● 退いたら死ぬ戦いというのは、神秘界隈ではそう珍しくもない。 力量の差、運命の多寡、或いは破界器の性能等々、此の世界は兎角無慈悲な現実を以て「奇跡など存在しない」事を明白に教えてくれる。 が、偶に。極々偶に、そういった事由にも例外が生ずるのであって。 「あ、あのっ! すいませんが斎翁様に取り次いで貰えませんか!?」 『え、無理』 「即答!? いやちょっと待って下さい受けた依頼内容と現状に天地の差がありましてですね!」 『割と良くあるだろ。うちの占師、万華鏡ほどに精度高くないし』 「それで実現不可能になったミッションそのまま遂行させるとか鬼畜過ぎません!?」 場所は長野県山中。ちょっと緑が生い茂っている森の中にて。 電話口で『依頼主』に抗議をしている少女の30mくらい先では、大小様々な岩が転がっていた。 より正確に言うと、それは岩ではない。 遠目からでは岩のように見える、灰色の艶のある毛をした何か丸っこい生き物である。 「何かE属性アリな生き物が目的地前に大量に在るんですよう! アレ全部私一人で処理するのは無理です!」 『……んーとな。今現在、アークの動きが慌ただしいんだ』 「……。はい?」 『主力が海外に割かれていながら、何か本部では暢気にクリスマスパーティのお知らせ的なビラまいてるし。 斎翁様個人のお考えは兎も角として、下の連中の一部は今の内に攻め込むか、それとも罠じゃないかとビビってたり』 「……はい」 言いたいことが見えない説明に気勢を削がれる少女。 と、思ったら。 『かと言って折角のチャンスに戦力揃えないのも馬鹿馬鹿しいじゃん? 使うか使わないかは別としても。 ……で、今回の件。斎翁様に依頼受けたのってお前一人だけだよな』 「はい。……はい?」 『此処でヘルプ申請されるとその為の戦力削がれるんだよ。確実。 すまん。恐山の利益(の可能性)の為に死ね』 「はい!?」 ぷちっと切られた通話音。 慌ててリダイヤルする少女に対して、返ってきたのは無情にも着信拒否時の応答メッセージだけであった。 「……ふ、ふふふ」 自失呆然とした状態から数十秒後。 めきっと音を立てた携帯電話を巾着袋にしまい、和装の少女はいっそ狂ったレベルで吠え猛った。 「い、良いでしょう! やってやろうではありませんか! 恐山の『雑用係』、阿白屋智美! 今こそこの理不尽な運命を歪曲させてみせましょう!」 完全に我を失ったと思われる少女が、そうして先の巾着袋から長柄の竹箒を抜き出す。 「いざ、尋常に――勝負ううううううう!!」 ……この後、およそ一分間に渡って防戦一方の戦いを繰り広げた挙げ句、運命を限界まですり減らして泣きべそをかいた少女が恐山の本部に戻ると言うのが、今回視えた未来視の流れであった。 ● 「……何時の時代も、裏社会の下っ端の扱いって酷いものなんですねえ」 達観した口調で言うフォーチュナ、津雲・日明(nBNE000262)であるが、彼とて未だ13歳になったばかりである。 ともあれ、先の映像を見て不憫に思うのは、流石に人並みの情が有れば当然とも言えるだろうか。 「……で、これを俺達に見せて、お前は一体何を言いたいと」 「その前に先ず、依頼の説明から始めましょう。 今回の依頼はエリューションの殲滅。対象はフェーズ2のエリューション・ビーストと、フェーズ1のエリューション・フォースが10体です」 うお、と声を上げたリベリスタの顔は、何とも面倒くさそうなものであった。 当然と言えば当然である。通常ではそこそこ実力のあるリベリスタですら、最大10人がかりで挑むのがフェーズ2のエリューションだ。 其処に余計なオマケが付いているとなれば、その難度は格段に上がると考えて間違いはない。 「対象の詳細なんですが、実は嘗て我々が取り逃がしたエリューションのようです。 個体名『魂食み』。唯ひたすら丸いものが大好きという、放っておけば害の無いエリューションですがね」 あれからかなりの時間が経ち、フェーズの進行こそは何とかしていないものの、代わりに増殖性革醒現象によって手下をかなり増やしたらしい。 この手下達。元となったモノが『魂食み』の食欲とのことなので、ナリはこれでもかなり凶暴な個体という話だ。 「彼ら配下もフェーズ1にしてはそこそこ強いスペックですが、それ以上に大本の『魂食み』自体の能力に大幅な向上が見られます。 嘗めてかかれば大怪我は当然、真面目に挑んでも失敗の可能性が有りますので、ご注意を」 「………………」 流石に難しい表情を浮かべるリベリスタである。 当時と現在のリベリスタの力量は最早大幅にかけ離れている。が、それをそのままにする敵でもない。 勝てるか否か。その為の作戦を精緻に練らなければならないようだ、と考えていた時。 「で、ここからの話が先ほどの未来映像に繋がるんですが」 言った日明が、手元の端末を操作して、一人の少女を映し出す。 桜と白を基調にした矢絣の長着と、濃紺の行燈袴。ご丁寧に余り見ない丸眼鏡まで付けている姿は、大正時代辺りの女学生そのものである。 「此方、恐山所属のフィクサードでして。 名前は阿白屋智美。通称『雑用係』と呼ばれており、大小構わず恐山の雑務を一人でこなしているお方です」 「……地味にスペック高いな」 「ですねえ。実際活動歴の割に受けた任務――成否は兎も角――の量が半端ではなく、それ故に力量もアークのトップクラス程度はあるらしいですよ」 「で、コイツをどうしろと」 先に見た彼女を含む映像は、あくまでも未来のものである。 要は、今からならば干渉は可能。それを察して問うたリベリスタに、日明は軽く笑んで見せた。 「ええ、今回の件、彼女と共闘して事に当たることが望ましいかと」 「……良いのか?」 予想通りとはいえ、あまり納得出来るものではない助言である。 訝しげな表情を浮かべたリベリスタに、日明は手元の資料を見つつ、説明を始める。 「はい。まあ今回彼女が居る理由ですが、恐山からあるアーティファクトの回収を頼まれて居るんです。 その過程で偶然、あの場に居るエリューションと会ったという事で……彼女も一人であの数への対処は出来ない以上、我々の助力を拒むことはないと思います」 「そうやって利用した後、アーティファクトを奪われないように彼奴を倒せば良いって?」 相手がフィクサードとは言え、人道的に褒められた行為ではない以上、返すリベリスタの言葉に少しばかり棘があるのも仕方ない。 が、返ってきた答えは想定を綺麗に裏返していた。 「……いやあ、別にあげてしまってもいいのでは」 「は?」 「いえ、そのアーティファクトについてなんですがね。 その場に在った登山者の落とし物に、偶然落ちてきた上位世界の神秘残留物が奇妙な要因で混ざったモノ……要するに、僕達の例で言えばシードの付いたアクセサリーのようなものなんです」 そのアーティファクトにしても、それほど性能の高いものでなく、精々基本ステータスに毛が生える程度の効果しか無いらしい。 「……なんだってそんなものを」 「……見れば解るんじゃないですかね」 言って、再び端末を操作した日明は、モニターに件のアーティファクトの画像を映し出し。 で、それを見たリベリスタが、数秒の硬直の後、諦めたように溜息を零す。 映っていたものは、革醒の影響か、新品のようにぴかぴかとした輝きを放つ――苺の飾り付けをしたヘアバンドであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月30日(月)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「………………」 現場到着後のリベリスタの反応は、先ず沈黙で始まる。 何でかって言うと、此方から共闘を申し込もうとしたフィクサードがリベリスタらを見つけ次第、即座に駆け寄って土下座をしたからである。 名は阿白屋智美。恐山派フィクサードに於ける通称『雑用係』だ。 「いや本当敵対勢力に対して何を勝手なとか思うかも知れませんがこの件失敗すると斎翁様のお怒りがマッハで私の首どころで済まない案件になってしまうのでどうかリベリスタの皆さんも七派の均衡とかその辺を守るために是非とも助力していただきたいのですがやっぱり無理でしょうか……っ!!」 「……いや、まあ、私達は毛玉退治に来ただけだから、そう警戒しないで頂戴」 取りあえず最初に返答を返したのは『薄明』 東雲 未明(BNE000340)。 日頃強気な彼女していっそ憐憫を抱くレベルである。どうしようこれ、って思考が表情にそのまま浮かんでいるのは、多分彼女だけではない。 「……ま、ご覧の通り、私達はアークだ。どうかな、ここは共同戦線ということで」 「先ほども言いましたように、私達の目的はエリューションの討伐のみです。 お探しのヘアバンドは、お譲りしますね。悪い話ではないと思いますけど。如何ですか?」 「良いんですか!!」 『黄昏の賢者』 逢坂 彩音(BNE000675)、『グラファイトの黒』 山田・珍粘(BNE002078)の持ちかけた話に対して、一も二もなく飛びついた少女である。 恐山派に属する身でありながら、本質的に人を疑うと言う事に適していないのであろう。屈託無い笑顔で何度も礼を言う少女を見て『小さな侵食者』 リル・リトル・リトル(BNE001146)が小首を傾げる。 「……何か親近感湧く人ッスね」 何処がと言われれば自信はない。少なくともこの腰の低さでは絶対ない。 ともあれ、少なくとも所属の違いによって敵対する事態は防がれたようで、その辺りはリルとしても安堵を吐けた。 対し――『ディフェンシブハーフ』 エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の表情は歎息混じりの其れである。 「成功もおぼつかない危険な作戦で、貴重な有望株を無駄遣いしてどうすんだっつーの……」 彼自身アークという組織に関わっている以上、神秘界隈の人材事情には少なくとも疎くはない自覚がある。 無限にあるでもない人材を使い潰す『ブラック企業』に対して辟易とした感情が漏れるのも仕方ないではあるが…… (――あれ、よく考えたらアークも大差ないような) 市民、貴方には叛逆的兆候が見られます。閑話休題。 「……どんな組織にもいるわよね、貴方のように貧乏くじをひかされる子」 ひたすら一同に礼を繰り返す少女に対して、優しい笑顔で肩に手を置いたのは『そらせん』 ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)だった。 「だけど、だけど……そんなあなたは今、最高に輝いてるわ!」 「り、リベリスタさん……!」 白衣姿の『少女』がフィクサードに向ける微笑みは、少なくとも当の本人にとっては激励の其れに思えたのであろう。が。 「弄り甲斐がある子って素敵よね! そういう子、私は大好きよ! 敵とか味方とか関係なく!」 「……えっ」 「さあ、弄って弄って弄り倒したくなるような子! この場だけでも一緒に戦いましょ」 「えっ」 本人の意志とかの問題を遙か彼方にぶん投げたソラをさておき、リベリスタらはその間にも入念な戦闘準備を整えていた。 装備、スキル、陣形と連携の打ち合わせ。 そうした諸々に対して――普段にはないくらい黙々と従事する『一人焼肉マスター』 結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は、視界の端に入れる程度に、少女に対し視線を送る。 組織一つ分の雑用を一手に引き受ける少女。その有り様はワーカホリックと呼んで大差はなく、竜一としてはそれを全肯定するほど『懐の浅い』男ではない。 ――だが、依頼のために全力を向ける姿は好ましい。とも思う。 一同がフィクサードと簡単な応対をすましていく中で、彼は一人、別のことを考えていた。 「……だからこそ、交渉の余地がある」 ● 「まん丸好きの存在ですか~。 フェイトを得た~、アザーバイドでしたら倒さなかったかもしれませんね~」 間延びした口調で言うユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が、少しばかり残念そうな面持ちを浮かべた後……その姿がかき消えた。 周囲の木々を蹴る形で空中を跳び回り、初手に振り切った戦輪が、小柄なE・フォースを切り裂く、が。 「やっぱり~、楽には行きませんか~」 報告に在るとおり、機動力に長けた配下達に想定通りのダメージを与えることは難しい。 本来の威力の半分程度にしか負傷していない敵を見て、次いで呪言を為したのはソラである。 「さ、毛玉退治しましょうか……毛玉掃除かしら?」 「ああ。それとアーティファクトは見つけ次第勝手に持ってっちゃって良いッスよ」 追うように、リルも前に出て。 雷光の白鎖が戦場に轟音を鳴り響かせれば、避け損じた負傷の大きい個体にリルが唇を当てる。 劇毒の如く、故に甘い異能が一体を潰やすが、其処で漸くエリューションの側も迎撃、乃至反撃の態勢を見せ始めた。 声を出す間もない。人体の急所とされる場に潜り込んだエリューション等が、碌な威力もない衝撃を軽く与えただけで、リベリスタ達の動きは一気に精彩を欠いていく。 その隙を見逃すまいと、『魂食み』と呼ばれるE・ビーストが、動きを緩ませたリベリスタ達に突進を仕掛けるが。 「悪いが、仲間が轢かれるまで黙っちゃいられなくてな……!」 にい、と笑ったエルヴィンが、手首のスナップのみを使い、握る金属塊――『ミスティコア』を宙に放る。 次いで、光の炸裂。 破邪の光輝を不断に撒き散らした其れを以て、挙動に落ち着きを取り戻したリベリスタ達だが、僅か、間に合わなかった。 「……うえ」 「っと!!」 散逸した陣形をとったリベリスタ達の中で唯一固まっていたソラと竜一を、その巨体が挽き潰す。 回復役であるソラを庇い続けていた竜一が、革醒した膂力と、手にする一刀一剣を介して紙一重で進行方向を逸らしたが、その膨大な衝撃と圧力を受けた腕は負荷というレベルではないダメージを負っている。 次いで追撃を受ければ、彼らもただでは済まなかったであろう、が。 「流石に、これを見逃すのは拙いね?」 妖しく微笑んだ彩音が、攻撃の最中に幻想纏いからバレーボールを取り出し、それを空に放り投げた。 それ自体には変哲は一切ないが――対する敵に於いて、これは抜群以上の効果をもたらす。 既に消滅した一体を除き、十体のエリューションの内、三体がこれに反応した。 八卦程度の確率に於いて、これは上出来と言えるか、不出来と言えるか。余分に思考を費やす暇もなく、動きを止め、尚かつ傷ついた個体に対して、珍粘が重厚な魔力槍を細腕一本で腰だめに構えた。 「しかしまあ……まるいものが好きとは変わって趣味をしてますね」 私も可愛い子が、食べちゃいたい位好きですけど。とまで言うのは、女性陣やリルのような存在が居る場ではギリギリで抑えた珍粘である。 一挙動のみで劈き、呪う――までもなく、珍粘の奈落剣・終がもたらした威力の時点で、配下のエリューションは呆気なく弾け飛んでしまった。 実のところ、これが珍粘と並び立つ未明にとってはちょっとした誤算であった。 基本的に「負傷の大きい個体を狙う」と言う作戦を常套句にしている彼らからすれば、ほぼ一撃で倒れるエリューションらに対してはあまり意味が存在しない。 結果、仮に珍粘が討ち漏らした個体を仕留めるために一定の距離を保ち、且つその範囲内で自分が攻撃出来る個体を探すというのは、率直に言えば――面倒くさいのだ。 「1匹くらい、フェイトを得てくれても良かったのに」 プラス、未明個人のちょっとした恨みがましい気持ちもあり、どうにも気分が上を向いてはくれない。 目の前には抱き枕にしたいほどのふわふわ。それを両手で抱きしめることも叶わない現実に対して、彼女は口を尖らせながらも残影剣を疾く払う。 改良に改良を施したバスタードソード――『鶏鳴』が、攻撃範囲に巻き込んだ二体の内一体をどうにか消滅させたが、生憎と現況は順調とは言い難い。 一連の動作は報告書に記せば流れるような其れに見えるが、実のところ此処までで掛かった時間は凡そ一分近くである。 配下の耐久力が少ないものであるため、現時点では消耗の少ないスキルを用いて行動をとり続けるリベリスタらだが、これが最後の最後――『魂食み』を倒すまで気力、体力が保ち続けるのかは、正しく五分五分と言ったところだ。 かと、言って。 「目があるなら、退く気は無いんスよ」 多少、傷んだ我が身を気にせず、碌な負傷もしないエリューションの親玉を相手にリルは言う。 視線だけ動かした先には、凡そこの場で最も退けない理由を持った少女の姿。 「和装の着付け方、聞いてみたいんで」 ● リベリスタの戦術は簡素なものである。 先ず敵全体を半円状に囲むように陣を取り、陣の内部の範囲をソラとエルヴィンで補い合うように立ち、回復役に徹する。 残るリベリスタらは先ず配下側のエリューションを倒していき、後に大元の『魂食み』を倒す、と言う作戦だが――これがどうして思うようにいかない。 今回のリベリスタ達は前衛陣が近接アビリティを積極的に使うと言うこともあり、敵が集中攻撃を意図して一点に向かおうとすれば、陣形が崩れて其処に人数が集中することは少なくない。 そして、仮にその密集状態で『魂食み』が持つ広範囲の魅了能力が使われれば。 当然、そうした事態も含めた対策としてブレイクフィアー、フレイクイービルをスロットしてきたソラとエルヴィンだが、如何せん速度差が大きすぎた。 一辺の容赦もなく振るわれる武器を常にギリギリで受け流す智美の不幸っぷりを思うさま堪能するソラだが、流石にそうしている暇もなくなってきている。 その理由として、第一に―― 「……大きいね」 「大きいですねえ」 驚愕を通り越して達観した口調で言う彩音と珍粘の眼前には、直径10mくらいに肥大化した灰色毛玉が鎮座している。 この巨大化の能力に対して、使用される度にひたすらブレイクを狙い続けてきた両者によって最悪の被害は免れたが、事ここにいたって遂にその幸運も店じまいの模様である。 巨体に狙われたのが、これまで負傷らしい負傷を受けたなかったエルヴェインなのは不幸中の幸いだろうか。 流石に強張らせた表情の彼に対して、重量という名の武器が彼を容赦なく押しつぶす。 只の一撃で耐久力の三分の二を持って行かれた彼が自身を賦活すると同時、ユーフォリアから待ちに待った言葉が届いた。 「此方は片付けましたよ~、あとはそちらの大きいのだけです~」 言う彼女自身、偶然得た二次行動を惜しみなく活かし、どうにか一手で届いた巨体に対の戦輪を介したツインストライクを叩き込む。 「低火力には~、低火力なりの火力の出し方がありますよ~」 言葉通りの意図を持ち、命中精度を高めた攻撃は通常以上の威力を以て『魂食み』を傷めていき。 「さて、楽しい楽しい呪い殺しの時間ですが……智美さんは、余り無茶はしない様にお願いしますね」 「い、いえいえ! 皆さんに手伝って貰う以上、私も助力は惜しみません!」 同様に、生真面目に竹箒を構える少女に対して、何処か好ましいモノを見る目で苦笑する珍粘。 巨体を霧で多い、黒筺と為す。スケフィントンの娘と題された異能が敵を呪うと共に、その身を大きく縮めた。 「さて、ここからが本番と行きたいが――申し訳ない、此方で打ち切りだ」 彩音が所在なげに頬を掻きつつ、ピンポイント・スペシャリティによる攻手で『魂食み』を刺し貫いた。 配下側の攻撃に加え、敵が『魂食み』単体と成った場合のスキルを考慮していなかった彼女は、結果として消費の大きいスキルばかりを使う羽目になり、早くも気力の枯渇を起こしてしまったのである。 「巨大化してのふわふわ、か」 次いで、少し前から魅了を回復された未明が、つい先ほどまで大きかった『魂食み』を前にため息を吐いた。 残念、とだけ言った彼女の120%が地面ごと『魂食み』を砕いたと思えば、その間隙を縫うように智美が躍り出る。 「……そう言えば、智美さんってEXスキルとか持ってないんスか?」 「ええ!? そんな大層なもの在りませんよ! この箒が変梃な能力持ってるだけです!」 「……」 聞いておいてなんだが、仮にも組織の敵に対してもう少し警戒心を持って欲しいと思ったのは、内緒。 竜一と入れ替わる形でソラの守りに入ったリルを狙った『魂食み』に対し、智美の竹箒より伸びた気糸が、千々に分かたれてその身を締め上げた。 が、神秘防御の能力も高いとされた敵である。呪縛の状態異常を除けば、大した意味は無い。 それで良かったのだ。 「悪いな、もふもふを堪能したい所だが……」 動きを止められた『魂食み』に対して、前に出たのは竜一だった。 「――今回の俺の目的は、お前じゃない!」 散々防御に回らされた鬱憤を晴らすように、双手に構えた剣が唸りを上げる。 120%、双連。 二条の斬撃を受けたことで、その身が終ぞ――停止した。 ● 「……えっと~、目的のアーティファクトって、これですか~?」 「ああ! そ、それです! 有難う御座います!」 戦闘後、リベリスタらは当初の予定通り、智美のアーティファクト探索を補助していた。 目的とされた場所は戦場からさほど遠くなく、少し探索した程度でユーフォリアがあっさりと見つけ出した。 智美は嬉しそうな顔でそのアーティファクトを受け取ろうとして……横からそれを取った竜一に、きょとんとした視線を返す。 「これがほしいならば渡そう。だが条件がある。俺と、ここで約束をしてほしい」 「――――――」 真摯な表情をして、智美に語りかける竜一。 当然だ。彼にとっての『本番』は、この時だったのだから。 「君はフィクサードだ。約束を反故にしても不思議じゃない。そして俺は強制もしない。 ただ、信じるだけだ。君を。君との約束を」 「……それは、一体」 至極真剣に語る竜一に対して、智美も気圧されながら、問う。 頷き、竜一は朗々とした声で言いはなった。 「約束しておくれ。これからずっと……シマパンを穿き続ける、と!」 「……」 「……」 「……えっと、えー………………」 リベリスタの刺すような視線をものともせず、堂々と胸を張る竜一に対して、智美は彼の考える方向とは別の意図で顔を赤くした。 「……下着は、ラインが出来てしまうので、その」 「え、つまり履いてな」 「言わないでくださいよう!?」 全力で泣き顔であった。 流石にそれ以上いけないと思ったソラがライトニング腹パンをかましてアーティファクトを強奪し、智美にそれを差し出す。 「お疲れ様。はい」 「うう、ありがとうございま」 受け取ろうとした手を、ひょい、とかわすソラ。 「……」 「……えと、ありがとうござ」 ひょい。 「あ、ありが」 ひょい。 「イジメですか!? アークのリベリスタさんって私達以上に陰湿ですよこれ!?」 「はいはい」 満足したのか、ぽい、と呆気なくアーティファクトを渡すソラの顔は、何処までも悪戯気な笑顔である。 それを見守っていた珍粘らも、此処で小さく礼をして、別れの言葉を告げる。 「お元気で。アークに手助けされた何て肩身が狭い思いをしそうですけど――まあ、馬鹿正直に全部報告とかはしないでしょう?」 「え、しますよ。勿論。手伝ってくださった皆様ですもの!」 「……」 生ぬるい笑顔を浮かべる珍粘をフォローするように、彩音が智美の肩を叩く。 「あー……報告の際に、アークが介入したけど出し抜いて手に入れました、というといいよ。『貰いました』よりは外聞がいいし……ね?」 「いえいえ、そんな! 恩人の皆様方にそんな失礼は出来ません! 何より私一介の『雑用係』ですから、成果以外の報告は大抵スルーされてしまってるんで!」 ――酷く寂しい言葉を聞いて、彩音までも可哀想な子を見る目になってしまったのは致し方なしと言える。 「……まあ、依頼受けまくるのもいいけど、自分の身体は大切にしろよ。 それととりあえず、良かったらアドレス交換しないか?」 「はい?」 問い掛けたエルヴィンに対して、智美がはて、と首を傾げる。 それに対し、彼は爽やかな笑顔で言ったものだ。 「なに、可愛い子をナンパするのに理由はいらねぇだろ? リベリスタとかフィクサードとか、些細な問題だよ」 勿論、デートのお誘いも歓迎だよ、と言う彼自身には、端から見ても悪意の類は一切感じられないが――話しかける順番が悪かった。 「……あ、アークの男性の方って、こんな、総じて女性にこう、アレなんでしょ」 「はい」 「肯定が早い!?」 速攻で頷いたリルに大きくビビる智美ではあるが、流石に悪い人ではないと判断し、エルヴィンに電話番号を教えた。 「……ええと、それでは最後に改めて。有難う御座いました!」 ぺこり、とお辞儀をした彼女に対して、挨拶を返す一同の中、リルはクスリと笑って、彼女にだけ聞こえる声で言った。 「次会ったら、楽しく喧嘩したいッスね。『先輩』」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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