● 「さあ、従いなさい愚かな者ども」 「「「何なりと、我らが女神!」」」 「供物は幾千とも幾万とも構いません。抗う者は苦悶の末に殺し、従う者は安楽を以て殺しなさい」 「「「かしこまりました、我らが女神!」」」 太陽すら墜ちた人気のない荒野に響くのは、一人の女性の声と、多くの男達の声。 宝石と金糸銀糸をふんだんに使ったドレスを纏う女性は、下に侍る、薄汚れた服の男達の一際高い位置から笑い声を上げていた。 「愚かな者ども。今一度私に誓いの言葉を捧げなさい」 「「「この身、この心、この魂、永遠に永久に、我らが女神に捧げます!」」」 それを聞いて。 着飾り、宙に浮いた女性は、婉然たる笑みを浮かべて、呟いた。 「愚かな者ども。お前達がそれを誓う限り、私はお前達を愛し続けましょう」 「「「有り難き幸せに御座います。我らが女神!」」」 ● 「緊急の依頼」 言うと共に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は急いだ調子で、静止した未来映像の一部をモニターに映し出す。 其処に見えたのは、先の男達と、豪奢なドレスを着る女性の姿。 「……コイツらが?」 「そう。タイプはE・エレメント。尊敬する人物に対する『歓声』が密集して現れた存在。周囲にいる男の人たちは、彼女に魅了された後に増殖性革醒現象の被害にあったノーフェイス達」 イヴ曰く、E・エレメントの彼女は基本的に自分が作り出した領域――人気のない山中に作った荒野から出ることはなく、その行動の殆どは自身に付き従う男達にやらせているのだという。 その具体的な行動に纏まりはない。或いは煌びやかな宝石、或いは自身が愛でるための少年、或いは――視界を埋め尽くすほどの、鮮烈な赤。 「今回、彼女が選んだのは三番目。享楽によって行動を決める彼女は、先の事なんて考えない。例え私たちに目を付けられようと暴れ回ろうとするはず」 そうする前に、叩け。 単純にして明快な指令である。リベリスタはそれに頷くと共に、敵の能力はと問うた。 「……強いよ。先ずは女性から。 彼女は常に行動の始め、哄笑を行うことで、貴方達の能力を僅かに下げてくる。効果は勿論蓄積型。一応、庇うことは可能だけどね。 使用する能力は、男性限定で高い精度の魅了能力を放つことと、自身の宝石を砕くことでその欠片を戦場全体に振りまく能力。ただ、後者は自身の装飾品を壊すという屈辱からか、低い確率で怒り状態になる可能性が有る。 次に、男達。彼らの数は合計で十人。彼らは行動の始めにE・エレメントの女性を称えて、その能力を強化し、体力を回復させる。これも蓄積型の上、人数に応じて効果の上昇は更にめざましい。 能動行動も一応行えるけど、基本的なスペックとしては、回避と防御に優れた……本当に、主を守るためのコマ。但し、女性が存在している場合、彼らは全滅することはない。最後の一人となったら、体力も生命力も尽きようと、何度でも立ち上がってくる」 互いをフォローし合う能力を持った敵、ということ。 連携を第一とするリベリスタだからこそ解る、それは正しく『強い』と言うことが。 「……難しい依頼。けれど彼らは行動を起こしかけているため、既に時間がない。なるべく早くに出発して欲しい」 切迫した語気のフォーチュナに対し、リベリスタ達は是非も無しと頷く。 ブリーフィングルームを出る前、もう一度だけ見たエリューションの顔は――醜悪なまでに美しく、冷酷なほどに優しかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月31日(日)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 偶像が必要なのだろう。世界には。 その言を否定する気は無い。今のこの世は宗教という側面によって成り立っている部分も少なくない。それが齎す精神的恩恵が人々の生活の支えとなっている事は純然たる事実。 が、その名を借りる悪徳もまた、存在することは事実なのだ。 例えば、それは――リベリスタの視界に映る、虚栄の女神の、ような。 「安易な尊敬は盲信となり実像を歪める……そんな人の愚かさが生み出した哀れな虚像」 場所は山中、エリューション達が在る舞台より、やや離れた森の中。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は、件の敵を前にして静々とつぶやく。まるで出来の悪い絵画を見るような目で。 未だリベリスタを気取らぬ彼の女神が、自己の傲慢を当然のごとく望む姿は――正直、見ていて気持ちの良いものではない。 「女神が民衆を見下し蔑み、民衆は蔑まれ尚も女神の寵愛を求む……。 我には歪んだ関係としか見えぬ。恩義があろうとも、その様な振る舞いを許したままでは、其の者の為にも成らぬと言うに」 「ま、民衆も被害者だろうが何だろうが任務は任務。悪く思うな、これも仕事だ」 故か。古賀・源一郎(BNE002735)も、『蒼眼の金狼』小鳥遊 涙(BNE000926)も、言葉に残る苦い感情は隠しきれない様子であった。 「虚栄か……あまり目の当たりにしたくない言葉だな」 嘆息するのは『グリーンハート』マリー・ゴールド(BNE002518)。虚栄、愚鈍。それらは恐らく、自己の現在の在り方を問われるような言葉と、彼女には取られたのかもしれない。 「――いずれにせよ」 気鬱か、嫌悪か。各々が抱く負の感情を、各々の言動から理解しながらも、『空蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)、エリス・トワイニング(BNE002382)の表情は、決意は変わらない。 「このエリューションは危険ですね。魅了された人々をノーフェイス化させてしまい、そしてノーフェイスは倒さねばならない。 この分かりやすい図式で私たちは人間だった人たちを倒さなくてはならなくなる」 「……可及的速やかに……殲滅すべき」 言って、彼らは改めて相手を見据える。 傲慢に語り、高慢に笑う虚飾の神。それに陶酔し、唯々諾々と従い続ける無能な元被害者。 あれらに語るほどの言葉が思いつかない。それが意味を成すとは思えない。だからこそ、彼らは今この場で胸中を吐き出したのだろうか。 「……動いたわ。行きましょう」 静かな開幕は、氷璃の言葉から始まる。 「――――――おや」 状況は、女神の供物を求め、民衆が動き出した直後。 一定の距離を取った頃に、その間に割り込むようにして飛び込んだリベリスタ達の姿に、女神は小さな驚きを見せ、民衆は瞠目する。 「「「我らが女神に近づく者共! 貴様らは何者だ!」」」 「……血塗られた……女神なんて……誰にも……優しくない」 論難の内にも主への畏敬の意を忘れぬノーフェイスに対し、エリスは疎いの心をそのまま言葉に表す。 源一郎に至ってはもっと直接的に、民衆に対して盾を構え、堂々と言葉を発した。 「道を違えた為らば、正してやる事も肝要と知れ。今此度は我が正してやろう」 「「「貴様等に正されるもの無し! 我らを正すは我らの女神のみ!」」」 「よくぞ言いました。愚かな者ども」 艶美……いや、淫蕩とも取れるほどのだらしない笑みを浮かべて民衆を褒め称える女神は、その言葉に続けてリベリスタにも声をかけた。 「叛逆者達よ。この通り。私の意に従う者は私の寵愛という望外の幸福を得ることが出来る。それを理解したならば、今すぐその武器を捨て、私に従いなさい。永久に得られぬ幸福を、貴方達に授けてあげましょう」 ――――――嗚呼、傲慢。 不快感をより一層強ませる女神の発言に対して、くすりと笑んで言葉を返したのは、『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)、そして『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)である。 「難易度低い男ばっかり魅了したって何の自慢にもならないのにねー」 「人気のないアイドルなんざお呼びじゃないんだよ。とっとと引退しちまいな」 嘲笑。それを挑発の演技か、はたまた本心かは彼の女神には一切関係ない。 大衆の前で侮辱されたという事実。彼女が憤懣に顔を歪める意味などそれで事足りる。 「……不快、極まりない」 それが、合図。 民衆はその言葉で全てを理解し、即座にリベリスタ達へと襲いかかる。 対し、リベリスタの側も遅れは取らない。即座に得物を構え、彼らが接近するまでの間に自己強化等の戦闘準備を整える。 女神、民衆、そしてリベリスタと言う革命者達。 瀬恋が染めた異界の中で、小さな戦争の端は発した。 ● リベリスタの主な行動は、特殊能力によって倒れぬ一人を除いた民衆を無力化後、全員が転身して女神への攻撃を開始すると言うシンプルなもの。 その主たる攻撃班は、ぐるぐを除いた七人。反してぐるぐはその間の女神の惹きつけ役を担当する。 実際、民衆が女神に行う崇拝により、ほぼ短時間ごとにその体力をめざましく回復させられる以上戦法はこうするしかなく、ならば徹底的にと言うのが彼らの考えか。 だが。 「アハハハハハハハハハハァ――――――!」 「……ッ!」 それまでの間に、この女神の哄笑――リベリスタ達の能力を僅かずつ落とす、蓄積型の特殊能力――がどれほど彼らを削るかが、彼らにとってのネックでもある。 元より継戦能力に優れた者が少ないこのパーティに於いて短期決戦は望むところではあるが、『時間との勝負』なる定言が此処まで似合う戦いに臨み、リベリスタの表情に一切の余裕は見られない。 「我は我の仕事をする故、攻め手は託す」 巨大な盾を自身の眼前に構え、傍らの氷璃を守る源一郎が言う。 助かるわ。そうとだけ言葉を返す氷璃が先んじて放つ爆炎は、突出してきたノーフェイスらをほぼ全員纏めて焼き尽くす。 僅かと言えど、氷璃の案によって体勢を整えるだけの時間を得られたことは、リベリスタに取っては確かな助けであった。自己強化、陣形。そうした諸々を構築し終えた彼らと、ただ襲いかかるのみの民衆とではその所作に決定的な差異が出る。 かと、言って。 「何を惑っているのです。『愚かな者達』よ」 「……!!」 それだけで戦況にまで違いが出るほど。戦いとは易くない。 女神の魅了能力によってぐらりと身体が傾ぐ涙と源一郎。特に涙に至っては自身のギアを上げた状態である。 エリスの回復が飛ぶより先に動いた涙が、傍らの細剣でマリーを穿つ姿は、理解はしていても微々たる苦悩を彼女の顔に浮かばせる。 脇腹の端を僅かに裂かれる痛みに顔をしかませながらも、彼女は涙の脇を抜き――その先に居る民衆の一人に、気閃の一撃を叩き込む。 「……、叛逆者風情が!」 触れた者を爆ぜ砕く意気。それを纏った広刃剣の一撃が直撃しようと、民衆は未だ辛うじで倒れない。 (思ったより……いや) 舌打ちしかけた思考を中断。硬さも速さも、彼女らは事前にフォーチュナから聞いていた。苦戦は承知して然るべきだ。 それとほぼ同時、エリスがグリモアールを介して淡雪の光を戦場に舞い散らす。 触れた者の身体、精神異常を融かす癒しの光は、違い無く男性陣を回復させる――が。 「女神の哄笑は、無理……」 残念、より無念と言うべき表情。それを「気にしなさんな」と笑って返したのは瀬恋であった。 「で、其処の男共も……いけないねぇ。そんなにがっついて女の子に手を出そうなんて」 消耗の関係で数に限りがある魔弾とて、カタギに手を出す無頼に惜しむほど、少女は甘い仁義を抱えてはいない。 撃ち込んだライフルの弾が、先ほどマリーに傷つけられた民衆の頭部を的確に貫き、そうして一人が動かぬ者となる。 だが、民衆とてやられてばかりではない。 「う……っ!」 遮二無二突っ込んだ、構えも何もない無鉄砲な体当たり。しかし定理を持たぬ者が行えば、それは只の体当たりにはならない。 全身に残る衝撃に目を眩ませながらも、アンリエッタが薙いだ鉄槌に吹き飛ばされる民衆。だがそれに安堵する間もなく、直ぐに第二、第三と新たな民衆が襲いかかってくる。 連携が無い分、その脅威は彼らが予測していたそれより劣るものの……やはり数の差はこの場に於いてかなりのアドバンテージとなる。 「曲がりにもソードミラージュ、そう簡単にやられたりはしません……!」 すんでの所で二度目の攻撃をかわすアンリエッタも、その呼吸が若干荒い。 エリスの福音が癒すにも、敵の攻撃の激しさと相まって、回復役である彼女の消耗は他より顕著である。あまり攻撃を受け続けることも出来ないというプレッシャーが、リベリスタの空気をより重くさせる。 (とは、言え……) 最後方から戦況を見守る氷璃は、戦況を其処まで悲観してはいなかった。 度重なる交戦によって時間はかかっているが、それとて危急すべき遅れではない。加え、源一郎のカバーリングによって女神の能力低下から守られている氷璃自身が放つ範囲攻撃は、確かに民衆達の被害を一際大きく広げさせているのだ。 既に民衆は三名程度。そして、その内二人も―― 「当たればお慰み……ってところだがな……!」 「チョロチョロと……ッ」 今、この瞬間。苦笑交じりの涙と、若干の焦燥を交えたマリーにそれぞれ打ち倒される。 それと共に、残る敵を理解した彼らが其方に向けて走り出した後―― 「……嗚呼、やはり、不快」 女神に至る道が開けた瞬間、聞こえるのは正しくその女神からの天啓。 刹那、砕かれた宝石が綺羅星となって降り注ぎ、リベリスタの命を的確に穿った。 ● ――時間は、戦闘開始直後にまで遡る。 「ウチに堅物っぽい男の子いるけど、魅了出来るの? あ、無理ならしなくてもいいですよ。恥欠かせちゃ悪いですもんね」 女神の注意を惹く役として、自身の翼を介して接近するぐるぐに、女神は不快な表情を浮かべる。 「……私の寵愛を何と心得ます。叛逆者よ。この身より捧ぐ愛は俗物に晒すための見せ物ではありません。真に私が欲する者、真に私を愛する者にのみ向けられるのです。――何より」 言って、女神が取り出した宝石を見て、ぐるぐは口中で舌打ちし、作戦のミスを悟る。 「例え私の寵愛に足る者が幾千と居ようが――それを汚す蛾一匹が眼前に居るのならば、私はそれを潰す方を先んじる」 「要は出来ないって事でしょ? ムリしなくていいよ女神(笑)様」 一縷の望みにかけて、再度の挑発を行うぐるぐではあるが――結果が変わることはない。 「……羽虫が」 パキン、と言う、硬質な音がした。 そうして、現在。 流れる血は機敏な動きを緩慢にし、思考を酩酊にも似た停滞へ追い込む。 当初の予定とは明らかに外れた状況。肩で息をするぐるぐと、服の所々に若干の傷を作っている女神の戦況がどちらに傾いているかは、聞くまでもない。 「……いい加減に諦めたらどうです。既に私の愚かな者どものほぼ皆が死に絶えたこの時に於いて、未だ慈悲の手を差し伸べる私を――」 言い切るより先。パン、と言う音と共に、ぐるぐのナイフが女神の服に付いた装飾品を打ち砕く。 「手が滑っちゃった☆」 「…………」 運が悪かったのは――恐らく、このタイミングで民衆の殆どを倒し終えたリベリスタ達が、女神の射程距離に入ったことであろう。 「……嗚呼、やはり、不快」 言って、女神は掌中に出した宝石を握りつぶした。 中空を待った宝石の欠片は、それと同時にぐるぐを含めたリベリスタ達に襲いかかり、全体に甚大な被害を与える。 ぐるぐ自身、直撃こそ避けたが……それとて、元から体力の少ない上、能力を減衰されきった状況でかわせるほど、耐えきれるほど、民衆の崇拝を受け続けた女神の一撃は、脆くはない。 更には―― 「、く……!」 前線に立つ涙が倒れ、同時にアンリエッタが地に横たわる。マリーも頽れこそせせぬものの、受けたダメージの深さは剣を支えにした様子からして聞くに及ばない。 近接攻撃しか持たぬ民衆の攻撃を免れていた後衛班と、それを守る源一郎の傷が浅い分、前衛に出ていた者に集中した攻撃がここに来て効いた。エリスが急いで癒しの音を鳴り響かせるが――それとて、哄笑によって減衰した能力では何処までの助けになるか。 ――『度重なる交戦によって時間はかかっているが、それとて危急すべき遅れではない』。それは確かである。『彼らがおよそ四、五人で』『民衆ほぼ全員を相手取った』場合の予想に照らし合わせれば。 慎重な役割分担は通常に於いておよそ確実に効果を現すものではあるが、今回は女神の魅了によって戦力が幾ばくか削れる事が予想される戦闘である。何より、エリスの状態異常の回復精度とて確実と呼ぶにはほど遠い。 結果は現状が示している。ぐるぐとアンリエッタは既に倒れ、残る者も余力は多くない。対して女神は未だ微々たる傷しか負っていないのだ。 ――だが。それは未だ、敗北とイコールしてはいない。 「あんたのファンはもう地獄だよ。とっとと追いかけて地獄でコンサートでもしてなよ」 未だ尽きぬ悪魔の弾丸が女神を穿つことで、リベリスタの士気は再び鼓動を始める。 「まだ、神である私を理解しようとしないのですか……!!」 「いや。否定はしない。お前がそう思っているなら、それでも構わない」 返したマリーが、反動を恐れず振るった轟撃を以て腕を裂く。 「その上で、お前を倒そう。……良いものだぞ、格差が上の者を打ち倒す瞬間というのは」 不敵な笑みは、劣勢を厭わぬ少女の、強さの表れか。 「……女神を……気取る……偽者には……この世界には……必要とされない」 今一度、福音を響かせるエリスの瞳に宿る精彩は、内に秘める意志と相まって爛々と輝いているようにも見える。 「我らを彼の民衆と同じに見るな、我らは其程、安くは無い」 残る一人の民衆。それから氷璃に向けて発される攻撃を防ぎ続ける源一郎の言葉は、倒れる寸前にありながら、宣戦する戦士のように強く。 「さぁ、貴女の真の姿を民の前に曝け出しなさい――」 唯の虚像を砕く為に発された四条の光は、女神と呼ばれたそれの四肢を見事に打ち抜いた。 ――だが、其処まで。 「……………………ぅあああああアアアアああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアァァァァァァァァアァァァァ!!」 震える手で宝石を砕いたとき―― 女神の咆吼が、その場を満たす。 再び墜ちる流星が源一郎を貫く。これで人数的な戦力は半数に削られた上に、残る者も体力、気力含めて残量はほぼ無い。何より内三人は後衛型だ。 「……っ、撤退だ!」 マリーが叫ぶと同時に、他のリベリスタ達も動き出す。 仲間達を背負いながら荒れ地を抜け、森をくぐって身を隠すリベリスタ達ではあったが――恐らく、その必要はなかっただろう。 戦闘が終わり、女神のためにと忠誠心だけで保っていた民衆も既に倒れ。 怒りから醒めた女神に残っていたものは何もなく。故に彼女は、唯其処で呆然と佇んでいたから。 ● 「厄介なものだな……協力関係ってやつは」 全員の応急処置を終えた後。マリーが疲れたように呟いた。 ある意味では正しく、ある意味では違う言葉。民衆と女神の、相互的に戦力を高める能力上昇、能力低下の二つがなければ、この戦いは少なくともリベリスタの勝利で終わっていたはずなのだ。 ――しかし、それでも。彼らの行いは無駄ではなかった。 本体こそ倒すことは出来なかったが、自身の手足全てを失った女神はこの後、暫く行動を起こすことが出来ないであろう。それはつかの間と言えども、リベリスタ達がもたらした平穏という結果ではあるのだ。 「……」 エリスは何も語らない。語らない、が、その目は日の落ち始めた空を見上げている。 ――「ただ頭数を減らすということだけ以上の意味もある」。その想いを込めて倒したノーフェイス達は、今頃彼の空に吸い込まれているのだろうか。 戦闘不能から復帰し、地面に横たわりながら瞳だけを開いていた涙も、その視線を追うように空を見上げて、ぽつり、呟く。 「上に従うだけならば、容易だったろう。次は自らの信念の元に生き、己が足で歩くんだな」 全てを完全に救うことは出来なかったけれど、それでも今暫し守ることだけは、出来た。 少しばかり苦い笑みを浮かべながら、リベリスタはアークの迎えを待つ間、ずっと落陽を眺めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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