下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<倫敦事変>絡み合ういとの秘め事


『御機嫌よう。突然のご連絡、失礼致します。――悪い知らせをひとつ、お伝えしても?』
 常のように淡々と。焦りを一つも感じさせぬ声音が、幻想纏いから漏れる。 『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016) はリベリスタの返答を聞く前に、襲撃だ、と短く告げた。
『敵は間違いなく『倫敦の蜘蛛の巣』です。そして、件の『キマイラ』のエスコートも。……予想通り、彼らの下にはあの『六道の姫君』が居るのでしょう。そして、彼女の手土産が猛威を振るっているのはほぼ間違いない。
 そして、――非常に遺憾ですが、我々は先手を打たれたのだと言う事もまた、間違いないでしょう。流石はかの名探偵と同等を名乗る男です。素直に尊敬の意でも示すのが相応しいでしょうか』
 常の言い回しに僅かに混じる皮肉。霧に紛れ暗躍し続ける蜘蛛。近頃頻発していたキマイラ事件との関連は掴めてはいないものの、倫敦の番犬は半ば本能とも言うべき感覚で『宿敵』の存在を感知していた。
 そして、掴めば逃げるその糸を手繰り寄せる為に手を打ったのだ。『世界で最もバロックナイツとの交戦経験を持ち、彼等を撃破せしめた唯一の存在』である方舟の手を借りた彼らの目的は一つ。己が主戦力を動かす事で『宿敵』を誘き寄せる事だった。
 しかし、敵――かのモリアーティ教授はそれすらも手玉に取らんと、更に大胆な一手を投じたのだ。
『陽動を更に陽動した彼らは、ヤードの本拠地――今、我々がいるこの『ロンドン警視庁』を攻め落とさんとしているようです。実に有効な一手だ。本来ならばこの地に守護者はいない。容易く奪えたでしょう。……『本来』ならば。
 しかし、今は我々が此処に居る。皆さんにご協力願うのは害虫駆除です。乱暴な言葉はあまり好みませんが、そうですね……徹底的に払い落し叩き潰して下さい。この地には巣を張り巡らせる場所などないのだと、その身に叩き込んで下されば』
 くすり、と小さく笑う声。微かに聞こえる足音と共に、男は接敵できると思われる地点を告げる。
『敵は3ヶ所から迫っています。詳細な構成は不明ですが、勿論キマイラも存在するようです。出来る限り早く向かってください。恐らく、ヤードのリベリスタでは長くは持ちませんし、申し訳ありませんが、現在連絡が取れている君達以外の増援は望めません。
 ……嗚呼、勿論私も同行致します。――嗚呼実に不愉快だ、折角の英国だと言うのに、ティータイムも大切に出来ないとは』
 僅かに入るノイズ。化け物の咆哮が微かに聞こえる。それでは武運を、と告げた声を最後に、通信は途切れた。


「ウィル、シャル、犬って美味しいのかしら?」
「……さあ。随分と噛みごたえの無さそうな餌だとは思うが」
「犬だけならそうですが、『あの』方舟もいると聞きました」
 けたたましい泣き声が鼓膜を揺らす。異形を従えた少女と男、そして性別の読み取れぬ細い姿が目前の建物を見上げる。ロンドン警視庁。長年の『宿敵』の城。がら空きになるであろうはずの其処にはけれど、何時もとは違う敵が存在しているのだ。
 方舟。何時か日本で刃を交えた敵を思い出して、少女はくすくす、と笑い声を立てる。またお会いできるのね、なんて笑って見せるその瞳はけれど酷く冷ややかで。
「まあ、どんな敵がいたって問題無いわ。蜘蛛は蜘蛛らしく、絡め取って、捕まえて、静かに静かに喰らい尽くすのがお仕事だもの」
 派手に攻める者がいれば密やかに動く者があり。両者の狭間を縫うのが自分達の仕事だ。少女が、仲間を振り返る。ぶつかる視線。それでは御機嫌よう、なんて場違いな挨拶をひとつ。
 何処かで聞こえる戦闘音を楽しみながら、蜘蛛は軽やかに番犬の家へと滑り込まんとしていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月21日(土)22:50
兎に角戦いましょう。
お世話になっております、麻子です。
以下詳細

●成功条件
『倫敦の蜘蛛の巣』フィクサードの撃破もしくは撤退

●場所
リベリスタ組織『スコットランド・ヤード(以下、ヤード)』本拠地、『ロンドン警視庁』外周各所。
時刻は夕方。周辺警備に当たっていたリベリスタは既に死亡しています。
リプレイは敵遭遇時点から開始されますが、万華鏡等の正確な予知が無い為接敵予測は不可能であり、その影響で『事前付与・準備不可』です。

●A班
『Nemain』アリス・メトカーフが率いる部隊
クロスイージスに加えジョブ不明フィクサードが一名、キマイラ『嘘泣バンシー』が存在

・『Nemain』アリス・メトカーフ
フライエンジェ・マグメイガス。テクニック高め
シルバーバレット、魔陣展開、天使の歌を所持している事が分かっています
『<三ツ池公園大迎撃>甘くて苦い、聖夜の逢瀬』に登場していますが見なくとも問題ありません

・キマイラ『嘘泣バンシー』
研究によって生み出された人工エリューション。フェ―ズ2
どろどろとした液体を頭からかぶり引き摺る女性の姿をしています
常時リジェネレート大。フィクサードの指示に従います
詳細な能力は不明ですが、範囲系攻撃を得意としており、特にその泣き声による強力な全体攻撃を所持しているようです。


●B班
ウィリアム・マッカルモントが率いる部隊
キマイラ『ブリューナク』に加えてジョブ不明フィクサード二名が存在

・ウィリアム・マッカルモント
ビーストハーフ(狼)×プロアデプト。特徴不明
前後衛共にこなせるらしいとの報告が上がっています

・キマイラ『ブリューナク』
研究によって生み出された人工エリューション。フェーズ2
穂が5本に分かれた灼熱の槍であり、その至る所に血走った眼球がちりばめられています。
常時リジェネレート大。フィクサードの指示に従います
詳細能力は不明ですが、貫通攻撃を得意としているようです。

●C班
シャルロット・クウォークが率いる部隊
キマイラ『嘘泣バンシー』『ブリューナク』が存在

・シャルロット・クウォーク
ジーニアス×ダークナイト。前衛型。
所持スキル等不明。恐らくダークナイトRank3までのスキルから幾つか所持


*敵は全て『倫敦の蜘蛛の巣』のフィクサードです。
リベリスタは『3つのグループに分かれて』当作戦に挑む事になります。
グループ分けはプレイング記載のものを参照します。統一されてない場合は多数決(誰かに準ずる、と言うものも含めます)で判断しますが判定に影響致しますのでご注意ください

●NPC
竜牙 狩生 (nBNE000016)が同行します。
プロアデプトRank3スキルまでなら使用可能。メインは『プロジェクトシグマ』による支援補助です
ご指定ある場合は【狩生】と書かれた最新の発言を参照します。班分けはお任せしますが、決められていない場合一番少ない場所に入ります

●重要な備考
 1、このシナリオは『本部シナリオ』です。
 2、『ヤード』本部が陥落した場合(戦略点が0となった場合)、戦略上敗北となります。
 3、『ヤード』本部の戦況は『<倫敦事変>の冠を持つシナリオ』の戦況で判断されます。戦略点の増減等は敵・味方の損耗率、実際の戦闘状況等々をSTとCWが総合的に判定します。直接的な戦略点の影響は『本部シナリオ』が最も大きくなりますが、他シナリオも影響します。今後の攻勢の為に必要な倫敦派の情報を取得するという意味では『市街シナリオ』、『地下鉄シナリオ』にやや高いチャンスがあるでしょう。
 4、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
 5、海外任務の為、万華鏡探査はありません。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。

以上です
ご縁ありましたらどうぞ宜しくお願い致します
参加NPC
竜牙 狩生 (nBNE000016)
 


■メイン参加者 10人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ヴァンパイアソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
ギガントフレームデュランダル
富永・喜平(BNE000939)
アークエンジェソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ヴァンパイアホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
ハイジーニアスソードミラージュ
桜庭 劫(BNE004636)


 肌を撫でる空気は、馴染み始めた日本のそれより、そして芯まで凍るような祖国のそれよりもずっと柔らかな温度を保っていた。見上げたそこは曇り空、なんて景色を楽しむ間もなく耳を劈いた泣き声に眉を顰めながら、『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は己の幻想纏いに唇を寄せる。
「――蜘蛛は見つけたわ。後は手筈通りに。……まあ、あんまり無茶な事はしないようにね」
『了解しました。……出来る限り気をつけます、其方も、御無事で』
 ノイズ交じりに返る狩生の声も、即座に戦闘音に掻き消える。分断を余儀なくされたリベリスタはしかし、恐らくは最善の選択と共に各々の戦場に赴いていた。音も立てずに。夕闇に溶けそうな暗色のスーツが駆け抜ける。狙いは一直線。血狂いの刃と銘無き刃が風を切る。滲み落ちる煌めきに目を眇める暇など存在しない。何の躊躇いも無く少女の首元へと振り抜かれたそれが、僅かに逸れて胸元を裂いた。飛び散る紅。そして、背後で地面にぶつかり音を立てる瓶から零れる、同じ色。
「さて。好みの子は居るかしら。居るといいけど」
 まずは目の前のこの存在から。神秘の本場たる英国フィクサードの端くれであろうこの存在は一体どの程度のものだろうか。品定めするように、『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)は瞳を細める。最近は全く満足できないのだ。歯ごたえがないのか、響く程の何かがないのか。そういえば件の猟犬共も左程ではなかった。溜息の様な吐息と共に、獰猛な竜はその首を振って見せる。
「満足させろとは言わないが。失望だけはさせるなよ」
「どうぞどうぞ、この毒味わってくださいませ。この糸に囚われてくださいませ。我らは倫敦の蜘蛛。霧に紛れてきっとその首に毒牙を突き立てて差し上げます」
 薄ら笑う少女のかんばせ、けれど、その笑みさえも凍てつかせるような絶対零度の気配が足元から這い上がる。
「ま、早く終わらせて、美味しいアフタヌーンティでも味わいに行きましょうか」
 胸を過ぎる仲間への心配。けれど今はそれを信頼へと変えて。エレオノーラは微笑う。『本物』よりそれらしく美しいその微笑はひとを惑わせ対価を求める妖精の如く。誘いの代わりに伸ばされた刃が巻き起こすのはこの街に似合いの霧であり――何もかもの時を止める氷刃だった。
「はいどうぞ、隠れられるなら隠れてみせて?」
 傷つく端から凍っていく鮮血。やれるものならやってみろと笑う彼が齎した冷気に囚われる事を厭う様に蠢いた異形の槍が何の躊躇いも無くすすり泣く女の腕を跳ね飛ばしながら『骸』黄桜 魅零(BNE003845) の脚を貫いた。肉の焼けるにおい。金属質のものがぶつかり合う高い音。
 寒気にも似た痛みはけれど、むしろ魅零を、その欲を掻き立てるようだった。
「いひっ、いひひ……こういうの大好き! もっと頂戴、こんなんじゃまだまだ全然足りないよ!」
 音を立てて傷が癒えていく。跡だけになった血を雑に拭って、魅零は大業物をつぅと撫でる。歪夜の一人。その配下たる蜘蛛と戦えるだけでも嬉しいのにぶつけられる殺意も刃もどれもこれもが甘い甘い死の刺激を孕んでいた。これなら素敵な出会いはあるだろうか。それよりもこの感情で満たされるほうが先だろうか。
 踊る心と笑みに反して、その刃が示す先に齎されるのは己が生命力を削って生み出される漆黒の気配。触れればたちどころに全てを飲み込み怨嗟の箱に閉じ込める呪詛に表情を歪めた少女と目が合った。にやり、と口角を吊り上げる。
「遊ぼうシャルロットちゃん! どっちが先に細切れになるか勝負勝負!」
「生憎これは『仕事』ですので。シッターが必要なら別途貴女の命でお支払いくださいませ?」
 同じ術を振るう者同士。どれ程強いのだろうか。その強さは己も強くしてくれるのだろうか。嗚呼。まるでキャンディのようだ。甘い甘い刺激は魅零にとって中毒性に溢れていた。しかし、それを意にも介さぬ少女は表情一つ変えずにその刃を振るう。込められた悪意が、絶望の闇が敵を薙ぐ。続け様に戦場に響いた泣き声が、リベリスタの精神を揺するようだった。
「ふむ。――精々あっけなく喰われないでくれよ」
 その力の程を確かめるように。敵を睥睨していたいりすの刃が再び牙を剥いた。


 周囲には人の気配の欠片さえ存在しなかった。此処を守っていたのであろう存在も、周囲を歩いているであろう存在も、何一つ確認できないのは既にそれが失われているからであろうか。
 何処か重たい重たい空気を裂くように。戦場を走ったのは黒指が操る不可視の気糸。敵の癒しを阻まんとするそれを打ち消さんとでも言うかのように、飛んでくる銀色の魔力砲撃。御機嫌よう、と笑って見せる少女を横目に、敵陣へとその脚を踏み入れたのは『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210) 。
「やあやあ、鏡のアリス、不思議のアリス。君の目に映るこの国はどんな国だい」
「御機嫌よう竜一、此処は魔法の国なのよ。物語が本当になってしまうの。貴方、無事に帰れるかしら」
 笑い声。それに肩を竦めて、両の手に携えた刃を握り直す。未来を切り開く燈火の刃。そして、己を想って作られた西洋剣。そこに在るのは持主の幸運を祈るまじないだ。共にあれぬ自分の代わりに、せめて何時だってその手の中に。力の篭る腕が太さを増したのは恐らくは気のせいではない。間違いようもない全身全霊。破壊者に相応し過ぎるほどの威力を己の限界を超えて引きずり出す。ふ、と短い呼気の直後、振りぬかれた刃が目にも止まらぬ速度ですすり泣く妖女にめり込んだ。
「悲しいアリス。哀れなアリス。そろそろお目覚めのときが来た。君の楽しい夢はここでおしまいだ――勿論、俺が覚ましてあげるよ」
 その身に纏う圧倒的なまでの武力と共に、立ち上る白は限界を超えた熱量の名残。その暴力とも呼ぶべき力は常にアリスにも向けられているのだ。そう。まるで、次はお前だとでも言うように。怖いわ、と目を細める少女への攻撃は無論未だ止まない。短く響いた銃声。記憶さえも撃ち抜き壊す意味を持つ銃身が放つそれは、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の力に応えて姿を変える。
「こっちは問題ない。伏兵も無さそうだぜ。……バンシーについてはまだ不明だ、分かったら教えてくれ」
 冷静に。通信を飛ばした彼女の視線の先で炸裂するそれはさながら怒れる蜂の獰猛な突進。一粒が小さくとも数は力だ。避けようも無いほどの鉛玉の豪雨が、容赦無く目前の敵全てを薙ぎ払う。今日の仕事は、彼等を迎え撃つこと。そして、このスコットランドヤードの拠点を死守する事だ。誰も考えはしなかっただろう。まさか、こんな歴史ある場所で戦闘を行う事になるとは。
 ちらり、と建物を振り返る。今日は一人だ。けれど、木蓮の瞳に迷いは無かった。かちかちと、手首で時を刻むおと。離れていたとしてもその音は同じだ。何時だって何処に居たって、木蓮のそばには彼が居る。前を見て、胸を張った。
「俺様の名前は草臥木蓮。お前らの仕事、邪魔させてもらうぜ!」
「お仕事の邪魔は困っちゃうけど、方舟なら悪くないかしら。仲良くしてね、木蓮」
 裂けた頬の鮮血を舐め取る紅い舌。竜一を抜けて先に進んだ恐らくはデュランダルであろう敵の刃を受け止めながら、『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064) は気が合いそうねと微かに笑う。余裕さえ見えるその笑みの奥で、しかし彼女は酷く重い責任を背負っていた。
 たった一人の回復手。傷も、仲間に降り注ぐ呪いの脅威も何もかもを、自分が払わねばならない。凄まじい泣き声が精神を揺さぶり行動を阻害せんとするのを感じながら、細く、息を吐き出す。
「……ここは、絶対に切らせないのよ」
 狩生へと援護を求めて。その唇が紡ぐ神聖術。ふわり、と微かに髪を舞い上げた風は予兆だ。直後、一気に吹き荒れる癒し背を押す清らかなる嵐。仲間の傷がたちどころに癒えていくのを確認しながら、ティアリアは薄く微笑んだ。まさか、かの有名なスコットランド・ヤードを守る側に就く事になるとは。人生とはやはりどう転ぶか分からないものだ。
 けれど状況は面白いと笑ってばかりも居られない。ふ、と僅かに真剣みを帯びた表情。紅の瞳が再び状況把握に努めるように細められる。腹を、据えてかからねばならなかった。覚える感情も何もかもを置いておいて。今するべきは目の前の敵の打倒だ。
 刃を持たぬ者の戦いとは、戦闘が長引くほどにその重さを増すのだから。


 刃と刃がぶつかり跳ね上がる鋭い音。猛然と此方に切りかかってくる敵の刃をかわし受け止め。経験の浅さを感じさせぬ軽やかな動きを見せる『停滞者』桜庭 劫(BNE004636) は切っ先持たぬ刃を握り直す。倫敦。霧の都。もしもこんな状況でなかったのならばぜひとも観光と洒落込みたかったのだが現実は血生臭い闘争だ。
 まぁけれど仕方が無いのだ。やらねばならないことがある。恐らくはこれも平穏なる日々を脅かす脅威を打ち払う行いの一つであるのだろうから。それに。
「こんな所まで足を運んで負けたんじゃ、格好付かないからな」
 土産代わりの勝利でも。酷く軽い足取りが地面を踏み切る。此方へ迫ろうとしていたフィクサードを踏み台に跳ね上がる体躯。酷く軽いその所作からは想像もできないほどに重たい刃がそのままの勢いで振り下ろされる。処刑者の刃。断罪の刃。切っ先を持たぬ代わりに致命傷を与える事だけに特化した、まさしく死の為の刃。それが、異形の槍の穂に皹を刻む。
 負けてやる心算などこれっぽっちも存在しない。己の力の活かし方を良く知る彼の動きを把握しながら、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)はその手を翳した。紡ぐ神聖術。そのことばの力を、エルヴィン自身の持つ力を極限まで高め引き出す伝導体が煌きを帯びて僅かにその手から浮き上がる。
 吹き荒れる癒しの息吹は仲間を鼓舞しその背を押してくれる。傷の具合も、戦闘状況も何もかも。常に頭に叩き込みながら動き続ける彼はけれどふと、踏みしめた大地を見下ろしてその石榴の瞳を瞬かせた。英国。この空気とこの大地は、自分の故郷と呼ぶべき場所である筈だった。記憶を手繰りかけて、けれどそれは振られた首と共に遮られる。
 そして、代わりに思考する。厄介な状況だった。複数に別れて攻めてくる敵を、こちらも複数に別れて撃退しなければならない。条件は同じとはいえ、それが有利に運ぶか不利に運ぶかは間違いなく個人の動きが影響するのだ。現状は押していると確信できる戦場を見詰めて、息を吐き出す。
「良いだろう、やってやろうじゃねぇか!」
「ほう。君は中々珍しい。気が合いそうじゃないかね、僕と」
 一人二役には自信がある。そう笑う彼の立ち位置は無論前衛。相対した貴族風の男が僅かに驚いたようにエルヴィンを見遣るのを視界の端に収めながら、敵陣へ滑り込んだ長身。ふわり、と翻るインバネスの黒と紫が視界を遮る。石畳に似合いの革靴が軽く音を立てた。
「――通るよ、気をつけて」
 短い合図。軽い足取りと共に振るわれた紫が続け様に近くのキマイラを裂く。空中に散る紅のライン。そして、それを先導する鈍い紫。痛みは快楽で。堕落は幸福だった。ひとの矛盾に付け入る堕天使が微笑む。さあ、同じところまで堕ちて来い、と。その声に惑うように頭を押さえた男の前で、『it』坂本 ミカサ(BNE000314)は軽く肩を竦めた。
「無粋だね。俺にとっての倫敦に君達はいらないんだけれど」
「これはこれは、随分と『良い』スーツをお持ちのようだな、方舟の君?」
 この街には似合いだと笑う男の前で、けれどミカサはその表情を動かす事無く己の手袋に染みた血を見遣る。足掻くのだ。この手が致命傷に届かないとしても、もがいて足掻いて最後に彼等の巣を千切り壊せばそれで何の問題も存在しない。それに。自分は一人ではないのだから。ミカサの攻撃によって生まれた隙を突くように。夕日を弾く散弾銃の銃口が捉えるのは、目前の敵を巻き込めるだけ。
 何時引き金が引かれたのかさえわからない。神速の射撃はけれど寸分違う事無く敵へと伸び、狙い通りの弾道を描く。きん、と高く澄んだ音が響いた。『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939) の狙った先。異形の槍の穂先がひとつ、折れて地面へと転がり落ちる。慄くように震える異形。血走った眼球が凄まじい速度で動いて敵を求める。突っ込む。しかし、その突進の威力は明らかに落ちていた。
 その成果を確かめながらも、喜平の視線が追うのは倒れ臥し命絶えているこの地のリベリスタ達だった。戦ったのだろう。そうして散っていったのだろう。目的の為とはいえきっと無念であっただろう。それでも退かなかった、そして散っていった彼等に、この海を隔てた地の同志に敬意を。それを示す為に、銃を向ける。
「……後の仕事は引き継ぐんでゆるりと眠ってくれよ」
 お疲れ、と小さく呟かれた言葉は、眠りに付いた彼等に届いたのだろうか。


 激戦の中、最も早く終わりが見え始めていたのは、竜一達の班であった。圧倒的なまでの火力が敵を殴り、払い、追い詰めていく。癒しの風は未だ止む事無く戦場に吹いていた。ティアリアの武器を握る手に力が篭る。大丈夫だと、その心に言い聞かせた。
 彼女も決して無事ではない。幾度も幾度も襲い来る攻撃は間違いなく体力を削る。それを打倒する術を今自分は持たない。けれどそれでも、やらねばならない事はあると思ったのだ。祈る。手を重ねる。カミサマにではなく自分に。仲間に。殲滅は任せよう。此処にあるのは信頼だ。仲間ならきっと、果たしてくれるという揺ぎ無き。
「……わたくしを信じなさい。絶対に、護りきって見せるわ」
 意志の強さは力の強さに比例する。求める想いがあるからこそそれは真価を発揮するのだから。煌きが増す。周囲を舞う神聖術の残滓。仲間に残った泣き女の呪いを全て打ち払って、少女の姿をした淑女は微笑んで見せた。決して、誰も欠けさせないのだと。
 そして。そんな彼女に支えられる一人である竜一の全力は遺憾なく発揮されていた。戦神の如き武力と、己の限界を超えるその意志。圧倒的というしかないその力が目の前の泣き女を叩き切る。ぐらり、と傾ぐ身体。けれど、その異形は喰らい付くようにその顔を上げた。
 視線の先にはティアリア。庇わんと常に傍にあった木蓮はけれど、後衛に迫っていたデュランダルの手によって跳ね飛ばされ手が届かない。怨嗟の泣き声は、『誰かが死ぬ』合図。死に際の断末魔にも似た絶叫がティアリアの耳を、そして身体を貫く。ぐらり、と傾ぐ身体。運命の寵愛を得てなお重過ぎる一撃が、その意識を断ち切ったのだ。
 けれど、それは同時に異形にも死を齎す。声も出せずに地面へと倒れたキマイラの行く末を見る事無く、アリスはうっすらとその唇に甘ったるい笑みを浮かべた。
「居たら困るものから片付けないと、でしょ?」
「なら俺様はお前を片付けないとだな、覚悟しろよ、アリス!」
 銃を構えた彼女の瞳が細められる。圧倒的なまでの集中は、その視界さえも研ぎ澄ます。針の穴一つさえ見逃さぬ視線。スコープなど必要ない。狙え。最も致命傷となりうる場所を。引き金を引いた。駆け抜ける弾丸が、余裕を浮かべていた少女の腹部を貫く。恐らくは反射的にその身を捩ったのだろう、途端に血に塗れていく服に、少女の顔に焦りが浮かんだ。
 慢心だ。恐らくは使えると予想していた盾を少女は使っていなかったのだ。細い指先が描き出す魔法陣。その身を守るように展開された魔法はけれど、踏み込んだ竜一にとって何の意味も持っては居なかった。運命によって繋ぎ止められた体が痛む。けれど、それも気になどしていられない。
「純血のデュランダルってのは、案外いろいろと出来るもんなんだぜ」
 振り抜かれた二本が巻き起こす乱気流は物理的に刃となって敵の身を裂く。其処に乗るのは力だけではない。竜一の持つ神秘の素養もまた、其処には存在するのだ。きん、と高い音を立てて砕ける障壁は、残っていようともその身を守ってくれやしない。ぱっと飛び散る紅。そして、漏れる呻き声。
 膝を着きかけた少女の前へと、庇うように滑り込んだ騎士。けれど、それももう遅い。傷が少なくは無い彼に、突きつけられる銃口。そして、力を振るうために必要なだけの魔力が流れ込む。
「悪いが、手加減なんて出来ないんだ」
 かちり、と木蓮の手で引かれる引き金。正確無比且つ高威力の弾丸が、たちどころにその命を潰えさせる。少女の顔が歪んだ。素早く後ずさる彼女を守るように立つデュランダルと、その奥の顔を見遣って。竜一はヒラヒラとその手を振って見せる。
「さよならアリス。目が覚めたら、良い子におなりよ。そしたら俺がお兄ちゃんとして甘やかしてあげるからね」
「さよなら竜一。……次は絶対に出れない御伽噺に招待するわ」
 酷く悔しげな声と共に、その姿は夜に変わった倫敦の路地へと消えていく。


「――一つ片付いたらしいぞ、こっちも気合入れろよ」
 幻想纏いに見える状況を常に報告していた喜平の声。あと二つ。片付ける為に全力を傾けるエルヴィンたちの班は、既にキマイラの打倒に成功していた。しかし、まだ敵が退く様子は見えない。戦い続ける最中、攻撃は自然とやはり、エルヴィンへと向かっていた。
 しかし、リベリスタとてそれを予期していない訳ではない。滑り込む黒衣。翻るインバネスを貫く刃を受け止めて、ミカサの膝が崩れ掛ける。危機が迫れば常に庇い続けた彼の限界は近かったのだ。刃が肋骨に当たる。けれど、それを掴む手。運命の残滓が過ぎる瞳が、目の前の敵に薄く笑った。
「……自ら網に掛かった虫の気分だ。だけれど、悪いね。俺はただで喰われに来た訳じゃない」
 もう一撃。襲い掛からんとするウィリアムの攻撃がミカサへと向かう寸前。ひたり、と据えられた散弾銃の気配に、男が其方を向く。高められる魔力。そして、其処に込められる圧倒的なまでの物理膂力。纏う戦の気配さえも力に変わる。咄嗟に此方へと攻撃を向けた男の攻撃は己を絡めとり支配せんとでも言うかのようで。けれど、喜平は運命の加護を持ってそれを打ち払う。
「さて、墓標代わりに一発貰ってくれよ」
 放たれる。何もかもを消し飛ばす純粋な暴力。打ち据え、撃ち当て、討ち破る。それが、至近距離で炸裂する。息を詰め後退する男。あと少しだ。それを確信に変えたのだろう劫が、ふ、とその息を吐き出した。知っていた。この感覚を。集中する。力が欲しかった。何もかもを奪われない為には。それしかないのだと知ったから。
 そして。この身にある記憶はある意味でそれを叶えてくれるものだった。望む。求める。渇望する。力を。留めて置きたいものを壊されないためのそれを。どうか。どうか。
「リベリスタになって日は浅いが、記憶はハッキリしてるからな。――弱くないぜ? 俺は」
 高められた集中は動きによりいっそうのキレを与えるようだった。多角的且つ鮮やかに。ウィリアムへと振り下ろされた刃が再び鮮血を舞い上げる。けれど、まだ退かない。此方とて延々と戦い続けられる訳ではないのだ。後退し仲間全員を癒さんとしていたエルヴィンが、その表情を硬くする。やるべきは決まっていた。
 紡ぐ神聖術。吹き荒れる癒しの嵐。けれど、それでは足りないのだ。エルヴィンが望む力には。もっと多くを癒せ。もっと多くを救え。もっと多くを支えろ。その為のホーリーメイガスなのだから。続けざま。その唇が同じ言葉を紡ぐ。
「コイツが俺の奥の手だ、目にしっかり焼き付けろよ!」
 ダブルアクション。恐らくは癒し手がその術を振るう事など稀過ぎる筈だが、エルヴィンは違う。その偶然を、己の手で引き寄せる事ができるだけの可能性をその手に持っていた。重なるように吹き荒れる癒しが、傷など一つも残っていないかのように全てを癒し切る。驚愕の表情で此方を見詰める敵の前で、彼は己の胸を叩く。
 敵を倒す事なんてできない。それでも、出来る事はあった。
「俺の、決して途切れる事のない絶対の回復を見せ付けて。お前らの戦う意志を挫く事くらいはできるんだよ!」
 目立てば目立つだけ、癒し手は狙われる。当然の事だ。それを、エルヴィンは誰より知っている。だからこそ。目立つように声を張り上げるのだ。自分は此処だと。倒せるものなら倒してみろ、と。身体がどれほど痛もうと、彼は決してその足を退かない。
「……来い、我慢比べじゃ負けねぇよ」
 もう大丈夫だと仲間の前に出た彼が、襲い掛かる敵の刃を受け止める。その心に応えるように、一気に集中した攻撃がついにウィリアムの命を断ち切った。


 石畳に血溜まりが広がる。エレオノーラ達もまた、じわじわと終わりへとその足を進めていた。しかし、その戦いは決して楽ではない。長引けば長引くほどに火力が落ちていくのだ。けれど、それは敵も同じ事。戦い続けていたシャルロットの顔色は悪かった。
 軽い足音。いりすが全力をもって振るった二振りの刃が続け様に少女の首を裂く。ぼたぼた、と溢れて落ちていく血。限界が近いのであろう少女に、魅零は酷く不思議そうに首を傾けた。蜘蛛の巣の中の蜘蛛。それは酷く不自由であるように思えたのだ。好きなことをして、好きなように生きて、欲しいものを求める。そんな事など到底出来やしないように。
「ねえねえ、蜘蛛の巣の中だけでしか生きられない蜘蛛は、窮屈じゃない?」
「蜘蛛であるのだから蜘蛛の巣で生きるのは当然のことです。なら貴女はどうして方舟に居るのですか」
 世界は広いのに、と呟いた魅零に向けられる瞳はやはり無感動で。死なば諸共とでも言うのだろうか、振り上げられた刃が肩を貫く。走る激痛と共に運命が飛ぶ。それもまた、戦いの熱を、生きているのだという事を教えてくれるようで。もっと、と魅零の唇が紡ぐ。握った刃が振り抜かれる。飛び散る血。溢れる臓物。声も無く意識を失った少女はけれど、酷く満足げに笑っていた。
 そして。その意味に最初に気付いたのは、エレオノーラだった。危ない、と叫ぶ間もない。異形の槍が震える。指揮者を失ったそれが、見境無く飛び込む先は魅零。シャルロットの影から飛び込むそれに、遅れた反応は一瞬。けれど、それは充分な隙だった。深々と腹部を貫く感触。死体ごと突き抜けたそれに膝が崩れる。意識が、溶ける。
 咄嗟に彼女を引き寄せたエレオノーラは、撹乱するようにその刃で異形の槍を圧し折りその足を下げる。後一歩なのは分かっていた。後はすすり泣く女を始末すればいいだけ。仲間が駆けつけるのにはあまりに時間が必要だ。やらねばならない、と言う事だろう。
 ぴ、とナイフの血を払う。全く。蜘蛛が益虫だなんて誰が言ったのか。今此処にいた蜘蛛はまさしく害虫だ。否、寄生虫と呼んでも良かったかもしれない。他を利用し、自分達の欲を叶えているのだから。近くの煉瓦壁へと魅零を寄りかからせて、エレオノーラは薄く笑う。
「悪いけど、こんな所で欠けたくないの。精々足掻くから、覚悟なさいね?」
 出来れば近寄りたくない場所だけれど、コレで倒して恩も売れれば一石二鳥、悪くは無い戦いだ。そんな彼の横で同じようにナイフを持ついりすは悠然と、その刃を敵へ向ける。
「この身。非才にして持たざる者なれば――」
 そう呼ぶにはあまりに研ぎ澄まされた力。けれどそれでもいりすには足りないのだ。己の力が。敵が。何処まで行けば足りるのか。何処までいっても足りないのか。わからない。分かるのは、捨てたいものだけだった。唾棄したかった。弱さを。己の、誰かの。何もかも。
 それは自嘲であり決意であった。強くなければ生きられないのだから。何処までも貪欲であれば良い。惜しまなければ良い。何かを持つから惜しむのであれば。持たざるものが最も強いと呼べるのだろうか。己の血を吸う刃を、流れるように女の胸へと二突き。
「――惜しむモノなど何も無い。が、そうだな。小生は此処では死ねそうに無い」
 まだ満たされてなど居ないのだから。それもそうね、と笑みを崩さぬエレオノーラの刃が同じようにその心臓を貫く。くぐもった呻き声。バンシーの胸元から、大量の鮮血に似た何かが溢れて。劈く断末魔はけれど、もう何の力も持っては居なかった。ぐしゃり、と地面に倒れ臥す巨体。石畳に広がる鮮血を避けるように歩いて。
 エレオノーラの手が、幻想纏いを開きなおす。
「……終わったわ。待たせて悪かったわね」

 ざざ、と入ったノイズ音。そして、遠くから聞こえ始める仲間の足音。城へと迫りくる魔の手の一部を、リベリスタは確かに打ち払い切ったようだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

絶妙なバランスだったと思います。
齟齬も無く、作戦自体も問題なかったと感じました。

ご参加ありがとうございました。皆様のご武運をお祈りいたします。