両腕で支えてその一撃を受けた。 両足が沈み、構えた腕の筋肉が何本が切れたんじゃないかという感覚が走る。だが耐えた。膝を突き腕の裂傷から血が零れるが確かに抑えきった。 「今だっ!」 快は叫ぶ。その一言の意味をリベリスタ達はすぐさま理解した。 炎と雷が赤海の体を焼き、間髪おかぬ拳と刃の連撃が鎧を剥ぎ取る。 「ヒャッホー、それじゃあ最後は頂くぜ!」 そして最後に飛び込んで来たのは雷を纏った鉄槌を振りかぶる静。 自分の生命をも糧とした最高の一撃が赤海の鎧に大穴を穿った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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