●一カ月前 「なあ、おまえ、わたしと付き合いたいとか言ってる奴」 「あ、はい」 「あのな、身の程を知れって、ほんと。わたし、こーみえて異世界から来てるからね。人間じゃないからね」 「そういう所もいいかな、って……」 「は? ほんと止めてくれる?」 「あ、はい」 「いや、ほんと身の程を知れって、マジで。人間超越してるからね、わたし。おまえみたいなボトムの人間とか、話になんないから」 「あの、そういう感じの所が好きなんです」 「は? 気持ち悪いんだけど?」 「あ、はい」 「あのね、この時間も惜しいワケ、わたし」 「はい」 「だからさ、わたしと付き合いたいって言うんなら」 ぷいと顔を横に向けた。長い黒髪が揺れた。 「あの彗星消して見せて。出来たら結婚してあげる」 ●一か月後 「なあ、おまえさ」 「あ、はい」 「彗星消すことないじゃん」 「いや、それは……」 「マジで彗星消すことないじゃん。どうすんのあれ。楽しみにしてた全世界の人の気持ち、考えたの?」 「だって消したら結婚してくれるって……、というか正確には『僕』が消したってわけじゃ」 「思ってないじゃん。本当に消すとか思ってないじゃん。婉曲表現じゃん」 「難しい言葉知ってるね」 「うるせーよ」 「あ、はい」 「とにかくだ」 ぷいと顔を横に向けた。黒いスカートの裾が揺れた。 「アレも消せたら、結婚してやる」 『かぐや姫』を連れ戻す、その従者。 ●ブリーフィング 「まあ、アザーバイドって、なんでもアリだけど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が先に予防線を張った。 「どこの竹取物語よ。一体。信じられない思考だわ。ボトムに持ち込まないで頂戴」 「……いや、俺に言われても」 憤慨した様子のイヴを見て、リベリスタは頬を掻いた。 「まあ、その男の子の方は健気じゃん。俺はこういう気概、嫌いじゃないけどな」 「ええ、意中の女の子を口説くために彗星を消してやろうとか、屈強なアザーバイドを倒してやろうだとかいう無謀な姿勢には、私も一定の評価はしているのだけれど」 「嫌ってるじゃん。それ。一定の評価って、嘘じゃん」 「大体なに、この、ツ……、ツン? ツンデ?」 「ツンデレ?」 「ツンデレ。もうゲシュタルト崩壊も良い所よ。常にゲシュタルト崩壊よ」 「俺はゲシュタルト崩壊がゲシュタルト崩壊してるよ」 「詰まらない返しは止めて頂戴。ゲシュタルト崩壊がゲシュタルト崩壊してるだなんて在り来りな返答の所為でゲシュタルト崩壊がゲシュタルト崩壊してるのがゲシュタルト崩壊してるわよ、私」 「詰まらない返しをしてしまったのは申し訳ないんだが、それじゃ、詰まる所?」 「アザーバイド四体の処理と男子高校生一名の保護宜しく」 あ、あと女子高校生的アザーバイドは一度だけエリューションにだけ効く彗星的なモノを降らせるらしいから、気を付けてね。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月25日(水)22:47 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 顕現した上位の魔術。ボトムの世界における神秘、常識の類を一切裏切った、一つの奇跡。 その街を、二人の男女を、三体の従者を、そして八名のリベリスタの頭上に妖しく輝いた、斜陽の彗星。『輝夜姫』に与えられし、たった一晩の魔法。導かれるように追憶する、悲哀に満ちた魔法。 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の裏腹な表情は満足そうに笑みを浮かべて、凛と弓を構える。その堕ち逝く星へと目掛けて。 轟音が街を包む。彼女にとっての敵性エリューションにだけ作用するというその召喚は、その凄まじい魔力により世界に影響を与えつつある。雲海を抜け、大気を斬り裂き、ついにその本体を現す。 蒼い炎を纏った巨大な欠片。街灯が点き始めた街を、一瞬で真昼のように明るくさせるその質量。 「……」 艶やかな黒髪を靡かせる輝夜は、何も言わない。その悲しげな目だけが、『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419) の先に居る鍛冶屋を視界の端に定めた。一度発動すれば、輝夜でさえ制御不能の彗星は、落ちてくる間にもその巨体から分かたれるように破片が飛散し、まるで星々が空一面に煌めいた様にリベリスタたちの頭上を彩った。 「……」 鍛冶屋はその視線に、輝夜と、輝夜の背景にその彗星を見た。その恐ろしさを、非覚醒者である彼には十分に感じ取ることは出来ない。だから、その凶悪なまでに幻想的で美しい光景に、見蕩れた。 見つめ合う人間とアザーアバイド。 見つめ合う二人の男女。 見つめ合う男子高校生と異世界の姫。 瞬いて降り注ぐその碧い流星。 「まあ、アレですよ」 リベリスタたちが一斉に構える。その幻想を打ち抜くために。 「スターサジタリーっていう位ですから、彗星の一つぐらいは墜としてみたいじゃないですか」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の銃口がその中心に標準を合せた。 彼らを包む上位世界の炎が、目の前へと迫っている。 ● 「よっと」 ぽん、ぽん、ぽんと軽やかにステップを踏みつつリズミカルに赤いコーンを設置した『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は抱えていたそのコーンが無くなると、無駄の無い動きで次にロープを張り、すぐに結界の処理を始めた。 ぼうと青い印円が浮かび上がり、即座に連なっていく。通常の結界を凌ぐその神秘が、リベリスタらを、二人の男女を囲んでいく。 『ロストワン』常盤・青(BNE004763)がその後をせっせとついて行き、立て看板を立てていく。神秘を秘匿すべし、という『アーク』リベリスタの一般市民対策としては重々に念を押した非常に高い完成度であろう。 市街中央。道路に佇む鍛冶屋と輝夜。そして輝夜の後ろに控える三体の従者。 「ん?」 輝夜が怪訝な顔をして、従者が動いた。彼女を連れ帰るために現れた彼らは、しかし、正しく彼女の従者である。連れ帰るというのは『無事に』連れ帰ることが求められていて、その扱いには最上級の注意が必要だった。そして、それに耐え得る精鋭たる三体だった。 「その試練ちょっと待った!」 七海の声に、けれど彼らの動きが一瞬止まった。それは詰まる所、間の様な物であって、それを絶妙に外された彼らは、だから、隙を作った。 「君! その決意や恋路は応援するけど少しだけ待ってくれ。マジでビンタ一発で死ぬから君」 そして、と七海はくるりと体の向きを変える。 「彼女さん。ここにいる誰もが後悔しないように少しだけ話を聞いて頂けないでしょうか?」 素なのか作られたモノなのか、恭しい七海の言葉に、輝夜は再度、怪訝な表情を見せた。 「なに? あんたら? そんでその、変な印」 気怠そうな口調からは想像できない鋭い眼光が、とらの視線とぶつかった。一瞬でその結界を見破ったことに内心で若干の感嘆を感じたとらは、その感情は一切表に出さず、むしろ軽く手を振った。 「ハァイ、輝夜さんだよね? うちら混乱を収めるために来たんだ、ちょっと状況を整理しよっか」 「こら、質問に答えなさいよ」 輝夜が不満そうに声を上げたその時、 「……っ!」 黒服に身を包んだ細身の男、その握られた刀が突如として突きあげられた。 鈍い音が続いて、それが肉を断つ際に放たれるモノとは違うことを確認した後、『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319) の盾がぎんと従者の刃を押し返した。 「惚れた女に気に入られる為に命がけで戦おうなんてなかなか骨のある奴じゃねぇか、少し手助けしてやるぜ」 まるでアガペーの代弁者と呼んでも過言ではない(自称)『愛の探究者』らしい言葉だが、ますます輝夜の表情が曇っていった。 「あー、そう。わかった、わかった。で? じゃあ続きをどうぞ」 とらがにこりと笑った。 「本当は二人を応援してあげたいけど、ボトムに居続けるにはフェイトがないと、この世界は崩界してしまうんだ。輝夜さんには、残念ながらそれがないんだよ」 まず初めに、それはぺたんと尻餅をついた形になっている鍛冶屋に向けて。 「鍛冶屋君の故郷、壊したくないよね?」 そして次にそれは、輝夜に向けて。 「―――試すのはやめなよ。今ここで大事なものを守るも傷つけるも、輝夜さんの心一つだよ……どうする?」 その言葉は際限無く優しく、そして残酷だ。そして輝夜もその言葉の意味を明確に捉えた。 その対照的に細く白い指が、髪を擽った。 「……別に、大事なものなんて、ないし」 だからそこからは、理屈じゃない世界の話にならざるを得ない。一人の人間と一体のアザーバイドの、感情の話で説き伏せるしかない。 「彼が試練を克服したら約束を守りますか?」 例えそれが『今直ぐ』でなくとも、貴方は本当に彼を受け入れる気はあるのか? 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の声色は、とらと同様に穏やかだ。そして同様に、確信を突いた問だった。 輝夜の顔がむすっとしたのは、それが鋭利な質問だったからではない。彼女にとってそれは大した問題では無かった。原因は火を見るより明らかで、ただ単に彼女の性格上の問題だった。『ツンデレ』の二つ名は伊達では無い。そのアザーバイドは御し難い。何故なら彼女が『ツンデレ』であるからだ。その四文字は、リベリスタたちを簡単に赦しはしない。有史以来の数多の記録が、その結果を記録している。多くの戦いが、『ツンデレ』の前に敗北した。忌避すべきその存在を、真正面から捉えてしまった。 「―――べ」 輝夜の口が開いた。その一言を言わせては駄目だ。『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は考えるより先に、黒服の男の肉薄に応戦する。剣筋は悪くない。むしろ、良い。別の意味で忌み嫌われるその二つ名を持つ魔女が作った、深紅のトンファーが高い音を立てた。ちらと後ろに目線をやると、鍛冶屋の前に立つ『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)の姿が見えた。 沙希の姿は、普段の彼女のそれとは大きく異なっていた。鍛冶屋の目が思わずその姿を追った。 どこから見ても『清楚な女子高生』。それは彼女自身にも、そしてスキルにも起因する見事な変装だった。少し話し掛け辛い雰囲気までが輝夜にどことなく似ている。 「別に、そいつのことなんか、好きでもなんでもないんだからね」 『その言葉』を輝夜は言ってしまった。鎖は解かれた。 ● その男の子は何時だって『平凡』な生活と言うわけでは無かった。人並みに波乱があって、ドラマがあった。けれど、問題はその感情の方で、詰まる所、鍛冶屋少年は『集中』という概念を知らなかった。 概念は何時だって難しい。概念の『概念』を説明できる者が、一体どれだけ存在するのであろう? 『集中』という言葉は二面性を有している。否、全ての言葉が二面性を有している。今、彼が何かに『集中する』ことは、逆説的に、何かに『集中しない』ことを意味している。彼が極致の『集中』を示すとき、同時に、精到な『排除』を示すだろう。従って、『集中すること』と『集中しないこと』には奇妙な同義性を見出すことが出来る。もっと踏み込んでいえば、『集中すること』も『集中しないこと』も何ら変わりなく、同一の事象を示す。 多くの芸術家も彼らの『作品』に込めてきたそんな『オマージュ』は、鍛冶屋少年にとって特に重要な事柄であった。彼は生まれてから今に至るまで、何かに『夢中』になったことは無かった。それはいつだって何かに『夢中』になっているという、残酷な事実だけを浮かび上がらせる。 だから、その無害そうな顔立ちで、ちょっと不可思議で、けれど途轍もない美しさを見せる彼女に『夢中』になったのだった。そうして、全てを『無視』した。自身の命さえも。 だってそれが、彼にとっての歪な初恋だったから。 ● 実らない恋だって、それはそれでロマンチックじゃない? 夏栖斗はその言葉を飲みこんだ。鍛冶屋の表情を見てしまったから。『神秘は秘匿すべし』の原則を破ってまで見せているこの戦いを眼前にして、彼は立ち上がったから。 びゅんと風切り音が耳元で大きく鳴った。従者の刀が、夏栖斗の耳を掠めた。上位世界の姫を守る従者としては申し分ない。夏栖斗の口元がにいと吊り上った。 「―――立ちあがった人間には『戦う覚悟』が背負わされている。『戦う』ってのは、何時だって『力で捻じ伏せる』ことだけを指す訳じゃない。けれど、きっとそれは何かを『斬る』はずだよ。それでも」 君が立つというのなら。 そこからは『僕たち』の領域の話になる。 「それでもまだ輝夜の事が好きで諦められねぇってんなら、俺はおまえを応援してやりたい」 夏栖斗が組んでいる従者に、吹雪が加勢した。力強い剣筋がきんと甲高い音を立てて残響する。 「分かれろ、行け」 その従者が初めて声を発した。思っていたよりも高く線の細い声が届くと、残り二体の従者もそれぞれ動き出す。『姫』を連れ戻すための障壁を取り除く義務が彼らには課せられている。 モニカの火器が金属音を鳴らして構えられた。次に、連続的に乾いた音が続いて、その従者たちを牽制する。 「ほら、あんたも―――鍛冶屋も、もたもたしない! トロトロしてない、とっとと避難する! 庇ってあげるから!」 沙希の声に、鍛冶屋は「は、はい!」と返事をしてその場をから退く。 モニカの掃射に続いて、七海の火矢が従者らを襲うが、遂に自らも動き出した輝夜の攻撃に隙を作った。それに無理も無い。輝夜のその攻撃は、攻撃の準備動作は一切見られなかった。つまりは『念力』と分類されるような神秘。ぼん、と空間が圧縮し、爆発した。 そうして潜り抜けた来た従者の前に青が立った。ぼうとした瞳にその姿が映って、青の大鎌が蠢いた。 「貴女はこの世界にいる限り、この世界からも元の世界からも追われ続ける」 その身から気糸が溢れて、その従者に絡みつく。 「戦う力の無い鍛冶屋さんはそれでも貴女を護ろうとするでしょう」 だから、帰ってください。 青のブロックをもってして、残り一人の従者がそれを抜けた。鍛冶屋を庇うようにして、沙希が構える。 そうして、後ろからその声が聞こえた。 「裁きの光よ……在れ」 その暖かくけれど鋭い光を背に、輝夜へと肉薄する、とらの姿。 ● (私だって) 輝夜はとらから放たれた気糸を弾き返す。 (殺したいわけじゃない) 既にその髪は乱れている。 だからといって。 どうしたらよいのか、なんて、もっと分からない。 「ボトムになんか、来なきゃよかったっつーの……」 悲しい言葉だと思った。互いに相容れない存在だったとしても、そこに傷を仲介させるにしても、最後には分かり合えたら、きっとそれは不幸な出来事ではない筈だ。他人はどこまでいっても他人でしかなり得ないそんな世界の中で、たった一パーセントでも通じる何かがあったなら、きっとそれは幸福な出来事だ。 一際大きな音が響いて、一人の従者が吹き飛んだ。吹雪の剣がきらりが煌めいた。 「だけどな、出会ってしまったことは事実だぜ。『出会えなかったこと』には出来ない」 あったことは、あったことで、それ以上でも、それ以下でもない。 一人崩れたことが大きく形勢を変える。モニカの弾幕がさらに厚くなる。 (―――これは応援せざる得ない) 七海が弓を弾く手にも力が入る。くっつけ。それが今、この時でなくても。 「わかってるわ、そんなこと!」 これだから嫌だ、ボトムの『人間』とやらは。 ちらりと離れた所で沙希の背に居る鍛冶屋の姿を捉える。 「なんでそんなとこにいんのよ、あんたは……!」 夏栖斗のトンファーが輝夜に迫る。それは殺意の無い優しい攻撃だった。ただし、その優しさが誰かを傷つけることもある。それをよく理解している彼だから、慈愛に満ちた一撃は、反比例するかのように熾烈だ。矛盾を内包する強さは、決して弱さでは無い。 「ここが引き時と思う。僕たちが君たちの恋を邪魔してるって思ってくれていいから、ごめんね。今は君たちの世界に帰ってくれないかな?」 「―――誰が、恋だ、ばかやろー」 輝夜の腕が畝って、周囲を斬り裂く。 もういい。 昏い夜がやってきた。満月の月が、彼等をよく照らした。今日はこんなにも素敵な夜だ。 輝夜の中に渦巻く混沌とした感情が、彼女自身を責めた。だってそれは。 歪な初恋、だったから。 「消えろ……全部消えろ!」 その言葉に驚いたのは、むしろ『従者』の方だった。彼らは輝夜の変化に気が付いた。 「輝夜様、何を……」 何が敵で、何が味方かなんて、物差しは何時だって曖昧だ。 輝夜が敵とみなせば、それはその『奇跡』の前で消え去ることを意味する。 教えろ。私に、教えろ。 「貴女が自分自身を許せないのなら、とらが許してあげる」 「は―――」 月の光が、はたと消えた。世界は闇に包まれた。そう感じるのは、エリューションとアザーバイドだけ。覚醒していない一般市民には、それを感じることは出来ない。 堕ちる月。落ちる彗星。 顕現する、上位の奇跡。 ● 「約束しよう」 輝夜の雰囲気が変わった。彼女は、とらとシエルを見た。 「いつか必ず誓いは守る。その代わり……」 背後には星。命を燃やし尽くす、原始の構成物。 鍛冶屋は思わず目を瞑った。非覚醒者の彼には、その姿を完全に捉えることはできないし、巻き込まれることも無い。しかし、確かに彼には視えていた。落とすべきその彗星の姿が。そして今度は、それが『偶然』で消え去ることのないことも。 「目を閉じるな」 沙希の声に、鍛冶屋は驚いたように目を見開いた。 「見なさい。あなたがそれでも好きだというのなら」 なんて綺麗。沙希は一歩前へ出た。重要な問題は『鍛冶屋の保護』の外に出た。 自分にはあの神秘は撃ち落とせない。だけれど、出来ることはある。 だから、前に立つ。 輝く光の下、モニカの口が歪んだ。それは同僚の誰もが気付かない様な小さな微笑み。 「モニカ様……お手伝いしても良いですか?」 その蒼い光に照らされたモニカの顔が、シエルの言葉に頷いた。 「これができないようなら名が廃る」 七海がうーんと背伸びをする。その眼だけが真剣に、そして楽しげにその星を見た。 ―――さあ来いよ。その不満の塊くらい撃ち砕いてやる。 「彗星を、消してみろ」 (求婚者に無理難題を押し付ける竹取物語の中の『かぐや姫』も) 青はその姿を収めて、そんなことを思った。 (見様によってはツンデレなのかも) ●神秘vs.神秘の行方 「―――撃ち抜け……!」 七海の声に呼応した高位の魔力が塊となって打ち出される。迎え撃つのは、一つの生を終えた星。 直撃。轟音と共に、その身が削られる。落下する破片を残る二体の内一体の従者のブロックに入る夏栖斗と吹雪が破壊した。 「次!」 猶予は十分に与えられていない。 シエルがその書を構えるのと同時に、とらの杖が振られる。 神秘対神秘。二人の放つ魔力風はその彗星を削っていく。崩れゆくその彗星は、もう目の前にある。 「次だよ!」 謂われるまでも無い。既に照準は定まっている。 ここに、星は堕ちる。 その名が呼ばれた時から、これはきっと約束の邂逅。 それは、星を穿つ者。星々の射手。 引き金が引かれ、最高精度の魔弾が放たれる。その存在を否定する、死神の魔弾―――。 一際強い閃光が街を包んだ。 ● あくまでこの世界での一般論ですが。シエルは予防線を張って、言った。 「想い人に好かれたい時、女は『無意識』に擬態します。……相手の好みに」 輝夜にはその言葉を受け入れるだけの素直さは無かったけれど、その一言は、確かに彼女の奥底に刻まれた。 だから、こんなアザーバイドと人間との出会いも、全くの無意味で、不幸だというわけでもないのであろう。 「またゲートが開いて輝夜がフェイトを得られる可能性だって0じゃねぇんだ、そんなに好きだってんなら絶対に諦めるな、可能性を信じろ」 鍛冶屋はその言葉の半分も理解できなかったが、吹雪の言いたいことは何となしに伝わった。 (かぐや姫は月に帰り、求婚者は月を見上げて彼女を偲ぶのだろうか) ぽんと彼女らはそのDホールへと放り投げられた。その姿を月へ帰る彼女と重ねるのは難しくない。 けれど彼女は、約束は守るのだと言った。それだけでいい。 それだけでいい。鍛冶屋はそう思った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|