●踊れ ロンドン地下鉄。 それはロンドン行政区の中心、通称グレーター・ロンドンの地下に広がる巨大鉄道の事だ。歴史上、ロンドン地下鉄よりも古い公共鉄道は存在しないという面白い話がある地だが――まぁそれは置いておこう。 今重要なのはソレでは無く、そのロンドン地下鉄内にて起こっている“事態”であるが故に。 「貴様――! 倫敦派か!!」 男の声が響いた。だが、響く声はその一種だけでは無い。 複数、いや、無数。全てが“悲鳴”と言う名の狂気に包まれている。なぜならば、 「こんな所でキマイラを使うなど……正気かッ!? 一体何人、無関係の者がいると思っている!!」 そう、エリューションが暴れているのだ。 水の塊のような、汚い色をした巨大な存在が駅のホームで暴れている。目に付くモノを片っ端から標的に。一般人も。設置物も。壁も天井も関係無く。全てだ。 故に男は――ヤードのリベリスタは声を荒げて、言う。 こんな状況下においてすら“初めから事態を理解していたかの様に”冷静な者へと。 「何か、勘違いしている様だが……」 椅子に座っていた、女が一人立ち上がる。 ゆっくりと。男に目線を向けつつ、 「私は知らんぞ。それにだな、貴様らの方に通達は行っている筈だが?“我々は無関係である”――とな」 「何が無関係だ詭弁を弄すな……!」 この状況のどこに“無関係”などという言葉が通じる要素があるのか。詭弁もいい加減にしろ、と憤怒の表情を携えて。男は“倫敦の蜘蛛の巣”の一員に声を放つが、 「ふむ。詭弁か」 顎に手を当て、悩む様子を見せる女―― 瞬間。そこへキマイラからの攻撃が叩き込まれる。 寸での所で、奇跡的にも、上手く躱わせた。壁が破壊されているが、女には傷一つない。いやぁ危ない所だった。 「……今のはどうかな? こいつらと関与があるのなら、こいつらが私に攻撃を仕掛けてくるなどあり得ないだろう? この状況こそが無実を、引いては私の言が“詭弁”で無いと証明していないかな?」 「こんな程度の何が無実で、詭弁で無いと……クッ!?」 まだヤードの男は言葉を捲し立てたい所だったが、キマイラの攻勢に余裕が無い。今はとにかく一般人を、ロンドンを守らねばならない。 「さぁ。踊れ踊れよヤード諸君。 ……あぁそれと、キマイラがどうであろうが我らとお前らは敵同士で在る事、忘れるなよ?」 言うなり女はヤードへ攻撃を仕掛け始める。キマイラは無関係だ。知らぬ知らぬ分からんよ。だがソレがなんであれ、この場でお前達に味方する理由は無いと、攻撃を開始する。“偶然”発生したこの状況を、利用するかのように。 かくして今現在、ロンドン地下鉄は。 悲鳴と、絶叫と、混迷の極みに合った。 ●日本 それは少し前の事。 「改造キマイラの被害に、とうとうヤードも本格対抗を決定したみたいです! ロンドンが、動きますよ!」 『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)がブリーフィングルームにて語ったのは、英国。ロンドンの事だった。 かの地における最大リベリスタ組織『スコットランド・ヤード』。彼らはつい最近現れた新型エリューションの被害に苦慮していた。その被害に関してヤードと対極に位置する『倫敦の蜘蛛の巣』は“知らん”とばかりに関与を否定。するが、そんな馬鹿な話なんぞ誰も信用している訳が無い。 事ここに至って遂にヤードはその重い腰を上げたのだ。本格対抗の決定。及び、その援護をアークに。世界最強組織『バロックナイツ』の撃破経験があるアークに、求めて来た訳だ。 同じく、バロックナイツに所属する『モリアーティ教授』との闘争を。 「どうやらヤードは、キマイラの影にいる蜘蛛の巣を捕捉出来る可能性を見出している様ですね。それが具体的にどういった手段なのかは分かりませんが……とにかく。彼らは短期的であれ救援を求めてきました」 そうして、アーク上層部としてはこれを承諾。戦力の投入を決定した訳である。 「万華鏡の届かない地での闘いですので、情報には不足がどうしても生じてしまいます……ヤードとは協力して事に当たって下さい。キマイラは強力な兵器ですし、ね。日本でも、そうでしたし」 そう。キマイラは日本でもそうだった。 そもそも事の発端を探ればロンドンでは無く日本に起因する。キマイラは日本にある六道と言う名の組織に“居た”人間――六道紫杏が作り上げた人造エリューションだ。その事もあってかキマイラという存在は日本でしか確認されていなかった。 しかし彼女は失敗した。アークのリベリスタ達の活躍により、キマイラによる攻勢研究は失敗。多くの配下を失い、六道の立場を追われ、英国に亡命したのだ。 彼女の師に当たる存在。モリアーティ教授の下に。 「教授と関係のあった人の研究が日本から英国に移動して、それが今度は英国で大勃発! 蜘蛛の巣はこれに“知らないもーん”って言ってるわけです―― わぉ! 凄い偶然ですね! 知らないなら仕方ない!」 そうだね。無関係ならしょうがないね。舐めてんのか連中は。 「……ただ。蜘蛛の巣は先手を取って動きだしているという情報もあります。 彼らの動きが先か。こちらが先になるかは分かりません。ですが……」 闘いの時は、そう遠くない事を覚悟しておいて下さい。 そう言って、彼女はリベリスタ達を送り出す。 遠くへ。 異国の地へ。 ――ロンドンへ。 ●ようこそ 『……ジナイダ様。そちらに何名か箱舟の者が向かっております』 耳に届く声は通信で。そうか、もう来たのか。案外早かったな。 これを手遅れとするか、間に合ったとするか。さてそれはどうでも構わないが、 来たのならば仕方が無い。 故に言おう。遠目に見える、一般人の波を超えて、向かってくる者らへ視線を向ければ、 それはたった一言。短き、誰にとも知らぬ。 呆けた惚けた、ご(宣)挨(戦)拶(布告)。 「――Welcome to London.」 ようこそロンドンへ。アークの皆さん。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月21日(土)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●人波 人が群れていた。 などと表現するのは真実と異なるか。実際は足止めをくらっていた、と言うのが正しい。力持たぬ一般人の中に潜み、わざと声を張り上げ狂乱を引き起こし。時には足を引っ掛ければ、狭い通路の中で明らかに邪魔な“群れ”を作り上げるのは不可能ではない。 「だけど……!」 何より潜むのは倫敦に長年潜んでいる蜘蛛だ。陰謀。暗躍。工作など御手の物の彼らが仕込むのならばもはや流れは止まらぬ濁流となる。一律では無い動きの中に潜む小は尚の事に見つけにくく。 故に。本来なれば人に隠れし蜘蛛の襲撃を覚悟せねば成らなかった。 彼が、 「そうはいきません――! 燻り出します!!」 彼が。七布施・三千(BNE000346)がいなければ。 その一挙一動に視線が集まっている。不思議な力に包まれた様に、ある“特定”の人物達を除いて。その場に居る一般人達を、恐慌に染まりし為に一瞬だが――それでも視線を己に集める。 ある“特定”の人物達。E能力者を除いて。 「クッ――これ、は!?」 「ッ!! 見つけましたよ……ソコです!!」 三千の目が捉えている。ワールドイズマインの効力が及んでいない人物を。ほんの僅かとは言え大多数と明らかに違う動きであるのならば、視える。残念ながら物理的な人の波に阻まれて全員確認出来たのか確証は無いが。それでも視えた。不審な連中が。 「甘いな。そこか」 それを確認と同時に往くのは『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)。 飛ぶ。群衆の中を跳ぶのではなく言葉の通りに、宙を飛ぶ。三千が初手即座に放った翼の加護の効果だ。純粋に混乱を起こす為と、アークが間に合った時の為に用意していた“壁”が意味を成していない。 手に持つ刃を対象へ。投げ放つように一撃斬り与える。 「擬態でも姿消しでもなんでもやってみろ。全て等しく暴いてやるよ」 彼の眼には幻想を潰す能がある。例えステルスでE能力者である事を隠していようとも無駄だ。その眼には暴かれる。何もかも何もかも。神秘であるのならば一切合財関係無い。砕く砕く砕く。砕いて放つ。己が成す、神罰を。 「……なんだと? あの群衆の中から発見された……?」 「いよぉぉぉお!! 大根役者ァ久しぶりだなッッッ!」 呟くジナイダの視線は一般人の先、アークのリベリスタ達だ。 まさか即座に潜ませた連中を看破されるとは思ってなかったのだろう。近場のヤードに剣撃を叩き込みつつ思わず視線を動かした――瞬間。『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が飛び出して来ていた。 一般人の波の上を超えて、一直線に視線はこちら。ああなんだ見覚えがあるぞ。貴様は、 「前は逃がして悪かったなぁ……今度はきっちり駆除してやっからよ。泣いて叫んで喜べやァ!」 「フンッ、喧しい狂犬なんぞ知らんな。東の保健所にでも帰ってろ」 互いに煽りつつ思い出すは一年程前。 かの研究者、六道紫杏との三ッ池公園での闘いがあった日。会った記憶がある。まさか遠くロンドンの地で再開するとは思っていなかったが、その時視た事のある顔はもう一人いて、 「今回の事件……無関係だと。貴女は、貴方達はそう言うのね」 へぇ成程。と言葉を重ねるのは、その“もう一人”。 「冗談じゃない。それが何? イギリス人のジョークなのかしら? ――笑えないわね。まぁ良いわ。そもそも“バロックナイツ子飼いのフィクサード”な時点で……貴女は、世界から切除されるべき存在なのだから!」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)である。放り投げる閃光弾が宙で光り輝けば一般人諸共潜む蜘蛛を燻る。人の数が多い事もあり、被害を与える事の出来ないフラッシュバンでは誰がE能力者なのかまでは良く分からないが――事前に三千の手により判明しているのなら話は別。 怯んだ一瞬の隙を突いて疾走する。潜む蜘蛛に。あるいはキマイラに。皆が往くのだ。 「オレは別に……傭兵なんて興味なかったんですけどね」 『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)の呟きはどこかへと。 何故異国に飛ばねば成らぬ。報酬などどうでも良い。報酬を目的に各地へ飛ぶのは己の根底に反する。 いや、反すると言うのは少し違うか。報酬も何も関係ない。 ただ己はどこまでもどこまでも――自身と妹の暮らす、小さな世界が大事なだけなのだ。 「だけどまぁ、仕方ないですよね」 言われたのだ。応援に来てくれと。 聞こえるのだ。助けてくれと。 ならば仕方ない。ああ仕方のない事だ。 聞こえたのなら――無碍には出来ぬ。 「オレ、一度聞こえた言葉を聞こえなかった事に出来る程器用でも薄情でも――なかったみたいなので」 「では往きましょうか。時間を掛けても仕方なし……言葉は不要です」 水無瀬・佳恋(BNE003740)は短く言葉を切って、宙へ行く。 そう、言葉はいらない。必要なのは事実であり結果であり、敵を討つ理由はキマイラが暴れているだけでも充分なのだから。 ●歓迎 「まったくこりゃ……随分な歓迎だよなぁおい?」 敵が視える。視線の先、進む度にキマイラの巨大さを感じているのは『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)だ。よもやロンドンに到着してすぐにこの様な“歓迎”を受けるとは。 「もうちっと控え目でも良かったんじゃねぇかぁ? まぁ別にいいけどよ! おぅ! ヤード所属の連中だなお前ら!? 俺はキマイラ撃破優先すっからよ!」 更に宙を蹴る。加速に加速を行う様は彼を戦場中枢へと進ませて。20mの距離を動いても尚、そのまま攻撃へと転ずれる勢いへと昇華。逆手に持つナイフでキマイラの身を削る。 「アークか!! すまん、助かる!」 その様子を視たヤードが短くも礼の言葉を。少数でキマイラとジナイダを抑えていた彼らだったが、一般人も守らねば成らぬ状況は流石に苦しかった。そこへ現れたアークは正に渡りに船だったのだろう。 「いいわよ御礼なんて。まぁ要するに――」 人の波を超え、地に着地したのは『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)。同時、 「こいつを速攻で片付けたらいいんでしょう? じゃ、始めましょうか」 放つのは四色の光だ。吹雪と違い全力で移動した後に攻撃は出来ないが、遠方からならそもそも関係無い。 キマイラを穿つ。水の身体が衝撃に揺れて直撃すれば、 「隠れても無駄よッ! どきなさい!!」 ミュゼーヌが潜む蜘蛛の一人を狙い定める。 距離は無い。零だ。ロングバレルのリボルバーを突き付ける様に腕を伸ばして。引き金絞って轟音一発。吹き飛ばす。 流石に一般人が大量にいる場なれば吹き飛ばしの効果も大分軽減されるが、まぁいい。燻り出しの一種であり何よりミュゼーヌの狙い自体はキマイラが優先だ。蜘蛛を少しでも一般人から突き放せればそれでよく、 「その人の隣もフィクサードです! 気を付けて下さい、狙われてますよ!!」 何より潜んでいる者らに関しては三千が覚えている。 瞬間記憶で一度視た顔は忘れない。例え一秒だろうが一瞬だろうが関係無く。視さえすれば覚えている。 「E能力者だというのは意識して見れば分かる筈です。ただ、ステルスがあるのなら話は別です! 注意を怠らないで下さい! 彼らは、まだいるかもしれません!!」 とにかく警戒を。警戒を彼はし続ける。 仲間に注意を促すのはその意思の表れだ。と言うよりも、この場に置いて視えぬ場所から一番狙われる確率が高いのは一般人の注目を集めた彼でもある。己が狙われるかもしれない、と言う注意は常に持ち。その上で味方にも言葉を飛ばす。癒しの力を皆に付与しつつ、努々油断せぬ様にと。 「たっく、しゃらくせぇんだよ! チマチマチマチマ隠れやがって! 下手糞なすっとぼけ方するコメディアンならもうちっと前出てきたらどうなんだ! 笑いとってナンボだろがテメーら!」 そして火車も感情探査で彼らを探る。敵意でも感じ取れればそれで十分と思い、しかし残念ながら感情探査では有効な効果は出なかった。近く、大量の一般人が団子状態に密集している、となるとどうしても探査の効果はおぼろげ。 敵意や悪意。感じぬ訳ではないが多数の恐怖感情で埋め尽くされた場では発信源はおろか方向性すら分からない。だから、 「ていうかテメーら臭ぇ! 臭ぇんだよ、キマイラ除けスプレーでも常備してんのかぁ!? それともなんだ? 只の体臭かァ?! 風呂入れよ不清潔害虫共!!」 「だからギャンギャン吠えるなと言っているだろう。躾のなっていない野良犬が」 目の前に存在する明確な敵意。いや“敵”であるジナイダの殺害に専念する。逃走を防ぐべくブロックしつつ炎の拳を繰り出して。迫る蛇腹剣の切っ先にも臆する事無く前へ進む。一撃を。逃がさぬとする明確な一撃を叩き込む為に。 ――その時だ。ジナイダを相手取る火車を、横からキマイラが襲撃したのは。 水の車輪が五つの方向に飛ぶ。中に不純物を伴った高圧縮の水塊は凶器という他ない。“偶々”“偶然”ジナイダを除いたジナイダの周辺にいるリベリスタ達に一斉に降り注がれる攻撃は、もう、なんというか。こう、 「……幾らなんでも露骨すぎるでしょう。これでもまだ、無関係と言うのですか」 「何の問題がある? 偶々私が標的にならなかっただけだろう。だから言うさ“知らん”とな」 茶番に過ぎる、と佳恋は思うが。もうこれこそ口に出しても無駄だろう。 気を取り直し、体内の闘気を増幅させて敵に向かう。ジナイダのAF効力により攻撃力増加の恩恵は受けられないが、気の回復と病を無視する力はそのまま。充分に効果はある。 そうして狙うはジナイダ。白き剣を携えて、全身の力を一点に集中。無関係の戯言をまだ言うならば、 「なら――こうなら、如何なのでしょうか?」 剣撃一閃。吹き飛ばしの効力を叩きつける。 どこへ飛ばすか。目標地点はキマイラど真ん中が至上だ。そこへ行っても尚攻撃されなかった時何と言い訳するのか。 「成程、見物よね。貴女が本当に攻撃を“自分”で避けているのか試すいい機会だわ」 故にミュゼーヌも。キマイラが飛ばしてくる水塊を寸での所で視切って接近。 再び零距離で射撃を放つ。目的は佳恋と同様に、ジナイダ側に吹き飛ばしを行おうと言う訳だ。 前から後ろから波状の如く畳みかけられる吹き飛ばしの一撃。以下に防御的に進めようと、何度も凌ぎ切れる物では無い。距離は狭まり、もはや至近と言って問題ない程の距離になれば、 「話に聞いてはいたがな。主が造りし存在をこうも弄繰り回すとは胸糞悪い」 ついぞ口調の荒くなる聖が刃を構えて。 「神罰代行。創造物を弄繰り回したお前らにも罪はある。纏めてブッ潰してやるよ異端共……!」 「ちょっと派手にいきますが――ま、神秘の秘匿はヤードの皆さん頑張ってくださいね」 魔力を帯同させた聖が放つ刃に、真昼の全身から伸びる気糸が一斉にキマイラを襲う。特に真昼の放つ攻撃は視界の範囲に収まったジナイダすら射程に収めれば纏めて薙ごうとした―― 瞬間。キマイラが射線を遮った。 ジナイダに届こうとした気糸を防いだのだ。キマイラが明らかに庇っている様子である。百歩譲ってもこれは、 「確定ですよね。これは、オレが思考するまでも無い。まだ阿呆な事を述べ続けますか?」 「…………フンッ。なんとでも捉えるが良い。 別に何も問題は無い。“偶然”と言い続けるのも疲れてきた所だ」 それは遠回しな自供か。明確な自白とも言い難いが。 「あぁそうかい。なら意味はこっちで勝手に受け取らせてもらうぜ。 まぁどうであれ、このキマイラもブッ潰して片付けさせてもらうがなッ!!」 速度と連続行動を駆使して吹雪がキマイラに集中攻撃。さすれば、キマイラの身が痺れた様に動きを止める事がある。五つの水塊も、自身周囲を汚水で海の如く巻き込む攻撃も、そもそも動けねば意味は無く。キマイラは十全な動きが出来ぬまま体力を削られていた。 闘いは優勢であった。潜む者にも対処出来て、警戒すれば攻撃もさほどでは無い。このまま往ければキマイラを倒し、返す刀で蜘蛛らも殲滅出来る―― 正にその刹那。誰かが捉えた光景は眼を疑う様な光景で、 キマイラの身が唐突に“弾け飛んだ”。 ●分裂 “ソレ”にいち早く気付いたのはシュスタイナだった。 キマイラの身が妙に一瞬だけ蠢いたと思った次の瞬間にはキマイラが“弾けて”いた。倒したか? いやそれに至るにはまだ手応えが足りていない。ならばまさかアレは、 「まさか分裂――? 皆、注意して! それはまだ生きているわよ!」 叫ぶ。不鮮明とはいえ、届いた情報の中にあった超分裂。それを行ったのだろう。 巨大なキマイラの身は今や三十に別れて。小さくは成ったが数を圧倒的に増している。アークの参入によってリベリスタ有利だった筈の数が一気に覆された状況であり、 「……さて。これ以上は無理だな。そろそろ御暇させていただこうか」 「あぁン? 何度も逃がすと思ってんのかテメェ。もうちっと俺らを笑わせてみろよ。コメディアンだろ? ご自慢のテレジアも壊れたみたいだぜ? のんびりしてて良いのか、よッ!」 ジナイダに相対し続けている火車が放つ一撃は、先程から彼女のポケットなど、何かが隠せそうな位置に集中している。キマイラを操れるAF、テレジアがどこかにあると予測しての行動だ。 壊れた否か、放っている言葉は真実ではない。だが反応して間抜けを晒せばそれで良し。反応なくても損は無い。同時、増えた邪魔なキマイラごと殲滅せんと利き腕に宿る業火の炎で周囲を焼く。 ――だが、 「テメェ――チッ! 邪魔だオラァァァ!」 逃走防止のブロックが崩される。ジナイダの逃走を支援するかのように、キマイラ達が一斉にリベリスタらへのブロックを敢行しているのだ。攻撃は届いても致命には至らず、 「元より命まで掛ける場では無いのでね。こうなっては無念だが仕方ない。後は如何様にでもするが良い」 退けぬ場では無い。必ず勝つ必要のある闘いでは無い。故に退く。防御的であるジナイダは初めから逃げの手段を考え、分裂が発動した時点から逃亡する事を決めていた。これだけの数があればブロックも関係無く。あるいは総出で倒そうと動いていれば目はあったかもしれないが。 ホームから線路に降り、全力移動で駆け走る。キマイラの物量足止めを囮に退くのだ。 ロンドンの地下。闇の中へと。 「……逃げましたか。まぁ元よりキマイラの撃滅こそが目的。それよりも――」 「ああ、こうなっちまったら仕方ねぇ。それよりもキマイラの数減らすぞ!」 佳恋は剣を手に、キマイラが一般人方面に向かわぬ様に吹き飛ばし、吹雪はヤードのリベリスタの攻撃に合わせて攻撃を重ねて行く。どうやら分裂した個体は全て一体であった時よりも遥かに弱くなっている様だ。ただ厄介な点があるとすればそれは数と、 「あまり近付き過ぎない様にした方が良いですね……こいつら、己の身を顧みてないですよ」 そう。真昼の言う通り、自爆にも似た破裂である。 何かBSを付与する訳では無い。ただ己の身を削り、周囲を巻き込み、破裂する。それだけではあるがこれだけ数が多いと中々に面倒だ。何よりも、一般人の方へ向かおうとしている個体がいるのが特に面倒くさく、更には。 「アークの諸君! 気を付けろ、潜む蜘蛛はまだいるぞ!」 ヤードの一人から声が掛けられる。一般人は戦闘初期より大分退避出来てはいるが、まだ全てでは無い様だ。その中から声と共に同時、銃撃がアークに向けられる。 「ッ、たく……こんなお子様相手にも大の大人が本気になっちゃって。馬鹿じゃないの?」 「シュスタイナさん! 大丈夫ですか!?」 「まだいたんですか、敵は……! 少しでも被害を与えようと、しつこいですね……!」 狙われたのは背を向けて居たシュスタイナ。覚悟はしていた為に傷は浅かったが、思わず心配する声が聖から漏れる。 知らぬ顔では無い者、その上で自身より幼き者が傷付くのは許せなかったか。すぐに敵の狙いを察知した三千が、皆も纏めて癒しの息吹を顕現させれば傷は塞がり。被害は軽微だ。 「……とはいえ、これ以上好き勝手させ続ける訳にはいかないわよね」 ミュゼーヌが銃を構える。一般人がまだいる“全て”承知でその地点へ。銃を向ける。 心を鬼に。鉄を敷いて。銃に身を寄せ引き金を。 視える限りのキマイラと、潜む蜘蛛に狙い定めて放ち続ける。なるべく一般人に当たらぬ様配慮はするが、万一の時はそれこそ鬼にでもなろう。覚悟はある。彼女には、その覚悟が。 「必ず切除するわ――彼らの様な、世界を蝕む病巣はね」 決意を固め。引き金を再び絞り上げれば、敵は減って行く。元より足止め戦力など時間さえあれば物の数では無い故に。 やがてロンドン地下鉄ホーム付近。ここでの闘いは終局を迎える。 キマイラは全滅し、妨害に残った一部の蜘蛛も死に果てて。ジナイダこそ取り逃がしたものの、戦果は充分である。 地下鉄の一角における闘いは、リベリスタ達の勝利に終わったのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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