● 「ヤードの連中も哀れだぜ。そりゃあ俺だってアイツ等は好きじゃねえけどよ」 男は双眼鏡を一旦下ろし、尻ポケットから取り出したスキットルに口をつける。 喉を湿らせでもしなければ到底やってられない気分だったのだ。 確かにヤードと自分達は長きに渡る因縁を持つ宿敵だ。 けれどだからこそ、 「フォースとビーストを混ぜた化物だそうだけどよ、ンナのに食われて終るなんてナシだよな」 決着は、この国の命運はヤードと蜘蛛の巣の力と知恵による闘争の果てに決まるべきだったと男はどうしても思ってしまう。 男は犯罪者ではあったけれどそれでも英国人だったから、この任務には誇りを抱く事がどうしても出来ないで居た。 無論だからといって任務を蔑ろにしたりはしないけれど。 上が何を考えているかは判らないのは元から当然だ。1構成員に過ぎない、蜘蛛の手足の一本の、その更に先端部分に過ぎない自分が、頭である『教授』の思慮遠謀を窺い知る事等出来る筈も無い。 再び覗き込んだ双眼鏡の先で、見知った顔のヤードが化物の牙に喉を食い破られた。 化物はなんと食い千切った肉を咀嚼し、自らの傷を癒す。 一本道で、両側から挟まれ包囲されたヤードにはもう逃げる事すら許されない。 彼等はもう全てあのキマイラとか言う化け物の餌に過ぎないのだ。 「内蔵制御は安定してるみたいだし任務は何事も無く上々って訳よ。奇跡ってのは起きねえから奇跡なんだよな。あばよミック、てめーに撃たれた傷が疼くのも今日が最後だちきしょうめ」 ● 『おっすお前等、じゃあ移動しながらだけど任務の説明をするぞ。時間が無いし詳しい状況は判らないから質問はナシな!』 車に詰められたリベリスタ達を見回したのは、パンダのぬいぐるみであるインペリアルカイゼルロイヤルキングスーパンダ君で口元を隠した『paradox』陰座・外(nBNE000253)。 説明を自分の口でするのも恥ずかしいが、下手な腹話術を見られるのも矢張り気恥ずかしいのだろう。 『この倫敦の状況は、まあ態々海外まで来たお前等ならもう知ってるよな』 バロックナイツが第十一位ジェームズ・モリアーティが率いる蜘蛛の巣と、その宿敵であるスコットランド・ヤードの暗闘続くこの土地に、嘗て日本に出現した合成エリューション『キマイラ』が出現した。 以前より力を増したキマイラの存在は蜘蛛の巣とヤードのバランスを大きく崩す。 蜘蛛の巣はキマイラとの関連を否定してるが、キマイラの創造主であり、日本から姿を消した六道の姫、六道紫杏がモリアーティを師と仰ぐ関係であった事を考えれば何が起きているかは明白だ。 対キマイラにとヤードからの救援要請を受けたアークが加わり、倫敦を取り巻く状況は日々目まぐるしく移り変わる。 『本拠も規模も不明な蜘蛛の巣に対して、ヤードは本腰を入れた補足を計画したんだ。アークから大規模な増援を呼び寄せて、敵末端から戦略情報を取得するって計画をな』 手足を大仰に動かして状況のおさらいをするパンダのぬいぐるみ。そう言えばコイツは式神だった。 まあそこまでの内容は既にリベリスタ達も把握済みだ。何故ならその大規模な増援の一部が、今この場に立つ自分達なのだから。 『けどさ、敵の方が一枚上手だったみたいだなあ。此方の体勢が整う前に相当数の数のキマイラがあっちこっちで大暴れだとさ』 現在向かっている現場ではヤードが初動の早さで一般人への大きな被害は防いだものの、それ故にキマイラを多く引き付け過ぎて包囲され、壊滅寸前の状態に陥ってるらしい。 そこでアークのリベリスタを2部隊派遣し、左右から敵を挟撃する事でヤードの救出を試みる作戦だ。 無論この地に万華鏡の神の目は届かず、詳しい状況は入ってこない。こちら側が担当するキマイラに関して交戦中のヤードから得られた情報は『ブラックドッグ』との言葉のみ。 『随分ハードな状況みたいだけど、逆貫のおっさんならきっとこう言うぜ「諸君ならまあ容易かろう」ってな』 この戦いに水先案内人であるフォーチュナの予知は無い。けれど日本で待つ彼等はリベリスタ達の勝利を信じて疑わないだろう。 何時もの様に。 『後此れは余談だけどさ、あっちの部隊にくっついてる金髪で羽がぶわっさーってしてるのが、どっちが先にヤードを助けるか競走よって言ってたんだよな。だから、よ』 不意にパンダが黙る。 「先輩、ちゃんと良いトコ見せてよね?」 口元から頭へ、パンダを戻して外がリベリスタを見詰めた。 最速で走る車に、現場はもうすぐそこまで近付いている。 外は然程勝ち負けにこだわる性格では無いけれど、 「あんまり先輩達が負ける所は見たくないから。……そろそろだよ。じゃあ、AreYouReady?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月20日(金)22:53 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 爛々と燃える赤い瞳。 普通の犬とは比べ物にすらならない漆黒の巨体。 覗く牙の奥から漏れ出て垂れ流しになっている瘴気。 その姿はこの国に伝わる怪異に酷似していた。 黒妖犬、イギリス全土に伝わる黒い犬の妖精。或いは魔物。 それは死の先触れであり、魔女の猟犬であり、死刑の執行者、逃れ得ぬ死その物。 「ブラック・ドッグめ!」 相対する、既にソイツに利き腕を食われてしまった男は、それでも諦めずに逆手で拳銃の引き金を引く。 銃口から飛び出した弾丸は狙い違わず怪異の体に穴を穿つが、しかしそれも束の間の事。 内側から盛り上がった肉は十を数えもせぬまに穴を埋め、傷口がまるで無かったの如く再生してしまう。 其れは酷く絶望的な光景だ。けれど其れよりも更に酷かったのは、男の片腕が食われた時だった。 犬は喰らった男の腕の肉で自らの傷を塞ぐ。 通常なら例え目の当りにしても意味の判らぬ筈なのに、ソイツを見れば否応無く感じ取り理解してしまう。 自分の肉が何の為に何処に使われたのかを、判らされてしまうのだ。 ソイツはそういう機能を兼ね備えていた。敵対者の精神力を削る為に。 男と仲間達、この倫敦を守るスコットランドヤード達はそれでも未だ折れていない。 勇気はとっくに使い果たした。本当なら這ってでも逃げ出したい。物理的な限界はとっくの昔に超えている。 けれど彼等が其れをせぬのは、使命感。その背に背負いしこの倫敦の地の人々の重みが故に。 例え自らの肉体を食まれながらでも尚抗い、この町の人々を無事に逃がせる時間を稼がんとする彼等の覚悟。 彼等が折れずに耐え、耐え、耐えたからこそ、その救いは間に合った。 遥か極東からの援軍、彼のバロックナイツを幾柱も打ち倒せし、人々を救う箱舟を名乗るリベリスタ達が。 ● 「アークです! ヤードの皆さん、今の内に体勢の立て直しを!」 低空を舞い、真っ先に切り込んだのは『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 その速さは光の飛沫が散るが如く、アル・シャンパーニュ。翻る刃に黒い猟犬の体から血が噴出し、更には技の効果に魅了されて瞳の光が変化する。 セラフィーナの与えた傷がすぐさま塞がり出したのを目の当りにし、その後ろに次いだ『一人焼肉マスター』結城”Dragon”竜一(BNE000210)は内心一つ頷く。 ああ、確かにキマイラだと。 ヤードにとっては動揺を誘った強い再生能力も、竜一に、アークのリベリスタにとっては既に幾度も見て来た物だった。 日本で開発されたキマイラと呼ばれる混ぜ物の怪物の其れ。 死の先触れであるブラックドッグの姿も、アークのリベリスタ達にとっては唯の大きな犬以上の意味を持ちはしない。 「俺の崇高なる目的のために、さっさと死ね。お前らも本意じゃないだろう? そんなキマイラとしての生などさ!」 咆哮と共に竜一は破壊の闘気を身に纏う。小細工を弾き、何者にも阻めぬ破壊その物である神の如き戦気を。 「でかいだけじゃないかどうか、見せてみなよ」 セラフィーナ、竜一の行動にヤードからこちらへ振り返ったブラックドッグ達の注意を、更に引き付けたのが『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の挑発。 無論其れはただの言葉では無い。魔力を舌に乗せ、例え獣の脳味噌であろうと抗えぬ怒りを引きずり出すれっきとした技、アッパーユアハートだ。 3匹の黒の処刑者、ブラックドッグ達が怒りに満ちた咆哮をあげる。 以前よりも進化したキマイラが相手では恐らく魅了も怒りも長くは効果を発揮し続けられないだろう。 けれど其れで充分だ。寧ろ一瞬でも効果があれば其れで良い。 何故ならセラフィーナ、竜一、涼子の3人は、ヤードからキマイラの注意を引き剥がし、別働の仲間が間に割り込む隙を作るための囮なのだから。 戦いのみでなく、凡その事柄において数は重要なファクターである。 知恵を振り絞る頭の数、物事を行なう手の数、肉の壁となれる身体の数。 3頭しかいないキマイラに比して、アークのリベリスタ達はその点で大きく上回っていた。 「もう、大丈夫だ、生きて帰ろう!」 追い詰められていたヤード達にその声は、正に差し伸べられた救いの手。 待機し、飛び出したセラフィーナ、竜一、涼子の3人が作った隙を見計らってキマイラ達の包囲の向こう、ヤードとキマイラの間に割り込んだリベリスタの1人、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が天使の歌の詠唱を開始する。 「組織は違えど、同じリベリスタとして異国の同胞を見殺しにはできん」 此れより先は任せろと、ヤードに背を見せて拳を握るは『無銘』熾竜”Seraph”伊吹(BNE004197)。 彼がキマイラとまみえるのはほぼ一年ぶりだ。忘れよう筈がない。 何故ならそのキマイラと対峙した任務は、伊吹がアークにやって来てはじめての任務だったのだから。 あの時に比べればキマイラの完成度は大きく上がっているのだろう。以前の様に崩れた様も無く随分と安定している風に見える。 だが、けれど、それがどうした。あの頃に比べて力を増したのはキマイラばかりでは決して無い。 伊吹もまたこの一年で大きく己を鍛え上げている。幾多の修羅場を仲間と共に潜っている。 なれば今更キマイラ如きに、圧される事等ありえない。 故にその背が見せるは揺らぐ事無き自信のみ。 「いきなり走らせるとかやめてよ本当。ボクは後衛、援護屋だよ。まあ先輩の頼みなら仕方ないけど特別だからね」 頭にパンダのぬいぐるみを乗せない『paradox』陰座・外が口を尖らせて『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)に次の指示を仰ぐ。 普段ならば絶対に式神のパンダを手放さぬ外が、増援警戒の索敵の為に其れを向かわせているのだから、ああそれは本当に特別なのだろう。 壱和の指示が真に妥当であると認めればこその行動だ。其れをストレートに口に出せる素直さを外は持ち合わせていないけど、 「影人を作って敵ブロックと全力防御の指示、雷音さん、ヤードの護衛をさせて下さい」 口元に少し笑みを浮かべ、壱和が応じる。 もうここから先はヤード達に被害を出させはしない。犬、ヨークシャテリアの獣耳をピンと立て、壱和は拳を握り締める。 その姿は拳を翳した番長見習いにして、タチの悪い野良犬共を追い返さんとする番犬。 「やれやれ人使いが荒いね。じゃあ先輩達、かわりにちゃんとイイトコみせて欲しいな」 此処まで準備が整えば、もう後は全力でぶつかるのみ。 ● とは言え、仮にもこの地を守るヤードを追い詰めたキマイラ達は決して容易い相手では無い。 大きく開いたブラックドッグの口腔から溢れた瘴気のブレス、漆黒の闇がリベリスタ達を包み込む。 防具をすり抜けて纏わり付き体表を焦がすブレスは、油断すれば鼻や口、或いは耳からも侵入し、リベリスタの体内に凶運、死の宣告を刻み込む。 更には闇を避ける為に体勢を崩せば、そこに飛び込んでくるのは別の個体からの牙の一撃。 喰らい付き、抉り取り、そして飲み込む。自らの血肉が敵の一部となり傷を癒す光景は、否応無しに喰われた者の心を削る。 近寄られて危険なのは牙ばかりでは無い。ブラックドッグは近距離ならばその視線すらが武器になる。 伝承の様に見られれば死ぬと言うほどの威力は……、無論仮に一般人が受ければ即死は間違いないが、テダレのリベリスタを一撃で殺せるほどでは無いけれど、やはりこの攻撃も心を穿ち、魂を削りとる効果を備えていた。 獣の動きは早く力強く、キマイラ特有の回復能力は矢張り厄介極まる。 この地には普段アークのリベリスタ達に加護を与える万華鏡の予知の力が及ばない。 相手の情報に乏しい戦いは、リベリスタ達に思わぬ苦戦を強いていた。 しかし、だ。此れまで苦戦せぬ戦いが一体どれほどあったと言うのか。 彼等の戦いは何時も苦戦の連続だ。綱渡りを強いられるかの如き戦いも決して珍しい事では無い。 万華鏡の予知が在ってもそれなのだ。時には情報を見るだけで絶望しかねない敵に、それでも尚挑まねばならぬ時がある。 苦戦は山ほど経験し、死線すらをも越えて来た。 振り返れば、何時もアークが置かれる局面の過酷さは筆舌に尽くし難く、故国を襲う脅威の数々は天を呪いたくさえなる物ばかりだ。 故に、多少の苦戦に折れる心を彼等は持ち合わせていなかった。 「ハッハァーーー!」 身の内に溢れる猛りのままに、竜一が刃を振るう。 ブラックドッグの身体を掠めた宝刀露草、冴え冴えと輝く宝刀から注ぎ込まれた闘気が爆裂し、キマイラの肉を抉り取る。 生憎今の一撃は直撃しなかったが、竜一の狙いは直撃による致命の付与。 それさえ叶えばキマイラの再生は防げるのだ。無論動きの素早いブラックドッグにこの大技を直撃させるのは非常に難易度が高いけれど、デュランダルたる竜一の攻撃力なら掠めるだけでもそのダメージは決して侮れない物となる。 涼子に喰らい付いたブラックドッグの身体から体液が噴き出した。 牙に食まれても揺るがぬその様は、絶対的な自負と共に己のルールを主張する。身を縛る世界法則すらをも捻じ曲げて、アンタッチャブル、涼子は受けたダメージの一部を反射したのだ。 アッパーユアハートで敵の注意を引く彼女であるから、返す反射のダメージも自然と多くなっていく。 無論それは涼子自身に多大な負担を強いる闘法だ。返す以上に食らうダメージは遥かに大きい。 限界は幾許も待たずに訪れたが、けれども彼女は運命を対価にする事無く、捻じ曲げた世界法則の加護故にドラマティックに踏み止まった。 涼子が主張する己のルールは唯一つ、彼女をムカつかせる敵を、状況を、打破打倒するまでは決して膝を折らぬ強い激情の肯定。 大きく開いた犬の口を、下顎から貫いた霊刀東雲の刃が縫い止める。 決して威力に優れる訳でもないセラフィーナの攻撃が、それでもブラックドッグの防御を貫ける理由は2つ。 それは異常なまでの攻撃の正確さと、セラフィーナの抱えた怒りの強さが故に。 「ここには貴方達が奪っていいものなんてありません。全て、返してもらいます!」 この血塗れになってしまった大通りは、今は亡き姉と歩いた想い出の場所だから。 「ハッ、イいね。面白いじゃねえか。まるで物語のワンシーンだ。我等が宿敵が脇役扱いなのは不満だけど、さ。アレがアークって奴かね」 こんな安っぽい展開が奇跡であろう筈がない。奇跡は起きないから奇跡と言うのだ。 ならば例え自分には読めなくても、此れは恐らく教授の書いた筋書き通りなのだろう。 ならば粛々と、男は自分の役割を再開する。唯少し、ほんの少し、ライバルであるヤードの嬲り殺しを眺めていた先程までよりは、その気持ちは軽かったけれど。 バウンティショットスーパースペシャル、B-SSSの神速連射に撃ち出されて宙を裂くは乾坤圏。 伊吹の放った空飛ぶ腕輪が狙い違わずに素早く動くブラックドッグの身体を捉え得たのは壱和のオフェンサードクトリンの支援もあっての事だ。 そう、こちら側に回りこんだメンバーには、壱和からのオフェンサードクトリンとディフェンサードクトリン、レイザータクトの攻防の動作効率を上昇させる支援スキル2つが効果を及している。 伊吹からの攻撃に、ブラックドッグの中で元より最も傷を負っていた一体が地に崩れ落つ。 それに次ぐは雷音の天使の歌だ。決して本職には及ばねど、この場に居る回復術の使い手は彼女のみ。 その重責を少女は肩に担ぎ、満ちる癒しは仲間を支え、そして零れ落ちそうだったヤードの命を拾い上げていく。 決して安易とは言えないが、それでも被害を最小限に抑えつつ、リベリスタ達は戦いの行く末、勝利と言う名の其れを少しずつ手繰り寄せていく。 ● やがて……。 ブラックドッグの死の視線を、正面から見つめ返した壱和の視線、冷徹極まる殺意を持って敵の眼球へと突き刺さったアサシンズインサイトに、犬が悲鳴の様な声を上げて仰け反った。 「來來、鴉群」 併せる様に、無数の鳥が体勢を崩したキマイラに群がり啄ばみ、啄ばみ啄ばみ啄ばみ啄ばみ、啄ばみ殺していく。 技を放ったのは、もう事此処に至れば回復は既に充分と判断した雷音。 そう、戦いはもう既に大詰めだ。 鳥達を掻き分けて、大きく踏み込んだ竜一の体躯が一回り巨大に膨れ上がる。 120%、限界を超えて膨張した竜一の筋肉は湯気すら立ち上らせて、振り下ろされた刃は、違う事無く最後の一匹のブラックドッグの頭部を割った。 つまりは、リベリスタ達の勝利である。 だが勝利が確定した瞬間とは、即ち張り詰めていた緊張の糸が切れる瞬間だ。 敵が倒れた事を確認し、死の脅威が去った事に、救うべきを救えた事に喜びが湧き上がる直前の刹那の時。 ほんの一瞬だけ生まれる大きな隙に、 「……チッ、無理っぽいな」 見せ付けられたアークの実力に、あわよくば1人くらいは削り取っておこうと考えていた男が、握るアーティファクトにこめた力を霧散させる。 監視用へと配置された式神の存在に加え、リベリスタ達の戦意が未だに途切れて居ない事を確認したが故に。 東洋には残心という言葉があるらしいが、彼等の態度は其れに近しいものだろうか。 ヤードを挟んだ逆側で未だに戦いを続けるもう一つのグループに加勢に行く際にも周辺に対しての気配りを彼等は絶やさぬままだった。 余談ではあるがマリアと外の間で行なわれていた競走、どちら側のグループが先に敵を排除しヤードの救出を行なえるかと言う物は、外の同行したグループが制した。 しかしその結果、勝利者の権利とマリアにしまぱんを穿かせようとした竜一が彼女の堕天落しに石と化し、心底怯えた外がマリアに対して土下座するという結末に終る。 無論そんな風にふざけて居られるのも、外側、マリア側、共にリベリスタ達の活躍により彼等の到着以後はヤードに一人の犠牲者も出なかったからこそ。 その成果には、あの伊吹すらが僅かに唇をほころばせている。 「そうだ。君にもらったヤンヤンは元気でうちの営業をしてくれているぞ」 起き上がる外は手を貸す雷音の言葉に一つ頷き、リベリスタ達は勝利を此処に高らかに謳う。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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